Fate/海に溶ける   作:schlafen

8 / 18
一回戦決戦、決着。


決戦_銀月一閃

慎二が次々と放っていくコードキャストを転がりながら避けていく。なんとか直撃は避けていても、既に攻撃によって生まれた木片や爆風で全身は切り傷や火傷の痕でいっぱいだ。

痛い、苦しい、どうしてこうなったと混乱する感情を脇に置いて、私はひたすらに船上を駆け抜けた。少しでも同じ場所に留まっていると慎二に攻撃されてしまう。

「ああくそっ、ちょこまかとウザったいんだよ!」

 

――コード展開、loss_lck(32)

 

先程の攻撃用ではなくステータス低下効果を持つ慎二のコードキャストが直撃してしまう。身体が重く、鈍くなるのを感じながらも私は歩みを止めなかった。

幸運のステータスが低下している今、運を頼った行動はできないだろう。こちらもリスクを背負って動かなければならない。

 

(大丈夫、死にはしない。死にはしない……多分)

 

心のなかで必死に言い聞かせて、最後の疾走を開始する。

 

 

怖い死にたくないと叫ぶ自分。そうだよね、本当にそうだよねと同情する自分。どれ一つだって取りこぼさないようにギュッと握りしめて備え付けられた階段を目指した。

 

階段へ足をかける前にコードキャストによって弾かれる。嗚呼痛いな、そんな事を考えてしまうぐらい、パニックが一周回って自分を冷静にさせているが、状況は変化せず結果としては内臓を駆け巡る衝撃を受けたうえに吹き飛ばされた。階下の扉にぶつかっても勢いは止まらず室内へ転がり込む。なんとか吹き飛ばされた場所の傍にあったものを支えに立ち上がった。

目の前にはボロボロな自分を見てせせら笑う慎二。頭のなかが爆風でかき乱されて彼の言葉はよく聞こえない。それでも私の事を無様だなとか、いい気味だとかそう言っているのぐらいは予測できた。

 

そんなこと、なにより私が知っている。言われるまでもない。

 

だからこそ、足掻く必要がある。可能性を、潰してはいけないんだ。

舟の揺らぎではない、戦闘での振動がこちらにも伝わってくる。私を信じて戦うサーヴァントが、すぐ近くで私が信じたままに戦っている。

彼女を助けるためならば、いくらでも無様になろう。彼女の勝利へ少しでも貢献できるのなら、いくらでも醜態を晒そう。

慎二が大仰に何かを喋りこちらに展開した術式を向ける。それはあからさまなオーバーキル。サーヴァントの援助もなく、直撃したのなら私は無事では済まないだろう。

 

――放たれる、攻撃用術式。見ているだけでは駄目だ、動かなければここで終わってしまう。けれど今まで逃げ続けていた身体はこれ以上動けないと悲鳴をあげている。

 

――私が終わってしまう事は、怖くない。まだ七日間しか存在していない自我だ。

 

――怖いのは、私に託されたものが終わってしまう事。

 

遺志、期待、願望。些細なものでも、一本の糸でさえ紡がれることで私を生に縛る鎖となる。操り人形と言われても構わない、その糸が私に生きろと言うのなら、生きろと託されたのなら報いなければいけない。

 

「だから……っ」

 

目の前に術式が迫るなか、コンマ一秒だって諦めてはいけない!

 

 

「動いてよ、私の身体……!!」

 

 

必死に念じた想いは届かず、されど奇跡でも偶然でもなく必然が、自分の身体を動かした。

 

 

熱い衝撃が、突如として肩に生まれる。痛みと熱を伴ったソレによって、身体は成す術もなく仰け反るように崩れ落ちた。

 

 

それは一発の、銃弾だ。

 

 

船の下の階へ落とされたサーヴァントたちの争い、二丁の拳銃から次々と発射される銃弾を聖盾が弾く攻防はマスター同士の戦いが始まってもなお続けられていた。火薬庫からギャレーにまで及ぶ戦闘規模は、幾多の場所に穴をあける。

その最中で盾に弾かれた弾丸、弾かれずにしかして跳弾と化した弾丸。その連続によって生まれた、ほんの僅かの……隙間。

それらをすべて掻い潜って、操舵室へ向かった弾丸が、憶分の一の可能性で、自分の肩へ着弾したのだ。

 

肩に銃撃を受け、屈んだ私の真上をコードキャストが通り過ぎていく。

 

そうして自分が立っていた背後、先程立ち上がるのに利用していたもの……舵、自分では気が付けなかったが、ライダーが自身の魔力で作り上げた仮想舵が、慎二のコードキャストによって見るも無残な姿へ変わり果てた。

舵が破壊された瞬間に、船はライダーの所有物からアリーナのオブジェクトへと戻ってゆく。操る者がいなくなった巨体は下に聳える岩礁へとぶつかり、放り出されかねない衝撃を船内にいた全員にもたらした。

 

「うあ……っ」

 

そんな衝撃に、疲労がピークに達していた私は耐えられるはずもなく、抵抗もできないまま海底へと吹き飛ばされる。

 

おっと、ここまでは考えていなかった……どうしよう。

と言っても、どうする事もなく私は流れに身を任せるしかない。

 

私では何もできない。何かをするには、他者の助けが必要だ。

 

 

「マスター、君は何かしらやると思っていたけど相変わらず大胆なことを考えるね」

 

 

堕ちる流れは中断され、真逆の方向へ私は温かな腕に抱かれて落ちていった。

制服の所々は銃弾が掠めた痕で破れている。白磁色の肌も火傷が垣間見え、銀色の髪は埃を被って鈍い色へ変わってしまっていた。

 

ランサーは、それでもいつもと変わりのない笑みをこちらに向けてくれる。

 

「でもお陰で助かったよ。結構ピンチだったんだ」

「それは……どういたしまして?」

「で、ここが正念場だ。頑張るから応援してくれないか、マスター」

それはなんで?という疑問は派手に岩礁へぶつかったせいで真っ二つになってしまった船の残骸へ着地したことで嫌が応にも理解する。

 

ランサーの見あげる先、頭上に浮かび上がるはライダー(フランシス・ドレイク)が本来持つべき船――『黄金の鹿号』(ゴールデン・ハインド)

そうして従える以前見たよりも遥かに多い砲門。明らかに今までの攻撃とは違う、最後の関門とも言うべき攻撃だ。

「くそっ、くそくそっ!おいライダー、これを出す以上は負けるなんて許さないからな!!」

「ああ、アタシだって分かっているさ。ほら野郎ども、時間だよ!!そっちには冥土の土産に教えてやる、アタシの真の力……嵐の王と呼ばれたアタシの力を!!」

『嵐の夜』……欧州を中心に伝わる嵐の化身。それを従える者は様々な存在が語られているが、英国で最も広く信仰されている存在こそライダー本人だ。英霊としての彼女は生前の力だけではなく、信仰やその後の歴史認識によっても力を手に入れている。

嵐と化した船を従え、ライダーはこちらを見下ろしていた。ただ立っているだけでも風に叩きつけられる気分だ。それでもランサーの邪魔にならない様に、なんとか一人で立って安心させる。

ランサーはそんな自分を見て二コリと微笑んだ。そうして盾を改めて握り直し、身を屈める。

「終わったら一曲弾こうと思う。是非マスターにも聞いてもらいたいな」

「ランサー、それ死亡フラグ」

そんな堂々と立てていいフラグではない。だからランサー、そんなドヤ顔もいらない。

「あれれ、安心させるために言ってみたんだけど逆に不安になってる?」

「そ、それなりに。不安と安心の半々ということで」

「だって、彼らの真名も実力も全て出し尽くされている。そして私たちはまだ何も彼らに明かしていない。ならば往けるよ、勝利への一歩を私たちは踏み出しているよ」

盾に力を籠められて、傍にいるだけでもその存在が強まっていくのを感じた。

彼女の実力がどこまでなのか、まだ自分は把握しきれていない。ならば、自分にできる事は彼女を信じて、自分にできる事をするだけだ。もうコードキャストを展開できる魔力は限られている。回復とステータス公開が残り一度ずつといったところだろうか。

「お願い、ランサー。私に力を貸して」

「了解だよ。こちらも力を貸してくれ、マスター」

嵐の力が一層高まる。ライダーたちもこの攻撃に全てを賭けていて、いま限界まで力を溜めこんでいた。

 

「さて、アタシの名前を覚えて逝きなよ!!アタシは太陽を落とした女……テメロッソ・エル・ドラゴさ!!」

 

放たれる号砲、空を覆い尽くす弾幕。火船と呼ばれる戦法、砲弾が、炎を纏った船が、全てが私たちを喰らおうと迫ってきた。

対してランサーは、銀の矢となって駆け抜けた。炎を恐れず、砲弾を怖れず、ただ一直線に奥で座する黄金の鹿号へ向かっていく。

 

――コード展開、view_status()

 

私はランサーの体力、そして敵の攻撃をひたすらに見極める。恐怖を飲み込み、震える足を叱咤して、なんとか攻撃を回避しながら彼女から目を離さない。

疾走する彼女は無傷ではない。致命傷となりえる攻撃を弾くだけで、全てを弾いているわけではないのだ。

だから私はランサーの限界を注視する。ランサーの攻撃範囲がライダーの元に届くまで、あと十歩。

ライダーはいつもと変わらない笑みを浮かべている。彼女も、花火を散らすように財宝を、全てを出し尽くしていた。砲撃の嵐を放った瞬間に、彼女にはもうほとんど力はなくなったのだろう。

迫る砲弾を、盾を構えていない腕でランサーが弾いた。その衝撃に籠手が砕け、腕に裂傷が走る。ライダーまで、あと五歩。

ランサーのHPが次々に削られていく。ライダーの傍にいた慎二が何かを指示している。ライダーの笑みは消えず、けれど手元には二丁拳銃。

 

ライダーまで、あと三歩。

 

「やれ、ライダァアアアアッ!」

「ランサー!!」

 

互いのサーヴァントへの叫び。

 

ライダーは銃を構え、ランサーは盾を構える。

そうして発砲される直前、残る魔力を絞り上げ、最後のコードを私は唱えた。

 

――コード展開、heal(16)

 

淡い緑の光がランサーを包み、彼女の傷を癒していく。けれど魔力を普段より編みこめなかったせいで些細な回復だ。

 

そう、ライダーの攻撃を一回だけ、耐えきれる程度の回復だ。

 

「せやあああっ!」

 

二丁拳銃から放たれた、最後の攻撃を顔も歪めずランサーは受け止め、耐えた。ライダーの目は驚愕に見開き、けれど笑みを深くする。

そうして出来た最後のチャンス、三歩の距離を、ランサーが一気に詰め込んだ。

盾を素早く回す、描く、その弧はまるで満月の様。

 

 

「プレス・カンディーノ!!」

 

 

それは決戦直前で取り戻した、ランサーのもう一つのスキル。幾重にも弧を描き、槍盾として相手を斬り伏せる技。

 

「ははっ、こりゃいいのをもらっちまったね……」

 

倒れ伏せるライダーの台詞を最後に、船の嵐は一夜の夢のようにかき消えた。消え去る殺気が、何よりも明確にこの戦いに決着がついたのだと告げている。

 

記憶もなく、力もなく、ただ足掻いた自分とランサーが、一回戦の勝利者となったのだ。

 

***

 

静まり返った船上、戦場だったその場所で、一人の声だけが響き渡っていた。

 

「なんで、なんでこの優れた僕が負けるんだ!ありえないだろ!?」

地団太を踏み、どうにかして戦闘を続けようとする慎二だが、周囲は何も変化なく、彼の声だけが虚しく木霊する。

「動けよ、くそっ!この役立たずのサーヴァントめ!!お前が全部悪いんだ、天才の僕が負けるはずないのに、お前のせいで!!」

「無茶言ってくれるね、シンジ。アタシの状態ぐらい一目瞭然だろ?そうやって鞭打つ辺り、悪党の資質はホントに筋金入りだけど、残念ながらもうアタシゃ一歩も動けない」

片膝をついて苦しげに、けれど清々としたような態度でライダーは自らのマスターを諌めていた。対するこちらも互いにボロボロだ。紙一重の勝利を得た権利として、どうにかして二人とも立ってライダーたちを見つめている。

そんな私たちをみて、苛立ちを更に募らせた慎二は八つ当たりの様に叫び続けた。

「おい、お前らも何か言えよ!ほ、ほら例えば僕に勝ちを譲るとかさ!どうせ偶然で勝った君は二回戦じゃ絶対に負けるだろ?それだったら、絶対に勝てる僕に勝ちを譲った方がいいに決まってる!」

「だからやめとけって、シンジ。敗れたからには必ず要因がある……要因がある以上、敗者が何を語っても、それは負け犬の遠吠えさ」

ライダーの言葉にわめきたてる慎二に、私は何も言えなかった。

彼の提案を理解できなかった。なにより、彼は知っているはずなのに……敗者の行く末、その結末を。

 

私が決して勝利を譲れない理由、決戦が始まる前に彼へ言った言葉を、ライダーは軽い口調で、重い事実を慎二へ告げた。

「それにシンジ、アンタもマスターとして聞いたはずだよな?“聖杯戦争に敗れた者は死ぬ”、それに嬢ちゃんも言っていただろ?“死にたくない”ってな」

 

その言葉へ慎二が反論するよりも先に、事実として戦場に幕が下りた。

 

格子状の幕で引かれる境界線、勝者である私たちの背後には出口が生まれるも、反対側……慎二とライダーたちは行き止まりだ。更に二人の体がだんだんと黒ずんでいく。彼らを構成するデータが、死んでいく。

「な、なな、なんだよこれっ!聞いてないよ!!知らないぞ、こんなアウトの仕方なんて!?し、死ぬとかよくある脅しだろ、そうだろ?」

「いや戦争だしね、これ。そりゃ死ぬだろ、普通」

「はい!?な……や、やだよ、今更そんなコト……げ、ゲームなんだろ!?ゲームで死ぬわけないだろ!!?」

彼らが喋る間にも、ポロポロと崩れていく消し炭のように彼らのデータは消滅していく。最初は手足だけだったはずなのに、今では体の半分が黒い染みのように滲んでいた。

「もともと、この戦争に参加した時点でお前も、向こうの彼女だって死んでるようなもんだ。生きて帰れるのはたった一人、残りは皆この月でくたばっちまうのさ」

ちらとこちらへ視線を投げかけたライダーは嗤う。永遠ではなく、散り散る財宝を愛でた海賊は、その死に際でさえ豪快だった。

――生前、末期の彼女は病に冒されていたという。病にうなされ、奇行さえも繰り返したという彼女は、戦争の中で死ぬことを良しとしたのだろうか。

「うん?そりゃ悔しいよ、反吐がでる程にな。でも悪党の最期ってのは大抵が笑っちまうもんだろ?これくらいが丁度いいのさ」

私のつぶやくような問いかけに、ライダーは静かな瞳で答えた。混乱と狂乱、全てを掛け合わせたように取り乱す慎二とは対照的に、彼女はもう敗者という立場を受け入れていた。痛みも何もかも通り過ぎてしまったのか、体重もなくなってしまったかのようにスッと立ち上がったライダーは私たちを隔てる境界線があるにも関わらず握手を求める様に腕を差し出した。

その姿は彼女の残りカスと言った方が表現としては正しいくらいに、もう消えかけていた。

「なにはともあれ、よい航海を。次に会うときは強くなってろよ?本業は軍艦専門の海賊だからね、弱いもの叩きはどうにも居心地悪かったんだ」

「それに、私たちは宗派は違えど同じ信仰の下にいた。加えて貴女はもう一つの伝説を抱えている……それもまた要因の一つだろう」

それまで一言も喋らず、彼女たちの行く末を見守っていたランサーが口を開く。その言葉に一度きょとんとしたライダーは、けれど意味を理解したのか今までで一番の大笑いをみせた。

 

――そうして笑い声を残したまま、稀代の英雄、世界一周を成し遂げた海の覇者、あるいは“その英雄と成り代わったとある女王”は完全に消え去った。

 

向こう側に残されたのは、事実を認めきれず、泣き崩れる間桐慎二ただ一人。彼もまた、最早消えかける直前で間桐慎二だと識別できる部分は瞳と幾つかの場所しかない。

「や、やだやだ、死にたくない、死にたくない!なんでリアルの僕が死んでいくのがわかるの!?あ、あ、ありえない、ありえない!」

何かを探すように、何かへ縋るように、慎二は辺りを見回している。そして私と視線が絡むと、泣いているような、怒っているような……もう判断もできないような瞳でこちらに訴えてきた。

「お、おいお前助けろよ助けてよ!友達だろ、友達だったんだろ!?」

また、言霊だ。私に託される言葉が、死にゆく間際の存在から紡がれる。

死ぬわけにはいかなかった。既に、私は託されていたから。

けれど、死なせたくもなかったのだ。たとえ、それは自分が死なないためには避けられないものだとしても。

 

記憶がない私でも、仮初だったけれど――間桐慎二は友人と呼べる存在だったのだから。

 

でも、今の一言が、言霊でもあり、私たちの間にあった最後の仮初の友情を切り捨てる。

「そう、友達“だった”。仮想空間の、ただの役割だった……私にはそれ以外確かと呼べるものはないけれど、やっぱりそれも架空のもの」

彼に手を伸ばしたくても届かない。生と死の境界、仮想と現実の境界、勝者と敗者の境界、たった一つの壁なのに、私たちの間にはどうしようもない距離があった。

彼に出来る事が、私には何もない。謝ることもできない、今までを罵ることもできない。

 

助けることさえも、できないのだ。

 

「うそだ、嘘だウソだ、こんなはずじゃ……いやだ!たすけ、たすけてよお!!」

 

時間は残酷に、彼という命を削っていく。

 

 

「僕はまだ八歳なんだぞ!こんなところで、死にたくな――」

 

 

ひたすらに、残酷に、彼に最期の言葉も言いきらせることもなく、時間は事実として敗者の間桐慎二を消滅させ、勝者の私を強制送還させた。

 

***

 

ランサーは霊体化したまま、言葉もなく佇んでいる。私は数時間前にはいたはずの校舎をもう何年も前に見たような錯覚になって眺めていた。

記憶も願いもなく、ひたすらに足掻いた『生き残る』という目標を一歩達成したのだ。喜んでも良いじゃないか、勝者には凱旋を、宴を開く権利がある。そんな心を誤魔化す様な自分の甘えに気持ち悪くなって、ひたすらにうずくまった。

 

「その様子じゃ、まるで勝ったように見えないけど。貴女がいて、シンジがいないってことは負けて死んだのはあっちの方か」

 

そうして幾時間たったのか、不意にかけられた声に顔を上げると、そこにはいつもと変わらない遠坂凛が立っていた。いや、正確にはいつもと変わりがないわけではない。今の彼女は、明確にこちらへ敵意を、そして怒りをむけている。

「アジア屈指のゲームチャンプって聞いたけど、命のやり取りも真に受けてなかったし、遊び気分でこの聖杯戦争へ参加した奴の末路そのままだったのでしょうね。どう?みっともない死にざまだった?」

彼女の言葉に、擦り切れていたはずの心に怒りが着火する。

言い返そうと口を開きかけたけれど、彼女の眼差しがそれを許さない。

「何度でも言うけれど、此処は戦場なのよ。敗者に肩入れしてどうなるの」

その瞳は烈火の如く勝利への執念で燃えていた。睨まれるだけでも炎がこちらへ飛び火するような強い意志を秘めた瞳に、何も持たない私は射竦まれてしまう。

「聖杯戦争へ参加した者たちは、誰しもが願いを、望みをどんなことをしてでも叶えたい目的を持って参加しているのよ。どんなことってのには、もちろん命の奪い合いも含まれているわ」

「……」

「でも、その様子だと貴女はまだ記憶が戻ってないでしょ」

殺し合いに戸惑う自分を正確に見抜いた凛の指摘に頷くしかない。私の返答に僅かばかり呆れたように顔を逸らして息をついた彼女は、もういちどこちらへ視線を向けると、遥か先から見下ろすように私へ言い放つ。

「目的がなくとも、覚悟を持ちなさい。覚悟もなしに戦われちゃ、こっちとしても目障りなの」

「覚悟、なんて……私はただ、死にたくないだけだよ」

「死にたくない、だけじゃ弱い!それはどっちつかずの卑怯な逃げよ。死ぬ覚悟も、殺す気概もないのなら、世界の隅で縮こまっていなさい」

カチン、と彼女の言葉が私の琴線に触れる。

 

「弱くない……死にたくないことは、決して弱くない。それに敗者、死にゆく人たちに肩入れすることにだって意味はある。自己満足かもしれないけれど……死者の願い、敗者の想いが私は弱くても、立てと言うの。託された想いは私だけしか抱えられないもの……それを、無駄にする事だけは、許されないから、私は死にたくないの」

 

私の突然の反論に、凛は訝しげに眉を上げた。ここまで反論されるとでも思っていなかったらしい。真っ直ぐにこちらを見つめると、ふいに身を翻して去っていく。

「その言葉、ある種の覚悟。全てが口だけじゃないよう、行動で示しなさい」

そう言うと、彼女は転送術式を使って完全に私の視界から消え去った。

私以外に誰もいなくなった廊下、霊体化していたランサーが今になってようやくこちらへ話しかけてきた。

「彼女なりの叱咤だったんだろうね。マスターにはマスターの、彼女には彼女の譲れないものがあることは確かだ、それはいい。けれどね、彼女の言葉を全て否定することはできない。覚悟なくして、戦場は成り立たない」

同じく戦場を駆け抜ける存在であるランサーの言葉に、私は頷くしかなかった。

遠坂凛へ言い返したものの、結局は子供が大人の言い分に納得できないでわめきちらしたようなものだ。慎二の死によって心が揺らいでいた、なんて言い訳もできない。

――覚悟はあるのか。凛と同じ問いをした言峰綺礼が此処にいれば、きっと嘲笑で返しただろう。

ランサーの言う通り、私と彼女、どちらの主張も真実だ。その真実が理想に漂うのか、現実を支配しているのか、その僅かで決定的な差があるだけだ。

「兎も角、今は身体を休めよう。嫌が応にも戦いは続くからね、英気を養うのもまた務めだろう?」

「……うん、そうだね」

今は、休もう。決戦の時点で体はボロボロだった。なのに、圧し掛かる人の命を奪ったという事実が絶え間なく自分を責めたて、私を休ませようとしなかった。

 

「……ランサー、貴女の曲を聴かせて」

「うん、約束だったからね。聴かせてあげよう、マスターへ僅かばかりで申し訳ないけれど、安らぎを与える調べを」

 

彼女の言葉に、安堵した。ランサーの奏でる旋律ならば、私はきっと心を休ませることができるだろう。

 

 

***

 

こうして、私たちの戦争は始まった。これは記録だ、彼女と駆け抜けた7週間の物語。

 

 

計測され、観測された、7週間の物語。

 

 

***

 




自由に動かそうとすればするほど、なんでライダーに勝てたのか不思議でなりません。主人公補正すごい。

今回の改変点は以下の通りです
・この物語での「姐さんの華麗な略奪」のスキル内容は「攻撃の際、一定確率で他者の所有物の支配権を略奪する」です。アリーナ内での戦闘ではランサーを通じてザビ側の所持金の支配権を略奪、決戦時はライダーたちの入り口からすぐに船を攻撃したことで(星の開拓者スキル併用で)ムーンセル側から船の所有権を略奪、騎乗スキルをもってして操作している……という設定です。
・攻撃用のコードキャストによって破壊可能オブジェクトは破壊できる。
・ライダーはフランシス・ドレイクをベースに嵐の王、そしてエリザベス女王の側面も持っている。(どうもカトリックぽい聖堂教会とプロテスタント推進派だった彼女と相いれられるのかはさておき)

設定不備等があればご指摘下さい。
pixiv様では二回戦すっとばしてる最中なので、次回更新はかなり遅れそうです……。二回戦すっとばさないほうがやっぱりいいかな…
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。