Silent-Nightmare of Second- 作:reizen
もし僕に静流のような人並み外れたどころか人ですら怪しいほどの筋力を持つ男だったら、たぶん彼女をぶん投げているかもしれない。
「ねぇ布仏さん、降りてくれない?」
「え~? 何で~?」
「重いからだよ」
そう言うと布仏さんが頬を膨らませて怒る。
「む~。女の子に「重い」って言っちゃダメなんだよ!」
「…………」
たぶん僕は今布仏さんをゴミ屑を見るような目で見ているんだろう。
「な、なに……?」
「ねぇ布仏さん。君は40㎏や50㎏の荷物を運べる?」
「そ、それは……重くて無理かなぁ……」
「何だ、わかってるじゃん」
つまりそういうことだ。
女性の平均体重は大体4、50㎏程度。だけどそれは人間にとっては十分に重い物だ。
「機嫌を取りたいを思うほどの相手ならともかく、そうでもない女に何で気を遣わないといけないのかな?」
「……………」
今度は背中に引っ付く布仏さん。正直鬱陶しいとしか思えなかった。
そんなこんなで教室に着いた僕らは入り口が塞がれていることに気付く。
「ちょっといい?」
「なによ………え? 嘘でしょ?」
入り口を開けてもらおうと声をかけただけなのに、何故かその子は顔を青くした。おかしい。まだ何も言っていないのに。
すると何を思ったのかその子は僕の身体に触れた。
「え? 触れる?」
「………ごめん。訳が分からない………あ、そう言えば君って昨日校門にいた子?」
「そ、そうよ。凰鈴音よ。………アンタって幽霊じゃないわよね?」
「まだ死んでないよ」
何? 今僕を殺すのが流行っているの?
なんて考えていると、僕の後ろから殺気が放たれ始めていた。
「…………」
「な、何よ。昨日見た時はサッと現れてサッと消えたから幽霊か何かだと思ったのよ! 本当よ!」
前々から本当に疑問だったけど、何故か布仏さんは僕に対する悪口には敏感だ。直接的な攻撃はしないけど、普段からは考えられない程に睨む。
「別に良いよ。興味ないから」
「そうだな。とりあえず今は自分の席に座れ。そして凰、貴様は教室に帰れ」
「は、はい!」
突然現れた織斑先生。どうやら凰さんは織斑先生が苦手なようで一目散に逃げて行った。
「………何かしたんですか?」
「生憎、覚えがない」
絶対何かしたんだろうと、思いながら僕は席に着いた。
どうやら凰さんは織斑君が好きらしい。
その根拠は凰さんが登場してからというもの篠ノ之さんとオルコットさんが注意されることが多くなった(オルコットさんに至ってはあの騒動以来されること自体が珍しい)からだ。しかもオルコットさん、授業の質問にデートとか答えていたから確定だろう。
「?」
当の本人は訳が分からないと言った風だけど。
なので騒動を回避するために僕は早めに食堂へと向かった。
「待って―――なんだ、アンタか」
「………凰さん」
どうやら彼女は既に食堂に来ていたようで、お盆の上にはラーメンとレンゲ、そして箸が載せられている。
「ねぇ、一夏は?」
「さぁ? たぶん今頃しの………恋愛経験0の面倒な女子たちに八つ当たりされているんじゃない?」
「いや、それなら助けなさいよ………」
「触らぬ神に祟りなし。人の恋路を邪魔して理不尽に馬に蹴られたくはないからね」
………冷静に考えたら、恋愛するなら神様でも良いかな。
ともかく凰さんは放置して僕は僕で食券買って空いている場所に座った。
「………で、何で君は当たり前のように僕の隣に座ってるの?」
「……ダメ?」
布仏さんが普通に席に着いている。いい加減に僕は一人でいたいんだけどな。
「僕は女が嫌いなんだけど………」
「私はみーやんのこと好きだよ?」
「…………はぁ」
心からため息を吐く。どうして僕はこんな奴に目を付けられたのだろうか。今度先輩に会ったら一発殴りたい。………まぁ、氷柱で串刺しにされかける方が早いだろうけど。
「なぁ瞬、そこ座らせてもらっていいか?」
「…………別に良いよ、何でも」
僕が座った所は4人……ギリギリ5人くらいは座れる席だ。今更2人座ったところで何の問題もない。でも―――
「鈴、いつ日本に帰ってきたんだ? おばさん元気か? いつ代表候補生になったんだ?」
「質問ばっかしないでよ。アンタこそ、なにIS使ってるのよ。ニュースで見た時はびっくりしたじゃない」
なんか如何にもバカップルって感じな雰囲気を出すのは止めてほしい。たまにいるよね、人目に憚らずにイチャイチャする奴ら。ああいうのを見ていたら、どちらも解体したくなる。
「一夏! そろそろどういう関係か説明してほしいのだが?」
「そうですわ! 一夏さん、まさかこちらの方と付き合ってらっしゃるの!?」
「そんなことより、いくら気になるからって食事中に机を叩かないでよ。溢して制服にかかったらどうするのさ」
抗議すると2人が僕を睨んでくる。作法に厳しい感じの癖に何で作法を乱すのかな。
「べ、べべ、別に私は付き合ってるわけじゃ……」
「そうだぞ。何でそんな話になるんだ。ただお幼馴染だよ」
その言葉が気に入らなかったのか、凰さんは織斑君を睨んだ。
「? 何睨んでるんだ?」
「なんでもないわよっ!」
…………これはあれだ。またやってしまっているパターンだ。どうして織斑君はこうしてモテるのだろうか………いや、むしろ何故こいつらが簡単に落ちるのか謎だ。織斑君は僕の友人たちと違って一般人なのに。
「幼馴染……?」
「あー、えっとだな。箒が引っ越していったのが小4の終わりだったろ? 鈴が転校してきたのは小5の頭だよ。で、中2の終わりに国に帰ったから、会うのは1年ちょっとぶりだな」
……あれ? それならどっちも幼馴染じゃなくない? そう思ったのは僕だけのようで、幼馴染同士の2人は火花を散らしている。
「で、こっちが箒。ほら、前に話したろ? 小学校からの幼馴染で、俺の通ってた剣術道場の娘」
「ふうん、そうなんだ。初めまして。これからよろしくね」
「ああ。こちらこそ」
さらに激しく火花を散らす。織斑君は眉間を抑えているけど、たぶん疲労か何かと勘違いしているのだろう。実際見えているから幻覚じゃないけど。
「ンンンっ! わたくしの存在を忘れてもらっては困りますわ。中国代表候補生、凰鈴音さん?」
「………誰?」
いや、代表候補生としてそれってどうなの?
「なっ!? わ、わたくしはイギリス代表候補生、セシリア・オルコットでしてよ!? まさかご存じないの?」
「うん。アタシ他の国とか興味ないし」
「なっ!? ………い、言っておきますけど、わたくしあなたのような方には負けませんわ!」
「え?」
「そ。でも戦ったらアタシが勝つよ。悪いけど強いもん」
ちなみに驚いたのは僕である。何故って、そりゃあねぇ?
「一夏、アンタが1組のクラス代表なんだって?」
「お、おう。成り行きでな」
「ふーん………」
僕をチラ見する凰さん。何か言いたそうな顔をするけど、僕は何も言いたいことはない。
「あ、あのさぁ。ISの操縦、見てあげてもいいけど?」
「そりゃ助か―――」
また机が叩かれ、コップが倒れて中に入っていた水が僕の制服にかかった。
「ちょっと、何するのさ!」
「一夏に教えるのは私の役目だ。頼まれたのは、私だ」
「みーやん、大丈夫!?」
「あなたは2組でしょう!? 敵の施しは受けま「ちょっと2人共、いい加減に」あなたは黙ってなさい!」
―――ブチッ!
僕は織斑君のコップをひったくって水を2人にかけた。
「なっ!?」
「あなた、一体何を―――」
「ねぇ」
今回ばかりはちょっとムカついた僕は、静流の真似をすることを決意した。
「告ったこともないメス風情が彼女面して他人に迷惑かけないでよ。ウザいから」
全員がその場で黙った。オルコットさんは口をパクパクしていて、篠ノ之さんは驚いて僕を見る。
「それと凰さん、そろそろクラス対抗戦だから少し自重してくれない? 聞けば君、2組のクラス代表なんでしょ? 1組のクラス代表と関係を持っているというだけで疑う人もいるから、お互いのためにもここは引いた方が良いよ。訓練後にどうしようかは僕は知らないし、対抗戦の後にデートなりなんなりすればいいんだし」
「………そ、そうね。そうするわ」
納得してくれたようで何より。そして、流石は透さんと静流をミックスした交渉術だ。
僕は席を立ちあがって先に食器を片付けて食堂を後にした。
放課後、訓練機を借りれた僕は第三アリーナで降り立つ。………何故か篠ノ之さんと一緒に。
「訓練機、借りれたんだ」
「そうだ。まさかお前もいるとはな」
「別に君たちの邪魔をするつもりはないよ。織斑君がどうするかはともかく、だけど」
そう言うと篠ノ之さんの顔は曇る。織斑君の性格を考えれば確かにそうだろう。
「みーやーん!」
どうやら布仏さんも機体の使用許可が降りたようで、篠ノ之さんと同じ日本製の第二世代型IS「打鉄」を装備している。僕はフランス製の「ラファール・リヴァイヴ」だ。
とりあえず布仏さんを引き離して、僕はフィールド内に入った。
しばらくすると織斑君とオルコットさんが現れる。
「え?」
織斑君は僕らがいるとは思わなったらしい。心外だな。
「何だその顔は。おかしいか?」
「いや、その、おかしいっていうか―――」
「篠ノ之さん!? それに影宮さんまで!? どうしてここにいますの!?」
どうやら布仏さんは勘定に入っていないらしい。入れてあげてよ。
「どうしてもなにも、一夏に頼まれたからだ」
「僕はこの時間にアリーナの使用時間が降りたから」
「私も~」
「それに、近接格闘戦の訓練が足りていないだろう? 私の出番だな」
ドヤ顔をする篠ノ之さん。僕らは巻き込まれないために少し離れて射撃訓練をする。
「くっ……。まさかこんなにあっさりと訓練機の使用許可が降りるだなんて……」
いや、僕は当然だよね? あんまり言いたくないけど僕は男性操縦者なんだから優先的に回されて然るべきだ。
「では一夏、始めるとしよう。刀を抜け」
「お、おうっ」
とりあえず僕は射撃経験はあるけど動かずに撃とう。基礎は大切に、だ。
透先輩に教わったことを思い出しながら、1発ずつ撃っていく。
「お待ちなさい! 一夏さんのお相手をするのはこのわたくし、セシリア・オルコットでしてよ!?」
「ええい、邪魔な! ならば斬る!」
「訓練機如きに後れを取るほど、優しくなくってよ!」
向こうでは下らない理由でキャットファイトを始めた。僕は布仏さんと安全な場所に移動する。勘違いしないでほしいけど、僕は別に布仏さんに気があるわけじゃない。やるべきことをしているだけだ。
「なぁ瞬、模擬戦しないか?」
「冗談でしょ? 僕は死にたくないから嫌だよ」
「じゃあのほほんさ―――」
股間を蹴って悶えさせる。全く。少しは自分が置かれている現状を理解してもらいたいものだ。
「一夏!」
「何故そんなところにいますの!?」
「うえっ!? だって……ど、どっちかに味方したらお前ら怒るだろ?」
「当然だ!」
「当然ですわ!」
どうやら彼女らに理屈は通じないようで、今度は織斑君VS篠ノ之さん、オルコットさんペアとなった。
僕は心からため息を溢して布仏さんにピットに上がっておくように言って3人の試合に乱入した。
織斑君のブレードと篠ノ之さんのブレードが当たる寸前にナイフで受け止める。
「貴様!? 一体どこから―――」
「瞬、俺の味方になってくれるのか!?」
「いただきましたわ!」
「なに言ってるの?」
僕はナイフを離すと同時に2人の手首を掴んで織斑君をオルコットさんの方に放って篠ノ之さんでオルコットさんが射出していたビット兵器を防ぎ、それから織斑君と同じようにオルコットさんの方に放った。
「な、何しますの!?」
「ちょっと試してみただけだよ」
流石に急に現れて一瞬に命を刈り取る―――みたいな芸当はできないか。
「なぁ瞬、瞬も接近戦できるのか!?」
「………できなくはないけど」
「じゃあ教えてくれよ!」
「今日は篠ノ之さんに教わって。僕のやり方は邪道だから」
僕の場合、剣士というよりも忍者とか暗殺者とかの方が近い。だから僕よりも篠ノ之さんの方が良いだろう。
僕はまた黙々と射撃練習に勤しむ。試合が終わったと思ったのか、布仏さんが降りてきた。
■■■
(………気付かなかった)
篠ノ之箒は心から驚きを露わにしていた。
瞬が試合に乱入した時、箒が瞬を捉えたのは本当に近接ブレードの刃が当たった後に乱入していたことに気付いたのだ。乱入されれば千冬でもわかる箒では本来あり得ないことだ。
(………思えば、影宮の気配は感じにくい)
今朝のこともそうだ。瞬が鈴音に声をかけるまで、箒もそこに
(………怖い)
もし瞬が誰かに雇われた暗殺者とかで、もし自分をさらいに来た人間だと思うと、身がすくむ。
だが彼女は知らない。瞬の気配遮断能力がこの程度のものではないと。そして、瞬よりもヤバいのが少なくともあと2人もいるという事を。
瞬「今日、篠ノ之さんとオルコットさん相手に啖呵を切った。でも、あれは完全な模倣じゃない。本気で模倣するな、どちらも身体の一部を破壊しないといけないから。………そう考えると、見た目はモヤシに見える静流が殴っただけで人を半殺しにできるのはおかしいな」
次回、第8話「寮でペットは飼えません」
実は密かにバッドルート書いてますが、なんというか初っ端から鬱展開過ぎますわ。
ちなみにそのルートは、瞬が透、静流に会わずに平凡な日々を過ごした結果という前提のルートです。