ここから展開は加速します。
ではどうぞ
「おっと,これはご丁寧なこって」
グレンも背筋を伸ばしつつバークスに向き直る.
「アルザーノ帝国魔術学院,二年次二組の担任グレン=レーダスだ.んで,こっちが副担任の白_セラ=シルヴァース」
「セラ=シルヴァースです.『遠征学修』の突然の行き先変更,快く受け入れていただきありがとうございます」
いつもの呼び方を飲み込んでの紹介にセラはお辞儀を交えつつ,社交辞令的挨拶を済ませる.
「いえいえ,あなた方は帝国の未来を担う卵達,そんな方々の糧となるなら光栄というものです」
「そいつはまぁ,人格者なこって」
「それでは参りましょう,私としましても研究の息抜きになりますので」
バークスはどうやら自ら案内を買って出てくれるらしい.一学院に対しては破格の待遇にグレンは恐縮する.
「こんなヒヨッコ共にわざわざそこまでしてくれるとは・・・いやホントありがとうございます」
敬語にしては少しがさつではあるが,やはり相応の驚きだ.クラスの面々も好奇心が如実に感じ取れる.
それはシスティーナとて同じだった.
「ねぇルミア,聞いた?最新の魔術研究が見られるなんて,今回は凄い学修になりそうね!」
彼女と打って変わって,ルミアはどこか不安げだった.
「・・・どうしたのルミア?なにかあった?」
「・・・あ,ううん!なんでもないよ?驚いちゃっただけだから.バークスさんっていい人だよね?」
「そうね,ここまで人格者な生粋の魔術研究者なのはそういないんじゃない?」
システィーナの言葉にルミアは自分を納得させようとする.
バークスが自分に向けてきた氷のような視線,まるで人を見る目ではなかったあの視線は気のせいなんだ…と.
□□□□
バークス引率のもと,『水の神殿』にふさわしい形容の研究所を一行は進んでいく.
水と植物,樹木が示す生命力に包まれた内部に,術式が走る黒石のモノリスが見事な調和を生み出している.
「ここでの研究は白金術…白魔術と錬金術の複合.文字通り生命そのものの研究です.新鮮な生命マナが常に必要となるため,このような構図となっているのですよ.少々歩きにくいですが,そこはご愛嬌」
薬草改良種,鉱物生命体,肉体構造の解析機関,
分野に関わらず,本来見ることさえままならない魔術研究の前線を目の当たりにして,生徒たちも言葉を失い圧倒されるばかりだ.
「おーおー,現場でも見たことないなこの薬草」
「・・・研究中の改良種だから当然だろうが」
「この塊俺のヨーヨーで殴ったらどうなるかな?」
「・・・そんじょそこらの鉱物なら砕く代物だろあれ」
「こんな構造してるんだっけ?」
「・・・今度見てみるか」
「合成魔獣はいつぶり?」
「・・・少なくとも3年前」
「これは___」
「そこのお二方,気持ちは察しますがどうかもう少し丁寧に扱っていただきたいのですが・・・」
___圧倒されるどころか叩き出されてもおかしくない二人もいたが.
薬草をつつき,鉱物生命体が心なしか震え,物騒な問答を交わす様子は研究者からグーパンされてもなんら不思議ではない.バークスも額がヒクついているのを隠しながらもにこやかに諫めている.
「いやいや壊そうとは思ってないんで心配しなくても大丈痛いッ!?」
「すんませんウチのバカ二人が!後できつくシバイときますんで!」
「二人とも頭下げる!!」
すぐさま拳骨を一発ずつ叩き込みグレンが謝罪.セラも二人の頭を掴んで下げさせる.
「いえいえ,幸い支障も無さそうですし気にしないで下さい」
言葉と裏腹に薄らと冷や汗がみえるバークス.周囲で研究に没頭している研究者からの視線もどこか棘がある.
「まったくあの二人は・・・」
「あ、あはは・・」
良くも悪くも普段通りの二人に呆れと苦笑を隠せないクラスメイト.
「でも、凄いわねルミア.ちょっとここの研究に揺らいじゃうかも・・・」
「う、うん.でも・・・」
圧巻されているシスティーナにルミアがそっと耳打ちする.
「人が命を好き勝手に弄って、本当にいいのかなって・・・ちょっと気が引けちゃって」
確かに生命の神秘を感じられる研究ではある.
だが同時に、自然にある生命を人の都合に合わせて改造する、一歩間違えれば狂気の実験になり得る面を持ち合わせているのだ.
かつて使用されたとされる殺戮用の鉱物生命体、合成魔獣の発明、『出来損ない』と烙印を押された
背徳と傲慢、冒涜が起こす結末の一端を見れば、ルミアの言葉に重みを感じるのも無理はない.
「知を求めすぎずに、何のためにやっているか・・・それを考えなきゃね」
「そうね・・・吞まれないように気を付けなきゃ、ね」
神秘を求めて歩みを続けるか、支配の快楽に溺れ外道に堕ちるか、それは己を律する一点で区別できるものではない.
「でもやっぱり・・・ここでも『あの研究』はやってないのね・・・・まぁ、当然っちゃ当然なんだけど・・・・」
重苦しい雰囲気を変えるためにか、システィーナが新しく話題をふる.
「『あの研究』?システィ、それって何?」
「えっとね・・・かつて帝国が一大魔術プロジェクトとして掲げた死者の蘇生・復活の研究があったの.確か名前は____」
「・・・『
声の方に振り返ると、好々爺然としたバークスが笑みを浮かべていた.
「いやはや、その名前を学生の方々から聞けるとは・・・勉学に励んでいらっしゃるようで」
「あ・・・い、いえ!たまたま知っていただけです!すみません、失礼なことを」
恐縮するシスティーナに疑問を感じたのか、ルミアがバークスに質問する.
「あの・・・バークスさん.『
「理論的に不可能.死の絶対不可逆性ですな、マーヴェルのコスモゾーン理論による応用系の」
笑みを浮かべてバークスが答える.
「肉体の『マテリアル体』、精神の『アストラル体』、霊魂の『エーテル体』の三要素、これらは死と同時にそれぞれの円環に戻ります.中でも『アストラル体』は意識の海、『エーテル体』は次の生命への輪廻に加えられる以上、死者蘇生は不可能.この理論を覆そうとした死者蘇生計画、通称__」
「・・・死者蘇生という一種の神の所業に近い代物が『
全く気配を感じさせずにシスティーナとルミアの背後で声を発する不審__ノラ。
普段の素振りと口調で本物度が増しているな、全く・・・
「ちょっと、驚かさないでよ!それにバークスさんの話を遮ってまで・・・」
「・・・あぁ、悪い。続けてくれ」
「いえいえ、お気になさらず。勉学に励む若者が多く、私としても嬉しい限りですよ」
「・・・まぁ、これくらいはな。それに、神に近いとは言うが、本物とは言い難い代物だ」
「それってどういうこと?」
意味深な物言いが気にかかったらしく、ルミアがノラに問いかける。
「・・・この術式は『本人』を遺伝情報、霊魂、精神体の観点からそれぞれコピーし、合成。その後用意した肉体に入力する。復活といえば聞こえがいいが、でてくるのは『本人に限りなく近い他人』だ」
「それは・・・確かに復活とは言えないかも・・・・」
「ふむ、少々穿っている気も否めませんが、そうですな。ですがそれと同等以上に、死別した人が戻ってくる・・・その有用性からも討論が盛んに行われました」
死別した自身に限りなく近い他人、自分と親しい人々が『それ』を『本人』として接する____奇妙な薄ら寒さを感じ、ルミアは無意識にたじろいでしまう。
「不安に思うのも無理はないでしょう、一時は聖エリサレス教会も出張ってくる有様でしたからな。ですがご安心を。このプロジェクトは失敗に終わりました。なぜなら、『ルーン』の機能限界に研究中ぶつかってしまったので。結果、嘘のように呆気なく破棄される運びとなったのです」
「機能限界、ですか?」
「それってどういうことですか?術式の構築技術の問題とか、そういうことですか?」
ルミアに加え、システィーナも不思議に思い問うてくる。
「・・・『ルーン』は原初の音に近い言語として作られた。だから特殊な発声術が必要。それに「深層意識で理解できる、とはいえ天使言語や龍言語よりも杜撰な代物だ」・・・グレン兄」
「悪ぃな、割ってはいって。まぁ、さっきの三要素を『ルーン』じゃどうやったって合成出来なかったんだよ。それに、もっと酷い問題があった。そうだよな、バークスさん?」
「左様。三要素のうち、霊魂の代替品となる『アルター・エーテル』の生成・・・これには複数人の霊魂を抽出し、加工・精製するしか方法が無かったのです」
「それって・・・つまり・・・」
「ああ、複数の他人を犠牲に一人を蘇らせる。そんなことは、人道的に絶対許されないもんだ」
「いやはや、美味しいところは持っていかれましたな。それに付随するように問題が噴出され、プロジェクトは封印されたのです」
捕捉しつつも好々爺然と、バークスは話を締めくくった。
図らずも重苦しくなってしまった空気を払拭するためか、ルミアは質問を投げかけた.
「でも・・・もし成功させられるとしたら、何が必要なんでしょうか?」
「ほう、絶対不可の烙印をもつ『Project: Revive Life』に挑みますか?」
「い、いえ、そういうことではなくて・・・興味本位の話なんですけど・・・・」
「いえいえ、若人の観点は羨ましいものですよ。ふむ・・・原初の音にもっと近い言語を使う、もしくは『固有魔術』を使えば、あるいは・・・といったところでしょうか」
「・・・前提からして無理難題の極みだな」
バークスの言葉に無表情でノラが苦言を呈す。
感情をもっとだしてほしいが、まぁ、問題ないだろう。
「ははは、それがこのプロジェクトの問題点ですからな。・・・さて、お話はこれまで。まだまだ部屋を紹介しきれておりません、次の部屋へ参りましょう・・・・」
□□□□
神秘の数々に魅せられ、瞬く間に時間は進んでいく。
興奮冷めやらぬまま、疲労を忘れて議論に花を咲かせつつ帰路についた一行。
「・・・ん?」
そんな中、自室に足を運んでいたノラの視界に駆ける青髪がちらつく。
常人離れしたスピードで路地裏へ消えていく背中は、間違いなくリィエルだ。
「・・・グレン兄がやらかしたか?セラ姉は「ノラ君!リィエル見なかった!?」・・・セラ姉」
事態を考えている最中、セラが焦った様子で駆けてきた。
「さっきルミアちゃんとまた何かあったみたいで・・・グレン君が追いかけていったんだけど・・・ノラ君とタクス君は見てないかと思って」
「・・・今路地裏に駆けこんでいったけど、もう任務どころじゃないな」
どうやらリィエルの癇癪がまたおきたようだ。
「・・・タクスなら「釣り行ってくるわ!」とか言って海にいったぞ。俺も詳しくは知らん」
「そう・・・分かった、ありがとう。ノラ君はここで待ってて。私も捜してくる」
そう言い残し、セラは突風のように去っていった。
「・・・まぁ、少しは捜すか」
身体からオーラを放出し『円』を作り、それとなく探ってみるが、やはり近辺にはいないようだ。
リィエルの癇癪をみるのは初めてではないにしても、今回のそれは少々異常の毛色すらある。
「・・・流石にアルベルトに報告するか」
常に携帯させられている通信用魔石を取り出し、アルベルトに通話を試みる。
「・・・・・・繋がらない?アイツが5秒以内に出ないことあるか?」
訝しく思った途端、不意に魔石が鳴り出す。
「・・・アルベ『ノラ、エルシアを追え』・・・は?」
『説明は後だ、リィエルの近くにいるはずだ、急げ』
「・・・おい、何を___切りやがって」
急激に情報と状況が供給、変化する。
_____そこに加えられる要素は、不意の強襲がセオリーであろう。
「Aaaaahaaaaaa____!」
「!?」
人外の絶叫が響きわたる。
『円』の感知通り上を向くと、夜闇の中でもわかる『異常』が見て取れた。
顔であろう箇所は上下逆さに、苦悶の表情を口元の縫い目で無理やり笑みにみせる醜悪性。
『羽』に仕立て上げられた無数の腕は明らかに継ぎ接ぎで、統一性は全くない。
胸と足に逆さ十字が突き立てられ、手の甲にはどす黒い魔石が埋め込まれている。
絶叫は己の姿への絶望か、はたまた激痛への咆哮か。
生命を冒涜しきる怪物が今、混迷を加速させる。
もっとペースを上げていきたいところ
ではまた。