Silent-Nightmare of Second- 作:reizen
瞬と鈴音たちが揉めて少し経った。周囲が夕暮れ時になった時、
風花の間に突然アラームが鳴る。
本音がすぐに対応すると、花月荘から去る5機のISの反応があった。
「一体どうした!?」
「脱走です! ブルー・ティアーズ、甲龍、ラファール・リヴァイヴ、シュヴァルツェア・レーゲン、それと紅椿です!」
「全員、今すぐ呼び戻せ!!」
千冬はすぐにそう指示するが、それを真耶が首を振って答えた。
「ダメです! 全員、向こうから通信回線を切っているみたいで応答しません!」
「………あの馬鹿共が」
そう言って舌打ちする千冬。
「布仏、ラファール・リヴァイヴに打鉄のシールドを取り付けることは可能か?」
「システムの書き換えに時間を要しますが、5分後には」
「わかった。山田先生、すまないが彼女たちの回収を頼みたい。一人でだ」
かなり無茶な頼みだが、教師陣の中で千冬に告ぐ戦闘力を持っている。
千冬とて暴走した生徒たちが何の策もないし仕掛けたとは思っていない。勝てる可能性がないわけでもないと踏んでいる。
この暴走によって彼女らに着く制限はさらに大きなものになる。場合によっては監視が付くはずだ。
(真耶から瞬と他の専用機持ちらが揉めていたと聞いていたが、ちゃんと対処しておくべきだったか………)
あの時、千冬は知らないわけではなかった。だが千冬も指揮をしている者として無闇に席を外すわけにもいかないし、向こうにはこういった作戦行動を経験しているラウラがいるからと楽観していた。
「そうだ、影宮はどうなっている!?」
今更頼るのもおかしい話だとは思っているが、千冬はこれまでの瞬の行動から最も頼りになると思う人物が瞬だ。本人はいい迷惑だろうと思うので口に出さないではいるが。
「通信には応答していません」
「………そうか」
だがこれは彼女はわかり切っていた。何故なら千冬は瞬を休ませるために一服盛ったのだから。
とはいえ、この状況で瞬の不在は痛すぎる。
(隼鋼のスピードは攪乱にもってこいだ。だが………本人が出撃するかどうか………)
一夏と箒の前が行くまでに偵察役を買って出たのは自分が先に倒すためだと千冬は推測している。
そうじゃなければ何もあのタイミングでなくていいし、そもそも瞬は今まで興味を示していなかったのだ。
(………せめて、暮桜が手元にあれば……)
千冬が国家代表を辞退できた一番の理由は、一夏が誘拐された事件後にISに乗る力を失っていったからだ。ドイツで教官をしていた頃はまだ問題なかったが、顕著になったのはその少し後のことである。
「山田先生の出撃後、他の者にも出撃してもらう。全員、いざという時のために備えてくれ」
「「「はい!!」」」
千冬の言葉に全員が返事する。内心千冬は帰ってきたら厳しい処罰を下そうと心に決めた。
千冬の予想通り、専用機持ちたちの優勢だった。
砲撃からのステルスモードを使用した奇襲。さらに紅椿を除くすべての機械が新兵装を量子変換し終わっており、高火力となり本来の戦い方をしている。いくら軍用とはいえ耐えられるものではないようだ。
福音は数の多さに離脱を図る。しかし鈴音を乗せた箒が登場し、瞬時に鈴音を離しながら箒は福音に肉迫する。だがそれはフェイクだった。
福音の手前ギリギリで上昇して離脱。同時に炎の球が福音に襲い掛かる。
甲龍の第三世代兵器「衝撃砲」は砲弾はもちろん砲身すらも見えないことが特徴だが、今回は砲弾の透明機能を捨てて砲口数を増やす機能増幅パッケージ「崩山」の特徴だ。直撃を受けた福音は数でこのまま逃げ切る事は難しいと判断したのか、両翼を大きく開く。
『《
エネルギー弾が全体に放出される。その攻撃で紅椿のシールドエネルギーが減ることを危惧したシャルロットが自身に送られてきた防御パッケージ『ガーデンカーテン』を展開して箒を守るために自分の方に呼んだ。ラウラとセシリアに援護させ、シャルロットは箒と共に交代する。
「足が止まればこっちのもんよ!!」
セシリアとラウラの攻撃で隙を作った福音にそう叫んで鈴音が福音の下から接近する。《双天牙月》で福音を斬り、至近距離で拡散衝撃砲を浴びせた。福音も負けておらず鈴音に《銀の鐘》を浴びせるが最後には福音の片翼を奪った。
瀕死になりながらも敵の機動力を奪った鈴音はそこで油断し、体勢を立て直した福音から回し蹴りを食らった。
「鈴! おのれっ!!」
箒はすぐさま攻撃態勢を取る。展開装甲の設定を少し弄ったとは言え流石と言うべきか、数㎞は離れていた福音との距離をすぐに詰めた。その勢いに乗ったまま福音に2本の刀で斬りかかるが福音はそれをあろうことか掌で受け止めた。
驚きを露わにする箒。刀からエネルギーを放出させるが福音は構わないようだ。
力任せに箒の刀ごと自身の腕を広げる福音。ラウラは箒に武器を捨てて離脱するように指示するが箒はその指示に反してその場で回転すると、機体が箒の意思に反応してつま先の展開装甲を開いてエネルギーの刃を発生させた。
その刃は大きく開いたことで、前に移動させて箒に至近距離で攻撃を浴びせようとした福音の翼を切断し、福音もまた海へと墜ちた。
安心する一同。全員が箒の下に集まり、安堵していると―――海の一部が爆ぜた。
「な、何だ!? 一体何が起こっている?!」
突然のことに慌てふためく箒。その疑問に答えたのはラウラだった。
「全員退避!! これは『
福音が起動してまだ24時間も経っていない。短期間で第二形態になった福音は周囲に球体を生成した状態で上昇し、球体を弾き飛ばす。
『キアアアアアアアッ!!!』
まるで獣の咆哮を思わせる雄叫びを発し、福音はラウラへと迫る。ラウラはスピードに対応しきれず足をつかまれる。
(……そんな……まさか……)
ラウラは信じられなかった。福音は切断された翼を再生し始めたのだ。その時彼女の視界にシャルロットが助けようと接近してくるのを確認したラウラはすぐに叫んだ。
「よせ! 逃げろ! こいつは―――」
ラウラの言葉は最後まで続かない。福音のエネルギーの翼に抱かれ、ズタズタに引き裂かれたからだ。
「ラウラ! よくも!!」
ラウラが海へ墜ちることもいとわず、シャルロットは怒りに任せて福音に攻撃を浴びせようとしたが、一瞬で接近した福音はエネルギーの翼を伸ばしてシャルロットの首を絞め、海面に叩きつけた。
「な、何ですの!? この性能……軍用とはいえ、あまりに異常な―――」
絶望のあまり、声を漏らすセシリア。墜ちた2人を助けようと箒、鈴音と共に攻撃するが福音はセシリアの攻撃を相殺し、セシリアの眼前に迫った。
「させるかぁあああああ!!」
セシリアを守るために鈴音が割って入り《双天牙月》で攻撃し、拡散衝撃砲で牽制するもすべて防がれ、セシリア諸共エネルギーの塊をぶつけられる。
「私の仲間を―――よくも!」
箒は急加速し、福音に接近する。連続で斬撃を放ち、福音に攻撃を、された場合は回避を行う。しかし福音も二次移行したことによってスペックが向上しており、紅椿に引けを取らない―――だがやはり世代差というものは多少存在するようで徐々に福音が押され始めた。
しかし、ここで紅椿の致命的な欠陥が露呈した。―――エネルギー切れである。
声を発する前に箒は福音に球体のエネルギーをぶつけられ、海へと墜落した。
福音はそのまま旅館の方へと向かう。そこで専用機持ちが倒されたことで出撃した教師陣と遭遇したがそれも簡単に撃退した。そして―――そのままプログラムに従ってただ旅館を目指していた。
―――そう、プログラムだ
福音は今、何者かによってそのような行動を行っている。とある人物が発起するようにと。
そのために福音は今旅館へと向かっているのだ。
少しすると、福音はその場で停止。そして―――翼を増殖させた。
次々と生み出されるエネルギーの翼。しかしそれは一発の砲弾が遮る。
「―――これ以上、やらせねぇ!!」
現れたのは一夏だった。
一夏は瞬時加速で福音の前に現れる。先程現れた時とは速度が変わっていた。何故なら、一体どういうことか白式が福音と同じく第二形態に移行していたからである。
既に白式からの情報で第二形態の戦い方を知っている一夏は《雪片弐型》を右手で構え、斬りかかった。
福音は回避するが、一夏はそれを第二形態に移行すると同時に手に入れた新武装《雪羅》をクローモードにして攻撃する。
「逃がさねえ!!」
1mを超える爪が福音の装甲を切断する。その情報が福音に更新され、電子音で説明された。
『敵機の情報を後進。攻撃レベルAで対処する』
4対8翼となったエネルギーの翼を大きく広げ、さらに横腹からも翼を生やした福音は距離を取ると一夏に向かって斉射した。
「雪羅、シールドモードに切り替え!」
咄嗟にシールドを展開する一夏。これもまた雪羅の能力である。
『雪羅』はクローモードやシールドモードなど装備を切り替えて戦うことができる。しかし、今一夏が使用した装備はどちらも重大な欠陥を抱えた。
―――そう、どちらも零落白夜同様にシールドエネルギーを大きく消耗するという欠点だ
旅館に行かないようにシールドを大きく張って攻撃を全て無効化する一夏。そんな時――福音の脇腹に銃弾が直撃した。
「え!?」
突然のことに一夏も驚き、発射された場所を見ると、長距離射撃装備《撃鉄》を構えた本音がいた。
普段はのほほんとしていて頼りなさげなイメージを持つ一夏は意外そうに感じながらも本音をマジマジと見る。そしてすぐに本音に警告した。
「今すぐ逃げろのほほんさん! 訓練機じゃ分が悪すぎる!!」
それは本音自身知っていることだ。そうじゃなければ千冬も最初から専用機持ちに対処を頼んでいない。
しかし今一夏がいる場所はマズいのだ。だからこそ本音という囮は必要だった。
そして本音の狙い通り―――福音は本音のいる方へと移動する。
「させるかぁあああ!!!」
叫びながら本音を守ろうと福音の後を追う一夏。だが、シールドエネルギーの消耗のツケが機体に来ているのか、従来出るスピードが出ない。
福音は見せしめのつもりか、一夏から距離を取って自身の頭上にエネルギーの球体を生み出した。一夏は必死に止めようとするが、予備のエネルギーの翼で回避する。そして―――
「―――あ」
球体は線となって発射された。
猛スピードで本音に向かうエネルギーの塊。本音は今すぐ離脱しようとするが―――間に合わない。
当然だ。今、本音が使っている打鉄はそもそも盾を外し、バランサーを全く調節していない打鉄だ。それによってさらに言うと、《撃鉄》そのものを地面に難く固定したことも原因かもしれない。
そしてとうとう、熱線は本音のいる場所に着弾した。
―――福音はある意味、幸運だった
操られているという点では不幸かもしれない。だが、幸運だった。
本音はゆっくりと瞳を開けて自分の前に誰かが立っていることに気付いた。
「…………やぁ」
その言葉が誰に発せられたのだろうか。
瞬は両目を開くと、同じように額に―――第三の瞳が開眼した。
その頃、彼らの下に何かが迫ろうとしていた。
それはまだ地球にいない。だが、確実にその脅威は近付いていた。
(………そろそろ、か)
男が立ち上がると下にいる人間すべてがすぐに男の方を向いて敬礼する。
「礼は良い。それよりも、現状の報告を」
「はっ! 現在、着地点と思われる花月荘付近で戦闘が行われている模様です」
「………ああ、例の暴走機か」
少し考えた男だが、「どうでもいい」と結論付ける。が、どうしても気になったことがあるので質問した。
「それで、今交戦しているのは?」
「銀の福音に、白式と隼鋼、打鉄です。ただ―――すべての機体が形態を変えています」
「………白式は第二形態に……隼鋼もか?」
いくら何でも早いと思った男だが、すぐに別の存在が補足した。
『どうやらもう4に到達したようだね。隼鋼はそれに対応するために制限が解除されたのだろう。それに―――』
「………本音の奴、まさかと思うが例の薬を仕込んだか?」
以前渡したことを思い出した男はため息を吐く。
男と本音が繋がっていることを瞬は既に知っている。そして質が悪いことに瞬は「本音が自分に害を成さない」と心から信じているので怒りの矛先が自分に向くと考えた。
『例の薬とは?』
「以前開発した回復薬だ。成功したはしたが………飲んだ直後に倒れるように眠る」
『君は龍にでも乗るのかい?』
そのネタを理解した男は頭を抱えたが、それもまた「どうでもいいか」と捨て置いた。
「まぁいい。引き続き監視を頼む。それと格納庫にいる奴らには―――」
『―――待機だろ? というかもう瞬を倒していいか? あれほどのレベルだっていうんだったら俺のストレス発散ぐらいにはなるだろ』
『僕もサンセー。というかぶっちゃけ、IS学園に瞬以外にまともに僕らの相手をできる人間っているの?』
「いるわけないだろ」
そう吐き捨てた男はまたため息を吐いて言った。
「待機していろ。まだ奴らが降りていないのに出て行かれたら色々と面倒だ」
『へいへい』
『………チッ』
戦闘狂2人がそんな反応を見せる。男はさらにため息を吐いた。
瞬を簡単に強くさせる方法―――本音を人質に取るだけ。
なお、強さが並の人はそのまま壊滅ルートです。