・部隊改編に伴って大演習やるよ!
・ちょっと機材壊し過ぎちゃうか?
・食う寝るところに住むところ、補給は大事!
1945年9月1日
統合魔導師団所属のウィッチたちに連合軍ペテルブルグ軍集団司令部よりある命令が下った。
“大規模攻勢作戦に備え、各隊は実働演習を実施せよ”
アルチューフィン中佐を通して命令を受けた各部隊の指揮官は「この忙しいときに」と思ったのだが、命令であるし何より実戦で連携を取るためには普段の訓練がモノを言うのだから無駄というわけではない。
師団長であるアルチューフィン中佐、副師団長となったラル少佐をはじめとした各部隊の将校や指揮官、スラムウィッチーズの本部付将校、その他部隊の参謀級将校が一堂に会し訓練計画を立てる。
作戦司令部における図上演習ではなく、部隊を動かす実働演習という事もあって詰めるべきポイントも多く命令受領から1週間のあいだ指揮官たちは部屋に缶詰となった。
そこで、ある日の会議の内容を見てみよう。
擬装が施された三角屋根が特徴の司令部の小屋(ログハウス)に15人を超える将校が会し長机を囲む。
「各部隊、報告を」
アルチューフィン中佐に現状報告をした後に議題に入る。
「502部隊、装備の稼働率75%、即応態勢にあります」
「121連隊第1飛行隊、装備稼働率82%、即応態勢にあります」
「第2飛行隊、稼働率87%、同じく即応態勢にあります」
このように報告が入るのだが、ここ数日は戦闘が無かったうえ事故損耗が少なかったため比較的良い数字を出している。
装備の稼働率であるが、直ちに出動できるユニットや武装が保有装備に対してどれくらいあるかであり、故障物品の割合が増えると一気に下がることになる。
10機のユニットがあったとして1機のユニットが故障すれば装備稼働率は90%となり、
仮に1人1機予備機があり20機配備されているうち1機故障した場合、稼働率は95%だ。
だが、実戦となると予備機で出てなお損耗し2機も3機も故障または撃墜などで戦闘損耗を出し、20機中7機破損うち部隊修理可能2などとなってしまう。
そうなると20機中5機が修復不能の損耗となり75%となってしまう。
実際はそれに“中破か小破か”、“
ブレイクウィッチーズが揃っている状態で、なおかつ激戦があった場合稼働率が45%を切ってくる。
こうした数字上の部隊運営に対し、502が優れているのは配備数に入らない“員数外”の装備などによって数字が減らないところである。
例えば4機中3機が大破(
さらに、用途廃止機部品による交換という名目でさらに1機復活して4機中用廃1機損傷1となるのだ。
実体は、空襲によって行方不明になったユニットが輸送部隊の“手違い”で502に届いたためそのまま作戦機として運用、元あった新品の予備機を1機作戦機に回すのだ。
例で言えば配備数は“4機+予備機”だが実際は“謎の2機”と“すでに鉄屑になった
つまり、全損級は裏工作で機体交換、少しの損傷ならば過去にブレイクウィッチーズが壊した機体の残骸からヨンコイチ、ナナコイチなどでしぶとく復活するのだ。
部隊状況と稼働率の報告が終わると、さっそく本題に入る。
「各部隊の演習における割り当てについてだが、各部隊のLPを元に組み立てようと思うがどうか」
アルチューフィン中佐は、実施要領の大綱を示し、大きな枠組みを作ったうえで各部隊長に作成させた教育計画(LP)を元に配置を行おうと考えたのだ。
「異議なし」
「はい、ウィッチの皆さんはそれでいいかもしれませんが、業務隊や後方段列の部隊はどうすればいいのか?」
317連隊から抽出された
ウィッチ出身の指揮官によるウィッチが主体の作戦では往々にして後方部隊の扱いがおざなりになることが多いため、こうした意見を出せる男の軍人が参謀本部などでは重用されるのだ。
「そう焦るな、せっかちな男はモテないぞ。ソコロフ少佐」
「ラル少佐!」
アルチューフィン中佐は手元の書類に目線を落とし、ズレたメガネを人差し指でクイと持ち上げて言う。
「各部隊付業務隊は直接支援を担当、これまで通り各担任部隊の支援を行ってくれ。師団業務隊も部隊運営のためのGS業務を実施」
「はっ」
「後方段列は師団司令部の統制下に入り、各部隊への直接支援を行う。これでよいか?」
「わかりました、そのように伝えます」
「諸君らには上級司令部との連絡や武器弾薬の調達など我々にとって必要不可欠な任務があるのだ、心してほしい」
業務隊は
いわば生活に直結する部隊で、軍隊が“究極の自己完結型組織”であるとされるのは業務隊や会計隊が居るからなのである。
自衛隊の
つまり502JFWの全般支援は502の業務隊がやり、オラーシャ陸軍の121連隊付の業務隊が502の運営や生活支援に関わってくることはない。
ただ、多国籍軍集団において相互不干渉だけでは部隊運営が成り立たないため各部隊から人員を抽出して“師団業務隊”を編成したのである。
連合軍司令部からの指示を受けて行動する際に各部隊間の調整や福利厚生、補給などを行うのが主たる任務だ。
今度の演習においては演習参加部隊の後方に輸送隊と師団司令部付の補給本部を置き、補給本部から統制のとれた輸送と補給を行う事となっている。
「次に参加部隊だが、統合魔導師団ほか、リベリオン軍、ブリタニア軍となる」
「中佐、彼女たちの役回りは?」
「我々の演習によって誘引されてきたネウロイの一掃だ」
演習で手薄になったエリアに派遣されてきたブリタニア軍、リベリオン軍が配備されることになっている。
彼らには対ネウロイ戦の花形である航空・陸戦ウィッチのほか通常戦力、戦略爆撃機部隊などがおり、大規模侵攻に備えている。
「演習のつもりが
司令部付のある将校が発言した。
周囲を警戒していてもいきなり現れるのがネウロイなのだ、たとえ派遣軍が欧州軍有数の戦力であったとしても万全不抜の警戒網などありはしない。
「演習弾は携行せず、実弾のみ携行する」
「では発射や着弾状況の
通常の演習であれば、ペイント弾などの演習弾や発射できない
赤い発煙弾周囲何メートルは敵の砲撃効果内であるとか、黄色は味方の戦闘攻撃ウィッチによる対地爆弾投下であるとかの想定がなされ、演習の統裁部がそれを見て判断するのだ。
各種火工品を持たず、実弾だけを携行するという事は演習部隊の発射状況がわからず、また、演習弾薬だと思い誤って装填して発射するなど誤射事故の原因となってリスキーだ。
「ベルリッツ少佐、今度の演習においてウィッチによる対抗部隊との交戦は行わない」
「ラル少佐、それでは対空戦闘の想定は……」
模擬空戦もしないのか?と問いかける将校にラルは笑みを浮かべる。
「標的機を使う、もっとも、貴方たちの言う通り“本物”が出てきたらそいつで実弾演習だ」
ユングフラウで曳航されたグライダー標的や吹き流し標的に突入しての一撃離脱などやってもつまらないというのがウィッチたちの主流で、ウィッチ同士での模擬空戦をやってこそ練度が上がると思っているウィッチが多い。
そんな彼女たちの中からわざわざ標的機を使うという意見が出たのに発言者の将校は驚いた。
「標的の修理代を考える必要が無くなるな、いいことじゃないか」
ラルの笑みに冗談で言っているのか、本気で言っているのかわからなくなった彼はそれ以上追及するのをやめた。
ラルとしては今のウィッチ連中なら実弾演習だろうが模擬空戦だろうがやってのけるだろうし、なによりどちらにしてもユニットが壊れるのだ。
標的射撃においても「実戦的な射撃法ってんのを見せてやるぜ」と急降下射撃をした管野に影響されたクルピンスキーがユニットを曳航標的の曳航ワイヤーに接触させて切断、続いて突入したニパと衝突した。
当然のように曳航標的は木っ端微塵になりニパは墜落、ユニット1機と曳航標的1機が失われてサーシャの顔色が悪くなった。
模擬戦ではペイント弾を受けたニパのユニットが壊れて
繰り返すが……なにかとユニットが壊れるのだ。
他の飛行隊の指揮官級のウィッチたちも自分の部隊の問題児を思い出して複雑な表情だ。
121連隊のブダノワ、317連隊のトリガーハッピーと何処の連隊、飛行隊にも一人は必ずいるものであり、とても目立つ。
129連隊の指揮官はというと「うちはいないな」と他人事のように考えていた。
だが、歓迎会の晩以降ウィッチの中では129連隊には「酒癖がとても悪いウィッチ」がいると有名になったことを彼女は知らない。
その後、何をするのかの大まかな実施要領と、演習準備の分担について話し合って会議はお開きとなった。
「実施の細部についてはまた後日に通達する、本日はこれで解散」
1945年9月17日
ゴーラス・ス・ニェーバ(天からの声)と名付けられた演習が開始された。
空には航空ウィッチが編隊を組んで上がり、地上には陸戦ウィッチを満載したハーフトラックと戦車部隊が土煙を上げて走る。
その遥か後方に設けられた補給本部には、武器や弾薬の入った木箱が集積されストライカーや弾薬を積んだトラックのほか
補給部隊の経路上には憲兵隊が交通整理や周辺警戒のために展開しており、道路脇には通信隊が敷設した有線電話の電話線が長く、長く延びる。
その先に陣取った無線通信隊の車載アンテナが上空を飛ぶウィッチの無線を捉え、師団本部に中継する。
前進拠点の航空優勢のために投入されたのは121連隊とエース揃いの502JFWであり、幾度も最前線で突破口を作った実績より割り当てられたのだ。
「これよりポイント・ゴーリキーの確保を行う、全機続け」
「了解!」
先頭を行くアーニャに続いて121連隊のウィッチが敵の警戒網に飛び込んでゆく。
早速、黒く塗装された数種類の戦闘機に遭遇し、交戦となった。
ネウロイを模して黒く塗られ、胴に赤い識別帯を施された戦闘機はラジオコントロールで操作され複雑な機動はできないがウィッチの訓練には十分だ。
これらの無人標的機は高速化し曳航型の標的では演じきれなくなっていったネウロイをよく演じており、単価も旧式化した航空機の転用という事もあってそこそこに抑えられているのだ。
ただし、標的機を使った模擬空戦の場合標的に命中させてはいけない。
標的機に喰らい付いた第一飛行隊のウィッチは早速射撃を始める、狙う所は標的機後方に吊るされた紅白の吹き流しだ。
「一撃で落とすなよ……」
「アーニャ隊長!至近弾です!」
あるウィッチの放った短連射が標的機の翼端をかすめていったようで外板にめくれが見えた。
Bf109やJu-88を改造した標的機を撃墜してしまえば、その時は部隊で弁償しなくてはならないためアーニャの顔から血の気が引いた。
新人の三人がJu-88爆撃機改造型の“中型ネウロイ”に飛び込んでゆく。
実戦慣れしてしまった彼女たちは一人を囮に、二人がかりで撃ち下ろすコースを取る、引き金を引けば間違いなく標的の中心を捉えて撃ち落としてしまうだろう。
「ひぃいい!射撃止め!」
「これからだったのに!」
「あれを落としたらしばらく給料なしだぞ!」
サーシャはというと、隊長職に就いた後輩の悲鳴に改めて502の面々を見る。
「どうしたのサーシャちゃん」
「クルピンスキーさん、ニパさん、標的機に近づき過ぎないでくださいね」
ニパかクルピンスキーが接触して標的機を撃墜してしまう光景が頭に浮かんだ。
「はい!」
「ニパ君、
「そうだね……」
「孝美ちゃんはこういうの得意?」
「ええ、扶桑にいた頃から
苦笑いするニパに、へらへらしているクルピンスキー、そしてニコニコとS-18を撫でている孝美の様子にサーシャは大丈夫かなと警戒する。
「1時方向、ネウロイ増援接近中、機影は4機」
下原の声に1時方向を見ると、4機の機影が近づいてきた。
1機はグレー系のカールスラント軍迷彩が施された誘導母機で状況外、黒っぽい3機が無線誘導の標的機であろうか。
よくよく見ると無線操縦の戦闘機と曳航標的の混成だったようで、先頭を飛ぶBf109タイプの翼下のポットと吹き流しのような筒状の曳航標的がワイヤーで繋がっているのが見えた
「隊長も考えたねえ」
扶桑軍などでよく用いられる帆布で出来た吹き流し標的なので、グライダーと違い
孝美と下原は久しぶりに“鯉のぼり”を見て懐かしく感じた。
保安塗装が施されたユニットを駆っていた新兵の時、よく木刀で斬りつけたり、訓練銃を持って白い吹き流しに色を付けたものである。
「502、交戦開始……先頭の標的機には
「わかってるよ、サーシャちゃん」
下原、ジョゼ、ニパ、クルピンスキーが前衛を務め、孝美とロスマン、サーシャは後方から援護を行う。
バタンという音とともにフラップが遠隔操作で動いて標的機が大きく宙返りをすると2つの曳航標的がその後をついて行く、その様子は三機がくさび形編隊を組んだように見える。
普通は編隊の長機である先頭を狙う所であるが、間違って当てて撃墜してしまうと弁償になるため曳航標的を狙った。
射撃した曳光弾が標的の前後を抜け、いくつか当たった弾も布に穴を開けて飛び去ってゆく。
「命中、Eの21、撃破」
演習の統裁部であることを示す白い旗を付けたジープに乗った統裁官が標的機を双眼鏡で観測して撃墜判定を下す。
ネウロイの巣を意識した“ポイント・イーゴリ”を目指して中央を飛ぶウィッチたちが交戦状況に突入したころ、地上に居るスラム・ウィッチーズも接敵する。
小型ネウロイの集団が進撃路を左右から挟撃してきたのだ。
動かない立て看板相手に対ネウロイ砲を向け、あるいは小銃を向けるのはどこか間抜けな絵面だが、仕方ない。
「11時方向に小集団発見、小型14、中型7」
「さあ、馬鹿ども突っ込め」
「おーっ!」
アウロラの号令に大地を踏みしめた陸戦ユニットが跳躍し、藪を飛び越えてゆく。
攻撃部隊の右翼側の守りを担当している辻野大尉は左翼側の様子を見てある決心をした。
「スオムス軍に負けるな、全機
草葉などで
ネウロイを模した木製の標的を数枚粉砕すると、あとは実弾の温存という面から近接戦闘に突入する。
これらの継戦能力を考えた訓練はアウロラや辻野といった歴戦のウィッチが作って提出したLPを元に取り入れられたものである。
「やーっ!」
「とぉー!」
扶桑軍のウィッチたちは腰の軍刀を抜き、喊声とともに木々に取り付けられた巻き藁を切ってゆく。
あるウィッチは銃剣道の五段錬士であり、三十年式銃剣を着剣した九九式短小銃で美しい直突をしてみせた。
ここでは巻き藁相手であるから魔法力こそ込めないものの、
スオムスのウィッチたちも扶桑軍に負けるなとばかりに、自作の
一方で防御の弱い場所から“優勢なる中型ネウロイ群”が戦闘団の後方を襲撃する。
そこで登場するのが予備戦力であり、121飛行隊の第2飛行隊による近接航空支援や、317連隊による緊急発進で次々と撃破されていった。
その様子を各連隊付の情報班や偵察小隊から受け取った指揮所要員が指示を出す。
演習初日の演目である“敵前哨部隊による攻勢”を凌ぎ、“ポイント・ゴーリキー”を確保した戦闘団はそこを足掛かりにして、総攻撃を仕掛けるのだ。
降着した航空ウィッチや地点確保の陸戦ウィッチたちは前進補給を受けて、総攻撃のための攻撃部隊再編の訓練を行う。
攻撃部隊の再編は壊滅的な被害を受けた時などに行われることが多く、消耗率の高い実戦ではよくある状態だ。
各飛行隊とも初戦において2.3機が損失したという想定、つまりは10機中1機から2機が被撃墜または重傷という状態で、5個飛行隊による再編成が実施されるのだ。
指定された木々の切れ間に着陸したウィッチに、ユニットケージを牽引したジープが近づく。
脱がれたユニットに整備班が一斉に取り付き、点検ハッチを開くと作動油やプラグの点検を始めてあっという間にユニットケージへと収めてしまう。
電源用発電機の付いた牽引式ユニットケージからは電気が供給され、始動時にタービンを回転させるための高圧空気を送るエアホースが接続された。
こうした各飛行隊付整備隊などの直接支援部隊のほか、牽引式のフィールドキッチンと食材を積んだトラック、そして人員車に分乗した業務隊烹炊班が前進補給のために次々とやって来る。
「定ちゃん、このボルシチ美味しいね」
「そうね、前よりも大分美味しくなってる」
「下原少尉、ここしばらくは支援もあって食材がよくなりましたからね」
烹炊班の兵士が笑って言った。
海上補給線が断たれたうえに食糧庫が破壊され食糧難に陥ると、業務隊長のツテで仕入れた謎のカンヅメや生き残っていた農場との交渉で仕入れた野菜で給食業務をしていたのだ。
鮮度も怪しく、出所もよく分からない食材群と僅かな補給物資で基地の胃袋を満たさなくてはならなかったのだから万人受けする味どころではなかったのだ。
ウィッチが夕食を取っているところに、車両に乗ったカールスラント陸軍の野戦憲兵がやってきた。
前線の規律維持を分担任務とするオラーシャ軍憲兵と何かを話し合った後、交差点や道路の端に次々と展開していく。
「止まれ、運航許可証を見せろ」
「よし、行っていいぞ」
設けられた検問所ではMP40機関短銃を持った憲兵が本物の車列かどうかを確かめ、一台一台運航許可証を持っているか、そして正しい経路で司令部の印が捺されているかどうかを確かめていた。
ネウロイによる擬態車両や反ウィッチ派の工作員といった人間の敵から守るためであり、実際、ガリアやブリタニアといった西部戦線においては反ウィッチ派や政情不安をもたらす工作員の摘発など発生していた。
「止まれ!」
「進め!」
白い係止紐で道路と歩道を区切られた交差点にも憲兵はおり、腕を上げたり水平にしたりと手信号で行き交う車両を整理している。
薄暗い中に笛の音が響き、棒の先に丸い紅白の板がついた交通整理指示棒や赤いレンズを入れたライトを振っての交通統制のもと油槽車を含む補給隊が到着する。
車両や電源車の発電機に用いられる軽油およびガソリンを満載した油槽車が止まり、注油ノズルを出して前線給油所を開設すると陸戦ユニットを満載したハーフトラックやら偵察用オートバイ、無反動砲を乗せた偵察ジープといった車両が給油所の前に列をなす。
宿営地の外れに星形アンテナやテントの骨組みのようなアンテナが付いたハーフトラックが数台停車していた。
これらは無線機や暗号化装置が搭載された指揮車両であり、各部隊の指揮官が乗車して前進する部隊に追随するのだ。
指揮官のラルやサーシャは502の自隊車両であるハノマークSd.Kfz.251/3指揮車の中にて業務隊長から上がって来た“補給物品受領伝票”や部隊日報の処理を行っていた。
「しかし実務において、航空団の長が業務隊の長より強いというのはどういうことだ。なあサーシャ」
「隊長、手が止まっています。早くしないと眠れませんよ」
第502統合戦闘航空団の部隊長と基地司令は兼任であり戦闘指揮をする一方、基地であるペトロ・パウロ要塞の管理やら、あるいは移駐先での部隊運営全般の責任者であるのだ。
こうした隊員の衣食住の決済印はみな部隊長と副官に委ねられており、それが嫌で隊長職につかないウィッチも多い。
指揮官が書類と戦っている頃に各種補給を終えたウィッチたちは哨戒シフトを組んで眠り、翌朝の再編成に備えるのである。
1945年9月18日
ゴーラス・ス・ニェーバ演習二日目
地点確保における戦闘で各部隊から撃墜などの損耗が出ており、戦闘団長アルチューフィン中佐より戦闘団再編命令が下る。
稼働率の低い部隊同士を統合し、あるいは欠員の多い部隊に補充したりと戦力の平均化を図るのである。
作戦の間、人数の少ない502は欠員の多い部隊に振り分けられ、121、129、317連隊に組み込まれるのだ。
ロスマンとクルピンスキーは121連隊第1飛行隊、ニパ、孝美は129連隊に、ジョゼ、下原は317連隊へと編入され、サーシャは本部指揮要員としてラルの補佐に回った。
各飛行隊ともここ2か月くらいの共同戦線によって、顔見知りばかりであり特に抵抗はない。
改編が終わると、“ネウロイ第2波が接近している”ため直ちにこれを粉砕し、ネウロイの巣への足掛かりを作るのだ。
各連隊所属の指揮車の前でブリーフィングを終えると、ウィッチたちはユニットケージの並ぶランチパッドへと向かう。
見上げると上空警戒のウィッチが時計回りに緩旋回をしている。無防備になりがちな発進直後を奇襲から守るためだ。
一方、ユニットの方は発進前の点検が済んで、発進台脇のアーム式ガンラックのロックピンが引き抜かれていた。
「第一飛行隊、全機発進。回せーっ!」
アーニャの号令と共に、固定されたストライカーに足を通す。
エンジン始動タービンを回すための魔法力が伝達されると発進台が自動で高圧空気を吹き込んで勢いよく回し、エンジン始動を助ける。
ガンラックを呼び出すと保持クリップで固定された機関銃が胸の前に引き出され、銃を取るとアームは格納された。
障害物がないことから発進支援の魔法陣が淡く広がり、赤灯が消えて発進可能であることを示す青灯が点る。
「一番機、発進」
MiG-60と発進台を繋いでいた固定具とエアホースのバルブが外れ、ほぼ垂直にアーニャは飛び出していった。
続いて二番機、三番機、ロスマン、クルピンスキーと空へと上がる。
ウィッチの編隊飛行は目視距離が中心であり、先に上がった編隊長機に後から上がったウィングマンが集合する形態をとっていることが多く、オラーシャ陸軍航空隊もその形態をとっていた。
「こちらクリフチェンコ少尉、貴機の発進援護感謝します。以降はこちらでやります」
「こちらパコウスキ大尉、了解。貴隊の武運を祈ります」
121の先頭機に上空警戒を引き継ぐと、大きく緩旋回していた129連隊所属の哨戒ウィッチが髪をなびかせ離れていった。
攻撃部隊のウィッチが次々と上がってきて、前進拠点の外側で合流する。
「ロスマン曹長、クルピンスキー中尉は編隊後方にお願いします」
「わかった、子猫ちゃんたちがはぐれないようにしっかり見守ってあげるよ」
「アーニャさん、今は貴女の方が上位者なんだから気を使わなくていいわ」
「はい!」
後から発進しアーニャたちの様子を見ていたニパは言った。
「孝美さん、ロスマン先生に指示って出しづらいだろうな」
「そうね、アーニャさんも教え子みたいなものですものね」
孝美とニパは129連隊の一員として前を飛ぶ121連隊の援護が主な任務だ。
「よし、明日が終わればまた飲めるわ……がんばろう」
歓迎会で酔った勢いで火を噴き、ニパを燃やしたウィッチがにこやかに呟いた。
それを耳にした二人のウィッチはひきつる。
「アイツ、酒癖悪いの自覚してねえからなあ……」
「酔ってないときとのギャップが激しすぎるよね」
普段は穏やかでマトモそうだが、ウォッカやら清酒といったアルコールが入った時彼女は変わるのだ。
アウロラと飲み比べをしたり飲んで暴れまわった記憶はなく、多幸感のみがあるらしい。
「ニパさん、まあ、頑張りなよ」
「ええ……」
「あのユーティライネン大尉と一緒にいるあなたならいけるはず……」
「ワタシは酔っ払いのブレーキじゃないよ!」
寄って来た129連隊のウィッチにいじられながらも楽しそうなニパに、アウロラや直枝から「人付き合いが苦手」と聞かされていた孝美はニパが無事に溶け込んでいるようで安心した。
孝美としても妹と直枝が異世界に行ってしまい、ひとり残されたニパがどうなるか心配だったのだ。
「もう少しで標的機の一群が接近してくるだろう」と演習に参加していた者が思っていた時に、それは起こったのだった。
「監視哨より報告、地中より母艦級航空ネウロイおよび中型が多数出現しました!」
「警報鳴らせ!これは演習ではない!これは演習ではない」
オラーシャやベルギカ、ロマーニャなどで同時多発的に大型ネウロイが出現したのである。