Silent-Nightmare of Second- 作:reizen
「海! 見えたぁっ!!」
校外学習当日。1年1組の生徒たちはバスから見える海に大はしゃぎする。やはり遠出となると生徒たちは楽しみなのか、騒がしさは普段の倍はあるだろう。
その中でとある二人の席は海も見ずに爆睡していた。
「この騒ぎの中でよく寝れるな」
「そうですわね。それにしても………なんというか………」
一夏の言葉に同意したセシリアは瞬と本音を見て顔を赤くする。当然だ。2人はお互い抱き合って寝ているのだから。
「まるでどこか出かけた後、はしゃいで疲れて寝てしまった兄妹みたいだな」
「お互いが抱き合ってと言うのは違うんじゃないかな………」
それでも仲が良いのは良いことだ、と思う一夏。
それからしばらく会話を続ける2人だったが、千冬に「そろそろ着く」と言われて大人しく座る。その時、瞬と本音が寝ているのを見て起こしに行こうと近付き、瞬に手を伸ばすと―――ナイフが千冬を斬りつけるために通過した。
「……あれ? 織斑先生?」
「………目が覚めたか?」
「はい。てっきり誰か僕を狙ったのかと思いましたよ。すみません。勘違いしてしまって」
「いや。ちゃんと警戒心を持つのは良いことだ。その代わりと言って良いのかわからんが、布仏は起こしておけ」
「わかりました」
違和感を覚えながらも本音を起こそうとする瞬。少しどこを触って起こそうかと迷ったが、肩を軽く持って優しくゆする。
「いや、良いのかよ!?」
一夏が突っ込むが、千冬はため息を吐いて答えた。
「警戒心を持つのは当然のことだ。織斑、貴様ももう少し初対面の奴に対して警戒心を持つようにな」
そう言って千冬は席に戻る。その途中―――
「それと織斑。教師にため口とはいい度胸だな」
「ヒッ!?」
睨まれた一夏。幸いなことに殴られることはなかったが、これが一夏に取って少しトラウマになったのは言うまでもない。
■■■
本音さんを起こすと同時にバスが停車し、クラスメイトたちは下車して自分の旅行カバンを回収して並ぶ。僕らは最後に降りて列に加わった。
「それでは、ここが今日から三日間お世話になる花月荘だ。全員、従業員の仕事を増やさないように注意しろ」
「「「よろしくお願いしまーす」」」
僕らは一斉に挨拶する。僕はまだソプラノだけど、織斑君が少し低いから聞いた人には変に聞こえただろう。
「はい、こちらこそ。今年の一年生も元気があってよろしいですね」
歳は大体30代ぐらい。身体能力は……一般レベルか。一応初対面だから最低限の警戒はしておこう。
「あら、この方たちが噂の……?」
意外に目ざとい。警戒レベルを上げる必要があるか。
「ええ、まぁ。今年は2人も男子がいるせいで浴場訳が難しくなってしまって申し訳ありません」
「いえいえ、そんな。それに、良い男の子じゃありませんか。しっかりしてそうな感じを受けますよ」
「しっかりしているのは片方だけです。もう一人はただのバカです」
辛辣だった。とりあえず、しっかりしている方は僕だけだと思いたい。
「挨拶をしろ、二人とも」
「お、織斑一夏です。よろしくお願いします」
「影宮瞬です。不審な動きをしたらわかっていますね?」
「安心しろ、影宮。流石にそれはない」
…………まぁ、学園が選んだところだから少しは信頼してもいいか。場合によっては―――化けの皮が剥がれた時に潰せば良い。
後で不審な物がないか調べておこう。
「うふふ。どちらも活発的で面白いですね」
「不出来な者たちですみません。………片方は事情が事情故仕方ないのですが」
「あらあら。ですがそれも仕方ありませんよ。環境が環境なので仕方ないですし………あら?」
僕らから視線を外した女将さん。視線の先は本音さんに向いていた。
「まぁまぁ、とても可愛らしい子ですね。どこから来た―――」
「すぐに彼女から離れないと、その頭を撃ちます」
「ストップストップ!! 落ち着け瞬!」
「邪魔しないで織斑君。不安要素は消しておくべきだ」
「落ち着け影宮! すみません清州さん、今すぐ布仏から離れてください!」
その後、清州さんに睨まれた―――わけではなく、何故か微笑ましい視線を向けられた。
「それじゃあみなさん、お部屋の方にどうぞ。海に行かれる方は別館の方で着替えられるようになっていますから、そちらをご利用なさってくださいな。場所がわからなければいつでも従業員に聞いてくださいまし」
女子たちが返事をする。場所がわからないなんてことはない。衛星は何のためにあると思っているのだろうか?
「影宮、少々焦り過ぎだぞ」
「だからって警戒を緩めろと言うのですか?」
「………そうは言わんが………」
織斑先生は迷っている。僕は放っておいて部屋に直行する。確か僕の部屋は布仏さんと一緒だったはずだ。もしこれで織斑君とだったらたぶん僕はキレるかもしれない。………よくよく考えると女子と同じ部屋って言うのは色々と問題かもしれないけど、僕の精神を安定させる上で必要なアイテムとも言える。
僕は部屋に入るとすぐに枕を出してその場で横になった。
■■■
本音は級友との親交を軽く深めてから部屋に入る。中では既に瞬が寝ていて、荷物は放置されている。その光景を見てどういう状況にあるのか察した本音は身体を揺すらずに荷物を置き、水着を取り出して移動しようとしたところで瞬は立ち上がった。
「……あ、本音さんか」
「おはよ、みーやん」
瞬は荷物を持ってどこかに行った。本音は疑問を感じたが、後で来ると考えて先に向かうことにした。
忘れ物をしたことを思い出した本音は一度部屋に戻り、回収して部屋を出ようとしたところで部屋のドアがノックされた。本音が出ようとしていた矢先である。
本音がドアを開けると相手は驚いた様子を見せたが、すぐに質問した。
「のほほんさん、瞬はいるか?」
「どこかに行ったけど……」
「そうなのか………どこに行ったんだ、アイツ」
しばらくしても瞬はビーチに姿を現さなかった。一緒に遊ぼうと思っていた一夏はこうして誘いに来たのだ。
「―――僕がどうしたの?」
「うわっ!?」
突然後ろから声をかけられたこともあって一夏は少しオーバー気味に驚く。それにいい思いをしない瞬は一夏にジト目を向けた。
「何だ。瞬か……」
「いくら何でも驚きすぎじゃないかな?」
「急に話しかけられたら誰だってそうなるって………」
工具を置きに来たようで、瞬は工具を置いて洗面所の方に移動してツナギを脱いだ。
「おりむー、先に行ってて~」
「何でだ? 待つぞ?」
「良いから~先に行かないと~しののんたちに「おりむーに襲われた~」って言っちゃうよ~」
「いくら何でもそれは酷いぞ!?」
「あ、しののん? 実はおりむーにさっき押し倒されて~」
「あー、もう! わかった! わかったから!!」
すぐに一夏は消える。本音は「計画通り」と笑っていると、瞬が出てきた。
「あ、いたんだ。てっきりもう行ったかと思ったよ」
「む~。そこまで酷くないよ~」
頬を膨らませる本音を愛おしそうに見る瞬。
「じゃあ、行こうか」
「うん!」
二人は部屋を出て別館の方に向かう。瞬から本音の手を握ったのは瞬ははぐれないようにという理由だが、本音は顔を赤くしていた。
■■■
「な、なんて動きなの!? 全然倒せないじゃない!!」
「1人で全部拾ってスパイクを打つなんてどんな体力をしているのよ!!」
本音さんがトスする球をまた誰もいない場所に打ち込む。中には本気で悔しがる人もいてちょっと嬉しくなったけど………僕にしてみれば割と日常的なことだ。透さんや静流とやったらこの程度のことなんて軽くなれる。
(………ホント、あの2人は人間を超えているよ)
まるで手応えがないボールを打ち返す。枠内に返せば余裕で勝てる。文句を言う人もいないから何の問題もない。
最後の1点を奪った僕らはハイタッチすると、向こうのコートにいる生徒たちが崩れ落ちた。
「面白そうなことをやっているな」
織斑先生が水着姿で現れた。その後ろでは黄色いビキニを着た山田先生もいる。
全員が織斑先生の水着姿を見て呆然とするけど、その要素があるのだろうか?
「織斑先生もビーチバレーします?」
「そうだな。ハンデとして私は1人で「山田先生も織斑先生の所でビーチバレーしましょうよ」何?」
「これで2対2。あ、本音さん、もし疲れてるなら休んでて良いよ」
「むしろ疲れる要素がないんだけど………」
僕が選んだキツネの着ぐるみタイプの水着で頭をかく本音さん。
「夏の暑さを舐めちゃダメだよ。ほら、水分取って休憩しないと。それに3連したんだからそろそろ倒れてもおかしくないよ」
前もって準備していたビーチパラソルの下に引いてあるシートに座らせる。首の周りにタオルを巻いて頭に冷えピタを貼る。少し楽になったのか楽そうな顔をした。
「でもどうするの~? 流石に1人じゃ試合以前の問題だよ~」
「あ、そこは大丈夫。ここには本音さんよりも大事にする人間なんていないから」
僕は目当ての人物をすぐに動けなくして試合会場に連れて行った。
「って、いきなり何するんだよ!?」
「ごめんごめん。ちょうどいい踏み台が見当たらなかったから」
「だからって何で俺? 仲が良いんだし別にのほほんさんでも―――」
「仕方ないな。じゃあボーデヴィッヒさんにでも踏み台をお願いするか」
「………わかった。やってやるよ」
理解が早くて何よりだ。
ということで僕と織斑君VS織斑先生と山田先生となった。中には勝敗の結果がわかり切っているという風で離れていく人もいるようだ。
織斑先生がサーブする。織斑君にはネットの傍にいてもらっているから僕が受けるしかない。
僕が完全にボールの威力を殺して織斑君の方に飛ばす。織斑君はそれをトスしたので僕は織斑君を踏み台にしてボールを思いっきり叩きつけた。
「―――え?」
誰かが驚いたらしいけど、ぶっちゃけ慣れた。
誰だって僕みたいなチビが早いスパイクを繰り出したら唖然とするだろう。そして誰も思わない。織斑先生の近くをボールが早く通過するなんて。
「しゅ、瞬……?」
「織斑君、トスはあと5m高くて良いよ」
―――そっちの方が山田先生を潰せるから
「ひっ?!」
何故か悲鳴を上げる山田先生。何か恐ろしいことでもあったのだろうか。
「織斑先生、もう少し本気を出してください。ウォーミングアップにすらなりませんから」
そう言って僕はサーブを打つ。織斑先生がそれを受けたけどボールは山田先生の胸に強打してどこかに飛んでいった。
「何ッ!?」
「バレーでツイストサーブを打てないと誰が決めました?」
完璧なものかと聞かれたら流石に否定するけど、それでも相手の予想を大きく上回る攻撃は効くものだ。
………静流を倒すために開発した技は有効みたいだ。
「………良いだろう」
織斑先生の目が変わる。彼女も本気を出したらしい。
「加減は無しだ。本気で行かせてもらう」
もう一度僕のサーブ。僕はまたサーブから本気を出した。
試合は結局流れてしまった。教員の数少ない休憩時間ということもあるので山田先生と織斑君がストップをかけたのだ。織斑先生は渋々と言った感じで海に行ったけど残念で仕方ない。
「みーやん、だいじょうぶ~?」
「我ながら大人げないことをした気がする」
まぁ、僕もかなり限界が近かったけどね。
ただでさえ、対静流用必殺技はエネルギーを多く消耗するんだ。冷静に考えてあそこで負けるべきだったんじゃないかって思っている。
「そうだ、本音さん。後で泳ぎに行かない?」
「うん! 行こう!!」
本音さんはかなり乗り気だ。その様子が少し可愛く思えた僕は思わず撫でてしまった。
「な~に~?」
「ううん。ちょっと撫でたくなっただけ」
キツネの着ぐるみタイプを着ていることもあって本当に可愛い。
僕は自分の所に引き寄せてひたすら愛でる。周りからの視線は痛いけど、気になったのは集中した最初だけだ。
「泳ぎに行かないの~?」
「もうちょっとだけ」
だって今海にいるし―――それにさっきから誰かがこっちを見ているからね。
■■■
瞬と目が合った。
その人物はまるで自分が見られたような錯覚をするが、それでも標的に銃口を向ける。
―――もっとも、その人物は普通の人間だ
例え上空から石礫と岩石を降り注がれたとしても回避することなんてできない。というか、いくら訓練積まれていても来ることは察知しても回避することなんて難しいはずだ。
「これで5人目か。随分と狙われているんだな、瞬の奴」
「全く。せっかくのデート中だというのに邪魔をするとは無粋な奴らだ」
悪魔2人がそんなことを言っていると、ゾロゾロと武装した人間が現れる。
「あー、面倒だ。おいテメェら。俺に勝てとは言わん―――だがウォーミングアップ程度にはなれよ」
「静流、それは無茶だ」
「だろうな」
それから始める戦闘音は周囲に張られた防音壁によって遮られており、瞬と千冬以外には察知されなかった。もっとも千冬は何かが起こっているという程度の認識しかしていなかったが。
ちなみに「ツイストサーブ」と言っているのは、彼らが某テニスマンガを読んだ時にそんなことを言っていたからです。似たようなものだと判断して敢えて「ツイストサーブ」と言っています。
だからたぶん、厳密には違うかと。