Silent-Nightmare of Second-   作:reizen

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ep.23 篠ノ之束はお姉ちゃん

 翌日、昨日の旅館近くの砂浜から少し離れた場所でただ一人を除いて生徒全員が整列していた。

 ちなみにこの砂浜に行くには旅館から海の方に移動して整備された道を歩き、水族館であるあるな水中トンネルを通ってくることができる。周囲は一部崖になっていて、外部からの撮影はできないように特殊なバリアが張られている。

 

「ようやく全員集まったか。おい、遅刻者」

「は、はいっ!」

 

 珍しく遅刻してきたボーデヴィッヒさん。同居人は誰も声をかけなかったらしい。ちなみに僕の部屋には数人本音さん目当てで遊びに来たけど、僕が部屋に帰るとニヤニヤして帰っていった。

 何かあるとか思っているのだろう。実際のところ僕らは何もしていない。

 ボーデヴィッヒさんがコア・ネットワークの事を説明しているけど、僕は別の事を考えていた。

 

(今日のデータ取り、どうしよ)

 

 隼鋼には基本的に武装の追加とか来ていない。というかまず来ることはない。あれかな? 一人で新たに機動力を上げておけって話になるのかな?

 

「さて、それでは各班ごとに振り分けられたISの装備試験を行うように。専用機持ちは専用パーツのテストだ。全員、迅速に行え」

 

 迅速に行えと言われても、どうしろと? という感じだ。

 仕方ない。僕はISの地上戦を練習しよう。……そう言えば、朝はどこからか落下したような音がしたな。罠は壊されていたから犯人は捕まえられなかったけど。もしかして透さんと静流が喧嘩でもして静流が罠にかかったけど破壊したとか?

 一部の監視カメラが使えなくなっていたから、なくはない。

 

「ああ、篠ノ之。お前はちょっとこっちに来い」

 

 本音さんがクラスメイト達に引きずられていくのを悲しく思っていると、ふとそんな言葉が耳に入って来た。

 

「お前には今日から専用―――」

「ちぃいいいちゃぁああああああああんッッッ!!」

 

 砂煙を巻き上げて何かが走ってくる。僕は素早く本音さんの方に移動して傘を出して砂煙をガードした。

 

「………束」

「やあやあ! 会いたかったよ、ちーちゃん! さあ、ハグハグしよう! 愛を確かめ―――ぶへっ」

「ちょうどいい、影宮。鋼鉄製の縄はないか?」

「棘付きならありますよ?」

「構わん」

「構おう!! 乙女の柔肌に傷つくことを構おう!?」

 

 …………いや、誰?

 そう思ったけど、関係ない。僕は懐から棘付きロープを出すと顔を青くしたその人が全力で抵抗して逃げ出した。

 

「影宮、済まないがそのロープを少し借りれないだろうか?」

「………知り合いなのでは?」

「知り合いだからこそ、だ。煮たり焼いたりして少しは黙らせる必要がある」

「煮たり焼いたりしたら黙らせるレベルじゃないですけど………」

 

 まぁ、織斑先生はまだマシだけど面倒ではあるし、今は大人しく渡しておこう。いざとなればどうにかするし。

 

「殴りますよ」

「な、殴ってから言ったぁ………。し、しかも日本刀の鞘で叩いた! 酷い! 箒ちゃん酷いよ!!」

 

 彼女は一体日本刀をどこから取り出したのだろう?

 

「え、えっと、この合宿では関係者以外―――」

「んん? 珍妙奇天烈な事を言うね。ISの関係者と言うなら、一番はこの私を他にいないよ」

「えっ、あっ、はいっ。そ、そうですね………」

 

 あっさりと引いた山田先生。声をかけるのは良いけど引くのが早すぎる。だから生徒に舐められるとそろそろ気付いた方が良い。

 

「おい束。自己紹介くらいしろ。うちの生徒たちが困っている」

「えー、面倒くさいなぁ。私が天才の束さんだよ、はろー。終わり」

 

 その態度は僕に警戒心を抱かせるには十分だった。天才という人種は人を困らせるのが得意らしい。

 

「はぁ……。もう少しまともにできんのか、お前は。そら一年、手が止まっているぞ。こいつのことは無視してテストを続けろ」

「こいつは酷いなぁ、らぶりぃ束さんと呼んでいいよ?」

「うるさい、黙れ」

 

 ため息を吐く織斑先生。僕は同情的な視線を向けると、織斑先生はさらにため息を吐く。

 

「え、えっと、あの、こういう場合はどうしたら……」

 

 心配になったのか山田先生が織斑先生に尋ねると、

 

「ああ、こいつはさっきも言ったように無視して構わない。山田先生は各班のサポートをお願いします」

「わ、わかりました」

 

 友人としての義務と思っているからか、とはいえ織斑先生のアイアンクローから逃げる人だからなぁ。たぶんスピードなら僕は追従できるけど、パワーじゃどうにもならない。

 

「むむ、ちーちゃんが優しい……。束さんは激しくじぇらしぃ。このおっぱい魔神め、たぶらかしたな~!」

 

 僕もそろそろ別のことをしようかと思っていると、そんな言葉が聞こえてきたので振り向く。よかった。本音さんじゃないや。

 

「きゃああっ!? な、なんっ、なんなんですかぁっ!」

「ええい、良いではないか良いではないか~」

「止めろ馬鹿が。大体、胸ならお前も充分にあるだろうが」

「てへへ、ちーちゃんのえっち」

「影宮、ギロチン持ってこい」

「流石に持ってませんよ」

 

 おそらく透さんも準備していないだろう。必要ないから。

 

「……あの、それで……頼んでおいたものは……?」

「うっふっふっ。それは既に準備済みだよ。さぁ、大空をご覧あれ!」

 

 反応が起こるとすぐに隼鋼を部分展開して狙いを定めようとしたところで織斑先生に止められた。

 

「まだいい。それとわかっていると思うがな、束」

「なんじゃらほい?」

「アレをそのまま着地させようものなら、破壊させるからな?」

 

 すると束と呼ばれた女性は素早く何かを入力し、減速させてある程度の所で支えを射出して固定する。

 菱形状のそれからアームによってISが出された。

 

「じゃじゃーん! これぞ箒ちゃん専用機こと「紅椿」! 全スペックが現行ISを上回る束さんのお手製ISだよ!」

「織斑先生、あの菱形の奴って持って帰って良いですか? 先輩にはお世話になっているのでプレゼントしたいんです」

「そうだな。旅館の駐車場になら移動して構わん。そこで渡せ」

「ストップストップ!! そこ! なに別の所で騒いで……いる……」

 

 束って女性と目が合ってしまった。

 だけどその女性の様子がおかしく、僕の所に接近してくる。

 

「………似てる」

「おい、束。急に―――」

 

 僕は束という女性にアッパーをかました。本音さん以外の女性にパーソナルスペースに入られるのは我慢ならないんだ。

 

「た、束さん!?」

 

 織斑君がその光景に驚いて近付いてくる。でも僕は容赦なく―――思い上がった家畜を潰すために止めを刺そうとしたところで織斑先生に止められた。

 

「落ち着け、影宮。こいつはまだ生かす必要がある」

「………わかりました」

 

 嫌々だけど、大人しく従うことにした。

 

「さて、と。山田先生、少しこいつと話すことができた。生徒の事をよろしくお願いします」

「わ、わかりました」

 

 織斑君がこっちに詰め寄ってくる。が、それを織斑先生が見ていたようで―――

 

「織斑、先程の件で影宮を責めるのは禁止する」

「な、何言ってんだ千冬姉!?」

「織斑先生、だ。影宮、織斑が余計な事を言った場合、ISを使わなければ倒して構わん」

「わかりました」

 

 余計なことを言った場合、ということに驚きを感じたけど僕は突っ込まないことにした。

 

 

 

 

 

「さぁ! 箒ちゃん、今からフィッティングとパーソナライズを始めようか! 私が補佐するからすぐに終わるよん!」

「……それでは、頼みます」

 

 しばらくしてからアイアンクローをした状態でさっきの人を連れた織斑先生が戻ってきた。

 あっさり離して先程の事がなかったかのように作業を始めているけど、周りは流石に気になって仕方がないようだ。

 

(……姉妹仲はあまりよくないのかな?)

 

 フランクに話させようとした姉だけど、妹は無視したりと姉を拒絶しているみたいだ。

 

「本音さん。あの機構って《雪片弐型》が零落白夜を発動させるときの機構に似てない?」

「たぶん。でも、それがどうしたの?」

「白式って、もしかしたら篠ノ之束が開発した機体じゃないかなって思って」

 

 ならば少し納得できることがいくつか起こる。

 

「どういうこと~?」

「篠ノ之さんは篠ノ之束の妹だけどISを持っていなかった。考えてみればこれっておかしいことじゃない? 妹から姉に対する評価はマイナスだとしても、姉から妹に対する評価は高い。だから最高の機体をプレゼントしたくて敢えてプレゼントしなかった、とかじゃないかな?」

「………でもさ、いくら身内ってだけで篠ノ之さんが専用機をもらうのはズルくない?」

 

 たぶん1組じゃない生徒がそう言った。

 

「そう思うのは、まだ君が裏の世界を知らないからだよ」

「え?」

「ISは結局のところ兵器だ。篠ノ之束本人が何を思って作ったのか知らないけど、少なくとも今の汚い大人たちはそういう方向でしか見ていない。それに機体は篠ノ之束製作のハイスペック機。それが個人に渡ったらどうなると思う?」

「……どう、なるの?」

「強くなることを強いられる。そうじゃなければ彼女はいずれ誘拐されて大変な目に遭うってところじゃない? ほら、篠ノ之さんって胸がデカいからいろいろできそうだよね。あんな女に発情する奴の気が知れないけどさ」

 

 少なくとも興奮とかした覚えはないかな。

 でも、篠ノ之さんの体型を考えればそういう風に使おうと考える人間は現れるかもしれない。篠ノ之束の妹ということは少しはもう一人の篠ノ之束を生み出す母体になれる可能性があるのだから。

 

「そう考えると、有名人の血筋って可哀想だって思っちゃうね。特に女なんて男と違って捕虜の扱いとかどうでも良いと思っている人間に渡せば色々されるしね」

「……………」

 

 さっき、篠ノ之さんに良い感情を抱いていなかった生徒は顔を青くして篠ノ之さんに同情的な視線を向けた。それは他の人達も同じで、一気に視線が集まる。

 

「―――まぁそうなんだよねぇ。私は最初は全く宇宙を開拓するために作ったのにどうしてこうなったのかなぁ」

「…………独り言なら申し訳ないですが、たぶん発表する時期が早すぎただけなのでは? 僕は先輩の影響で宇宙は危険がいっぱいだという認識はありますが、大人たちは「所詮空想だ」とか勝手に否定しますからね。銀河系に本格進出していないんだからISくらいがちょうどいいどころかむしろ弱いと思った方が良いのに」

「だよねぇ。本当にそう思う」

 

 うんうんと頷く篠ノ之束。さっきまで篠ノ之さんの機体を見たり織斑君の機体を見たりしていた彼女は何故か僕の所に来ていた。試しに少し動いてみると篠ノ之束も付いてくる。

 

「………織斑千冬はあちらですが?」

「知ってるよ。君に用があるんだ、影宮―――いや、光宮(ひかりみや)瞬君」

 

 すると織斑姉弟と篠ノ之さんが驚いて僕を見た。

 

「………は? いや、光宮って何―――」

「まぁ、それは良いとして―――」

 

 いや、良くないでしょ!?

 だけど彼女はそれ以上語る気はないのか、それともさっさと先に進めたいのかわからない。

 

「やっと会えた」

 

 そう言って彼女は僕に抱き着こうとした。だけど僕はすぐに回避する。砂浜に激突した篠ノ之束だけど、起き上がると泣き始めた。

 

「えーん。せっかく会えたのに全然相手にしてくれないよ~」

「…………」

 

 たぶん、今僕はこの人をゴミを見るような目で見ているに違いない。………そう言えば、訳が分からない状況になったら一度深呼吸して相手の言い分を聞いてから全身の骨を折ると良いって………アドバイスは透さんだけど骨を折る部分は静流だ。

 

「えっと、すみません。僕はあなたと何の接点もないはずなんですけど……」

「覚えてないの!? 10年前に会ったじゃん! その時に一緒にお風呂に入ったりして、「束お姉ちゃん大好き」って言って抱き着いてきたのに~」

「………10年前、ですか」

 

 実は僕は10年前以降の記憶はほとんど消えてしまっている。

 衝撃的な記憶が大体その時に起こった―――そう、両親の死だ。たぶんその時に頭を強く打ったと思っている。

 

「もしかして、忘れちゃった?」

「………ええ」

 

 すると篠ノ之束は泣きそうな顔をして、僕の身体に抱き着こうとするので回避する。

 

「そう言えば、妹さんの相手はしなくていいんですか?」

「………行ってきまーす」

 

 なんというか、名残惜しそうに行く篠ノ之束。すると織斑先生が僕の方に近付いてきて聞いてきた。

 

「知り合いだったのか?」

「………僕も今知りました。10年前って言ったら、両親が自動車の整備不良による爆発で死んだときなんですよね」

 

 そんな会話をしていると、織斑先生から発せられる気配が変わった。そして―――

 

「た、たた、大変です! 織斑先生!!」

 

 急に山田先生が織斑先生を呼ぶ。あの慌てぶりは尋常じゃないかもしれない……気がする。

 

「どうした?」

「こ、これを!」

 

 そう言って山田先生は織斑先生に端末を渡した。

 

「特命任務レベルA、現時刻より対策を始められたし……」

「そ、それが―――」

「待て。少し移動しよう」

 

 先生2人は僕らから距離をとる。かなりマズい案件のようだ。

 しばらく話していたけど、やがて2人は分かれて織斑先生が自分に注目を集めた。

 

「現時刻よりIS学園教員は特殊任務行動へと移る。今日のテスト稼働は中止。各班、ISを片付けて旅館に戻れ。連絡があるまで各自室内待機すること。以上だ!」

 

 だけどみんなは唐突のことで混乱し始めた。だけどそれを収めたのは織斑先生。

 

「とっとと戻れ! 以後、許可なく室外に出たものは我々で身柄を拘束する! いいな!! それと専用機持ちと布仏は我々と共に来い! それと篠ノ之ものだ」

「はい!」

 

 降り立った篠ノ之さんが気合の入った返事をする。

 何はともあれ、僕らはまた面倒なことに巻き込まれるみたいだ。




さて、面倒なことが起こりますよ~
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