ロクでなし魔術講師と二人の叛逆者   作:影龍 零

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どうも、影龍 零です。

前回言った通り、二巻は今回で終わりです。

これを書いている時、文豪ストレイドックスの黒の時代を連想していました。
見た人や知っている人は多分わかると思います。


ではどうぞ


事件解決とその後

「ば、馬鹿な!?貴様等は今、街中にいるはず────」

 

「【セルフ・イリュージョン】で俺の仲間とすり替わったんだよ。こんな簡単な手に引っかかるなんて、部下の再教育した方がいいんじゃねーの?」

 

「くっ!親衛隊!賊共を早く捕らえろ!」

 

親衛隊隊長であるゼーロスがそう叫ぶと、我先にと親衛隊が殺到してくる。

 

「───《すっこんでろ》」

 

そうセリカが言った瞬間、無数の光がドーム状になり、親衛隊を次々と弾き飛ばす。

締め出された親衛隊はドンドンとドームを叩きながら何かを言っているが、グレン達の方には届かない。

どうやら音も遮断する断絶結界らしい。

グレンがセリカを見ると、セリカはニヤリと笑い左手を突き出した。

そこには光で構築された五芒星法陣が浮かび、鈴鳴りのような音を出しながら駆動している───

 

 

 

 

□□□□

 

 

 

 

(やっぱり・・・・・・)

 

(さっすがノラだな~)

 

 

周囲の誰もが目の前で繰り広げられている光景に困惑と混乱が隠せない中、タクスとシスティーナはこの展開を予測していたようだった。

 

黒魔【セルフ・イリュージョン】は変身したように見せかける幻影を見せる魔術。

それによって声と姿を変え接触してきたグレンとルミアが頑なに正体を隠して接してきたことで、ルミアの素性を知るシスティーナとノラから作戦を聞いたタクスは異常事態が起きていると容易に想像出来た。

 

(それに・・・・私があの子の手を間違える筈が無い・・・・・・)

 

リィエルに変身していたルミアがシスティーナの手を握った瞬間、彼女はその想像に確信を得たのだ。

そして、彼女は『助けて』でもなく、『関わるな』でもなく、ただ『信じて』と言ったのだ。

ならば、『信じる』。

それが彼女の親友を自負する自分の友情の形だった。

しかし、ここである一つの疑問が新たに浮上する。

 

 

(そういえば、セラ先生とノラはどこに行ったんだろう・・・・・・?)

 

そう、どこを見てもセラとノラの姿が見当たらないのだ。

彼らは髪色が特徴的なので、ちょっと見渡せばすぐに気づく。

 

タクスの方を見ると、意味有りげな笑みを浮かべていた。

システィーナはそれに疑問を隠せなかったが、それをさて置いて、結界の向こう側にいる二人を遠巻きに眺めていた。

 

 

 

 

 

□□□□

 

 

 

 

 

「セリカ殿・・・・貴様、この期に及んで裏切るつもりか!?」

 

ゼーロスが結界を忌々しそうに見ながらセリカに吠えかかる。

当のセリカは飄々とした態度で沈黙を貫いている。

 

「くそっ・・・なんてことだ・・・・・・」

 

ゼーロスは憤怒と焦燥をない交ぜにしながら歯噛みしていたが、すぐにその表情が変わった。

ゼーロスの後ろには、親衛隊の装備を纏った部下が二人、結界の中にいたのだ。

しかし、グレンとルミアの表情には一切の変化が無い、いや、グレンは何かを確信したような笑みだった。

 

 

「よしっ!早くその賊共を討ち取れ!そうしなければ陛下が──────」

 

 

ゼーロスは後ろを振り向かずに二人の兵士に指示を飛ばし、自らも剣を抜こうとしたが、すぐにそれが叶わなくなった。

 

二人の兵士の内一人が凄まじい速さで自分に近寄り、自分の首元にトランプのようなカードを突きつけてきたからだ。

 

 

「なっ・・・何をするのだ貴様ッ!?自分のしていることが────」

 

「動くと切るぞ?」

 

その言葉通り、少しカードがゼーロスの首に食い込んだ。

もう一人の兵士とはいうと、ゼーロスには目もくれずに女王陛下へと近寄り─────

 

 

 

「陛下、ちょっと失礼しますね?」

 

 

兵士二人の周囲がグニャリと曲がり、ゼーロスにカードを突きつけていた兵士がノラの姿に、アリシアに近づいていた兵士がセラの姿へと変わった。

 

「え・・・?ノラとセラ・・・・・・?」

 

二人の登場に更に困惑するアリシアを横目にセラはアリシアの背後に周り────

 

 

アリシアの首に着いていたネックレスを外した。

 

「な、貴様!何てことを───────────ッ!?」

 

ゼーロスが絶叫する。

 

 

・・・・・・しかし、何も変化らしき変化は起きない。

ノラは頃合いとばかりにゼーロスに突きつけていたカードを放す。

解放されたゼーロスはアリシアの方に駆け寄る。

 

「陛下!御無事ですか!?」

 

「・・・はい、大丈夫ですよ」

 

アリシアは微笑みと共にゼーロスへ返事をする。

 

「私はもう大丈夫。・・・大丈夫ですから。だから・・・もういいんです」

 

呆気にとられるゼーロスをよそに、セラは翠緑のネックレスを見やりながらセリカに問う。

 

 

「条件起動型の呪い(カース)・・・このネックレスは呪殺具だったんですね?」

 

にっと口の端を上げるセリカ。

 

「とある条件が成立すると発動する・・・これは魔術史上で最も使われてきた手。多分だけど、起動条件は『勝手に装備を外す』、『装備してから一定時間経過する』、『呪い(カース)の情報を新しい第三者に開示する』の三つで解呪条件は・・・『ルミアちゃんの殺害』」

 

それをグレンが引き継ぎ、続ける。

 

「つまり、ルミアを狙う何者かが、陛下の命を人質に仕組んだ事件だったということだ。どうだ?当たらずとも遠からずってとこだろ?」

 

呪い(カース)の条件に多少差異があるが・・・ふむ、大方そんなとこだ。ご名答」

 

ようやく言葉を発したセリカが、くっくと含み笑いを浮かべる。

 

「ところでオッサン、まーだ状況飲み込めてないみたいだけど?」

 

グレンのいう通り、ゼーロスは未だ困惑気味だ。

 

「貴様・・・一体、何をした・・・・・・?なぜ、呪い(カース)が発動しなかった・・・・・・?」

 

グレンはその問いに、右手に持った一枚のカードを見せて答えた。

 

「・・・アルカナ・・・・・・?・・・・『愚者』の・・・・・・?」

 

「こいつは俺特製の魔導器。愚者の絵柄に変換した魔術式を読み取ることで、俺は俺を中心とした一定範囲の魔術起動を完全封殺出来る」

 

「魔術の起動を封殺・・・・・・?」

 

そこでゼーロスは何かに気づいたように目を見開き、真っ直ぐグレンを見つめる。

 

「う、噂で聞いたことがある・・・宮廷魔導士団の・・・まさか、貴公があの・・・・・」

 

「さぁな?俺には何のことかサッパリ?」

 

グレンはゼーロスに背を向け、困ったように頭をかく。

そこには結界から締め出された観客や生徒、騎士達が困惑からどよめいている姿があった。

 

「さぁて、どう説明すっかね・・・収集つくんか?これ」

 

事後処理の方法に、グレンは頭を悩ませられることとなったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

□□□□

 

 

 

 

 

 

 

ほぼ同時刻の南地区裏道にて、ひっそりと人影が歩いていた。

 

「まさか、失敗するとは思いませんでしたわ・・・・・・」

 

その言葉とは裏腹にどこか楽しそうな口調。

 

「せっかく女王陛下を人質にセリカ=アルフォネアという規格外の動きを封じたというのに・・・流石は第7階梯(セプテンデ)、なかなかの狸ですわね。それにグレン=レーダスにセラ=シルヴァース・・・まったく、とんだジョーカーがいたものですわ」

 

くつくつ楽しそうに笑いながら歩いていた女が、ふと足を止める。

 

「なるほど・・・どうやら帝国もボンクラばかりでは無いようですね・・・・・・」

 

いつの間にか、女の前方に二人、後方に二人、人影が現れていた。

 

「・・・俺達に与えられた任務は二つ。一つは最近、過激な動向が目立つ王室親衛隊の監視。そしてもう一つは・・・女王陛下側近の内偵調査」

 

前方の二人の片割れが淡々と告げる。

 

「最近、俺達の行動がどうも読まれているように思えた。まさか一番可能性が低いと思われていた貴女だったとはな。女王陛下付き侍女長兼秘書官・・・いや、天の智恵研究会の外道魔術師、エレノア=シャーレット」

 

その瞬間、辺りが更に暗くなる。

 

「おかしいと思ったわ、何せあまりにも(・・・・・)経歴が(・・・)綺麗すぎる(・・・・・・)んだもの。

アルベルトさんと遠見の魔術で見たら、親衛隊が暴走したのは貴女がゼーロスとセリカに接触してからだったし。あまりにも辻褄が合う」

 

後方の二人の内、所々紅色の髪が混じった青髪の少女が続け、エレノアを睨みつける。

 

「そんなに睨まないでくださいません?執行官ナンバー8、『剛毅』のエルシア=インフォードさん?」

 

そう言われた少女───エルシアは尚も睨み続ける。

アルベルトはエルシアを横目に見ながらエレノアに問いかける。

 

「答えろ、天の智恵研究会。貴様等の目的は一体、何だ?ルミアが本当にエルミアナ王女だと言うなら・・・・以前の学院襲撃事件、そして今回の騒動・・・・・常に事件の中心に王女がいることになる。しかも以前は誘拐、今回は殺害と一貫性が無い。一体、何を企んでいる?」

 

「・・・・・・『禁忌教典(アカシックレコード)』、そのための王女とでも言っておきましょうか」

 

「なんだその厨二臭い名前?考えた奴の気が知れるね」

 

陶酔したように語るエレノアに水を差すようなセリフを吐くタクス。

彼は何となく事件の裏を読み、会場をこっそりと抜け出して三人と合流したのだ。

 

「あらあら・・・これは『叛逆者』のタクス様ではありませんの。貴方までいるとは流石に分が悪いですわね・・・・・・ここは一つ、逃げの一手を打たせて貰いますわ」

 

するとアルベルトの隣に佇んでいたリィエルが、もう我慢ならんとばかりに大剣を振りかぶる。

 

「逃がさない、斬る!」

 

凄まじい速さでエレノアに突貫し、背後からエリシアも同様に突貫する。

アルベルトとタクスは、何らかの呪文を唱え始めた。

エレノアも舞うような身振りで呪文を唱え──────

 

人知れずの裏道で、魔術の衝突が起きた。

 

 

 

 

 

 

 

 

□□□□

 

 

 

 

 

 

 

 

少し時が流れ、外はもう太陽が沈みかけ、空は暗くなっている。

そんなフェジテの道をノラ、ルミアの二人が歩いていた。

グレンがハーレイとの賭けに勝ち、加えて特別賞与を貰ったことで調子に乗り、打ち上げをやろうということになったため、その店に向かっているのだ。

 

「いや~、グレン兄も太っ腹になったもんだな」

 

「あはは、それに事件も丸く収まったし良かったね」

 

事件の結果はゼーロスの懲戒処分のみとなり、それも陛下を守るためだったため情状酌量の余地があるとのこと。

また、黒幕が侍女長兼秘書官のエレノアだったことがグレン、セラ、ノラに伝えられた。

アルベルト、リィエル、エリシア、タクスが追ったのだが逃げられてしまったとのこと。

グレンとセラも緊急の職員会議に駆り出されたりとなかなかに慌ただしく時間が過ぎていった。

 

「そういえばルミア、あの後陛下と話したのか?」

 

思い出したようにノラが言う。

 

 

「・・・・うん、お母さん(・・・・)といろんなことが話せたよ。これも全部、先生やノラ君達のお陰だよ」

 

「そうかい?俺らは単に仕事をやっただけなんだけど」

 

「そんなこと無いよ。ノラ君達はあの時も私を助けてくれた────」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

□□□□

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

幼い頃の私には、母親が私の世界の全てだった。

だから母親に捨てられた私は、世界の全てに嫌われた、そんな風にさえ思った。

 

「お母さん・・・やだよ・・・いい子にする・・・・いい子にするから・・・・・だから・・・捨てないで・・・・・・嫌いにならないで・・・・・・・」

 

恐る恐る周囲を見渡し、誰か私の味方になってくれる人を探す。

だけど私の目に飛び込んできたのは─────

 

 

「ひぃ──ッ!?」

 

 

死体だった。

血まみれになった、私を攫った悪い魔法使いの人達の死体だった。

きっと自分もこの人達みたいに殺される、世界にそう言われてるようで怖かった。

 

「ぁ、あ、あ、あぁぁぁ───!?」

 

怖い、怖い、怖い。

感情が振り切れる。

母親に捨てられたことも、攫われた恐怖も、死体の気持ち悪さも。

 

「もう嫌ッ!なんで、どうして私ばっかりこんな目に!?」

 

私は一人で泣き叫んでいた。

すると突然、私の身体が誰かに持ち上げられた。

そしてその人は私を抱えたまま、草むらのような場所に身を隠した。

紫色の髪、蒼の瞳、紺色の外套、そんな格好の人が暗く冷え切った目で私を見ていた。

 

その人は私を攫った悪い魔法使い達を殺した四人の内の一人だった。

その人の周りにいた悪い魔法使い達は皆、次々と足の力が抜けたように倒れ、一方的に怖い魔法で殺されていった。

 

そのときに私は悟った、ああ、次は私が殺される番なんだ。

 

 

「い、いやぁぁああああッ!?やだ、助けて!?誰か助けて!?」

 

「ちょっとストップ、俺らは味方だ。そんな大声だすな」

 

「嘘ッ!私に味方なんているわけないもん!この世界で私に味方してくれる人なんているわけない!お母さんだって、お母さんだって私を見捨てたのに───むぐッ!?」

 

その人は咄嗟に私の口を塞ぎ、茂みの中に身を伏せ、私も一緒に伏せられた。

私はジタバタともがいたけど、上から押さえつけられていたのでビクともしない。

 

「頼むから騒がないでくれ。まだ敵がいるかもしれないから、グレン兄達がくるまで待ってくれ」

 

真摯に見つめてくるその人に、私は少しずつ落ち着きを取り戻していった。

でもまだ恐怖が消えたわけではなく、震えていた。

それを察知したのか、その人は口を開いた。

 

 

 

 

「怖いのは十分わかった、だけどもう少しだけ我慢してくれ。そうしてくれたら、俺はお前の味方になってやる。約束だ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

□□□□

 

 

 

 

 

 

 

 

「あの時の約束で、あの時の私は救われたんだ」

 

「・・・・・俺は単に任務の支障を考えただけなんだけど」

 

「ふふっ、ズルいなぁノラ君は」

 

「生憎、ずる賢さには自信があるもんでね」

 

ノラのそんな言葉にも、ルミアはただ笑って返す。

そうこうしている内に打ち上げをしている店に着いた。

 

「おーおー、賑やかなことだなぁ」

 

ノラがクラスメートの張っちゃ気振りに感心していると、グレンが肩を落としているのが見えた。

それをセラが慰めている。

ノラは近くに転がっていたボトルを拾い、眺める。

どうやら、リュ=サフィーレという貴族御用達のとても高いワインを誰かが飲んでしまったらしい。

本数を数えていると、タクスが近づいてきた。

 

「あー、ノラ。このワインの合計代金がグレン兄の給料と特別賞与をパーにするレベルだから落ち込んでるんだよ」

 

「・・・誰かが葡萄ジュースと思って呑んだのか?」

 

「そうらし─────」

 

「先生~~ッ!」

 

「うぉ!?」

 

誰かがグレンに抱きついたらしい。

ノラとタクスが視線を向けると、顔が赤くなりふらついた足取りのシスティーナがグレンに抱きついていた。

 

「わらし~、今日ぉ~、先生ぇのこと見直しちゃった~ッ」

 

「おい!止めろ白猫!つーか酒臭い!犯人お前か!?」

 

「先生が~、思った以上にぃ~、わらしたちのこと見てくれててぇ~、またルミアのことぉ~、助けてくれたみたいでぇ~」

 

だいぶ出来上がっている。

 

「・・・・・・ねぇ?グレン君?」

 

「ちょ、ちょっと助けて白犬・・・・・・」

 

助けを求めてグレンがセラを見ると、セラは一見惚れてしまうような、しかしこめかみに青筋を立て目がまったく笑っていない笑顔を浮かべていた。

 

「あ、あの・・・セラさん?ちょっと助けて頂いても・・・・・・」

 

「アトデオセッキョウダカラネ?ニゲチャダメダヨ?」

 

「ひぃぃぃぃ──────ッ!?」

 

 

セラの圧倒的な威圧感の前に、グレンはすっかり縮こまってしまった。

 

そしてシスティーナはグレンの元を離れ─────

 

 

「タクス~~~ッ!」

 

ノラの近くにいたタクスに抱きついてきた。

 

「えっ!?ちょ、システィーナ!?」

 

「むぅぅ~~ッ!システィーナじゃやだ!システィって呼んで!」

 

タクスが驚いていると、システィーナが駄々をこね始めた。

 

「・・・はい?何故いきなりそんなことを?」

 

「うぅぅ~~・・・タクスはわらしのことシスティって呼んでくれないの?」

 

ウルウルと涙目+上目遣いで見てくるシスティーナにタクスは「うっ・・・」と言葉を詰まらせる。

ノラは知らん顔で料理を食べ始め、男子達は嫉妬と殺意の視線を籠めていた。

 

「・・・・・あ~、わかったよ・・・・・・システィ?」

 

「うふふ~~ッ、タクスがシスティって呼んでくれた~~~!」

 

システィーナは顔をスリスリとタクスにこすりつける。

タクスは諦めたように溜め息を着いた。

 

「タクスのお陰でぇ~~・・・わらし頑張れたんだよぉ~~?・・・わらしって偉いぃ~?」

 

「あ~ハイハイ、偉いですよ偉い」

 

タクスは適当に返事をすることにした。

 

「うふふ!私偉い!タクスにぃ・・・・・私をぉ~~・・・・娶る権利をあげるわぁ・・・・・・」

 

「・・・・・・はい?今、なんと?」

 

「もう~・・・恥ずかしいこと言わせないでよぉ~~、もう!バカ!あははははははははッ!」

 

ドン、とタクスを突き飛ばそうとして、その勢いで逆にシスティーナが体勢を崩す。

 

「おっと危ない」

 

タクスは咄嗟にシスティーナの手を握り、自分の方に引き寄せた。

周りの女子からは黄色い声があがり、男子からはより一層嫉妬と殺意が向けられた。

システィーナは引き寄せられた勢いのまま再度タクスに抱きつき、気持ちよさそうにしている。

 

(システィがマジの猫に見える・・・・・)

 

タクスにはシスティーナに猫耳と尻尾が生えている幻覚さえ見えた。

このまま放置しても仕方ないので、タクスはルミアと相談し、彼女の面倒を見ることにした。

そのときルミアが暖かい目で二人を見ていたが、タクスは気づいていない。

 

 

 

 

 

 

 

 

□□□□

 

 

 

 

 

 

 

 

こちらはグレンとセラ。

現在グレンはやけ酒を呑んでいる。

 

「クッソ・・・白猫のお陰で俺の今日の成果が全部パーだぜチクショウ・・・・・・」

 

「まぁまぁグレン君、今回は私が半分払ってあげるから。元気だして?」

 

「くッ・・・セラ、俺には今お前が天使に見えるぜ・・・・・・!」

 

「お、大げさだなぁ~~」

 

そう言いつつも、セラはまんざらでも無い様子だ。

セラはグレンの隣に座り、グレンのやけ酒に付き合うことにした。

 

「どう?そのお酒美味しい?」

 

「・・・不味い」

 

ふてくされたグレンの様子にセラは苦笑いで応じる。

グレンの空けている酒は言うほど不味くは無い一品なのだが、気分的な問題なのだろう。

 

「ちょっと私も飲んでいい?味に興味あるんだ」

 

「・・・いいぞ、ほれ」

 

グレンは店のマスターが追加でだしてくれた空のグラスに酒を注ぎ、セラへと渡す。

 

「・・・懐かしいね。宮廷魔導士時代に仕事終わり、よくこうやって皆で飲んでいたよね」

 

「・・・ああ、そうだな。あん時は俺もまだ酒に慣れてなくて大変だったぜ」

 

グラスを持ちながら昔の思い出に浸る二人。

ゆったりとした時間が二人の間に流れていく。

 

「ねぇグレン君、乾杯でもしない?」

 

「いいぜ。それじゃあ───」

 

 

 

「魔術競技祭優勝と、」

 

「講師への正式着任に、」

 

 

 

「「乾杯」」

 

 

二人はチリン、と静かにグラスを打ち合わせた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

□□□□

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ノラとルミアは二人でカウンターに座り、ノラはコーヒー、ルミアは紅茶を飲んでいた。

 

「今日はありがとう、ノラ君」

 

「何が?俺特に感謝されるようなことした覚え無いぞ?」

 

すっとぼけたように言うノラだが、ルミアは笑みを崩さない。

ノラはカップを持ち、コーヒーを飲む。

 

 

「あの時は女王陛下、お前の母親に泣いて頼まれたんだよ────」

 

 

 

 

 

───『娘を助けてください。私がこんなことを言える立場ではないのはわかっています。貴方達にこんな危険な役を押しつけるではないこともわかっています。それでも、娘を助けてください』────

 

 

 

「俺らはそれを遂行しただけ。ただそれだけだ」

 

「それでも」

 

ルミアは思い出したように言うノラの横顔を見つめて、言った。

 

「あの時の約束で、私は救われた。そして今回も───」

 

ノラは何も返さない。

 

 

 

やがて、ルミアはそっと身を寄せ、ノラの肩に自分の頭を乗せた。

 

 

「どうした、ルミア?」

 

カップを置き、寄りかかってくるルミアをノラは不思議そうに見つめる。

 

「今夜だけ」

 

ぽつり、と。

静かに目を閉じたルミアが、囁くように言った。

 

「今夜だけ・・・こうして、甘えさせて・・・・ノラ君・・・・・・」

 

「・・・・・・了解」

 

 

揺れるランプの炎が二人に流れる時間を、より一層安らかなものにしていた。

 

 

こうして、静かな夜は、緩やかにふけていった─────




後半は甘い感じにしようと努力してみたところ、結果的に長くなりました。
次回から三巻、四巻に入ります。

因みに今回出てきたエリシア=インフォードはオリキャラではありません。
誰なのか、三巻四巻で徐々にわかると思います。
原作読んでいる方はなんとなく察しがつくと思いますが。


ではまた
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