新生活に慣れたと思ったのも束の間、執筆の時間を生活リズムに組み込むことができず今まで筆を取ることができませんでした。続きを待っていてくれた方々には、本当に申し訳ありません。
今後執筆のペースを調整しながらも、完結を目標に再び書いていきたいと思います。
#二回戦 四日目#
保健室の一連の出来事から次の日、私たちは状況の整理を優先する為にすぐアリーナへ行かずにマイルームへ留まっていた。
二階の図書室で敵の宝具名を調べてみる必要もあるし、もちろんアリーナで鍛える必要もある。そろそろスキルポイントも貯まったので教会へ魂の改竄をしにいかなければならないだろう。
(相も変わらず、やらなきゃいけないことばかりで、進むことに必死で)
――自分が何なのかを確認する暇だってありはしない。
掴みかけた覚悟の在り方に、どうリアクションをとればいいのだろう。
悩んでいても、歩みを止めるわけにもいかず、眉をしかめながらまずはアイテム調達の為に食堂へ降りようと階段の手すりへ手をかけた時、不意に背後から声をかけられた。
「あら、いいところにいたわねー!」
……よくないところに来ちゃった!
能天気な彼女の声が聞こえた瞬間、このまま振り向かずに走り去ろうかとも思ったけれど、背後から伝わる気配は完全に獲物を狙う虎そのものだ。逃げても絶対に追いつかれそうなので、諦めて素直に彼女のお願いを聞くしか選択肢は残されていなかった。
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「といっても、私も頼まれたことなの。探し物の目処はついたけど、場所が場所でねー」
そう言いながら、藤村先生は私を中庭へと案内した。普段は校内にいる印象が強いので、噴水と花壇が彩る中庭と彼女が並ぶと少し変な気もしたが、全てが異常なこの状況で変も何もあったものではない。
毎度おなじみの藤村先生のお願い、通称タイガークエストなのだけど、今回はいつもの彼女が失くしたものや欲しいものを拾ってくる類とは違う依頼だった。
聞けばNPCの生徒がとある人物から探し物の依頼を受けたもののそれを達成できそうになかったので、彼よりも上位である藤村先生が代わりに引き受けたらしい。
それも結果的には、彼女では見つけても持ち出すことができない場所――つまりアリーナ内に落ちているので聖杯戦争参加者に協力を募ろうと校内を歩いていたということだ。
毎度ながら何故そういったタイミングで私たちは彼女と出会ってしまうのだろうか。過酷な作業を強いられる下請の下請けという実態に真っ黒な企業が思わずイメージとして頭に浮かびあがる。
『竹刀を持っていった後にも、ミカン箱だっけ?もうなんだかんだ三回近くも頼み事を聞いているから、慣れてきているね』
戦争に慣れるより先生の頼み事に慣れる方が平和なのだが、いかんせん彼女の依頼
は精神的な疲労が大きい。
「ん、戦争だって精神的疲労があるし……ううん?」
どちらがマシとか、そういう話ではないけれど同列に語ってしまう辺り、だいぶ自分もおかしくなっていた。
「なーにぶつくさ言ってるの?ほら、ここだよー」
そうして案内された先は、意外なことに通い慣れた教会だった。
中庭を隔てて造られた、聖杯戦争の会場である校内とはまた別の異質さを秘めた空間は、密やかに厳かに其処に在る。もとより今日中に此処へ訪れるつもりではいたが、やはり予定が狂わされると戸惑いの方が大きかった。
『その戸惑いの大部分が教師から来ていることに必死に目を逸らすのもいいけれど、早めに中へ入ったらどうかな?』
「やっぱり気づかれてたか……」
ランサーは現実逃避をするマスターを見逃すわけもなく、そして現状が逃避を許すほど甘いわけでもない。仕方なく心を入れ替えて私は藤村先生の待つ教会の扉へと手をかけた。
ぎしりと音を立てて開かれる世界には、いつもと変わらない真逆の姉妹が居座っていた。普段なら一人で訪れる場所でも今回は藤村先生と言うイレギュラーがいるので、第三者に対してあの姉妹がどのような反応をするのか気にならないと言えば嘘になる。
「やっほー、お望み通りに暇そうな生徒を一人連れて来たわよ」
「流石の教師、仕事がはやい!」
「ご協力感謝します、藤村先生」
明朗快活という四字熟語を思い浮かばせる笑みで藤村先生を褒めたのは妹の青子さんだ。それは、まあ表裏のなさそうな彼女なので予想通りの反応だったのだけど、問題はその隣で涼やかな微笑みを浮かべている姉だった。誰だろう、この人は。いつも青子さんの隣に居るのは、青の不機嫌と冷徹と冷酷と無関心に満ちた蔑みに一周回って興奮さえ覚える人が居るのではないだろうかと言う表情を浮かべる人物なのに。
『マスターはあまり感情を表情に乗せないぶん、雰囲気で思考が丸見えだから気をつけた方がいいね』
ソレは貴女の美徳でもあるのだけど、と嘆息するランサーの言葉は、目の前の女性から叩きつけられるプレッシャーと殺気にかき消されてしまって私の耳に届くわけもない。ほらやっぱり橙子さんはこうでなくちゃ!
「じゃ、私はここまで。詳しい事はこの二人に聞いてちょうだい?」
「そんな先生、ここまできて生徒を死刑台へ送るだけなんてあまりにも酷です」
「何言ってるのよ―、貴女たちは常駐戦陣みたいなものでしょうに。大丈夫、ちゃんと以来達成できたらタイガースタンプ押してあげるわよ」
そう言う問題でもないのだけれどタイガースタンプを秘かに楽しみにしているランサーを前に餌をまかれてしまった以上、そしてなにより橙子さんの表情で室内の体感気温をこれ以上は下げてはいけない。
「さて、君には甘い顔など必要ないと自ら宣言したのだから、馬車馬の如く働き研鑽を積み給え」
「AIが私たちのところへ生徒を連れてきてくれただけでも充分にイレギュラーなんだから、贅沢言わない言わない」
宣言通りに一人で中庭へと去っていった藤村先生の後ろ姿を見送る私へ、同じ無関心故でも絶対的な温度差のある言葉が投げかけられた。
二人とも態度こそ違うようにみえて、その実はこの電脳世界に関して興味を一切持っていないという共通点がある。短い付き合いながらも好意的に接してくれるような青子でさえ、今目の前で起きている万物の願望器を巡る戦争に期待もしなければ関心も持っていないのが分かった。彼女にとって重要ことは戦争でも人物でもなく、ソレによっておこされる結果なのだ。
橙子さんは言わずもがな。本人いわく、何かを探しているようだけど逆を言えばそれ以外のことには関心を持たないはずだ。そうなると藤村先生に頼んだことも彼女の探し物に関わるものなのだろうか。物事へあまり執着しなさそうな彼女だからこそ、こんな世界にまで探しに来るものは何なのか気にならないと言えば嘘になる。
「あ、それで探して欲しいのは眼鏡なんだけどね」
「え、橙子さんの探し物って眼鏡なんですか!?」
「眼鏡をかけている人間が眼鏡を探してどうする」
此処で冗談を返しても待っているのはいい結果ではなさそうなので沈黙を選ぶことにした。数秒遅れて笑い始めた背後のランサーは無視して私は向かい合う二人に事情の説明を促す。
「いやなに、少しばかり姉妹喧嘩が止めどころを失ったら霊子の海へ落としてしまったんだ。私のスペアだったなら別に構わなかったのだが、私の探し物にも関わる特別な処置を施しているものでね」
「私としてはどーでもいいんだけどねー、原因の一因にお前も関わっているんだからって眼鏡探すのを手伝わされたのよ。酷いと思わない?」
「同意を求められても困ります……」
あの世界を滅ぼしかねない姉妹喧嘩をやめれば、一番平和的解決なのではないか。
「とにかく眼鏡が落ちた地点を特定したはいいのだが、そこは聖杯戦争参加者以外は立ち入れない場所だった……これ以上の説明は必要か?」
『つまり、アリーナに落ちていたのか。しかし不躾ながら、お二人ならアリーナへ侵入することぐらい造作もないと見受けられるが』
「たしかに、落ちた眼鏡だけ取ってくるとかできそうですよね」
素朴な疑問をランサーと共に口にしてみると、目の前の二人同時に呆れ顔を浮かべられてしまう。そんなことも分からないのかと怒る教師のような仕草に身をすくめると、溜息まじりに青子さんが説明してくれた。
「それやっちゃってもいいんだけど、あくまで私たちは聖杯戦争に不干渉の立場でいないといけないからね。それがムーンセルの提示した此処に居させてくれる最低条件だから」
「魂の改竄は許容範囲らしいが、直接アリーナへ関わることは観測に対して悪影響を与えると判断されているのだろう。くだらない理由で退場なんて二度手間をかけたくないから、少しは日頃の礼代わりに働いてくれないか」
頼み事の口調だが、私の選択肢に“断る”というものは与えられていなかった。
仕方ない、どちらにしろアーチャーへ対抗するためにもアリーナで鍛える必要はあるのだ。眼鏡を見つけることを請け負うと、二人は私たちを笑顔で教会から追い出した。扉を閉める瞬間に蒼光が中から垣間見えた辺り、また姉妹喧嘩を再開したのだろう。
「教会内部が頑丈なのか、二人が手加減しているのか。此処が壊れないのはどっちだからだろうね」
『多分両方なんじゃないかな……しかし眼鏡探しか。戦争の最中に行うとは私も想定していなかった』
「むしろ想定してたら怖いよ、ランサー」
***
まだ文章を掴み直せず試行錯誤が必要です……本当にすみません。もう少し書きためてから今後は投稿していこうと思うので、やはりペースがどうしても遅くなってしまいますが、どうかよろしくお願いします。
タイガークエスト、ちまちまとですが本編に関わらせていこうかと思います。
ところでHFがついに映像化、しかも劇場版と聞いて狂喜乱舞しました。EXTRAも映像化して、いいのよ……?メルブラも、まほよもry