Silent-Nightmare of Second- 作:reizen
ISを指示書に従って整備し、返却した後はそれ用の訓練をして部屋に帰ると、
「……何故君がいるの?」
「いちゃ悪い?」
「というよりもおかしい。ここは織斑君の部屋じゃないよ」
「知ってるわよ!」
僕に怒鳴る凰さん。僕は布仏さんに視線を移すと、顔を逸らされた。
「全く。面倒なことは避けてほしいんだけど。大体、何でその子がここにいるの?」
「だってぇ。見つけた時に泣いてたし……」
「泣いてないわよ!!」
………なるほどねぇ。活発そうな子が泣いているとなればそりゃ確かに気になる。まぁ、だからと言ってこの部屋に連れてくるかどうかは別問題だけど。
(まぁいいや。凰さんだったらハニトラを警戒する必要はないだろうし)
してきたらむしろ笑い死にしそうだ。
「それで、一体何で泣いてたの?」
「だから泣いてないっての!」
少し弄りながら、凰さんから泣いていた理由を聞き出す。
「つまり、凰さんは篠ノ之さんが織斑君が同居していると聞いて突撃し、篠ノ之さんが殴って来たのを防いで意気消沈させてから、前にした約束の確認したら「私の料理が上手くなったら毎日酢豚を食べてくれる」という部分を「奢ってくれる」と勘違いされて怒って出てきた、と」
「だって酷いじゃない。乙女の一世一代の告白を変な方向に解釈されたのよ!?」
「……6:4だね。君にも非があるよ」
「はぁっ?!」
怒りを見せる凰さんだけど、こればかりは譲れない。
「人の記憶なんてものは曖昧だ。増してや相手はあの織斑君だよ? だったらあの場面で引っ叩くのではなく襟元を掴んでキスぐらいしてから「こっちの意味よ」ぐらいは言わないと」
まぁ僕にそれをやれと言われてもできないんだけどね。先輩の受け売りだから。
「そ、そんなことできるわけないじゃない! じゃあアンタはできるの!?」
「いや、流石にできないよ………キス以上のことを普通にして、しかもその相手を他が狙う場合、国単位で消滅させる人ならば心当たりはあるけど」
「そんな人こそいるわけないじゃない」
「………あ~確かにしそうだよねぇ」
「でしょ?」
「え? いるの? そんな人?」
何とか答えをはぐらかして、僕は凰さんを追い出した。
「布仏さん。お願いがあるんだけど」
「なぁにぃ?」
やっぱり僕に内緒で連れてきたのはマズいと思ったのか、それとも今回の件で僕に怒られると思ったのか、布仏さんは何故かベッドのふちに隠れた。
「お願いだから、誰かを連れてくるときは一言連絡ください」
「………ごめんなさい」
素直に謝る子は嫌いじゃない。僕は布仏さんの頭を撫でてふと思ったことがある。
(…………ペットってこんな感じなのかな?)
ふと、昔に周りが「ペットを飼った」とか「ペットが欲しい」という会話をしていたことを思い出した。
僕はイマイチどういうことかわからなかったけど、今ならわかる。
(もし僕がISを動かさなかったら、こんな女の子と付き合いたかったな)
それから少しして、僕は自己嫌悪に陥った。
5月になった。ゴールデンウィークなんてものはIS学園には存在しなかった。休みだけど大抵の生徒が勉強やIS訓練に勤しむので僕は大方トレーニングに勤しんでいた。
そしてクラス対抗戦当日。僕は観客席で観戦していた。
「………眠い」
「もぉ、遅くまで動画を見ているからだよぉ」
「ちょっとでも勉強しないと追いつけないし……」
それでもちゃんと早起きして布仏さんを連れてきたんだからむしろ褒めるべきだと思う。
ちなみに僕のように観客席に座りたい生徒はたくさんいて、僕が座っていることに対して気に入らない先輩たちが突っかかってきたけど布仏さんがすべて追い返した。まるで番犬みたいだった。
でも、文句を言われるようなことはしていないんだけどね。だって今日は―――布仏さんを膝の上に乗せている状態で観戦しているから結局2人で1席分しか占領していない。
「最悪、試合を録画してから後からレポートを書くよ」
実はクラス対抗戦に出場しない生徒はレポートの作成を義務付けられている。期限は試合終了後から4日後に設定されていて、それまでに出さなければ減点だ。
(………にしても、重い)
僕は静流みたいにパワー型じゃないから、流石に4,50㎏のモノは乗せれないんだけどなぁ。でも今日1日の我慢だ。
意識を試合に向ける。
織斑君が使用する白式は全身を名の通り白く塗られていて、細部には金や青色が塗装されている。言うなれば白い王子みたいな印象を持つ。対して凰さんの甲龍は赤紫……というよりもピンクかな? それに近い色をしていて、彼女の機体の
『一夏、今謝るなら少しくらい痛めつけるレベルを下げてあげるわよ』
『雀の涙くらいだろ。そんなのいらねえよ。全力で来い』
そう言えば、布仏さんから聞いたけどあの2人はあの後にさらに仲が悪くなったようだ。凰さんが以前にピット内で暴発させたことで1000枚くらい反省文を書かされていて、それがすべて織斑君の悪口だったそうな。
『一応言っておくけど、ISの絶対防御も完璧じゃないのよ。シールドエネルギーを突破する攻撃力があれば、本体にダメージを貫通させられる』
…………どうしよう。もしかしたら男がISに勝てる可能性が出てきた。まぁ、2人だけだけどさ。
実際のところそれは本当のようで、噂だとIS操縦者に直接ダメージを与えるためだけの武装も存在するようだ。使ったら刑罰ものだし使ったら人命に危険が及んでしまうものだ。そういうものは、僕が知る限り平然と人間を超えている2人にしか使ってはいけないと思う。
(………本当に、静流がISを使えなくて良かったと思うよ)
たぶん初日の時点で織斑先生とオルコットさんは再起不能にされていて、クラスメイトには「じゃあちょっと悪そうな会社を潰してきてよ」「大丈夫だって。銃弾なんてくいって感じで腕を移動させたら取れるから」とか言っているだろうから。
【それでは両者、試合を開始してください】
ブザーが鳴り終わると同時に織斑君と凰さんが動き出す。どちらも―――というよりも凰さんは織斑君にぶつかるように接近して青龍刀を思わせるブレードで攻撃したが、織斑君は弾かれつつもどうにか防ぎ切ったようだ。
『ふうん。初撃を防ぐなんてやるじゃない。けど―――』
もう一本の青龍刀のようなものを連結させて、まるでバトンのように振り回し、攻撃する。織斑君はすぐに距離を詰められたこともあって少しは付き合っていたけど危険を感じたのか距離を取ろうとした。
『―――甘いっ!!』
凰さんの非固定浮遊部位が開いて、そこから何かが射出された。たぶんあれは空気砲の一種だろう。それを食らった織斑君は地面に落ちていく。
『今のはジャブだからね』
たぶんストレートをまともに食らった織斑君は、地面に叩きつけられた。
「………衝撃砲、完成してたんだ」
「何それ」
「空間自体に圧力をかけて、砲身を生成して余剰で生じる衝撃を砲弾化して撃ち出す武装だよぉ。目に見えないのが特徴なんだ~」
「じゃああれは欠陥品だね。さっき砲身も砲弾も見えていたから」
「「「え?」」」
布仏さんだけじゃなく、周りから驚かれた。今のどこに驚く要素があるんだろう?
「ちょっと、いくらなんでもそれは風呂敷を広げ過ぎじゃない?」
「冗談でしょ? 相手にしない方が良いわよ」
周りからそんなことを言われるけど、実際そうだしなぁ。
しばらくは飛びまわったりして回避し続けることが続いたけど、織斑君はまるで何かを決意したような顔をして凰さんに言葉をかける。
『鈴』
『何よ?』
『本気で行くからな』
真剣に見つめているけど、たぶんあれは勘違いされるよね。全く、本当に無自覚な男というのは―――拷問道具を持ち出して処刑したいくらいだ。
『な、なによ……そんなこと、当たり前じゃない。と、とにかく、格の違いってのを見せてあげるわよ!』
織斑君の動きが変わった。凰さんの死角に入った織斑君は反転して凰さんに加速して接近する。
「うぉおおおっ!!」
たぶん気合を入れていると思おう。奇襲に叫ぶのは馬鹿がすることだけど、そう思えば納得できる。
―――突然のことだった
急に地震が起こった。
僕は反射的に布仏さんを抱きしめた僕は落ちないように踏ん張る。揺れが収まったところで布仏さんに謝った。
「ごめん、布仏さん」
「だ、大丈夫! 大丈夫だから!」
何で顔を赤くしているんだろう?
いや、そんなことよりもだ。僕は布仏さんを解放すると、織斑先生のアナウンスが観客席に響いた。
『試合中止だ! 織斑! 凰! ただちに退避しろ!』
ほとんど同時にサイレンが鳴り響く。事態はかなり悪い様だ。観客席も何か固い扉でフィールド側が閉められた。
(………ここは落ちついた方が良いかな)
どうせ先に出たところで危険なことは変わりないし、僕が先に出ると女たちが「男風情が何先に逃げてるのよ!」と文句を言って来るだろうから。
「布仏さんは先に逃げて」
「嫌だ」
そう言って僕に引っ付く布仏さん。彼女はもう少し恥じらいを持った方が良いと思う。などと思っていると、さっきから人が減っていないように見える。
僕は近くにいる人に質問した。
「あの、誰も逃げていないのですか?」
「逃げられないのよ! ドアが開かないのよ!!」
泣きそうになっているその人の言葉を聞いて、僕は人だからに割って入る。おしくら饅頭状態だけど、何とか前に出てきた。
(………端末、見つけた)
端末の方に手を伸ばすと、前に出てきた人の胸が当たった。
「ちょっ、何するのよ変態!」
急に殴ってくるので拳を逸らす。危ないなぁ。
「そこを退いてください。試したいことがあるんです」
「黙りなさいよ! どうせ死ぬんだから胸を揉みしだこうとでも思ったんでしょ! 誰がアンタなんかに―――」
―――クスッ
僕は思わず馬鹿にするように笑った。
「こちらとてあなたたちのような屑には興味ありません。自意識過剰も程ほどにしてくださいよ」
そう言って僕は黒い端末からコードを伸ばして開閉端末に接続しようとした。
「ちょ、早くしなさいよ!」
「……布仏さん」
さっき僕に対して変態呼ばわりした女生徒に刃物を向けている同居人の名前を呼ぶと、機嫌悪そうな声で返事された。
「流石に可哀想なので解放してあげてください」
「大丈夫。ちょっとお話するだけだから」
ちょっと怖いオーラが見えたけど、その女生徒が無事なことを祈りながら接続する。すると僕の方のパネルに色々と文字が映し出され、やがて「completed successfully」が出てドアが開いた。
「え? 本当に開いた? どういうこと?」
「まさか本当に開いてるの?」
僕はすぐに外に出る。一目散に逃げるためだけど、やっぱり開いたのはあのドアだけだったようだ。隔壁が閉まっている。
(やっぱり、もう一度)
僕はそう思って端末を出すと、急に隔壁が開いた。って、篠ノ之さん?
「影宮!?」
「篠ノ之さん、ここで何をしているの?」
「………私は一夏の応援に行こうと―――」
見ると篠ノ之さんが通ったと思われる場所はすべて開いている。ということは、まさか。
ある推論を立てた僕は篠ノ之さんの腕を掴んで閉まっている隔壁の前に移動した。そして、閉じていた隔壁が開く。
(ということなら)
抗議してくる篠ノ之さんにある写真を見せると硬直した。
「これ、欲しい?」
「あ、ああ!」
「わかった。じゃあ僕と一緒に走ってくれる?」
すると何を思ったのか顔を赤くした篠ノ之さん。
「わかっていると思うけど、走るって言っても人生じゃなくて開ける方だから」
「そ……それくらい知っている!!」
僕と篠ノ之さんはアリーナの外まで走った。隔壁をすべて開けた後、篠ノ之さんは解放する。布仏さんの姿は見えないけど、たぶん逃げているだろう。
計画は完璧だと思った。けど、僕の背中に悪寒が走ったこともあって僕は逃げてくる人たちから少し離れると、僕がさっきまでいた場所に熱線が通過した。
「…………冗談でしょ?」
前々から嫌な予感が当たるなぁって感じはあったけど、まさかまた当たるなんて思わなかった……というか、思いたくなかった。
「僕はISを持っていないんだけどな」
僕は篠ノ之さんならもしかして隔壁をすべて開けるカギになっていると思った。
何故ならそもそもISを男を捕獲するからという理由で飛ばすことはない。ISを動かせる男は確かに貴重だけど、リスクが大きすぎる。そして何より、今回の襲撃は誰もいないのにシステムに異常が起きすぎているのだ。
それができるのは僕が知る限り2人。だけどさっきので1人消えた。となれば、犯人は篠ノ之束。
そこまで導き出した僕を邪魔だと思っているのか、それとも元々邪魔だと思っているのか、篠ノ之束は今僕を殺そうとしている。そう思った時だった。
―――ドンッ
急に僕を襲って機体に爆発が起こる。誰かが攻撃したのだろう。となれば、救援部隊がこっちに来たか。
そう思ったけど、来たのは一人だけだった。
「の、布仏さん」
黄色の打鉄を装備している布仏さんが攻撃する。だけど、ダメージはそれほどないようで僕の方に向かって来る。
「させない!!」
布仏さんが近接ブレードで攻撃する。明らかに死角からの攻撃なのに、その機体は対応して布仏さんを僕の方に殴り飛ばし、ビームを放った。僕は咄嗟にしゃがんで飛んでくる打鉄を回避する。
「………なんで……」
―――何で、僕に機体がないんだろう
ふと、そんな思考が脳内をよぎる。そのせいで身体は止まり、ISが僕に向けてビームを発射した。
―――死んだかと思った
だけど聞こえてきたのは布仏さんのあえぐ声であり、目を開けると、布仏さんが僕の盾になってくれていたのだ。
「………げて………逃げて……」
僕はすぐさまそこから逃げた。だって、ISを持っていないから。
■■■
自分を置いて逃げる瞬を見て、本音は恨むことはしなかった。むしろ、微笑ましく感じた。
(………やっと………返せる)
ふと、彼女は昔のことを思い出した。
とてものらりくらりとしていて、マイペース過ぎた彼女はよく周りから敬遠されていた。そのこともあって彼女はよく一人で遊んでいた。だけど、
「一緒に遊ぼう?」
一人の少年が、そう言って自分に手を差し伸べていた。
その少年と遊んだのはほんの少しだった。だけど本音にとってとても楽しいことだったのは間違いなく、またどこかで会えたら良いなとずっと思っていたある日、透から連絡が来たのだ。
―――ある男を支えてやってほしい
写真が送られて見た瞬間、その男がかつて自分と遊んだ少年だとわかった。というよりも、以前に所属していた幼稚園に問い合わせ、確認を取った後に痕跡を辿ったからだ。
所属不明のISが瞬を逃がした本音に八つ当たりするように蹴り続け、本音にダメージを与える。そのせいか残っていたシールドエネルギーが尽きて予備エネルギーも空になったことで打鉄から本音が排出された。
ISは本音を掴み、持ち上げてビームを放つためにエネルギーを貯める。どうやら骨も残す気はないらしい。
(………もっと、瞬と一緒にいたかったなぁ)
本音の瞳から涙がこぼれる。ビームが発射されようと瞬間、所属不明ISの腕が爆発した。そして、本音は自分が落ちるのを感じた。だが下はコンクリートであり、頭から落ちれば死は免れない。最悪植物状態だろう。
そこまで覚悟した本音が何かにぶつかった。
(私、もう死んだか……)
と思った時、至近距離から殺気が放たれた。
―――ふと、彼女の脳裏にある言葉が過ぎった
『実はそいつさ、過去にちょっと面倒なことがあったからあまり怒らせないようにしてほしいんだ。って言うか、たぶん全能力引き出したらその時点で―――IS学園が瓦礫に変わっちまうから』
そんな不吉な言葉を思い出させる程の殺気を放ったその存在が敵を終わらせるのにかかった時間はわずか5秒で計5000回切った。
それ故に敵ISは文字通りバラバラになり、本音が覚えているのはその光景のみだった。