Silent-Nightmare of Second-   作:reizen

30 / 31
ep.30 動き出す世界

 紅椿の稼働率はとても低い。

 おそらくそれは活躍どころを完全に瞬に食われたからだろう。だが、束は気にしていない。

 

(………まっさか、あんなものが存在するなんてねぇ)

 

 明らかな異常。しかも天才である自分ですら感知できなかった存在。とはいえ、今後も出てくるからまだ許せるというものだ。

 

「は~。それにしても白式には驚くなぁ。まさか操縦者の生体再生まで可能だなんて、まるで―――」

「―――まるで、『白騎士』のようだな。コアナンバー001にして、初の実戦投入機、お前が心血注いだ1番目の機体に、な」

 

 背後からそう言われた束は別に驚かない。彼女が千冬を待っていたからだ。

 

「やあ、ちーちゃん」

「おう」

 

 どちらもお互いを見ない。千冬は近くの木に背中を預け、束は柵の上に座っている。

 

「ところでちーちゃん、問題です。白騎士はどこに行ったんでしょうか?」

「……白式を「しろしき」と呼べば、それが答えなんだろう?」

「ぴんぽーん。流石はちーちゃん。白騎士を乗りこなしただけのことはあるね」

 

 白騎士とは、10年前に日本を射程距離内とするミサイルが配備されたすべての軍事施設のコンピューターがハッキングされ、発射された際に日本を守ったISのことだ。後に「白騎士事件」と呼ばれたそれは、白騎士を捕獲または破壊をしようと各国が送り込んだ兵器をすべて無力化し、忽然と姿を消して束が言った「ISを倒すにはISにしか無理」という言葉を証明した。

 

「それで、うふふ。例えばの話、コア・ネットワークで情報をやりとりしていたとするよね。ちーちゃんの一番最初の機体『白騎士』と二番目の機体『暮桜』が。そうしたら、もしかしたら、同じワンオフ・アビリティーを開発したとしても、不思議じゃないよねぇ」

「―――厳密に言えば、まだその頃には初期化されていなかった001と後から作られた002に乗ったのは同じ織斑千冬だから、ということもあるがね」

 

 唐突に聞こえた言葉に千冬も、そして束すらも驚きを示した。

 ここは自分と千冬という選ばれた存在以外には介入できないようになっていたはずだというのに、何故―――そんな疑問が束を襲う。だけどそれはすぐにわかった。同時に―――怒りを見せた。

 

「誰だ、貴様は?」

「そう怒りを見せるな、織斑千冬。いや、今は僕の子どもの担任だから、ここは敬意を見せて「先生」と呼んだ方が良いかな?」

「……………何?」

「君は初めましてだね、織斑君。私は光宮(ひかりみや)―――いや、影宮(はじめ)。瞬の父親だ。いつも息子が世話になっている」

 

 千冬は驚いた。瞬のプロフィールは予め知っていたが、その時は両親は既に死亡しているという報告があったからだ。

 

「すみません。こちらこそ息子さんには―――」

 

 千冬の様子に始はクスクスと笑った。

 

「いや、すまない。私が知る君とはあまりにもかけ離れていたのでね。ねぇ、束―――」

 

 束は自身が放てる最大威力の突きを始に対して放つ。しかし始は回避して距離を取った。

 

「………誰だよ、お前」

「ああ、そう言えばこの姿じゃ初めてなんだっけ? それに君って偽物とか嫌いだったね。ただ勘違いしないでほしい、私は本当の影宮始(オリジナル)が作り出した」

「………生み出したってこと?」

「正確には違うかな。私は外側こそ人間の皮で作られているアンドロイドだ。思考回路はオリジナルのモノをコピーして、オリジナルの死後に本来なら私が稼働して、瞬を引き取ろうとしたけど―――その時はまだAI以外の部分はできていなかった。こうして動けるのはとある天才のおかげだよ」

 

 それは束でないことに嫉妬を覚える。

 

「そう睨まないでよ。君ならばまず拒否するんじゃないかと思っただけさ」

「…………」

 

 束は何も言わない。

 

「……まぁいいけどね。私もずっと気になっていたことがあるし」

「何かな?」

「隼鋼の機体に入っているコアって、君のオリジナルが開発したコアだよね?」

 

 その言葉を聞いた千冬は驚いた。

 

「一体どういう―――」

「こいつのオリジナルはたった1週間でコアを作ったんだよ。でも―――」

「ただの模倣じゃ意味がないと思った私は似て非なるコアを作り上げた。ISはその操縦者に合わせて調整される。私のオリジナルが作り出したコアもそういうものだが、少し細工をした」

「……細工?」

「コアに触れることによって、その人間に合わせた機体を生み出す特別な機体だよ。そして瞬は、白騎士事件後に一度コアに触れて自身の能力を登録してしまっている。運の悪いこと―――いや、この場合は幸運か。あの子の能力が解放されてしまった時だったから」

「………まさか!」

「そう。私のオリジナルは瞬に制限を設けさせていたんだよ」

 

 その言葉に千冬は驚きを隠せなかった。

 

「いくつか誤解したならば先に否定させてもらいたい。私のオリジナルは何も瞬を嫌ってのことじゃない。そもそもそこまでの人間になるとはオリジナル自身が予想外だった。オリジナルは普通の人生を歩んでほしいと願っていたからね」

「………ということは、息子さんは―――」

「遺伝子強化素体だ。君の教え子であるラウラ・ボーデヴィッヒと同じ」

 

 それには束自身も驚いていた。というのも、束にとって瞬は思考はともかく普通の子どもという印象があったからだ。

 

「オリジナルの環境が良かったんだ。一族の中でも珍しい高いIQ数値を叩き出し、あらゆるコネを持って様々な研究成果と資産運用で資金を増やしたことで早期に研究所を併設した一軒家を持った。だが彼の妻は子どもを作れない身体になっていた。だから、2人の子どもを人工的に生み出したんだ」

「………そのために、ですか?」

「本当はね。遺伝子強化素体と言ってもそこまで弄る予定はなかったけど、妻は何かを感じていたようでね。それを知った時には手遅れだった。だから―――」

 

 ―――瞬を予定通り産み落とした

 

 とはいえ、遺伝子強化素体の生産成功例はドイツでも少なく、大半が生み出される段階で死亡している。さらに成長段階でほとんどが死亡し、唯一の成功例は越界の瞳を適合しなかったとはいえラウラ・ボーデヴィッヒただ1人だけなのだ。その中で強化配合を行い、たった1体のみで生み出したというのは本当にレアなケースだ。

 

「………あの、どうしてそれを私に―――」

 

 束はすぐさま逃走した。

 今ここにいるのは始と千冬だけであり、始は特殊な装置を起動させて周囲に聞かれないようにした。当然、衛星からも見れないようになっている。

 

「―――君が「織斑計画」の唯一の成功例だから、とでも言えば良いのかな?」

「!?」

 

 千冬は誰にも知らせていない。その事を知られていることに焦り、同時に始を殺そうと束をいざという時に倒すために持って来た刀に手を伸ばす。

 

「止めておいた方が良い。今の私を殺したとしても、私はアンドロイド。いずれ第二、第三の私が生み出されるにすぎない」

「…………だからと言って、それを知った者を存在させてはおけない」

「おお、怖い怖い。…………ところで、何故私が君を「唯一の成功例」と言ったのかわかるかい?」

「……………」

「薄々君も気付いていたのだろう? 3年前の誘拐事件は君の出場を辞退させるだけじゃ目的じゃない。本当は王者とも言える存在である織斑一夏の存在を別の意味で知らしめるためだったと」

 

 瞬間、千冬は動いた。

 しかし始は先を読んでいたようで、千冬の隣に立つ。

 

「!?」

「確かに君の弟君の成長は早い。だけど王者が故に傲慢で周りに耳を傾けようとしない。自分の世界が正しいと思い込んでいる。君はそのことに気付かせなければならない。そうしないと―――近い内に君たちは死ぬ」

「何?」

「もう瞬は、君のことを必要としていない。実力も生身で止められるのはあの轡木十蔵のみ。女で止められるのは本音君ぐらいだ。君もわかっているだろう? 布仏本音君の重要性を」

「……………」

 

 嫌というほど理解していた。

 瞬の過剰の覚醒は、本音がダメージを食らうことが原因だと千冬は考えている。

 

「世界はもう変わらざる得ない。しかし女たちはそれを受け入れないだろう。そのせいで本音君が死んだ場合―――そしてその場所がIS学園だった場合、学園の施設はすべて破壊される。力無き物はすべて消され、場合によっては瞬と同等の能力を者たちが荒れ狂うと世界は終わる。君程度の暴走など、彼らにとってちっぽけなものだ」

 

 ―――いや、君たちの暴走、か

 

 まるで嘲笑われているようだった。だがそれが現実でもある。

 

「今、君が教師として、1人の姉としてできることは生徒全体―――特に専用機持ちたちのレベルアップだ。精々抗うがいいさ。でもま、無駄だろうけどね」

 

 そう言って特殊な装置を停止させて始は立ち去りながらディスプレイを操作する。

 

「さて、世界がどう変わるか楽しみだ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 限定的な緊急招集がかかった。

 IS委員会の面々が通信機越しとはいえ集まり、今回のことについてとても重い雰囲気を放っている。

 だがそれは仕方のないことだろう。彼らにとって、今回の出来事はあまりにも異常だ。

 1つは、IS学園が福音討伐時に遭遇した未知の存在。そしてもう1つは、IS学園に所属する影宮瞬と協力した、未知の3機だ。

 どれもが現行ISではありえない程の数値を叩き出している。篠ノ之束の最新鋭機である紅椿と比較してもそれが小物だと言わんばかりだ。

 

「………何なんだ、これは」

 

 あり得ないとしか言うしかない。

 一体どこにこんなものがあったというのか、ましてや、隼鋼を含めてすべてが第四世代すら超えている可能性があるという異常性。こんなものを開発するなんてよほど頭がおかしいとしか思えない。

 それに、「イマージュ・オリジス」と明記された虫型の生物。資料が添付され、最後には「IS以外の兵器は通用しない」と明記されている。

 

(………ならばこれは、ISなのか?)

 

 金棒を振り回して破壊する。手数の多さで撃破する。大まかに分ければその2つだ。

 だがワンオフ・アビリティと思われるそれは、明らかに通常のISとは大きくかけ離れている。

 

(……いや、それよりもこれは―――)

「―――お集まりのみなさん」

 

 委員会の司会者は日によって変化する。今日は比較的若い男性だった。

 

「もう既に資料は拝見なされたでしょう。「イマージュ・オリジス」と銘を打たれた異星種。そして以前から彼らは地球に侵入し、女性を汚染しているという話を信じろというのでしょうか?」

「異星種は本当だろう。問題は、女性を汚染しているということだ。しかも女権団が今のようになったのはこれが原因だと言うではないか」

「あまりにも眉唾すぎるのではないかね?」

 

 ワイワイと騒ぐ男たち。そう、ここには女はいない。

 今回の会議の内容を女に聞かれた場合、介入されるのはわかり切っているからだ。とはいえ、とても突拍子が無さ過ぎて信じられないというのが大半だ。だが、それを1人の男が変えた。

 

「もうそろそろ、周りの意見も聞き入れる必要があるのではないでしょうか?」

 

 さっきまでの嘲笑ムードはどこに言ったのやら、たった一人の発言によって会場は沈黙した。

 どうやら真意はそうであったようで、ボソボソと「でしょうな」という発言が上がる。

 

「それに、今回は我々にとってチャンスでもあると思いますよ」

「……確かに」

 

 この10年で、男たちの立場は危うくなっていた。

 男に変わり女が戦場に立つこと自体はまだ良い。だが、それによって増長し、自分たちの立場すらも危うくするならば話は別になる。

 男は質は決めた。自分たちの立場を取り戻すためにこの状況を利用することにした。すべては、自分たち男の権力を取り戻すために。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ■■■

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 翌朝、僕は隣に誰かがいるかもしれないと思ったけどいなかった。その事が少しショックだったけど、透さんは信じられるし今は彼に任せるしかない。

 というのも、本音さんはあの異形たちの住処に入っていて、直に触られていたから何らかの異常がないか調べるらしい。仕方ないけど、少し寂しくもある。

 

(………ま、いいか)

 

 下手な医療機関よりも透さんの所の方がまだ信用できる。だから彼にお願いしたんだ。

 

(それにいざとなったら―――潰せば良いし)

 

 何も透さん本人を潰す必要はない。透さんを潰すにはまだまだ僕の力は到底及ばないけど、それ以外なら十分可能だ。

 

(とりあえず、今日もトレーニング行きますか)

 

 甘やかすつもりじゃないけど、今日は軽めにしておこう。激しい運動をした後はちゃんと休ませる必要があるって透さんも言ってたから。

 

 

 

 

 

 部屋の掃除も終わり、本音さんの分の荷物も持った僕は周りから視線を外された。

 風呂も入ってスッキリした。よくよく考えれば僕は昨日は部屋に入った後にどっと疲れてそのまま寝ちゃったからね。風呂に入ってなかったよ。

 

(食事も終わったし、後は帰るだけか)

 

 昨日はちょっと騒がしかったみたいだけど、なんだったんだろうね。織斑君らは妙にボロボロだし。………もしかして彼女たちはISがなくても織斑君を殺そうとするのだろうか?

 

「すまん……誰か、飲み物を持ってないか……?」

「唾でも飲んでいろ」

「知りませんわ」

「あるけどあげない」

 

 ボーデヴィッヒさんもオルコットもさんも、そしてデュノアさんも拒否した。僕は監視という名目で最前列だから声をかけられることはないだろう。真ん中の席にいる織斑君が最前列の所にいる僕の所に来るって言うなら、そのまま外に出して買いに行かせる。

 

「―――おい、影宮瞬って言うのはここにいるか?」

 

 声をかけてきたのは金髪の女性だった。端末で勝気な顔をしていて、多少は出ている程度で寄せてあげればBはあるんじゃないかという胸。

 

「え? あの人って……」

「アメリカ代表のイーリス・コーリングさん!?」

「何でここにいるの?」

 

 僕もそれに関しては気になった。と言っても、理由は察しているけど。

 

「僕が影宮瞬ですが?」

「うぉ?! そんなところにいたのか」

 

 いちゃ悪いか、と睨みそうになったけど今は真顔かつポーカーフェイスで対応だ。

 

「何か用ですか?」

「ああ。ちょっと来―――」

 

 彼女の額に銃口を突きつける。周りは騒然とするけど気にしない。必要がないからね。

 

「なるほど。やる気は十分ってか? まぁ、今回はただの話し合いってだけだ」

「その保証は?」

「テメェが昨日倒したISの操縦者が話をしたいってことだ。武装したいなら好きにしろ」

 

 解除させないのか。意外だな。

 普通なら武装なんて外せとか言って来るだろうに。言われても僕は外さないけど。

 バスから降りると最終確認を済ませたのか織斑先生と山田先生がこちらに来ていた。

 

「………何をしている」

「ちょっとこいつを借りるぜ。安心しろ。話が終わったらちゃんと返す」

「それをどう信じろと?」

「仕方ないだろ? オレだって本当はナタルとこいつを会わせるのは反対なんだが、どうしても会いたいって言うからよ」

「だからと言って許可を出せるか」

「別に僕は良いですよ?」

 

 心から僕が賛成したことに驚いている織斑先生。山田先生も同様で「布仏さん以外になびかない影宮君が!?」とか言っている。

 

「だって武装しても良いとか言うんでしょ? どんな馬鹿が会いたがっているのか気になるじゃないですか?」

「………どういうことだ?」

「そこまで疑う必要はないっての。ただ急にナタルのバカが会いたいってほざいたんだ」

 

 すると織斑先生は少し考えて山田先生に言った。

 

「山田先生、生徒を連れて先に帰っててください」

「え?」

「私は影宮と共に後から帰ります」

 

 いや、正直邪魔なんだけどな……。でも証言者としては使えるから別に良いかもしれない。………あ、織斑君が付いてきそうだ。

 

「織斑先生、僕は大丈夫ですよ」

「そう言うわけにもいかない。特にお前は今狙われているんだ。最悪の場合、遠方からの狙撃とかあり得る」

「織斑先生がバスに戻らないと誰がゴミ斑君を止めるって言うんですか?」

「………影宮」

 

 とても心配そうにする織斑先生。仕方ない。こうすれば良いかな?

 

「織斑先生、これから10分経ってから隼鋼が発する位置に来てください。それなら向こうも妥協するでしょう」

「しかしだな」

「大丈夫ですって。今の僕は生身でも織斑先生に勝てますから」

 

 自信満々にそう言うと、仕方ないという顔をしてから織斑先生は言った。

 

「10分だ。それ以後は見つけ次第強制的に連れて行く。いいな」

「わかりました」

 

 僕はそう返事すると、律儀に待ってくれていたイーリス・コーリングさんに付いて行く。

 しばらくすると車椅子に乗った金髪の女性が待っていた。優しそうな人で、

 

「なんか、ミスコンとかで優勝しても嫌われそうになさそうな人ですね」

「おまっ!? いくら何でも情報と違い過ぎるだろ?!」

 

 一体僕の情報がどうなっているのだろうか。地味に知りたい。

 

「あら、来てくれたのね」

 

 僕の姿に気付いたのか、金髪の女性が車椅子を操作して近付いてきた。

 

「私はナターシャ・ファイルス。あなたが墜とした『銀の福音(シルバリオ・ゴスペル)』の操縦者よ」

「そうですか。車椅子でも槍の如く突きを打てる人もいるので気をしっかり持ってください」

「あ、これは一時的なもの。一応、動けるんだけどイーリが「座ってろ」って言うの」

 

 イーリ……ああ、イーリス・コーリングのことか。

 僕は少し離れているイーリス・コーリングを見ると、「仕方ないだろ」と言わんばかりに僕を見てきた。

 

「昨日はありがとう。本当に助かったわ」

「…………もしかしてM気質?」

「違うわ。あれは私も、そしてあの子も望んでたことじゃない。暴走させられたのよ」

 

 真剣な面持ちで話すナターシャ・ファイルさん。彼女から嘘を吐く時の妙ないびつさがないことからどうやら本当らしい。

 

「でも、あなたのおかげで助かったわ。それにしても凄いわね。あなたが背骨にパイルバンカーを打ち込んでくれたから私たちは強制的に解放された。ずっと、お礼を言いたかったの」

「………そうですか」

 

 なんか、物凄くやりにくい。そして何より、さっきから僕を掴もうとしているけど何かされるんだろうか。

 

「……あ、わかったわ」

「何が?」

「ちょっと頭を寄せてもらえないかしら?」

「実は包丁を持っているから刺す、とか?」

「違うわ。その、頭を撫でさせてほしいの。ほら、何も持ってないわ」

「……………頭を撫でられることに抵抗があるので」

「お願い。撫でさせて。お願いだから」

 

 僕は立っていて、彼女は座っている関係上、上目遣いで見られる。まるで媚びているようで腹が立つというわけじゃないけど、引いた。

 

「わかったわ。今から爪を剥ぐからそれで撫でさせて。イーリ、ペンチ」

「ふっざけんな!! 誰がそんな目的のために渡すかってんだ!!」

 

 たぶん誰もいないと思う。というか、血だらけの手で撫でられたくない。

 

「………わかりましたよ。その代わり少しだけですからね」

「ありがとう」

 

 僕は少し屈むと無理矢理引き寄せられて頭を撫でられた。

 

「ありがとう。色々と気が済んだわ」

「そうですか。……僕もそれなりに新鮮な空気を味わえました」

「え!? それってどんな?」

「………僕にあなたみたいな姉がいたら、多少は女嫌いが緩和されたかもしれないな、と」

 

 素直に述べるとそれが間違いだったようだ。

 彼女は僕と連絡を取り合いたいと詰め寄り、逃げようとしたところで織斑先生が来たところでタイムアップになった。それでも連絡先だけは交換した。

 …………これで地味に「女」のアドレスが増えたことにちょっと嬉しかったのは秘密である。ただ、差別化と自分が感情を持っていないこともあって「姉」と関係をしているけど。

 だって僕はあくまで本音さん一筋だから。




あくまで「姉」です←ここ重要
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。