ロクでなし魔術講師と二人の叛逆者   作:影龍 零

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どうも、影龍 零です。

ヤバい書きすぎて文字数一万超えた・・・

自分でもここまで書いたことに驚いています。
あと補足ですが、オリ主1がノラでオリ主2がタクスです。
設定とかは後で書きます。


ではどうぞ!


非常勤講師と編入生

ここはアルザーノ帝国魔術学院。

常に時代の最先端の魔術を習うことのできる場所だ。

学院の生徒は皆学習欲と熱意に満ちており、講師もそれに応えるため、「遅刻」することなど到底ないし、むしろ有り得ないはずなのだ。

 

「・・・・・・遅い!」

 

魔術学院東館校舎二階の最奥、魔術学士二年次生二組の教室。

正面の黒板と教壇を木製の長机が半円状に取り囲む座席、

その最前列の席に腰かけるシスティーナ=フィーベルは苛立ちながら吐き捨てた。

純銀を溶かし流したような銀髪のロングヘアと、やや吊り気味な翠玉(すいぎょく)色の瞳が特徴的な年の頃十五、六くらいの少女である。

 

だが今は苛立ちと怒りに身を震わせていた。

 

「どういうことなのよ!もうとっくに授業時間半分も過ぎてるじゃない!?」

 

「確かにちょっと変だよね・・・何かあったのかな?」

 

そう言って首を傾げるのは、彼女の親友であるルミア=ティンジェル。

綿毛のように柔らかなミディアムの金髪と、大きな青玉色の瞳が特徴的な、システィーナと同い年くらいの少女である。

彼女はシスティーナとは対照的に物腰柔らかな雰囲気に包まれていた。

しかし表情は困惑気味だった。

二人が辺りを見渡してみると、一向に姿を見せない講師と編入生に、同クラスの学友達も訝しむようにざわめき立っている。

 

 

『今日はこのクラスに、ヒューイ先生の後任を務める非常勤講師と編入生がやってくる』

 

一から七まである魔術師の位階、その最高位、第七階梯(セプテンデ)に至った大陸屈指の魔術師であるセリカ=アルフォネア教授が直々にクラスに赴いてそう発表したホームルームから早一時間。

セリカが構築した『まあ、なかなか優秀な奴らだよ』という前評判は早くも崩れそうだった。

 

「アルフォネア教授が推すんだから期待してみれば・・・これはダメそうね」

 

「そ、そんな、評価するのはまだ早いんじゃないかな?」

 

「甘いわよルミア。どんな理由でも遅刻は本人の意識が低い証拠よ。

これは生徒の代表として一言言わないとね」

 

と、そのときだ。

 

「あー、悪ぃ悪ぃ、遅れたわー」

 

「へー、ここが教室かー、うわ机長っ!」

 

「・・・結構生徒いるな・・・・・・イジりがいがありそうだ(ボソッ)」

 

「三人とも、私は行くから頑張ってね!」

 

どうやら噂の非常勤講師と編入生がやってきたらしい。

一人はすぐどこかに行き、一人は不穏なことを口走っていた。

 

「やっと来たわね!ちょっと貴方たち、一体どういうことなの!?

貴方たちにはこの学園の講師と学生としての自覚は──」

 

早速説教をくれてやろうとシスティーナが振り返って・・・・・・硬直した。

 

「あ、あ、あああ、貴方たちは──ッ!?」

 

 

 

「・・・・・・違います。人違いです」

 

「右に同じく」

 

「以下同文」

 

「人違いなわけないでしょ!?貴方たちみたいな人がそうそういてたまるもんですかっ!」

 

「こらこら、お嬢さん。人に指差しちゃいけないってご両親に習わなかったかい?」

 

三人のうち講師であろう男が表情は紳士のそれのまま、システィーナに応じる。

 

「ていうか、貴方、なんでこんな派手に遅刻してるの!?」

 

「そんなの・・・・・・遅刻だと思って切羽詰まってた矢先、時間にはまだ余裕があることがわかってほっとして、ちょっと公園で休んでいたら本格的な居眠りになったからに決まっているだろう?」

 

「なんか想像以上にダメな理由だった!?じゃ、じゃあ貴方たちは!?」

 

「俺らはグレン兄が寝てる横でどっちが昼飯奢るかを賭けてチェスで勝負してたら・・・」

 

「・・・なんか凄い接戦になって、脇目も振らずに対局していたらこんな時間になっていた」

 

「こっちもダメな理由だった!?」

 

「・・・因みに俺が勝った」

 

「「「どうでもいい!」」」

 

紫髪の青年の発言に皆が一斉に突っこむ。

 

「えー、グレン=レーダスです。本日から約1ヶ月間、生徒諸君の勉学の手助けをさせていただきます」

 

黒髪の青年、グレンが気だるげに言う。

 

「俺はタクス=リベルディオ!今日からお世話になるぜ、よろしく(^_^)ノ」

 

茶髪の青年、タクスがマイペースに言う。

 

「・・・俺はノラ=ルイカス、まあよろしく・・・ふぁ・・・・・」

 

紫髪の青年、ノラが欠伸混じりに言う。

 

「挨拶はいいから早く始めてくれませんか?」

 

システィーナは苛立ちを隠そうともせず、冷ややかに言い放った。

 

「あー、まあそうだな、仕事だしやるか~・・・あふ」

 

欠伸を噛み殺してグレンがチョークを握る。

 

「んじゃ俺らも座るか」

 

「・・・そうだな、あそこが空いてるな」

 

ノラとタクスの二人はマイペースを崩さずにルミアとシスティーナの隣に腰掛けた。

 

「あ、よろしくね。私はルミア=ティンジェル。こっちは親友のシスティーナ=フィーベル」

 

「・・・よろしく」

 

「おう、よろしく!」

 

「よろしく」

 

グレンがチョークを手にとり、黒板のほうに向く。

途端に生徒達(二人を除いて)が気を引き締め、グレンの挙動に注目する。

 

(さて、お手並み拝見させてもらうわ、期待の非常勤講師さん?)

 

システィーナを筆頭に生徒達(二人を除いて)が注目している最中、グレンは文字を書いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 『自習』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「「え・・・・・・」」」

 

 

 

 

「え~、本日の一限目は自習にしま~す」

 

唖然とする生徒をよそに、グレンはさも当然とばかりに言う。

 

「・・・眠いから」

 

最悪な理由を呟いて、教卓に突っ伏しいびきをたてはじめる。

すると、ノラとタクスが何かを取り出したかと思うとーー

 

「ここかな」

 

パチンッ!

 

「・・・ここだな」

 

パチンッ!

 

ーーここぞとばかりにオセロを始めた。

そして。

 

「ちょおっと待てぇええええーーーーッ!?」

 

システィーナは分厚い教科書片手に猛然とグレンへ突進していった。

 

 

 

□□□□

 

 

そこからのグレンの授業は最低最悪という言葉が最も良く合うものだった。

まず、聞いていて内容が理解できず、説明にすらなっていない。

時々黒板に文字を書くが、どうやっても判読不能な文字ばかり。

これなら自分で教科書を開いて独学する方がマシだ、と思う生徒がほとんどだった。

 

ノラとタクスはそんなのどうでもいいと言わんばかりに、既にオセロで五十回目の対局をしていた。

今の成績は、どちらも二十四勝二十四敗一分けである。

 

「あの・・・・・・先生・・・・・・質問があるんですけど・・・」

 

そんな中、少し気弱そうな少女、リンがおずおずと手を上げる。

 

「ん、なんだ?言ってみな」

 

「ええと・・・先ほど先生が紹介した五十六ページ三行目に載っているルーン語の呪文の一例なんですが・・・これの共通語訳がわからないんですけど・・・」

 

「ふっ、俺もわからん」

 

「えっ?」

 

「すまんが自分で調べてくれ」

 

リンが呆然とする中、システィーナが我慢ならないといった様子で抗議した。

 

「待ってください、先生。生徒の質問に対してその反応は少々いかがなものかと」

 

「いや、わかんないものをどうやって教えりゃいいんだよ?」

 

「質問に答えられなければ、後日調べて次回の授業で答えてあげるのが講師の務めだと思いますが?」

 

「お~いシスティーナ、そんなん自分で調べたほうが早くね?」

 

オセロをしながらタクスが言う。

 

「私はそういうことを言いたいんじゃないの!私が言いたいのは──」

 

「あ・・・もしかしてお前らルーン語辞書の引き方知らねーの?そんじゃあ仕方ねぇ・・・

あ~余計な仕事増えちまった・・・」

 

「ぐ・・・辞書の引き方くらい知ってます!もう結構です!」

 

どこまでもやる気のないグレンに肩を怒らせるシスティーナ。

かくして、グレン最初の授業は時間を浪費するだけの無駄なものに終わった。

 

 

その後の錬金術実験は担当する講師が人事不動になったことにより中止。

そういうわけでグレン、ノラ、タクスは食堂へと足を運んでいた。

 

「クッソ・・・まだ痛ぇ・・・ここまでやるか・・・?普通・・・」

 

「そんなん自分のせいだろ?入る前になんで確認しなかったのかむしろ聞きたい」

 

「・・・まあグレン兄のことだ、どうせ『めんどくさい』とかなんとかでしなかったんだろ」

 

「ちくしょう・・・義弟たちに考え丸わかりかよ・・・」

 

と、グレンたちが歩いていると、後ろから声がかかった。

 

「あ、グレン君ーー!ノラ君にタクス君ーー!」

 

振り返ってみると、セラがこちらに向かって走ってきていた。

 

「お、おうセラ・・・お前も飯か?」

 

「うん、そうだよ・・・ってどうしたの!?傷だらけだよ!?」

 

「・・・あ~セラ姉、心配すんな。グレン兄の自業自得だから」

 

「え?それってどういう・・・」

 

ノラの言葉に首を傾げるセラにタクスが事情を説明する。

話を聞いているうちに、セラは段々とジト目でグレンを見つめはじめ、

少しばかり黒いオーラを発し始めた。

グレンはそれを見て冷や汗を流している。

 

「ハァ・・・・・・グレン君?」

 

「は、はい!」

 

「帰ったらお話があります」

 

「申し訳ありませんでした!」

 

グレンは流れる動作で土下座をかました。

それを見てセラはため息をついた後、

 

「よろしい。それじゃあ早く食堂に行こう!」

 

と、笑顔で歩きはじめ、グレン、ノラ、タクスはその後をついていく。

 

 

 

 

 

□□□□

 

 

 

 

 

一同が食堂につくと、中は随分と賑わっていた。

理由は、ここの食堂は安くて美味しい料理が食べられると評判がいいからだ。

 

 

「・・・タクス、約束守れよ?」

 

「わかってるよノラ・・・。負けたんだからちゃんと奢るよ・・・」

 

 

「あ~、ここで飯食うのも久しぶりだな~」

 

「私はここで食べたことないけど、凄い人の数だね。それにいい香り」

 

「まあ俺がここにいたときもかなり人気だったしな」

 

 

 

グレンはカウンター越しに料理を注文する。

 

「あー、地鶏の香草焼き、揚げ芋添え。ラルゴ羊のチーズとエリシャの新芽サラダ。キルア豆のトマトソース炒め。ポタージュスープ。ライ麦パン。全部、大盛りで」

 

「俺も同じもので普通盛り」

 

「・・・じゃあ俺も」

 

「それじゃ私も」

 

数分後、料理ができるとグレンとセラが革財布からセルト銅貨を取り出し、支払いをしようとすると、

ノラが待ったをかけた。

 

「・・・二人共、今日はタクスが皆の分奢ってくれるから大丈夫だ」

 

「は?」

 

「おぉ~、タクス悪いな。ごちそうさま」

 

「ありがとね、タクス君」

 

「お、おう・・・任せてよ・・・」

 

タクスがノラを見ると、ノラは必死に笑いを噛み殺していた。

 

(ノラ、お前~~・・・!!)

 

(・・・フッ!してやったりww)

 

 

まぁタクスもノラも帝国宮廷魔導士団としての収入があるので、別に奢ることくらい大したことではなかったが、今日持ってきた小遣いの八割がとんだタクスからしたらキツい出費だろう。

 

そんなこんなで一同が席を探していると、前方の席が四人分空いていた。

 

席に向かうと、見慣れた顔が二つ程見えた。

耳を立ててみると、二人は魔導考古学議論の真っ最中(一方的な)だった。

 

「失礼」

 

グレンを先頭に四人が座ると、銀髪の少女がこちらに気づいた。

 

 

「──ッ!? あ、あ、貴方達は──」

 

「違います。人違いです」

 

「右に同じく」

 

「以下同文」

 

「あ、はじめまして」

 

セラ以外は華麗にスルーし、食事を始めた。

 

「あ、はい。はじめまして」

 

「もしかして、貴方がもう一人の非常勤講師ですか?」

 

「うん、そうだよ。私はセラ=シルヴァース。今は事務の仕事をやってるんだ。よろしくね?」

 

「はい!よろしくお願いします!」

 

セラとルミアが楽しそうに喋っているのをシスティーナが口をパクパクしながら見ていると、

 

「そういえば、さっき二人が話していたのってあの『メルガリウスの天空城』だよね?

俺らもその話に混ざってもいいか?」

 

「え、ええいいわよ」

 

「サンキュー。ノラも聞こうぜ、面白そうだし」

 

「・・・いや、俺はパスで」

 

「あー、そう?グレン兄は?」

 

「俺は食事を楽しみたいのでパス」

 

「じゃあ俺とセラ姉にもその話聞かせて」

 

「わかったわ。まずこのフォーゼル先生の論文の欠点が───」

 

と、タクス、セラ、ルミア、システィーナの四人が魔導考古学議論を始めとする談笑に花を咲かせ、

ノラとグレンはその様子を見ながら昼食をとっていた。

ノラは食事中、自分の料理に何が生かせるか考え、グレンは早く引きこもりに戻りたいと思っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そしてその日、帰宅したグレンがセラに小一時間ほど説教をくらったことは言うまでもないだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

□□□□

 

 

 

 

しかし、授業はまた別の話。

やはりグレンにはやる気が無く、最初は要点などを黒板に書き説明もしていたが、

そのうち教科書の内容を丸写ししだし、さらにはちぎったページを黒板に貼り付け、

最終的には黒板に教科書を釘で打ちつけ始めた。

 

ノラはその間ひたすらに睡眠をとって疲れを癒やし、タクスは釣り竿やヨーヨー、トランプといったものを魔導器として作っていた。用途があるのかは生徒達にはわからなかったらしいが。

 

とうとうシスティーナの怒りが頂点に達したらしい。

 

「いい加減にしてくださいッ!」

 

「ん?お望み通りいい加減にやってるだろ?」

 

「子供みたいな屁理屈こねないで!」

 

そのままイザコザが続き、システィーナは左手の手袋をグレンに投げつけた。

 

「貴方にそれが受けられますか?」

 

「お前・・・マジか?」

 

「シ、システィ駄目!早く手袋を拾って!」

 

ルミアが駆け寄って焦りながら言う。

 

「・・・何が望みだ?」

 

「その野放図の態度を改めて、真面目に授業をしてください」

 

「そうか、じゃあ俺が勝ったらお前は俺に対する説教禁止だ」

 

「わかりました、受けて立ちます」

 

「じゃあこの決闘は【ショック・ボルト】以外の魔術禁止とする。いいな?」

 

そして二人を始め、クラスの生徒達が決闘を見ようと校庭に向かった。

 

 

──しかし、ノラは睡眠を続け、タクスはまた何か魔導器を作っていた。

不思議に思ったルミアは二人のそばに行き、声をかけた。

 

「二人は決闘見に行かないの?」

 

すると聞こえたのかノラがムクリと起き上がった。

 

「・・・いや、別に興味ない。そもそも結果なんてわかっているからいいよ」

 

「俺もノラと同じ意見だな。まあすぐにわかると思うよ?俺らが言ってること」

 

「そうなのかな。じゃあ私は行くね」

 

ルミアは軽く手を振ってから教室をあとにした。

 

 

「うーん、もう少しこいつを足して・・・それからここにこれを入れて混ぜて・・・」

 

「Zzz・・・」

 

二人はそのまま各々のすることに没頭した。

 

 

 

 

□□□□

 

 

 

 

 

 

結果からいうと、決闘はグレンの惨敗に終わった。

最初の三本勝負が四十七本勝負にまで及び、その全てがシスティーナの圧勝。

理由はグレンが三節詠唱までしかできないからである。

そしてグレンは決闘の前にした約束を完全に無視し、何度もコケながら去っていった。

ルミア以外の生徒がグレンに失望し、酷評していた頃。

 

「ノラ、やっぱりグレン兄負けたっぽいぞ」

 

「・・・予想通りだな」

 

「グレン君、一節詠唱ができないからね」

 

ノラとタクス、そしていつの間にか教室にいたセラがその光景を見て話していた。

 

「にしても、あいつらかなり魔術を神聖視しているな。まるで宗教の信者だ」

 

「・・・こんなもの、神聖でもなんでもないのにな」

 

「確かに凄いものだとは私も思うことあるけど、あそこまで特別扱いすることはないかな」

 

「多分だけど、またグレン兄とシスティーナが衝突すると思う」

 

「・・・タクスのそういう予感ってだいたい当たるんだよな~」

 

「うんうん、帝国宮廷時代もすごい数当たって皆かなり驚いていたよ。

それに、その予感が当たるかどうかで賭け事していた人もいたぐらいだし」

 

「え?何それ初耳なんだけど」

 

「・・・グレン兄が始めた。それで荒稼ぎしてるとこ何回も見た」

 

「よし、あとで殴る」

 

「それじゃ、私は戻るね」

 

セラはそういうと教室から出ていった。

 

(・・・そういやあのルミア?ってやつだけ周りと違う反応していたな・・・)

 

ノラは一人、そんなことを思っていた。

 

 

 

 

□□□□

 

 

 

決闘から三日後、グレンは相変わらずのやる気のなさ。

生徒達はそんなグレンを無視し、自習をしている。

ノラとタクスも相変わらず睡眠をとったり、魔導器の調整をしていた。

 

 

「あ、あの・・・・・・先生。今の説明に質問があるんですけど・・・・・・」

 

「あ~なんだ?言ってみ?」

 

「え、えっと・・・・・・今、先生が触れた呪文の訳がよくわからないんですけど・・・」

 

 

「無駄よ、リン。その男に何を聞いたって無駄だわ」

 

「え・・・?」

 

「この男は魔術の崇高さを全く理解していないし、むしろ馬鹿にしてる。

そんな男に教わることなんて何も無いわ」

 

「で、でも・・・・・・」

 

「大丈夫よ、私が代わりに教えてあげる」

 

システィーナがリンの背中を押しながら戻ろうとすると、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「魔術って・・・そんな偉大なもんかね」

 

グレンがそんなことをぼやいた。

 

 

 

クラスの空気が張り詰めた。

 

ノラとタクスもこの時は自分たちの義兄を見た。

 

 

それをシスティーナが黙っているはずがない。

 

「ふん、何を言うかと思えば。魔術は偉大で崇高なものに決まっているでしょう?

もっとも、貴方みたいな人には理解出来ないでしょうけど」

 

普段のグレンとの会話ならここで終わっていただろう。

だが───

 

 

 

 

 

 

 

「どこが偉大でどこが崇高なんだ?」

 

 

 

 

 

 

────この日はなぜか食い下がった。

 

 

 

「え・・・・・・ッ」

 

「どこが偉大でどこが崇高なのか、それを聞いている」

 

想定外の反応にシスティーナは戸惑う。

しかし、呼吸を整えてから自信を持って返答する。

 

「魔術はこの世界の心理を追求する学問よ」

 

「・・・・・・ほう?」

 

「この世界の起源、構造、法則。魔術はそれを解き明かし、自分と世界がなんのために存在するのかという永遠の疑問に答えを導き出し、人がより高次元の存在へと至る道を探す手段なの。

それはいわば、神に近づく行為。だからこそ、魔術は偉大で崇高なのよ」

 

システィーナは会心の返答だと思った。

だからこそ、グレンの言葉は不意打ちだった。

 

 

「それって何の役に立つんだ?」

 

「え?」

 

「だから、世界の心理を解き明かしてそれが何の役に立つんだ?」

 

「だ、だから、より高次元の存在に──」

 

「より高次元の存在ってなんだ?神様か?」

 

「・・・・・・それは」

 

 

グレンはさらに追撃する。

 

「例えば医術は人を病から救うよな?冶金技術は人に鉄をもたらしたし、農耕技術で人は餓死せずにすむ。建築技術のお陰で快適に暮らせる。でも魔術だけ何の役にも立ってないよな?」

 

 

グレンの言葉は事実だった。

魔術は基本的に秘匿される術であり、普通の人から悪魔の術と言われても仕方ないものだった。

 

「魔術は・・・人の役に立つとか、そんな次元の低い話じゃないわ。

人と世界の本当の意味を探し求める・・・・・・」

 

「でも何の役にも立たないなら実際、ただの趣味だろ。単なる自己満足の一種、違うか?」

 

システィーナは圧倒的に言い負かされていることに歯噛みした。

その悔しさに震えていると・・・・・・

 

「悪かった、嘘だよ。魔術は立派に人の役に立っているさ」

 

「・・・・・・え?」

 

 

システィーナはもちろん、クラス中が目を丸くした。

 

一方、ノラとタクスは──

 

 

(グレン兄・・・やっぱあの時のことを・・・)

 

(・・・まあ、分からなくもないけどな)

 

(・・・そんだけショックがデカいんだ、特に自分の大切な人ならな・・・)

 

 

そう小声で話していた。

 

 

「ああ、魔術は凄ぇ役に立つさ・・・・・・人殺しのな!」

 

深い憎悪に満ちた顔で紡がれたその言葉に、生徒達は凍りついた。

 

 

「剣が一人殺している内に魔術は何十人と殺せる。戦術で統一された一個師団を魔術師の一個小隊は戦術ごと焼き尽くす。ほら、立派に役に立つだろ?」

 

 

「ふざけないでッ!魔術はそんなんじゃない!魔術は──」

 

 

「お前、この国の現状を見ろよ。魔導大国なんていわれちゃいるが他国から見てその意味は何だ?帝国宮廷魔導士団なんて物騒な連中に莫大な国家予算が注ぎ込まれるのはなぜだ?」

 

「そ、それは──」

 

「決闘にルールがあるのはなぜだ?二百年前の『魔導大戦』、四十年前の『奉神戦争』で何をやらかした?外道魔術師の犯罪件数とおぞましい内容を知っているか?」

 

「──ッ!」

 

「ほら見ろよ、魔術と人殺しは切っても切れない腐れ縁だ。何故かって?他でもない人を殺すことで進化・発展してきたロクでもない技術だからだ!」

 

 

(流石に極論じゃないか?)

 

(だけど間違ってもない。皆表の部分しか見ようとしないからこうなるんだ)

 

ノラとタクスはそう受け答えする。

 

 

「全くお前らの気が知れねーよ。こんな下らない術勉強するならもっとマシな──ッ」

 

 

 

パアンッ!と乾いた音が響いた。

システィーナがグレンの頬を叩いたのだ。

 

 

 

「いっ・・・・・・てめっ!?」

 

グレンはシスティーナに文句を言おうとし、言葉を失った。

システィーナは涙をポロポロとこぼしていた。

 

 

「違う・・・・・・魔術は・・・・そんなんじゃ・・・・・ない・・・もの・・・。

なんで・・・・そんなに・・・酷いことばっかりいうの・・・・・・?

・・・・・・大っ嫌いっ!貴方なんか!」

 

そう言い捨てて、システィーナは教室を出ていった。

 

 

「──ち」

 

グレンは頭をかきながら舌打ちする。

 

「あー、なんかやる気出ねーから、今日の授業は自習にするわ」

 

そう言ってグレンも教室を後にした。

 

 

 

 

□□□□

 

 

 

クラスは騒然としていた。

それもそうだろう。皆システィーナに似た考え方だった故にグレンの主張を認めようとしない。

 

 

「何なんだよ、あの講師は」

 

「あそこまで魔術を愚弄するなんて・・・」

 

「魔術師の風上にも置けませんわ」

 

と、つらつらとグレンを否定していると、ガタッと音がした。────ノラだ。

 

 

「・・・お前らさ・・・いつまでわがまま言ってんだよ。子供じゃあるまいし」

 

 

「「「は・・・?」」」

 

 

「・・・大体、グレン兄の言い分は事実だろ?

なのにそれを認めようとしない、これをわがままといわずに何て言うんだ?」

 

「そ、それでもあんなに魔術を貶すことはどうなんだよ!」

 

するとタクスも魔導器の調整を止めた。

 

「確かにグレン兄のは極論かもしんないけど、お前らのも極論だぜ?」

 

「え・・・」

 

タクスは続ける。

 

「お前らは魔術を神聖視し過ぎなんだよ。事実に目も向けずに表の綺麗な部分だけ見てる。

グレン兄は事実である裏だけを言ったんだ。それに対してお前らは・・・偉大だの崇高だの、宗教の信者と同じ考え方だって分かっているのか?」

 

クラス中が沈黙する。

 

「・・・まあ、俺らが言いたいのは、立派な魔術師目指しているなら表ばっかり見るなってことだ」

 

ノラはそう締めくくって教室を出ていき、タクスは魔導器を片付けて後に続いた。

 

 

 

□□□□

 

 

夕日が煌めく黄昏時、グレンは屋上にいた。

あの後グレンは授業に顔を出さず、ずっとここにいたのである。

 

 

「・・・やっぱここにいたか、グレン兄」

 

「ん~?何だ、ノラか」

 

「私もいるよ?」

 

「白犬もか。何だよ?」

 

「また犬って・・・まあいいか。グレン君、ノラ君から聞いたよ?システィーナちゃんを論破したって。

いくら何でもやり過ぎだよ。いくら魔術が嫌いだからって」

 

「むぐ・・・」

 

やはりセラにはかなわない。グレンはそう思った。

 

「あれ?タクスはいねーのか?」

 

「・・・あいつならシスティーナ?を慰めに行ってる」

 

「立派だねぇ・・・」

 

 

「あれ?ねぇ二人共、あれ何だろう?」

 

セラが西館の窓一つを指差す。

そこは魔術実験室だった。もう今の時間帯なら誰も使わないはずだ。

 

「・・・《彼方(かなた)此方(こなた)へ・怜悧(れいり)なる我が(まなこ)は・万里を見張るかす》」

 

ノラがグレンとじゃんけんして負けたので、皆を代表して遠見の魔術ーー

黒魔【アキュレイト・スコープ】で実験室を覗いた。

 

 

「・・・ん~と・・・・・・金髪の女子が一人いるな・・・ルミア・・・だったっけ?そいつがいるぞ」

 

「マジ?どれどれ・・・・・・_(._.)_、お?流転の五芒・・・・・・、魔力円環陣をやってるな」

 

「本当?じゃあ行こうよ」

 

「「え」」

 

「私も見たけどお世辞にも上手とは言い難いし、グレン君が小さい頃よくやったって笑いながら──」

 

 

「まてセラ、それ以上言わないでくれ。超恥ずかしいから」

 

 

 

 

 

 

□□□□

 

 

 

ばんッ!

 

突然ドアが乱暴に開けられ、ルミアは飛び上がった。

 

「ノ、ノラ君!?グレン先生にセラ先生も!?」

 

「・・・何してんだ?ここは一人で使っちゃダメなんじゃなかったか?」

 

「じ、実は私、最近法陣の授業について行けなくて・・・でも今システィもいなくて・・・どうしても法陣を復習しておきたくて・・・・・・」

 

「・・・ここに忍び込んだと」

 

「えへへ・・・ちょっと事務室に忍び込んで・・・・・・」

 

ペロッと小さく舌を出して、ルミアは手に持った鍵を見せた。

 

「・・・・・・ルミアちゃんって結構やんちゃなんだね」

 

セラが苦笑しながら言う。

 

「ごめんなさい、すぐに片づけます!後でどんなお叱りも受けますから!」

 

片づけ始めようとするルミアの腕をグレンが掴む。

 

「いーよ、最後までやっちゃいな。ほとんど完成してんじゃねーか」

 

「でも上手くいかなくて・・・・・・どの道諦める予定だったんです・・・・・・」

 

法陣を見ながらルミアは溜め息をつく。

 

「どうしてだろう・・・手順は合ってるはずなのに・・・」

 

「・・・ん?これって水銀が足りてないだけじゃん」

 

「え?」

 

ノラは棚にあった壺を取り、法陣を形作っているラインに水銀を垂らした。

垂らし終えると、今度はグレンが卓越した手さばきで綻びを修繕していく。

 

「お前達は目に見えないものに対しては神経質になるくせに、目に見えるものに対しては疎かになる。

魔術を神聖視し過ぎている証拠だ」

 

「あ、できたみたいだよ。それじゃもう一回起動してみて、ちゃんと五節でやってね?」

 

「は、はい」

 

ルミアは法陣の前に立ち、深呼吸をして、詠うように涼やかな声で呪文を唱えた。

 

 

 

 

「《廻れ・廻れ・原初の命よ・(ことわり)の円環にて・(みち)()せ》」

 

やがて鈴のような音を立てながら法陣が光り、七色の光と銀が織り成す幻想的な光景が広がった。

それはもう、ただ単純に美しく、神秘的だった。

 

 

「うわぁ・・・・綺麗・・・・・」

 

 

「うん・・・・本当に・・・・・」

 

 

ルミアとセラがその光景に目を奪われていた。

 

 

「ここまで感動するもんかね?」

 

「・・・俺に言われても困るんだが・・・・」

 

一方のグレンとノラは冷たく一瞥している。

 

 

「ありがとうございます、先生。ノラ君もありがとね?」

 

「別に、こんなの普通だろ」

 

「感謝の言葉はちゃんと受け取る!」

 

「わーったわーった」

 

グレンを注意するセラを見て、ルミアはまた笑った。

ふと、ノラに声をかける。

 

「そういえばノラ君」

 

「・・・ん?なんだ?」

 

「これから帰るんだよね?」

 

「・・・まあそうだけど」

 

「じゃあ途中まで一緒に帰ってもいい?」

 

「・・・俺は知らん。ルミアの好きなようにすれば」

 

「う、うんわかった!じゃあすぐ片付けるからちょっと待ってて!」

 

朗らかに笑うルミアの無邪気な様子に、ノラはやれやれと肩をすくめた。

 

 

 

 

□□□□

 

フェジテの空に浮かぶ幻の城、夕暮れの緋色に美しく染まり、その荘厳なる姿をより一層映えさせている。

 

「うわぁ、グレン君!あれ見て!」

 

「うっせ、そんなはしゃぐな。ガキじゃあるまいし」

 

子供のように嬉しそうなセラを面倒くさそうに宥めるグレン。

ノラとルミアはその姿を後ろから見ていた。

 

「まるで夫婦だね、あの二人」

 

「・・・そりゃそうだろ。昔っから仲良いんだから」

 

「おーい!何か言ったかーー!」

 

「「いいや(え)何もーー!」

 

声が重なったことに驚いたのか、ルミアは目を丸くしてノラを見る。

ノラは首を傾げただけだったが。

 

 

「先生って・・・本当は魔術が好きなんだよね?」

 

不意にルミアがそう口走る。

 

「・・・何でそう思うんだ?」

 

「だって・・・法陣を直しているとき、先生凄く楽しそうだったから」

 

「・・・ふーん・・・・・」

 

ノラはどうでもいいと言わんばかりに空を見る。

 

「・・・まあ、認めないだろうけど」

 

「ふふ、そうかもね」

 

ルミアはただ微笑むだけ。

 

 

 

「・・・・・・私ね、三年くらい前に家の都合で追放されて、システィの家に引き取られたんだ」

 

「・・・・・ほう?」

 

ノラは面白そうだと思ったのか、食い入るように聞く。

 

「しばらくした頃、悪い魔術師達に捕まって殺されかけたことがあって・・・・・・」

 

「・・・すげぇハードだなその出来事。・・・で、続きは?」

 

「そのときはもう本当にだめだと諦めて・・・・・・でも、別の魔術師達が助けてくれたの」

 

「・・・なんだそりゃ、ご都合展開過ぎだろ。小説じゃあるまいし」

 

「あの時はその人たちが怖くてたまらなかった。でも、私はあの人たちに命を救われた。

だから、いつかその人たちに会えたら、ちゃんとお礼を言いたい」

 

聞き終えるとノラは含み笑い(どころではなかったが)を始めた。

 

「・・・ぷっ・・・・くっくっく・・・それ小説でも売れないぞ・・・」

 

「でも、事実は小説よりも奇なりって言うでしょ?」

 

「・・・そりゃねーよ」

 

それからは会話なく歩いた。

 

そうしてしばらく経って、十字路についた。

 

「あ、私こっちだから。システィの屋敷に下宿しているから」

 

「・・・おう、またな」

 

「気をつけろよ?」

 

「またね、ルミアちゃん」

 

「はい!あ、それとグレン先生、明日システィに謝ってくださいね?」

 

ルミアがグレンのほうを向いて言う。

 

「システィにとって魔術は、今は亡きお爺様との絆を感じられるとても大切なものなんです。偉大な魔術師だったお爺様をシスティは大好きで、ずっと尊敬していて・・・・・・いつかお爺様に負けない立派な魔術師になる・・・・・・それが、亡くなったお爺様との約束なんです」

 

「・・・・・・そうか。そりゃ流石に悪いことしたな」

 

そう言いながら、グレンは気まずそうに頭をかく。

セラはまたお説教しなきゃと決心した。

 

 

「それじゃさようなら!」

 

ルミアは言って走り去った。

 

 

「んじゃ、俺らも帰りますか」

 

「そうだね。グレン君、ちゃんと明日謝るんだよ?」

 

「わかっとるわ!俺はガキか!」

 

 

三人はそんな他愛のない会話をしながら、帰路についた。




タクスがシスティーナを慰めているシーンは次回の最初で出します。

理由は面d・・・・ゲフンゲフン、文字数が足りないと思ったから


ではまた
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