無人航空機を思わせる黒い三角形の
それが敵の爆弾だと気づいた頃には、道路脇の森から集中豪雨のような音を立てて土が降って来ていた。
ガードレールと斜面、密な木々によって路外機動のできない戦車などは上空から見ればよく目立つ格好の餌食である。
直掩の戦闘機、反撃の高角砲もなく悠々と我が物顔で飛べ、初弾こそ命中しなかったものの一度通過してなおゆっくりと照準が付けられる。
各戦車の車長は砲塔上部のM2機関銃の仰角を一杯まで取るが、45度より上には撃てないため弾幕を張れない。
飛行型中型ネウロイは体の一部を切り離す実体弾タイプで、どういうわけだか戦車を狙っていた。
このままでは小松基地のイーグルがたどり着くまでに戦車が全滅する。
そこで要撃機として八尾駐屯地にて補給を受けているAH-64DとOH-1に白羽の矢が立ったのだ。
どちらも自衛用の空対空誘導弾を装備しており、アパッチはスティンガ、OH-1は国産の91式対空誘導弾を発射できるためだ。
アパッチは空対空モードがあり対空目標識別能力に加え30㎜機関砲などでの射撃も可能な戦闘ヘリで、OH-1は増槽を外せば連装発射機を最大4つまで搭載でき、8発まで発射できる。また、91式対空誘導弾はパッシブ赤外線画像方式以外にCCDカメラを用いた可視光画像誘導機能がついていて命中率も極めて高い。
こうした条件から、本業ではないものの戦闘ヘリによるスクランブル発進が行われることとなった。
____
「すみません、お手洗いに行きたいんですけど」
「俺も行けるときに行っときたいから、よろしく頼むよ」
ひかりと直枝がトイレに行きたいと申し出ると、栗色の髪に、外ハネのショートカットがよく似合っている本部管理中隊の若い女性陸士長が、部屋にいる中年の男性隊員に許可を取る。
「わかりました、守山班長、この子たちをお手洗いに連れて行っていいですか?」
「おう、行ってこい。行ってこい」
最前線で保護した住民としか聞いておらず、人間との戦闘というわけでもないので守山二曹は女性隊員に行くように促した。
道の駅の館内にあるトイレまで女性隊員引率のもと、世間話をしながら向かう。
小柄で、赤十字の腕章を付けた彼女は直枝たちの半歩前を行き、振り返りながら話しかけた。
「私は衛生小隊の
「か、雁淵ひかりです!15歳です!」
「管野直枝だ、俺も15だよ」
「へえ、二人とも15歳なんだ、高校生?」
「えーっと、佐世保の航空系の学校に通っています」
「俺は中学卒業して働いてるけどな、アンタはどうなんだよ」
「もう働いてるんや!すごい。えっと、私は高校卒業して去年自衛隊に入ったんやで」
最初は少女たちの不安感をほぐそうという気遣いだったが、後輩の女の子に似た雰囲気を持つひかりと、気が強い同期に似た直枝にいつの間にか舌が回る。
話しながら直枝は年齢と階級の差に不思議なものを感じていた。
ちょうど19歳と言えばウィッチで言えば“あがり”が近くベテランで尉官どころか佐官クラスの者も多い、ラル隊長も19歳で少佐である。
同じ年齢でも一人は兵長、もう一人は少尉という事は軍隊ではよくある話だ、ウィッチに関しては年齢が20歳に近づくにつれてだいたい似通ってくる。
それは戦時下という事もあって昇進は早いが空に居られる時間も短く、平和な日本の女性兵士みたいに高等女学校卒業などの高等教育まで経たのち入隊では遅い。
ここでいう中学校や高等女学校は扶桑皇国の“中等学校令”に基づくものであり、現代日本の教育制度とは異なるが、直枝たちはあえて勘違いをさせたままにしておいた。
なにせ、航空予備学校やら兵学校出身というのを明かしたところで事情を知らない彼女にとっては意味の分からない話にすぎないのだから。
トイレの入り口の前まで案内されたひかりと直枝はおしゃべりな武藤士長に心の中で謝ると一気に駆け出す。
「えっ、待って!」
武藤士長も陸曹教育隊に行くために体力錬成を行っていたから、一気に離されることはない、しかし、ひかりはもちろんのこと直枝も毎朝の日課としてランニングしていたからそう易々とは捕まらない。
“体力お化け”のあだ名もあったひかりと、“負けじ魂”の直枝はペテルブルグの502基地で走っていたように並んでトップスピードを競う。
ジャージで身軽な二人の少し後ろに鉄帽をがくがく揺らし、へとへとになりながら走ってくる彼女が見え、直枝たちはどうパジェロに着くか考える。
いくら距離が空いているからと言ってもこのままではパジェロに乗り込む前に捕まってしまう。
それ以前に尚樹がいなければ自動車は動かせない。
「尚樹、早く来てくれよ!」
「管野さん!上!」
「うぉおおお!」
ひかりが指さしたところを見上げると空からネウロイの対地攻撃弾が降って来た。
当たれば、死。直枝は無我夢中で両手に力を込めた。
______
ひかりと直枝がお手洗いへと行った後、尚樹は見張りの本管中隊の隊員と話していた。
「あの子らは武内さんの姉妹ですか?」
「いえ、知り合いの娘さんで今は僕が面倒を見ています」
「いやぁ、うちにも高1と中2の娘がいますが、あの年ごろの娘さんって大変でしょう」
尚樹は孫娘の話をする社長や、先輩の整備士を思い出しつつ対応する。
「そうですか、よくできた子たちで非常に助かっております」
「へぇー、それは羨ましい」
「甘えられる実の父親と、預かってくれてるおじさんじゃ一緒にはいきませんよ、ははは」
尚樹は万が一にも近くに着弾した時のために窓ガラスから離れつつ会話を続ける。
守山二曹も出入り口側に移動して椅子に腰かけた。
「今日はどうしてこちらへ?」
「墓参りに行こうとしてましてね、僕が月曜定休なんで……」
「そうですか、なんと間の悪い」
尚樹と守山二曹が世間話を始めて数分たったころ、空の様子が変わった。
旋回しながら地上を攻撃していたネウロイが急に指揮所の方へと向かって飛来してきたのだ。
おそらく、車両や人員が多い場所があることに気づいたのだろう。
そしてネウロイの最初の爆撃は施設の近くに着弾した。
地響きと衝撃ですべての窓ガラスが割れて飛び、守山二曹と尚樹は最初の爆音とともに机の下へと潜り込んだ。
「何があった!」
「爆撃です、すぐ近くに落ちました」
「民間人を安全な場所へ……避難場所はどこだ」
「屋内の方が遮蔽物もあって安全なのでは?」
「それもそうか、あれ?武内さんは何処に?」
道の駅周辺に航空攻撃に対する逃げ場はない、そのため屋外に居るよりはまだコンクリート製施設内部の方が安全なのではないかと守山二曹を初めとした自衛官は考えた。
何処が安全かなんてことは誰にもわからなかったし、ネウロイの爆撃に混乱していたのだ。
だが、尚樹にとっては好都合で爆撃の混乱に乗じて施設を飛び出すことに成功したのである。
正面玄関近くのトイレからすこし離れた所に落下したようで、敷き詰められている煉瓦は煤けて真っ黒に、爆風を受けた案内看板が曲がっており、本館と車いす用の駐車スペースまで繋がった通路の屋根は爆圧を受けて大きくひしゃげ、吹き飛んでいた。
「負傷者はいるか!」
「軽傷が何人かは!」
「さっきこの辺りにWACがいただろ!」
数人の自衛官がおり、爆発のあった地点と空を見ていたため低い姿勢で通路を横切り、停車している3トン半トラックの影に飛び込む。
幸いにも車両周辺に居たであろう隊員たちはどこかに行っていない。
武器監視の陸士すら残せないほどに光線で消耗したのか、あるいはろくな対空火器が無いから近くの森に退避しているのだろうか。
空を見上げると三角形のネウロイは胴体内で爆弾を生成するためか、それとも狙いを付けているのかひらりひらりと上空を旋回していた。
誘導されて止めた駐車場に辿り着くと、直枝とひかりがすでに待っていた。
「尚樹、ずいぶんと遅ぇじゃねえか」
「管野さん!」
「悪い、見つからないようにしてたからな」
そこまで言ったとき、車の影からおずおずといった感じで女性自衛官が現れた。
彼女、武藤士長は少し躊躇しつつも2人の保護者と思われる尚樹に声を掛ける。
「あのっ……」
「あなたは付き添いの……」
尚樹はこの数分で何があったのかは分からず、「トイレに行きたい」と言った二人の付き添いとしての彼女しか知らないので確認程度にとどめた。
女性自衛官とひかり達のすぐ近くにネウロイの対地攻撃弾が降って来て、ひかりと直枝はとっさにシールドを張ったのだ。
「私はお二人に助けられたので、貴方たちが何しようとしているのかは聞きません」
「そうですか、でもどうして?」
「私は何もすることができなかったんです、誰かを守ることも」
雨避けの屋根の上で炸裂した対地攻撃弾の爆風と破片で死ぬことも負傷することもなかったが、それは二人の少女が危険を顧みず庇ってくれたからだ。
その事実を認識した彼女はショックを受けた。
ひかりと直枝は守られる無力な少女ではなく、むしろ自分が何もできない存在なのではないかと。
「気にすんな、俺たちはウィッチだから出来ただけだって言ってんだろ」
「そうですよ、魔法が使えなくてもできることはいっぱいあります!」
「私にできること……」
「おう、俺たちはネウロイと戦える。でも武器がねえ」
「お願いします、私の銃、知りませんか?」
魔法と呼ばれる能力もなく、空を飛ぶ敵に有効な攻撃手段もない。
そんな自分ができる事とは、戦える彼女たちの邪魔をしないことだと気づいたのだ。
ひかりと直枝は武藤士長に機関銃を置いた業務天幕まで案内してもらった。
誰か居れば彼女に人払いをしてもらうつもりだったが業務天幕の周りに居たはずの隊員はおらず、緑色の武器毛布の上に転がされていた九九式13㎜機関銃を回収した。
ひかりたちはシールドを張ったためケガ一つないが、威力も破片手榴弾とは比にならないほど強力で、迫撃砲弾を撃ちこまれたようなものであり半径25mほどの人間は即死するほどの爆発だ。
そんな爆発があってなお、その場から動かないのは爆風から身を隠すタコツボ壕でもなければ無理というもので、武器監視をしていた隊員も退避していたためである。
爆撃から武器の回収までの顛末をひかり、直枝そして武藤士長から聞いた尚樹は陸曹候補生である彼女の肩の桜花章に彼女の覚悟を受け取った。
自衛隊において懲戒処分は重い順に「メンコテゲンカイ」とある。
免職・降格・停職・減給・戒告であり、飲酒運転や重犯罪を犯せば免職でありわいせつ事案やパワハラなどで停職となる。
停職と言っても自室謹慎だけで済むと思えば大間違いであって自衛官や警察官にとっての停職は昇進おろか昇給も絶たれたと同義であり、また、部隊に悪評が広まり大変居心地が悪くなるため依願退職をするものが殆どだ。
引率していた民間人を見失い、あまつさえ保管武器を持ち出されたとなれば厳重注意どころか戒告、特に武器持ち出しの手引きをしたとあれば減給、停職といった処分もありうる。
どちらにせよ陸曹候補生の資格は取り消しになるだろうし、ほとぼりが冷めるまでの数年間は陸曹候補生のチャンスもやって来ない。
それを彼女が知らないはずはない、陸曹候補生の一選抜に選ばれなかった尚樹でさえ先任や班長達から口酸っぱく言い聞かされてきていたし、陸教前に服務事故や重過失を起こして失格となりそのまま依願退職などは失敗例としてよく聞いていた。
尚樹はパジェロのドアを開け、2人が機関銃を積み込むとそのまま車に乗り込んだ。
「あなたは爆撃があって、退避した。俺とひかりちゃん、直ちゃんはその間に脱走したんだ。いいね」
「はい、私は何も聞いていないし、見てません!……だから、この国をお願いします」
「わかりました!」
「ああ、任された!」
尚樹は車を出し、高機動車の陰に立っている彼女がルームミラーの中で小さくなっていく。
自衛官たちが尚樹の脱走に気づいた頃にはもう道の駅の出口で、追いかけようにも指示が無く、航空ネウロイが飛び回る下で派手に動きを見せるのは危険だった。
ネウロイによる空襲が始まりいよいよ警察官にも退避指示が出たのかまったく人気のなくなった街を飛ばす。
信号も消え、他の走行車両も居ないことからメーターの針は時速90キロを超えていた。
助手席の直枝は思ったより速度が出ていることに気づいた。
戦時下で生産されている自動車の最高速度は60キロから80キロくらいまでが多く、扶桑、スオムス、オラーシャは街中でも土がむき出しの道が多く、舗装された道など両手で数えるほどで、郊外に出ればさらに凹凸激しいあぜ道ばかりだ。
軍用車・民生向け自動車問わずサスペンションもトーションバーやリーフスプリング式で乗り心地は悪いし、前後のブレーキも未熟なドラムブレーキという事もあって制動力も弱いため、出せない。
なかにはカールスラント製のビートルという例外がいたものの、ネウロイの侵攻によって生産が止まり、多くが灰燼に帰した。
直枝の知っている国産車やリベリオン製の軍用車ではこんなに速度は出ない。
「こっちの車ってこんなにスピード出るんだな」
「普通は下道でこんなに出せないけどね」
「そうなんですかぁ?」
大阪上空にネウロイが現れた時に家まで飛ばし、ひかりが助手席に乗っていたことを思い出す。
「ああ、ひかりちゃんは前に乗ったことあったっけ」
「たしか、ネウロイが来た時だ!」
「尚樹!前!」
「わかってる!」
家の前に出る生活道路との交差点に差し掛かり、尚樹はアクセルを抜きブレーキング、そして道路幅をいっぱいに使い、縁石にぶつけるようなつもりでアウト・イン・アウト。
メーターの針は60㎞/h以上をキープしたままで、ノーマルタイヤを滑らせながら車はぐるんと左折し次のコーナーまでの直線で加速する。
こうして交通法規を無視し、車の性能限界に挑戦するかのような運転によって30分もしないうちに家に帰り着いた。
「うう、目が回っちゃいそうでした」
「ひでえ運転だ……気ぼちわりい……」
車のドアを開け、フラフラと家の中に入っていく二人。
運転していた尚樹はともかく、助手席と後部座席にいた直枝とひかりは高速旋回による横Gや流れる景色に車酔いをしたため直枝の顔は真っ青で、ひかりの顔色もあまり良くない。
自らの意思で行う空戦機動と違ってただ乗っているだけなので、気分が悪くなったのだ。
「ふたりともごめんよ、さて、ユニットの発進準備だ」
「そうだな……」
「頑張りましょう……」
トイレから出てきた直枝と、温くなったお茶を飲んだひかりは居間に置いていたユニットを持って家の前の道に出る。
「まずは俺が空に上がる、ひかりはその後に続け」
「わかりました、尚樹さん!」
「よし、直ちゃんからやな」
脚立に立て掛けられ、“再始動用蓄電池の端子”にバッテリーパックが繋がれる。
これでスタータモータが回転し、魔法力の流入によってユニットは始動するのだ。
直枝は久しぶりに強い風を感じる、さっきまでの気分の悪さが幾分か和らいでいることに気づく。
「いつもよりいい感じじゃねえか」
魔法力を流し込むといつも以上にエンジンが回り、生成された呪符が力強くエーテルをかき回している。
ハイオクガソリンの燃料添加剤によって筒内に溜まっていたカーボンが洗い落とされることでよく燃えるのだ。
「戦時の航空ガソリンとはオクタン価も質も違うからな」
「いいじゃねえか、それじゃあ行くぜ!」
尚樹の合図で、直枝は坂をスキージャンプの選手のような前傾姿勢で下ってゆき、大空に舞い上がる。
続いて、チドリが簡易の発進台に立て掛けられ、脚立に上がったひかりは靴を抜いてユニットに足を通す。
「エンジン回せ!」
「エンジン回します!」
チドリのエンジンに火が点り、呪符が展開され、回転が一定を保つ。
「ひかりちゃん、気を付けてね」
「はい、尚樹さんこそ無茶しないでください!」
「遅ぇぞ!いつまで掛かってんだ!」
声の先を見上げるとやけに活き活きとした直枝がいた。先ほどまで車酔いで真っ青な顔をしていたとは思えないほどに。
ひかりが発進準備を終えるまでに、感覚を確かめるようにぐるりと一周して2人の近くでホバリングして今か今かと待っていたのだ。
「今行きます!」
「尚樹、ひかりの事は俺に任せろ!」
「ああ、頼んだぞ」
脚立の脇に置いた機関銃を手に取ったひかりは前方に障害物が無いことを確かめると発進を宣言する。
「雁淵ひかり、発進します!」
脚立から離れ、チドリも滑るように坂を下って行き、飛び上がる。
ウィッチが空に上がってしまえば、整備士たる尚樹に出来ることはもう何もない。
あとは二人が無事に帰ってくることを祈るだけだ。
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八尾駐屯地では補給を終えて
たった4機のヘリコプターでどれほど時間が稼げるのか分からないが、少なくとも今のように一方的に爆撃されるよりはマシだ。
10分間の飛行を経て到着した戦闘ヘリ隊は指揮所の直掩に回る。
「目標確認」
「スティンガ発射!」
「発射!」
2機のアパッチのうち1機が飛び回る黒い目標にロックを合わせ、後席の兵装担当がスティンガーを発射する。
スタブウィング外側の上下2連ランチャーから撃ち出され、機体前方10mでロケットモーターに火が付いたスティンガは白い煙を曳きながらネウロイに食らいつく。
逃げようと急旋回をするネウロイ、しかしマッハ1.5ほどの飛翔速度を持つ誘導弾からは逃れられずに直撃、胴の半分を失ったネウロイはそのまま光と消えていった。
「目標撃破!」
だが、中型ネウロイ撃墜に喜ぶ暇もなく通路から増援がやって来たのだ。
比較的小さい三角形のものが4機、エイのような形状の大型種が1機の計5機編成で、先ほどのネウロイと違って全機光線を持っているタイプだった。
先ほどのネウロイは威力偵察も兼ねていて、爆撃タイプが空戦によって落とされたことから制空戦闘に適した種を投入してきたのだろうか。
すぐさまアパッチのスティンガで新たな目標を捉え、発射した。
2発の対空誘導弾が赤外線画像誘導でネウロイ目掛けて飛翔していき、命中。
続いてOH-1が対空誘導弾を発射した時、大型ネウロイの赤いパネルが発光した。
妨害に強い赤外線画像方式であったが、画像を塗りつぶすような強い熱源に目標を見失い、1発が攪乱されて外れ、続いて発射した誘導弾が照射終了後のインターバルに命中した。
空自機を屠った連続光線と、護衛であろう小型ネウロイの短い連発光線がヘリを撃ち落とさんと放たれる。
宙返りもできる全間接ローターのアパッチと無間接型ハブ・ローターのOH-1は高い機動性を誇り、駐屯地創立記念行事などでの展示でしかしなかったような動きをもって光線を回避し、対空誘導弾を発射する。
小型の空戦ネウロイは急上昇と急旋回で逃げるが、あっという間にスティンガが最短距離を追ってきて爆散、炎上しながら落ちてゆき光と消えていく。
普段相手にしている1940年代のレシプロ戦闘機に比べ小回りが利いて速度もそれなりにでる現代のヘリコプターと音速を超える速度に恐ろしいほどの正確さで追尾してくるロケット兵器の組み合わせから逃れるのは至難の業であった。
小型の三角形のネウロイとドッグファイトにもつれ込む陸自ヘリ、対空誘導弾の攻撃で次々と撃破することに成功した。
しかし、誘導弾の残りが少ないうえ光線で誘導装置が妨害を受けることから大型目標に対してはアパッチの30㎜チェーンガンによる対空射撃が行われた。
が、エイのような形状の大型ネウロイには効果が薄く、自己回復能力が高いことから誘導弾3発の直撃に耐えて30㎜機関銃で穴だらけにしても飛び続けた。
普通の航空機であれば揚力を失うような大穴が空いても飛び続け、それどころか自己回復能力によって埋まっていく破孔を目にしたアパッチのガンナーが思わず呟く。
「おいおい……嘘だろ」
「大型、発光中!」
操縦手はとっさにレバーをいっぱいに倒し機体を傾けた。
すぐ真横を赤い光線が抜けていき、ガンナーは無心で機関砲を撃っていた。
発光部を抉られ光線が撃てなくなった僅かな隙に弾の無くなった4機は離脱する。
大地を舐めるように飛び、起伏を遮蔽物にするのも忘れない。
「お空さん、あとは任せたぜ!」
航空自衛隊からは小松のF-15Jが8機、援護のために新田原から増槽をつけたF-15が8機やって来る。
大阪上空戦で多大なる損害を受けて、殉職した隊員たちの部隊葬がようやく終わったばかりの303飛行隊に再び、悪夢のような敵と戦う機会がやって来たのだ。
あの時、空に居たジーコもスクランブルに上がって大阪を目指す。
データリンクに表示される敵を見ていると、どうしてかあの時の少女と出会えるような気がしていた。
あの後、飛行隊のオフィスは歯抜けとなったように空席が出来て、基地中に重い空気が流れ、整備員やパイロットたちの口数も減って飲み会なども軒並み中止となった。
いよいよ葬儀が終わって主の居なくなったデスクから“私物品”が消えると、逃避するようにジーコは空飛ぶ少女が名乗った“第343航空隊”について調べた。
すると、管野直枝の名前はなく代わりに菅野直という男の名前が現れた。
菅野直は1945年8月1日、北九州目掛け飛ぶ爆撃機の邀撃において行方不明となっている。
それがどうしてか突如現れた彼女を彷彿とさせてジーコの興味を引いたためか休憩室でも『最後の撃墜王―紫電改戦闘機隊長菅野直の生涯』という書籍を何かに憑りつかれたかのように、時間を見つけては繰り返し読んでいた。
そんな彼の様子を見た周囲はカラ元気のようにからかう者、気遣う者など様々だった。
もっとも直枝と共に戦ったイーグルドライバーたちはジーコほどではないが皆、一度は彼女について調べようとし、「戦闘の恐怖から見えた幻なんかではなく、彼女は確かにそこに居たのだ」と口をそろえていた。
平時であれば幻覚が見えている、あるいは僚機の撃墜による心的外傷とされウィングマークを失うおそれもある発言だったが、情報提供者の証言や無線の記録などから空飛ぶ少女の実在が明らかになったため正常だという事が証明された。
__今度こそ、俺たちの手でネウロイを撃墜してやろう。
自機のレーダーが捉えたため地上からのデータリンク表示が消えてHUDにターゲットデジグネータのボックスが表示された。
はるか遠くの空に米粒ほどの黒い点が見え、数秒で大きくなって眼下を抜けていく。
「マグヌス12、ターゲットオン ビジュアル!」
あの時のネウロイに似た奴を目視で確認したとき、