Silent-Nightmare of Second-   作:reizen

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ep.31 ラストエピソード?

 海上には異質な艦があった。

 白と黒で彩られたそれは奴隷船の印象を持たせる。実際、その船にはみすぼらしい格好をした女性や女児が大量に乗せられていたが、搭乗員はそれ目的で連れてきたわけではない。

 

「で、零司。目的地までは後どれくらいなんだ?」

「そろそろ着くよ。でも透さんも面倒な仕事を押し付けたよね」

「向こうは向こうで何かあるんだろ。気にしたところでどうにかなるってわけじゃないが」

 

 乗組員は彼ら以外にもいるにはいるが、ほとんどがとある事情で参加した兵士たちだ。

 というのもこの艦の操作の大半がAIで行われており、そのAIもかなり優秀でそれぞれに性格を持っている。それ故電子世界では常に会話をしたりしている。要はAIが反乱を考えなければ問題ないので、それぞれが可能な範囲内の趣味に興じたり、作成者である零司と呼ばれた少年自身もネットで囲碁や将棋、双六などのボードゲームをするためのアカウントを作成することは許可している。ただし、艦内でする場合は零司が作った特殊なサーバーを介する必要はあるが、ラグはほ99.8%ほど感じさせないと言えるほど快適だ。

 

「それで悠夜、彼女たちの状態はどうなの?」

「大半がクスリなどの影響で参っているみたいだ。中には俺の姿を見て身体を差し出す奴もいるようだし」

「…………なんていうか、羨ましい」

「冗談じゃない。薬漬けされた中古品なんて興味ねえよ」

「………で、本音は?」

「中にはまだ未通の姉妹がいたりするから今後に期待だな」

「アウト」

 

 とはいえ悠夜自身も本気で言っているわけじゃない。

 元々彼は父親が再婚して義理とはいえ妹ができたから兄としての風格はある程度備わっており、少女たちはそれを感じ取って甘えているという者が多い。それに、向こうでは一人一人に丁寧な対応をしているので好かれているというのもある。

 

『キャプテン、こちらに接近する物体あり。イマージュ・オリジスと思われます』

「お出ましか。悠夜」

「OK。任せろ」

 

 悠夜と呼ばれた少年はブリッジから出る。零司は画面に映された赤いマーカーを見ながらため息を吐いた。

 

「艦長職、誰か変わってくれないかな……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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 4基のビットが舞う。僕はそれを見て鼻で笑った。

 動きが稚拙すぎる。彼女はあの戦いで何も学んでいないようだ。……いや、彼らが意図的に見せていなかったかもしれない。

 それにしても、4月でエリートを自称していた割には弱くなっている。

 

「なんだ、その程度か」

 

 ビットを全て破壊した。こんな雑魚に、こっちもビットで応戦とかする必要はない。むしろ制限されているとはいえ隼鋼の速度でも十二分に対応できるぐらいだ。

 

「いくら……いくらなんでもこんな―――」

「すべて遅いさ。君は亀かい?」

「何を―――」

 

 ミサイルが発射される。それが僕に当たる前にナイフを回転させて破壊した。

 

「君、クラス代表を決める時に言っていたよね。「私はISの技術の修練に来ているのであって、サーカスをしに来たわけじゃない」って。その結果がこれ?」

 

 常識外とか、そういう問題じゃない。この女は弱すぎる。

 

「まさしく、無駄なことに意識を裂いていた結果だね。もう君の実力じゃ、話にならないよ」

 

 そう言った僕は彼女の懐に入り、滅多切りにする。シールドエネルギーをすべて消し飛ばし、僕が勝利したことをアナウンスが知らせた。

 

「……そ……そんな………」

「ファァア。もういい? 手応えが無さ過ぎて無駄に疲れた」

 

 そう言って僕はピットに戻った。

 まったくもって僕に対して一利もない。これなら授業をサボって遊んでいる方がまだ有意義だ。

 

(……なんか、本当に無駄だな)

 

 手応えがない。戦うことすら無駄だと感じさせる弱さ。もしかしたら今の僕なら静流でも倒せるのではないかと錯覚してしまう。

 

(せっかくISが帰ってきても恋愛ばかりだもんね。そりゃ弱くなるか)

 

 彼女らは臨海学校で起こった事件。その時に命令違反を起こしたことに機体は没収された。

 しかし以前に僕らが倒した虫の大群―――イマージュ・オリジスと言われた存在が未だ世界各地に襲撃をしているそうで、また彼女らに支給されたのだ。

 だと言うのに彼女らはテスト前でも誰が織斑君に教えるかという事で揉め、織斑君が以前の経験からデュノアさんを選んだ時に揉めた。別に嫉妬じゃないけど、何回殺そうと思ったか。ちなみに殺す対象は騒がしい全員だ。あと、補足すると静流は普段から喧嘩していないように見えるけど基本的には真面目なので勉強とかちゃんとするし、騒がしくしている奴は全裸にして逆さにし、金網に貼り付けるという所業をした。そういう所は本当に見習いたいと思う。

 

(全く。ISは僕じゃなくて静流を選ぶべきだったよ)

 

 初日に学校崩壊は免れないけどね。それでもオルコットさんはその時点で入院は決まっているし、静流のことだからオルコットさんの顔はぐちゃぐちゃにするだろう。そして「女性優遇制度の弊害」とか言って無茶苦茶に暴れまくる。それでわかるだろう。自分たちのしたことの愚かさを。

 

「織斑先生、もう帰って良いですか? それとも―――すべての専用機持ちを再起不能にしていいですか?」

 

 たぶんこの試合は周りから評価されている。そう読んだ僕は尋ねると、織斑先生が「必要ない」と言った。

 

『それに、次は織斑と戦ってもらうことになる。準備しておけ』

「………お偉いさんの指示、ですか?」

『そうだ』

 

 廊下でため息を吐いた僕は仕方なく途中でドリンクを買ってピット内で待機した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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 機体からミサイルが飛ぶ。それらが虫たちを破壊していき、空いた場所に悠夜は突っ込んだ。

 

「真名解放、すべてを薙ぎ払え…「魔が宿る大剣(ダークカリバー)」!!」

 

 刀身が割れ、エネルギーが放出される。悠夜はその場で回転し、撃破した。

 

「ま、こんなもんだな」

『悠夜、日本の部隊がこちらに向かっている。離脱するぞ』

「へいへい」

 

 飛行形態に変形した悠夜の機体『黒鋼』はそのまま艦へと戻って行く。

 悠夜が着艦すると同時に開いていたハッチが閉まり、艦の姿が景色と同化していく。

 

 日本所属のISが現れた頃にはその姿はなく、イマージュ・オリジスの残骸だけが残されていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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「………クソッ!」

 

 白式はボロボロだ。というよりも、僕が攻撃でそうしたというのが正しい。

 

「何で………何でなんだよ!?」

 

 織斑君は悔しそうに叫ぶ。

 

「単純に君の力不足だよ」

 

 そう言って僕は瀕死になっている織斑君を容赦なく刻んだ。

 織斑君は吹き飛ばされる。試合が終了して僕が勝利したことがアナウンスで流れた。

 

「……そんな……俺は……」

「僕と君とでは、専用機をもらった期間に差がある。でも、ここまで差が開いてしかも僕がこんな結果を出したということは、君はこれまでちゃんとした訓練をしなかった結果だよ」

「でも、俺はちゃんと授業を受けているし、みんなからも―――」

「普通気付くけどね。まともな感性を持っている人間なら篠ノ之さんや凰さんの教え方に疑問を持つし、授業を受けているからってそれ以上に練習をしないといけないってことに気付く。それに気付かなかった君は僕が専用機を持った時点で敗北したんだよ」

 

 まさか、自分に元から実力があると思っていたのだろうか? いやいくら何でもそれはないか。

 去ろうとした時に誰かから連絡が入る。その相手が誰かわかった僕はすぐにフィールドを出た。

 

『おい影宮、一体どこに行くんだ』

「緊急の用です。お偉いさんとの会合はすべてキャンセルで!!」

 

 そう言って僕はアリーナを出る。向かうは入り口だ。

 

「きゃっ!?」

「何っ? 風!?」

「今、誰かが近くを通ったような………」

 

 周りが何かを言っているけど、僕は気にせずに校門の方へと走る。するとランニングしている女生徒がいた。

 

「ちょっ!? 危な―――」

 

 僕は慌てふためく女生徒の上を回転しながら避け、着地と同時に加速した。そして、目的の校門に移動した。

 そこには鞄を持った目的の人間がいて、目の前で止めるようにスピードを緩める。

 

「本音ちゃん!」

「瞬!」

 

 停止した僕に、本音ちゃんが抱き着く。僕も彼女を抱きかかえた。

 

「懐かしい。まさかそんな呼び方をされるなんて思わなかった」

「死にかけた時に、色々とね」

 

 実は君と会っていたとか知った時は地味に驚いた。あの事故のショックで記憶はほとんど吹き飛んでいたから仕方がないと思いたいけど、今となっては物凄く後悔している。

 

(………まぁでも、知っていても警戒はしたかもしれないから一緒かな……)

 

 でも今は違う。彼女の事は心から信じられる。もし裏切ったとしても……裏切ったとしても……

 

(おっと、マズいマズい。透さんのせいでアウトな方向に妄想を膨らませてしまった)

 

 透さんは「手に入らないなら拘束すれば良いじゃない」という人間だから、その影響だね。………それにしても―――

 

「随分と無粋な人間がいるんだね」

 

 本音さんを離し、ナイフを抜いた僕は本音さんにバリアを―――張ろうと思ったら既に張っていた。

 

「大丈夫だよ、瞬」

「………わかった」

 

 僕はすぐにその場から移動し、銃を構えている人たちの所に突撃した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ■■■

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「気が付いたかい?」

「あ、とーりゅー。おはよー」

 

 本音は見覚えのある顔―――透を見て喜ぶ。自分の知っている人がいることに安心した本音は気が抜けた。

 

「でも、どうしてこんなところに~?」

「そりゃあ、お前に何か異常があったら世界大戦……いや、俺と瞬が災害規模の喧嘩をしてしまうからな」

「そ、そうなんだ~」

 

 なんとなく、本音もそう思っていた。

 瞬の成長スピードはどう考えても異常だ。戦うごとに成長していき、恐ろしさすらも滲み出ていた。

 

「私はそれでも良いかなって思うけどね」

「え? 大体そうなる時ってお前が死ぬか瀕死なんだけど?」

「そ、それは困るかな……」

 

 顔を逸らし、同時に顔を青くする本音。透は笑みを浮かべて言った。

 

「お前がそういう人間だからこそ、瞬はお前を選んだんだろうな」

「え?」

「アイツの闇は深いようで浅い。だからこそ、いずれ思い出すであろう復讐心からお前なら救い出すことができるかもしれない。いや、もう救い出しているだろうな」

「そうなの?」

「ああ」

 

 透には一つ、確信があった。

 瞬が本音を好きになった場合、瞬はこれまで10年近くまともに愛されなかったことによって本音に依存するだろう、と。過去のことを覚えているか確かではないが、例え覚えていなくても本音のように癒しのオーラを常時放っているなら問題はないと。

 結果としては、自分たちの存在を感じることもなく突貫するという状況だが。

 

「そうだ、本音。お前に渡すものがあったんだ」

「なに?」

「名前はないが、敢えて言うなら「護符」かな」

 

 星形の端末を本音に渡した透。

 

「これは?」

「お前をあらゆる攻撃から身を守るためのバリア発生装置。これを使えば大抵の攻撃はなんとかなる。核兵器の影響とかもないしな」

「すっごいべんり~」

「これは絶対に肌身離さず持っていろ。今度はお前が瞬の弱点になるからな」

「わかった~」

 

 こうして受け取った護符を本音は活用しているが、人質を取ろうとしている人間は腱を切られ、動けなくされた。瞬はすぐに千冬に連絡して引き取ってもらう。

 瞬は本音を抱きしめようとしたが、自分の手が血で塗れていることに気付いた瞬は躊躇う。

 

「帰ろ、瞬」

「……うん」

 

 バリアを解いた本音は瞬の手が血で汚れているにも関わらずに握る。

 それは本音なりの覚悟だった。元々そういうことに慣れている家に生まれているとはいえ、決して気持ちの良いものではない。

 しかし本音はそうやって手を取ったのは彼女なりの覚悟だった。

 

「大丈夫だよ、瞬」

 

 本音は笑みを浮かべて瞬に語り掛けるように言った。

 

「瞬が人を殺したとしても、私は瞬を絶対に否定しない。だって、こういう世の中だもん。生き抜くのに必要なことだってわかっているから。だから、気にしないで」

 

 優しい笑みを浮かべた本音を見た瞬は内心誓った。絶対に本音を幸せにしようと。―――例え、恩がある透や静流を殺してでも、と。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「来たか」

 

 瞬の事件の処理を終わった千冬の元に2人の生徒が現れた。一人は織斑一夏、もう一人は篠ノ之箒だ。

 2人はどうして自分たちが呼ばれたのかわからず、そして急に呼ばれたことで余計に緊張し、怪しむ。

 

「どうしましたか? もしかして、私たちの成績が予想以上に悪くて追試、とか?」

「え? そうなのか千冬姉!?」

「違う。あと、織斑先生と呼べ」

 

 もはや通例となりつつある問答をした後、千冬は言った。

 

「近い内に各国の代表候補生が国家代表の指導の下で特殊な訓練が行われる。それにお前たちも参加させれるように頼んでおいた」

「……お、織斑先生……それはいつ―――」

「夏休み後すぐ。行うのは2週間ほどだ」

 

 それを聞いた一夏は少し嫌な顔をした。

 

「あの、それって義務ですか? できればそろそろ家の掃除を―――」

「義務だ。特に2人は本来なら受けるべき課程をすっ飛ばして仮とは言え日本の代表候補生の待遇を受けている。今後のために受けろ。もしかしたら、国家代表と戦えるかもしれんぞ」

 

 そう言われて2人は少し物怖じしたが、千冬のある言葉が効いた。

 

「ちなみに、影宮は参加しない。というよりも参加させる必要性がない」

「な、何故ですか―――」

「影宮のレベルは既に国家代表と戦えるほどだからだ」

 

 もっとも、千冬は本当はそう思っていない。正しくは「国家代表レベルですらちゃんとしたコンビネーションを持っていない奴らじゃないと無理」だ。敢えてそれを言わなかった。

 

「わかりました。俺、行きます」

「……私も参加します」

「わかった。そのように伝えておく」

 

 そして2人は、本来いるべきであろうセシリアがいないことに少し悲しく思った。




なんとなく後半が終わりそうだったのでこんなタイトルにしました。

それにしてもガンブレ楽しい。近い内に「ガンプラならこんな感じ」ってのを上げたいですね(塗装するとは言っていない)

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