Silent-Nightmare of Second- 作:reizen
「では、現状を説明する」
花月荘に戻った僕らは風花の間という宴会用の座敷に案内された。本来なら使う予定はなかったはずだけど、こういう有事の際だからこそ許可が降りたかもしれない。
空中投影型のディスプレイは部屋の明かりをできるだけ落とした方がよく映るので照明は設営が終了すると同時に消された。
「二時間前、ハワイ沖で試験稼働にあったアメリカ・イスラエル共同開発の第三世代型軍用IS『
それを聞いた僕は頭を抱えた。確かアラスカ条約で軍用の開発は禁止されていなかったっけ?
「その後、衛星による追跡の結果、福音はここから2㎞先の空域を通過することがわかった。時間にして50分後。学園上層部からの通達により、我々がこの事態に対処することとなった」
言うなれば第一防衛線みたいな感じかな。でも、軍用相手に訓練機が相手になるとは思えない。
「教員は学園の訓練機を使用して空域及び海域の封鎖を行う。よって、本作戦の要は専用機持ちに担当してもらう」
「はいぃッ!?」
「織斑君うるさい」
僕らが呼ばれたということはそういうことだ。そもそも僕らの機体じゃないとスペック的に無理があるだろうに。
「何でそんなに落ち着いていられるんだよ!?」
「環境の違いじゃない? 僕は静流の友人だから、高がISの暴走如きでとやかく思わないの」
「日本の方に行ったらどうするつもりなんだよ!?」
「今頃IS操縦者が準備しているでしょ。仮に本土の方に行ったって日本は日本で対処すればいい。むしろやらなければならない。そう考えると気楽なものだよ」
というよりも、できるのは透さんぐらいなものかもしれないが。あの人はたぶんISなくてもISを破壊することができるから。
「私語はそれまでにしろ。作戦会議を始める。意見があるものは挙手するように」
「はい」
先に手を挙げたのはオルコットさんだ。
「目標ISの詳細なスペックデータを要求します」
「わかった。ただし、これは二か国間の最重要軍事機密だ。決して口外するな。情報が漏洩した場合、諸君には査問委員会による裁判と最低でも2年の監視がつけられる」
「了解しました」
オルコットさんだけじゃない。他の代表候補生も了承しデータが配られる。僕らにもついでにデータが配られた。
「広域殲滅を目的とした特殊射撃型……わたくしのISと同じく、オールレンジ攻撃を行えるようですわね」
「攻撃と機動の両方を特化した機体ね。厄介だわ。しかも、スペック上ではアタシの甲龍を上回っているから、向こうが有利……」
「この特殊武装が曲者って感じはするね。ちょうど本国からリヴァイヴ用の防御パッケージが来ているけど、連続しての防御は難しい気がするよ」
「しかもこのデータでは格闘性能が未知数だ。持っているスキルもわからん。偵察は行えないのですか?」
代表候補生4人を代表してボーデヴィッヒさんが質問すると、織斑先生が首を振った。
「無理だな。この機体は現在も超音速飛行を続けている。最高速度は時速2450㎞を超えるとある。アプローチは1度が限界だろう」
「1回きりのチャンス……ということはやはり、一撃必殺の攻撃力を持った機体で当たるしかありませんね」
山田先生の言葉に僕を除いて全員の視線が織斑君に向いた。
「え……?」
「一夏、アンタの零落白夜で落とすのよ」
「それしかありませんわね。ただ、問題は―――」
「どうやって一夏をそこまで運ぶか、だね。エネルギーは全部攻撃に使わないと難しいだろうから、移動をどうするか」
「しかも目標に追いつける速度が出せるISでなければいけないな。超高感度ハイパーセンサーも必要だろう」
僕はふと、上の方に視線を向けて銃を抜いた。
「ちょっ、ちょっと待ってくれ! お、俺が行くのか!?」
「「「「当然」」」」
「ユニゾンで言うな!」
「…………まぁ、不安要素はあるけどね」
相手に近接攻撃を食らうかということと、織斑君に唐突に回避された時の対処ができるかという不安は。
「織斑、これは訓練ではない。実戦だ。もし覚悟がないなら、無理強いはしない」
実際、今の織斑君は覚悟なんてものはできていない。唐突のことで混乱するのはわかるけど、いくら何でも酷すぎる。僕らの立場を考えればこういう敵は今後いくらでも出てくるんだ。
「………やります。俺が、やってみせます」
「よし。それでは作戦の具体的な内容に入る。現在、この専用機持ちの中で最高速度が出せる機体はどれだ?」
その質問にいち早く答えたのはオルコットさんだった。
「それなら、わたくしのブルー・ティアーズが。ちょうどイギリスから強襲用高機動パッケージ『ストライク・ガンナー』が送られてきていますし、超高感度ハイパーセンサーも付いています」
普通のISは大体『パッケージ』と呼ばれる換装装備を持っている。
パッケージというのは、わかりやすく言えば追加装甲やそれに付属する武器などが一緒にされたもので、一時期話題になった3色の機体が近接型と砲撃型、高機動型の換装武器を使っていたが、そんなようなものだ。
ちなみにISにはその機体専用の機能特化専用パッケージ『オートクチュール』が存在する様だ。
……たぶん、隼鋼にはないかもしれないけど。
「オルコット、超音速下での戦闘訓練時間は?」
「20時間です」
僕は襖を開けて気配がある場所の真下に移動する。
「……それならば適任―――」
「―――待った待ーった。その作戦はちょっと待ったなんだよ~!」
天井から篠ノ之束が首を出した。
「とうっ!」
天井から降りてきた篠ノ之束を受け止めた僕はそのままリリースして襖を閉めた。
「織斑先生、偵察なら―――」
「ストーップ! その作戦はちょっとストップ!!」
「………兎って焼いたらおいしいんだっけ?」
「ちょっ!? 眼が怖い。眼が怖いから!」
銃をしまって直接卸した方が早そうだと思った僕はまず絞めようとしていると、織斑先生に止められた。
「もう。あっちの意味でおいしく頂かれるなら別に問題ないんだけどさ、物理的に美味しく頂かれるのはちょっと……」
「すみません。吐きそうなので冗談でもそんなことは言わないでください」
そう言うと固まり、三角の形で座って泣き始める篠ノ之束。実際、僕も今ぶちまけそうになっている。
「瞬、いくら何でもそんな言い方はないだろ」
「黙れ唐変木。ギロチンを落とされて死ね」
「ヒッ!?」
本気で怯えられた。
「束」
「ちーちゃん……やっぱりちーちゃんは私の味方なんだね」
「ここはな、IS学園関係者以外立ち入り禁止だ」
そう言って織斑先生は篠ノ之束を外に放り出した。
「話を戻す。今作戦だが―――」
「待って待って!! その作戦ちょっとストップ!!」
また現れた篠ノ之束。ここから本気でウンザリしていると、平然と入ってくる。
「全く。一体何だ」
「聞いて聞いて! ここは断ぜん、紅椿の出番なんだよ!」
「……何?」
「紅椿のスペックデータを見て! パッケージなんかなくても超高速機動ができるんだよ!」
相手にするのも馬鹿らしくなったので無視しているとそんなことを言った篠ノ之束。実の所そこはあまり驚かない。
「紅椿の展開装甲を調整して、ほいほいほいっと。ホラ! これでスピードはばっちり!」
「……聖天○極式?」
「……アル○オン?」
僕と本音さんでそんなことを言っているが、全員が疑問を浮かべている。
「説明しましょ~そうしましょ~。展開装甲というのはだね、この天才の束さんが作った第四世代型ISの装備なんだよー」
へー。そーなんだー。
ぶっちゃけ、天才が何をしてきたところで今更の話だ。
「はーい、ここで心優しい束さんの解説開始~。いっくんのためにね」
「あ、それは良いです。というかそんなことは今はどうでも良いので、織斑先生。それでどうするんですか?」
僕は結論を急がせる。無駄な時間を浪費して準備時間を減らしたくない。
「そうだな。でだ、束。紅椿の調整にどれくらいの時間がかかる?」
「お、織斑先生!?」
オルコットさんは驚いていた。たぶん自分なら問題ないのにと思っているのだろう。でも、こういう場合彼女は邪魔になる。
「わ、わたくしとブルー・ティアーズなら必ず成功してみせますわ!」
「そのパッケージは量子変換してあるのか?」
「そ、それは……まだですが……」
通常、量子変換に1時間前後の時間がかかる。今からするなら作戦に参加できるかどうかというところだ。
「ちなみに紅椿の調整時間は7分あれば余裕だね」
「よし。では本作戦では織斑・篠ノ之の両名による目標の追跡及び撃墜を目的とする。作戦開始は―――」
「織斑先生、これから偵察に行って来ていいですか?」
申し訳ないと思いながら言葉を遮ると、驚いた様子で僕を見た。
「どういう風の吹きまわしだ?」
「別に。ただ、僕は僕でしたいと思っただけので。それに僕の隼鋼は―――調整が無くても高が5000㎞にも満たない鈍馬に負けるほど遅くはありませんし、戦闘スタイル的に1人で戦うのは合っています」
「……良いのか?」
無理をしているとでも思っているのだろう。実は全然そんなことはない。
緊張は僕とは無縁なことってわけじゃなくて、単純に相手がISだからだ。もしこれが仮に静流が実はISを動かせて、機体を奪取したとかなら僕は参加しない。むしろ作戦事態を中止するように具申する。プライドなんてものはまさしくそこらの犬にでも食わせればいいレベルだ。いや、アレは意味が違うだろうけど。
「それに、素人2人のタッグじゃ不安要素はありますからね。それに情報がないなら得れば良い。でしょう?」
「………いや、どっちかというと―――」
「………」
後ろを振り向くと、笑みを浮かべたけど怖い本音さんが立っていた。
「………でだ、どこまで考えている?」
「今回の件、ですか?」
「そうだ」
何とか本音さんを宥めた僕は織斑先生に打ち合わせという名目で呼び出されていた。
「軍用機そのものが篠ノ之束が敢えて暴走させて、妹に華々しくデビューさせるための口実というところでしょうね」
「………やはりそう思うか。まぁ、これは忠告だが―――」
「ああいう手合いは、自分の思い通りにならないとキレるでしょう? 妹がアレなんですから大体察しますよ」
「……ならいいがな」
僕は織斑君と篠ノ之さんに構っている人たちを放っておいて、1人で学園が用意した簡易カタパルトの方に移動する。隼鋼を展開して脚部装甲をカタパルトに接続するとカタパルトのシステムが本格的に起動する。
『影宮』
通信回線が開く。織斑先生からだけどどうしたのだろう?
「どうしました?」
『あまり無理をするな。織斑たちが合流すればお前は援護に回れ』
「わかりました」
こちらは最初からそのつもりだ。無駄な行動はあまりしたくない。
「ところで、織斑先生」
『……何だ?』
「弱かったら、別に倒してしまっても構わないんですよね?」
『みーやん! それフラグ!! フラグだから!!』
「しかも君に倒される方のね」
カタパルトのシステムが指導し、各種センサーが作動して発射時に障害になる物がないことを示す。
『銀の福音は以後「福音」と呼称する。織斑と篠ノ之の準備は10分後に完了する見込みだ。検討を祈る』
「了解。影宮瞬、隼鋼、行きます!!」
カタパルトが作動する。終着点に着くと同時に僕は切り離されてそのまま加速する。
「見つけた」
僕は大型二銃身ライフル《シュヴェルト・ゲヴェール》を展開して引き金を引く。銃口付近からさらに4つの影が現れてそれらが福音を同じように攻撃した。
(もらった!!)
刀を展開した僕はそれを何もないところで振るう。完全に虚を突いたつもりだけど福音は身体を一回転させて数㎜の所で回避した。
福音はそのまま僕の前から去ろうとするけど、逃がすつもりは毛頭ない。そして―――隼鋼からは逃れることができない。
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その光景に、代表候補生一同は唖然とした。
福音は一瞬にして500mの差をつけた。しかし瞬は一瞬にして距離を詰めて福音の背中をナイフで抉った。
ちょうどその時、一夏と箒が出撃した。
「………凄い、瞬時加速の非じゃない……非じゃない………けど……」
シャルロットが徐々に言葉を無くしていく。当然だ。瞬がさっきから距離を詰めたり一瞬で背後に回って切りつけたりとしている。それを見るとどうしても見劣りしてしまう。
(…………とことん、規格外だな)
千冬はそんなことを思った。もちろんそれは紅椿ではなく隼鋼のことである。
隼鋼は福音とエンカウントするまでもかなり加速していた。しかもそれは―――紅椿を超えるかもしれないほどにだ。
『織斑君、福音は細かいスラスターの操作ができる。攻撃の時は工夫した方が良い』
『ああ、わかった』
攻撃しながらも発見を一夏に報告することも忘れていない。
そしてとうとう―――一夏たちが合流した。