ひかりちゃんインカミング!   作:栄光

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初動

 2017年7月21日

 

 日課である朝のランニングを終え、尚樹たちは朝食をとる。

 朝の情報番組ではあいも変わらず、国有地売却問題と芸能人の不倫報道が流れ、その合間に夏のレジャーについての特集が挟まれている。

 チャンネルを変えても似たり寄ったりな内容で、例外として大阪テレビは朝の子供番組を毎週月曜から金曜にかけて放送しており、尚樹はとりあえずつけておいた。

 連日連日、野党議員が与党や首相批判をしている同じような映像と、どうでもいい他人夫婦の問題ごとを見るのは疲れるので、特に興味はないけれどアニメを見始めた。

 ひかりと直枝も最初の頃こそニュース番組を食い入るように見ていたが2週間もすれば同じことの繰り返しに飽きて子供番組の後に始まるアニメを楽しむようになった。

 2016年の冬アニメの再放送で、擬人化された動物の居る世界で記憶を失った少女が旅する物語だ。

 最初こそ直枝は「ガキ向けかよ、“動物農場”を思い出すぜ」となどと言っていたが、二話、三話と見るうちにすっかり夢中になってしまった。

 ひかりも動物をモチーフにしたキャラクターのかわいらしさに見るようになり、今では直枝と並んで画面に釘付けだ。

 毎朝の放送の影響はすさまじく、ひかりは動物少女たちの容姿を見て思わず尋ねる。

 

「管野さん、サーバルを使い魔にするウィッチって居ないんでしょうか」

「さあ、アフリカ戦線にでも行けば居るんじゃねえのか?」

「アフリカ……熱そうですね」

 

 ウィッチは魔法力使用時にアニメの中の動物少女のように長い耳と尻尾を生やせるのだから、サーバルキャットなどの動物がいてもおかしくないと思ったのだ。

 直枝はアフリカ戦線についてあまり知らないので居るとは言いきれないが、もしかすれば居るかもしれない。

 思いつく限りでアフリカを知ってそうな人物は……ひとりだけ居た。

 ジョーゼット・ルマール軍曹(現・少尉)だ。 

 

「アフリカなら、ジョゼのやつがいた所だ。戻ったら聞いてみろ」

「えっ、ジョゼさんってアフリカに居たんですかぁ?」

「おう。ダカールに脱出したガリア政府の連中をひとりで守ったらしいぜ」

 

 ひかりは下原と二人一組となって行動しいつもお腹を空かせているイメージのある彼女が、孤軍奮闘していたなんて意外だと思った。

 

「へえー。ところで尚樹さん、どうですか?」

「ロボットに動物少女にトンネルかぁ……人が滅亡した系な話か?」

 

 尚樹はいつも出勤した後なのでこの番組を見るのは今日が初めてだったが、どうも不穏な物を感じており、人の残した“遺構”という動物少女たちの明るく楽しい雰囲気とは異なる存在に引き込まれていた。

 地下の迷宮にいた謎の未確認生物と少女たちは敵性体に追われながらも出口を探して彷徨う。

 そこで明かされた人類と動物少女に関する情報に、尚樹は次から録画しようと心に決めた。

 もともとアニメや物語の考察をする方ではないが、ひかり達が来て以降は不自由の少ない生活をさせてあげる方法に元居た世界に帰る方法、ネウロイの特性などと様々な()()をする機会が増えてついつい考えてしまうようになったのだ。

 

__夏休み、帰省が終わって余裕ができたら二人を連れて動物園に行ってみるのも良いかもしれないな。

 

 アニメ番組が終わり、チャンネルを戻すと8時の番組が始まっていた。

 

 ショッピングセンターは大体10時くらいから開くので、それまでの間に家で様々なことができる。

 ひかりは洗濯機を回しはじめ、直枝はというとひかりの手伝いに回った。

 尚樹も洗濯などの家事の手伝いをしようとしたのだが、「やることが無くなるじゃねえか」という直枝の抗議もあって、最近はもっぱら銃やストライカーの目視点検やら洗車をしていた。

 家事を二人に任せた尚樹は洗車用品の入ったカゴをもってカーポートに出た。

 何としても午前中に終わらせようと水を掛けて、撥水コート付きのカーシャンプーでボデーを磨く。

 日が高くなれば暑いし、何よりボデー上の水滴がすぐ乾いて“ウォータースポット”と呼ばれる水玉状の跡が出来るのだ。

 汚れが目立ちにくいシルバー色とはいえ黄砂などの影響で汚くなっているのはよくわかるので、尚樹はマイクロファイバー雑巾の端を持って滑らせるように一方向に引く。

 こうすることで手で拭くより傷つきづらく表面の汚れと水滴を取り去ることができる。

 とりあえず、洗車は汚れを流して水滴を残さず拭き取るというのが重要で、整備士は嫌というほどやることになるのだ。

 大手ディーラー、個人事業の整備工場問わず、洗車はお客様サービスの()()()()であり、入社してから数か月はずっと洗車であるし、お客様へ返す際には絶対にと言っていいほど洗車を行う。

 数か月にわたり一日中洗車をし続けていると、だんだんと飽きてくるというか嫌になってくるもので、そこで“無心になって手だけを動かす”もしくは“別のことを考えながら手を動かす”かの二つに分かれてくる。

 たとえ出庫時の空がどんより曇ってすぐに雨が降りそうとも、洗車の意味を問うてはいけないのだ。

 尚樹はルーフ、ガラス、ピラー、ボンネット、ドアと車体上面から下へと洗って拭いていくが、例外としてタイヤとホイールは先に洗う。

 ブレーキの際に出るブレーキダストがホイールには着いており車体に着くと、黒く汚れてしまい、特にブレーキング性能のために柔らかく摩耗しやすいパット材を使っている欧州車は付く量も多く、1か月くらいで真っ黒になったりする。

 時間が経って赤茶色になったらまず落ちないので国産・外車問わずまずは飛散させないようにホイールの清掃から始めなくてはならない。

 尚樹は何処のショッピングセンターに行こうか考えながら作業を進め、気が付けばワックス掛けと電動ポリッシャーを使った磨き作業まで終わらせていた。

 

「よし、こんなもんかな」

 

 尚樹はホースの水を止めると、先ほどまでホイールに使っていた細い棒付きスポンジと車体を磨くのに使った幅広の柄付スポンジの水を切り、拭き上げに使ったウエス、磨き作業に使ったポリッシャーのスポンジバフ3種類も丁寧に水洗いして洗車用品のカゴに入れて物干し場へと行く。

 その時、ひかりが波板の影から空の洗濯カゴをもって現れた、ちょうど洗濯物を干し終わったのだ。

 

「尚樹さん、こっちは全部干し終わりましたよぉ!」

「お疲れ様、今日はいい天気だからすぐ乾きそうやね」

「はい!洗車はもう終わったんですか?」

「うん、終わったから昼には出かけられると思うよ」

 

 尚樹も物干し竿の余りスペースに洗車用具をさっと吊るし、ひかりと共にガラス戸から居間に上がった。

 居間のテーブルではひと仕事を終えたジャージ姿の直枝がひかりの許可を得て、ポテトチップスと麦茶を手にテレビを見ながらくつろいでいる。

 

『大阪のニュースです、河内長野市の山林に産業廃棄物計700キロを不法投棄したとして解体業の……』

 

 テレビには11時のニュースが映っており、関西のローカルニュースを伝えていた。

 この光景に土曜日や期末試験で学校が午前授業、いわゆる半ドンの夏の昼下がりを思い出す。

 もっとも尚樹は“ゆとり教育”真っ只中世代で、小学校2年生くらいの時に公立の学校から土曜授業が消えてしまい、私立高校で第2土曜、第4土曜のみ4限授業という経験をしていた。

 その時の窓から射す夏の日差しに扇風機のぬるい風、麦茶に塩っ気のある食べ物、そこに少年時代の彼は“夏のにおい”を感じた。

 過ぎ去った時代を思い出してノスタルジックな気分になっている尚樹をよそに、直枝は声を掛ける。

 

「おう、お疲れさん。尚樹も食うか?」

「手を洗ってから食べるよ」

「早く手を洗わねーと全部俺が食っちまうからな」

「管野さん、だめですよ!」

「ま、なるべく早く洗うよ」

 

 悪戯っぽく笑う彼女に、尚樹は手をひらひら振って洗面所へと向かった。

 ひかりは「食べ過ぎると太っちゃいますよぉ」と笑顔でツッコミを入れた。

 ちょっとしたジョークが思わぬ形で帰って来たため、思わずうめく直枝。

 この相棒はペテルブルグに居た時から悪意なく、厳しいところを突いてくるのだ。

 尚樹は軒下で脱いだ靴を玄関に戻すと、手を洗うついでにシェーバーで髭を剃った。

 

 部屋着のジャージを脱いで通気性の良いシャツと薄いハーフパンツという夏の外出スタイルになった3人は昼食をフードコートでとろうと、11時半ごろに家を出て八尾市にあるショッピングモールに向かって車を走らせる。

 

「あぢい……」

「ホントですねぇ、尚樹さん……」

「クーラー付けてるよ。上吹きで風当てたら?」

 

 車の中は日光で熱されて37度にもなり、うめく直枝たち。クーラーをつけているけれどもなかなか冷える気がしない。

 助手席のひかりはクーラーの噴き出し口を自分に当て、それが出来ない後部座席の直枝は窓を開け、熱気を逃がそうとする。

 窓から入る走行風も()()()が閉めきって熱気に包まれているよりはマシだ。

 生活道路から出るくらいに暑さも和らぎ、クーラーが車内を冷やし始めて快適になった。

 そして、府道170号線に出ようと信号待ちをしていた時に異変は起こった。

 

「あれっ?停電か?」

「ほんとだ、信号が消えてます!」

「コンビニの電気も落ちてやがる、停電だな」

 

 信号だけではなく付近の建物の電気も落ちており、どうやら地区自体への送電が止まっているようなのだ。

 ひかりと直枝は停電を頻繁に経験していたため「こんなこともあるよな」と思っていたが尚樹はいやな予感がした。

 電力が安定して供給される現代日本で停電が起こる時は落雷、台風などの大きな自然災害を除いた場合、人為的なミスなどが多い。

 例を挙げると荷物の積み下ろしに使う小型油圧クレーン搭載車がブームを畳み忘れて道路を横切る電線を切ったと言うものや、吊り上げ作業で黄色い保護管の無い架線に接近しすぎて放電、変わったところでは空自の連絡機が河川敷に墜落する際に高圧送電線を切ったとかそういうものだ。

 どのような理由にせよ、現代の都市において停電は重大な影響をもたらす。

 

「どうするんだ?」

「この様子じゃ、ここを抜けるまでに事故るしいったん帰ろうか」

 

 交通量が多いうえ、河内長野市付近は長い直線という事もあってスピードを出す車も多く外環状線にうかつに進入するのは危険だ。

 特に大阪人は“いらち”であり、“せっかち”で“気が短い”という気質の人も多く、「こんなん待ってられへん!」としびれを切らして交差点に進入したところで側方から来た車と衝突した人もいたし、「はよ行かな!」と急いで交差点を抜けようとして事故を起こした人もいた。

 車のラジオでは“大阪で謎の大規模停電”と言った報道がされており、尚樹たちはとりあえず家に帰る選択肢を選んだ。

 ショッピングモールに非常用電源がついているとは限らないし、行ったからといって普通に買い物できるかどうか定かではなく、広域停電による混乱が生じていてもおかしくない。

 無理に行くことよりも重要なことに気付いたのだ。

 大阪府中河内エリアの停電、すなわち自宅の電気機器類も停止しているという事だ。

 

「停電……尚樹さん、冷蔵庫がっ!」

「ってことは俺たちのアイスも溶けちまうじゃねーか」

「それより水が止まるまでにバケツに水汲まんと!」

 

 ひかりは冷蔵している食べ物が痛むことをおそれ、直枝は楽しみにとっていた大きな容器に入ったアイスが溶けることに気づき、尚樹は高所にある住宅街まで水を押し上げている()()()()()が停止することによる断水の前に水を準備しないと水洗トイレすら流せないと考えた。

 非常用ジーゼル発電機や予備電源がある施設は直ちに切り替わったが、そうでないところは阿鼻叫喚の地獄絵図となった。

 なにせパソコンもプリンターも無線LANもみな電気を使う、作成中の書類データは吹っ飛び空調が止まったことでオフィスの室温はどんどんと上がっていくのだ。

 そこで水を出そうにもビルの場合は揚水ポンプが動かず、高置水槽の水が出尽くせばそれで断水となる。

 そうなると仕事どころの騒ぎではなく室内で熱中症になったり、トイレが使えないなどと生命維持に影響が出始める。

 

 尚樹が転回して家へと向かっている頃、6600Ⅴの高圧線に全長15メートルほどの黒い影が手足のようなものでしがみ付き、火花を散らしていた。

 それはまるでゴリラのようであり、送電鉄塔によじ登り映画に登場する“キングコング”を彷彿とさせる姿であったが顔はなく、代わりに赤いパネルが散りばめられていた。

 正体不明の黒い動体は、瞳や口、体毛、爪といったものが無くのっぺりとした外観上の特徴や電気エネルギーを吸収していることから生物かどうかも怪しく、大きさからも猟師が狩れる相手ではなさそうだ。

 結局のところ鉄塔に上った“それ”を取り囲んでいる警察官たちはただ見ていることしかできなかった。

 

 

 監視カメラで見ていた土地所有者からの通報で、大阪府警察は常習的に不法投棄を繰り返していた解体業者の男たちを現行犯逮捕するに至った。

 だが黒い影の出現によって、単なる不法投棄の摘発では終わらなくなってしまったのだ。

 金属ゴミも混ざった廃材を積んだ小山の下から突如現れた巨大なそれは、人間を発見すると複数の車を跳ね飛ばして走り出して、斜面を通る高圧送電線の鉄塔によじ登り始めたのだ。

 電線が切れたことでショートし火花が飛ぶと街へ送られていた電気が止まり、送電停止までの間に黒い移動体は電線や鉄塔を取りこみつつ亀甲模様に淡く発光し始めた。

 そこにひったくりや強盗といった犯罪者を空から追い続ける大阪府警のヘリコプターが、通常の巡回航路を離れて応援にやって来た。

 6機所有するうちの1機で、フランス製の大型ヘリシュペルピューマで愛称は“おおたか”と言った。

 

『府警本部こちら“おおたか”黒い移動体は関電所有の鉄塔上で停止しています、どうぞ』

『おおたか、こちら府警本部。引き続き監視してください』

『了解』

 

 “おおたか”が撮影し伝送してきた映像と、現場の警察官から上がってきた情報は直ちに府警本部に届けられ、大きさゆえに場合によれば害獣駆除として出動するであろうと防衛省にも提供された。

 そこで6月に発生した大阪上空戦、河内長野市における陥没事故及び“情報提供者”が一つの線で繋がったのである。

 そして久々にセルゲイは拘留施設から大阪府警察の本庁へと呼び出された。

 セルゲイの他にロシア語通訳と警察幹部、そして大規模停電に伴う災害派遣として出動準備をしていた防衛省および近畿中部防衛局の人員が集まり、警察ヘリから送られてきた映像を見ていた。

 ヘリからの画像を見ていたのはこうした危機管理要員だけではなかった。

 どこからか話を聞きつけてきたマスコミのヘリコプターが飛来し、規制線から少し離れた所にいる地上のクルーたちからは空撮用ドローンが飛ばされて鉄塔に近づいて行く。

 

「あれは陸上型ネウロイだな、一定以上近づくとまずいぞ!」

 

 セルゲイがそういった時にはすでに遅かった。背中の赤いパネルが光って不用意に近づいたテレビ近畿の取材ヘリコプターはメインローターを焼き切られ一瞬のうちに墜落した。

 地面にほぼ垂直のような角度で落下し爆発、炎上するヘリに地上にいた警察官たちは(おのの)いた。

 一方で同業他社のヘリコプターが落とされるという衝撃的な光景を目にした地上のクルーたちは人的被害が無いドローンをもっと近づけて攻撃シーンを撮ろうとしたが、すぐさま第2射が放たれ、一瞬で焼失する。

 地上のカメラがその様子を捉えており、ニュースに登場したそれはまさしく怪獣映画の中の存在であり、大阪大空戦の悪夢を思わせるものであった。

 第37普通科連隊の中隊事務所のテレビに青いヘリが落ちていく映像が映るか少し遅いかくらいに連隊本部に師団司令部の幕僚から電話が掛かってきた。

 第3師団からの行動命令は以下の通り。

 

 __第37普通科連隊を基幹とした第3戦闘団は河内長野市に展開し“敵性移動体”を撃滅せよ。

 

 テレビニュースだけでなく警察からも情報提供があり、それを情報参謀の第2科長が連隊長に報告をあげる。

 連隊本部の作戦室には河内長野市の地図が置かれ、上に透明のビニール、通称:オーバレイが張り付けられ、集まって来た情報を運用幹部の三尉がグリスペンで書き込む。

 連隊事務所にはひっきりなしに電話が鳴り響き、各中隊からの伝令がクリアファイルやバインダーを持ってバタバタと行き来する。

 オーバレイに被害状況と警察の動向などが記され、現在は報道ヘリが1機撃墜され民間人に死者が出ているらしい。

 こうして着々と「状況図」が出来上がっていった。

 

「偵察隊を出せ、本隊はその後に続く!」

 

 出動部隊編成の完結報告が出るより先に本管中隊の偵察班がオートバイに乗って河内長野市の山林に前進を始めていた。

 

 大規模停電における給水支援の準備をしていた隊員たちは、1トン水タンクを取り外して武器を搬出し即応車輌に乗り込む。

 ようやく災害派遣ではなく、治安出動という形で出動することになったのだ。

 訓練と同じように整斉(せいせい)とした行動でもって即応弾および武器を積み、営庭で編成完結式を行った。

 連隊長の4分半にわたる訓示があり、最後にある一言があった。

 

 

「君たちは故郷と国民を守るという使命を受けてここに立っている、今がその時だ。しかし、これからも身命を賭する機会はあるだろう、だから決して“蛮勇”を振るう事はない」

 

 

 武内晴樹士長は列中でぼんやりと思う。

 “出動”いよいよこの時が来たのだ、もしかすると死ぬかもしれないなと。

 不思議と怖くはなく、むしろようやく終わりの見えない状況から解放されると言った気分だ。

 他の隊員たちも同様で、第3種非常勤務が始まった時点から徐々に高まっていた苛立ちと緊張がようやく、一つの答えを見たのだ。

 車両に乗車し、車列の先頭にはパトロールカーが赤色灯を回して待機しており地下鉄サリン事件以降幾度となく実施されてきた対テロ合同演習を思わせ、常日頃の訓練がようやく実を結ぶ日が来たのだ。

 警察車両に挟まれ、“武装した”装甲車にトラックは続く緩い坂を下り、37連隊勤務隊舎前を抜けて正門に出る。

 信太山駐屯地の正門にはマスコミが待ってましたとばかりにカメラを向けた。

 シャッターが切られ、フラッシュが小窓から薄暗い装輪装甲車の中を照らす。

 パトカーに続いて回転灯を回す小型トラック(パジェロ)が現れ、ミニミ軽機関銃を据えた軽装甲機動車や、40㎜てき弾銃やM2機関銃を装備した装輪装甲車(WAPC)が続き、その後ろに120㎜迫撃砲RTをけん引した重迫中隊の高機動車が行く。

 

「ただいま自衛隊が出発しました!戦車でしょうか?車両には武装が施されています!」

 

 女子アナウンサーの甲高い声がエンジン音を貫くように響き渡り、停電地域以外のテレビ番組に中継映像が流れた。

 晴樹は前を行く小型のブレーキランプや周囲の交通を確かめながら走る。

 車間長は10mをキープして、アコーディオンのように車列が伸びたり縮んたりしないように走り交差点を抜ける。

 停電という事もあって混乱が予想されていたが、事前に警察と白塗りの小型トラック……警務隊が交通整理をしてくれていたようでスムーズに抜けることができた。

 沿道には多くの人が集まり、興味深そうに自衛隊の車列を眺めている。

 その頃、河内長野市の山林ではネウロイが鉄塔を降りて、周囲を囲うパトカーや木々を蹴散らして何かを探すようにのそのそと彷徨い始めていた。

 ラジオにノイズが入ったかと思うと、正体不明の移動体が出現したという情報が入る。

 尚樹がフルセグのテレビ画面に切り替えるとそこには塔の上から降りようとする巨大な4足歩行の何かがいた。

 

「尚樹さん!ネウロイが!」

「こいつはネウロイじゃねえか!やっぱいたのかよ!」

 

 大きさからして、おそらく母艦級だろう。

 金属を食べてエネルギーも補充しているのだからいつ兵隊ネウロイが生産されてもおかしくない。

 直枝は叫んだ。

 

「早くなんとかしねえと増えちまうぞ!」




お待たせしました
いよいよ、自衛隊とネウロイの大決戦が始まります。

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