Silent-Nightmare of Second-   作:reizen

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ep.9 青い春な和解

 そもそもの話、布仏さんが来たことは少しおかしい。いや、おかしくはないけど、布仏さんが単体で来たという事自体がおかしいんだ。

 自分で言うのもおかしいけど、僕は特別な人間だ。それこそ、護衛は100人単位でされてもおかしくない程に。だから、僕は機体を探すことにした。どこかに残っている機体があると思ったからだ。僕はすべての人間を解放したわけじゃないし、上級生は下級生を避難させるのに忙しいはずだから。

 そして僕は、見たことない機体を見つけた。

 

 本来なら指定場所以外でのISの使用は厳罰対象になる。だけど攻めてきた相手がISを使用するとなれば話は別だ。もし僕が静流や透先輩ならばISなんて必要としないけど、僕は人外じゃないからISは必要だ。

 

 幸運なことに、そのISはとても早かった。

 おそらく全ISの中でもっとも早い機体。そう思える速度を出したその機体はおそらくヒットアンドアウェイのためのモノだろう。

 なんて、変な自己解釈をして現実逃避するのはもう止めよう。

 

「それで、このISは一体何なのかしら?」

「格納庫にあったので使いました。詳細は機体データを見てください」

「それが見られないんだけど?」

 

 それにしても、事情聴取を担当する教員の未来が怪しいとしか思えない。静流とはバッタリ会ったら即死かもしれないぐらいの。

 

「………嘘でしょ?」

「本当よ。あなたにしかアクセス権限がないの。そういうのは本来あり得ない」

「そんなこと言われましても………」

 

 大体、僕には後ろ盾がない。ISを用意できるわけがないからたぶんたまたま何かに当たって操作系が狂っただけだろう。少し弄れば元に戻るだろうし気にすることはないかな。

 どうしたものかと考えていると、ドアが開いて織斑先生が現れた。

 

「お、織斑先生………?」

「私は彼に機体の事について深く聞くことは禁じていたが、これはどういうことだ?」

 

 織斑先生が僕に迫っていた教師を睨むと、かなり見苦しい言い訳をしたその人はどこかに行った。

 

「全く。すまなかったな、影宮。だがお前が動かしたISはとても特殊なものでな。これまで誰も動かすことはできなかったんだ」

「………はい?」

 

 そんなことを言われた僕は目が点になった。

 

「いつから置かれていたのか不明。コアもどういうものかわからない状態でな。製作者も詳しくはわかっていない以上、使わせるのも危ないという事で解体が決まったこともあったが、特殊なバリアが張られていてそれもできない状態だったんだ」

 

 なるほど。どこの国でも動かせないコアを賄う余裕はない。各国から生徒を受け入れるためにたくさん置いているIS学園ならではの方法だろう。

 

「それでどうだった。影宮としてはあの機体を使ってみて良かったか?」

「…………押し付ける気満々、ですね」

「それもあるが、どうやら委員会は影宮のISを作る気はないらしい」

 

 それで、か。

 確かにISを持っていれば少し遠出してもとやかく言われる、という事はなさそうだ………下手すれば休みなのに外に出れない、なんてこともありそうだけど。

 

「とんでもない速度を出ていたんですが」

「………そうなのか。いや、その状況は見させてもらったが、おそらくあれは白式を超えている」

「そんなに………」

 

 …………ん? でもそうだとしたら………もらう価値はあるかもしれない。

 

「織斑先生、その機体、僕がもらってもいいですか?」

「………良いのか?」

「はい。あれくらいピーキーですと、むしろその方が面白そうですし」

 

 ただでさえ織斑君の機体が出鱈目機体なんだ。だったらこっちもそれなりの物を持たないと標準な機体で戦ってたら文句を言われるのは目に見えている。「織斑君があれだけの機体を乗りこなしているっていうのに、もう一人の男は堅実すぎて目立たないよね」とか言われたらたぶんへこむ。

 

「わかった。それにどうせ動かせるのはお前くらいなものだ。すぐに使用許可は降りるだろう」

「ありがとうございます」

「いや、お礼を言われるほどじゃない。それに、影宮には色々と世話になっているしな。愚弟の件といい、今回の避難の件といい………むしろこっちとしては謝らなければいけないほどだ。すまなかったな」

「まぁ、そろそろ一人に絞ってくれると嬉しいんですけどね」

 

 僕と織斑先生は揃ってため息を吐く。

 

「……そうだ、影宮。差し支えないなら答えたもらいたいのだが、あのセキュリティをどうやって破った? あれは並大抵のことではないはずだ」

「………実は人からもらった端末を使ったんです。確かに天才が作ったものですが、僕のことを気に入ってくれているので僕が困ることはしていないとは思うんですが……」

「そうか。聞かなかったことにしておいてやる」

 

 いや、それでいいのか先生。でもそっちの方がありがたいのも事実だ。

 

「では僕はこれで行きますね」

「そうだな。機体の受け渡しはまた後日、この騒動の後始末が終わったら追って連絡する」

「わかりました」

 

 取り調べから解放された僕はそのまま病室の方に移動した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 布仏さんを救出した僕は破壊した機体を放置して布仏さんを運んだ。同じ頃にフィールド内に入った敵を撃破した織斑君も運び込まれたようだけど、そっちのお見舞いはたぶんほとんどの生徒が行っているだろうから行く必要はないだろう。

 幸い、怪我が残ることはないようだ。それでも、女の子なんだしあんな無茶はするもんじゃない。というか、する意味がない。

 

(………僕なんて、放っておけば良かったのに……)

 

 その結果が逃走なんだし、彼女は心底呆れただろう。我ながら情けないとは思ったけど、あの時の僕は少しパニックだったし仕方ないと許してほしい。

 

(………全く、君は………)

 

 幸せそうな顔で寝ている布仏さんの頬に触れる。………って、何をしているんだ、僕は。気の迷いが起こりすぎだろ。

 

(…………いや、その、本人は無自覚だしちょっとは過激な事をしたって……………)

 

 なんだか死にたくなってきた。

 冷静になれ、影宮瞬。これはハニトラの常套手段だ。だから気に病む必要なんて………ないのに……。

 

(………み、自ら犠牲になる根性があるということくらいは認めてやらなくも、ない)

 

 実際、普通なら僕を見捨てて逃げるところだし、現に僕は逃げたしね。

 

(………でも、起きるのを待つくらいはいい、か)

 

 そうと決まれば、まずは寮に帰って身なりを整えてこないと。もし起きて「汚い顔をして行くとか最低、キモイ」とか言われたらたぶん………

 

(………どうなるんだろう)

 

 ふと、考えてしまったけどしばらくしたら馬鹿らしくなったので気にせず寮に戻った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ■■■

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 布仏本音が目を覚ましたのは、深夜11時だった。

 寝惚けたままの本音は自分が無事だったことを確認し、鏡を確認して顔に痣が残っているのか確認しようとすると、先に瞬が寝ているのを見つけてしまう。

 

(………お、起きないで~)

 

 一番近くにある鏡の方に向かおうとすると、瞬のことが気になって掛布団で絡まった本音はベッドから落ちる。その物音で瞬は目を覚ました。

 

「………あれ? 布仏さん?」

「………お、おはよう」

 

 そう返事した本音だが、顔に傷が残っているかもしれないと思って掛布団で自分の顔を隠す。

 

「どうしたの、布仏さん?」

「き、気にしないで。大丈夫だから……あわわっ」

 

 こけそうになった本音は後ろから掴まれた。もちろん、掴んだのは瞬だ。

 

(ど、どうしよ~)

 

 すると瞬は本音を綺麗に立たせて驚いている本音の隙を突いて掛布団を奪った。

 

「や、止めて! それが無かったら―――」

「無かったら、何?」

「………顔を隠せるものが、なくなっちゃう」

「顔? 別に何もないけど。………痣とか火傷の痕とかならないよ」

「ホント!?」

 

 恋する女子にとって顔の傷跡というものは致命傷に等しい。本音は自分が可愛い顔をしているとは思ってはいないが、それでもそういうものは気になってしまう。

 

「ところで布仏さん」

「な、なに………」

「…………わ、悪かった」

 

 もし本音が瞬の顔を見ていたならば、貴重なシーンを見れただろう。だけど残念ながら本音は今瞬の顔を直視できないでいた。

 

「僕ずっと君が裏切ると思ってた」

「そ、それは………」

「でも、今回のことで君を信じることにしたよ」

 

 そう言われた本音は嬉しくなり顔を歪ませる。ずっと疑ったままの状態から少し進展したのだ。嬉しくないわけじゃない。

 

「だから、これからもよろしくね、布仏さん」

 

 だが、それでもまだ姓で呼ぶ瞬。本音は勇気を出して振り向き、俯いたままだが言った。

 

「………名前」

「え?」

「名前で呼んで。いつまでも「布仏さん」は、嫌だよ」

 

 そう言われた瞬は躊躇った。

 今まで女子とそう言った関係になったことなどないからだ。とはいえ、だ。ここでそう言われて「無理」と答えるほどの勇気は瞬は持ち合わせていない。

 少し深呼吸した瞬は目の前の少女を名前で呼んだ。

 

「……本音…さん……」

 

 すると本音は、まるでこれまで積もり積もったものが吐き出されるかのように瞬を抱きしめた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 学園の地下50m。そこはレベル4権限を持つ関係者しか入れない、隠された空間が存在していた。

 そのレベル以上を持つ者は学園でも本当に限られた者しかおらず、また、その空間に外部から侵入できる者も中々いない。それほどな場所だった。

 

「………それで、あの機体はどうだった」

 

 その一人である千冬はコーヒーを片手に資料を確認する。

 

「はい。織斑君と凰さんの試合中に乱入してきたISも、そして影宮君を狙ったISも、どちらも無人機です」

 

 世界中で開発が進むISだが、まだ無人機技術は完成させられていない。各国がその国に住む天才と呼ばれた者を集めて試行錯誤を繰り返しているが、だ。

 それほどの高技術が今回襲撃してきた機体に搭載されている。その事実は学園関係者全員に箝口令が敷かれるほどの事になっている。

 

「どのような方法で動いていたかは不明です。織斑君の方は最後の攻撃で機能中枢が焼き切れていました。修復も、おそらく無理かと。そして影宮君の方は―――」

「確かに、運び込むこと自体が難しかったな」

 

 教員らが到着した時には既に大破………いや、もはやスクラップと化していた。修復どころか元の形に戻すこと自体が難しい。そう思わせるぐらいだった。

 

「それで、影宮の機体のことだが」

「やはり委員会は良い顔をしないようです」

「…………そう、か」

 

 二人目の男性操縦者がこうなることは千冬にはわかっていた。

 だからこそ千冬なりに便宜を図りたい、そう思っていたがやはり難しいようだ。

 

「………だが、現状あの機体を動かせるのは影宮だけだ。文句は言えまい」

「…そうですね」

 

 だが真耶もまたあまりいい顔をしない。千冬は少しそのことが気になった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 概ね満足、と言ったところだ。すべて我の計画通りに進行している。

 周りが納得いかないのも理解していた。だが、渡す必要があった。何故ならあの少年は()()()()()()()()()()()()()()

 

『しかして、こうも君は今の居場所を開けておいていいのかね? 私のような小物と会話するということほど無駄な時間を過ごす方法はないと思うのだが?』

「そうでもないさ。アンタとの会話はとても有意義だぜ。………それにあそこには俺が信頼する部下がいるし、最強の霊長類もいる。おそらく兵器だろうがなんだろうが、あの男の前じゃ無力………最近イチャイチャしているからスッゲェうぜえけど」

『人は時として守る存在を手に入れるものだ』

「それに関しては同意してやるよ。俺もそうだしな」

『ならば、その者に甘えれば良いだろう?』

「それがそうもいかないんだよ。今は国際試合の準備期間だからな。だからあっちは部下に機体の製作権を上から降ろしているんだけど。ところで、その話し方どうにかならない?」

『………これは失礼。あのいい方の方が威厳あるかなって思って』

「あるにはあるけど、なんか気持ち悪い」

『ズバッと言うね、君』

「それが性分なんだよ。だって俺、婚約者にもその親にも言ってるし。「娘二人もらうから」って」

『それはどうなの………?』

「俺にはそれができるしな。これでもいざとなったら世界破壊とか余裕だから。だって人間って、力を持ったら振るいたくなる生き物だし」

『………あの子にはそうなってもらいたくないな』

「それに関しては問題ねえよ。アイツはその辺りはちゃんと自制できる奴だ。まぁもっとも―――」

 

 ―――世界が牙を向けばどうなるかはわからないけど

 

 これはとある天才たちの会話。しかしそこにヒトは1人しかいなかった。




次回より新章、開幕
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