「綺麗で可愛いお姉さん(目時さん)は好きですか?」 作:ゲキガンガー
表紙タイトル「綺麗で可愛いお姉さん(目時さん)は好きですか?」
注意書き。目時さんというキャラクターなんですがシャーロットという作品は基本的に尺に収まっていない為、かなり情報量が不足しています。ましてやメインヒロインではないので情報量が少ないです。
かなり独自解釈の元、キャラ作り、設定をしていきたいと思います。
目時さん独自設定。
名前。目時春奈(めどきはるな)。命名の由来。元々がプロ野球選手目時春雄からとられた為。
年齢17歳。高校二年生。星ノ海学園の近くにある学園に通学している。また前泊と七野も所属。特定の部活動には所属していないが、成績は優秀であり運動神経も悪くない。稀に部活の助っ人を引き受ける事も。
趣味はアウトドアショッピング。またファッションセンスもよく、どこかの雑誌のモデルに勧誘された事も。
性格は比較的落ち着いて見えるが、明るくお茶目な一面も。
都内の一戸建てに両親と共に在住。父母ともに外資系の会社員であり、比較的裕福な家庭。現在父は海外に出張中であり、同じく母も海外を忙しく飛び回っている。
また中学三年生の弟がいる。弟の名前は目時悟史(さとし)。
スリーサイズについては秘密らしいが、弟曰く、姉でなければ理性がおかしくなるほど理想的なプロポーションらしい。
そんな目時さんにもある大きな秘密があった。それは彼女は特殊能力を持つ女子高生だったのだ。
第一話「綺麗で可愛いお姉さん(目時さん)は好きですか?」
僕の名前は目時悟史。都内の中学校に通う三年生。どこにでもいる普通野中学三年生だ。共働きの両親を持ち、一人の姉を持つ、どこにでもいる普通の中学三年生。部活はサッカー部に所属。そう、それはいつもの部活の練習が終わった後だった。
「つかれたー。ただいま」
その日。僕は部活から自宅に帰ってきた。三年生で最後の大会が近いという事もあり、顧問の練習にも熱が籠もっていた。夏で日が長いというのに、既に当たりは真っ暗闇だった。まったく、どれだけ絞れば気が済むというのか。おかげでこっちはへとへとだっつーの。
しかし、僕が「ただいま」と言っても、「おかえり」の言葉は返ってこなかった。両親は海外出張中でいないのだが、僕には一人の姉がいた。
「あれ? おかしいな。姉ちゃん帰ってないのかな」
僕はそう思った。しかし、靴は綺麗に玄関に並んでいた。という事は帰っていないというのはおかしい。
水の音が聞こえてくる。そして、水の音は止まった。
ガラガラ。
引き戸の開く音がする。
「あっ。おかえりー。悟史」
「げっ。姉ちゃん」
僕の姉の名前は目時春奈(はるな)と言う。都立高に通う高校二年生だ。
その姉がとんでもない格好で風呂場からあがってきた。
「ね、姉ちゃん! なんて格好してるんだよ!」
「なんて格好、ってなにが?」
「そ、そんな格好して誰かに見られたらどうするつもりなんだよ!」
俺は叫んだ。
姉ーー春奈はバスタオル一枚を身に纏い、リビングに歩いてきた。そしておもむろに冷蔵庫をあけ、中から牛乳瓶を取り出す。
そして、ゴクゴクと一気飲みをした。
「別に、誰もいないじゃない」
「俺がいるだろうが」
「弟なんかに見られたって何とも思わないわよ」
姉はそういって笑い始める。
ったく。僕だっていつまでも子供じゃないのに。
こっちの気も知らないで。
僕もまた牛乳を飲み始めた。
「ねぇ」
「なんだよ」
「久しぶりに一緒にお風呂でも入る?」
ぶーっ!
僕は盛大に牛乳を吹き出した。
「うわっ。なにすんのよ。汚いじゃない」
「な、なんて事言い出すんだ。姉ちゃんは!」
「じょ、冗談よ冗談。ほんと、本気にしないでよ」
全く。くだらない冗談言うなっての。
「なぁなぁ」
「なんだよ」
僕が学校に行った時の事だった。クラスメイトが話しかけてくる。
「お前の姉ちゃん美人だよな」
「え?」
「そうそう。スタイル良いし、綺麗だし」
「しかも○○高だろ。都立の進学校じゃん。頭までいいとかマジで完璧だよな。あーっ。うらやましいわマジ」
「し、知らねえよ」
「もしかして、まだ一緒に風呂に入ってたりするのか?」
「ん、んなわけねぇだろ!」
僕は声を大きくする。
「お、怒るなよ。冗談だよ、冗談」
「なぁ。今度お姉さん紹介してくれよ」
「だ、誰がお前なんかに」
「よせよ。悟史の奴はシスコンだから、お姉ちゃんを誰かにとられたくないんだよ」
「だ、誰がシスコンだ! 誰が!」
「いけねっ。先生が入ってきたぞ。もうすぐHRだ」
俺達はそれぞれの席につき始める。その時、なぜだろうか。先生の顔が神妙そうに感じた。
「朝のHRの前に、皆に伝えておかなければならない事がある」
先生は語り始めた。
「最近、連続で女子生徒が行方不明になっているらしい。警察は家出の可能性よりも、何かの誘拐事件に巻き込まれた可能性の方が高いと見ているそうだ」
「ゆ、誘拐」
「皆もくれぐれも気をつけるように。学校側も見回りなどを強化しているが、それでも全ては防げない。また全体集会の時に詳しい話があるはずだ」
へー。誘拐事件ね。
その時僕は他人事程度にしか、受け止めていなかった。
都立○○高校。
そこは目時春奈の通う高校である。目時には一人の友人がいた。
「あ、おっはよー。春奈」
彼女の名前は綾部晶子と言う。
「おはよー。晶子」
「ねー。知ってる? 最近、ここら辺で起こっている誘拐事件。この近くの学校の生徒が誘拐されたんだって」
「誘拐って、まだ確証はないんでしょ。家出って可能性も残っているじゃない」
「そんな事ないって。その子そんな素振りなかったって話だし。家族にLINEで『これから帰る』って送ってたらしいよー。これはもう誘拐に間違いないよ。うんうん」
彼女は一人うなずいた。
誘拐ね・・・・・・・。
その線は間違いないとは思うが、その事件、ただの誘拐事件ではないような気がする。
「それはそうと、最近なんだか見られてる気がするんだよね」
「見られてる?」
「気のせいだといいんだけど・・・・・・」
春奈は嫌な予感を抱いた。
「それより聞いた? 男子がうちら(女子生徒)の写真を隠し撮りしてこっそり販売してるんだって。ほんとさいてーっ。男子ってどうしてこうも最低なのかしら。春奈も気をつけた方がいいよ。ほんと」
「ははは・・・・・・・」
春奈は苦笑いした
「胸チラしてるのは500円。水着が1000円。ノーアングルからの接写は1500円。パンチラは2000円」
そこはある部室の一室だった。そこは無数の男達が群がっている。
「A組の佐藤さんの写真をくれ」
「俺はB組の菊池さんの」
「あわてんな。あわてんな。在庫はまだまだあるからな」
ちなみにこの写真販売。女子によって値段のランクがあるらしい。女子が聞けばなおさら最低だと文句を言う事だろう。
「ちょっとどいてもらえないかな」
一人の男子生徒が姿を現す。長い髪。太った体型。陰気そうな男だった。
「菊川、お前も買ってくのか?」
「ぐふふっ。そうだよ。いつもの奴を頼むよ」
「お前は目時さんの奴だったな。あの人ガード堅いからなかなか撮るの苦労すんだよな。ほら、全部で新規写真は2000円だ」
菊川という男は目時の写真をしこたま買い込んでいった。
「ぐふっ。ぐふふっ」
薄暗い室内だった。その空間には一人の男がいた。その部屋にはいくつもの人形があった。フィギュアと言った方がいいか。いくつものアニメキャラが飾られている。男はいかにも不衛生な感じの男だった。
室内には一人の女子生徒の写真。どれも目時の写真だ。男の名は菊川怜治(きくかわれいじ)という。
「春奈ちゃん。ああ、春奈ちゃんは本当にかわいいなぁ。ぐふふっ」
菊川は目時そっくりに作られたフィギュアを愛でていた。
「待っててね。春奈ちゃん。今度は本当に本物の春奈ちゃんをかわいがってあげるからね」
その時。どこかから女の子のさえずるような声が聞こえてきた気がした。
「・・・・・・・目時か」
その時。目時は隼翼がいるアジトへと向かっていた。そこには隼翼がいた。乙坂隼翼。目時達のリーダーでもある。
「それで用件はなに、隼翼?」
「連続誘拐事件・・・・・・・聞いたことがないか?」
「聞いた事ならあるけど、それがどうかしたの?」
「普通の誘拐事件だったら警察の領域だ。俺達、能力者の領分ではない。だけど、普通の誘拐事件じゃなかったらーー」
「この誘拐事件、能力者が起こしたと言っているの?」
「俺達はそう検討をつけている。そこで目時、前泊と七野と協力してこの誘拐事件の調査を行って欲しい。俺はこの通り目が不自由でな。直接協力してやる事はできない。図々しいようだがお前達に頼むしかないんだ」
「わかってるわよ。隼翼。その誘拐事件の調査をすればいいのね」
「くれぐれも気をつけてな。目時」
「調査っていってもね」
夕暮れの町中を目時は歩き始める。前泊と七野とは適宜連絡を取っている。何かがあれば二人が駆けつけてくる手はずにはなっている。とはいえ、常に一緒にいるわけではない。
能力者は普通の人間より特殊能力に対する感覚に優れている。能力が発動すれば察する事は難しくない。
「・・・・・・・・調査って言っても何すればいいのよ」
図書館に入った目時はとりあえずは最近の誘拐事件の特徴を調べ始めた。むやみに探し回っても仕方がない。
特徴は誘拐された生徒は全て女子生徒。そして目時達の通っている都立○○高校からそれほど離れていない地点で誘拐されている。
「・・・・・・・もしかしたら、うちの生徒達の誰か。なんて事も」
まさかかもしれないが十分にありえた。
能力者は大半が思春期の少年、少女なのだ。つまりは学生である確率が高い。
「・・・・・・・ただいまー」
「おかえりー」
その日もまた、僕は部活から帰ってきた。
幸い、その時姉ちゃんは風呂上がりではなかったが、デニムのショートパンツをはいていた。それでも随分と目のやり場に困るが。ソファーに寝っ転がりテレビをみている様子。
「そういえば、悟史。あんた、今度の日曜誕生日よね」
「そうだけど、それがどうした?」
「お父さんもお母さんもいないし。どこか食べにいかない?」
「いーけど。別に」
「そう。じゃあ、今度の日曜日ね」
姉ちゃんはそう言っていた。
その日の日曜日。春奈は用があるという事で、午後に駅前で落ち合う事になっていた。目時は弟の悟史の為に誕生日プレゼントを買っていた。
陽気な気分で歩いていた時だった。
「誰?」
目時は足を止める。さっきからしていた気配。隠そうとしても隠しきれない。ずっとつけられていた。
「隠れてても無駄よ。出てきなさい」
「ぐふふっ。残念、ばれちゃったかぁ」
「あなたは・・・・・・・」
出てきたのはクラスメイトの男子生徒。名を確か菊川と言ったか。菊川が長ったらしい髪の不潔な印象の男だった。
「なにっ。私に何か用?」
「用があるのはそっちの方じゃないかな? 最近ずっと探してたんでしょ。僕の事。ぐふふっ」
「探してた・・・・・・・って」
「ずっと見てたんだよ。春奈ちゃん。君が僕の事を熱心に探してたって事。ぐふふっ。僕たちは両思いだったんだね。ぐふふっ」
「まさか・・・・・・・あなたが連続誘拐事件の犯人」
「そうだよ。僕だよ。僕がやったんだよ」
菊川という男は怪しく笑い始めた。
「な、なんでそんな事をしたのよ! あなたは!」
「全部練習だったんだよ」
「練習?」
「そう、全ては春奈ちゃんを虜にする為の練習。彼女達には練習台になってもらったのさ」
「彼女たちをどうしたの?」
「安心していいよ。殺してはいない。ちょっと大人しくなってもらったけだけさ。まるで人形のようにね。ぐふふっ」
菊川は怪しく笑い距離を詰め始めた。
「だって僕の想い人は春奈ちゃんだけなんだから。他のどうでもいい女なんて興味がないんだよ。僕にとっては。ぐふふっ」
「くっ」
最近の視線。自意識過剰かと思っていたが、間違いなくこの男のものだったのだ。それにしてもまさか連続誘拐魔が自分たちと同じ高校に通っているなんて思っても見なかった。いや、思いたくなかっただけか。
ーーしかし、隼翼の話を信用するならこの男もまた能力者という事になる。
早めに無力化した方がいい。目時は催眠能力を発動させようとした。
「無駄だよ」
「なっ」
「まさか春奈ちゃんも僕と同じ『特殊能力者』だったなんてね。奇遇だね。僕たちって最高の能力者カップルになれるかもよ。ぐふふっ」
「なっ! どうして! 体が思ったように動かない!」
「僕の能力は『人形化能力』なんだ。女の子限定でお人形みたいに自由にできるんだよ。僕の命令には絶対服従。すっごい便利な能力でしょ。僕が歩けといえば歩くし、どんな恥ずかしいポーズだって取らざるをえないんだよ。ぐふふっ」
「くっ。最低!」
「いいから、僕とこっちに来るんだよ。春奈ちゃんは僕の家に特別に招待してあげるよ」
「だ、誰があんたなんかと」
目時はあらがった。しかし、その能力は強力であり、とてもあらがう事などできなかったのだ。
その時、目時は弟に買ったプレゼントを落としていた。
「おせーな。姉ちゃんのやつ」
悟史は待ち合わせ時間になってもこない姉を心配した。
「LINEで電話してもでねーし。何かあったのかな」
その時、悟史は最近頻発している連続誘拐事件が頭をよぎった。
「まさか・・・・・・」
でもありえないわけではない。悟史は走り出す。
「姉ちゃん!」
「はぁ・・・・・・・・はぁ・・・・・・・はぁ」
悟史は走り出した。
「なんだこれ」
その時、悟史は綺麗に放送された小包を見つけた。恐らくは誰かへのプレゼントだろう。胸騒ぎがし、中身を開ける。
間違いない。
「これは俺が欲しいって言ってたGショックの腕時計」
くそ。姉ちゃんはさらわれたんだ。
間違いない。
「すみません! この近くで女の子見ませんでした?」
俺は通行人に聞き込みを始めた。
「女の子って」
「すみません。こういう女の子なんですけど」
俺はスマホから姉ちゃんの画像を取り出す。
「・・・・・・・ぐふふっ。素敵だろ。春奈ちゃん、この部屋。この部屋は目時ちゃんの為に作られた空間なんだよ」
部屋の全面に目時の写真が張られていた。そして無数のフィギュア。それも目時をかたどったものばかりだ。
「このフィギュアなんて自信作で春奈ちゃんの写真を何度も見て作り込んだんだよ。下着なんかも想像しつつさ。ぐふふっ」
「気持ち悪い事言わないでよ」
「けど、なかなか作り込めないんだよ。やっぱり写真は写真だから。だから春奈ちゃん、これから僕に君の全てを見せて欲しいんだ」
「な、何を言ってるの。い、いやよ。そんなの」
「さあ、見せてくれ春奈。抵抗は無駄だよ。だって君は僕の人形なんだ」
「か、体が言う事を」
目時の抵抗空しく、指がボタンを勝手にはずしていく。
「ぐふふっ。もうすぐだ。もうすぐ生の春奈ちゃんが見れる。ぐふふっ」
ガシャン!
その時だった。ガラスが割れたような大きな音がした。
「なっ! なんだ!」
「えっ!?」
聞き込みの結果。間違いなくこの家だと判明した。当然ドアがしまっていたので、裏からガラスを割って進入した。
「姉ちゃん! 無事か!」
幸い、姉ちゃんはまだ無事だった様子だ。
「悟史!」
「へー。君は春奈ちゃんの弟さんか。だったら僕の事をお兄さんと呼ばなきゃだね」
「だ、誰がお前なんかをお兄さんなんて呼ぶかっ! 姉ちゃんをはなせ!」
「・・・・・・・くっ。生意気なガキだな。僕の『人形化』の能力は男には通用しないんだ。だけどお前なんて素手で十分だよ! このガキ!」
菊川が襲いかかってくる。
「くそっ!」
それから取っ組み合いの格闘になった。
「悟史!」
「はぁ・・・・・・・はぁ・・・・・・・観念したかい。弟君」
「誰が、まだまだ」
取っ組み合いの喧嘩の末、悟史はマウントポジションを取られた。
「減らず口を」
「悟史! お願いもうやめて! 弟を許して!」
「そんなわけにはいかないよ。いくら弟でも僕と春奈ちゃんの神聖な儀式を邪魔するなんて! 僕はもう許せないよ!」
ボコッ!
「ぐふっ!」
頬を思い切り殴られ、口の中が切れた。血の味がする。
「悟史!」
「さあ、続けようか。春奈ちゃん、とんだ邪魔が入ったね」
「ま、待て・・・・・・・姉ちゃんを返せ」
しかし、悟史は立ち上がった。
「へっ。ふらふらなのに強がって。春奈ちゃんの弟だからってもう手加減しないよ」
菊川が殴りかかってきたその時だった。
ーーところで、である。
特殊能力者になる条件は諸説あるが、ひとつとして血筋というものが考えられる。乙坂歩宇と乙坂歩未がそうだったように。能力者である目時の弟もまた、特殊能力を発動する上で十分な資質はあった。そしてさらなる条件として、危機に陥った時に発動する可能性が高いと言える。そう、今この状況は十分すぎる位整った条件だった。
「なっ!?」
突如だった。菊川は壁にたたきつけられる。それは間違いなく能力によるものだった。
「そ、そんな馬鹿な・・・・・・・・こいつも能力者だっていうのか」
「悟史!」
「姉ちゃんを返せ!」
「そんな馬鹿な・・・・・・・こんな事って」
こうして、弟悟史の活躍により、連続誘拐事件は終止符を打たれたのである。
エピローグ。
連続誘拐事件の犯人は捕まった。悟史の活躍によって。しかし、彼にとってはそんな事はさほど重要ではなかった。それよりも姉である春奈が無事だった事の方がよほど重要だった。
「大丈夫だったか? 姉ちゃん」
「うん。あんたのおかげでね。大丈夫よ。ほんとありがと」
春奈は弟の頬をなでる。慈しむように。
「けど、もう無理しないでね。私の為に」
「姉ちゃんこそ、気をつけろよ。その・・・・・・・・姉ちゃんって」
悟史は恥ずかしさから視線をそらし、頬を赤く染めた。
「自分で思っているよりもずっと綺麗で魅力的なんだからさ。弟の俺から見ても」
「もう、うれしい事言ってくれちゃって」
目時は今にも涙を流しそうだった。
「じゃあ、続けようか」
「な、何を」
「今日、悟史の誕生日を祝うはずだったんだから」
春奈は悟史の手を取った。
「ありがたく思いなさい。綺麗で可愛いお姉さんがデートしてあげるんだから」
春奈は笑った。その時の笑顔は弟の悟史にとって、たまらく魅力的に映った。
こうして、目時家を襲った事件は無事解決し、悟史は15歳の誕生日を迎えたのである。
「偽彼氏乙坂有16歳」
「あちーっ」
その時。乙坂有宇と友利奈緒、それから西森柚咲、及び高城などの生徒会の面子が生徒会室にいた。
「もっとクーラーいれてくれよ」
「全く、若いくせに軟弱っすね。心頭滅却すれば火もまたすずしって言ってですね」
そう言いつつアイスにかじり付く友利奈緒。
「さっきっからアイスバー食いつつ説得力ないんだよ」
夏だった。暑かった。生徒会のメンバーは盛大にダラけていた。何とも高校生らしい一面だった。
その時だった。
一人の女子生徒が入ってきた。この学園の制服ではない。綺麗なお姉さん風の容姿。彼女の名は目時春奈という。有宇達と同じ、特殊能力者である。
なぜそんな彼女がきたのか。
「有宇君」
「えっ」
その時、目時が有宇に抱きついてきた。
「な、なんなんですか」
「お願いがあるの」
そう、涙目で上目遣いで言ってきた。
「彼氏の振りをして欲しい?」
「そう。つまりはそういう事なの」
事の発端は学校での友達との会話だった。
「春奈。あんた夏休みも前なのに彼氏もいないの?」
「う、うるさいわね。あんたこそどうなのよ?」
「あ、あたし。言ってなかったけど、随分に彼氏できたから」
「ほんと?」
「うん。ほんと。ほんと。あんたを傷つけるかと思ってずっと言ってなかったんだ。ごめんね、言うの遅れて」
目時にも見栄というものがあった。
「ご、ごめん。言うの忘れてたけど、私も実は彼氏いるんだ。あんたが彼氏いないと思って気まずくて言えなかったんだ」
「へー。なんだ。目時も普通に青春してたんだ。安心した。ねぇ」
こうして、ちょっとした嘘から自体は大事に発展していくのである。
「じゃあ、今度の日曜日ダブルデートしない?」
「ダブルデート?」
「あんたに彼氏がいるってのが本当なら何の問題もないはずよ。それとも何? さっきの言葉は嘘だったっていうの?」
「う、嘘じゃないわよ。今度の日曜日ね。わかったわ。問題ない」
「へー。楽しみね。あんたの彼氏を見るの」
そう、目時の友人は含みのある笑みを浮かべる。
以上が回想であり、目時が生徒会ーー乙坂有宇を訪れた理由である。
「というわけで、僕に彼氏の振りをして欲しいと?」
「そうなの。そういうわけなの」
「ほ、他に当てはなかったんですか? 隼翼兄さんとか」
「隼翼は目が見えないし流石に無理よ」
「・・・・・・・・じゃあ、前泊さんとか七野さんとか」
「・・・・・・・・なに? 嫌なの? あたしの彼氏の振りするの?」
鋭い目つきで言われる。
「・・・・・・・・い、嫌じゃないです。嫌じゃ。ただ、僕なんかで良いのかなー、っと。そうだ! 高城!」
「はい」
「お前がいるじゃないか! お前が!」
「そこでなぜ私に振るんですか?」
眼鏡をくいっとあげながら怪訝そうに言う高城。
「残念ながら、遠慮しておきます」
「な、なんで?」
「なぜなら! 私はゆさりんのファンだからです! 振りとはいえ、そんな浮気のような真似、到底できません!」
「いやー。お恥ずかしいですー」
と照れながら柚咲。
「・・・・・・・本人がいるのに、言うか、普通」
さり気にそれは告白ではないか。だが高城の好きというのは単にファンとしてであって、別に異性として好き、とかそういうわけではない気がするが。
「ま、まあ。わ、わかりました。けど、一回切りですからね」
「わかってるわ。この夏休みが終わったら別れた事にするから」
目時は美人だ。それは間違いない。スタイルは出るところは出ているし、引っ込んでいるところは引っ込んでいる。きっと脱いだらすごい事だろう。それに、有宇には妹と兄しかいなかった。まるで姉か何かができたようで悪い気分ではない。彼氏の振りとはいえ、目時と一日一緒にいられるのだ。それは決して悪い気分ではない。むしろ願ったり、叶ったりだと言えよう。
「・・・・・・・じとー」
その時だった。先ほどから黙っていた友利がじとーっとした目で睨む。軽蔑の籠もった目だ。
「な、なんだよ。その目は」
「いえ。鼻の下を伸ばしてやらしーなと思っただけです」
「だ、誰が鼻の下なんか伸ばすか! 僕は純粋に困っている目時さんを見捨てられなくてだな」
「はいはい。そーですか。どうだか」
友利は面白くなさそうに言う。
「こいつ、絶対信用してない」
ともかく、本題に入ろう。
「それで、今度の日曜日であってましたか? 日付は」
「うん。そうなの。今度の日曜日。場所は○○駅前」
「○○駅前・・・・・・・・」
記憶違いでなければ、最近大型のアミューズメント施設ができたと聞いている。水のテーマパーク、と名うっていた。全施設を水着で利用できるらしい。プールと言ってしまえばそれまでだが、プールと言うにはあまりに大がかりな施設らしい。それなりに料金も必要らしいが、それでも連日多くの若者、主に多くはカップルらしいが、が、そのテーマパークを訪れ、大変盛況な様子らしかった。
「そう、最近できたそのテーマパークに行く
と、いう事は。
目時さんの水着姿を拝見できてしまう、という事になる。否応なく。
「・・・・・・・じとー」
友利がまたじとーっとした目でこちらを見てくる。
「なんだよ! だからさっきから」
「別に、何でもないです。ただとてつもなく下心を感じたので」
「ち、違うってだから別に僕は!」
有宇は顔を真っ赤にして叫ぶ。
その日。有宇は待ち合わせをしていた。
「えっと、待ち合わせはここだったな」
若干、早く着すぎてしまったか。有宇はイケメンを気取ってはいたがデートらしいデートは白柳弓とした数回のデートだけである。意外にデート慣れしていない。その為、前日は興奮してあまり眠れなかった、という事もある。朝も早く目が覚めてしまった。
しばらくして、目時が現れる。
「おまたせっ」
突如腕のあたりにふくよかな感触が走った。
「なっ!?」
「待った?」
ち、近い。眼前には目時の顔。改めてみると美人で一緒にいるだけで気負いしてしまうが、それをこんなに近い距離だと余計に赤面してしまう。
(流石にくっつきすぎでしょうが!)
(友利さん、気づかれてしまいます!)
(全く、落ち着いてください)
草原から声が聞こえてくる。
一瞬で誰だか、わかった有宇ではあるが、この場では無視をする事にした。
目時はワンピースと日差しの為か、帽子をかぶっていた。何となく大人っぽい印象を受ける。元が美人なのでどんな格好でも様になった。
「それで目時さん」
「だーめ」
口元に指を当てられる。
「え?」
「今日、私達は恋人同士なの。恋人同士。下の名前で呼ぶのが当然じゃない?」
「なんて呼べば」
「春奈って呼んで。私も有宇って呼ぶから」
「えーっと、じゃあ」
試しに呼んでみる事にした。
「春奈」
「なに? 有宇君」
満面の笑みで言われる。
「ぐっ」
なんだろうか。思わずにやけてしまう。頬がゆるむ。
(なんか、ムカムカしてきた)
(友利さん、落ち着いてください)
(別にあの男に気があるわけではないんですが、バカップルを見ているとそれだけでなんか胃のあたりがムカムカしてきますね)
(まぁ・・・・・・・確かに理解できないわけではないですね)
そう、草むらから。
・・・・・・・・無視しよう。
「はい。これ」
目時は一枚の紙を渡してきた。
「なんですか?」
「恋人同士なのに、お互いの事知らないのはおかしいでしょう。私の好きなものとか嫌いなもの、趣味とか家族構成、それからスリーサイズとか色々書いてきたの」
「す、スリーサイズまで」
「あっ。最後のは冗談だから本気にしないで」
「・・・・・・・そうですか」
若干残念ではあるが。
「それじゃあ、行きましょう。待ち合わせ場所はそのテーマパークにしてあるから」
こうして、目時さんと有宇の仮装カップルによるデートが始まったのである。
「おっそーい。春奈」
テーマパークの入り口あたりに、二人の男女がいた。この二人が今回のダブルデートの相手なのだろう。
「ごめん? 待たせちゃった?」
「うちらずっと待ってたんだから。それより、その子があんたの彼氏?」
「うん。そう、乙坂有宇君っていうの」
「は、はじめまして。乙坂有宇といいます」
「はじめまして。綾部翔子よ。こっちは彼氏のケースケ」
「ちーっす。ケースケです。よろしく」
チャラそうなナンパ男という印象だった。
「へー。可愛い彼氏じゃない。とりあえず、立ち話もなんだし、中に入りましょうか」
四人はそれなりに高い料金を支払い、そのテーマパークに入っていく。
(入っていきましたよ。どうします?)
(この炎天下の中ここでじっとしているわけにもいかないでしょう)
(なら入るしかないですね)
明らかにバレバレな尾行をしている三人組もそのテーマパークに入っていた。
そのテーマパークは水のテーマパークと銘打っているだけあって、その施設は全施設を水着で利用するようだ。入場するとすぐに更衣室があり、そこで皆、水着に着替える事となる。
有宇は手早く着替え、更衣室を後にした。
女子は色々と準備に時間がかかるようだ。しばらく待たされる事になる。しかし、日曜日という事もあり多くの人でテーマパークは賑わっていた。男女のカップルも多く、こんなところに本当の恋人とこれたとしたら良い思い出になる事であろう。と、そんな事を考えていた時だった。いよいよ、女性陣が着替えて更衣室から出てきた。
「お待たせ」
目時はカラフルな柄のビキニを身につけていた。化粧のせいか、あるいは雰囲気のせいか、身につけている水着のせいなのか。目時は普段より大人っぽく、そして色っぽく見えた。まあ、高校一年生と高校二年生の差といってしまえばそれまでなのだが。この位の思春期の頃は一歳の年の差でも無性に大人っぽく感じられるものなのだ。
「どう・・・・・・・? 似合ってる?」
目時ーーいや、ここは春奈というべきかは心配そうに聞いた。
「に、似合ってるよ」
流石に有宇もここで似合っていないといえるほど無神経ではない。
「お待たせー」
そして春奈の友人でである、綾部も姿を現した。彼女もまたビキニタイプの水着を着ている。
「それじゃあ、遊びに行きましょうか」
そして、四人は遊びに行く事になったのである。
そのテーマパークは水のテーマパークと銘打っているだけで様々な流水型アトラクションがあった。ウォータースライダーや流水型プール、波が来るプールなど様々なアトラクションだ。中には遊園地のように水の中を乗り物で移動するようなアトラクションもあった。
「ねぇ、有宇君、次はあれに乗りましょう」
それはこのテーマパークの目玉である超大型のウォータースライダーだ。高さ数十メートル。最大速度は十数キロになる事だろう。事故でも起きたら大変ではないだろうかと危惧する。
「ああ。わかった」
二人は長い階段を登り、ウォータースライダーのてっぺんにたどり着き、係員に促され、ウォータースライダーを滑る事になる。
「うわああああああああああ!」
「きゃああああああああああ!」
その時の速度はウォータースライダーとはいえ、絶叫マシンさながらであった。なぜだろうか、男より女のほうがこういう絶叫系は強い気がした。目時は悲鳴をあげつつも状況を楽しんでいるのに対して、有宇はガチで怖がって悲鳴をあげていた。
長いようで一瞬にも感じられる時間は過ぎ、ついに着水する。
ザッバーン!
という小粋の良い音がした。
その時、むにゅん、という心地よい感触がした。
視界を覆われている。
「なんだこれは」
むにゅむにゅとする。
「ゆ、有宇君」
恥ずかしそうな目時の声が聞こえる。
その時、自分が触っていたものが何かを理解する。お約束のラッキースケベだ。
「す、すみません! つ、つい! ふ、不可抗力なんです!」
「も、もう」
目時は恥ずかしそうに目をそらして言った。
「有宇君のえっち」
ズキューンと音がしそうだった。
その時、お約束ではあるがハートを射抜かれた有宇であった。
その様子を友利と柚咲と高城の三人は遠巻きに見ていた。
「くそっ。乙坂のくせに青春しやがって。面白くない」
友利は吐き捨てる。
「友利さんって、そうキャラでしたっけ」
と、柚咲。
「友利さん、人の幸せを素直に祝福できないのは人として些か狭量だと思いますよ」
と高城。
「わかってますよ。あー。お腹減ったし、ラーメンでも食べますか」
こんな真っ昼間からラーメンを食べるとは女子力的にいかがなものかと思った。当然この施設には食事どころも豊富にあった。ただし値段は微妙に高く、味もそこそこ、まあ、食べれないわけではないのだが。
その時だった。
テレビでニュースが流れていた。
下着泥棒の話だ。何でも最近よくプールなどで着替えを盗まれる事件が多発しているらしい。
その時、友利は流していたが、まさか今日、その時、女子更衣室にその下着泥棒が潜伏しているとは思っても見なかった。
「そろそろ帰ろうか。楽しかったし」
四人は満足し、いよいよ帰ろうとした時の事だった。女子更衣室の前に人だかりができていた。どうやら清掃中の看板があり、出入りできないようになっている。
「清掃中? どうなってんの」
四人ーー正確に言えば男子は着替えられるのだが、は足止めを食らっていた。
「はぁ・・・・・・・・はぁ」
男は典型的な下着フェチの変態男だった。今日もまた、従業員として上手く潜伏した。アルバイトとして働き始め二週間。ついに犯行を決行する事にしたのだ。女子更衣室のマスターキーも入手している。男はロッカーキーを片っ端から開け、財布や貴金属などには目もくれずにひたすらに着替えの下着を盗んでいった。
「そろそろ限界か・・・・・・・」
これ以上女子更衣室にいるのはまずい。下着フェチの窃盗犯は一目散に逃げ出していく事になった。
スタッフにより女子更衣室が出入りできるようになった。しかし、すぐに女性たちの悲鳴が響きわたる。
「下着がない!」
「私も!」「私も!」「やだ! どうやって帰れってのよ!」
女子更衣室は一気にパニックになっていた。
「ん? なんだ? 想像しいな」
有宇は疑問に思った。
「知らないのかよ。何でも女子の下着が盗まれたんだってよ」
そう、男ーーケースケは言う。
「下着!? まさか下着泥棒か?」
「みたいだな。犯人はもう逃げ出してここにはいないみたいだ」
「くそ! 逃がしておけるか!」
「おい! 待てよ! どこ行くんだよ!」
有宇は走り出す。
「どこだ! どこかに怪しい奴は!」
その時、大きな荷物をもって、走っていく怪しげな男が見えた。
「待て!」
しかし、男は待たない。間違いない、あいつが犯人だろう。
「くそ!」
走ってもなかなか追いつけない。
とーー。
その男はずてーん、とこけた。正確に言えば足をひっかけられてこけたのだが。そこにいたのは友利奈緒である。
「人の下着を盗むとは、許してはおけませんね」
「友利! なんでお前がここに・・・・・・・」
勿論、尾行していたのは気づいていたが一応言っておく有宇であった。
「はぁ・・・・・・・はぁ。有宇君、大丈夫だった?」
「ええ。何とか」
「そいつが私たちの下着を」
「私たち?」
つまりは、目時さんは今下着を身につけていない。ノーパンでノーブラという事になる。
「う、うるさい! 変な想像しないの!」
目時さんは叫ぶ。
こうして、下着泥棒が起こした騒動は無事解決されたのである。
「・・・・・・・まあ、色々あったけど楽しい一日が過ごせてよかったわ」
そう、目時の友人は言う。
「けど、ひとつ疑問があるわね。あんた達って、本当につきあっての?」
「え?」
「勘違いじゃなければ、なんかあんた達ってよそよそしく感じるのよね? なんか作ってるっていうか」
「そんな事ないわよ!」
目時は叫ぶ。
「ふーん。じゃあ、キスしてみてよ」
「え?」
「つきあってるならもうキスくらい経験済みなんでしょ。別にいいじゃない。キスしたら信じてあげるわ」
「あ、あたし達はまだつきあったばかりでそういう事は」
「ふーん。だったらいいじゃない。どうせするんだし。いいきっかけになって」
「わ、わかったわよ」
「え?」
「すればいいんでしょ。キス」
目時は開き直ったような目になる。そして、目を閉じる。ゆっくりと、目時の顔が近づいてくる。
まずい、このままだと。流れそうになる有宇だった。
「ちょ、ちょっと! いくら何でも彼氏の振りでそれはやりすぎでしょうが!」
友利の叫び声が聞こえる。
「と、友利!」
「ふーん・・・・・・・やっぱりそうなんだ。本当の彼氏じゃないんだ」
満足したように綾部は言う。
「まったくもう、春奈も見栄張っちゃって」
「姉ちゃん、もうやめようよ」
「ケースケ、な、何言い出すのよいきなり」
「だって、俺達も別に恋人じゃないじゃん。引っ込みつかなくなって、弟の俺に恋人役頼んできただけじゃん。おあいこだって」
「あ、あはははは・・・・・・・こいつ何言ってるのかしら」
「・・・・・・・つまり」
「お互い様だった、って事?」
こうして、目時との偽装カップルの一日は終了したのである。
【完】
「目時さんに惚れられてどうしようもなくなる話」
「ちっ」
目時はその日、隼翼の命令により、能力者の追跡をしていた。そしてやっとの事で能力者を追いつめたのである。
「やっと、追いつめたわよ。観念しなさい」
「くそっ!」
催眠の能力により無力化されるよりも前に、能力を発動されたようだ。
「し、しまった!」
逃がしてしまった。目時は地面に倒れ、意識を失う。
「うっうう・・・・・・・」
「大丈夫ですか!? 目時さん!」
その時、隼翼から命じられ、目時と捜索をしていた有宇は気を失っている目時を発見する。
しばらくして目時は目を覚ました。
「わ、私は・・・・・・・一体」
その時、目時は一番最初に有宇を目にしたのである。
生まれたての鳥が最初にみた存在を母親だと思う、という習性を知っているだろうか。本当なのか嘘なのかはわからないが、真しやかには語られている。 探索していた能力者の能力。それはそういった類の能力だった。
そう、最初にみた人間を無条件で好きになってしまうという能力だったのだ。
(妹がいると今後の展開がやりづらい、妹いるのにそんな事していいの? おかしくない、ってなるので以下の展開歩未ちゃんの存在は省略します)
コンコンコン。
「・・・・・・・ううっ」
朝、目を覚ました時の事だった。現在、有宇は一人暮らしといってもいい。歩未は中学校の修学旅行により、しばらく帰宅してこない。
そんな時だった。
「あっ。ダーリン起きた?」
コンコンコン、という音。まな板を包丁でたたく音。
おかしい、なぜなんだ。歩未は今、修学旅行で家にはいないというのに。なぜまな板をたたく音がするんだ。
「・・・・・・どうして、まな板を叩く音が」
「待っててね。ダーリン。これから、私が愛の籠もった朝ご飯を作るから」
ごしごし。目をこする。一瞬で目が覚めた。
「ひ、ひぃああああああああああああ!」
マンション全体に響きわたるような有宇の悲鳴。
「どうしたの? ダーリン。いきなり大声だして。おかしなダーリン」
その女性はくすくすと笑う。
「ど、どうして! どうして目時さんがここに! そ、それになんですか!その格好は!」
そこにいたのは目時だった。さらにはその格好だ。格好。目時はエプロン以外に身につけていなかった。後ろから見ればお尻が丸見えである。俗に言う裸エプロンである。
「もう、ダーリン。私の事はハニーって呼んでくれなきゃ」
甘い声で言ってくる目時。
「と! とにかく服を! まともな服を着てください!」
「えー。ダーリンが喜ぶと思ってせっかく着たのに」
「い、いいから! こっちの心臓が持ちませんってば」
有宇は叫んだ。
「・・・・・・・で?」
面白くなさそうに足と腕を組みながら、友利奈緒は言う。
「はい。ダーリン、あーん」
「あーん」
「ダーリン、おいしい?」
「う、うん。おいしいよ」
生徒会には二人組のバカップルがいた。ひたすらにイチャイチャしている。
「これは一体、どういう事なんですか?」
友利奈緒は極めて不愉快そうに言う。誰でも目の前でイチャイチャされていたら面白くはないだろう。
「それが・・・・・・」
有宇は事情を説明した。
「へー。要するに能力者の能力により、目時さんがこうなってしまった、というわけですか」
と、友利。
「まあ、要するにそうなるな」
「それで。いつまでそのイチャイチャを私達は見ればいいんですか?」
「し、知らないよ。そんなの僕が聞きたいくらいだよ」
「はい。ダーリン。あーん」
目時さんが料理を口に運ぶ。
「あーん」
「おいしい?」
「うん。おいしいよ」
「あああああああ! もう全身鳥肌たってきます! どっかよそでやってください! よそで!」
友利は叫んだ。
「それで、これからどうするんですか?」
「熊耳さん曰く、しばらくすれば能力が解ける可能性もあるけどその能力者を見つけるのが得策だろうってさ。僕だってこのままじゃまずいとは思っているんだよ」
「どうだか。鼻の下伸ばしてまんざらじゃなさそうですけど」
「は、鼻の下なんて伸ばしてないって! 信じてくれよ友利!」
ともかく、有宇は目時と一緒にいる以外になかった。能力者の捜査の方は熊耳の能力に引っかかるまで待たないとならなかった。
「ねぇ、ダーリン。あたし、たいくつぅー。どこか遊びにいこ」
「遊びにいこって。みんな僕たちの為に能力者を探してきてくれているっていうのに」
「いいじゃないの。そんなのは熊耳達に任せて、あたし達は遊びに行きましょうよ」
「とはいってもな」
「いいんじゃないですか。目の前でイチャイチャされるよりはよほど穏やかに日常を過ごせそうです」
と、友利。
まあ、それもそうだろう。おじゃま虫は一足先に退散するより他にない。
「はい。ダーリン。あーん」
「あーん」
二人は繁華街に来ていた。そこで買い食いをする事になる。
「なにかしら。あの二人。真っ昼間からいちゃついて」
「学校にも行かずにいい気なものね」
商店街のおばちゃん達が怪訝そうな顔をする。
仕方ないだろ、僕だって本意ではないんだ。とはいえ、周りからは場をわきまえていないカップルだという印象しか抱かないだろう。
「くそ! リア充が! いちゃつきやがって!」
「ん? なんだ? お前は」
そんな時だった。有宇と目時の前に、一人の男が現れた。
「マジ死ね! リア充! マジ死ね!」
「なんなんだよ。だからさっきから」
そんな時、友利から電話がかかってきた。
「もしもーし。友利です。今、どこにいるんですか?」
「□□町の▲▲あたりだけど」
「なんですって! その近くに能力者がいるそうなんです! 私たちも向かってるんですけど」
「なっ! 僕たちのいるところにその能力者が。どこだ? どこに能力者が」
「能力者? もしかして僕の事を言ってるのか?」
「なっ。まさかお前が能力者なのか」
「そうさ。僕は能力者。誰でも惚れされる事ができる能力を持っているのさ」
「だったらなんなんだよ。さっきのリア充死ねとかは。そんな能力があればモテモテになっているはずだろ」
「僕もそう思っていた。しかし、この能力には最大の欠点があったんだ。どれほど能力を発動しても、僕だけは好きになってくれないんだ」
「能力者は不完全な能力しか発動できない。セオリー通りだな」
「・・・・・・・・ふっ。そういう事さ。この能力のおかげで、周りの人間はモテモテになっていき、僕だけが非モテなぼっちなまま。なんて悲しい結末だっただろうか」
「だったら能力の解除くらいはできるんだろうな」
「残念ながらそれもできない」
「え?」
「ただ、時間が経てば元に戻るよ」
「そうか・・・・・・安心した」
「ここっすか! 能力者がいる場所は」
「乙坂ー!能力者はどこにいるんすか?」
「ここだよ。こいつだよ」
「観念してつかまりなさい!」
「くっ! 捕まりたくない!」
「なんでだ! そんな能力いらないはずだろ!」
「僕にはこれくらいしかないんだ! この能力、僕以外の人間を惚れさせる能力以外に何にもないんだ! この能力がなくなったら僕はもう僕でいられない!」
「うわー。なんだかかわいそうな人ですね。軽く同情します」と、友利。
「この能力をなくすくらいなら。くらえーーーーーーー!はあーーーーーーーーー!」
能力者は能力を発動した。
「な、なんですか! この光は!」
と、高城。
「ま、まぶしいです!」
と柚咲。
「くっ。なんなんだ一体」
と、熊耳。
目を開けた時、全員が全員、乙坂有宇を目にしていた。
エピローグ。
そこは生徒会での一室。
ジャージを着た熊耳がおもむろにジャージを脱ぎ出す。
「乙坂」
「な、なんですか?」
「ヤらないか?」
ジャージの下は裸だった。
「ヤ、やりません!」
「そうか・・・・・・気が向いたらいつでも後ろから掘ってくれ」
おぞましさ故に、鳥肌が立つ乙坂だった。
「LOVE(エルオーブイー)! LOVE(エルオーブイイー)! OTOSAKA(おとさか)! LOVE(エルオーブイイー)! OTOSAKA!(おとさか) OTOSAKA(おとさか)!」
さっきから法被を着て扇子を振り回しているのは高城。
「高城、さっきっからやかましいけどなんなんだ一体!」
「はい。不肖私。ゆさりん親衛隊を脱退し、これからは乙坂有宇! 親衛隊隊長として活動する事にしました! 乙坂有宇を応援し! 崇拝し! 進行する! ただそれだけの乙坂有宇の為のファンクラブです!」
「そ! そんな気色の悪いファンクラブを作るな!」
「おっまじないー! おっまじないー! 柚咲の事を好きになるおっまじないー! おっまじないー! おっまじないー! 柚咲の事だけを見るおまじないー!」
と、柚咲。
「な、なんだ、そのおまじないは」
「勿論、乙坂さんが柚咲の事だけを好きになって、柚咲の事だけを見るおまじないです!」
と柚咲。
「ねぇー。ダーリン。これから二人でいいことしにいこ」
ふっ。目時に抱きつかれ、耳元に息を吹きかけられる。
「なっ! やめてください! 乙坂君はこれから私と遊びに行くんです! ねー、乙坂君」
と、友利。二人ともピッタリと距離を詰めて離れない。
絵に描いたようなハーレムだった。
ーーだが。
「正直、疲れる」
早く皆正気に戻って欲しい。そう思う乙坂だった。
【完】