ひかりちゃんインカミング!   作:栄光

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追記:ヴェネツィア奪還後のミーナ中佐と501隊員について


三角兵舎

 1945年8月10日

 

__管野直枝中尉未帰還。

 

 とは言っても死亡したわけではなく、むしろ雁淵ひかり軍曹の生存確認が取れたぶん超空間通路の向こう側の世界で元気にやっているであろうと502の面々は思っていた。

 ゆえに、ひかりが消息を絶った時とはうってかわって楽観的ムードになっていた。

 だが、“レーシー”がペテルブルグ方面の脅威であることには変わりなく、どうにかして雲内部の“屈折体”を撃破しない限りどこからともなく兵隊ネウロイが出現するのだ。

 ただ、1回に出没するネウロイの数が第一次ウラヌス作戦の直前の3分の1ほどになり、現状のところ航空優勢も獲得している。

 

 地上では壕を掘って陸戦ウィッチや戦車が前線に睨みを利かせており戦況は小康状態を保っていた。

 100人以上のウィッチが代わる代わる空に上がり空襲の危険が低くなったころ、前線飛行場にようやく半地下指揮所とパネル製の廠舎(しょうしゃ)ができた。

 木々を切り倒して林道を拡大する形でトラクタドーザーで誘導路や滑走路を造り、部隊事務室と交通壕で繋がった半地下指揮所、三角兵舎といった施設が作られた。

 深さ2mの塹壕に切り倒した丸太を乗せて天井を作り土で覆う

覆土(ふくど)式の半地下指揮所は破片防御や偽装が施されたもので、航空ネウロイに強いのだ。

 そして板張りの三角屋根をそのまま地面に置いたような三角兵舎は作業性に優れ、突貫工事で建てられた兵舎群は各連隊のウィッチたちの宿舎となった。

これらの施設はいずれも杉の枝葉などで擬装が行われており上方からの被発見率を下げている。

 

 現代の施設科部隊と違って油圧ショベルなどと言う便利な機械はまだなく、筋骨隆々の工兵たちがつるはしやシャベルで懸命に穴を掘り、あるいは杭を打って8日掛かって完成した。

 

 工兵たちが撤収すると、部隊ごとに分けられて三角兵舎に寝泊まりをする。

 地面にワラを敷いて、その上に雨具で作った覆いを被せるだけのようなツェルトバーン・テントに比べるととても立派な建物で、木の匂いが漂う真新しい兵舎にウィッチたちは久しぶりに気分が高揚した。

 特にラルは手足を伸ばせることから大いに喜んだ、「これで薄暗い地下指揮所に届く書類の束さえなければまるでピクニックだ、楽しくなる」と。

 

 

 将校用の兵舎から少し離れた所に設けられた一般兵舎のベッドの上で4人のウィッチが顔を突き合わせていた。

 朝の哨戒飛行から帰って来たニパ、ジョゼ、孝美の3人と夜間哨戒が終わって半休の下原だ。

 ロスマンとサーシャ、クルピンスキーは空に上がって哨戒コースを飛んでいる頃だろう。

 

「カンノがあっちに行っちゃってもう1週間か……」

「そうですね、管野さん、元気にしてるといいのですが」

「大丈夫だよ定ちゃん。雁淵さんがいるなら管野さん張りきっちゃうよ」

「ひかり、管野さんや向こうの人に迷惑かけてないかしら」

「むしろカンノがひかりの前でいい格好しようと向こうでやらかしていないかなあ……」

 

 かつて、直枝の巻き添えで留置場に入ったニパは向こうでケンカや物を壊していないかなぁと心配し、妹大好きな姉の孝美はひかりの心配をする。

 いっぽう下原とジョゼは楽観的な立場に立っていた。

 管野なら何とかするだろうという信頼もあるが、なにより下原は向こう側の街並みを見て生活水準はこちらより良いだろうと判断しており、「定ちゃんが言うなら」とジョゼは下原を信じているのだ。

 

「下原さん、向こうって自動車がいっぱい走ってたんだよね」

「そうですね、色も赤や光沢のある青、銀色……丸い車体が可愛らしかったです!」

 

 ニパの何気ない問いかけに、下原はあの時見えた景色を思い出した。

 上空から道路を走る車が見え、丸みを帯びた車体はまるでテントウムシのように見えた。

 孝美は下原の見た光景と通路開通時に傍受したラジオ電波の内容を照らし合わせる。

 

「自動車が多いという事は工業技術は高そうですね、ラジオでも『新車販売台数日本一』という内容がありました」

「ニホン-イチ?」

 

 ニパは突如現れたよくわからない単語に首を傾げて見せる。

 ジョゼもおおむね同じ反応だ。

 

「おそらく、向こうは“扶桑”ではなく“日本”という国だと思うわ」

「日本にも大阪という都市があるなら、舞鶴や佐世保もあるんでしょうか?」

「下原さん、断定はできないけどある可能性は高いです」

 

 ラジオ大阪でのトークには呉の“大和ミュージアム”なる施設が登場しており、広島県や戦艦大和の存在が確認できたのだ。

 この情報は第一次作戦の際に得たもので、扶桑海軍の()()()()()と同名の戦艦が呉軍港において展示されているという非常に興味深い物であった。

 

 孝美やジョゼがパラレル・ワールドについて説明している頃、後方に設けられた調査団本部では持ち帰ったデータの分析と検証が行われていた。

 分光調査の結果、ネウロイが放つ破壊光線に近いもので波長は長くて赤外線に近い可視光というものであり、観測された雲の中の赤い光は“謎の散乱に加えて光自体赤っぽいので見えた”という結果が出た。

 同時に“ネウロイの光線がどうして赤いのか”という事が判明したが、それ以上に重要なのは赤外線に近い熱光線のようなものを屈折させたり、空間を跳躍させる機能のようなものがあるということだ。

 これが解明されれば対光線装甲あるいは光線兵器、空間跳躍器なんて物も作ることができるだろう。

 

 ブリタニアでトレヴァー・マロニー大将麾下(きか)の部隊によって研究されていた“ネウロイ起源兵器(ウォーロック)”においてはネウロイのコアを用いることで、破壊光線を発振・励起させた。

 ただ、同兵器はネウロイコアの同調作用によって暴走し、扶桑海軍空母“赤城”を撃沈後501JFWによって撃破された。

 “N兵器暴走事件”この一件は極秘扱いとなり、「501によるガリア解放」というニュースに覆い隠されたわけであるが、N兵器に関する基礎研究は今もひそかに継続されている。

 

 レーシーが用いる超空間通路や光線に関する研究がそういった機関へと流出すると取り返しのつかない事態になりえるので、管理体制や防諜態勢は厳重なものだ。

 世界に名だたるリベリオンやノイエカールスラントの物理学者たちが集うコンクリート製の建物には戦車や機関銃を擁する警備部隊が駐屯し、不審な車両または人物を発見した際には警告の後に捕獲または刺射殺が認められている。

 関わった学者たちはもちろん、末端のウルスラや調査隊のウィッチにも秘密を保持する義務が課され、違反者には禁固12年や罰金が科される誓約書にサインをさせられた。

 

 一方、音波探査機を用いた屈折体の探査では“コアの反応なし”という結論が出て、おそらくどこかに本体が潜伏しており、八面体はただの屈折装置あるいは囮という可能性が浮上した。

 これらの情報は後日、幾つか取捨選択されたのちに連合軍ペテルブルグ軍司令部にもたらされ、ラルや前線のウィッチの知るところとなったのだ。

 

 

 1945年8月16日

 

 コアがどこにあるのか捜索するために連合軍は再び、大規模威力偵察作戦を行おうと計画していた。

 正午、アルチューフィン中佐によって滑走路脇の作戦室前に集められた70余名のウィッチたちは新たな作戦が控えていることを聞かされた。

 作戦名はまだ『第11号作戦』という仮のもので、ネウロイの巣に対し反復攻撃を仕掛けてネウロイのエネルギーを消耗させるいわゆる“間引き”作戦である。

 消耗するのはネウロイだけではなく人類軍側も相応に消耗するし、なにより2度の大攻勢の直後であり、継戦能力の維持という面からはとてもリスキーなものだ。

 

 しかし、この下手をすれば東ヨーロッパ戦線を瓦解させかねない間引き作戦が通ったのには訳があった。

 リベリオン・扶桑・ブリタニアから援軍が送られてくることになったからである。

 いずれもネウロイの能力、とくに超空間通路に関するデータを欲しており、中でも研究者、あるいは情報機関員を多数派遣しているリベリオンは戦力だけでなく大量の物資も送るとやたら気前が良い。

 オラーシャ帝国としては新大陸の連中に土足で上がられたくないと思っていたが、彼らがいなくては戦線の維持はおろか石鹸、食事の缶詰すら手に入らないので大戦力の派遣を渋々認めることとなった。

 ブリタニアからもリベリオン同様、情報提供の要請があり、対価としてはムルマン港から続く後方連絡線およびラドガ湖南岸を警護するという内容だ。

 最後に扶桑であるが、遣欧ウィッチとして派遣された雁淵軍曹および管野中尉の救出という名目で補給物資を積んだ輸送船団と艦載ウィッチを擁する機動艦隊が派遣されることとなった。

 未知の技術、対ネウロイ戦におけるアドバンテージひいては国際社会でのイニシアチブが欲しいという思惑が透けて見えていたが、少なくともアンナ、ヴァシリー、そしてレーシーと3つのネウロイの巣に囲まれているオラーシャ北方戦線を維持するためには乗るよりほかはなかったのである。

 

 「ここだけの話」として、こうした上層部や国家間の取引を聞かされたアルチューフィン戦闘団のウィッチ達だったが、意外なことに嫌悪感を滲ませるものは少なかった。

 

「ま、ちょっとでも戦力が欲しいよね」

「援軍が来るなら、とにかく休みが欲しいわ」

「丸一日寝たい!」

「お腹いっぱい食べたいけど、ウサギ缶詰は勘弁してほしいなあ」

「そろそろフレグランスの石鹸が欲しいな」

 

 最前線で戦う年頃の少女たちにとって、国がどうあるべきか?とかいうようなスケールの大きい()()()()()()はさして重要ではなく、補給物資が前線にやってくるかどうかや戦力が増えて自分たちにかかる負担が軽くなる方が遥かに重要だったのである。

 502の乙女たちも例外ではなく、“戦闘団長講話”の後、ずっと目を輝かせているウィッチに、祖国からの援軍がどうなるのか考えている者、そして実務の面からいろいろと考えている者に分かれていた。

 

「増援が来るとなると、今までに見ないタイプの可愛い子ちゃんがやってくるかも」

 

 わざとらしくそう呟くクルピンスキーを無視して、目の前を通り過ぎるロスマン。

 

「先生、どうして行っちゃうのさ」

「あらクルピンスキー、居たの?」

 

 振り向くと、さも今気づきましたという風な表情のロスマンに、クルピンスキーは言う。

 

「ずっと先生の前に居たじゃないか」

「てっきり、木々のざわめきだと思った」

「僕みたいな声のざわめきなら思わず聞き惚れてしまうだろうね」

「自惚れないで、それだけ耳を傾ける必要が無いって事よ」

「先生は手厳しいなぁ。ところで、先生は何処に行くの?」

「あなたの居ないところよ」

「そういう事なら僕も一緒に一緒に行くよ」

「ついて来ないで頂戴」

 

 そういって歩き出そうとするロスマンに、クルピンスキーは自然とロスマンの横に立つ。

 

「ついて来ないでってば」

「偶然方向が一緒なんだ。エディータがどこに行くか聞いてないから僕の行き先も決まってないよ」

「はあ……私は兵舎で休むわ」

 

 仕方ないなという風にロスマンはため息をつくと、兵舎の方へと歩いて行った。

 クルピンスキーはちらりと半地下指揮所に設けられた502の事務壕の方を見て、何があったかを察するのだった。

 

「定ちゃん、リベリオンから物資が入るってことはお菓子も作れるかな?」

「もうジョゼったら、ものが届けば作ってあげられるわ。扶桑から味噌と醤油が来たらいいな」

 

 ジョゼは補給物資からいろいろな料理やお菓子作られることを想像して目を輝かせ、下原は扶桑からも補給物資と増援が来ると聞くと不足している調味料の補充があるなと考えていた。

 その横で孝美は考える、ある日を境にぱったりと帰国を促すような書簡や電話が途絶えたのである。

 

「最近、扶桑から帰ってきて欲しいという書簡が届かなくなったのはこういう事を見越してだったのね……」

「孝美さん、どうしたんですか?」

「ニパさん、扶桑からはひかりと管野さんの救出と私たちに対する補給という名目で人が送られてくるみたい」

 

 扶桑へ戻ってこいと言われなくなったのは東欧派兵における橋頭堡(きょうとうほ)としての役割が与えられることになったからだと考えた。

 一方、指令所ではラルが送られてきた補給物資の目録をサーシャに見せていた。

 

「サーシャ、502宛に送られてきた物資で何時まで持つ?」

 

 サーシャはユニットの交換部品や携行火器、そして食料などのページを確かめた。

 紫電改と零式艦戦の部品は孝美と下原が使い、ユニットを壊す直枝とひかりが居ない分必要以上に消費されることはないのだ。

 第2次攻勢に備えてノイエカールスラントから送られてきた物資の木箱の中は、ユニットやら武器、ジャガイモが詰め込まれていた。

 

「ニパさんとクルピンスキーさんがあんまり壊さなければ3か月は。ところで隊長」

「今回の物資の()()()の事だろう?そんな物は空襲という名の焚火にでもくべてやればいい」

 

 扶桑からの物資に混ざってときおりやって来る「孝美をかえして」と言う内容の書簡の事だがその全てをラルは処分していたし、大規模作戦になってからは電話でさえ不通になることがよくあった。

 サーシャは「そんな事もやっていたのかこの人は」と思いながら、自分が言いたい件を言う。

 

「それだけじゃありません、()()()()()()()から……」

「ミーナか、『ヴェネツィア解放おめでとう』とでもサン・トロンに祝電を送ってやれ」

 

 サーシャは最近502事務壕の野戦電話が鳴らなくて安堵していたのだが、それも2日前に終わってしまった。

 つい、いつもの癖で「ブリタニア」と言ったが、ラルには彼女の現在位置が分かっていた。

 サーニャとエイラを501解散後に「行くところが無ければ」と502に引き込もうとしたのが露見したせいである。

 

 ちょうど第一次ウラヌス作戦をやっているさなかに501はヴェネツィアのネウロイを一掃して解散、隊員たちは各地域に散っていった。

 ラルが物資を“拝借”した件や宮藤芳佳の所属を変更しようとした件で、作戦が終わったことを聞きつけたヴィルケ中佐がベルギカの地より電話攻勢を始めたのだ。

 解散のどさくさに紛れて元501隊員を引き込もうとするラルへの牽制と、現在判明しているいくつかの不審な事についての疑問と抗議である。

 

「隊長、最近私、ヴィルケ中佐からの電話があると胸がキュッと締め付けられるのですが……ロスマンさんはすぐ居なくなってしまいますし」

「ミーナの声は人々の心を掴んで離さない、いい声だと思わないか」

「私の場合は()()を掴まれています。ところで“宮藤さんの件”って何ですか?」

 

 サン・トロン基地に居るミーナ・ディートリンケ・ヴィルケ中佐の高く、よく通り、多少の感度不良でも聞き取れる声を受話器越しに聞くとサーシャは胸と胃に鈍痛を感じるようになった。

 ロスマンにそれを言うと軍医にかかることを勧められ、502基地の医官には心因性のものだと胃薬を渡されたのである。

 

「下原の上官だった坂本が目を掛けて育てた秘蔵っ子だな、うちの部隊では孝美が会っている」

「どうしてそんな娘に手を出すんですか!」

「なに、回復役は多いほうがいいだろう。最近テント暮らしでさすがに腰が痛くてな」

 

 ラルはコルセットの上から腰をさするしぐさをする。

 下半身不随になるような重傷を、全治5か月のケガにすることができる治癒魔法なのだから、使い手が良ければもっと効果があるだろうと考えたのだ。

 そこで候補に挙がったのが雁淵孝美の戦線復帰に貢献したウィッチ、宮藤芳佳だったのだ。

 ひかりと同じようにいきなり統合戦闘航空団に志願、配属されたうえに数々の戦闘に参加し“あの”バルクホルンやハルトマンともよい関係を築いていると聞く。

 ヘルシンキの会議でミーナの言っていた「扶桑から来る新人」とは彼女の事だった。

 命令違反こそあるものの、菅野やクルピンスキーといったブレイクウィッチーズではよくあったので大して気にならない。

 

 こうして、ラルは宮藤の経歴について調べるうちにだんだんと欲しくなってきて7月頃にひかりの行方不明における欠員補充として工作を行ったのがつい最近になって発覚したのである。

 

「とにかく、リベリオンやブリタニアから派兵されてくるからと言って手を出さないでくださいね、絶対ですよ」

「さあ、どうかな。どこの軍にも“腕利きのはみ出し者”は居るものだ。そういった奴らなら問題はあるまい」

「隊長が呼んだ人は一癖も二癖もある人ばかりで……胃が痛いです」

 

 楽しそうな表情のラルにサーシャは「フリじゃないですよ」と胃のあたりを抑えながら言った。

 

 

_____

 

 17日の未明、317連隊のアリーナ・リトビネンコ少尉は219連隊のウィッチ2人と警戒線まで進出し夜間哨戒をしていた。

 第3直であり、3時から6時までの間夜空を飛び続けるのだ。

 焚火の光ひとつ見えぬ静かな夜の森、魔導針が遠く離れた戦区のナイトウィッチの声を拾う。

 おしゃべりに興じつつも、目線を地表警戒範囲や月明かりに浮かぶレーシーの影へとせわしなく動かす。

 

 第1次攻撃以降、ネウロイが放つ特有の“ジリジリ”というノイズは一切入ってこない。

 ネウロイは金属を糧にし、「ブラウシュテルマー」と呼ばれる大きな構造物を立てて青白い花のようなものを咲かせ、そこから人体に有害な瘴気(しょうき)を出し母艦級ネウロイは瘴気でエネルギーを補給していると考えられている。

 

 地中から吸い上げた金属を瘴気に変えて動力にしているものだから、ネウロイ自体にも磁性があるうえ常に微弱な電波を発しているのだ。

 ネウロイ反応の探知はこうした特性を使って行われていたが、近年ではあえて強力な電波を発して人類軍の無線通信やレーダーを無効化するECM能力がネウロイに備わりつつあった。

 全ての種が魔力波を用いた索敵や近距離での通信を妨害するには至らないが“無音飛行”と呼ばれるステルスタイプもいるため、ナイトウィッチ達は魔導針を用いた捜索よりも肉眼での捜索を中心に行っていた。

 リトビネンコ少尉も目視で第一警戒線までの地表面を周辺視でざっと流すように見る。

 一点に集中して見るより、視界の端でざっと見るほうが広い範囲の異常を見つけられる。

 

 彼女の視界の端に動くものが一瞬だけ見え、その近くを見たとき体中から血の気がさっと引いた。

 通常であれば夜間は哨戒型と思われる飛行ネウロイが単機または少数で現れるのだが、陸に空にネウロイの編隊が出現したのだ。

 四角い胴体に針のような足が4本付いた陸上ネウロイの群れ、おおよそ30から50近くのが暗い森の中を進んで来ていたのだ。

 上空にはブーメランのような形状の大型ネウロイがどこからともなく現れ、その護衛に小型のくさび形や要撃タイプがついていて、数は40~50とさながら人類側の戦爆連合のようだ。

 

『こちらカリーニン、リトビネンコ少尉、定時連絡はどうした』

 

 息を飲む音に指揮所から定時連絡の催促が入った。

 リトビネンコは叫ぶように言った。

 

「こちらリトビネンコ、緊急事態!敵です!敵襲です!」

 

 同様に地上を北上してくるネウロイの一団を見た219連隊のウィッチが信号拳銃を撃った。

 赤が3つに緑がひとつという信号弾が夜空を照らし、タコツボ壕で監視していた歩兵がようやく気付いた。

 

「外哨長!こちら第4歩哨!上空に信号弾あり!」

「こちら外哨長、確認した。現時刻より迎撃に入る!歩哨はその場で待て」

 

 その他の兵士たちは寝ているところを叩き起こされ、上空に舞う信号弾でようやく事態を把握した。

 それに遅れるようにレーダーサイトからの警報が司令部に入る。

 

「非常呼集!」

「各中隊は正面に戦車回せ!」

「ナイトウィッチじゃなくてもいい、とりあえずウィッチを上げろ」

 

 高射砲陣地の傍の照空燈(しょうくうとう)が夜空を照らし、8.8㎝高射砲が射撃準備を行っていた。

 戦闘騒音に寝ぼけ眼で戦車や装甲車両に飛び乗って宿営地を飛び出していく増強部隊。

 三角兵舎から出てきたウィッチたちは暗い中を走り、整備班とユニットの居る滑走路脇の掩体陣地に駆け込む。

 起動車や発進台に据え付けられたユニットを履き、一斉にエンジンを掛ける。

 

「まわせー!」

 

 高圧空気がタービンを回し、1000、2000、2500とアイドル回転に辿り着くと整備員が電源を外し、車輪止めを取る。

 

「アイドルよし、チョーク外せ!」

 

整備員の1人が誘導路にジープを置き、ヘッドライトで進行方向を表示する。

 

「久しぶりの夜戦だな、ブダノワ、出るぞ!」

 

 夜間哨戒班のウィッチたちはすでに空に上がって戦っていた、デグチャレフ対戦車ライフルやフリーガーハマー、DP28機銃の射撃音が聞こえるなか、夜間飛行経験のある者が嚮導機(きょうどう)として首から吊るした箱型の懐中電灯を片手に編隊の先頭を飛び、懐中電灯の明かりをもとに続いてゆく。

 練度の足りない新兵であっても闇が怖いなどと言っていられる状況ではなく、一刻も早くサーチライトに照らされて浮かび上がった敵と戦わねばならなかった。

 

 彼らの長い一日は未明の襲撃より始まったのだった。

 




ネウロイ関連は独自解釈多めです。アニメでも反応は探知できているみたいだし。
構成材質はよく分からないけれど、金属喰っているんだから何かしらは影響あるだろうなと。

「アフリカの魔女」を購入したため、そこから引っ張っている設定もちらほら……


様々な感想や、書いている最中には考えつかなかったような視点の意見が出ることもあって、毎回楽しみにしております。
あらためて、ご感想・ご意見お待ちしております。

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