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#一回戦 七日目#
静まり返った廊下に動く気配は、私とランサーの二つだけだ。
出口の設定を変えられていたのだろう、マイルームを出ると、其処は既に戦場だった。他の参加者だけではない、NPCも何もかも消え去ったが故に死臭に満ちた廊下をランサーと二人で歩く。
聞こえる音は二人分の足音、リノリウムの床を鳴らす音。そして一階から聞こえる何かを待ち構える重い駆動音。
その音が勝利の扉を開く鍵の音となるか、死刑台のギロチンが落ちる音となるか。それを決めるためにやるべきことは、考えられる限りやったつもりだ。
もう後戻りができない以上、何かを悔む事もできないけど、アイテムは充分に買った。魂の改竄も行なって、ランサーのスキルも幾つか取り戻せた。
そして慎二のサーヴァント、ライダーの真名も判明した。
「まさか、史実とは違う性別だったなんて。歴史書ってあてにならないのかな」
そう、彼女は歴史上では“彼”として扱われていたのだ。
慎二が隠した古ぼけた手記がなければ、きっと彼女の真名には辿りつけなかっただろう。
「黄金の鹿号」の乗り手、世界一周を果たした大海賊、かの女王に「私の海賊」と呼ばれ騎士の称号さえ得た歴戦の戦士。
――フランシス・ドレイク。それが彼女の名前だ。
「歴史とは勝者の視点で描かれるものだからね。性別の一つぐらい違っていてもおかしくはない。もしかしたら、他の英雄だって実は性別が逆なのかもしれないよ」
そんなランサーの言葉に、たとえばアーサー王やネロ皇帝で想像してみたけれど、どうにも女性のイメージを抱けなかった。きっとこの霊子虚構空間での私たち参加者のアバターが本来の姿かどうか、確証がないのと同じなので深く追求するのも野暮というものだろう。
結局のところ、重要なのはフランシス・ドレイクという英霊を率いる間桐慎二と私たちはたった一つしかない次への席を奪い合うということだ。
どうして、なんで、どうやって。解の無い答えを探してもがいて、まだそれは見つからない。それでも時計の針は進んでしまって、私は今こうして決戦の入り口前にいる。
誰もいないと思っていたけれど、入口の横には言峰綺礼が不動の姿勢で立っていた。
「さて、ようこそ。この扉の向こうは闘技場、ここへ戻るには一つしかない席を奪い合わなくてはならない……覚悟を決めたかね?」
相変わらずの声、態度はまるでこちら側の緊張をあざ笑うかのようだが、緊張しすぎている自分を自覚しているだけに反論できない。
「覚悟は……まだ、わからないよ」
そんな簡単に決めてしまう覚悟なんて、風が吹けばすぐに飛ばされてしまうものだ。
「ほう、ならばこの扉を開かず結果を待つというのも一つの選択肢だ」
「それも……しない。逃げる事だけは、現実を取りこぼす事だけはしたくないから」
ああ、我ながら我儘な意見だ。
それでも、これを覚悟というのなら私は胸に秘して決戦に挑まなければいけないんだ。背後にいるランサーの為にも、遺志を託した彼の為にも、無為に諦めるという選択肢だけは存在しない。
「いいだろう、若き闘士よ。君の覚悟がどういうものなのか、物語るは全て結果だ。
――存分に、殺し合い給え」
見ているこちらを不快にさせる笑みを浮かべながら、神父はこちらが差し出した二枚の暗号鍵を扉にかざした。
扉の前で厳重に巻かれていた電子の鎖が暗号鍵によって悉く砕けていく。そうして全ての鎖が砕かれると、扉はいつの間にか校舎にあるような扉ではなく、エレベーターの入口へと変化していた。
神父を見上げると、あの中に入れと無言で扉を指し示す。
そうして一歩、踏み入れる。一歩、踏み入れてしまった。
暗転した世界。けれど静かに沈む感覚から、このエレベーターで下へ運ばれているのが分かる。
次第に暗闇にも目が慣れてきたタイミングで、嫌がらせのように頭上に灯りがともる。突然の眩しさに目を瞑って過ごしていると、先に目を開けたらしいランサーが肩を叩いてきた。
「どうしたの、ランサー?」
「え、いや……聞くより見た方が早いかな」
眩しさになれるため目を細めながら周りを見てみると、いつの間にか自分の目の前には青筋を浮かべた慎二とニヤニヤと笑うライダーが立っていた。自分たちとの間は透明な壁によって区切られているものの、音までは遮られていないようだ。
「随分と余裕だね、まったくさあ」
「ごめん、気がつかなかった」
眩しさと緊張でこの移動時間はずっと目を瞑って過ごそうかと思っていたけれど、相手を前にしてそれはさすがに失礼というものだろう。慎二の不機嫌そうな表情が見事に物語っていることだし。
「今日が決戦だってのに態度が変わらないね……まぁいい。逃げなかった事だけは評価してやってもいいぜ?学校でも生真面目さだけが取り柄だったしな」
怒りを堪える様にしてやれやれと首を振った慎二だけど、自分はその行動よりも、彼の言葉にビックリしてしまった。
彼は本選で挑む魔術師ではなく、予選という偽りの学園生活上の友人の延長線として私を扱っていた。
遠坂凛も、レオも、他のNPCやランサーでさえ自分では実感のつかめきれていない魔術師として私を扱っていた。だからなのだろうか、皮肉だと分かっていても、あの学園生活を認め、あの時の自分を知ってくれる人間がいるというだけで嬉しさがこみ上げてしまう。
「なに嬉しそうな顔してるんだよ、お前。本当に気持ち悪いな……」
危ない危ない、顔に出ていたらしい。ランサーが表情を変えずに笑っているのが気配で分かる。
「そういうところ、学校にいた時から嫌いなんだよ。それに空気読めてないでしょ、ホント。僕に勝てないのを分かってるのに挑むなんてさ」
「絶対に勝つ、なんて言えないけど……負けない。負ける事だけは、したくない」
他者を押しのけてまで得たい願いも記憶と共に消えてしまった私は、勝ちたいという欲求はどうしても他の参加者には負ける。
けれど、負ける事だけには負けたくなかった。
「はあ?負けたくない?こっちの身になって考えてくれよ、お前と戦うだけでも消耗するんだって!ほら、優勝賞金なら分けてやってもいいからさぁ、友達なら協力しような?」
いらない、と私は首を振る。これは願いを叶えるための戦争だというからには、賞金なんて現物はきっと現れない。加えて私はただ死にたくない、生きていたいだけだ。
「くそっ……お前って本当にバカだな。負けたくないとか、死にたくないとか……わけわかんないし、万が一にでも僕に勝てると思っちゃったわけ?おい、そこのサーヴァントも何か言えよ、私のマスターはバカなんですって」
私と話していても埒が明かないと思ったのか、慎二は会話の矛先をランサーへ向けた。今までは会話に参加せず、私の横で諦観していたランサーだけど、話題を振られて漸く何処か遠くを見ていた瞳は目の前のマスターへ視点を定めた。
「なにかな、マスター。帰った後に一曲弾こうかと思ってイメトレしていたんだけど」
いや、マスターはマスターでも話題を振ったのはあちらのマスターです。といより相変わらずいつもと変わりない自然な状態で、もはや安心感さえ抱いてしまう。
ランサーも目の前でいらついている慎二が話しかけたのだと気がついたか、しばし彼を見定めるように彼を観察すると、不意にぽんと拳を叩いた、
「宝の持ち腐れとはこの事だね。君はいかに素晴らしい旋律を持っていたとしても、奏でるものが歪んでしまっていて聞くに堪えない音だ。自分の耳も良いから歪みを理解してより一層歪んでしまう。それではどうしようと一流に届くことはできないよ」
彼女の指摘に慎二の怒りは頂点に達してしまったようだ。わなわなと震えながらサーヴァントの分際で、と辛うじて聞こえる大きさで言葉を口に出そうとしている。
が、それよりも先にライダーが慎二のウェーブがかかった髪をくしゃくしゃに撫でまわした。豪快な、遠慮のない仕草で背の低い彼の頭を撫でる様はまるで姉と弟のようだった。
「いいように言われてるじゃないか、シンジ。ここは大人しく副官のアタシに仕事を任すんだな。出し惜しみや遠慮はよしとくれ、これでも宵越しの弾を持たないことが矜持なんだ」
「随分と威勢がいいね、ライダー……いやエル・ドラゴ」
「おやま、アタシの真名に辿り着いたのか!褒めてやるよ、お礼は真っ向勝負の派手な花火ってところかね」
「おまえ!真名ばれてるのかよ!少しは焦れよ、馬鹿か!!」
真名をばらしたのはどちらかというと慎二なんだけど……という言葉をどうにか呑み込む。ランサーの一言でさらに騒がしくなったエレベーターは尚も下を目指していた。
真っ黒い鯨の中へ飛び込むみたいだ。
いつどこで見たかも忘れたフレーズを思い出しながら、私たちは更に沈んでいった。
***
そうして辿り着いた決戦会場。
エレベーターの入り口を出ると、そこは大型の船の上だった。船だけではない、周囲の岩礁や沈没船まで含めた巨大なエリアが目の前に広がっている。慎二たちは別の出口から出ていったきりで、辺りを見渡しても気配がなかった。
『アサシンやキャスターのクラスは一対一の場合、対面した状態での戦闘開始は不利となる状況が予測されるため、決戦会場に限って広範囲のエリアと別々のスタート地点を設けている』
頭上から降りかかってきたのは言峰神父の声だ。たしかに、説明を聞く限り、一対一で戦うとなると実力を発揮しきれないクラスはありそうだ。これで少しは条件が等しくなるのだろうか。
「今回、私たちは互いに正攻法を中心とした戦術だからまだいいけれど、他のクラスに対しては気をつけた方がよさそうだね」
盾を構えて周囲を窺うランサーの言葉に頷く。
戦いに合図はない。けれど、この空気は既に殺気を孕んでいる。
今までとは比較にならない、明確な殺意がこちらへ向けられた。
「マスター!」
「わかってる、ランサー!」
礼装を握り締め、今この瞬間だけでもと覚悟を決める。
今はただ、死にたくない。だから、足掻け!
「ははっ、ガレオン船とはついてるじゃないか!!アタシの『黄金の鹿号』よりは劣るけどね!」
――
高らかな宣言に、再び財布の危機が訪れるのかと身構えた私たちだけど、財布の危機を感じ取るよりも先に床の振動を感じ取った。
これは、どうも、船が揺れている?
バランスを崩しそうになったのをランサーに支えてもらうと、流石にこれが異常事態なのだと気がついた。
「ええと……え?」
ガクンッと一番大きな揺れを経てから、小刻みなものへと揺れは変化する。ランサーにずっと寄りかかっているわけにもいかず、縁を掴んで自分で立ち上がると外を覗きこみ……後悔した。
ゆらゆら揺れる、上下左右、不安定に動き続ける視界。上でなびく帆のように、風に自分の亜麻色の髪が揺らされる。
固定、されていたはずだ。あくまでこれはエリア内のオブジェクトの一つであるはずだ。
なのに、あのライダーは不可能を可能にした。華麗に“アリーナ”から船を略奪したのだ。
「そんなのありなの!!?」
「船、船か……また豪快に盗んだな!」
そんな二人の叫びは船が裂く風によってかき消されてしまう。
ただ聞こえる声は、ライダーの笑い声。正真正銘の簒奪者の笑い声だ。
「私の略奪に不可能はない……伊達に
ライダーの宣誓に振り返ると、二丁拳銃を掲げる彼女が甲板へ降りたつのが見えた。マスターである慎二もこの事態は予想外だったのか、驚きを隠せずに辺りを見回している。
「え、というかお前、船の操縦はどうしたの」
「大丈夫ー大丈夫ー、なんとかなるって!」
「なんとかなるか、バカ!!??」
そこのマスターとサーヴァント、漫才している暇があったら操縦士を失くしてふらつく船をどうにかしてください。
「いや、ある程度は彼女の制御化に入っている様だよ。何処かに制御の為にスキルを使用しているのかもしれない。少なくとも、意図的にでもしない限り墜落することはなさそうだね」
船全体を覆う魔力を感知したのか、ランサーの解説にとりあえず安堵する。
そういうことならと頭を切り替えて、まず足元がふらつく程度でも戦闘に支障はないことを確認した。ならば、決戦は続く。この船を使ってライダーが何かを行なう前に、決着をつけなければならない。
「ランサー!」
初撃で終わるとは思えない、けれどこちらから撃ち込まなければ流れできっと圧されてしまう。だから、走った。
ランサーの疾走は船の揺れをものともせず、一本の矢のように真っ直ぐとライダーへ向かった。
「お手合わせ願おう、ライダー!!」
拳を振り上げ、目に見えない速さでライダーを狙う。それに対してライダーは笑みを崩さないまま腰から二丁拳銃を引き抜き、ランサーを撃ち抜いた。
交差する拳と弾丸。鉛玉はランサーの肩を掠め、握り締めた甲冑はライダーの長い髪を一部だけ削り取った。
盾を引き寄せる銀の騎士、もう片方の銃を手繰り寄せる赤の海賊。零距離で行なわれる死闘に、宙へ散りばめられていく火花を見る事でしか追いつけない。
けれど火花以外でも散るものが、私の頬を掠めた。何かが付着した感覚に頬を服で擦って確認すると、白かった服の袖が赤黒く染まっている。
嫌な予感に駆られた私は、ポケットの中へ入れておいた一つの礼装を手にして刻まれたコードを思い浮かべた。
――コード展開、view_status()
視界に幾多もの数式の羅列が走る。一度瞬いて視界の変化に耐えると、次に見えた世界は先程とは一変していた。
周囲に浮かぶ沈没船、甲板に置かれた木樽、岩礁……目に見えるもの全てモノの状態が、それを意識しただけで浮かび上がる。
その対象を強く意識すればするほど詳しい情報が得られる状態認識魔術、それがこの“聖者のモノクル”に刻まれていたコードだった。
時間に余裕はない、すぐに私は見るべき点の一つを確認してから零距離戦闘を続けている二人へ視線を移す。辛うじて認識することが出来たランサーたちのステータスをみると、やはりランサーはライダーよりも負傷していた。このまま同じように続けていてもランサーの手詰まりだ。
「ほらほら、踊りな!!」
加えて、戦う場は相手の思うがままに動く船上だ。ランサーの踏み込む瞬間を狙って、船は大波にぶつかったように大きく揺れてくる。決定打へのチャンスを作ろうにも、意図的にバランスを崩されてしまっているため、戦況はライダーが絶対的に有利だった。
けれど、ランサーが退けない理由もある。歯痒いことに、ライダーの射線上に私がいることにランサーは気がついている。だから退けない、別の場所へ移動できない。
お荷物にはなりたくない、彼女の負担にはなりたくない……だから現状打破する方法を思考して、思索して、模索しろ!!
「ランサー!下に向かって撃ち抜いて!!」
僅かに見えた、ランサーの盾の構え。その一瞬に賭けて私は叫んだ。
盾をライダーに対して真正面に向けていたランサーは、その言葉に反射で反応すると杭を床へあてがって一気に撃ち抜いた。
相手は木製、弱体化していると言っても彼女の鈍重な一撃に耐えられるわけもなく、周囲一帯を巻き込んで崩壊していく。
「これはまた、思い切った手を使うね!」
「それはこちらの台詞だと思うんだけど、ね!」
言いあいながらも二人は戦闘行為を続けて落下していく。
これでしばらくは互いの戦闘に集中するはずだ。援護できないことは辛いけど、今は別々の時間を作ってでもこの船の操縦権をライダーから奪わなければならない。
私はよろめくのも構わず、階段があるべき場所へ駆け始めた。先程の“聖者のモノクル”によるスキルによって船舶全体で最も魔力が集中している場所は確認できている。ガレオン船は舵櫂ではなく舵柄を使用しているので操舵室は船尾寄りの階下にあると資料で見たが、そこは魔力が集中する位置とも一致している。……となると、舵を破壊できればライダーの操作から逃れる事が出来るかもしれない。絶対とは言い切れないが、他の可能性よりは高いだろう。
「――っ、ちょっとお前ら僕のこと忘れていないか!?」
――コード展開、shock(32)
迫る気配を感じて振り返らないまま屈みこむと、自分の真上を攻撃コードが走っていった。敵の攻撃を二度も避けられるほど幸運があるとも思えないので恐る恐る後ろを振り向く。
「くそ、サーヴァントどもは見失っちゃったけど、お前まで取り逃がすほど甘くないよ」
そこにはやはりというべきか、怒りの形相の慎二が立っていた。今まで自分が無視された苛立ち、サーヴァント同士の戦いに圧倒された自分自身への羞恥からの苛立ち……子供じみた怒りに染まった彼は先程の冷静さはかき消えてしまっている。
それでも、彼には彼なりの矜持がある。
宙に幾つもの術式を展開させながら、慎二はこちらに近づいてきた。
*interlude*
鈍い音が暗い室内に響く。深海を進み、明かりも少ないこの場所では、舞い散る火花さえ光源になりかねない。
周囲に何があるのかも把握しきれない船内で、ライダーとランサーは戦いを続けていた。
どうも先程の甲板より何層か下まで潜ってしまったようだが、ランサーの聖盾とライダーの二丁拳銃によってそこかしこに穴が開けられ、上へ下と縦横無尽に攻防が繰り広げられている。
単調な調べしか奏でられない自分に、ランサーは歯痒さを覚える。
この状況に陥ったこと、今の状態にまで条件を課せられたこと、全てを嘆くわけではない。マスターの少女も、自分も出来る限りのことを行なったし、これ以上を望むわけでもない。
それでも、銃撃を阻むために振るった腕が重い。距離を詰めるために踏み込んだ一歩は亀の様に遅い。
かつての自分と比べても仕方ないのに、比べてしまうのはやはり勝利に焦っているのだろうか。
ガマリエルの先端を槍の石突のように用いて相手を突く。肩口をかすった攻撃を、そのままにせず、流れに逆らわず腰をかがめてガマリエルを横に薙いだ。
「ははっ、そんな攻撃が当たるかよ!」
「く……だろう、ねっ」
相手の笑い声に答える様に盾を突きだし、振りかぶった左腕を彼女の視界から隠す。盾を避けたライダーへ間髪いれず、隠していた拳を放った。
一打、相手の鳩尾へ吸い込まれるように当たる。心でリズムを刻みながら二打、三打へと繋げていく。
ああ、一撃が軽い。腕を引き戻す動作はまるで錆びついた弦を引くようだ。それでも、私は勝たなくてはいけない。勝ち続けなければいけない。
『彼女』を、これ以上泣かせたく、ないから――!!
「う、おおおおおおっ!」
「甘い、女海賊をなめんじゃないよ!!ここはアタシの腹の中さ!」
杭を撃ち込もうとした瞬間、ライダーの掛け声と共に暗がりが一瞬で光に満ちる。突然の事に視力を奪われてしまい、杭はあらぬ方向の壁を突き破り、その大きな隙によってライダーの次の行動を止められない。
大量の弾雨がランサーに襲いかかり、なんとか致命傷は避けるも身体が限界に近いと全身が主張する。それでも前を向けと自分に叱咤激励をして痛みを抑えこんで顔を上げた。
其処にひしめく気配は船の擦れか、どよめく気配は風切り音か。
ではこの歌声は、勝利を謳う凱旋歌は、どこから作りだされている?
漸く光量に慣れて視力を取り戻す。
嗚呼、自分はこれを知っている。ランサーは自嘲するようにそう呟いた。
聖堂騎士団が行なう戦法、物量によって相手を圧倒せしめんとする力の洪水。
こちらと距離を開けたライダーは、カルバリン砲を従えていた。砲手はいなくともまるで荒れくれどもの船員のように、カルバリン砲はこちらへ照準を定めている。
「おや、もうチェックメイトかい?」
獲物をいたぶる笑顔をみせるライダーに苦笑する。
確かに、此処は彼女の腹の中。周りには敵しか存在せず、加えて今の自分は全力にも程遠い。
でも、でもそれは経験した事のあるものだ。絶望する理由にはならない。自分が味わった本当の絶望、心残り、後悔はこんなものではないとランサーは確信する。
「あの子なら全て計算通りです、なんて言うんだろうな」
盾を構えなおし、ライダーを見据えた。
身体は痛みを訴え始めている。本物の身体ではないのに、そういった造りまで精巧に再現するなんて、末恐ろしいものがあったものだ。
まあ、それは問題ではない。現状は嘆くものではなく、打開するものだ。
「それに、今は独りじゃない」
あの夜、彼女を逃がすために孤軍奮闘した状況と決定的に異なる事だ。
一緒に過ごし始めて、まだ一週間。記憶を失い、力もなく、ただ小さな手のひらから僅かに得たものを取りこぼさないようにと必死に足掻く姿を見れば、手を貸さずにはいられない……そんな少女。
今まで出会った少女たちと比べれば、いやアトラス院の院長候補や二十七祖たりえる力を秘めた吸血鬼やらと一般人を比較するのもナンセンスだが、その力は微々たるものだ。
それでも、その彼女の力があればこの状況を打開できるのではないかという根拠もない確信がランサーにはあった。
そんな少女を利用するような形になってしまうのは健気で努力家な子に弱いと自覚する自分にとって非常に心苦しい。それでも、目的を達するためには彼女……いやマスターという存在が必要不可欠なのだ。
マスターにもサーヴァントという存在が必要不可欠なのだから別に心苦しくなる必要などないのではないか、なんてあの神父ぐらいなら言いそうなものだが、こればっかりは自分の性分というものだ。
こんな自分で在り続けて、こうして今でも生きているのだから気にすることはないだろう。だから、この根拠ない確信だって信じても大丈夫なはずだ。
全ての砲身がこちらを向く。主人の合図を今か今かと待ちかまえている。
それに応じる様に、ライダーの腕は上がっていく。あの腕が振り下ろされた瞬間に、きっと自分は蜂の巣だろう。
それでも待つ、ランサーと呼ばれた
ライダーの笑みとランサーの笑みが交差する。
決着は、その瞬間に訪れた。
*interlude end*
原作とかなり改変してきてしまって不安でいっぱいです主に設定噛み合ないとか矛盾とか
変更点は以下の通りです
・決戦会場までは一緒だが、それぞれのエレベーター出口によってランダムに選ばれたポイントへ転送される。戦闘開始の合図はなし、外へ出た瞬間から戦闘可能とみなし決戦は開始される(一回戦のみ言峰の解説有り)。
・決戦会場は浮いている船舶ではなく、もとは沈没船オブジェクトとして使用されていたガレオン船。
・ライダーの戦闘序盤の行為は「華麗な略奪」に加えて「星の開拓者」も併用した結果、こんなことに。
・view_status() ……エネミーのレベル表示だけではなく周辺の破壊可能オブジェクトの探索、自身のサーヴァントのHP把握、敵サーヴァントの知識範囲内でのステータス表示を可能とする。ただし右に行くにつれ表示には時間が必要となる。
こんなところでしょうか…view_status()が高スキルになってしまったような…