ロクでなし魔術講師と二人の叛逆者   作:影龍 零

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どうも、影龍 零です。、

この小説のUAが一万を突破しました!
こんな駄文を読んでくれる読者には感謝しかありません。
投稿ペースは不定期ですが、これからも頑張るぞ!

ではどうぞ


遠征と過去

私は未だに夢を見る…

 

それはあの日、忘れたくても忘れられないあの日。

私達兄妹の運命が分かれたあの日___________

 

 

 

 

 

□□□□

 

 

 

 

 

「兄さん、後少しだから……もう少しで、救助が来るから…だから…頑張って……」

 

あの日、私は兄と共に逃げていた。

吐息さえ凍り、骨から凍てつく極寒の凍気。

生命の存在を否定する氷点下の世界。

樹木の梢も、下生えも、地肌さえ純白に染まった、冷酷なまでに美しい白銀の世界。

 

「□□□□……僕はもう、いい…君だけでも、逃げてくれ……」

 

「そんなこと、言わないでよ…!約束したじゃない…二人で静かな場所で、暮らそう…って…!」

 

血を流し続ける兄に肩を貸しながら、ひたすら前に進む。

__私は、ある組織の『掃除屋』、所謂暗殺者だった。

身寄りのない私達を引き取り、都合のいいように利用してきた。

組織にとって邪魔になる人物をひたすらに屠る日々。

訓練と称して殺し合い、友人を切り捨てたことも数え切れない程ある。

私はその日々を過ごす中、段々と自分が自分じゃなくなるのではという恐怖に陥った。

そこで私達は、もう一人と共に帝国への亡命を計画、軍との連絡を取り脱出を図ろうとした。

 

 

だが、そのもう一人が土壇場で裏切り、組織にそのことをバラした。

そいつの攻撃から私を庇って兄は致命傷を負った。

私は強制的に積み上げらされた暗殺技術を使い、兄を連れて逃げ出した。

途中追っ手との戦闘になったがなんとか振り切り、今に至る。

 

 

「大丈夫、大丈夫だから…帝国軍の人達が向かっている筈だから…そうすれば、兄さんの傷も…きっと……」

 

懸命に兄に話しかけ、元気付けようとするが、兄は荒く浅い呼吸を続けるだけ。

_____薄々気づいていた。

恐らく兄も察しているのだろう。

例え帝国に亡命出来ても、もう自分は助からない、と。

 

更に、複数の足音が聞こえる。

弾かれるように振り返ると、同じ『掃除屋』…組織の飼い犬たちが迫ってきていた。

 

「嘘…まだあんなに追っ手が……ッ!?」

 

すぐに剣を錬成して対抗しようと屈んだその時だった。

 

「《傾け大地よ》…《縛れ銀腕》…」

 

兄が何かしらの呪文を口にし、私が立っていた地面の表面が滑らかになって傾いた。

これなら滑って撒ける、その思いを私は抱いた。

 

でも兄は違ったんだ。

逃げる人に自分を含めていなかった。

 

地面に触れようとしていた私の両腕を、鉄製のロープが縛りつけた。

狼狽えたその一瞬を兄は逃さなかった。

 

「きゃッ!?」

 

兄は思い切り私の背中を押して私を転ばせた。

慌てて振り返ると、追っ手の方を向いて立っている兄の姿があった。

 

「□□□□……君は、僕が守る…だから…ここで、お別れ、だよ…」

 

何を言ってるのか。

どうしてそんな顔をしているのか。

 

 

「...え、い、いや...」

 

 

そう考える間にも、私の体は坂道にそってどんどん滑っていく。

言葉を理解した時、私は絶叫した。

 

 

「……いやぁぁぁぁぁッ!!!!?嫌!嫌だよ!兄さん!待って!兄さん!!」

 

私が叫んでも、兄はそこを動こうとしない。

最期に兄さんは私に微笑んで、前を向き直す。

止まろうとしてもそれまでの疲労が一気に押し寄せ、上手く身体が動かない。

 

 

 

そして追っ手の刃が兄を捉え______________

 

 

 

□□□□

 

 

 

「ウェェェエエエエ〜〜〜……」

 

現在二組は船の上。

学院恒例行事の一つである、『遠征学修』に向かう最中だ。

二年次生には必修単位の一つで、研究所に実際に赴いて魔術研究に関する講義を受けることを目的としたものだが_________講義と研究所見学以外は自由時間も多く、『旅行』の性質も少なからず含んでいる。

 

グレン達のクラスの遠征先は『白金魔導研究所』。

サイネリアという人気のリゾート地の山奥にあるため、一旦船でサイネリアに向かい一泊した後、徒歩で向かうことになっているのだが……激しい船酔いを起こしたグレンによって折角の景色が台無し寸前だ。

 

「ハァ〜…グレン君、ちゃんと船酔いの対策はしないと!はい、セリカさんに貰った薬」

 

「す、すまねぇ白犬……つか人間は地を歩くもんだろ……?こんな海の上で漂う事自体間違ってんだろ………」

 

セラに肩を貸してもらい、いそいそと部屋へと入っていく。

教師どころか年上の威厳さえカケラ程も無い後ろ姿は、流石の生徒達も哀れみの視線を送った。

 

「先生なんだからもっと模範になるような振る舞いってものがあるでしょ……」

 

「これは先生もどうしようも無いんじゃないかな〜……」

 

呆れた様子を隠そうともしないシスティーナに苦笑しながらもフォローするルミアだが、最後の部分は自信無さげに呟いている。

クラスメイトは誰一人として船酔いがいないせいか、グレンはさらに哀れな視線を被っている。

最もセラに介抱されながらグッタリと寝ている本人からは応答がない。

目元に何か輝くものがあったが気のせいだろう。きっと。

 

 

そんな義兄の姿を義弟達はというと……

 

「ここにナイトを」

 

「…ここにルーク」

 

「じゃあここにポーンを…」

 

「……ではクイーンをここに」

 

目もくれずに持ってきたチェスに夢中だった。

戦局はノラが若干のリードを保っている。

タクスは防戦しつつ隙を狙っている状態だ。

 

「ちょっと、先生は貴方達の義兄なんでしょ?心配とかしないの?」

 

「ん?グレン兄は大丈夫だろ、船酔いくらい。…あ、ここにビショップ」

 

「……ビショップをここに」

 

「あの姿を見てそう思う貴方達もよっぽどね」

 

システィーナがちらりと目線を向けると、グッタリと寝ている状態のノラがいた。

実を言うとタクスは船酔いなどには滅法強く、逆にノラは滅法弱い。

特にノラはグレンがダウンするより前にダウンしている。

本人曰く、『昔セリカに酒を飲まされてダウンした時に似ている感覚』とのこと。

 

「……水をくれ。少し不味い」

 

「じゃあ私持ってくるね」

 

ルミアが水を取りに部屋を出て行ったすれ違いにリィエルがやってきた。

だが、どうにもおかしい。

具体的に言うと、何か大きな容器を担いでいる。

 

「…質問してもいいか、リィエル」

 

「ん」

 

「……その担いでいるものは何だ」

 

「…これは水」

 

その言葉を聞いたノラはどうにかして身体を起こそうとするが、酷い船酔いで全く力が入らない。

 

「…ノラ、飲んで」

 

「……出来るなら、遠慮したいんだが…」

 

「…じゃあ、飲ませる」

 

「おいやめろ人には限界というものがあってそんな量の水を飲むなんてことはできむぐぅぉ!?」

 

問答無用と言わんばかりに注ぎ口を突っ込む。

容器内の水が滝のように流れ込むのをノラは必死に飲み込んでいくが、どう足掻いても流れ込む方が速い。

 

「ちょ、ちょっとリィエル!?このままだとノラが溺れる!」

 

「…?でも水を欲しがってた」

 

「誰もそんな量頼むわけねーだろ!?えぇい、システィ!止めるぞ!」

 

「わ、わかったわ!」

 

いくらなんでも死因が「水の飲み過ぎで溺れた」とかなったらシャレにならない。

容器を突っ込んでいるリィエルを羽交い締めにしている間に、システィーナが容器を引っこ抜くと、ノラが水でパンパンに膨らんだ頰をなんとか保っている。

飲み込もうにも動いたら溢れ出そうな程だ。

 

「…どうするの?それ」

 

(少しずつなんとかして飲む)←手話

 

手話で伝えた後、慎重に喉を馴らしながら飲み込んでいく。

この時手を口に当て零れないように必死で押さえていたことをここに記しておく。

 

 

 

 

□□□□

 

 

 

 

なんやかんやあってサイネリア島にやっとの事で到着した二組(因みにあの後ルミアが戻ってきたのだが、巨大な容器に入った飲みかけと思われる水と息が荒いノラを見て事情を察し、リィエルに優しく注意していた。肝が据わっているルミアに改めて驚かされた三人だった。)。

 

だがグレンはまだ気分が悪いらしく、少し離れた場所で潮風に当たっていた。

そのお陰かは定かではないが、真っ青だった顔色もだいぶ良くなっていた。

 

 

「全く、あの揺れさえなきゃいいのに・・・造るなら完璧を目指せよ・・・それが職人魂ってもんじゃねーのか・・・?」

 

相も変わらず軽口は減らない、聞いた職人は拳を握りしめること請け合いだ。

ふと視線を海に戻すと、心地よい風と共にさざ波の音が聞こえ、視界に澄み渡ったコバルトブルーの海面が広がってくる。

穢れが一切見当たらないその光景に、グレンも少しばかり目を見開く。

 

(資料とかで見てはいたが・・まぁすげぇ綺麗なこった)

 

 

「おーい、グレン君~~」

 

名を呼ばれたので振り返ってみると、セラが誰かを連れてこちらに来ていた。

 

藍色がかった長い黒髪を後ろでひっつめ、目元に色付きメガネ、シルクハットにステッキといった如何にもな軟派師の青年と、同じ色で長い髪を後ろで綺麗にくくり、耳に銀色のイヤリング、手袋にバッグとお淑やかさを漂わせる少女が後ろをついてきていた。

 

 

「おやおや~、兄ちゃんがこのお姉さんが言ってた人~~?」

 

「兄さん、そういうのいいから」

 

「おぉう、妹はやっぱり堅物だねぇ・・・」

 

軽薄な態度で話しかけてくる青年を少女がバッサリと切り捨てる。

目の前で繰り広げられるやり取りを見て、グレンはセラが何故連れてきたのか理解し、ため息。

 

 

「あ!なんだよそのため息!酷いだろ!」

 

「それはもういいっつーの。・・・なんか用か?アルベルト(・・・・・)エルシア(・・・・)

 

「「・・・・・・」」

 

すると、今までの雰囲気が一変。

二人は自然と背筋を伸ばし、シルクハットや色眼鏡、カツラを捨て、くくっていた髪をほどく。

場の空気が、数度下がった感覚に陥り、鷹のような鋭い怜悧な双眸と、物静かだがどこか遠くを眺める双眸がグレンとセラを射抜く。

 

帝国宮廷魔導士団時代の戦友、特務分室執行者ナンバー17、『星』のアルベルト、執行者ナンバー8、『剛毅』のエルシアその人だった。

 

「・・・久しいな、グレン、セラ。先の魔術競技祭───────王室親衛隊暴走の一件以来か」

 

「私はタクスとしか会ってないから久しぶりですね、元気そうでなによりです」

 

相変わらずアルベルトの口調は他者を強烈に拒絶するような凄みだ。

対してエルシアは旧友との再会を喜んでいる。

対照的な口調の二人には、慣れない者は反応に困るだろう。

だが──────

 

「・・・・どうした?」

 

「・・・いや、任務となるなら社交界の紳士から軽薄な軟派師、町の札付きチンピラまで完璧に演じ切るお前と、お前がその術を直々に叩き込んだのがエルシアだとは知っていたが・・・」

 

「何というか・・・改めて見ると、演技と素でこんなに違うんだなぁって思って・・・・」

 

「ふん。惰弱な。精神修行が足りん」

 

「そうですよ。グレンさんもセラさんもずっと見てきたんですし、今更です」

 

アルベルトとエルシアは、二人の言葉を切って捨てた。

その気になれば役者として十二分に食っていける術だが、今はそのことを問い詰める時ではない。

 

 

「・・・で?俺らに何の用だ?ノラとタクスから手紙で任務内容は把握してるぞ。わざわざ接触しに来た理由は?」

 

グレンの問いに、アルベルトは暫し重苦しい沈黙を保ち・・・・

 

「・・・あの手紙でも言ったが、リィエルには気を付けろ」

 

「・・・はぁ?」

 

確かに手紙にもそう書かれていたが、グレンには何を意味しているのかまるでわからなかった。

だが、彼女は違ったらしい。

 

「・・・・アルベルト君。それってあの時のこと(・・・・・・)?」

 

セラの言葉に無言の肯定を示す。

その様子にグレンは少しばかり眉を吊り上げた。

 

 

「・・・・・・それはもう昔のことだぜ、アルベルト。今のリィエルは、リィエルだ。何人もの外道魔術師を屠ってきた、特務分室エースの一人。それ以外の何者でも—————」

 

「そう思い込みたいだけなのではないか?言っておくが—―――――俺は今でも、あいつを処分するか、封印すべきだと思っている」

 

「・・・おい、いくらお前でもそれ以上言ったらただじゃおかねぇぞ?」

 

危険な雰囲気を孕んだ言葉に、周囲の空気が凍りつく。

暫くグレンとアルベルトの間で、苛烈な視線がぶつかり合う。

 

「二人とも、エルシアちゃんの前でそれは止めないと。あの時を今蒸し返してもどうしようもない、そうでしょ?」

 

凛としたセラの声に振り返ると、エルシアがどこか悔やむように顔を俯かせていた。

 

「・・・ふん、相変わらず甘いな」

 

永遠に思える数秒の後、先に折れたのはアルベルトだった。

 

「警告はしたぞ。あとはお前が、いざという時の判断を誤らないよう祈るだけだ」

 

「ごめんなさい、二人とも・・・私を気にしてくれて」

 

そうした後、地面に捨てていた小道具を身に着け—―――――――

 

「それじゃ、兄ちゃん姉ちゃん!あ~ばよっ!」

 

「それでは失礼致します」

 

「・・・・・うん、見事すぎる演技。呆れを通り越して尊敬するわ」

 

「あはは・・・またね?」

 

 

二人の完璧な演技に、二人とも眩暈がしたのだった。




アサシンズプライドとFGOのアニメがスタートしましたが、どちらも神アニメだと確信。
デートアライブの再放送もBSでやっていたので満足、なんですけど・・・
どうせならSAOと時間ずらして欲しかった。
お陰でSAOはリアタイを諦める羽目になりました。

少しオリ主の出番が少なかったですが、次回からは多くなります。

ではまた。

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