ひかりちゃんインカミング!   作:栄光

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あのあと

 2017年6月24日

 

 その日の入庫は少なかった。

 

 昨日の“大阪空戦”の影響は各所に広がっており、尚樹たちのシゲマツ自動車にも波及していた。

 いつもであれば車検代行やちょっとした不具合などでやって来る車は、いつもの半分くらいで割り当て表は空きが多い。

 整備工場に出そうとしていたけれど、経済的損害やら物的損害でそれどころではなくなったのだろう。

 

 いま、尚樹が作業している高級セダンも、日曜に車検入庫で来たもので24か月点検の最中だ。

 点検と不具合の修理が終われば光明池(こうみょういけ)にある運輸支局の検査場まで持って行って検査を受けるのだ。

 

 保安基準に係る灯火やら窓ふき器(ワイパー)、エンジンオイルなどの上から見るような点検を手早く終わらせて、リフトを上げる。

 車体の下に入った尚樹は前輪の車軸(アクスル)を抜いて“ブーツ”と呼ばれる、ゴムで出来た蛇腹状のカバーを交換する作業にあたっていた。

 ホイールを取り付けるハブと車体側を繋ぐジョイントに泥や水が入らないようにするこの部品は経年劣化で破れやすく、破れていたり穴が空いていると検査に通らないのだ。

 封入されているグリスが漏れたり、ゴミが入ったりしてジョイントが焼き付いてしまう事を防ぐためである。

 ゴム部品なので交換作業は結構多く、年数が経ってる車の5台に1台は交換が入る。

 

「尚樹、もうメシにしようや。車もたぶん来おへんし」

「そうやな、ポンプ交換終わったんか?」

 

 声を掛けられ、振り返ると陽平は異音がするターボカスタムモデルの軽自動車を終わらせたようで、手にはボロボロになったVベルトを持っていた。

 おそらく、冷却水を循環させるウォータポンプがターボによる過負荷でダメになっていたのだろう。

 エンジン動力を受ける軸の偏摩耗で異音を立てているポンプ本体と、ついでに劣化したベルトを交換するのだ。

 

「おう、そっちは?」

「今、ブーツやってる」

「そうか、組むのは昼でええやろ」

 

 尚樹はハブから外したシャフトを置くと、工場脇の流しでしっかりと手を洗う。

 どす黒い汚れを洗い流した2人が事務所に戻ると、出勤しているメカニック4人と事務のオバちゃんがすでに食事を取っていた。

 いつもならば立ち代わり入れ替わりソファーに座り、全員集合なんて起こらないが今日は仕事がとりわけ少なく、自分のペースでのんびりやれるという事もあってソファーは満席だ。

 出遅れた尚樹と陽平は窓辺の机にカップうどんと愛妻弁当を置き、丸椅子に座った。

 話題はおおむね昨日の空戦の話題であり、「誰それの家に部品が落ちた」やら「娘が小学校から集団下校になった」というものでテレビも似たようなことを流していた。

 尚樹はポットのお湯を朝買った力うどんに注いで、5分待つ。

 

「尚樹、お前んちのすぐ近くだろ、大丈夫だったか」

「おう、家には当たってない、近くの道路が穴だらけでビビったよ」

「破片でも当たってたら死ぬよな、機関砲だし」

「そりゃな、重機より弾デカいしな」

「テッパチとベスト欲しくなったわ」

「今朝俺もそう思ったよ、同時になんて幸運なんだろうってな」

 

 事務所の誰かがチャンネルを変えても、テレビでは航空自衛隊機の武装についての紹介や射撃は適正だったのかという内容を流している。

 “元航空幕僚長”と言う肩書の大学教授が射撃に至った経緯を説明していた。

 そうして1機約110億円のF-15J戦闘機が何機落とされ、被害がどれくらい出たのかという内容へと続く。

 陽平は煮物と鳥そぼろ飯を交互に口に運び、呟く。

 

「空さんも大変だよな、撃墜されて死人出してるのに『なぜ撃った』って言われるもんなあ」

「まあ、ネ……不明機の足元には住民が居るし、いつもの感情的に『とんでもない!』って事だろ」

「事実、一歩間違えりゃ死んでるもんなお前」

 

 尚樹はあの時家の中に居たことになっているが、実際は弾が飛ぶ中インカムを探したり、ストライカーユニットの発進準備をしていたのだ。

 流れ弾や破片に当たって死傷する可能性が最も高かったが、あの時はそんな事は頭になかった。

 ただ、一刻も早くひかりを空に上げてネウロイを撃破しなくてはならない、それだけだった。

 そんな状況の人間に、判断は正しかったのか?と追及する姿勢に尚樹は言う。

 

「あの時、命を懸けた奴が言うならともかく、傍観者ですらない()()()()()()()()が言うのはどうなんだろうな」

 

 陽平はまるで一戦交えたかのような、けだるげな雰囲気の尚樹に驚く。

 そして、自分があの場に居たファイターパイロットだったらどう思うかと考えて、陽平は言う。

 

「それは俺らが元自だからそう思うんだろうぜ、嫁さんなんかカンカンだった」

陽菜(ひな)さんが?どうして?」

「これがあったから職場から急遽お迎えよ、で、『危ないじゃない』ってさ」

 

 妻である重松陽菜は陽平が陸士だった頃に結婚したため、自衛隊に対して理解のあるほうである。

 しかし保育所に預けていた娘の上を戦闘機が飛んで機関砲をばら撒いたという事に対して必要な事であると分かってはいるものの、感情では納得できない。

 陽平は「仕方ない」という立場だったが、それに対して「あなたは娘のことが心配じゃないのか」と怒り、昨夜は言い合いとなったのだ。

 その話を聞いた尚樹は思った。

 見ているだけで何もできなかった者と、何かをしようとした者には大きな隔たりがあるのだろうと。

 

「まあ、()()()()()()じゃ深い溝があるんだろうなぁ」

 

 尚樹は最後にカップうどんのスープを飲み干して、席を立った。

 「ふう」と言うのは食後の一息か、それとも無意識のため息か。

 

 午後からは足回りを組み立てて、残った検査項目を確かめるだけだ。

 新しいブーツに変えたシャフトを車体に戻すと、サスペンションやアーム類を組みつけてゆく。

 取り外していたブレーキディスクとそれを挟み込むことで制動するブレーキキャリパーを取り付けた。

 

「右前が5.1㎜、4.5㎜か……4.5」

 

 その時にフロントのディスクブレーキのパット残量が1.6㎜以上あるか確かめて低いほうの値を点検記録簿に記入する。

 ブレーキを確かめたら流れるようにタイヤを取り付け、左側も同じく点検するとマフラーや遮熱板など底面の点検を全部終わらせてリフトを下ろす。

 明日、検査場に持ち込んだあとお客さんに引き渡すだけなので高級セダンを離れて、次の仕事にかかる。

 尚樹はエアコンの冷媒ガス補充やら、パワーウインドーの交換修理、急ぎで入って来たパンク修理など3台の車のトラブルを解決して本日の仕事を終えた。

 今日は当直ではないので早く帰れると言うよりも仕事自体が少ないので全員早めに上がることとなった。

 

「お疲れ様です!失礼します」

 

 尚樹は作業で汚れたツナギからジーンズとシャツに着替えると、事務所を出る。

 駐車場に置いてあるパジェロを出すと、ハンズフリーモードにして家の固定電話に電話を掛けた。

 ひとり暮らしであるはずの男が誰かに帰宅時間の報告をする場面を見られるとまずいからだ。

 

『Hello, 502nd JFW commander's office……』

 

 家だと思ったら『502の司令室の内線』に掛けていたようで、聞き取りやすい英語、いやブリタニア語で当直の隊員に応答される。

 

「直ちゃん?」

『直ちゃんじゃねえ!って尚樹か、びっくりさせんなよ』

 

 尚樹は最後まで聞いてから、電話番の少女の名を呼んだ。

 無意識だったようで電話の向こうから「あっ」という声が聞こえすぐに訂正が入った。

 

「ごめんごめん、ひかりちゃんは?」

『ひかりなら台所だ、何の用だよ』

「じゃあ、今から帰るって伝えといて」

『わかった、早く帰ってこいよ。……腹が減って仕方ねえからな!』

 

 直枝の照れ隠しのようなセリフを最後にブチンと電話は切れてしまう。

 尚樹は今晩の夕食は何だろうなと考えながら家へと車を走らせるのであった。

 

____

 

 

 一方、電話の音に思わず当直士官のような事をした直枝は、ひかりの手伝いをしていた。

 二人とも紺のジャージにエプロン姿であり、まるで中学校の調理実習のようにも見える。

 料理本通りに大判の牛肉コロッケを作って揚げていくひかり。

 直枝はひかりに頼まれ、付け合わせのキャベツを千切りにしていく。

 3人分という事もあって、多いほうがいいだろうとキャベツを1玉使う。

 

「おめー、その本の通りに作るんだな」

「そうですよ!」

 

 料理本の通りに作るひかりを見て、直枝はつい下原のイメージで言ってしまった。

 

「その、味とか大丈夫なのかよ」

「はずれはありませんよ、まだアレンジしたら大変なことになっちゃいます!」

「アレンジか……クルピンスキーの自信はどっから来るんだろうな」

「あはは……」

 

 思い出すはクルピンスキーが何も見ないでなおかつうろ覚えで作った“スープのような何か”だ。

 第2次偽伯爵料理事件の教訓から、下原の不在に備え502に料理本を置こうという動きがあったものの、結局うやむやになってしまったことを二人は思い出した。

 もっとも、あったところで「あと、これを入れたら美味しくなると思うよ」とアレンジをしようとして失敗する光景が目に浮かぶ。そしてロスマンの怒声が響くのだ。

 

「こっちに来たのが下原さんじゃなくて良かったですね!」

「やめろ、下原が抜けたら飯は業務隊か、俺とニパとロスマン先生、ジョゼで作ることになっちまう」

 

 ひかりの仮定に、直枝は遠い目をする。

 

 業務隊の炊事支援を頼めば毎日作る必要はないが、業務隊に人を出さなくてはならないのだ。

 そうなると直枝が思い出すのはロスマンによって厨房に派遣された時の事である。

 烹炊員(ほうすいいん)になると基地にいる数百人分の食材カットや調理が待っているので、それは避けたい。

 こういっては下原には悪いが、飯炊きのためにウィッチになったわけではない。

 かといって支援を頼まずに「自隊給食」にすると8人分でいいが、その他の業務で忙しいサーシャやロスマンは調理担当から外れる。

 したがって、毎食の調理が食へのこだわりが強いジョゼ、調理は出来るニパと直枝の3人ですることになる。

 

 そして哨戒任務が入ったりして人数が居ないときに、調理のできないクルピンスキーやひかりが台所に立てばすぐ悪夢の出来上がりだ。

 

 もっとも、食事以外に下原の不在は夜間哨戒の割り当てなどで深刻な問題が発生するのである。

 そうしたことも加味して下原やロスマン先生とは違い、部隊運営にあまり影響のない自分で良かったなとひかりは思った。

 

「そうですね、私もこっちに来なかったら料理も家事も勉強もできないままでした!」

「それは良かったな……こっちの気も知らねえで」

「どうしたんですか管野さん?」

 

 まるで異世界に来たことを喜ぶかのようなひかりに、直枝は拗ねたように言う。

 直枝とニパはひかりの消失以降ずっと悩んでいたのである、ひかりの能天気さに直枝は「心配した俺がバカみたいじゃねーかよ」と思った。

 トントントントンと包丁のリズムがどんどんと早くなっていく。

 

「あっ、もしかして、心配してくれてたんですかぁ?」

「うっせえ!おめーはコロッケ揚げてろ!」

 

 のぞき込むような視線に気恥ずかしくなった直枝はついつい言ってしまう。

 今のは少し言い過ぎたかなと刻む手を止めて右を見ると、ひかりはしゅんとした様子で言った。

 

「私、管野さんや皆さんに心配とご迷惑をかけちゃいましたね」

「迷惑だと思うならこんなところまで来ねえよ」

「管野さん、ありがとうございます」

「おう」

 

 直枝は一言そういうと再び、黙々とキャベツを刻み始めた。

 何を言うでもなく、油の弾ける音と小気味よい包丁の音だけが台所に響く。

 それらは、台所の向こう側のカーポートに車が入ってくるまで続いた。

 

「ただいま!」

「おかえりなさい、尚樹さん!ほら、管野さんも!」

「お、おかえり……」

 

 尚樹が居間に入ると笑顔のひかりと、言いなれない事を言わされて恥じらっている直枝が出迎える。

 テーブルの上には揚げたてで油とパン粉の良い香りがする大判のコロッケが3枚の皿に乗り、その中央にボウル一杯に盛られたキャベツの千切りが鎮座している。

 

「今晩はコロッケか、付け合わせのキャベツも多くていいね!」

「はい!キャベツは管野さんが刻んでくれました!」

「おう、早く食べようぜ」

「そうだな、じゃあ俺は手を洗ってくるよ」

 

 直枝は尚樹を急かすと共に、台所にご飯の盛られた茶碗を取りに行く。

 ひかりはヤカンに入ったぬるいほうじ茶を3つの湯吞みに注いでテーブルに並べた。

 手を洗うとともにツナギを洗濯かごに入れた尚樹が席に着けば、一斉に食事が始まるのだ。

 

「いただきます」

 

 尚樹たちはひとり2枚の大きなコロッケと千切りの山に箸をつけた。

 

「おいしい、それにしてもボリューム凄いな」

「はい、しっかり食べれるように“わらじコロッケ”っていうのを作ってみました!」

 

 食卓には『お好み焼きソース』いわゆる濃厚ソースが用意されており、ひかりと尚樹はソースをかけたが直枝は何もつけずに食べる。

 

「直枝ちゃん、ソース掛けないの?」

「せっかく牛肉使ってんだ、“甘い”ソースをかけたら肉の味がわかんなくなっちまう」

「ああ、素材の味を楽しむ派か、下味もついてるしな」

「尚樹さん、ペテルブルグは牛肉とかあんまり出てこないので牛肉の味は重要なんです」

「食料が届かねえし、出てくる肉は何の肉かわかんねえ。牛脂とウサギの肉が混ぜられた牛肉の缶詰とかな」

 

 なお、件のウサギ牛肉缶はリベリオン国内で問題となり、“ウサギ牛缶疑獄”と呼ばれる騒動に発展し陸軍より回収、製造会社は倒産した。

 しかし、数百トンにも上る友好国への輸出分における回収は行われなかった。

 疑惑の缶詰は長らく前線のデポで停滞していたが、奇襲攻撃で街の食糧庫が吹き飛んだため、食糧難になった際にラルが“有効活用”してやったのだ。

 

「そうか、やっぱり戦時下って大変だったんだなあ、で、その缶詰は?」

「下原が味の濃いソースと衣で覆ってなんとか食べられる代物になったよ」

「ええっ!あれってそんなお肉だったんですか!」

「おめーとニパは美味しい美味しいって食べてたから何も言わなかったけどよ」

「食品偽装問題が発覚しても、“無いよりはマシ”ってよっぽどだな」

 

 ペテルブルグ基地における食糧事情に思いを馳せつつも食べ盛りのひかり、直枝はあっという間に食べ終わり、千切りのキャベツでご飯を食べていた。

 尚樹もなんとか1枚食べると、「油モノをたくさん食べられないなんてオッサンだなぁ」と自虐しつつ残り1枚はひかりと直枝にあげた。

 

「ごちそうさまでした」

 

 食事が終わると尚樹が台所に立って食器を洗い、ひかりと直枝は休憩となる。

 この光景に直枝は驚いた。

 ひかりにやらせるものだとばかり思っていたのだ。

 

「おい、本当に休んでていいのかよ」

「うん、料理作ってくれたんだろ。食器の片付け位しないとな」

「変わってんな」

「管野さん、“現代の男の人”は家事ができないとダメみたいです!」

「そうそう、俺はもともと一人暮らしだし、ひかりちゃんに何でも任せきりとかかっこ悪いだろ」

「かっこ悪くなんてありません!」

 

 直枝はひかりから男女の役割が変わった平成の世の中の価値観について聞いた。

 ひかりが家事をやるようになったのも、何でも自分でやってしまう尚樹の影響だという。

 

「尚樹さん、手伝う事って何かありませんか?」

「じゃあお風呂の用意してくれるかな」

「はい、わかりました!」

 

 ひかりは風呂の用意のために風呂場へと行ってしまった。

 居間にひとり残された直枝はまるで“ただ飯喰らい”の様な気分になる、これがひかりを動かした原動力なのかとようやく理解するに至ったのだ。

 

_____

 

 入浴が終わるとくつろぎタイムに入り、直枝を加えてお茶請けを片手に現在までの流れについて話をする。

 お茶請けのポテトチップスやまんじゅうに直枝は目を輝かせていたが、現在の502の動向になると真面目な顔つきになった。

 ひかりは消失後に502がどんよりと暗いムードになっていたという話や、消失地点の近くにネウロイの巣が出来たという話を聞かされた。

 そして、その巣“レーシー”によって超空間通路が開かれていたという内容へと繋がってくる。

 尚樹はネウロイの巣がどんな物かひかりから聞いていたために、あることが気になった。

 

「たしか、巣にもコアってあるんだっけ?」

「おう、だけど今度の奴には見当たんねえ。孝美の魔眼でも見えねえしな」

「尚樹さん、お姉ちゃんはネウロイのコアを見つけることが出来るんです」

「“真コア”みたいな、コアを魔眼から隠すやつも居るから調査隊が音波探査機で調べてる」

 

 尚樹はネウロイについては知らないが、似たような器官が弱点の敵性体が登場するロボットアニメを知っている。

 そこには光線を放ち地下施設までの装甲板を蒸発させたり、虚像を浮かべ実際は足元に展開した虚数空間の中に居たり、回復が異様に早く二点同時荷重攻撃で撃破しないといけない存在が描写されているのだ。

 アニメの内容も含めて考えると、そのネウロイには何か仕掛けがあるはずだと尚樹は思った。

 

「そうなると八面体はコアのない虚像かタダの送信機、この辺に本体か何か居るんじゃねえの?」

「どういうことだよ」

 

 尚樹は手元にあったパチンコ屋の折り込みチラシの裏にマーカーで“ウィッチ世界”・“こっち”と2本の時間軸を書くと1945年のウィッチ世界から矢印を飛ばした。

 

「毎回こっちの世界に通路を繋げているわけだけど、どうして2017年の大阪なんだろうな」

「適当に開いたにしてはここばっかりって事かよ」

「そう、向こう側から適当にジャンプさせるなら出現地点や時間がばらけてもおかしくないんじゃないか?」

「あっ、ほんとだぁ!」

 

 尚樹は“こっち”側へと引いた矢印に199X と書き、逆にウィッチ世界へのものに200Xと書く。

 時間がずれている以上、こちらから適当に空間を開いたとしても1945年のオラーシャに出るとは限らないのだ。

 

 ひかりが来て以降も“少なくとも2回以上”は絶対に大阪上空に繋がっているところを見ると何かで出現地点を固定している。

 もしくは本体が日本にあってウィッチ世界のものは虚像あるいはこちらに通路を開くための送信機かも知れないと考えたのだ。

 

 ひかりはネウロイの座標固定方法に対して何かを考えはじめたのか「うーん」と黙ってしまった。

 

「そういう事か、それならこっちに居るネウロイをぶっ倒せば帰れんのか」

「可能性はあるね、ただし、通路が開いているときにやらないとダメかもな」

「あっ、尚樹さんこの間の地上ネウロイって()()()()来たんでしょうか」

「電波障害もあったみたいだし、どこかから来てるんじゃない……」

 

 尚樹はひかりの疑問になんとなく答えると、直枝のいうネウロイの出現状況を思い出してチラシにもう一本線を引いた。

 戦車部隊が行方不明になり捜索中に“黒水晶”のような地上ネウロイが出現、()()()()()()に奇襲を受けたと言う話を思い出したのだ。

 

「たしか戦車の捜索中に奇襲を受けた時も何かの光があったんだよね、もしかして……」

「これがあってもおかしくねえけどよ」

 

 3本目の線にネウロイ供給源?と書き込むと恐ろしいことになった。

 接近経路も生産方法もわからないネウロイが、「世界を跨ぐ手段を持っている」としたならば3本目のネウロイ供給源からウィッチ世界やこっちの世界に矢印を飛ばせるのだ。

 

「尚樹さん、この近くにネウロイのコアがあったとしたら他のを呼んじゃいませんか?」

「その可能性はあるな、その時はひかりちゃんと直ちゃんに倒してもらうよ」

「おめー、人任せかよ。この国の軍隊はどうなってんだ」

「この国の軍隊は膨大な手続きを取らないと拳銃一つ持ち出せないんだよね」

「大雨の時に“災害派遣”って書いたトラックが走ってるのは見ました!」

「ひかりちゃんの言う通り、災害派遣にはよく出るけど“武器の使用”はできないんだよな」

 

 尚樹は敗戦からの統治、進駐軍指導の下での防衛力整備、自衛隊発足と文民統制についての話をしようかと思ったが長くなりそうなのでやめた。

 自衛隊史には壮絶な敗戦以降の国民の「軍事アレルギー」というものが関わっており、その説明をしてもなお直枝に理解してもらえる気がしなかったのである。

 

 要はコアの危険性がはっきりしていて、かつ警察力で手に負えないと判明するまで自衛隊の出る幕はないのだ。

 

「コアが見つかったからと言って、すぐに部隊が派遣できないからなあ自衛隊」

「そんなもんでよくこの国が()ってるな」

「戦後80年、何度か危機はあったけど戦争もなく()()()()平和だったからね」

 

 そういうと、尚樹は本題である「ネウロイのコアと超空間通路について」に戻った。

 寝る前まで続いた話し合いの末に出た結論は以下の通り。

 

__超空間通路が開いているときにこちら側に潜伏しているネウロイを撃破し、コアがあった場合はそれを破壊して通路が閉じる前に飛び込む。

 

「ま、通路が開いて、潜伏しているネウロイが出てくるまでどうしようもないんだよな」

「そうですね、探す方法もありませんね」

「仕方ねえな」

「じゃあ、今日のところはお開きにして寝ようか」

 

 3人は大体の目標も決まったとして、気持ちよく眠ることが出来たのだった。

 




戦いの後の日常、ひかりちゃんが消えた後の話でした。
まさか平日回を2分割することになるとは思ってもみませんでした。

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