久方ぶりの投稿となります。新生活にようやく慣れてきて、再び執筆できる余裕が生まれてきました。
相も変わらず遅筆の身ですが、どうかよろしくお願いします。
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#二回戦 二日目#
マイルームに戻ってもどこかぎこちない空気は拭いきれなかったけれど、二人で放しあった結果、今日一日はレベル上げを考慮しながらも昨日のラニの依頼である彼らの遺物を探すことに専念することにした。
他の参加者から話を聞いてみれば、どうも相手の道具や武器の破片などはエネミ―との戦闘で零れ落ちることがあるらしく、情報収集に役立つらしい。
「それはつまり、私たちも情報を知られている可能性もあるってことだよね」
『……まあ、私の武器は盾と拳だから破片を落とすことは基本ない。問題があるとしたら、この制服と盾を見られることだけど、最初に説明した通り、私は知られて困る真名ではないから』
「あ、あのー……ここ、保健室なんですけど…作戦会議等はマイルームで……」
「固い事言わないでー、なんかもう心休まる場所が此処しかないんだ……」
私の悲痛な主張に、健康管理AIである間桐桜は困ったように眉を曲げながら苦笑いを浮かべていた。
マイルームから出てきたのも、昨日からずっと何処か上の空というより、何か考えごとに耽ったランサーと二人きりでいるのがつらくなってしまったからだ。最初は教会に逃げ込んでみたのだけど、姉妹から小言をもらったうえに二人が私を放って喧嘩し出したで教会内部が崩壊したので、それどころではなくなった。
「一日経つごとに、自分がこの戦争の空気に馴染みだしているのが分かるのに、一日が経てば経つほど、私と他の全てが違う価値観に生きているように見えてくるよ」
「そうですね……確かに貴女はAIに対しても、他の参加者に対しても対応が通常とは異なりますね」
桜の淹れてくれた緑茶を口に含みながら、彼女の言葉を反芻する。
対応が違うと、桜は言う。こちらとしては普通に接しているつもりなのに、それがまず違うという意味なのだろうか。
「私たちAIは、ムーンセルから与えられたロールを務めるだけの存在ですから、ロール外の対応を求められる時、対応は可能ですが違和感を得てしまいます」
「対応外って?」
「たとえば、貴女がいま私に求めているような雑談、それによる心労回復……私は健康管理が役目の上級AIですから行なえますが、これを生徒会所属のAIに求めた場合、断られてしまう可能性が高いでしょう」
「役割を越えて動けない、か。桜とか、人間と変わりないように見えるのに少し悲しいね」
どんなに笑いあっていても、会話をしていても、彼女たちはシステムなのだ。使う者と使われるモノ、それが正しい彼らとの付き合い方でこの世界の日常だというのなら、他の参加者、あるいはAI自身からさえも彼らを普通の人間として接してしまう私は異端に見えているのか。
それを分かっていながら、私は聖杯戦争やこのセラフという世界を理解はできても、実感できない。まるで、未来を綴った御伽話のように感じてしまう自分がいる。
「貴女は記憶もなく、魔術師としての技術もなく、他の参加者と比べれば確かに全てが劣った凡人の位置にいるかもしれません」
「うぐ、桜の言葉が容赦なく心を抉る」
でも、と桜は付け足した。胸に両手を置いて、何かを大切に包むように、そしてそれを確認するように桜は言葉を紡ぎ足した。
「でも、だからこそ、今ここに貴女が居る事が何よりも特別なことなのかもしれませんね。特別でもなんでもない“普通”であるからこそ、貴女の行動は“特別”なものになるんです」
普通である事も、かけがえのないものだと、そう言ってくれる彼女の笑顔を見て心に何かが灯る。これはきっと、最初の遺言と同じモノ。ふと忘れ去られてしまうかもしれない、そんなささやかでも尊く大切な言葉を私は取り逃がさない様にしっかりと握り込んだ。
「まだ霧の中のようにおぼつかなくても、桜にもっと褒めてもらいたいし、進むしかないか」
「随分と即物的ですね!?」
「女の子、それも綺麗で可愛い子に褒められてやる気が出ない者なんているわけないだろう!」
「なんでランサーさんが力説するんです!?」
その通りなので反論が出来ないところが悔しい。
ひとしきり顔を赤らめる桜をからかってから、私たちは保健室の扉の前へと並び立った。
「マスター、君はラニ=Ⅷと今後どのように関わっていくつもりかい?」
扉を開ける直前、ランサーから問いを投げかけられる。
ラニはランサーに対して面識はないようだけど、ランサーは彼女に何か縁があるのは明白だった。それなのに、ランサーは自分のことを語らず私へ采配を望んでいる。
「ランサーは、彼女と関わることを望んでいないの?」
「どう、だろうね。彼女と出会うのは今が初めてだけど、彼女を見ていると昔の悔恨が甦ってしまうのも確かだ。それが私にどんな影響を及ぼすのか未知数なところが、私にとっては一番怖い」
公私を分ける彼女にとって、この聖杯戦争に私情を持ちこみたくないのかもしれない。もとより、己の願いという私情を持ちこんで生まれた聖杯戦争だ。サーヴァントにも各々の願いを持っているはずだろうに、律義なことこのうえない。
けれど考える事が面倒だとも言わんばかりの主張に、どことなく彼女らしさを垣間見た。
「記憶がない私に、持ちこめるほどの私情なんてないから、ランサーの事情を一つや二つ、抱えたって平気なのに」
「そう言うわけにもいかない、君の方針に私が大きな影響を与えてしまうかもしれないんだよ」
「二人でこの戦争に参加しているんだから、話し合いはしなきゃダメでしょう」
記憶がない私へ、数多くのサポートをしてくれるランサーと同じように私も彼女をサポートしたいし、もっと話し合って連携をとっていきたい。そこで彼女の考えを慮ることだってあるし、私の我儘を通してもらうことだってあるかもしれない。
そう思って当たり前の事を言ったつもりなのに、ランサーとついでに桜はきょとんとした顔から、呆れと納得が入り混じった表情に変化する。
「サーヴァントとのコミュニケーションがない組も数多くあるというのに、やはり貴女は“特別”なのかもしれませんね」
「記憶がなくても、君という自我がないわけではない。少しずつ、マスターのことを理解し始めた気がするよ」
なんだろう、この生温かい視線は。こそばゆいながらも納得がいかないような……気にしても仕方なさそうなので、私は二人を無視して扉を開いた。
日常を錯覚してしまいそうな保健室から一歩出て、鉄風雷火の限りを尽くす戦争地帯へ足を踏み入れる。たった一つの行為なのに、それだけで世界は一瞬で塗り替わってしまった。
「マスター、一瞬でも気を抜いてはいけないよ」
非常事態に普段は霊体化しているランサーが実体をもって校内に顕現する。
言われずとも、取り囲む空気全てから刃物を突き付けられたような殺気を前にして、気を抜くことなんてできやしない。どの方向からも急所を狙われている感覚に、身動きさえ取れなくなった。
だというのに、自分の呼吸は荒れていく、心拍数は上がっていく、汗は止まらず、平静を保つ心が擦り減っていく。
このままでは、いけない。
「力が残っているうちに此処から離れよう。合図をしたら一気に走るよ」
唇を動かさず、僅かにこちらへ聞こえるぐらいの声で耳打ちしてきたランサーの提案に視線を交わして賛同した。膠着状態ではまずいという思いに駆られて今すぐにでも走りだしたい心を必死に抑えてランサーの合図を待つ。
「1、2の……走れ、マスター!」
合図と共に背中を押されながら、持てる限りの力で廊下を駆け抜けた。
アーチャー、あるいはアサシンである可能性が高い敵が校内に潜んでいるのならば、此処に留まり続けることは得策じゃない。せめて、確実に彼が待ち構えていない場所へ行ければいいのだけど、はたしてそんな所はあるだろうか。
「敵が校内ならば、先にアリーナへ向かおう。彼が先手を打つならばこの殺気は移動するはずだし、追いかけて来るにしてもこちらの心構えは違ってくる」
ランサーの提案に頷く余裕もなく、同意の意味を込めて駆ける足をアリーナの入口へ向ける。
みっともない姿でもいい、藤村先生に後で怒られても構わない、迎撃するにしても、私を庇いながら進むランサーでは、ただでさえ力を制限されているのだからどう考えても不利な状況なのだ。
チリ、チリッと死神の鎌が喉元に当たる錯覚に怯える心を抑えつけて、なんとかアリーナの入口へと辿り着く。
――再起動、再構成、再認識。目を開いた先に広がる無機質な空間に、初めて安堵をおぼえてしまう。
けれど、その安堵も束の間だった。姿形は見えないというのに、校内で潜んでいたときよりも明確な殺意がハッキリと自分を狙うのを感じ取る。
「まったく、休む暇もない……奥へ進もう、マスター。立ち止まることが最も危険だ」
「う、ん……わかっ、てる……」
分かっていても、行動しているつもりでも、まるで心と身体が別々のものになったように上手く身体を動かすことができない。自分が糸繰り人形にでもなったようで、それを嘲笑うかのように私を狙い続けて殺気は放たれる。
そのプレッシャーと疲労が私から身体の主導権を断ち切ったのは、第一層で広場にも似た空間の入り口でだった。
駄目だと思っているのに膝から崩れ落ちて、言葉も作ることができずに肩で荒い呼吸を繰り返す。戦場を覚悟せず、日常に縋っていたのだから、当たり前の因果なのかもしれない。
そんな考え事をしている余裕さえ、敵の狩人は与えてくれないのだ。
「まったく、行動が素人のマスターはやり易くて助かるぜ」
暴れる心音に紛れて聞こえたのは、皮肉に満ちた声だった。風切り音さえも聞こえない、容赦ない必殺の一撃で彼は私を殺そうとした。身動きをとる余裕もない自分にできることは、せめて相手の声が向いた方へ視線を動かすことだけだ。けれど諦めが身体全体を支配する前に、自らのサーヴァントが死線に立って敵の奇襲へ対応した。
いくら見事に研ぎ澄まされた強力無比の矢でも、ランサーが持つ聖盾を貫く威力には届かない。守るべき者を前にした騎士は矢が穿たれた方向を無言で睨んで盾を構えなおす。
「残念、全部織り込み済みなんだよ」
狩人の嗤う声が反響した。心臓が動く度に左腕に鈍い痛みが拡がっていくのを感じる。何故か霞んでいく視界の中に左腕を映すと、そこには令呪とは別に一筋の痕が生まれていた。認識すると同時に外側から明確な殺意、内側からはこみ上げる嘔吐感に襲われて、その場に倒れ伏してしまう。
「くっ、重ね矢か!そのうえ毒を用いるなんて……!」
ランサーの悔しそうな声が遠く聞こえる。その声を指標に、意識さえ手放しそうになる心を必死に奮い立たせた。今までは弓矢を扱う
漸く得られた情報でも、今この場で死んでしまったら無意味になってしまう。決戦に赴く事もなく死に至るなんて、まっぴらごめんだ。私闘が禁じられている校内にさえ戻ることが出来れば、毒の進行は最悪でも現状で止まって悪化することはなくなるはずだ。
「マスター……意識を保てるね?」
言われずとも、それぐらいできずに何ができるというのだろう。ランサーもそれを承知なのか、盾を持つ腕で私を隠すように担ぐと、自身を敵に曝け出すのも厭わずに駆けだした。
エネミ―との接敵も最低限に出口へ向かうランサーに姿の見えないアーチャーは容赦ない追撃を加えていく。
「そのうち呼吸もできなくなるんだ、今楽にしてやるさ」
盾と彼女の隙間を狙って放たれる矢は私を射抜こうとするが、そう何度も攻撃を許すほどにランサーは甘くない。一回戦開始時であったなら対応できなかったかもしれなけれど、ほんの少しずつの強化でも、彼女の身体能力は一回戦時より大幅に上回っているのだ。
「そしてこの盾と毒とでは、相性が悪すぎるぞ。諦めろアーチャー」
盾、彼女の盾。それは音律を以て全ての不浄を弾く聖盾だ。毒という不浄さえ、奏で弾くことができるのだろう。
「……ちっ、しぶといな。辿り着きやがった」
出口についた頃には敵も諦めたのか、彼の気配は消え失せていた。そうなると残るは一刻も早く帰還しなくてはいけない瀕死の自分と、その自分をまたもやお姫様抱っこのように抱いているランサーだけだ。
「……ランサー、これ……さすがにはずか、しい」
「でも、アリーナから出ても保健室までは歩くよね。客観的に見ても、マスターにはもう歩ける気力さえなさそうだよ」
反論できないことが悔しいし、何よりもう早く帰らないと流石のしぶとく生き残ることに定評ある自分でも死を覚悟しなければいけなかった。きっとまた記憶喪失や素人魔術師の称号だけではなく、恥ずかしくなるような称号を周囲から貰いうけるに違いない。
飛び立ちそうな意識を必死にかき集めていた最後の記憶は、そんな戦場には非常識な考えしか浮かぶことがなかった。
ら、来月中には三回戦突入したいですorz
ところでUNIがPS3で発売するとのことですがこれはメルブラHDを期待しても、期待してもry