―馨が、帰ってくる。
俺が両親から十年来の大親友、九狼 馨(くろう かおる)が五年振りに地元に帰ってくると母さんに聞かされたのはついさっき、晩飯中の出来事だった。『里帰り』のためにこっちを離れてから五年間、手紙一枚寄越さなかったヤツが返ってくるという。っていうか長いよ、五年て。急に母さんに言われたから『マジで!?!?』って大声出ちゃったよ。父さんも母さんも驚いてたな。俺自身も驚いたけど。
馨はいわゆる獣人族でライカンスロープ―狼男だ。ふわふわでちょっと癖のある薄茶色の髪に黒っぽい灰色のとんがった耳、くりくりした琥珀色の眼、すっと通った鼻筋に少し情けない下がり眉…記憶の中にある馨の顔が甦る。そういや、アイツちっこかったな。まだちっこいままか?いや、さすがに五年も経ったんだ。
それにしても懐かしい。アイツと二人で作った隠れ家はまだ壊されてないし、日が暮れるまで一緒に遊んだ公園も残ってる。門限破って二人でお互いの母さんに説教されたっけ…地面の上で正座させられて。あぁ、そういえば駅前にデカいモールもできたんだった。今度案内してやろう。
明日は新学年のスタート。馨が戻ってくるタイミングとしてはベストだ。同じ学校らしいし、クラス一緒だったらいいな。
明日は始業式だけだ。まずは学校を案内してやって、それから思い出の場所巡りだな。駅前の遊べるスポットもいっぱい紹介してやろう。ガキの頃とは違う遊びも教えてやろう。獣人族の里ってそこまで近代化されてないらしいし、ゲーム好きのアイツなら駅裏のゲーセンで大はしゃぎだな。
新学年への期待と不安、再会する幼なじみへの期待と不安。色々な感情が入り混じって、俺はなかなか寝付けなかった。
◇◆◇◆◇
寝付くのが遅かったせいで、俺は新学年早々に登校ダッシュをキメていた。朝飯を抜いていつもより十五分遅い電車に飛び乗り、駅から徒歩十五分の通学路を全力で走った。幸か不幸か、曲がり角で美少女と衝突するステキイベントは発生しなかった。ギリの時間で校門をくぐり、教室までの廊下を全力で走った。普段ならたまにそういうヤツはいるけど、流石に始業式からそんなことをやらかしてるのは俺ぐらいだった。ちょっと恥ずかしいし、朝から四階までダッシュというのは結構キツい。朝のホームルームには滑り込みで間に合い、始業式のために体育館へ移動した。そのあと、また教室に戻ってオリエンテーションが始まった。
「あー…では、転校生を紹介する。入っていいぞー」
担任の声でクラス全員が前の扉に注目する。俺も注目した。多分、馨が入ってくる。イケメンかフツメンか、背はどうなったのか。何よりもまず、元気なのか。手紙ぐらい寄越せよバカ野郎とかいってやろう。十年来の親友で幼なじみなんだから。
音を立てて引き戸が開いた。それと同時に、俺の期待も不安も全て裏切られた。
ドアから入ってきたのは黒っぽい灰色のとんがった耳に、やや癖のあるふわふわした薄茶色の髪を背中の真ん中ぐらいまで伸ばした、琥珀色の眼を持つ美少女だった。
特に目を惹くのがブレザーとスカートを押し上げる豊かな肉付きと、耳と同じ色の尻尾だ。なんか前よりふさふさしてる。いや、違う。あれが馨なワケがない。第一馨は男だ。名前と見た目のせいで女男ってバカにされてて泣いてたけど、アイツは男だ。よく似た別人だ。彼女は。
「よーし静まれ。特に男ども…じゃ、自己紹介してくれ」
「はい。人狼の里から越してきました、九狼 馨です。これから一年間、よろしくお願いします。」
「はあああああああああ!?」
「灰島、興奮するのは構わんが座れ」
驚きのあまり立ち上がってしまった。クラス中の視線が集まる。
「お久しぶりだね!ユッキー」
「ユキじゃねぇ!
うん。確定。俺をユッキ呼ばわりする馨は一人しかいない。ちなみに学校ではヨッシー呼ばわりだ。某緑の恐竜じゃないからな。アイツはメスだ。卵産むし。俺は男。
再び教室が騒がしくなる。俺と馨の関係とかを話し合ってるんだろう。一部の男子が俺を睨みつけてくる。違うから。アイツ男だから。
担任に席を指定されて馨が歩く。その姿を男子が見つめる。藤宮、お前他のクラスに彼女居るだろ。チクられんぞ。
「とりあえず、お前ら自己紹介から始めろ。これから一年間同じクラスなんだからな」
自己紹介が終わり、ホームルームも終わった。担任が解散を告げた。女子たちと一部の男子が馨の周りに集まる。転校生って大変ですね。
「へぇー!じゃ、ヨッシーと幼なじみってこと!?」
「そうなの。私たちが産まれたのおんなじ病院だったし、誕生日を三日違いなの」
「へぇ~。でもさ、灰島って地味じゃね?」
うっせぇ。黙れヤリチンイケメンが。モゲろ。腐り落ちろ。
「そうかなー。久しぶりにあったら、カッコ良くなったと思うんだけどなー」
おおう…流石は馨。俺の親友。もっと誉めろ。女子たちの株を上げてくれ。来い!俺のモテ期!
「え?昔ってもっと地味だったの?」
「んー…地味っていうか、なんていうか…」
あるえぇ?株下がってね?大丈夫?どーすんの?俺。
「それよりさ、遊びにいかね?ガッコも案内するしさ」
キラリン☆と効果音が出そうなイケメンスマイルの高村。あの笑顔で何人の女の子が泣かされたことか…でも、悪い噂が流れてないところを見ると、上手くやるタイプなのか。クソ、滅びろイケメン。
「うん。だいじょぶ。ありがとね。ユッキに案内してもらうから…ねぇー!ユッキ―!いいよねー?!」
「お、おう…しゃーねーなー」
よかった。忘れられてなかったよ、俺。
高村が露骨に睨んでくる。ふははは、悔しかろう。オトそうと思ってた女を取られるのは悔しかろう。でも、コイツ男だからね。今はわからんけど。
「じゃ、行こっか」
◇◆◇◆◇
馨を連れて校内を歩く。
あちこちから視線が飛んでくる。獣人が珍しいわけじゃない。ウチでも全校生徒の四分の一ぐらいは獣人だ。ではなぜか?
馨の顔と身体がスゴいからだ。元々可愛らしい顔立ちだったのが、より整って可愛くなってるし、制服もパンパンになっている。尻だってプリンと持ち上がっている。獣人の女子は大体の
馨に中学時代の武勇伝を語りながら校内を歩いた。大体の場所を紹介して、食堂のオススメも教えてやった。馨は俺の話に相槌を打ち、楽しそうに聞いていた。そろそろ、校外に出て馨が居たころと変わった場所を紹介してやろう。
「だいたいこんな感じだな…どっか外で行きたいところあるか?」
「じゃあねぇ…公園!昔よく行ってたトコ!」
「わぁー!全然変わってなーい!」
「だろー」
公園に着くなり、馨が駆けだした。尻尾はブンブン振られ、耳はぴこぴこ動いている。中央にはデカいロボットを模した滑り台がある、通称『ロボ公園』だ。正式名称は知らない。馨が目指したのはロボットの頭の部分だ。ひょいひょいと登っていく。あ、パンツ見えそう。
「こっからの眺めも…ちょっと変わっちゃったね」
「あー…まぁ、駅前もだいぶ変わっちまったしな」
「だよねー…ちょっとビックリしちゃった」
俺も馨に続いて頭に登った。コイツと一緒にこの景色を眺めてた頃は駅前にあんなデカいモールもなかったし、マンションもなかった。馨の横顔を盗み見る。目を細めて懐かしそうに景色を眺めていた。色々思い出してるんだろう。少し距離があるせいか、胸元の膨大な質量にも視線が向かってしまう。だって俺も男だから!仕方ないよ。うん。
「…八回目」
「は?」
「ユッキ、今胸見たでしょ。わかるんだよ?そういうの」
「み、みみみ見てねぇし。男の胸とか見てねぇし?」
「はぁ…高田くんもそうだったし、やっぱり見られるのかなぁ…あんまり嬉しくないなぁ…」
寂しそうに呟く馨。あと、高田じゃなくて高村な。覚えられてないと…ウケる。
「匂いも変わるし、すぐわかるんだからね?高田くんもすっごい匂いさせてたし」
馨がひくひくと鼻を動かした。流石人狼族、鼻がいい。さすじん。
「そういや、もうすぐ桜の季節だねー」
「そんなのもわかんの?」
「うん。来週ぐらいには咲き始めるんじゃない?そんな匂いがする……うん。ユッキの匂いも変わってない…かな?ちょっと男っぽくなった?」
「え?臭う?」
確かにそろそろ汗ばむ季節だ。年頃の俺としてはちょっと気になった。だってモテたいから!
「ううん、全然。むしろボクには落ち着く匂いかな」
「…ボク?」
「あ……ごめんね。ユッキの前だと気ぃ抜けちゃった」
てへっ、と舌を出した。クソ、可愛いじゃねぇか。
「そろそろお昼だよね?帰ろっか」
「露骨に話しそらしたな?」
「それはまた今度♪たっくさん時間あるんだし…しつこい男は嫌われるよ?」
ぐっ…反論できん。確かにしつこい男は嫌われるって聞くし…まぁ、これから一年間は馨もクラスメートだ。その話はコイツがそのうち話してくれるだろう。
するすると降りていく馨。俺もそれに続いて地面に帰ってきた。久しぶりにロボットの頭に登った気がする。
「じゃ、帰ろっか」
「そういや、家どこなんだ?」
「え?聞いてないの?」
俺の家の近くまで帰ってきた。馨も同じ道を歩いている。アレか、昔と同じくウチの道路挟んで向かいのアパートか。っていうか、聞いてないって何?
ウチの玄関までついてきた。なんだろ、久々に会う俺の母さんに挨拶でもするんだろうか。
「「ただいまー」」
ん?ただいま?
「おかえりー。あらー、馨ちゃんも一緒?美人になったわねぇ」
「おばさんもお変わりないですね。全然変わってないですよー。あ、これからお世話になりますね」
「まぁまぁ、しっかり挨拶出来て…ウチのと全然デキが違うわねぇ。あ、馨ちゃんの荷物、お部屋まで運んでるあるから。二階の一番奥のお部屋使ってね。あとで由紀にも荷解き手伝わせるから」
「ありがとうございます♪じゃあ改めて…これからよろしくお願いします」
「はいはい。こちらこそ…由紀、アンタ何固まってんの?」
「ユッキ?大丈夫?」
「……ダイジョバナイ…イロイロダイジョバナイ…」
ナンデ?ナニコレ?ドユコト?
「あれ?おばさん…ひょっとして…」
「あら?…ひょっとしたら伝え忘れてたかしら?」
「聞いてねえぞおおおおおお!!!」
◇◆◇◆◇
…ハッ!意識飛んでた!なんか腹が膨れてる。っつーことは昼は食ったのか。何食ったんだろ、俺。しかも知らない間に服まで着替えてるし。目の前では馨がダンボールをごそごそ漁ってるし。なんだこれ。いつの間にかブレザー脱いでカッターシャツにノースリーブセーターになってるし。クッソ、ブラ紐見えねえじゃねぇか。わかってないな、馨よ…って違う。
「ユッキー、ちゃんと手伝ってよー」
「あぁ、悪い…じゃねぇよ!なんだよ!なんでお前が居候するんだよ!?」
「パパもママも里から離れられないんだって」
「知らねえよ!一人暮らしでいいじゃねぇか!」
「えー…そういわれてもー…おばさんもおじさんも認めてくれてるんだしさー…なんか、パパが相談したら快く応じてくれたらしいよ?」
えー…父さんもグルかよー…勝ち目ねぇじゃん…
「…はぁ。わかったよ。適当にダンボール開けてくからな」
手近にあったダンボールに手をかけた。こういうのは大きいのから片付けた方がいいって何かで見た記憶がある。
「あ!待って!」
「んだよ…やる気出してやってんのに…」
「そ、それ開けちゃう?」
「開けなきゃ終わんねぇだろーが」
「ユ、ユッキならいいよ…ユッキも男の子だもんね…」
モジモジと手を胸の前で合わせて動かす馨。顔を真っ赤にして俺をチラチラ見てくる。なんなのこの可愛い生き物。いぢめていいの?
「……えっち」
「ぁ…ぅ…その…ごめん…」
えーっと…コレ、そういうアレですか。ヤバい。ヤバかった。色々ヤバかった。そっかー…そりゃそうだよなー…体型モロ女だもんなー…
晩飯は馨の大好物、豚のスペアリブの甘辛煮でした。美味しゅうございました。
◇◆◇◆◇
馨と母さんと三人で荷解きをした甲斐あって、風呂の時間には馨の部屋が片付いた。流石に二人とも俺がいる時間に下着類の整理をするのを気が引けたのか、俺が風呂に入ってる間に終わらせたらしい。風呂上り、三人でぼーっとテレビを見てると馨が風呂から出てきた。元々色白だったけど、風呂上りで肌が火照ってる。なんかエロい。
「お風呂いただきましたー」
「はーい…じゃ、私も入ってきますね」
「おーう」
「へーい」
母さんと入れ替わりで馨がソファーに座った。ただし、俺の隣。ちょっと気まずい…というかいい匂い。ヤバい。
「お、俺明日も学校だし、そろそろ寝るわ」
「おう。今日寝坊しやがったからなぁ…ちょい早いけど、いい心がけじゃないか。おやすみ」
「私もそろそろ寝ますね。おじさん、おやすみなさい」
「うん。馨ちゃんも、おやすみ」
「…全然寝れん」
真っ暗な部屋。ベッドの上で寝付けない俺。流石に二日連続で寝不足は不味い。担任が体罰上等の白石だ。新学期早々、出席簿ハリセンの餌食になりたくない。
なんで寝れないのかって?そりゃいきなり幼なじみが女になって帰ってきたら驚くだろ。しかも美少女。ばいんばいん。さらにすぐ近くで寝てる。部屋は別だけど、思春期まっただ中の俺には辛い。どうしよう。不味いなぁー…
誰かの吐息が聞こえる。というか、首筋で呼吸されてくすぐったい。鼻先にふわふわした毛が当たってる。これもくすぐったい。あとついでにのしかかられている。ぶっちゃけ重い。
「…ナニしてんすか、馨サン」
「すぅー…っはぁ~……あれ?起きた…すぅー…っはぁ~…」
「起きた、じゃなくてさ。何やっとんだ。マジで」
せっかく寝れてたのに…余の眠りを妨げるとは…グゴゴゴ…
「…昔っから…っはぁ~…全然起きなかった…っはぁ…のに…っはぁ」
「オイ、昔っからってどういうことだよ」
「ねぇ…ゆっきぃ…コレ脱いで」
俺が目を覚ましたことで吹っ切れたのか、ぐいぐいとTシャツを捲り上げてくる馨。やめて!誰か男の人呼んで!じゃなくて。
じれったくなったのか、シャツの中に頭を突っ込みだした。そのまま俺の胸元を嗅ぎ回る。なんか恥ずかしいぞ。コレ。
「今日…っはぁ…満月で…我慢…できないっ!」
今度は胸元を舐めまわしてきた。
「ゆっきぃ…無理だよぉ…ゆっきぃ♡」
譫言のように俺の名を呟く。ぬるぬる、ザラザラした温かい舌の感触。馨の胸は俺の腹に押しつけられている。なんだこれ。気持ちいいけど、なんだこれ。
段々と舐め回してくる場所が下がってきた。胸元、鳩尾、腹と下がっていく。ヤバい。このままだとマイテントの支柱に届いてしまう。というかテントが…!やわこい…!
「ま、待てって!落ち着け馨!」
「無理ぃ!」
馨の腕を掴んで止めようとした。でも、俺なんかより人狼族の本気パワーはさらに強い。簡単に振りほどかれ、あっという間に馨が俺の股間に顔を埋めた。
「っはぁ~…ココ、すっごい濃いよぉ~♡」
獣人族御用達のローライズショーツに包まれた桃がこっちを向いた。色はわからないけど、ストライプだ。わかっとるな、コイツ。さらに馨が腰をくねらせる。動きに合わせて桃が動く。不味い…コレはクるわ。
「んぅっ♡もっと濃くなったぁ…」
嬉しそうに馨が呟いた。更に動きが激しくなる。腹の上に乗ってる特大プリンも揺れ動いて刺激してくる。マイサンに暖かい湿った息がかかる。寝巻代わりのジャージ越しだっていうのに感じる。超至近距離に馨の顔があるらしい。桃にプリンに想像してしまった馨との顔の距離。ヤバい。両手で腰の皮を思いっきり抓り、歯を食いしばって耐える。
「いいよぉ…すきぃ…ね、ね、ゆっきぃ…ダしてあげようよぉ…かわいそうだよぉ…」
スンスンという馨の鼻息が聞こえる。どっちの意味で!?とかツッコみたかったけど、余裕がない。マジでヤバい。
「ね?いいでしょ?ね?ね?…ひぅんっ」
馨が悲鳴を上げた。俺が両手で馨の細い腰を掴んだからだ。真っ暗な部屋の中で、爛々と光る馨の眼がこっちを向いた。蕩けている。ヤる気になってくれた?って聞いてくる。期待してる眼だ。
「やっめろおおおおおお!!」
「きゃんっ」
腰を掴んだまま腕を振り上げた。寝相が悪い俺のベッドはセミダブル。更に俺は端っこで寝る。なんとか馨をベッドの外に落とさず、身体の上から押し退けることに成功した。
「なんなんだよいきなり!!オカシイぞ!お前!!」
「ユッキこそなんなの!?超ヤる気だったじゃん!」
「うるせぇ!生理現象だ!健全な証拠なんだよ!!」
「なにそれ意味わかんない!好きな男の匂い一日中嗅がされるボクの身にもなってよ!!」
「はぁ!?逆ギレ!?」
「あー!もうサイアク!!全部ユッキのせいだかんね!!」
「俺のせい!?なんで!?」
「ユッキが悪いんだからね!ボクは悪くない!!あと満月!!バカー!!」
「誰がバカだ!ちょ!?イタっ!叩くな!!」
ポカポカと肩やら頭を叩いてくる馨。ついさっき、俺の腕を軽々と振り払った腕とは思えない力だった。多分本気でやられたら骨折れるよ。
ぺちぺちぽかぽかと叩いてくる馨の弱い拳をガードし続けた。それでも、段々と鬱陶しくなってくる。タイミングを見計らって、馨の両手を掴んで止めた。
「いい加減にしろ!!」
「ひっ!!」
「あ、悪い…」
「うっ…ううっ…ボクっ…だって…ちゃんとっ…考えててっ…でもっ…我慢っ…」
あー…泣かしちゃった…いや、俺は悪くないと思うけど…バツが悪い。
「悪かったって…ごめん…」
「頭…」
「え?…あ、はい。撫でさせていただきます」
馨の嗚咽が続く。部屋の空気が一気に重くなった。さっきまで薄ピンク色だったのに…馨が泣き止むまで頭を撫で続けた。弱いなぁ…俺。こういうのがモテない原因か?ひょっとして。もっとオラついた方がいいのか…
「…ホントはね…もっと色々考えたの。二人っきりでお花見に行って桜の下で告白しようとか、ゴールデンウィークに遊園地でデートして、その時に告白しようとか…でも、全部パーになっちゃった…」
「…ごめんね、ユッキ。無理矢理シて…こんなボク…嫌いになったのよね…」
さっきまではピンと立ってた耳がヘタっている。かなりしょげてるらしい。涙が溜まった両目が俺を見上げる。可愛い…いや、違う。可愛いけど。
「……この家、今週中に出て行くから…おばさんにも言っといて…」
「ま、待てよ…」
「優しくしないでよ…ボク…辛くなるもん…ユッキのこともっと諦められなくなるもん…」
「嫌ってねぇよ!俺は馨のこと嫌ってない!……ただ、いきなり過ぎてビックリしたっていうか…ああいうのって付き合ってからっていうか…」
「じゃあ、ボクのこと、好き?」
「す、好き…とは違うような…」
「なにそれ…結局ボクのこと慰めたかっただけでしょ?泣かれるのが嫌なだけなんでしょ?」
「違う!…その、今まで男だと思ってたヤツがこんな可愛い女の子になってビビったっつーか、頭が付いていけてないっつーか…」
「……可愛い?ボク、可愛い?」
「お、おう。可愛いぞ?普通に」
馨が俺に背を向けた。耳がぴこぴこ動いて尻尾が千切れそうなくらい振られてる。喜んでるんだな。ガッツポーズとかしてるかもしれん。わかりやすくていいわ。この尻尾と耳。
「じゃあさ、ユッキが…ユッキの気持ちが整理し終わったら、返事がほしいな」
一対の光る眼が俺を見つめる。さっきまでの蕩けた眼でも、涙をいっぱい溜めた眼でもない。真っ直ぐに俺を射抜いてくる。
「お、おう…」
「改めて言うね…由紀さん。ずっと前から好きです。よかったらボクとお付き合いしてください!…返事はまた今度でいいからね」
「あ、あぁ…悪い…」
んぅー…なんて可愛いらしい声を上げて馨が伸びをする。ワンピースみたいな寝巻越しに、馨の胸のラインが見える。うん、眼福。アレが俺の腹の上に乗ってたんだもんなぁ…あ、不味い。鎮まれ我が分身。
馨が俺の視線に気付いたらしく、ジト目で見つめ返してきた。
「……えっち」
「うっ…ごめん」
「なんてね。いいよ、いっぱい見ても。なんならパジャマ脱いであげよっか?」
「マジで!?あ、電気つけていい?!」
「ヘンターイ…もう、調子乗らないの…付き合ってくれたら、いっくらでも見せてあげるよ?」
馨が胸の下に腕を回して持ち上げた。たぷたぷしてる。やめて!おっぱいアピールやめて!
「いや、それはちょっと違うっていうか…」
「ヘタレー」
「うぅ…すんません…」
「ま、そういうトコもユッキのいいトコだけどね。ちゃんとボクのこと考えてくれてるし」
「褒められてる…?」
「褒めてるよ?ユッキのそういうトコ、ボク大好きだもん」
「あ、ありがと…」
「ユッキのいいトコ、全部教えてあげよっか?」
「いえ、結構です…恥ずいし…」
「そう?恥ずかしいかな…ボクはユッキになら殺されてもいいぐらい大好きだよ?」
「いや、そりゃダメだろ。死んだら終わりじゃん」
とんでもないこと言い出したよ。この子。
「んー…それもそうなんだけどねー…わかんないかなー…この感じ…」
「わかんねーなー…ちょっと俺には高度すぎるっつーか」
「……説明してあげよっか?」
「大丈夫。また今度で」
「ざーんねん…一晩中お話しできたのに…」
一晩使うぐらいの?マンガでいうと、見開きページ全部にセリフ書く感じ?病んでんの?この子。
「明日も学校だし、そりゃマズいだろ…」
「…だね。そろそろ寝よっか。あ、一緒寝たい!いい?」
「いや、それはちょっと…」
「…ボクのこと、嫌い…?」
美少女の上目遣い+涙目=最強。コレを断れる男がいるだろうか。いや、いない。誰かが言ってたな。可愛いは正義。正義には勝てない。
「…今日だけ…今日だけだからな!」
「!うん!」
「…寝た?」
「…まだ…」
二人並んで同じ布団に包まっている。俺はなるべく壁際で壁に向かって横になり、多分馨はこっちを向いている。なんとなく声の聞こえ方でわかった。
「そういえばさ…いつからなんだ?俺を…その…」
「好きになったの?わかんない。でも、ボクが好き!ってなったのは里に行ってからかなぁ」
「なんで…?」
「さぁー…?でも、ユッキってずっとボクのこと守ってくれてたでしょ?泣いてるときは泣き止むまで傍にいてくれたし、嫌なことされてたら助けてくれたし…」
そうだっけ?あんまり覚えてない。あぁ、でもこういうのってやった方は覚えてないもんなのかも。
「うん。それだけじゃないけど…それもあるのかもね。ユッキはボクにとってヒーローで王子様なんだよ。きっと」
「そういうもんか…あとさ、起きなかったってのは?」
「それもまた今度!おやすみっ!」
「あっ!布団返せ!」
「やーだよー」
馨が布団を巻き込んだまま、俺に背を向けた。当然、俺の方にかかってた布団が持っていかれる。暖かくなったとはいえまだ寒い。布団に包まった馨の背中を見て、俺はもう掛け布団なしで寝ることに決めた。再度、馨に背を向ける。風邪ひいてやる。
お互いに無言の時間が続いた。馨はもう眠ったかもしれない。布団を奪い返そうとしたら、馨が動いた。俺に布団が掛けられる。馨の匂いと温もりがたっぷり移った布団だ。さらに馨がごそごそと動く。俺の首と腕に、馨の腕が巻き付いてくる。
「おやすみ、ユッキ。大好きだよ」
優しい馨の声が耳元で聞こえた。
と、ここで眠れたらいい感じなんだけど、そうはいかなかった。まず、体勢。俺、右を下にして横向きで壁際。馨、同じ方向を向いてて、右腕を俺の首に通してる。アレだ。チョークスリーパーみたいになってる。変則腕枕?男女逆?的な?
で、俺の背中。マイバック。バッグじゃなくてバック。ここがヤバい。温かいぽよぽよ。ヤバい。寝れない。ぽよんぽよん。マズい。下着越しでもこんなに柔らかいんだね。流石、母なる源。偉大だ。
後頭部付近で馨の寝息が聞こえる。チクショウ、寝やがって。俺は眠れねぇんだぞ。
◇◆◇◆◇
結局、俺は一睡もできなかった。本気で寝れなかった。あー…墜ちそー…って時に馨が身じろぎして、おっぱいアピールしてくる。いや、アピールするつもりはなかったと思うけど。
今日は散々だ。馨は腕を組んでくるし、ホームルーム前に爆弾発言かまして、クラスメートから針の筵。いや、視線の筵。さらにオリエンテーション中に居眠りして白石アタックを三回食らう。チクショウ。
寝不足とストレスでふらふらになった放課後、馨の買い物に付き合った。どうしても今日のうちに駅前のモールに寄りたかったらしい。初めて来るはずなのに、ずんずんと目的地へ進んでいく馨。馨に引っ張られる俺。情けないね。
「ちょっとここで待っててね」
馨がお目当ての店の近くにソファーがあった。そこで待つように言われ、腰を下ろした瞬間に墜ちた。ブラックアウトってこういうのを言うんだね。初・体・験☆
「うおぉっ?!つめた!?」
「もー…初デートで寝るなんてサイテーだよ?私じゃなかったら振られてるよ?」
急に冷たい物が押し当てられ、一気に目が覚めた。馨がコーラを買ってきて、俺の額に当てたらしい。はい、と渡してくれた。馨は甘ったるいミルクティーを飲んでいる。せっかく買ってきてくれたし、俺もプルタブを開けた。一気に半分ほどを胃に流し込んだ。当然、そんなことをすればゲップが出る。一応口を押えてから放った。隣では馨が苦笑いを浮かべていた。
一息ついたころ、馨の様子がおかしくなってきた。顔を赤くして、ミルクティーの入った缶を手の平で転がしている。手持無沙汰…ってわけでもなさそうだし…さらに俺の方をチラチラと見てくる。
あー…はいはい。なるほどね。確かに言い辛いかもね。カフェイン摂ると近くなるっていうし。よし、ここは俺が切り開いてやろう。
「馨?」
「ひゃいっ!?」
「うお!?」
「あ、ごめん」
「いや、こっちこそ…それより、いいぜ?」
「い、いいの?ホントに?」
「?あぁ、大丈夫、行って」
来いよ、と言おうとした時だった。さっき買った紙袋を持って馨が俺の手を引っ張る。どこに向かってるのか知らないが、トイレを通り過ぎてどんどんとモールの奥へと歩いて行った。
モールの端っこの端っこ。この辺りは店舗も少なく、従業員入口からも遠い。なんであるのかわからない階段があるだけのエリア。しかもその階段の踊り場まで馨は俺を引っ張ってきた。
「な、なんだよ…トイレじゃっとぉ」
急に紙袋を突き出す馨。思わず言葉を止めてしまった。さっきから様子がおかしい。顔も真っ赤だ。
「あ、開けて?」
馨から紙袋を受け取って、中身を確認した。中には大型犬用と思わしきピンクの首輪が入っている。で、ネームプレートの部分には『Kaoru』とローマ字で刻まれている。よくよく観察してみると、内側…つまり、飼い主の名前を書く部分には『Yoshinori』と彫られていた。つまり…
「ね、ねぇ…着けてくれる?」
瞳を閉じ、俺に真っ白な首筋を差し出す馨。身長差を考えてか、背伸びしてる。顔はまだ真っ赤なままだ。なんかキス待ちみたいだ。そう意識してしまうと、馨の桜色の唇から目が離せない。勝手に喉が鳴る。
「…やっぱり…ダメ?」
「いや、ダメ、じゃない、けど…」
「じゃ、じゃあ…お願い…」
アカン。手ぇ震える。アカン。何とか首輪の留め具を外した。両手を馨の髪の中に入れ、首輪の留め具を手前に回した。
「んぅ♡」
ヘンな声出すなよ。目覚めちゃうだろ。俺ノーマルなのに。
「…できたぞ」
「ありがと…これで、ボクはユッキのモノだね♪」
あー…やっぱりそういうことなのね。わかってたけど認めたくなかったなぁ…馨のこと嫌いじゃないけど。
「ユッキになら、なにされても平気だよ?でも、ボクをほったらかして他に行ったら…」
カチカチと犬歯を俺に見せつけて鳴らす。怖いです。やめてください。ドコ噛む気ですか。
「匂いでぜーぶんわかるんだからね?行ってもいいけど、ボクをちゃんと振ってから行ってね?」
「アッハイ」
「…あー!緊張したー!緊張してたからお腹減っちゃった!オヤツ食べよ!オ・ヤ・ツ!」
ころころ表情が変わる。見てて飽きないな。可愛いし、楽しいし。ちょっと重いけど…
「むぅ。何笑ってんのさ。言っとくけど、『今日』もユッキと一緒に寝るからね」
「は?昨日だけだろ?」
「なんで?『今日』だけでしょ?あの時は十二時回ってたから、まだ『今日』だよ?」
んな無茶な?!でも、憎めない…そして、俺の二徹が決定した。明日休みだからいいけど。
「マジかよ…本気で『今日』だけだからな。『今日』で終わりだからな!」
「うん!ありがと、ユッキ!だーい好き♪」
嗚呼、俺は一生コイツに勝てないんだろう。それも悪くない。ひょっとしたら、ガキの頃にコイツを引っ張りまわしてた報いかもしれない。
息抜き投稿のつもりが…筆が乗ってしまい、気が付けば一万二千字でした。
私の趣味(TS、幼なじみ、獣耳、ボクっ娘、クンカー、愛重め、おっぱい)を詰め込んだらこんな結果に…いいの。書いてて楽しかったから…
R-15で大丈夫ですよね?
ご意見、ご感想お待ちしております。