ひかりちゃんインカミング!   作:栄光

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ひかりちゃんが日中何をしているのかの話。


雁淵ひかりの一日

 2017年6月19日

 

「ひかりちゃん、今晩も楽しみにしてるよ」

「はい!頑張って作っちゃいますよ!」

「それじゃ、行ってきます」

「いってらっしゃい!尚樹さん」

 

 玄関先で出勤する尚樹を見送ると、ひかりは月曜日に買った本を片手に家事の練習を始める。

 

 最初は“整理整頓と掃除の方法”から始め、ひかりは自分の部屋の片づけを始めた。

 しかし、あまり物が無くて気づけばリビングまで整理整頓をしていた。

 あっという間に整理整頓が終わり、つぎは掃除のページがやって来た。

 

「えーっと、掃除は上から下へとする……ジョゼさんもこんな感じでやってたなぁ」

 

 ひかりははたきを持つと椅子の上に立って棚の上や電灯カバー、そして液晶テレビの裏のホコリを落とす。

 

「ふぇっくし!うわぁすごいホコリ……窓開けなきゃ!」

 

 舞ったホコリに思わずくしゃみをしてしまい、窓を開けていないことに気づくひかり。

 上のホコリが床に落ちたら、次に掃除機をかける。

 

 ひかりは本に描かれたイラストを元に、尚樹の部屋の押し入れから掃除機を探し当てた。

 年季の入った掃除機であり、挿絵にあるような『吸引力が低下しない』をウリにしているブランドの掃除機とは似ても似つかない形ではあったが、ひかりはこれだと思ったのだ。

 

「掃除機ってこれかなぁ、えっと、コンセントはこれ?」

 

 ひかりは車輪の付いた本体からプラグを引き出し、壁のコンセント穴に差し込んだ。

 そして、蛇腹ホースの先端にあるグリップノズルについたスイッチを入れた。

 ブイィィンとモーター音がしてノズルの先端に埃が吸い込まれていくのを見て驚いた。

 

「うわぁ!吸ってる!すごい音……」

 

 そして、シュモクザメの様なT型のヘッドを付けて家中をコロコロと吸って回った。

 最初は3段階のうちの弱で始め、だんだん中、強と上げていく。

 ヘッドの中のローラーブラシが回転し、力強くホコリや髪の毛を吸い込んでいく掃除機に、ひかりはホウキとちりとりが無くたってこれがあれば十分!と初めて使う機械に万能感を覚えてだんだんと楽しくなってきた。

 

「……フフフフンンフーン」

 

 鼻歌などを歌いながらひかりは居間、洋室、和室、玄関、台所と家の中を回る。

 

「ジョゼさんが掃除をするのも楽しいからなんだ!」

 

 だが、楽しく掃除機をかけていると思いもよらない事態が起こったのだ。

 

「お掃除、おっそうじー、ってえええ!」

 

 棚の隙間に落ちていたコンビニのポリ袋を気づかずに吸ったことでノズルからまるでセミの羽音のようなビビビという激しい振動音がし、モーターが苦しそうにうめき声をあげる。

 ゴミを吸うこともなくなり、いきなり大きい音を立てる掃除機。

 ただ事ではない様子に、掃除機初体験のひかりはちょっとしたパニックに陥った。

 

「えっ!どうしよう、壊れちゃった!とにかく電源切らなきゃ!」

 

 ひかりは慌てて切ボタンを押すと、ヘッドの掻き出しローラーを通過しノズルに引っかかっていたポリ袋に気づくことなくコンセントを抜く、そして尚樹の部屋の前に掃除機を立てておいた。

 

 尚樹が居ればすぐに原因を突き止めて、ヘッドを外して詰まったポリ袋を取り除いたのだろうがひかりはヘッドが外れることを知らないので、いきなり吸わなくなって壊れたと思ったのである。

 

「こ、壊しちゃった……尚樹さんになんて言おう」

 

 落ち込みながらひかりは次のページを繰り、テーブルやタンスの上に残っているホコリを新品の雑巾で拭きとった。

 

 洗面所で雑巾を洗った流れで、洗い物バケツの中のジャージやネットに入れた下着類といった洗濯物を全自動洗濯機に放り込む。 

 “普通洗い”にして12分、それが終わればツナギなどの作業服を“しっかり洗い”で16分。 

 現代の洗濯ならば、ここに来てから何度もやっているので失敗無く出来る。

 初日の晩に使い方を教えてもらった全自動洗濯機に入れて回し、脱水後に庭の物干し竿にぶら下げるだけなのだ。

 脱水が済めば洗濯済みの赤い樹脂のカゴに入れて、庭に出て尚樹手製の物干場(ぶっかんば)に向かう。

 

 ひかりが来て以降、尚樹によって物干しざおの周囲に茶色い塩化ビニルの波板がコの字状に設置され、ひかりの下着が通りから見えないように対策が施されている。

 家を挟んでいるとはいえ、少し坂を登れば尚樹宅の庭先が見えるのである。

 ひかりは尚樹の配慮に喜んだ、尚樹としてはひかりへの気遣いであると共に周辺住民にいらぬ詮索をされないようにし、あるいは下着ドロから守るための自衛策である。

 独身男性の家に、若い女の子の下着は目立つのだ。

 

「明日から雨かぁ、曇ってるし今のうちに干さないとダメかなぁ」

 

 湿度こそあるが、暖かく、風もあって全く乾かないわけでもない。

 ひかりは大阪南部の週間天気予報の内容と、暗いねずみ色の雲がうっすら山側に掛かっているのを照らし合わせて、早く干さなくては洗濯かごから次々とクリップ付きハンガーや大物洗い用ハンガーに下着やジャージなどの衣服、バスタオルと吊るしてゆく。

 そして、最後にツナギに乾いたバスタオルを巻くと大物ハンガーにぶら下げた。

 

「タオルで巻く方法って凄いなあ、誰が考えたんだろう」

 

 ひかりが驚いたのは生乾きの匂いを防止したり、早く乾かす裏ワザなどが本に載っており、特に、厚物や靴をタオルで巻いて水分を吸わせて干すことで素早く乾燥させる、いわゆる速乾テクニックは高温多湿である日本や扶桑で大いに役に立つためやり方を覚えたのだ。

 

 しかし、寒帯・亜寒帯に属しており乾燥していて気温が低いオラーシャでは、また勝手が違う。

 夏は涼しく乾いているので普通に屋外で干せるのだが、冬のペテルブルグでは温水を使ったセントラルヒーティングや、あるいは各居室の薪ストーブを焚くので室内は高温で乾燥しておりよく乾く。

 だが暖房を活用した強制乾燥は戦時下においてはいつでも使えるとは限らないのだ。

 

 44年のサトゥルヌス祭の少し前に物資の備蓄庫が攻撃を受け燃料欠乏でヒーターが止まり、薪ストーブでさえ使用制限が厳しくなったときがあった。

 その際、管野のコートの様な綿を含んだ物や厚手の物がなかなか乾かず、消灯時間になりストーブが消されると乾かないまま朝を迎え“洗濯物が凍っていた”などと言うことがまあまああったのである。

 

 “寒いとき洗濯物は温めて乾かすもの”といった温帯育ちの常識ではどうしようもないことをひかりは知ったのだ。

 

 もっとも、零下数十度も珍しくない極寒育ちのニパは数日外で凍らせた後に室内干しをして板状から“戻す”ことによって、細菌を低温で不活性にして生乾き臭を防止するという技を見せていた。

 ひかりは毎回洗濯物を干すたびに、板のように凍った洗濯物を物干し竿からバリバリと取って、表面に浮き出た氷をはたき落として取り込むオラーシャの冬がいかに特殊な環境だったか実感するのだ。

 

 

 

 外に干した洗濯物が乾くまでの間に、ひかりは尚樹が買った中学校3年程度の問題集を解く。

 ブリタニア語ならぬ英語、古文、現代文、数学、理科とどちらの世界でも応用の効きそうな科目であり、予備学校を中途で出て部隊配属になったひかりにとっては全てが新しい内容だ。

 しかし、時折別の科目で習った単語が出てくることもあった。

 

「『位置エネルギー』って、空戦で重要な……じゃなくて」

「質量10Nのおもりにかかる地面からの力って……“ニュートン”ってなに?“キログラム”とはちがうの?」

 

 理科においては、ストライカーユニットの飛行原理やら整備、戦闘機動の授業で習ったような言葉が登場するのだ。

 しかし、力や圧力の単位に新しいものがいくつも登場して混乱する。

 

 例えば『ニュートン』であるが、1946年に“1キログラムの物を1メートル毎秒毎秒(1m/s²)の加速度で動かす力”が国際単位として認められ、48年に『ニュートン」という名称が決まったため、ひかりにとっては「未来の単位」なのだ。

 同様に圧力を示す『パスカル』も“1平方メートルに1ニュートンの力がかかる圧力”と定義されており、古いタイヤゲージの空気圧1kgf/㎝²(キロ)は100kPaとなった。

 これらのニュートンを基準にした単位はタイヤの空気圧や、ボルトを締める力の強さ(N・m)、あるいは車軸に掛かる重量といったところで頻出し、それらを計算する問題が様々な試験で登場する。

  

 ひかりはページをめくり『1㎏は9.81N』であるという事を知ると、残弾少ない1kgの弾倉をぽとりと地面に落とすような絵が浮かんできた。

 なお、尚樹に尋ねていれば「1㎏は10Nだ」というが、これは自動車整備士の試験で覚えさせられるのである。

 

 ひとつひとつ単位を学校で習ったキログラムに換算しながら問題を読み進める。

 

 急降下して()()()()()()()()に変換できることなどから、「重い機体で高いところにいるほうが有利になる」という空戦の座学を思い出して問題を解いた所、ほぼ正解していた。

 

 それに気を良くしたひかりは「物体の運動」という単元をすべて終わらせる。

 

 終わらせた頃には洗濯物はとうに乾いており、ひかりは“洗濯済み”のカゴを持って洗濯物を取り込む。

 そして一枚一枚畳んで、自分の物と尚樹の物に分けて衣装ケースに収めるのだ。

 

「お洗濯も終わったし、次は……お夕飯!」

 

 取り込んだ洗濯物を畳み終わるともう16時を過ぎており、ひかりは料理本を片手に台所に立つ。

 憧れであった姉も家を出る前にはよく母と一緒に夕飯を作っていた。

 そして、割烹着姿の母が瓶に入った味噌をお玉で溶いて具の多く入ったみそ汁を作っていたことを思い出した。

 

「そうだ、今晩はお味噌汁と、お肉を焼こう!」

 

 ひかりはエプロンを付け、味噌汁と焼き物を作るために冷蔵庫から料理本を見ながら具材を出す。

 スーパーで買った三元豚の肩ロース250gを焼くと決め、常温で放置し解凍する。

 味噌汁の方はパックの信州みそに、ネギ、サトイモ、こんにゃくがあり、どうやら鰹節やいりこ、昆布などは無いようだ。

 料理本を見ると「だしの素で代用しても可」との記述がありひかりは悩む。

 

「だしの素ってなんだろう……お姉ちゃんとかお母さんはどうしてたんだっけ?」

 

 ひかりの実家は乾物屋から鰹節や昆布、いりこなどを購入して備蓄していたが、一人暮らしでなおかつ店屋物も多い男性の家にそのようなものが備蓄されているわけもない。

 となると、だしの素なる未知の粉末調味料を使うしかないわけだが、ひかりはふっと思った。

 

「だしが無くても、味噌汁って作れないのかな?」

 

 味噌を舐めると辛かったので、味噌単体でも味がするものだと思ったのだ。

 尚樹が居たら止めているが、ひかりはやってみなくちゃわからない!とばかりに味噌汁作りに取り掛かった。

 ネギを刻み、サトイモの皮をピーラーで剥いてから半分に割る、こんにゃくもさいの目にして味噌汁の具は完成した。

 そして、それを料理本通りに茹でて沸いたときに味噌をお玉で掬い、菜箸でお湯に溶く。

 

「ちょっと味見……うえぇ、なにこれまっずーい」

 

 黄金色の液体は出来たが味がなくて、ただのお湯なのだ。

 これでは、到底味噌汁とは呼べない。

 味噌汁が出来たら豚肉を焼こうと思っていたが、それどころではない。

 ひかりは時計を確認すると17時44分であり、残業が入ってなければあと1時間ほどで尚樹が帰ってきてしまうのだ。

 料理本通りに沸騰する前に火を止めて、考える。

 

「砂糖か塩を入れたら味がつくかな?」

 

 そんな誘惑がひかりを揺さぶるが、すぐに味覚と嗅覚で覚えた嫌な事件を思い出してしまう。

 

 下原が所用で不在の際にクルピンスキーが台所に(勝手に)立って、スープに味がないからと砂糖と塩を入れ、ガリア産のワインビネガーをドボドボと投入し、とてもマズイ謎の液体を作ったのだ。

 クルピンスキーは「煮詰めたらソースになるんだし、イケると思ったんだけどなあ」と答え、さらに具として使うためにロスマン秘蔵の缶詰を開けていたものだから大変だった。

 ロスマンは悲鳴を上げ、目に見えて不機嫌になり、不味い液体とはいえ限りある食材から作られた夕食という事もあり、ひかりたちは無理矢理飲みこんだのである。

 ラルは相変わらず、「まずい」と一言だけ言って飲み干し、サーシャは出来上がった液体を見て悲しげな顔になり、管野は「おめえ2度目じゃねえか!……下原早く帰って来てくれ」と涙目になっていた。

 ひかりは“サルミアッキよりはマシだけど、水っぽく酸っぱいようなよくわからないマズさ”という嫌な思い出が出来てしまったのだ。

 “第2次偽伯爵料理事件”という前例を知っているだけに闇雲な調味料投入は危険だとひかりは判断した。

 

「やっぱり、尚樹さんに聞こう……」

 

 ひかりは電話の電話帳ボタンを押し、尚樹の携帯電話を呼び出す。

 1コール、2コール、3コールで電話が繋がった。

 帰宅中にハンズフリー通話をしているようで、エンジン音とウインカーが一定のリズムで鳴る音が聞こえる。

 

「はい、どうしたのひかりちゃん」

「尚樹さん、味噌汁の味がしません、ごめんなさい……」

「そんなに落ち込まなくても大丈夫だよ」

 

 ひかりの申し訳なさそうな声に、尚樹は明るい声でフォローを入れる。

 そして、家の味噌がだし入りタイプではなく、なおかつひかりに粉末調味料の存在を伝えるのを忘れていたことに気が付いたのだ。

 

「そういえば、“だし”は入れた?」

「えっと、かつお節も昆布もないので、だしの素っていうやつですか?」

「うん、粉状にしているだし、コンロ下の引き出しの中に小袋があるだろ?」

 

 尚樹の言う通りに引き出しを開けると、初日の晩に登場したうどんスープの素や“だしの素・昆布だし”と“合わせだし”というビニル袋があり、その中に小分けにされた小袋が入っていた。

 今までひかりはパウチされたミートソースでスパゲッティなどを作っていたのだ、気付くはずもなかった。

 

「はい!……昆布だしの粉を入れたらいいんですか?」

「うん、かつお節も入ってる合わせもあったと思うし、教えてなかったからね。ひかりちゃんに任せるよ」

「ありがとうございます!いつ頃帰ってこれますか?」

「交通状況的にあと30分くらいかな」

「それじゃあ、お肉焼いちゃいますね!」

「うちのフライパンは引っ付きにくく加工されてるから、油ドバドバ引かなくていいよ」

「わかりました!気を付けて帰ってきてください!」

「了解!料理本通りやれば失敗無いから頑張って」

「はい!待っててくださいよ!」

 

 いつもの元気を取り戻した返事に、尚樹はほっと安心する。

 電話を切ったひかりは先に味噌汁を完成させるために、昆布と鰹の合わせだしを入れてかき混ぜる。

 するとだしが入ったことにより味噌の風味と味が出て、おいしいみそ汁が出来上がったのだ。

 

「すごーい!だしがあるだけでこんなにおいしいんだ!」

 

 みそ汁や澄まし汁のような場合、だしを早くから入れると加熱している間に風味が飛ぶので、だしは最後に入れるとよいとされている。

 尚樹は味噌とほぼ同時に投入していたが、ひかりは図らずも“粉末だし後入れ法”という裏ワザを使っていたのである。

 

「次はお肉を焼こう、えっと焼き物はこの後のページでっと、あった!」

 

 ひかりはみそ汁の鍋に蓋をすると、料理本の焼肉のページを開いて指示通りにフライパンを出して中火で余熱を与える。

 テフロン加工がされているので強火は厳禁というシールが貼られており、尚樹の言っていた少ない油でくっ付かないというのはこれの事かと気づいた。

 サラダ油を薄く引き、そこに薄くスライスされた肩ロース肉を入れるとパチパチ、ジュウジュウと言う小気味のよい音が響き、赤身は徐々に乳白色へと色を変えてゆく。

 塩コショウで風味をつけたあと、火が通っていることを確認して菜箸で大皿に移すのだ。

 

「あっ!あっつくない!あぶなかったぁ」

 

 不意に跳ねる油にびっくりしながらも果敢に挑む。

 そんな活躍もあって食べられないほど焦げることもなく、ほどよい焼き加減の肉が食卓に上ることになったのである。

 

 台所用洗剤をフライパンに引き、水を入れて漬け置きをしながらひかりは思う。

 残してきた姉や仲間たちは、まさか異世界で花嫁修業みたいなことをやってるなんて考えもしないだろうなと。

 帰れるならば下原さんほどではないけれど料理が作れて、ジョゼさんみたいに掃除や整理が上手く出来るようになりたい。

 

 帰還後、下原やジョゼと並んで料理を作り、そのことに驚く502メンバー。

 

「おめー、向こうで料理も作れるようになったのかよ!」

「はい!料理も洗濯もバッチリです!管野さんもどうですか?」

「俺はやらねえよ!」 

 

 ひかりが部隊に帰った後のことを想像して「えへへ」と笑っているところに尚樹が帰って来た。

 玄関から居間を通って、台所に顔を出した。

 

「ただいま、良い匂いしてるな」

「おかえりなさい!ごはんできてますよ!」

「うん、手を洗ってくるからちょっと待ってて」

「はい、じゃあテーブルに並べます!」

 

 ひかりが焼肉の皿をテーブルに並べ、お椀に味噌汁をよそう。

 尚樹は着替え終わると冷蔵庫から麦茶のボトルをだし、グラスと共にテーブルに並べた。

 ご飯の盛り付けが終わると、二人はテーブルにつく。

 

「いただきます」

 はじめに味がないと言っていたみそ汁を飲んだがとても美味しかった。

 

「おいしい!ひかりちゃんから電話があった時には何かあったのかと思ったよ」

「あの時はだしの素が何かわからなくて、本当にどうしたらいいのか迷っちゃいました」

「ごめんごめん、教えるの忘れてたわ」

 

 

「単体だと少し塩辛いかな、これでどうだろう」

 

 尚樹は塩コショウの豚に焼肉のタレを掛けてみる。

 ひかりも尚樹に倣いタレを掛けて甘辛くして食べた、するとご飯が良く進むのだ。

 

「おいしいですね!まるで牛丼みたいです!」

「豚丼と言うべきか焼肉丼と言うべきか……」

 

 そして、着替えの際に気づいたことを言った。

 

「そういえば綺麗に整頓されてるなあ、ひかりちゃんがやってくれたの?」

「はい、ダメでしたか?」

「いいや、よかったよ。ありがとう。ところで部屋の前の掃除機はどうしたの?」

 

 尚樹の質問にひかりの表情が申し訳なさそうになり、獣耳が生えていれば下を向いていそうだ。

 

「あの……その……ごめんなさい、壊しちゃいました」

「ええっ、どんな感じに?」

「いきなりビィーン!ブオーン!みたいな感じになって吸わなくなりました」

 

 尚樹の反応にひかりは手ぶりを付けてその時の様子を再現する。

 

「ひかりちゃん、それは壊れてないから安心して」

「えっ、壊れてないんですか?」

「うん、たぶん袋かティッシュか何か吸ったんだろうな。取ったら簡単に直るよ」

「そうなんですか!よかったぁ、壊しちゃったと思いましたぁ」

 

 目を丸くし、壊れていないという事にほっとした様子のひかりを見て、尚樹は言った。

 

「ひかりちゃん、家事と料理お疲れ様、ありがとうね」

「いえいえ、そんな、私の方こそいろいろしてもらっちゃって。ありがとうございます」

 

ひかりは住むところに着るもの、勉強の機会といろいろなものを与えられていることを実感したのだ。

そして、感謝の言葉がとても嬉しかったのだ。

 

「いいんだよ、ひかりちゃんが居てくれるだけで」

「尚樹さん……それって……照れちゃいますね」

「お、おう」

 

 頬を赤らめて言うひかりに、尚樹は心の中で悶える。

 このセリフ、まるで告白じゃないかと。

 そして、叶うならば、いつまでもこんな楽しい生活が続けばいいなあと思った。




感想等あれば励みになります。
ちなみに味噌汁の具で好きなのは「なめこ」と「さといも」です。

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