ロクでなし魔術講師と二人の叛逆者   作:影龍 零

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どうも、影龍 零です

ようやっとできました!
ではどうぞ


悪意と無垢

 少し、時を巻き戻そう。

 

 「釣れないなぁ~」

 

 静寂に包まれた夜の海、その磯辺でタクスは釣りに勤しんでいた。

 自由時間とはいえ、こうも連日訪れる姿は魔術師とだいぶかけ離れている。

 

 「昨日いいスポットだと思ったんだけどなぁ~・・・なんも釣れない・・・」

 

 穴場と思い浮かれた末のボウズっぷりを自嘲しながら踵をかえす。

 

 「確かこっちの森?を突っ切れば近道になったはず___」

 

 

 

____ェル___

 

 

___前____るな____

 

 

_____君!____

 

 

 

 「ん?なんか浜辺から____!?」

 

 

 『凝』で声のする方へ目を向け、即座に『絶』に切り替える。

 異常な光景と経験が裏付けた反射的な行動。

 

 

 

 

 「そこをどけぇ!!!リィエルゥ!!!!!」

 

 「どかない、兄さんは私が守る」

 

 

 修羅迫らんばかりのエルシアが、リィエルに斬りかかり_____

 

 

 「《疾走》・・・!」

 

 

 異形を翻弄しつつも攻めあぐねるセラの姿が、そこにはあった。

 

 

 

 

□□□□

 

 

 

 

 激昂するエルシア。

 その先に見えているのはリィエルではなく、青髪の青年だった。

 

 

 「リ、リィエル!助かったよ!」

 

 恐怖からか及び腰になりつつも親しげに語りかけるこの男を『兄さん』と呼んだ。

 その言葉は、彼女から理性を消し飛ばすには過剰なほどの爆薬であった。

 

 「エルシア。私はこれから、兄さんを守るために生きる。だから、邪魔しないで」

 

 「そいつを兄と呼ぶなぁ!!」

 

 

 苛烈に振るわれる激情が、一刻も早く奴を切り刻まんと踏み込まれる。

 血塗られた剣が、兄を脅威から守らんと振るわれる。

 

 「エルシア!リィエル!止めて____ッ!」

 

 「Holalalalalalalala___

 

 振るわれる鎌を避け、セラが駆ける。

 が、射出される糸が行方を阻み、どうしても近づけない。

 

 

 泣き叫ぶ顔を首から生やし、蟷螂と蜘蛛を無理矢理繋げたような身体をもつ異形。

 本来顔がある箇所には卵のようなモノが張り付き、ボコボコと蠢いている。

 

 糸はセラとエルシアを巧妙なまでに分断し、鎌は一度でも当たれば「死」を確信させるほど鋭利。

 だがそれ以上に____

 

 

 

 「グレン君に、近づけない・・・・ッ!」

 

 

 異形は常にグレンを背としている。

 血に染まり倒れ伏す彼は明らかに致命傷を負っている。

 すぐにでも離脱しなければ、助かる見込みは限りなくゼロだ。

 

 「グレンさんを傷つけてまで!!ソイツを守るのかァ!!!」

 

 「・・・・兄さんが望むなら、私は」

 

 「リィエルゥゥウウ!!!」

 

 発する言葉の全てが、エルシアの逆鱗に触れる。

 抑えることを忘れた憤怒は、隙を生む。

 

 踏み込みと同時の豪閃がリィエルの首目掛けて放たれる。

 重心を無視し、腕のみで振り回す大剣は空を斬る。

 

 「ッ!」

 

 息をのむ音と同時に全力で大剣を振り下ろす。

 数瞬の差が幸いしたか、それとも、迷い故か。

 

 「けふっ__」

 

 リィエルの放った突きが、エルシアの脇腹を僅かに抉った。

 

 

 「ぐ____ッ」

 

 膝をつくも戦意を消さずに青年を睨みつける。

 

 「り、リィエル!後はその異形に任せて行こう!」

 

 「ん。分かった」

 

 

 『兄』を担ぎ、瞬く間に暗闇に消えていくリィエル。

 

 「待て、リィエ__ぐッ・・・」

 

 追う感情に身体が付いていかない。

 そして、肥大した憎悪は視野を狭める.

 

 「《エルシア》!」

 

 自身を包む突風に思考を引き戻される.

 痛みを食いしばって耐え、風で膂力をカバーする.

 

 「せはぁぁぁあああ!!!」

 

 裂迫の気合と共に大剣の一閃が異形の鎌を斬り飛ばす.

 何が起きたか理解できない異形は構わず糸を発射しようとする.

 

 「させるかァ!」

 

 エルシアは大剣を手放すと同時に撃鉄を起こす.

 空気を裂く音と共に糸イボを二発の弾丸が貫き、異形に絶叫を響かせる.

 

 

 

 「Hola__la_aHLA___lallllllllll

 

 

 その声を最後に,二度と起き上がることはなかった.

 

 

 

□□□□

 

 

 

 「早く,アイツを__「エル!!」ッ,セラ,さん・・・」

 

 セラが声を張り上げ,エルシアを静止する.

 

 「貴女の気持ちは、分からない.わかるなんて,軽々しく言うつもりもないよ」

 

 「___なら,追わせて「でも!」」

 

 尚も行こうとするエルシアを遮るよう,彼女の目がエルシアを見据える.

 

 「もっと周りを見て.一人で背負うのは止めて___ね?」

 

 

 「・・・・ッ」

 

 見据えられた目から逃げるように,顔を俯かせる.

 

 「とにかく、グレン君を早く安全な「担いだから行こう」__!」

 

 声の元へ振り替えると,タクスが瀕死のグレンを担いでいた.その服には釣り針が引っかかっている.怪我人に恐らくしてはいけない所業をしただろうか.

 

 

 

 ・・・まぁ、この程度でくたばるモノでもなかろうが

 

 

 

 

 

□□□□

 

 

 

 

 

 「・・・ったく、悪趣味な継ぎ接ぎだ」

 

 埃を掃うノラの背後には既に息絶えた怪物が.

 見た目に違わず、その血も異様で、青黒く、緑がかり、赤が混じる.

 

 

 「・・・しっかしまぁ、アルベルトの報告とはいえ急だな、展開が」

 

 (・・・連絡はしたが出ない___あっちも戦闘中なのが自然か)

 

 「・・・とにかく、タクスに連絡「HALURUUBAUFUJUUUUJUJUJU「おいノラ!リィエルが不良被れのナンパ師についてった!」___急ぐか」

 

 連絡用魔道具から発せられる声と新手の奇声、事態の混沌さに辟易し、トランプを構えた.

 

 

 

 

□□□□

 

 

 

 

 「《風よ》!《風霊よ》!《旋風よ》!」

 

 風の刃が切り裂く、突風が押し戻す、竜巻が縛る.

 

 「せぃはァアアアアア____!!!」

 

 裂迫の一閃が胴体ごと薙ぎ払う

 

 「邪魔くさい__なぁ!」

 

 回し蹴りで、かかと落としで、連脚で、首折りで、跳ぶように進む

 

 

 鬱蒼とした森を最短距離で猛進する三人.

 

 「装飾にしてはセンスを疑うなぁ!!風邪のときみたらトラウマもんだ!!」

 

 「そんなこと言ってる場合じゃないでしょ!早く安全な場所にグレン君を__」

 

 「OLOOOOLEEOORORORO___ッ「どけぇッ!!!!」

 

 

 猪の鼻に赤子を縫い付け、髑髏を胴に巻き付けた異形が先々で突っ込んでくる.

 赤子の表情は満面の笑みに溢れ、胴がカタカタと笑うように音を奏でる様は狂気の特攻を彷彿とさせる.

 満面の笑みをここまで悲壮にまみれた演出に仕立てる様は、製作者の内面を如実に表している.

 

 抱えられた血が流れ出るグレンには一刻の猶予もない.

 処置を施さなければこと切れてしまうだろう.

 

 

 「しゃーないセラ姉!グレン兄任せる!」

 

 「え、ちょっとタクスく」

 

 「セラ姉がこんなかじゃ一番疾い!エルシアとの連携も上手い!なら俺が食い止めれば確実に助けられる!」

 

 

 「・・・無理はしないように、絶対だよ!」

 

 「行きましょう、セラさん!」

 

 

 風を纏い更に加速した二人は脇目も振らずに駆け抜けていった.

 

 

 

 「KYAKAYAYAYUA__]

 

 異形の一体が潰れる、躓くように倒れていく.

 

 「さぁて、夜もふけてきた」

 

 懐からヨーヨーを取り出し構える.

 

 「ぐっすり寝かせてやるよ、ゆりかごのサービスは無しだ」

 

 

 

 

 

□□□□

 

 

 

 

 

 さて、異形跋扈する異常事態.

 美しい月明りも、静かな海景色も、幻想よりも不穏が優る.

 

 「__!」

 

 「あらあら残念…潮時ですわね」

 

 外道魔術師__死霊術師エレノアの一声で、戦局の終幕が告げられた.

 

 「__《爆》!」

 

 詠唱と共に爆炎が上がり、アルベルトの視界をふさぐ.

 凄腕の彼であっても、遠見の魔術に映る光景に意識が向いた隙を突かれては敵わない.

 

 

 視界が晴れる頃には既に、彼女の姿は無かった.

 同時に、押し寄せる屍も瞬く間に風化していく.

 

 「・・・してやられたか」

 

 静寂に包まれる中、呟きとともに左腕を振るう.

 すると嘘のように炎がかき消され、暗闇が樹海に戻った.

 

 

 

 「このままでは済まさんぞ・・・」

 

 胸中の感情を殺し、冷徹に思考する.

 リィエルは密会した男の命なのか、一点を目指して街を駆け抜けていく.

 もっとも近いのはエルシアとセラの二人、次点でノラであるが___

 

 

 (今の奴が冷静とは思えん)

 

 平常ならいざ知らず、あの剣幕と感情の噴出を見ては、連絡を入れたところで逆効果であろう.

 セラもグレンの命を繋ぐために必死だ.元来の優しさを考慮しても厳しい.

 

 「・・・ノラ、リィエルが王女の場所へ向かっている.俺も急ぎ向かう」

 

 魔道具へ言い残し、目的のため駆けだした.

 

 

 

□□□□

 

 

 

 

 怖い

 

 

 

 

 

 

 怖い

 

 

 

 

 

 「私は、システィーナの、みんなの敵だから」

 

 

 

 目の前の光景が、怖い

 

 

 「…ルミアは、連れて行くから」

 

 

 血に染まった剣をもつ、あの子が怖い

 

 

 「・・・ま、待ちなさい…」

 

 

 

 ルミアを守ると誓った___そのために教えをこいた__だから大丈夫だと思っていた____

 

 

 「わ、私が・・・私が相手よ・・・・ッ!」

 

 呼吸が浅い、足も震えている、それでも守るためにと啖呵をきり威嚇する.

 

 

 そんな彼女を無防備に見つめるリィエルが口を開く.

 

 

 「・・・・撃てば?」

 

 「……え?」

 

 張り詰める空気の中、ポツリとそんなことを呟いた.

 

 「システィーナができる一番強い魔術で、私を撃てばいい」

 

 

 「私はそれまで、何もしない」

 

 

 ただじっと見つめ、無防備で居続ける_____

 

 

 

 千載一遇、またとないチャンス

 

 この機を逃す手はない、それなのに_____

 

 

 

 「・・・・・ッ__・・!」

 

 

 震える口から、魔術は出てこない

 

 

 

 「残念、時間切れ」

 「いや、延長させてもらう」

 

 

 

 ガシャァァァァァン___!!!

 

 

 

 「【凍駆】___」

 

 

 「イヤァアアアアア______!!!!!!」

 

 

 月光の下、氷弾がリィエルを襲う.

 裂迫の気合とともに振るう一閃は、容易く弾丸を砕き、風圧を生み出す.

 

 

 「・・・・リィエル、何を吹き込まれた」

 

 「・・・私は兄さんのために生きる、そう決めただけ」

 

 「そうか・・・・」

 

 

 呟きと同時に放たれる雷撃.

 反応速度を優に超えているはずのそれをリィエルはバネの如き跳躍で飛び越える.

 

 「相変わらずのバカ力が・・・ッ!」

 

 「ルミアごと巻き込もうとしたあなたが言うの?」

 

 「言ってろ」

 

 袖からトランプを取り出すと同時に肉薄.

 踏み込みからの間すら置き去りにする速度で斬りかかる.

 だが人質というハンデを持ってなお、彼女の剣戟は劣る素振りさえない.

 

 「・・・・突っ込むだけじゃねぇとは初耳だが、誰かに倣ったか?」

 

 「・・・あなたには関係ない」

 

 「にしてはどっかで、見たことある、剣筋なんだが、なッ!」

 

 斬り払い、突き、連撃、切り上げ、返し、そのすべてをいなされる.

 彼女の戦い方は間違いなく攻め全特化のもの.

 なのに今は真逆の守りに特化したもの.

 

 「・・・・なんだ、護衛任務に戻った口か?」

 

 「うるさいうるさいうるさい!!!関係ないって言ってるでしょ!!」

 

 振り払うように叫ぶと同時、ノラ以上の速度で突っ込んでくる.

 脳裏に響く全開の警鐘に、弾かれるように防御の構えをとるが___

 

 「・・・ッ、眠ってて」

 

 体躯以上の膂力から繰り出される神速の突きが、腹部を襲うのが先だった.





マイペースに続けていきます
では、また
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