Fate/海に溶ける   作:schlafen

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他のことに追われるときほど筆が進む不思議現象に名前をつけよう!

……現実逃避しかなかった

2014/03/11追記…一部文章変更しました。


褐色の雛鳥

***

 

褐色の少女――ラニ、そう名乗った彼女は不思議そうに突然実体化したランサーを見つめていたが、それも少しの間だけですぐに私へ視線を移した。

「この質問に、どうか応えて欲しい。私は新たに誕生(うま)れる鳥を探しているのです……あなたは、何なのですか?あなたは、その鳥なのでしょうか」

「えっ、その、なにって」

僅かに感情が乗った、抑揚の少ない声。けれどそれよりも投げかけられた言葉の意味が分からなくて、素っ頓狂な声を出してしまう。

望んだ返答ではなかったせいか、少し首を傾げながら何故なのですか?とラニは問い直してきた。

 

「先程、あのダン・ブラックモアのサーヴァントを前にして無防備であったのに、この質問に警戒を必要とするのですか?」

 

彼女の言葉に背筋が凍りそうになる。先程、というのは一体いつのことなのか。掲示板で彼と初めて対峙した時か、あるいはアリーナ前での口論を盗み聞きしてしまった時か。一番最悪なのは、アリーナ内……あの結界に取り込まれてしまった事を何かしらの方法で視られていたという状況だ。

思わず拳を強く握り、身構える私にラニは警戒を解いてくださいと両手を上げて安全を示した。

「私は現在のあなたの対戦者ではないのです、警戒の緩和を推奨します。どうも説明が正確ではなかった事を謝罪しますね。見ていた……というのは正確ではなく、私は詠んだのです。星を、あなたを語る星々を」

「ほ、ほし?」

「ええ、あなただけではありません。私は師に託された使命を果たすため、より多くの人間、この我欲に満ちた月に降りた他のマスターの星も詠みました。が、あなただけは他と違う……そのため、こうして質問したく接触しました」

言っていることが難解で、全部は理解しきれないけれど簡単に言えば、私に興味を持って話しかけてきた……そういうことでいいのだろうか。

未だ実体化を解かずにラニを凝視するランサーの袖を何度か引っ張ってみるものの、気づいているようにもみえない。彼女の姿を晒してしまうことはデメリットではあったけれど、どうにも普段とはかけ離れている姿に声もかけにくかった。幸い、彼女の生命線ともいえる聖盾までは実体化していないので、サーヴァントの容姿はバレてもクラスや特徴はすぐにわかるものではないので、霊体化のタイミングは彼女に任せることにした。

「警戒しちゃってごめんなさい。でも、私が何なのかって言われても……私自身、分かっていることはほとんどないよ?」

「成程、星が道を見失っているのか、あるいは道は元からないのか……わかりました。それでは、あなたに協力を要請したい」

「私で出来ることなら、だけど」

自分に出来ることなんて、正直片手で数えられるかどうかと言っていいほどに少ないけれど。こちらを名指ししてきたのだから、何か理由があるのだろう。

そう思っての返事を聞いたラニは、満足そうに頷いた。

「あなたにも有益なことでもあるはずです。ダン・ブラックモアの星を、私にも教えてほしいのです」

「私、星は詠めないよ」

先程から何度か出ている「星」という言葉。このセラフで本物の星を見る事ができるのだろうか、なんて考えてもみたけれど、恐らく占星術の類ではないかと予想する。

「それは理解しています。なので、あなたから伝えられたモノを介して私が星を詠み、それをあなたに教えるというのはいかがでしょうか」

「伝えられたモノ?」

「ええ、例えば彼らの遺物……どうやら既にお持ちのようですね」

彼女が指差す先には私のポケット。何が入っているのかと思い、探ってみれば、それは結界の基点として使用されていた、あの古びた鏃だった。所有権限がブラックモア卿から動かないままだったのでアイテムフォルダへ移動させるわけにもいかず、直接持って帰ったのだ。

「こういうものでいいの?」

「これだけでは情報が少な過ぎるので、もう幾つか探していただきたいのですが、概ねは」

「それぐらいなら、ね?ランサー」

「………」

なんとか後ろの彼女に声をかけてみたけれど、反応は芳しくない。何時間も固まってしまっていたようにぎこちないランサーの動きに不安を覚えてしまう。

どうしたものかと悩んでいるこちらを余所に、ラニは私一人の了承を得た時点で満足したようだ。サーヴァントの反応について特に気にしていないのか、ランサーへ目を向けたのは最初の一度きりで、それ以降は一度もない。

 

「私は、出来得る限り多くの星を詠まなければいけないのです。協力していただけるのならば、ありがたい」

「理由は聞かせてもらえても?」

思わず、質問してしまう。凛のように気軽に会話をする相手がなくて会話に飢えていたのかもしれない。けれど、決してそれだけではなくて、まるで機械の様な彼女が、機械らしくない熱意を持っている矛盾に興味を抱いたのだ。

「理由……ですか。それは師の言葉だからです。師はこの聖杯戦争について、そして人形である私に命を入れる者がいるか見よと命じました。師の言葉ならば、私はそれを行使しなければいけない」

ラニには、師という絶対の存在が居て、その人が身体の芯となっている。死にたくないなんて強迫観念しかない自分でも、その芯は並大抵では折れないことが分かる。それは、同時に折れてしまったら元へ戻らないことも暗示しているのかもしれないけれど、少なくともこの戦いに参加するだけの覚悟は彼女のうちにある。

羨ましくもあり、彼女の手伝いを通せば、自分にも何か見えてくるものがあるのではないかという期待が心の内にこみ上げた。

それに、ブラックモア卿の情報を得られるのならば、こちらにもデメリットはない。改めて協力したいという意志を示そうとしたとき、今まで動かなかったランサーが不意に声を上げた。

 

「……その、師の名を教えてほしい」

 

ちらりと横目で見ると、そこには先程の動揺も焦りも色々と混じった何かもを凪いだ銀の瞳に仕舞いこんだ聖盾の騎士が立っていた。何を思っていたのか、何を考えていたのか、今の私に知る術はまだない。

ラニはしばらく逡巡していたけれど、彼女の師について教えることで影響を与える程の実力を私は持っていないと判断したらしい。

 

「シアリム―――シアリム・エルトナム・レイアトラシアが我が師の名前です」

 

口にすることに誇りを持つように、ラニはその名を告げた。

私にはやはり聞き覚えのない名前だったけれど、ランサーは何を感じたのか、僅かに視線を落とした。きっと見ているのはリノリウムの床ではなく、彼女の心の内にある遥か遠い風景なんだろう。

 

「そうか、やはり……君は巨人の穴倉(アトラス)の一員なんだね」

 

――アトラス。ランサーが囁くように呟いたその言葉にラニは僅かに反応した。何故、彼女の師の名前だけでランサーは彼女の所属を看破できた?私とラニは恐らく同じ疑問にぶつかったけれど、先に立ち直ったのはラニだった。

「そうです、私はアトラスの最期の末。私はあなたを利用し、あなたは私を使用することで、その価値をあなた方に示したい」

利用するのはまだしも、私が彼女を“使用”するのは、言葉が間違っている。

違和感の混じる言葉に私は眉をひそめて言い返そうとしたら、ランサーは悲しそうに、痛みを堪えた微笑みを浮かべながらそれを引きとめた。

「ありがとう、私も君の要請に対して尽力を果たそう」

「?……サーヴァントにも自由意志があるのですか。しかし士気が上がるのならば効率は上昇するでしょう、どうかよろしくお願いします。

今から三日後、その時ならば星を詠むのに適した条件となるので、三階の廊下先へ訪れてください」

言うべきことは全て言ったと判断したのか、ラニは別れの言葉もなく立ち去っていった。後に残されたのは私と再び霊体化して視界に映らないものの小さく溜息をついたランサーだけで、気がつけば周りには人気がなくなっている。

 

「ランサー……なんで止めたの?」

『彼女が所属するアトラス院は、皆がああいう性質なんだ。彼女に悪気はない、だからこそ今はまだ言ったとしても理解はしてくれないよ』

ここで、あるいはマイルームで、ランサーに問い詰めれば今の取り乱しの理由を教えてくれるのだろうか。淡く抱く期待は、けれど自分の中の不安に押し潰されてしまって言葉にすることはなかった。私はまだ、彼女に全て信頼されたわけではないのだ。信頼を勝ち得るほどの力、信頼するに足る信念、覚悟。そのどれもが今の私では足りていない。

ランサーも私がそう考えている事を察しているのだろうか、声をかけることなく後ろに控えて佇んでいるのがわかる。

「……それじゃあ、一旦マイルームに戻ろうか」

悔しさと戸惑い、そして焦りに心の奥がチリチリと焦げるのを感じながら、私は何もなかったようにマイルームでの休息を提案するしかなかった。

 

 

 

*interlude*

 

 

仕事は常にシンプルだ。

 

敵を見つけ、探り、穿ち、殺す。

 

からくり人形のように、ただひたすらその工程を繰り返していく。ルーチンワークと化した行為だが、重要なのは違和感を見つけた時、いかにすばやく自動的になった思考を柔軟化させて対応するかだ。

今回の場合、イチイの毒を蔓延させたはずの第一層アリーナが普段と全く変わらない空間へ戻っていた時点でそのサーヴァントはルーチンワークの思考から脱して、対抗策を模索し始めていた。

彼が生きていた頃も、こんな月での戦争に手を貸すようになってからも、生きるか死ぬかでは思考を止めた者から脱落していく。それは彼のマスター、主義主張は甚だしく異なるマスターだが、この点については同意見のようだ。

 

「ふむ、イチイの毒が見当たらないのをみると、お前の奇策は失敗したようだな」

「それぐらいの力をあちらさんが持っているって判っただけでも、儲けもんなんじゃないんすかね」

一回戦の相手は、この聖杯戦争を正確に理解していなかった。飼いならされた家畜の遊戯、その延長線上のものとして考えていたのだろう。死ぬわけがない、たかがお遊びだ……その程度の覚悟しか持たない輩と七日間も過ごして一対一の戦いなんてサーヴァントにとってまっぴらごめんとも言うべきものだった。

 

――だから殺した。マスターから禁止されていた毒を用いて、決戦前に始末した。

 

後悔するなんて、とんでもない。殺せるタイミングを見つけたら策をきっちりと練って確実に殺す。それが生きるため、そして勝つための最善策なのだから、寧ろマスターが言うような騎士道なんて彼にとって枷でしかない。

(そこんところ、ダンナとは違い過ぎて肩身狭いったらありゃしねえ)

生きるための奇策、策略のなにが悪いというのだろう。こちとら、セイバーのように強力な必殺技も輝かしい伝説も持ち合わせていない、しがないサーヴァントなのだ。

だから今も考えることを彼はやめない。どうしたら勝ち残れるか、生き残れるか、繰り返し模索する。

「……お、結界の基点が無くなってやがる」

「基点だと?なにを使用したのだ」

「俺の使ってる鏃の一つっすね」

マスターの問いに答えながら、サーヴァントは細い糸を手繰り寄せるように一つの策を構築した。もし、自分自身が相手なら、あの基点を見つけてからどういう行動をとるか。そこから相手を倒すチャンスは得られるか。

七日間の果てにある決闘をひたすら待つなんて、御免だった。殺せるのなら、今殺すのに越したことはない。そう思うと自然に口角が上がるのを彼は自覚した。

「……流石にアレだけじゃ俺の真名までは届かないだろうけど、奴さんたちへ一寸ひと泡吹かせてやってみたいと思いませんかね、マスター」

「戦力分析は必要となるが、正道をもって臨めと何度言えば分かるのだ」

マスターとて歴戦の戦士、それを否定するほどの愚か者ではない。そのはずなのに、彼はひたすら愚直に邪道、左道を拒む。

マスターの若干の侮蔑とも諦めともつかないナニカを含めた嘆息が、サーヴァントの心にささくれを作った。

 

(俺がなんのために単独行動スキルがあるのか……こういう場合のためってことだよな)

 

マスターの矜持で負けるぐらいだったら、サーヴァント()の矜持で勝ってやる。たとえそれがマスターの望むものではないとしても、だ。

 

*interlude end*

 




ラニの機械っぷり二割増し……ここからいかにデレさせるか、頑張りますorz

オリジナル要素を強めていくのは三回戦中盤、あるいはその後の予定ですが、ちょこちょこ正規ではないイベントを挟みたいと思っています、よしなに
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