ロクでなし魔術講師と二人の叛逆者   作:影龍 零

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 本っっ当にお待たせしました.
 影龍 零です.
 色々と変化がありましたが,なんとか落ち着いたので投稿いたします.
 それではどうぞ.


過去と歪み

□□□

 

 

 

 

あの日以来、私は特務分室でお世話になることになった。

なんでも人員不足で、私の腕を買いたいのだとか。

室長には今でも感謝している、今の同僚や友人といえる人達に出会えたのは、室長のお陰でもあるから。

勿論、あの時私を見つけ助けてくれたグレンさんとセラさんにも。

兄が死んだと知って取り乱していた、地獄のような日々で色褪せた私の視界に色を付けてくれたのは二人だ。

 

こんなロクでなしの私にも、守ろうと思える場所が、人達が出来た。

 

 

でも、____________私の中の感情が、憎悪が、今でもなお燻っている。

____________申し訳なさと後悔が、絶えず私に襲い掛かる。

 

 

もし『奴』に出会ったら、私は全霊をもって復讐を成す。

 

けれど、彼女は?

 

彼女が真実を知ったとき、私は彼女に何が出来るの・・・・?

彼女に、どう顔向けをすれば、いいの?

 

 

 

 

□□□

 

 

 

 

「・・・い、おい、エルシア」

 

 

隣からの冷たく突き放すような声で、私は現実に戻った。

 

 

「は、はい。何か確認事項ですか?」

 

「そうだが、いつまでも思考に耽るのは関心せん。いつ狙われるかわかったものではない」

 

「・・・・すみません、気が抜けてました」

 

 

猛禽類を思わせる目つきのアルベルトさんは、私の謝罪に対し何も言わず黙々と人気のない道を歩く。

 

 

「私情は極力挟むな。慣れていると慢心しては肝心なときしくじる・・・変装を教えたときにも告げたはずだが?」

 

「・・・はい、『成りきる以上に成り切れ』ですね」

 

かつて変装に関するあれこれを叩き込まれた私は、グレンさん曰く『その道でも食っていける』そうだ。

無論そんなつもりは毛頭ない。

私はただ、今の場所を守りたい。

 

それでも・・・それでも、こう思わずにはいられない。

 

「・・・ここにもし、兄さんが生きていたら・・・」

 

独り言のつもりが、言ったそばから込み上げる感情。いや、もう激情とも呼べるかもしれない。

少し心を落ち着かせよう。そう思い、アルベルトさんに話しかけた。

 

 

 

「今回の任務は、『天の智慧研究会』が絡んでいるんですよね?」

 

「ああ。外部の協力者もいるとの垂れ込みだ。そして・・・」

 

一旦、言葉を切り、私の方を向く。

 

「過去の事件とも関係がある」

 

「・・・・・・ッ!」

 

 

その言葉で、私は確信をもった。

落ち着かせようとした心に再びの激情が灯るのを感じた。

この任務、必ず『奴』が絡んでいる。私が追い続けた、復讐の根源。

そして____

 

 

 

 

_______私のせいで生まれてしまった、彼女にも関係がある。

 

 

 

 

 

 

□□□

 

 

 

 

 

 

遠征学修、研究所見学の日。

 

目的地である白金魔導研究所は、サイネリア島のほぼ中心に位置している。

観光客も多いこの島なのでもちろん道路にも舗装があるが、フェジテのようにしっかり整備されているわけでもないし、獣道のままの場所だってある。

 

そんな道を学院の生徒たちのほとんどは歩いたことが無いわけで・・・・

 

 

 

 

 

 

「はぁー、はぁー、うぅ・・・」

 

「ぜぇ・・・・・ぜえ・・・・・」

 

「う・・・、ふぅー、ふぅー・・・」

 

 

こんな感じでグロッキー状態に早変わりしてしまった。

魔術師の学校なので体力よりは魔力、判断力や技能を優先する学生は当然ながら多い。

そうなれば、この結果は至極当たり前のようにもみえる。

 

もちろん、例外はいる。

 

「おいおい、まだ研究所までは遠いぞ~。へばるのは着いてからな~」

 

「もうちょっとしたら着くから頑張ってー!」

 

言葉の内容は違くとも軍生活が長かったグレンとセラ。

先頭をセラ、殿をグレンが請け負いそれぞれ鼓舞しながら進む。

 

 

「大丈夫か?俺はまだ余裕あるし、荷物持つよ」

 

「あ、ありがとう・・・流石、カッシュ君は、冒険家、志望だね・・・・・・」

 

 

田舎からやって来ただけあって体力に自信があるカッシュ。

 

 

「何もこんな秘境染みた場所に建てなくてもいいんじゃねーか・・?」

 

「・・・静かな場所だ、人間不信なんだろう・・・・」

 

「いや、お前じゃあるまいし_______待って、無言で指ささないで。怖いから」

 

現役の宮廷魔導士のノラとタクス。

相も変わらずふざけているようにみえる。その裏、ノラは昨晩走り去ったリィエルとその要因であろうグレンについて考えていた。

 

(グレン兄がやらかすのはいつものことだけど、昨日のあれは‘何か’違う。地雷をピンポイントで踏み抜いたような・・・)

 

他人の地雷は何気なく踏むことも少なくない。グレンという最も身近な例を参考にノラは原因を探ってみる。

 

 

(リィエルの素性を考えたらまぁ・・・なんとなく見えてくるか)

ちらりとさり気なく、リィエルを視界に入れる。

 

 

「・・・・・・・・」

 

そして、今朝から一言も発しないリィエルだ。

というよりも、今朝はリィエルが部屋に居らず、総出で捜す大騒ぎになったのだ。

出発前に見つかったのでよかったのだが________

 

 

「・・・・・・・」

 

表情は変わらず眠たげなのに、雰囲気がおかしい___もっと言えばどこか思い詰めている節がある。

 

 

「ねぇ、リィエル・・・大丈夫?今朝もだけど、何か悩み事でもあるの?」

 

システィーナが心配そうに声をかけるが、それでもリィエルは無言を貫く。

やがて獣道が険しくなっていき、足を取られそうになる根や石が増えてきた。

周りの生徒やグレン達は気を配りながら進んでいたので問題もなかったが、一心不乱に進むだけのリィエルが辿る結末は火を見るよりも明らかだろう。

 

 

「…ッ!?」

 

 

何も発さずにズンズン進んでいたのが祟り、足下に張っていた根に気づかず足を取られてしまった。

本来なら絶対にしないであろうミス。

これには昔から彼女を知っている者も目を疑っていた。

 

「大丈夫、リィエル?ここは足場が悪いから…無理しないで、ね?」

 

システィーナと一緒に近くを歩いていたルミアが心配を顔に出して手を差し伸べる。

リィエルはその手に対し________

 

パチンッ!!

 

払い除ける形で応えた。

 

「うるさい……」

 

怒りの籠った、そして何処か思い詰めた声を震わす。

無表情のリィエルがここまで感情を滲ませるのはそうそうないことだ。

 

「うるさいうるさいうるさい!!!関わらないで!近寄らないで!」

 

子供が駄々をこねる、その表現が的確であろう。

一方的に喚き立て、ルミアに背を向けて再びズンズンと進んでいく。

 

「私はあなたたちなんか……大っ嫌い!!!!」

 

呆然と立ち尽くす二人。

 

「…なんなの!?リィエル、貴方さっきから……!!」

 

いち早く立ち直ったシスティーナは一言抗議しようと、背中を追おうとし、腕を掴まれた。

ルミアだ。

 

「システィ、待って。私は大丈夫だから」

 

「でも、あんな言い方って…」

 

そう言うものの、ルミアの悲しそうな顔を見るとやはり納得がいかない。

だが、ここで食い下がっても意味はない。

そう自分言い聞かせてシスティーナも矛を収めた。

 

パァンッ!!

 

突然、乾いた音が鳴り響いた。

 

「……リィエル」

 

見ると、セラがリィエルに近づき、手を振り切っていた。

リィエルの頬が赤くなっているのを見ると、叩いたようだ。

 

「…いくら貴女でも、怒るよ」

 

そう言うセラの表情には、確かに怒りの感情が見て取れる。

母親が子を叱る時の怒りだ。

いきなり打たれたことにリィエルは驚愕を露わにし_____

 

「……ッ!!!」

 

下を向きながら走って行ってしまった。

この一幕にただ生徒達は困惑するばかり。

昨日まで特に仲の良かったシスティーナとルミアとの衝突、そして昔からの知り合いらしいセラの突然の叱咤だ、困惑するなという方が無理な相談かもしれないが。

 

 

「・・・あー、お前らすまん。昨晩、俺が余計なことを口走っちまって・・・・あいつを不安定にさせちまった」

 

いきなりぶっきらぼうな、でもどこか申し訳なさをにじませた声がかけられる。

振り返ると今まで殿を務めていたグレンだった。

 

 

「もう!グレン君もわかってるでしょ!?リィエルがまだ・・・子どもだって」

 

「・・・・・・」

 

生徒に聞こえない距離と声で話すセラも、押し黙って聞いているグレンもここにいない彼女のことを案じていた。

突発的な癇癪は今までにないことではあったが,素性を知っている分思うところがあるのだろう.

 

「・・・とりあえず,目的地までに考えよう。ここで止まってもどうにかなるわけでもないだろ?」

 

パンパンと手を叩き,催促するのはノラ.

他生徒,特にシスティーナは納得いかない顔をしながらも,先へと進んでいく.

 

一瞥した後,リィエルのなんとも言えない不安定さを思い返すと,ここから先の多難も予感できる.

しかし,今は何をしても逆効果になり得る.

 

「・・・タクス,アルベルトにも伝えておこう.今までの危うさとは違う」

 

「了解・・・嫌な予感は当たるもんなのがなぁ」

 

 

 

 

□□□

 

 

 

 

 2時間は経過しただろうか,一行は僻地にそびえ立つ神殿のごとき研究所を目の当たりにしていた.

 滝を背に,敷き詰められた敷石と水生の樹木が太陽の光にあてられ神秘さを露にする様相.

 結婚式場や王族の宮殿と間違われても納得のいく情景に,一行は疲れも忘れて魅入られていた.

 

 「わぁ・・・遺跡みたいだね,グレン君」

 

 「あ,あぁ・・・なんつーか,研究所っつわれても信じられねぇ建物だな・・・」

 

 目を輝かせるセラに相槌を打ちつつも,グレンも内心圧倒されていた.

 

 「・・・ついたぞ,リィエル.どうだ,お前もこれにみとれたか?」

 

 「・・・・話しかけないで」

 

 「・・・了解」

 

 「気まずくなるな,こっちまで気まずくなるでしょーが」

 

 どうにもリィエルは穏やかではない.ノラの声掛けも冷たく端的に返し,やはり近づくなと暗に示しているかのようだ.

 情景と雰囲気のギャップにもどかしさを感じ始めるとき,

 

 

 「ようこそ,アルザーノ帝国魔術学院の皆様」

 

 四,五十の齢だろうか,頭の天辺が禿げ上がり,残った髪や髭に白が混じり始めた,好々爺然とした初老の男が姿を現した.

 

 「遠路はるばるおいでくださりご苦労様です.私はバークス=ブラウモン.この白金魔導研究所の所長を務めさせていただいております.本日はどうぞよろしくお願い致しますぞ」

 

 朗らかな笑みをたたえながら所長__バークスが歓迎した.




 時間を作りながらちょくちょく進めて参ります.
 ではまた.
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