Silent-Nightmare of Second-   作:reizen

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ep.29 4人目の異常者

 虫の親玉は驚愕していた。

 目の前の2人には容赦というものがなかった。それもそうだろう。片方は破壊と復讐、そしてさらなるステージへと進むために、もう片方は自分が大切に思っている施設と趣味のために戦っているのだから。

 そして、さらに2人が追加される。

 

「『待たせたな』」

「『遅いぞ』」

「『これで全員揃ったわけだね』」

「…………」

 

 瞬は思った。何でこいつらがここにいるんだろう、と。

 そもそも、本来動かせないはずなのに…とも。

 

(…………気にしない方針で)

 

 少ししてから、瞬は3人に関して考えることを止めた。というよりも、馬鹿らしいと思ったのだ。

 そもそも夜塚 透という存在がある時点で様々な常識は覆され続けているのだ。瞬にとってはそういうことはある意味日常茶飯事なのだ。………もっとも、瞬の存在自体が常識外になっているが。

 瞬は一気に加速して本命に向かう。すると虫たちの死骸が螺旋状になって浮かび上がり、形を成した。

 

「原住民が……調子に乗るなよ……」

 

 瞬は今、あるシステムを作動させている。そのおかげか目当てのモノがどこにあるのかわかった。

 

「いくら貴様らが特殊とはいえ我々は―――世界最強の兵器を操れる駒を揃えている」

 

 途中から言語が切り替わり、4人は疑問符を浮かべる。とはいえ―――

 

(ISコア、ゲット)

 

 瞬は既にISコアを奪取しており、そのまま離脱しようとしたところで壁に阻まれた。

 虫の悲鳴が辺りに鳴り響く。それを「生きている」と認識した瞬はエネルギーフィールドを展開して自身を刃へと変えて相手を切り裂いた。しかしどういう原理か巨大となった虫は瞬時に回復する。

 

「…………1つは本音さん用として、残りは―――」

 

 呟いた瞬は巨大虫へと迫り、次々と奪っていく。

 

(……な、何なんだこいつは?!)

 

 まさしく、この虫の親玉にとって大計算外なのが瞬だった。

 常識外の素早さ、さらにはたった1機で戦局を大きく能力の高さ。

 

「何故だ!? ISはすべて無効化したはず! なのに何故貴様は私の存在を感知できる!? 視認できる!?」

「………ああ、まだコアが残ってたんだ」

 

 そう言った瞬はさらにコアを探そうとしたところで視界が遮られる。

 

「殺せ! あの人間共を殺せ!!」

「『へぇ、僕らも含まれているんだ』」

 

 そう言った禍々しい紅黒い機体の操縦者は黒い電気を発し、

 

「『………随分と舐められたものだな』」

 

 まさしく人型に翼が生えた簡素な造りをしている機体の操縦者は周囲に水を纏い、

 

「『テメェが死ねよ、ゴミが』」

 

 鬼型の機体の操縦者は炎に似た覇気を纏う。

 それぞれが大技を放とうと構えた時、虫の親玉が悲鳴を上げた。

 

「ギヤァアアアアアアアアアッッッ!!??!!」

 

 突然の大声に3人は驚く。だが、その原因はすぐにわかった。

 人が知る心臓とも言える形をしたものにナイフが刺さっているからだ。

 

「みなさん、必殺技はここに撃ちましょう」

 

 笑みを浮かべる瞬。

 虫の親玉はそれが何かを理解した。が、何故それがそこにあるのかということを理解できないのだ。

 

「……何故……心臓が……」

「抜き取ったんではなく、僕が見たあなたの心臓を象ったんです。言うなれば、投影ですかね? ま、わかりやすく言えば影なんですけど、そのダメージが本体に行くのはわかり切っているでしょう?」

 

 その瞬間、親玉は理解した。

 

 ―――我々は、攻める星を大きく間違えたのだ、と

 

 

 

 そこからはまさしく悲惨な光景だった。

 思わず後から参戦しようと無理してきた千冬すら心から同情してしまいそうな必殺技を心臓に直に食らった虫の集合体はバラバラになり、生きている存在はすぐ離脱を開始した。

 中には母艦に戻り状況を宇宙にいる仲間に知らせるが、その行為はむしろ仲間の寿命を縮めることになった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ■■■

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「作戦完了―――と言いたいところだが、お前たちは独自行動に重大な違反を犯した。帰ったらすぐ反省文の提出と懲罰用の特別トレーニングを用意してやるから、そのつもりでいろ。ああ、それと―――」

 

 織斑先生が拳を振るう。無断出撃した専用機持ちたちは頭にもろにダメージを食らい、倒れた。

 

「貴様ら5人は専用機を没収する」

「なっ!? 何でだよ千冬姉!!」

 

 5人よりも先に反論したのは織斑君だった。えっと、まさか本気でわかっていないということはないよね?

 

「無断出撃のツケだ。とはいえ、4人は国家に所属する専用機持ちだからしばらくは、ということになるがな。ああ、それと織斑、お前もだ」

「―――え?」

 

 織斑君は驚いた顔をする。

 

「当然だろう。お前は作戦行動を無視して勝手な行動を取ったためだ。そんな未熟者に専用機など必要ない」

「でも―――」

「でももクソもあるか。………まぁ、確かにお前が出てくれたおかげで救われた面はある―――」

「だ、だったら―――」

「そもそも事の原因を引き起こした張本人なのに感謝もクソもないよ」

 

 僕がそう言うと驚いた風に織斑先生が僕を見た。

 

「どういうことだよ!?」

「織斑先生、あなたの弟さんはいっそのこと戦場のど真ん中に落として放置したら良いんじゃないでしょうか? そうすればこの脳内お花畑も少しは改善される……と良いなぁ」

「何が脳内お花畑だ! 俺はそこまで馬鹿じゃ―――」

「何言ってんの人類のゴミ代表。やって良いことと悪いことの区別がつかないゴミに更生の機会を与えてやっているだけでもありがたいと思ってよ。そして女は僕がISを動かしたことに心から感謝しろ。そして死ね」

 

 さっきからイライラが蓄積されていく。理由なんて言わなくてもわかるだろう………織斑先生は。

 

「そういう瞬の方がゴミじゃねえか!! 何で平然と相手を殺そうとできるんだよ?! 人として最低だぞ!?」

「それは日常の話でしょ? でも僕らがいたのは戦場だ。そんなところで人の命なんて平等なわけがないでしょ? そんなこともわからないで「やってみせる」なんて馬鹿な事を言ったの? だとしたら滑稽だね。今後君は狙われたらすぐに逃げることだね。君のようなゴミが正義を執行したところで犠牲者が増えるだけだ」

「増やすのはお前だろ!!」

「増えるだろうね。僕が隼鋼で本気を出したら」

 

 もっとも、ISを使わないで本気を出したらIS以上に世界を危機に陥れる人間を数人知っているけどね。だって、3機も持ち出さないと大国を落とせないんだから。

 

「でもそれは仕方のないことだ。それとも何? 高が数人のために大勢の人を犠牲にしろって言うの?」

「………そ、それは―――」

「だろうね。所詮、絵空事でしかない正義なんてそんなものさ。ま、実力が伴っていない奴の正義なんて何の価値もないけどね」

 

 とはいえ、織斑君のやってきたことを考えれば実力は相応のモノになっているだろう。大したことないって意味で。

 

「では僕は布仏さんの様子を見に行きますね。どうせこんなところにいたところで何もならないので」

 

 そう言って僕は襖を開けると、まるで待っていましたかと言わんばかりに黒い服を着た人たちが待機していた。どうやら注意が散漫になっていたらしい。

 

「影宮瞬だな。君はスパイの容疑がかけられている。一緒に来てもらおうか」

 

 僕は軽く腕を振ると、僕に伸ばされた腕が宙を舞った。おそらくこの光景を見ていた人は驚きのあまり口を開けていたかもしれない。

 

「ああ、すみません。怪しい針を持っていたので敢えて腕を落とさせていただきました」

 

 僕の動きを封じるつもりだったのか、それとも殺すつもりだったのか……どっちでもいいか。

 素早くもう一人の方の足を切って動けなくする。それにしてもこの人たちって強いと思ったんだけどそうでもないのかな?

 

「か、影宮君!? 一体何をやっているんですか?!」

「山田先生………」

 

 この人、ISじゃかなりの実力者なのに変に日和っているよね。

 

「殺そうとした人間を潰すことに理由っていります?」

 

 別に僕だって殺そうとしない人間には慈悲を向けることはある。だけどグレーゾーンの人間にそういうものを向ける必要性も向ける気も全くない。

 

「だからって―――」

「だからって受け入れろと? 君の運命だからと受け入れろと………? 笑わせないでくれません?」

 

 ―――何の価値もないメスブタが

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ■■■

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 瞬から放たれる気に真耶は怖気づく。いや、真耶だけでない。他の専用機持ちたちも箒も含めて逃げ出したいとすら思えるものだ。ただ一人、一夏を除いては。

 

「いい加減にしろよ瞬!」

 

 一夏は真耶に対して言った「メスブタ」という言葉が気に入らなかったようで瞬に突っかかる。だが瞬は一夏の発言に気にすることなく別の方向に向かう。

 そして素早く別の人間の腕を切り飛ばし、包みを奪った。

 

「―――ねぇ」

 

 その殺気はもはや普通じゃなかった。

 まるで殺気そのものの影響で瞬が消えていくような妙な感覚。突然瞬が消えたことで焦った千冬ですら、瞬の存在感がぶれていた。

 

「―――彼女をどこに連れて行くつもりなの?」

 

 本音を奪い返そうとするものはいない。いや、できないというのが正しいのかもしれない。

 本音を庇う分、スピードは落ちるだろう。しかし現時点で隙が無く―――自らが隙を見せた時に狩られるのではないかとすら錯覚させられる。

 全員がどうしようかと悩んでいる所に1つの声が遮った。

 

「そこまでだ、瞬」

 

 驚きを露わにする瞬。何故なら、本来ならそこにいるはずのない人間が花月荘の付近にいるからだ。

 

「…………透さん?」

「そうだ。本来ならここに来る気もなかったんだがな」

 

 ため息を吐いた透は顔を覗かせる本音の姿を見る透。近くで殺気を感じた透はその発信源を確認して顔を引きつらせた。だがそれも少しのことで、突然現れたと思われる存在らに向けて言った。

 

「そういうわけだからさ、アンタらは今すぐ撤退してくれ。この子の検査はこちらで引き受けることになった」

 

 おそらく代表だろう女性が現れる。白衣を着たその女性は実年齢は38とアラフォーだが、見た目としては20代半ばと言っても差し支えの無い美貌を持っていた。

 

「こっちはIS委員会の人間よ。優先度としてはこちらが高い―――」

 

 女性の服の中から音が鳴る。端末を取り出した女性は顔を青くした。

 

「………どういうこと。あなた、何かしたの?」

「ちょっと根回しをな。それに、そうしなければアンタとその家族が死んでいた。だからここは引いてくれ。さもなければ今ここにいる君たちが死ぬことになる」

「ハッタリを―――」

「ハッタリじゃないさ。何なら―――」

 

 透が指を鳴らすと、女性が指揮を執る集団が氷のキューブに閉じ込められた。

 悲鳴が中から聞こえてくる。何度も何度も「降参」や「助けて」という言葉が聞こえてくるが、透は解除しない。解除し終えたのは少ししてからだった。

 全員が顔を青くしており、漏らしている人間すらいる。よほど怖い目にあったのだろうと思った瞬は同情的な視線を送る。

 

「まぁ、そういうわけだ。言うまでもないがお前にとって大切な奴だって言うのはわかっている。丁重に扱うさ」

「………最悪なことになったら、あなたと言えど殺す」

「そうしてくれ。とはいえ、俺も好きな人ともっと愛し合いたいから努力するよ」

 

 そう言って本音を抱える透。瞬は心から信頼していることもあってそれ以上の反論をしなかった。

 

「―――待てよ」

 

 だが、一夏が止めた。

 その声を聞いた瞬も透も心から面倒くさそうな顔をする。

 

「何だい?」

「一体のほほんさんをどうするつもりだ」

「詳細は後で聞くと良い。もっとも、君のような末端には知る必要のないことだけどね」

「どういうことだ!?」

「戦士にすらなり切れない雑魚が中途半端に介入するなと言ったんだ。身の程を弁えな」

 

 そう言うと透は本音を抱えたままどこかに消えた。

 

「………影宮」

 

 心配そうに瞬を見る千冬。瞬は頷いて自分の部屋に戻った。

 

「ど、どういうことだよ千冬姉!?」

「聞いた通りだ。お前たちが知る必要のないことだ」

「でも―――」

 

 一瞬だった。

 一夏は倒れる。後ろには瞬が立っていて、どうやら気絶させたらしい。

 

「………すまないな、影宮」

「………別に」

 

 敢えて一夏を踏んだ瞬はそのまま部屋に戻った。

 千冬は何も言わなかったのは、今の瞬の気持ちを察してのことだ。瞬が自ら気絶させたことで一度は収束した。

 

 だがもし、あの時一夏が余計なことを言った瞬間のことを考えてしまった千冬は身震いした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「おかえりなさいませ、透様」」

 

 2人の少女が透を出迎える。透は落ちついた様子で笑みを返し、本音を少女らに任せてそのまま自室に戻る。

 

「帰ったか」

「……静流」

「僕もいるよ~」

 

 手を振る少年とドアに寄りかかる少年。時雨智久と舞崎静流だ。

 そしてここには夜塚透もおり、大国すらたった1人で制圧できる人間が3人もいる。

 

「それで、あの女の子はどうするつもりだ? 瞬の彼女だろ?」

 

 静流はそう言うと透は落ちついた様子で言った。

 

「適切な治療をした後、診断書を提出した上で瞬の所に戻らせる。学園側も十二分に思い知っただろうしな」

「そうだよね。でも驚いたよ。あの瞬があそこまで強くなるなんてさ」

 

 智久の言葉に特に驚きを見せない2人。これは以前に瞬の異変を見たかによるものだ。

 

「瞬間移動並みの速度は前々からあったが、コントロールしきれなかったんだろう。今回のことで完全にモノにしたってところか?」

「………違うな」

 

 透の推察を珍しく静流が否定した。

 

「アイツは覚醒前からそれなりの速度はあった。短距離ならばあり得ない記録を塗り替えれるほどにな。だが、それをすれば自分をさらに否定されると思っていた節があったから封印して、意識的にセーブしていたってところだろうよ」

「………よく見ているな」

「これまでアンタのおかげでずっと同じクラスだったんでね」

 

 静流は、今の瞬よりも強い。だがそれはあくまでも経験の差程度だと静流自身が思っている。そして―――まだ瞬自身がどこかでセーブしているとも感じる。

 

(………倒してぇ)

 

 静流は笑った。本能から思っているのだ。もっと強い、さらに強くなり、これ以上に成長が見込めない程になった瞬と戦いたい、と。

 透はその感情を読んでいたが、できれば止めて欲しいと思っていた。

 

(………無理か)

 

 おそらくは今回のことで「布仏本音」が瞬にとってのウィークポイントという事は世界中に広まっているだろう。誰かが勝手に読んだ研究団を権力を使ってなんとか止めさせたが、今後本音を使ってくる可能性が出てくる。そして、最悪の場合は本音が殺される可能性がある。

 そうなった場合はもう、世界は悲惨なことになるだろう。瞬の行動力は並々ならぬものではない。必ずや本音を殺した人間とそこに所属組織、国家、殺した人間と命令した人間の一族を根絶やしにするだろう―――周りの被害を一切考慮せずにだ。

 仮にその瞬を止めようとしても、静流も、智久も、そして透自身が周囲を消し飛ばす戦い方できない―――というよりも、瞬の今の能力がそうさせないのだ。

 

(………まぁいい。今は)

 

 透はある映像を見る。それは今、自分が所有する船のドックに入れられており、防護服に身を包んだ人たちによってある回収作業を行われている。先程中途報告をされたが、ここ数年の女性の行方不明者が多数発見されたということだ。

 そう。虫たちが根城にしていた船は透たちによって回収されていた。透が一瞬だけ転送させて瞬に撤退するように言ったのである。世界の研究材料になるよりもマシだが―――最悪の場合、透は女性たちを殺処分するつもりだった。

 透が所有する場所には様々な研究機関が存在する。というよりも、1つの軍事施設と言った方が近いかもしれない。何故ならそこは―――かつては女権団が所有していた施設なのだから。




まぁ、透の危惧していることって一歩間違えれば自分にも静流にも智久にも当てはまるんですけどね(笑)
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