修正:いくつかの表現を変更
2017年7月21日
母艦級大型ネウロイが小型種を生産してOH-1観測ヘリを撃墜したことから救助部隊を編成し向かっているころ、機動隊員が封鎖している道路に動きがあった。
「戦車が進入するので、道路を開けられたし……だと」
「いよいよ自衛隊さんも本気だなこりゃあ」
「戦闘ヘリが飛んでるんだ、今更だろう」
「違いない」
敵性体との戦闘開始から3時間、封鎖地域に戦車大隊がようやくたどり着いたのだ。
74式戦車を乗せた輸送科のセミトレーラー10両、人員車の装輪装甲車(通称:WAPC)が2両、中隊長車の軽装甲機動車(通称:LAV)、燃料のドラム缶と弾薬を搭載した3トン半トラック、そして第3戦車直接支援隊(DS)の
1中隊と2中隊の精鋭で編成された派遣小隊は10両の戦車で構成され、その後方に3DSの戦車回収車が続くのだ。
戦車大隊の投入によって道路の封鎖は展開を妨げるとして解除されることになり、大型輸送車が道路から離れてゆき障害物は車止めのみが置かれている状態になった。
「尚樹さん、バスがどこかに行ってますよ」
「いよいよ警官共もヤバいと思ったんじゃねーのか、いよいよ兵隊が沸いてきやがった」
封鎖場所を監視していたひかりが声を掛ける。
直枝はテレビでヘリの撃墜を知り、ネウロイが兵隊を召喚して数で押し潰す作戦に出たことに気づいた。
対戦車ヘリコプターは機動力と瞬間火力には優れるが、回転翼機の性質上、延々と地点を保持する能力には乏しい。
そこで投入されるものと言えば、増援部隊、とりわけ火力に優れた戦車部隊だろう。
「多分、増援が投入されるからだろうな。時間的に」
「増援?」
「おう、たぶん3戦だ。ちょうど3時間くらいだしな」
尚樹は自分が今津駐屯地から実家に帰ってきたときの事を思い出して言った。
電車の乗り継ぎで2時間40分、交通状況にもよるが自動車の場合、湖西道路から京都東インターチェンジで名神高速に乗って吹田ジャンクションを経由し、近畿自動車道を通って大阪府に入るのに3時間少々掛かるのだ。
「あっ!ヘリコプターが!あぶない!」
「アイツ馬鹿か!動き回んねえといい的だぞ」
ひかりと直枝は対戦車ヘリがTOW対戦車ミサイルを発射する様子を見て叫ぶ。
誘導兵器についてあまり知識のない直枝は、ロスマン先生のフリーガーハマーみたいな物だろうと思っており、当たるまで見送る新兵のウィッチみたいにパイロットが回避機動を取らないことに驚いた。
撃ってしばらくは棒立ちのようになってしまうのはコブラのTOWが有線誘導のため目標を捉え続けないとだめだからで、後継であるアパッチのヘルファイヤは撃ちっ放し能力があり撃ってすぐ離脱できるため生存性が大幅にアップしたのだ。
TOWを発射したコブラに数体の小型ネウロイの光線が放たれ、ワイヤが切れないように右へ左へと機体を傾けて回避する。
援護できる位置にいたアパッチがすぐに30㎜チェーンガンを発砲し、ネウロイは光と砕ける。
ピタリと空中で静止するようにホバリングして機関砲とハイドラ70ロケット弾、そしてヘルファイヤを撃ち込むAH-64Dと、宙返りこそできないものの機体を大きく傾け機体の機動限界に近いようなマニューバで光線を回避し獲物を狙うAH-1S。
静と動の組み合わせで兵隊ネウロイの数こそ減らしてはいるものの、どうも決め手がない。
そのうちにヘリの燃料が切れるか、搭載火器の弾が切れるかの2択が待っているため、このまま20分も30分も戦闘ヘリは使えない。
惜しみなくロケットや機関砲を使う第5対戦車ヘリコプター隊の様子に尚樹は呟く。
「あの様子ならそう長くはもたんだろうな」
「だろうぜ、それで戦車か。でもデカブツの前じゃ
直枝の話から、オラーシャにおける陸戦を聞いていたため言わんとしている事がわかった。
歩兵に比べ正面投影面積が大きい代わりに装甲防護力があるといえ、ネウロイ相手であればその光線出力にあっさり溶かされ、戦車砲も母艦級ネウロイともなると効果はあまりない。
対人戦争では火砲による衝撃的効果をもたらし、機動打撃力の骨幹である戦車もネウロイという敵性体の前では大きな的にすぎないのだ。
尚樹は突入した74式戦車が光線の的になって道路上で燃える様を幻視した。
自衛隊はオラーシャ軍に比べ個々の性能は高いが、火力量自体は遥かに少なく物資の備蓄が少ないことから持続火力がとても小さい。これではいずれは攻撃できなくなり継戦能力を失う。
介入して被害を抑えるならば今の、このタイミングしかない。
機動隊員が道路から離れていく様子を見て決心した尚樹はパジェロのシフトレバーをPレンジからDレンジに入れ、サイドブレーキを外す。
「じゃあ行くぞ、直ちゃん、ひかりちゃんしっかり掴まって!」
「はい!」
「おう!」
ひかりと直枝はドアやルーフトリムから突き出したハンドルをしっかりと両手で握り込んだ。
アクセルを踏み込み建物の影から飛び出して車止め前でアクセルを抜き、一瞬だけブレーキを踏んで右、左と荷重移動をさせつつハンドリングで避けると底までベタ踏みで封鎖場所から抜ける。
キックダウン制御が入ってギアが落ちると、トルクのある3.5リッターのV型6気筒エンジンは2トンと重量のある車体を一気に90キロまで急加速させ、坂道を勢いよく登っていく。
銃を向けて停車させることも、駆け寄ることもできず呆然と立ち尽くす警察官。
封鎖解除に伴う車両移動とそれに伴った配置変換の隙を狙って飛び込んできた自動車に機動隊員たちは不意を突かれて突破を許してしまった。
追うにも隊員を輸送していた大型輸送車は数百メートル離れた駐車場に移動して居ないし、SUVをベースにした指揮車やワンボックスタイプの遊撃車も道路幅確保のために脇道に駐車しているので追跡には間に合わない。
警察が警戒中のパトカーを向かわせようとしたところに戦車がやって来て、警察は追跡を断念した。
窓を開けていた尚樹は、爆音に混ざり遠くに“笛吹”と呼ばれる2ストロークディーゼルエンジンの音を聞いた。
陸士時代、朝から晩まで聞いたヒュオーンという10ZFエンジンの独特の音色はまさしく74式戦車や同じ車台の78式戦車回収車のものであり、味方の戦車の到着に心強いものを感じる。
「何の音だ?」
「ナナヨンが着いたのか!」
尚樹たちのパジェロの後方には戦車部隊がいた。
その戦車には赤い獅子のマークが砲塔前面に描かれ、車体には白い桜花章と3戦1中の文字が記されている。
『こちらスズラン、救出を援護する』
『了解!援護頼む!』
『スズラン各車、ヒトマルを先頭に単縦、前方警戒を厳にせよ』
『了』
先頭には1中隊長がおり、2中隊長、中隊長車に続き各中隊の4両となり、10両の戦車は時速35㎞、車間長20mを維持しながら縦陣で戦闘区域に進入する。
操縦手用ハッチは公道走行という事もあって開けられて顔に熱風が当たる、焦げ臭い嫌な風だ。
前を行く戦車が路面に付けた黒いゴム履帯の後をなぞる様に続き、速度を一定に保つ。
1中隊の2車の戦車操縦手はどうしてか、ふと新隊員教育時代の事を思い出した。
後期教育が始まって1か月、機甲科の隊員たちは今津駐屯地で教育を受けていた。
機甲科の隊員は
初級機甲MOSは大型特殊免許を取得せねばならず、その錬成を中心にやるのが新隊員後期教育なのだ。
戦車の装備品や運用について習う“装填手基礎”と実際に操縦する実技演習があり、教育区隊の半数ごとに分けて行われる。
1区隊が7月から8月の休暇前まで大型特殊免許取得、2区隊が装填手基礎を行い、8月から教育終了の9月にかけては入れ替わるといった具合だ。
彼は“第3戦車大隊新隊員後期教育隊”において1区隊に居た。
ちょうど7月後半の熱い中、
班長に怒られながら1・3班が午前操縦、2・4班が午後操縦などと偶数班、奇数班に分かれて戦車に乗る。
操縦訓練が終われば学科組が冷房の効いた隊舎内で座学を受けている中、普通免許や原付免許などを持っている学科免除組……
もっとも、大型特殊免許を持っている者以外は大津まで行き免許センターで学科試験を受けなければいけないうえ、内部での小テストでは「常に9割以上とれて当たり前だろ」とプレッシャーを掛けられて落とせばその週の外出禁止が待っている。
学免組には“機械いじりが好きな尚やん”と、“親に反抗して家を飛び出して自衛隊に来た陽平”が居たっけかと思う。
来る日も来る日も6人で戦車3両、被教育者21人分の履帯痕を掃き続け、“装填手総合”では3人で森の中に潜む敵兵役をやったりと印象深い。
その時はサルの群れに遭遇し陽平が危うく小銃を奪われそうになったり、立派な角を持った鹿数匹と間近で遭遇して「刺激しないように」と班長や“尚やん”が凍り付いていたりいろいろな出来事があった。
高島市は山であり、20~30匹くらいのサルの群れが戦車が来ようがお構いなしで我が物顔で闊歩していたりするし、鹿のほか熊も出没する。
なお、彼は丸一日かけて装軌車演習場整備をやっていた時に、
彼らは3班長が2中隊の陸曹だったことから2中隊に配属となってしまったが、ある年に二人同時に辞めてしまい、その後、クルマ屋をしてるという話を聞いた。
どうして今になって二人の顔が蘇ったのかわからないが、あの時は大変だったが楽しかったのかもしれない。
これってアニメやゲームでおなじみの死ぬ前の回想パートじゃなかろうな?などと思いながらも戦車は進んでゆく。
______
「へくしっ!」
「尚樹さん、大丈夫ですか?」
「誰かが噂してんじゃねえのか?」
「さあなぁ」
尚樹は3戦車もおそらく人事異動で幹部から陸曹に至るまでほとんど別の人間に入れ替わっているだろうと思っていた。
特に2015年頃より“部隊の機動化”という方針が打ち立てられ、従来までの幹部に加えて「各地域に即応できる隊員にする」という名目で陸曹も全国を転々とするようになったのだ。
さらに機甲科においては本州から74式戦車を全廃するという方針になって陸曹は九州及び北海道の部隊へと転属になるとともに、陸士は機動戦闘車……MCV教育の後に新編部隊へと組み込まれるようになったのだ。
「四国を担任する14旅団がその先駆けとして機動旅団へ改編、前期教育の班員が行った日本原駐屯地の第14戦車大隊も解隊される」と、尚樹退職の2014年ごろにはすでにそういう話が出ていたので、同期はもう残っていないんじゃないかと考えていたのだ。
その頃、OH-1乗員救出部隊はうっそうと繁る夏草をかき分け森の中を進む。
5個班に分かれて進み、先頭を行く班が前方、次の班が右、そして左、後方と上空警戒という風に各班ごとに警戒方向を分担する。
落下して飛散した大小さまざまな部品が木々の間に挟まり、突き刺さっている。
上空では未だ戦闘ヘリが射撃しており、誤射はともかくいつ墜ちてくるかわからない。
むせ返りそうな草の匂いに混じって撒き散らされたオイルの匂い、焦げたような匂い、硝煙の匂いがする。
「窪地あり、足元注意!」
「窪地あり、足元注意!」
前方を行く前方警戒員から情報を受け取った救出小隊長が列に向かって注意を喚起する。
それを列の前から後ろへと伝言ゲームのように
「……窪地あり、足元注意!」
どこかで脚色を入れると列の前方と後方で内容が変わってしまうおそれがあるので前の者から聞いた内容を後ろの者へと一言一句そのまま伝えるのだ。
晴樹は後ろの者へと伝えると、引き続き右方向を監視する。
もしも敵性体が何かを仕掛けてくるとすれば進行方向に対して2時の方角だ。
無線からはひたすら小型の敵性体が胴体下部より生産され、攻撃してきているとの情報が入り、戦闘ヘリの残弾も少なくなりつつあるようだ。
今でこそ小型種の狙いは戦闘ヘリだが、彼らが帰れば次に狙われるのは地上目標……すなわち普通科隊員であり装甲車両である。
上空援護があるうちに撃墜機に接近しなければ一瞬で多くの隊員を屠った光線と、OHを撃ち落とせる小型種がやって来る。
「前方
先頭がぴたりと止まり、木々の間の開けた場所を前方警戒員が駆け抜ける。
道路や開けた場所は敵の監視や火線があるもので、現代戦において一挙に渡ろうものなら発見されて機関銃やその他火砲によって一網打尽にされてしまう。
そのため回避をするのがベストだが、どうしても横断しないといけない場合においては前方警戒員が安全を確かめて援護を付けた状態で少数ずつ横断するのだ。
晴樹も低く伏せて藪の中を進むと開豁地の前で停止して、左脚を曲げて左腰を下ろす発進姿勢をとる。
先に渡った隊員が左右を確かめると、小さく親指を立てた。
__左右よし、前へ!
ハンドサインを見た彼は左手で地面を叩き、左脚で地面を蹴って前方に躍り出た。
晴樹ともう一人が早駆けで渡る間、渡り切った隊員2人が小銃を構えて左右を監視している。
幸運にも渡っている最中に小型ネウロイと遭遇することも、死の光線が飛んで来ることも無く、なんとか墜落したOH-1の下に辿り着いた。
横倒しになり外板はめちゃくちゃ、半分溶かされたテールローターは着地の際折れ飛んで無くなり酷い有様となっておりぱっと見で乗員が生きているかどうかも判断しづらい状況だ。
「助けにきました!生きてますか!」
声を掛けながら近寄ると、中から声が聞こえてきた。
コクピットを覗き込むとシートベルトで固定された2名の乗員がいた。
「おう、足が痛てえけど生きてるよ」
「こっちは何とか、あ、いてて」
「要救助者2名意識あり、自力脱出できますか」
「中からじゃ開けられねえ」
前席の浦川二尉が墜落の際に右大腿骨を強く打ち骨折、後席の中野三尉が比較的軽傷で、キャノピーをこじ開けて引きずり出すと自分で立って歩き始める。
衛生隊員がOD色の担架に動けない浦川二尉を乗せ、来た道を戻ろうとしたとき、それは起こった。
空で爆発が起こり、救助部隊の方に対戦車ヘリコプターが墜ちてきたのだ。
思わず伏せる晴樹たちの間近にその機体は突っ込み、ひときわ大きい爆発音がした。
「くっ……ううっ……」
土煙が晴れてからよろよろと立ち上がってヘリコプターが墜ちた方を見ると、AH-1S対戦車ヘリコプターは大きく壊れて炎上していた。
おそらく乗員は助からないだろうし、何より外れたロケット弾ポットが業火に温められておりすぐにでもコックオフ現象が発生しかねないのだ。
加熱によってハイドラロケット弾が暴発して飛んできたり、あるいは爆発してはたまらない。
墜落機から離れた所に集合するも人数が4人ほど足りないことに気付いた。
「みんな、無事か!」
「2班、今野一士と藤野士長が……ダメです」
「3班、木下士長が……死にました」
「4班、佐野班長が破片の下敷きに!」
コブラの操縦手とガンナーは光線で即死、墜落に巻き込まれ不幸にも3人が殉職し、1人は重体となった。
晴樹は「嘘だろ」といったが、現実は目の前に広がっていた。
鉄帽ごと墜落機に頭を持って行かれてだらんと力なく横たわる今野一士、藤野士長と木下士長も医官の診断を待つまでもなく即死だ。
部品に跳ね飛ばされて血まみれで呻く佐野三曹を担架に乗せて離脱準備をする衛生隊員たち。救出部隊は収容した生存者と重傷者を連れて一度離脱し、体勢を立て直すのだ。
「ははっ……何だよこれ……」
晴樹は突然の死に呆然としている一士の肩をバンバンと強く叩く。
「今は考えんな、離脱するぞ!」
晴樹の声に彼はフラフラと力なく歩き出す。
しかし、彼だけでなくこの場にいる生存者全てが強いストレスと7月の暑さによって多かれ少なかれ似たような感じだ。
『撃ち漏らした小型が救出部隊の方に行った!』
『アタッカー4、ハイドラが切れた、ガンもそろそろ弾切れだ』
『こちらアパッチ2、アタッカー3がやられた!』
コータムを背負った通信手に入ってくる無線は戦闘ヘリの弾が切れたという事と、生産された小型種の撃ち漏らしが近づいてきているという事を告げる。
開豁地を抜け、行きに通って踏み荒らしたところを戻る。
『クラよりレスキュー、3体抜けてきた!』
「レスキュー了解、回収援護たの……」
誘導弾の発射音や自動てき弾銃のドンドンという音、そして断続的な爆発音が響き渡る。
装輪装甲車の車長である倉田二曹が救出部隊に撃ち漏らしが行ったと送話し、あと200mくらいで
爆発音とともに木々がバサバサと大きく揺れて、古い蝶番のドアを開けた時のような金属の軋み音に近い声が聞こえたので横を見ると、8トントラックほどありそうな蜘蛛がいた。
蜘蛛というには鋭角で角張ったそれは黒曜石のような胴体であり、人間を見るなり赤い透き通ったパネルを輝かせる。
__あっ、光った。
対戦車ヘリを撃ち落とし、同僚を焼き払った死の光に救出小隊の誰もが覚悟した。
木々の向こうにいるはずの装輪装甲車は燃えていた。
「させるか!」
どこからともなく女の叫び声がし、道路の方から機関銃の射撃音が響き渡った。
次の瞬間、黒板を引っ掻いたかのような断末魔と共に光と消えた。
「なんだ?民間車両!」
「キクスイ、こちらレスキュー!民間車両が区域内に居るぞ!どういうことだ」
『たった今警察より連絡があった車両かも知れない、避難させろ。何人いる?』
「了解、乗員は3人いる。女の子がふたりに運転手の男がひとり、えっ?」
『レスキュー、どうした?』
救助小隊の小隊長は困惑した、なぜなら銀色のSUVの窓にはにゅっと機関銃のような物が見えていたからで、どう見ても物見遊山に来た人間とは思えなかったのだ。
「さきほど、民間車から射撃による援護を受けました!送れ」
『レスキュー、話がよく掴めない。民間車が何をしたのか再送願う』
「民間車に機関銃のようなものがあり、
謎の武装車両の出現に連隊本部はまず情報の錯綜を疑い、救出部隊の回収援護についていた装輪装甲車が至近射撃で1体倒したがもう1体の小型に狙われて炎上し、謎の武装車両が現れたのを高機動車と救急車の乗員が目撃しており、同時に警察からの情報提供によって封鎖線を突破した銀色のパジェロが居るという事が真実であると判断した。
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時は少し遡って、救出小隊が負傷者を抱えて脱出せんとしている時、尚樹たちは山道を登っていた。
上空では戦闘ヘリが機関砲やロケットで次々と湧いて出てくる小型種を掃討しているが弾数も少ないため軽微な被害ならばすぐに回復し、カサカサと散らばって行こうとしていた。
味方の救助部隊への誤射を避けるため、ヘリ部隊は救助部隊から少し離れた地点の小型および、母艦級ネウロイのレーザー発振部にのみ攻撃を集中させていたのだ。
無誘導ロケット弾では誤爆の危険があるため、近距離の火力支援は個人携行式対戦車誘導弾と装輪装甲車の銃座の自動てき弾銃、そして高機動車の自衛火器であるミニミ5.56㎜機関銃によって行われていた。
次から次へと生み出されて迫り来る小型種はそれなりに耐久性がありWAPCの40㎜てき弾銃数十発でようやく撃破、5.56㎜機関銃では力不足が目立って撃ったそばから回復されるという状況だった。
ついに全機70㎜ロケット弾が数発、機関砲も数十発となった。
救出部隊が離脱できれば重迫撃砲支援とともにAHは補給のために離脱、戦車部隊が展開して石川河川敷に展開した特科の155㎜りゅう弾砲、F-2戦闘機の到着まで時間を稼ぐのだ。
だが、悪い状況と言うものは重なるもので、AH-1Sが小型種の反撃で撃墜されたのだ。
機体上部のキャノピーとローターを焼き切られたAH-1Sは攻撃姿勢から機体を引き起こすことも出来ずに林へと落ちていった。
「ああっ、ヘリコプターが!」
ひかりはネウロイの光線による撃墜を目の当たりにして叫んだ。
ヘリコプターの撃墜と共に、数体が林や道路を通って市街地方向へと進み始める。
今、対戦車ヘリとわずかな普通科部隊で出来た防衛線は瓦解しようとしていた。
「尚樹、来るぞ!」
「おう!」
登り坂の上にはてき弾独特の軽い連射音と共にWAPCがおり銃塔に射手が見えた。
非武装の高機動車と救急車はその後ろに待機しており、何かを待っているように見える。
次の瞬間、WAPCが炎上してその向こう側から黒い影が現れた。
尚樹とひかりは間近に見た陸戦ネウロイに息を飲む。
その時、いち早く何をすべきかに気づいた後部座席にいた直枝が叫ぶ。
「窓を開けろ!」
トランクに積んていた九九式二号機関銃を毛布の中から取り出した。
尚樹が手元の操作部で左後部の窓を開けると、直枝は毛布を挟み窓枠に依託して左前方を狙う。
敵はパネルを発光させつつあり、助手席のひかりはシールドを張る準備をした。
「そのまま突っ込め!」
尚樹は直枝の判断を信じてアクセルを踏み込んだ。
回転数が上がり、パジェロが吼える。
路肩に止まる1トン半救急車と高機動車の脇を突き抜け、銀色の矢のごとく陸戦ネウロイに突入した。
視界いっぱいに見えるネウロイの赤いパネルには光が集まり、道路脇に今にも撃たんとしている。
「させるかぁ!」
直枝が引き金を絞ると魔法力が込められた3発の13㎜弾はネウロイの胴体の中央を捉えて光へと還す。
光り輝くその中を掠めるようにパジェロは抜けてゆく。
撃たれれば即死、ユニットもなしでの超至近距離射撃にひかりはもちろんの事、撃った直枝でさえも生きた心地がしなかった。
障害物に向かってアクセルを踏み込むという体験をした尚樹は、耳栓なしの機関銃発射に頭がキーンと痛くなってそれどころではない。
耳鳴りがすると共に音があまり聞こえなくなり、けっこう痛い。
余談であるが、小火器射撃検定の際に耳栓を忘れて水で濡らしたティッシュを丸めて耳に突っ込んだものがいたが、効果はあったようだ。
反対に、高音域で高い遮音性を持つと謳っていた某T社の軟質樹脂製の耳栓は付けているにもかかわらず衝撃波が頭に響いたので、以後使う事はなかった。
__射撃の際に持って行く耳栓は樹脂の傘型ではなく、コーン型のスポンジ製の物がおすすめである。
直枝の判断によってネウロイに決死の突入をした3人に、自衛官たちの視線が集まった。
パジェロが止まって乗員が降りてきたことを確認すると救出小隊の小隊長である三尉が意を決して問いかけた。
「えっと、貴方たちは?」
尚樹が何かを言うより先に直枝が一歩前に踏み出した。
「俺たちはアレと戦うために来たんだ」
2人の少女は市販品のヒョウジャージにウエストポーチ姿で、背の低いほうの手には重機関銃のような物とまるで紛争地域の民兵か、平和なところで高校生の部活だ。
グレーのツナギを着ている男はそれを引率している教師だと言っても納得できそうだ。
__この砲煙弾雨の中に、わざわざ突っ込んで来るなんて命知らずのバカだ。平和ボケどころじゃねえ。
そう思った者も多かった。
そこに一人の隊員がやって来て驚きの表情を浮かべた。
「兄貴?何でここに居るんや?その子らは?」
「晴樹か!……あの
隊員たちの中にざわめきが広がる。
なにせ、突入してきた民間人は隊員の家族であり、なおかつ正体不明の存在と戦えるというのだから。
「そんなアニメじゃないんだから、それに、学校は?」
「おいテメエ、馬鹿にすんなよ。こっちは弾もねえのにわざわざ出張って来たんだ」
晴樹はその場の代表とばかりに突っ込んだ。
普通に考えれば女子高生、下手すれば女子中学生が怪物と戦うなんてものはアニメやラノベの世界だけの話で、リアルでそんなことを言われても困惑するしかない。
そして、いつだかの晩に電話でやたら兄が詳しい話をしていたという事を思い出した。
__まあアレだ、とにかく回復する前にそこそこの火力をぶち込む、これだな
晴樹はようやく言葉の意味を理解した。
兄は怪物の自己回復も、撃破方法も知っていたのだ。
会話を思い出して考え込む晴樹に対し、ケンカを売ってんのか?といきり立つ直枝
「管野さん!」
「まあまあ、直ちゃん落ち着いて」
「オメーはどっちの味方なんだよ!」
それを宥めようとする二人の様子を見た3尉は、民間人の避難と負傷した人員の搬送をするために声を掛けた。
「と、とにかく君達、危ないからこの下の連隊本部まで来てくれないか」
「わかりました、どれだけ力になれるか分からないけれど協力します」
隊員たちは案内のために尚樹のパジェロにひとり乗り、高機動車3台と救急車に分乗して道の駅まで戻ることになった。
情報提供者から聞いていた魔法力を持った乙女、そして空自が遭遇したという“ウィッチの出現”に連隊本部は騒然とするのであった。
お待たせしました。
最近感想も増え、楽しく読ませてもらっています。
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