Fate/海に溶ける   作:schlafen

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更新期間を短くすると中身も短くなってしまう未熟orz 

保健室が第二マイルームと化しつつある主人公ですが今日も元気です


信念の大樹

***

 

#二回戦 三日目#

 

目覚めはいつの日かと同じ、白い天井を見上げながら鼻腔をくすぐる薬品の匂いに気がついた時だった。今は此処が何処なのかはよく分かる……つい昨日もお世話になったばかりの保健室だ。

 

起き上がってみると、全身に気だるさは残るものの昨日運びこまれ時と比べてかなり体調はよくなっている。全快とまではいかないけれど、日常生活を送るぐらいなら平気だろうし、日常を過ごせるのならば非日常だってやり過ごすことはイレギュラーがない限り可能だろう。

「問題はイレギュラーの方が多いってことか……」

『人生はなかなか計画通りにいかないものだからね。だからこそ価値があるんだと思うよ』

ランサーの声に顔をあげると、霊体化しているせいで姿は見えなかった。代わりに目の前に立っていたのは、どことなく呆れ顔の間桐桜だ。

「昨日の今日で、とか色々と言いたくもありますが規定外の負傷や異常の治療は私の役目ですから、出来得ることはしてみます」

「ご迷惑をおかけします……」

「そう思うなら私たちと違って一つしかないその身体、大切に扱ってくださいね?」

さらりと言われたことに傷つきながらも、私は大人しく桜の治療を受け入れることにした。昨日でも処置はしてもらったけれど、医療については私よりも彼女の得意分野なので任せてしまった方がいいだろう。それに、自分では分からないことなのだから専門家に聞くことが正解だ。

「健康管理が役目とはいえ、私の権限(ちから)で何処まで治療できるか判らないんですから」

「それなんだけど、桜。もしよければ私に使われた毒って何なのか調べてくれるかな」

体内に入ってしまったもので分かりづらいならとポケットに忍ばせておいた折れた矢を取り出しながら私は桜に質問した。

ラニに頼まれていた遺物回収の件もあったのでなんとか回収したものだが、これはランサーが弾いた初撃の弓なので折れた柄と鏃、そして風切り羽で分かたれてしまっている。あの状況で持ち帰るなんてマスターの手癖って案外悪いんだなと感心する気配を背後から感じたけれど無視する方向でいこう。

「症状の原因通達は許可されていますから、大丈夫ですよ。一通り検索をかけてみたところ、恐らくこの毒はイチイから採られたものだと思います。自然毒の一種ですが、随分と凶悪なものですね」

イチイの毒、そしてアーチャーというクラス。この二つで少しは彼の真名を絞り込むことはできないだろうか。明日にはラニから情報を貰えるとはいえ、少しでも選択肢の幅は狭めておきたかった。

「学がない自分が嫌になるんだけど……ところで、イチイって何?」

 

「イチイ科イチイ属。常緑針葉樹の植物で学名はtaxus cuspidata。ちなみに、この学名の由来は――」

「ギリシャ語の弓を意味するtaxosであり、また英語で毒を意味するtoxinの語源という説もある……そうだな、AIよ」

 

少女の解説を引き継ぐように、保健室の扉を開けたのは老騎士だった。

ダン・ブラックモア卿が其処にいた。突然の敵マスターの来訪に身構えようとしても、身体の不調が意識の切り替えに追いつかない。力が入らないまま彼を見据えるしかない自分に対して、ブラックモア卿がとった行動はたった一つだった。

 

――彼は彼の半分も生きていない少女に対して深々と頭を下げ謝罪しのだ。

 

「イチイの矢の元となった宝具を、私闘での利用を今この場で封印する。状況に当て嵌まるのならば、その毒も無効化されるはずだ……身勝手な言い分で悪いが、これを謝罪として受け取ってくれないか」

本心からの言葉だと、言われずとも分かる。それ故に理解不能だった。自らのサーヴァントが持ち運んだ敵マスターの弱体化というこのうえない有利を捨てるどころか、彼は自分自身へ枷までつけたのだ。目を点にして、どう返答したものかも分からずに状況を飲み込めずにいるとブラックモア卿は背後へ振り向き、そこにいるだろうアーチャーへ向けて明らかな失望の視線を送った。

「そしてアーチャー、今後は信義にもとる行為をしてはならないと伝えたはずだ。この戦いはわしやお前に求められていた国と国の戦いではない……人と人との戦いなのだ」

深い、静かな息と共に綴られる独白には、彼を初めて見た時に感じた大樹のイメージと同じく揺るがない、彼の中に根付いた確固たる信念が在った。

きっと凛が私へ求める覚悟というものは、今ブラックモア卿から伝わってくるこれなのだろう。無茶を言うな、心の弱い部分が悲鳴を上げてそう叫ぶ。けれど彼ほどの覚悟、信念を持てたのならばと憧れから奮起する自分もいた。

きっかけが欲しかった。この、何もなくて流されるだけの自分に確かなものが在るのだと言えるものが欲しくて、だからこそ目の前の老騎士に学ぶべきものがあると直感が告げている。

「公正なルールが定められておきながらそれを破るということは即ち人としての誇りを貶めること。自ら畜生に堕ちる必要など、何処にも無い」

悔恨にも似たそう言い終えると、ブラックモア卿は右腕を持ち上げて宣誓した。

 

「アーチャーよ。汝がマスター、ダン・ブラックモアが令呪をもって命ずる――今後は敵マスターに対するアリーナ外での祈りの弓(イー・バウ)の使用を禁ずる」

 

ブラックモア卿の腕の一部、おそらくそこに刻まれていた令呪が光を灯して、彼の言葉を絶対の命令として受諾した。

「はぁっ!?正気かよ、負けられない戦いだってダンナも言ってるくせに自分で首を絞めやがって!」

驚いて口も開けない自分と同じく、令呪の拘束を受けたアーチャー自身もブラックモア卿の選択は予想外だったのか、思わず霊体化を解いて彼のマスターを問い詰める。けれど老騎士の双眸は決して揺るがない。彼の行為全てに彼の覚悟と誇りがあるのだと、納得できていないアーチャーへブラックモア卿は静かに、そして確かにその瞳で伝えていた。

「たしかに、わしにとっては負けられぬ戦いだ。自身の全てを賭けるつもりでいるし、必勝を覚悟して臨んでいる」

「なら……!」

「しかしアーチャー、それはわしの戦いなのだ。貴君の戦いのではないのだ、弓の英霊よ」

「……っ!」

「アーチャーよ、この戦争でお前に何をしてでも勝てと強制するものは何処にもないのだ」

その言葉はアーチャーの根幹を揺るがすものだったのか、目に見えて彼は動揺すると、表情を隠すように再び霊体化して視界から姿を消した。それを見届けたブラックモア卿は再びこちらを見据えて頭をさげたが、顔を上げた時にはもう、歴戦の戦士としての顔がそこにあった。

「此方の連携が不足していたせいで、迷惑をかけたことを改めて謝罪する。君とは正々堂々と決戦場で雌雄を決するつもりだ。持てる全てをこちらは使うだろう、君も全力をもってわしに挑んでくれたまえ」

返す言葉もなく、それでも最後の矜持としてなんとか頷いた私を見ると、ブラックモア卿は踵を返して立ち去った。彼の姿が見えなくなった途端、ドッと汗がでてきたうえ、毒は無くなったというのに上手く力を込められずにベッドへ倒れ込んでしまう。

『どんな世界でも、彼のような騎士は居るのか……見事なものだね』

ランサーの感心した声に頷き返す気力もない。初めて目の当たりにした本物の揺るがない覚悟、信念に頭は既にオーバーフローしてしまっているのだ。何かを掴めた感触はあるのだけど、あまりに大きなものなのか漠然とし過ぎているだけなのか、まだ掴みきれなくてもどかしさにベッドの上で転げていると、再び保健室の扉が開く音がした。

 

「おや、奇遇ですね!僕は滅多に此処を使用しないというのに」

 

現れたのは先の老騎士でも、顔なじみの凛でもなく、白騎士を従え赤の制服に身を包んだ少年王だった。

『これは、まあ、あられもない格好をみられたね』

「当然とでも言うかのように、それが流されてるのもまた傷つくね」

彼の中の私が今の恥ずかしい格好をしていても予想内だとしたら、至急訂正してもらうように懇願するしかない。とりあえずDOGEZAから始めようか。

「貴女もサクラのお茶を飲みましたか?僕は生活様式上、紅茶を嗜むことが多かったのですが、彼女の日本茶はなかなかに味わい深い」

「あのー……ここは保健室で、休憩室では……お茶は淹れますけど…」

段々と諦め顔になっていく桜に心の中で謝罪しながらも、彼女のお茶が美味しいのは確かなので私は気を取り直してレオと共に一服するため立ち上がる。

ブラックモア卿の宣告は確かなもので、先程まで感じていた気だるさはもう微塵もない。それだけではなく、彼は宝具の名前とサーヴァントのクラス名まで確かに私へ告げていた。

祈りの弓(イー・バウ)、イチイの毒、そしてアーチャー。これに加え、ラニの占星術がどれほどの効果をもたらすか分からないけれど、かなり真名へ近づくことはできるのではないだろうか。

この場ですぐに答えを思いつけるほど博識ではないので、ヒントだけ羅列されられたもどかしさに唸りながら席に着くと、レオが背後に花を乱れ咲かせるような笑みを浮かべていることに気がついた。

「……ええと、なにかな」

「いえ、貴女の反応全てが新鮮なもので興味が尽かないのです」

「さいですか」

さりげなくもなく、失礼な気がしてならない。言ったところで流されるのは確実なので泣き寝入りなのだけど。

「しかし昨日もですが、先程も貴女の次の対戦者とすれ違いましたよ」

随分と僕は貴女と縁があるようです。レオはそう微笑みを崩さないままに告げるが、こちらとしては獅子に弄ばれる雛になった気分にしかならない。

「かの懐刀を投入してくるとは、女王も本気であるとみました」

「ブラックモア卿と、レオは面識があるの?」

「噂はかねがね、という程度で実際にお会いするのは昨日が初めてでしたが。しかし話に聞いていた彼のイメージと随分異なっていたのは意外でした」

「異なっていた?」

桜の淹れたお茶を口に含み、風味を味わうレオは私の言葉に頷いた。あの確固たる覚悟を持ち、正々堂々を望む老騎士の姿は今までの彼とは違うとレオはハッキリと告げる。それも何処か楽しげに、勝者の余裕を崩さないままに私へ助言した。

「かの黒騎士は折れた槍の代わりに剣を用いるようです。彼の信念が以前と違うものならば、若輩者と言われようと貴女にも勝機は存在するでしょう」

こんな自分にも、以前の信念から違えたブラックモア卿になら勝機があるとレオは言う。ブラックモア卿の以前の信念が正道ではないというのなら、それはつまり邪道であったというのだろうか。

想像できない、とは言い切れなかった。イメージこそわかないのだが、あのアーチャーの戦術に対して苦言を呈した時に、彼は確かに言葉の中へ自身に向けた後悔を含ませていたのは感じていた。その時は理由が分からず些細な違和感として流してしまったが、レオの言うことが真実ならば、ブラックモア卿はアーチャーに昔の自分を重ねている部分があるのかもしれない。

ヒントともいえない雑談の一つだが、それでも先のブラックモア卿との会話に加えて何かを更に掴めた感触がある。ならば、動こう。先を歩く人たちへ追いつくには、距離を埋めるまで自分が進むことを止めてはならないのだ。

レオも私がこの場にこれ以上立ち止まれないことを察したのか、お付き合いいただいてありがとうございますと一礼する。

桜にもお礼してから保健室を出ようと扉に手を賭ける直前、ふと思いついた疑問をそのままレオに投げかけてみた。

 

「万能の願望器に、レオは何を願うの?」

「人の手に余る奇跡は、人の手に渡すべきではない。ならばあれは王が管理して在るべきでしょうし、ですから、僕が回収に来た。それだけのことなのです」

 

それが当然であり必定であると少年王は告げていた。

 

レオも、凛も、ラニも、そしてレオ曰く信念を変えたというブラックモア卿も、誰もが自身の中に揺るがないものを抱いている。背後で霊体化しているランサーも、きっと例外ではないだろう。

例外は、自分なのだ。例外が生き続けられるほど、この戦争は優しくない。死にたくない、そして委ねられた遺志を失いたくないというささやかな意地しかない自分はその戦争の中で、ひたすら抗うしかまだ選択肢はなかった。

 




信念を抱きたいと願い、何かを掴めそうでも、それはまだ揺らぐもの。
だから歩き続けて揺るがないモノへ変えていかなければならないのだ。

次回は四日目突入、間にタイガークエストを挟みつつガッといけたら……ストックがなくなったのでまたしばらく空く可能性が…頑張ります
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