Silent-Nightmare of Second- 作:reizen
Nから始まる例の会社です。
今回の話を機にタグの編集を行います。もし苦手要素が追加されていましたら申し訳ないです。
『なるほど。大体の事態は把握した。おそらく知恵熱だな』
「……ち、知恵熱……?」
千冬は心から電話の相手に疑問を持った。
相手は男であり、相手曰く「保護者よりもこっちに電話を通すべき」だと言うほどだ。
『ああ。本来知恵熱は生まれたてから1歳くらいにかけてなるものだが、瞬の場合はハマった時の集中力が凄くてな。それを終わった後に大体莫大な知識を得ているから俺たちはそう呼んでる。それをおかげで瞬は特異な技能を持っているがな』
「そ、そうなのですか………」
『ああ。試しに家事でもさせてみな。別の方向にぶっ飛んだせいでジャガイモの皮むき、芽取り、細切れまで
の動作を空中で一瞬で終わらせるから』
「な、何をさせているんですか!?」
思わずそう言った千冬だが、すぐに「家庭に首を突っ込みすぎた」と反省する。
「す、すみません……」
『しまった。ブリュンヒルデの貴重な謝罪ボイスを録音してない』
「おい」
思わず素に戻る千冬。相手もからかい過ぎたと思ったのか軽く謝る。
『ま、数日寝かせればすぐに復帰するだろうから心配しなさんな。あ、たぶん麻酔も打っておいた方がいい』
「……何故?」
『目を覚ました時に寝惚けるか、もしくは瞬にとって重大なことを、女の手によって何らかの妨害をされたって考えたら、大体暴力という手段に訴えるからな』
楽しそうに話す電話の相手。そして少しシリアス気味に千冬は言われた。
『まぁ、アンタの事情は把握しているつもりだから無理に「教師だから平等に扱え」なんて言わないさ。だが、それでもアンタが心の支えになってくれるって言うなら俺はアンタに瞬を任せてみるつもりだ』
「……ありがとうございます」
『では、こちらはこれで。アンタも辛いだろうが良い判断を期待する』
そう言って相手は電話を切る。
(………いくら何でも麻酔は、な)
だがそれが彼女にとって失策だったと彼女は痛感させられるが、それは少し後のことだった。
織斑千冬が眼帯をして現れた時は誰もが驚いた。
女性にとって憧れの
「千冬姉!? どうしたんだよそれ―――」
出席簿で叩き伏せられた一夏。そして千冬はクールに答えた。
「学校では「織斑先生」と呼べと何度言えばわかる? なに。これは昨日寝惚けてベッドに顔をぶつけただけだ。気にするな」
とはいえ、気にするなという方が逆に難しいだろう。それほどまで彼女の活躍は女性を中心に幅広く伝わっているのだから。
「あの、織斑先生。影宮君はどうしたんですか? 昨日も出場辞退していましたが」
一夏の3つ後ろに座る鷹月静寐が質問すると、クラスの様子が一変する。ヒソヒソと、それでいて面白そうに次々と憶測が飛んだ。
「ビビッて逃げたんじゃない?」
「ありえそう。ほら、陰湿だし」
「弱いってわかっているだけまだマシでしょ」
セシリアが口を開け、一夏が全員に対して注意をしようとした瞬間に千冬が冷たく言った。
「今、影宮の悪口を言った奴は全員グラウンドを走って来い。そうだな。50周くらいでいいか」
全員の顔が青くなった。
IS学園のグラウンドに敷かれている白いコースの大きさは5㎞相当のものだ。それを50周―――つまり、250㎞走って来いと千冬は言ったのである。
全員が大人しくなったのを見た千冬はため息を吐いてから言った。
「この1週間、私は毎日走っていたのだがお前たちの姿を見たことない。だが影宮は火曜日の早朝から毎日走っていたぞ。後は毎日図書館の利用と訓練機の申請が2回。そう言えば射撃場の申請も来ていたか。休日は反射神経を鍛えるために機械でボールを発射させて木刀で弾いていたな。1週間で大した行動力だ。………で、織斑。お前は一体何をしていた?」
矛先を向けられた一夏は顔を青くし黙りこくった。
一夏も確かに行動はしていたが、結局のところ剣道場でひたすら箒と打ち合っていただけである。彼とて真剣に取り組んではいたがどう聞いても瞬がしていた量は大きく下回っていた。
「それにお前らもだ。朝に早めのペースで息切れをあまりさせずに走ったか? 射出されたボールは鋼鉄だったか? 訓練機の申請を出したか? していないだろう? 帰宅前に私は申請履歴を確認するが、少なくとも学園の施設を使おうとする動きはこのクラスでは影宮ともう一人を除いて全くいなかったな」
そう言われて全員が口を閉ざす。
実際そうだった。唯一セシリアがアリーナを借りて訓練していたが、それだけだろう。一夏と箒は剣道部から借りていただけであり、他の訓練は残念ながら一切していない。敢えて上げるなら休日にランニングをしていたがそれでも朝9時を過ぎたくらいから。起床は7時だとしてもその3時間前には既に起きて動いていた瞬には遠く及ばないと言っていい。
「それと、今影宮は40度の熱を出して倒れている。一度意識は取り戻したがまだ眠っている」
「………それって、大丈夫なんですか? その―――」
「インフルエンザを疑っているなら安心しろ。検査したが反応はなかった。ただの過労だ」
「………ただの過労で40度って………」
「身体弱すぎ……」
笑う生徒の前に移動した千冬は笑みを浮かべる。
「ではお前らは私に攻撃を加えられるか?」
「え………?」
「な、何を言っているんですか、織斑先生、そんなこと―――」
「影宮はしたが? この左目は影宮が私を殴ってなったものだ」
途端にクラスの女生徒たちの千冬のファンは怒りを露わにするが、千冬はため息を吐いて黙らせる。
「まだ気付かないのか。これは日頃影宮を馬鹿にしているお前たちが負けているという証拠そのものだ。未だに女尊男卑だなんだと騒いでいるようだがな、そんなのは所詮まやかしだ。より濃く努力した者が強くなる。賭け事以外の勝負事はそういうものだ。個人競技なら尚更な。そういう点ではオルコット以外のここにいる者は影宮以下だろうな」
全員が驚き、愕然とする。
まさかの織斑千冬直々の女尊男卑否定と影宮瞬に自分たちが負けていると宣言。誰もが反論しようとしただろうが、できるわけがない。
濃密な練習の数々。彼女らのスペックでは代表候補生のセシリアや剣道で全中優勝者である箒ですらやろうとは思わないものばかりだ。
「それと、今回の影宮の処分は警戒心故の行動ということで不問となった。下手に騒ぎ立てて余計なことをした場合は最悪退学にもなる。以後はそのことを頭に入れて影宮に接するように」
最後の最後で釘を打たれ、彼女らは沈黙する。千冬はお通夜状態のクラスを真耶に任せ、もう一度瞬の様子を見に行くのだった。
■■■
目を覚ますと、知らない天井が視界に入る。………というか、病室?
何故か点滴を打たれていて、僕は寝かされている。
「…………あれ?」
どうしてこんなことになっているの? 素晴らしいほど全く覚えていない。あ、そうだ―――
「試合!? 試合は―――」
慌ててベッドから降りると、思いのほか高くてそのまま落ちた。立ち上がろうとするとタイミング良くドアが開き、誰かが入ってくる。
「み、みーやん!? 大丈夫⁈」
「………その独特な呼び方は、布仏さん? そうだ、試合は!?」
「……………それは……」
バツが悪そうに別の方向を見る。その方向には当然何もない。
「なるほど。随分と騒がしいと思ったら気が付いたのか」
「織斑先生……。あ、試合は? まだ時間は―――」
「残念ながら既に日を跨いでいる。お前は欠場として処理した」
そこで僕はようやく、自分に当たる光がライトによるものではなく太陽の光だと気が付いた。
「………どういうことですか?」
「布仏から連絡が来てからここまで運んで熱を測ったが、その時には既に40℃の熱があった。だから参加を禁止した」
「………それって」
「安心してくれ。既に事情は説明している。中にはお前の事を馬鹿にする奴もいたが、そいつらに関しても釘を刺しておいた」
「………何してくれているんですか」
僕は織斑先生を睨みながらそう言った。
彼女は自分の影響力、そして彼女に対して特別な感情を抱いている生徒は少なくない。中には教師ですら恋愛感情を抱いている人だっているんだ。そして僕の経験的に、ISに関わろうと思うイケイケタイプの人は、基本的に人の話を全く聞かない。
自分たちが盛り上がれればそれでOK。周りの事情なんて気にしない。酷い時にはカツアゲや娯楽程度にしか思っていない冤罪をする。それだけじゃない。女たちは、自らの欲望を満たすために他人を殺すことを厭わない。
「…………結局、あなたも同じ人種でしかないですか」
「待て。私はそんなつもりじゃ―――」
「流石は織斑一夏の姉ですね。自分にどれだけの影響力があるか理解していない。結局あなたも致命的に鈍感なんですよ」
まだ少しふらつく。何かが張り付いたので僕はそれを無理矢理取って捨てた。
「み、みーや―――」
後ろから伸びる手を僕は咄嗟に払いのける。布仏さんは驚いた顔をするけど、僕は構わず外に出た。
―――そう言えば、久々に倒れたっけ
昔、熱で倒れたことがあったけど誰も介抱してくれなかったから仕方なく料理を自分で作ったことを思い出す。結局、ここも家と変わらない。それどころか最悪かもしれない。
―――ここじゃ、誰にも頼れることができない
空いた勉強分も自分で埋めないといけない。ともかく、今はその穴を埋めないと……。
■■■
本音と千冬は取り残されて呆然としていた。
どちらも動く気力がないのか、口を出そうとしない。すると本音の電話に着信が入り軽快な音が鳴り響く。それで我に返った本音は慌てながら電話に出た。
「も、もしもし―――」
『久しぶりだな、本音ちゃん』
その声は知り合い―――というよりも時間が経てば割りと親しくなる相手だった。
「………どうしたんですか?」
『瞬に拒絶されて落ち込んでいる奴らにフォローってところだ。………まぁその、悪かったな』
「…………ねぇ」
事情を話そうとしたその電話の相手だが、遮って本音が先に尋ねた。
「みーや……影宮瞬に一体何があったの? いくらなんでも、その………」
『異常だろ? 実は警戒心が強いのは結構な理由があってだな………もう一人は幼女に慣れているから、たぶん瞬もまだ女尊男卑に染まり切ってない可能性が高い幼女相手だったらもしかしたら可能性はあるかもしれないけど……』
「難易度高すぎない?」
『いやぁ、だからこそお前に頼んだんだけどな。見た目幼女だし、声も幼女だし』
「…………」
―――そんなこと思ってたのか
本音の額辺りに血管が浮き上がったが、それも一瞬のこと。未だに呆然としている千冬はようやく本音が電話をしていることに気付いたぐらいで、それに本音も気付いたので外に出る。
『まぁ、あれだ。俺もアイツも色々あったんだよ。それこそ本音ちゃんみたいな普通の感性を持つ女の子でも想像できないほどの苦しみがな』
「………たぶんそうじゃないかって思うけど……」
『だから、まず君はそれ瞬から聞き出す。そしてあわよくば』
「あわよくば?」
『襲え。あ、エッチな方で』
本音は静かに電話を切ろうとしたが、少しの沈黙で察した電話の相手は止める。
『ストップ! 待て! ちょっと待て! 別にお前の裸に興味があるわけじゃねえ! というかだな、そもそもお前に頼んだのはどっちかというと癒しとか支えとかそう言うのになってほしいわけで本気で恋仲になれってわけじゃねえよ!』
「…………まぁ、私からお嬢様に伝えることもできるしね」
『いや、冗談だっての………ホント。というか本音ちゃん以外だとマジで心当たりないんだって』
「……本当は?」
『俺は欲張りだから姉妹諸共頂く所存です』
本音は電話相手の相変わらずの物言いにため息を吐き、とりあえず瞬の好物とかを聞き出した。
「ところで、何で影宮瞬が私たちのことを拒絶したのを知ってるのかな?」
『…………また今度連絡する』
本音は怒りを露わにし、後で部屋のチェックをしようと心に決める。
とはいえ今の本音にとって瞬と仲良くなることは急務。そう思ってとりあえず部屋に戻る本音。そして、ドアを開けると壁にもたれかかる瞬の姿があった。
「み、みーや―――」
ふと、彼女の脳裏にさっきの拒否反応が脳裏に過ぎる。また拒否されたらどうしようと不安が彼女を襲い、動きを躊躇わせる。しかし―――
「………君か」
さっきとは違ってどこか安心したような表情を浮かべる瞬。本音は少し驚きながら近づくと、瞬はそのまま倒れた。
(全く。世話のかかる弟分だ)
電話相手の男はため息を吐く。しかし彼もまた、あの事を話すのは憚られたのだ。
(ああなった理由が理由だからなぁ)
正直なところ、この男は瞬のために本音を用意した。元々本音はIS学園に入学することが決まっていたが、それを知った故に頼んだと言うのが正しいが。
この男は瞬があそこまで女性を拒否する理由は知っているが、IS学園に入学するとなれば将来はどうしても女が関わってくることになる。だが、今の瞬は警戒心はあれど耐性がないのでどうしても慣らしておきたいのだ。
(特に今のアイツは俺たちの中でも最弱だしな)
一番の悩みの種はそこだろう。
もし瞬がこの男やもう一人のようならあまり干渉せず、この男も瞬に「女を警戒するように」と忠告はしなかっただろう。むしろ、積極的に関係を持つことを勧めたはずだ。だが、瞬は所詮影が薄い程度の一般人。警戒し、選別する方が良いと判断したのだ。
(ま、本音ちゃんが良い感じに動いてくれることを期待するか)
そう思い、男はキーボードを叩いて操作し、ある画像を出す。
(………面倒なことになったな)
その画像が男のため息の元であり、今物凄く悩む存在だった。
心中複雑回。
今回のストーリーは色々とキャンペーンというか大展開の予定になります。