ひかりちゃんインカミング!   作:栄光

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無知の知

 雁淵ひかりと武内尚樹の朝は早い。

 午前5時20分、ランニング用のジャージに身を包んだひかりは家の前で準備運動をする。

 尚樹は風呂を沸かすと、玄関を出てひかりの元に駆け寄った。

 

「今日は軽く行こう、昨日はちょっと飛ばし過ぎて辛かった」

「はい!すみません。つい出し過ぎちゃいました!」

「じゃあ、行こうか」

「はい!」

 

 ひかりは田んぼの向こうの山々やもう明るくなっている6月の空を見ながら走り、尚樹は前を行くオレンジのヒョウ目掛けて腕を振って走る。

 ひかりは速いペースで走り、なおかつ持久力もあるので気が付けば尚樹をはるか後方に置き去りにしてしまう。

 現役の軍人のなかでもとりわけ体力に優れたひかりと、退職してから数年の間ランニングも何もやってなかった25歳男性が並走するのには無理があると尚樹は感じていた。

 しかし、ひかりは「一人じゃできないことでも、誰かが居ればできるようになります!」と言って、尚樹のそばを離れないように気を付けて走るようになった。

 尚樹も男としてのプライドからひかりについて行こうとペースを上げるので、結果、ちょっときつめのペースとなってしまっていた。

 しかし、そんな早朝ランニングも5日目に突入すると慣れてくるもので、ひいひいと言いながらなんとか外環沿いのコンビニエンスストアまで走れるようになったのだ。

 

「尚樹さん、大丈夫ですかぁ、あと少しで交差点ですよ!頑張ってください」

「うん、うん、わかった、前見て、前」

 

 ときどき、ひかりは振り返り、後ろ向きで走って尚樹を励ます。

 尚樹はひかりが何かにぶつかりはしないか心配するが、慣れているようですいすいと走ってゆく。

 一度、どうして得意なのか尋ねると、ひかりは管野と後ろ走りの競争をすることになったためだという。

 

 その後ろ走り競争のきっかけは下原から話を聞いたひかりが不用意に「正座」が導入されるまでの間にどんな罰があったのか管野とニパに尋ねたのである。

 ブレイクウィッチーズの3人で賭け事をし、それは基地内を低空飛行で速く回ると言った危険極まりないものだった。

そしてクルピンスキーがユニットを大破炎上させたところ、出張していたはずの“彼女”にバレて、その場から後ろ向きに走らされたという。

 

 その話題が漏れ聞こえていたのか、その直後の出撃でユニットを壊した際に彼女、アレクサンドラ・イワーノヴナ・ポクルイーシキン大尉によってひかりも体験することになったのだ。

 なお、同時に小破させた管野やニパも巻き添えで基地の外周を2周することになったのだ。

 

「管野さん、あと一周ですよ!頑張りましょう!」

「ひかりー、お前がいらないこと言わなきゃこんなことにはならなかったんだよぉ!」

「サーシャさん、いつもと趣向を変えてっていうけどこれはこれで辛いよ!」

 

 体力に溢れているひかりはげんなりしている管野やニパと共に楽しく?どっちが先に回り終えるかと競いつつ周回を終えたのだった。

 

「いやーひかりちゃんも、あれをやるんだ。これでこそブレイクウィッチーズかな」

「クルピンスキー中尉、あなたも一緒に走ってもらって良いんですよ?」

「サーシャちゃん、今日は僕、飛んでないんだけどなぁ」

 

 それを懐かしそうに見ていたクルピンスキーにも飛び火しそうになり、彼女は慌てて姿を隠したのだった。

 そんな第502統合戦闘航空団の日常を聞かされた尚樹の中で「“サーシャ大尉”はヤバいお姉さん」というイメージが出来上がり、もし、ひかりの仲間たちに会うことがあったとしても彼女だけは怒らせないようにしようと心に決めたのであった。

 

 

 尚樹とひかりがコンビニエンスストアに着き、ジュースを買って飲んだら再び家の方へと折り返す。

 ここからは自由ペースになり、ひかりは本領を発揮する。

 山野を、雪原を、あと魔法力を使って水面の上さえ走り抜けてきた彼女はぐんぐんと尚樹を引き離していく。

 尚樹も少しでもひかりに追いつこうと70パーセントほどの力でダッシュし、息も絶え絶えとなりながら家の前の道路につながる坂道を登ってゆく。

 坂道を登り切ったとき、ひかりは先に家の前でクールダウンのためにスタスタと歩いていた。

 ひかりは尚樹に貰ったソーラー付き電波腕時計……黒いGショックを見ながら言った。

 

「尚樹さん、お疲れ様です。昨日よりも早く帰ってこれました!」

「うん、今日は帰りに結構出したからなあ」

「これで朝ごはんもゆっくり食べられますね!」

「時間のなさが新隊員教育を思い出すなあ……」

 

 時刻は5時37分であり、ランニング初日に比べて11分も早くなっていた。

 初日は5時48分に帰宅、6時15分に家を出るためあまり時間的余裕がなかったが、タイムが上がることによってゆっくり朝風呂と朝食を食べるだけの余裕が出来たのだった。

 尚樹が先に風呂に入ってツナギに着替えたら、ひかりが温めて準備していた朝食をとる。

 そして尚樹が家を出ると、ひかりがゆっくりと入浴するのだ。

 ペテルブルグに行って以降、サウナばかりで扶桑式の湯船に浸かる風呂に入ることが出来なかった。

 管野、下原と扶桑人が居て風呂を作ろうという試みをしないはずもなく、一度だけドラム缶風呂をやったが、クルピンスキーの乱入と台座の不安定さから転がり落ち、今はネヴァ川の底にドラム缶と共に風呂自体封印されてしまったのだ。

 

「これっていい匂いがするなあ」

 

 ひかりは炭酸の泡を吹くゆずの香りの入浴剤をつついて楽しむ。

 泡を吹きながら小さくなっていって、細かい気泡が体にまとわりつくのがとてもおもしろくマイブームになりつつあった。

 

「あっ、溶けちゃった」

 

 艦艇のボイラーで焚く熱い海水風呂と違って、尚樹宅のガス給湯器のお湯は潮の香りがしないが、そのぶん様々な入浴剤が楽しめるのだ。

 初日の晩は透明なお湯だったが、ひかりが泣き腫らした2日目の晩に尚樹が気を利かせてリラクゼーション効果を高める入浴剤を入れたのだ。

 すると、風呂から上がったひかりが「すごい、こんなのがあるんですね!いいなあ」と喜んでいたため尚樹は翌日“日本全国温泉宿セット”と“炭酸発泡入浴剤セット”を買って脱衣場に置いた。

 尚樹が先に入る時には草津温泉やら下呂温泉をイメージした乳白色の入浴剤だが、ひかりが先に入る時には必ずと言っていいほど炭酸発泡の入浴剤なのである。

 

 湯船で楽しむと、次はシャンプーとリンスで頭を洗うのを楽しむ。

 補給物資の中に入っていたリベリオン製の香りのきつい石鹸でひかりたちは頭を洗っていたが、頭がごわごわして毛がきしむのだ。

 ロスマンやクルピンスキーは補給物資の中の石鹸は決して使わず、少し値の張る高級品を外出の度に買いに行っていた。

 

 

 余談であるが、幾度かひかりはロスマンに連れられて買い物をしたのだが、食料品やその他の買い物の額が明らかに段違いで、ひかりは思わず尋ねた。

 

「ロスマン先生、お金とか大丈夫なんですか?」

「ひかりさん、命を懸けたぶんの給料は自分のために使いなさい。そうすれば経済にも潤いが出ていいのよ」

 

 ひかりとは勤続年数が違い号俸も全く違うのだが、それにしても買い過ぎではないだろうか。

 高給取りだが年頃の少女で、男性の将兵とは違いお金も広く様々なところで使う。

 ウイッチたちが生む経済効果というものも研究されており、逼迫(ひっぱく)している状況とは無縁の地域では航空団を誘致しようという自治体の横やりが配備計画に入ったりと、経済活動の都合が軍隊を動かすことも多々あったのである。

 

 話を戻すが、ひかりは1945年当時の高品質石鹸と違って現代の廉価な液体石鹸に驚いた。

 泡立ちもよく程よい香りであり、それでいてごわごわしづらいという洗髪特性。

 そこにヘヤーコンディショナーと言う、髪の手入れ用のぬるぬるとした感じの液体を付ければいつも以上に髪に張りと艶が出て、乾かせばふわふわとした感じになるのだ。

 

「お姉ちゃんの使ってた石鹸でもこんなにはならないよね」

 

 わしゃわしゃと泡立ててさっと流すだけで毛がつやつやするのはどうしてなのか気になったひかりはボトルを手に取って裏側の説明文をよく読んだが、保湿成分や静電気抑制成分が毛を覆って痛みにくくするという事しか分からなかった。

 

「なんかすごい成分が入ってるんだ……」

 

 原材料を見ても精製水やグリセリンくらいしか聞いたことがなく、あらためて自分は何も知らないなと思った。

 ひかりは予備学校の理科で牛脂と水酸化ナトリウムによる鹸化反応の実験、いわゆる「石鹸の作り方」などは習ってないなと思う。

 同時に母がどうして「卒業まで待て」と言っていたのかようやくわかった気がした。

 姉や管野は士官になるにあたって一般教養の試験も受けているが、ひかりは中途で部隊に参加したためにそういう理科や数学と言った一般教養の習得も終わっていないのである。

 

「学業を疎かにしたものがストライカーから降りたら、何が残る?ただの頭の足りないアホ女だ!」

 

 予備学校の教官が女生徒たちにする説教が異世界に来てストライカーに乗れない今、現実味を帯びてきた。

 “あがり”を迎えた後、教官職に就いているウイッチなんかより、後方職種の軍人として残る者や退役し一般社会に帰る者の方が遥かに多いのである。

 

 ふと、出撃のないとき管野が本を読んでいたり、サーシャが何かの計算をしている姿を思い出した。

 

「足りない子は嫌だなぁ、そういえば管野さんも士官なんだっけ」

 

 本人が聞けば「ケンカ売ってんのか?」と言う事間違いなしのひどい言い草だ。

 管野は兵学校においてガリア語などの教養も優秀であったし、サーシャのそれは破損したユニットの修繕費の計算やら人事への各種手当の申請といった実務作業であって魔法力を使わなくても何かしらは出来るのだ。

 異世界に来て数日経ったが特に課されたこともなく、時間はあるのでひかりは勉強しようと思ったのだった。

 

____

 

 風呂から上がったひかりが教養の大切さについて考えている頃、尚樹は「ブレーキが利かない」という顧客の車のブレーキフルードの交換やドラムブレーキの分解作業と言った業務を行っていた。

 

「そういえば、最近痩せたか?」

 

 ブレーキのエア抜きも終わり、昼休憩に入ってすぐ陽平に聞かれた尚樹は一瞬、ひかりと早朝ランニングを始めたことを言おうとして口をつぐみ、逆に問う。

 

「……なんで?」

「なんとなく、アゴの肉が減ったかなって」

「そんなアホな、走って減るかよ」

「えっ、朝、走ってんの?どうして急に」

 

 尚樹がカマをかけられたことに気づくがもう手遅れで、陽平は信じられないものを見たという表情で固まっていた。

 新隊員時代の尚樹を知っているがゆえに、彼が自発的に体力錬成を始めるとは思えなかったのだ。

 

「最近体力が落ちてきて、ジーンズに腹がつかえてこれはヤバいと……」

「25にもなりゃオッサンも間近だよなあ、代謝も落ちてきてるしなあ」

「まあ、そうだよな。1キロ6分ペースでもきついし」

「久々にキロ何分なんて言葉を聞いたわ、いつまで続くんやろうな」

「少なくとも5日は続いたぞ」

「マジで?」

 

 ひかりの存在を伏せつつ、落ちてきた体力に危機感を抱いたから走り始めたというような流れに持って行ったのだ。

 その後、陽平に突っ込まれることもなく午後の作業に取り掛かったのだった。

 表面上、何事もなく仕事をしていても尚樹は内心穏やかではなかった。

 

 やばいな、ひかりちゃんと走ってるのがバレたかと思った。

 バレたとしてどう説明しようか。

 家出少女を……ダメだ、親戚の子を預かってる?

 バカ言え、どこの世界に年頃の女子を独身男性の家に送り込むよ。

 ああ、警察沙汰になりませんように。マジで。

 

 尚樹は周囲の人間に相談するのは最終手段だと思っている。

 陽平はともかく社長であれば悪いようにはされないだろうが、それまでに事情をどう説明しようか考えつかないのだ。

 戸籍もなく、異世界人の女の子を拾いましたなんて言ってもまあ信用されないだろう。

 答えが見つからない自問自答の後に、尚樹はとりあえず問題を後回しにすることにしたのだった。

 

____

 

 18時で仕事が終わり、帰りにスーパーマーケットに寄って食材を買う。

 夕方のスーパーマーケットには主婦や学校帰りの学生が多く、総菜コーナーの前には半額シールが貼られるのをカートを押しつつ虎視眈々と狙う者たちが集っていた。

 その横で尚樹は今晩何にしようかと考えながら、スマートフォンで家の固定電話を呼び出した。

 呼び出し音が流れ、受話器を取ったひかりの緊張した声が流れてきた。

 

「はい!……尚樹さん、どうしたんですか!」

「電話番じゃないんだから緊張しなくていいよ、今日の晩御飯どうする?」

「何が良いというのはありません、どうしましょう」

 

ふと、セーラー服を着たひかりの姿を思い出した尚樹は海軍の“金曜カレー”を思い出した。

 

「じゃあ、金曜日だしカレーにしようか」

「やった、カレーだ!」

「じゃあ、カレーを買って帰るから、帰ったらよろしくね」

「はい!……えっと」

「……じゃあ、切るよ」

「おねがいします!」

 

 電話に不慣れな者同士、電話を切るタイミングを探り合ったりしたが尚樹が先に切った。

 陸上自衛隊員の友ことパックカレーを買って帰ろうかどうか悩んだが、結局カレーの固形ルウを買って帰ることにした。

 ジャガイモと玉ねぎ、ニンジンの残量はあるので、とりあえず牛ひき肉だけかごの中に入れた。

 ついでに隠し味として少量入れるコーヒー牛乳や、夜に食べるお菓子も購入したのだった。

 家に帰った尚樹がドアを開けると、ジャージにグレーのTシャツを着たひかりが出迎えてくれた。

 

「おかえりなさい尚樹さん、カレーですよね!」

「うん、今夜はカレーだ。着替えてくるからジャガイモとニンジンの皮剥いておいて」

「はい!何個ですか?」

「3個づつで良いよ」

 

 尚樹が和室で着替えて、念入りに手を洗っている間にひかりはメークインの皮を剥く。

 下原の手伝いをやっていた時に包丁で手を切りそうになったが、ここではピーラーですいすいとメークインの皮を剥いてゆく。

 ジャガイモが終わるとニンジンに取り掛かり、ひかりはこの調理器具のありがたさに感謝するのであった。

 尚樹が台所にやってきたころにはすでにピーラーで剥かれ、一口大に切られたジャガイモとニンジンがボウルに入っており、鍋も用意されていた。

 

「ひかりちゃん、この2日で包丁上手くなったね」

「えへへ、そうですかぁ」

「最初はピーラーでも……」

 

 最初はピーラーを使っても皮どころか身もゴッソリとそぎ落として、包丁で切った食材がそのまままな板から転がり落ちそうになったりとひどいありさまであった。

 だが、一度使い方を習得すると包丁での皮剥きこそ苦手であるが、まあまあキレイに切れるようになったのだ。

 ひかりは尚樹に褒められてうれしくなったが、最初の惨状を思い出して恥ずかしくなった。

 

「それは言わないでくださいぃ、そうだ、肉を茹でましょう!」

「茹でる前に炒めるほうがおいしいよ」

「じゃあ私、ジャガイモとニンジンを先に茹でます」

「了解」

 

 尚樹は肉を軽く炒めた後、玉ねぎをくし形に切ってあめ色になるまで炒める。

 こうすることで甘みが出るし、硫化アリルが壊れにくくなり玉ねぎの栄養価が損なわれないのだ。

 炒めた食材を鍋に入れると、ジャガイモやニンジンに火が通るまで煮込む。

 

「ひかりちゃん、お疲れ。あとは俺がやるよ」

「いいえ、私も料理できないかなって思うんです」

「十分手伝ってくれたし、たぶん出来るんじゃない?」

 

 今まで姉のようなウイッチになりたいと思っていたが、姉は家事も料理も得意であることに気づき、居候させてもらっている自分も練習して出来るようにならなくちゃと思った。

 

「最後までやらせてください、お姉ちゃんみたいに自分で作りたいんです、何もできないのは嫌なんです」

 尚樹は、ひかりが料理に対して強い意欲を見せたことに驚く。

 最初、得意料理どころか何もしたことが無いと言っていたひかりが、最後までやり遂げるという意思の篭った瞳で見つめてくるのだ。

 

「そうか、じゃあ完成まで一緒にやろうか。ルーを入れたら焦げ付かないように絶えずかき混ぜてね」

「はい!」

 

 姉へのあこがれと、何もできないことへの危機感からカレー作りを最後までやりたいと言ったひかりに尚樹は頷くと早速仕事を割り振ってやる。

 菜箸で突き刺してジャガイモとニンジンに火が通ったのを確認すると、カレールウを投入する。

 そして尚樹は最後にコーヒー牛乳を大さじ3杯位入れた。

 

「コーヒー牛乳を入れても大丈夫なんですか?」

「隠し味だ。乳成分でまろやかになって甘みも調整されるらしい。俺も炊事競技会の時に初めて知ったんだけどな」

「へえ、私も今知りました!」

 

 千僧駐屯地で実施された各部隊対抗、第3師団炊事競技会が蘇る。

 戦闘服姿で大きな寸胴鍋いっぱいにカレーを作り、そこにパックのコーヒー牛乳を流し込んで煮るのだ。

 準備から調理、整頓そして部隊が喫食を始めるというていで、採点が行われるのである。

 惜しくも優勝は逃したが、実家暮らしだった男がはじめて料理を作った競技会だった。

 

「海軍ではそういう競技会ってないの?」

「私たちウイッチには無いみたいです、お姉ちゃんの話によると水兵さんはやるみたいですけど」

「まあ戦争真っただ中だもんな、呑気に競技会なんてやってられないか」

 

 艦対抗の競技会や術科学校出身者同士が鎬を削る競技会も盛んに行われていたが、これらは“海の男”たちの意地を掛けたものであってウイッチがその世界を見る事はほとんどない。

 海軍所属であっても陸上基地勤務や多国籍部隊に行くと見る事もない。

 孝美が競技会について知っているのはひとえに第3航空戦隊として艦載ウイッチをしていたからであった。

 

「ルーは出来たし、ご飯を出して」

「はい!」

 

 ひかりは尚樹が朝にセットした炊飯ジャーを開けてしゃもじでかき混ぜると、炊き立てのご飯をよそう。

 そこに尚樹がカレーをどろりと掛ける。

 炊き立てのご飯の甘い匂いと香辛料の香りが食欲をそそり、おもわず腹がなる。

 ふたりは居間のテーブルへとつくと、手を合わせてすごい勢いで平らげた。

 

「おいしい、これならおかわりも食べられますね!」

「今の時期、カビて保存もきかんし最後まで食べてしまおう」

「はい、じゃあ、尚樹さんの分もよそってきます!」

「ありがとう、お願いするわ……これ、完璧じゃないか」

 

 尚樹はひとり暮らしの感覚から少し作り過ぎたかと思ったが、2杯づつ食べたので完全になくなり結果としてちょうどよかったのだ。

 食事のあと洗い物が終わって、入浴を済ませると二人でテレビを見たり雑談を楽しむくつろぎタイムに突入する。

 最初は緊張して話題も見つからず困ったりしたけれど、ここ数日は日中何をしていたかとか、社会情勢についてであるとかそういう話のほかに他愛のない雑談を楽しめるようになっていた。

 ひかりは尚樹が買ってきたポテトチップスをつまみながらクイズ番組を食い入るように見ていた。

 

「ええ、Bじゃないの!フラスコなんて初めて聞いた」

「ひかりちゃん頑張るね」

「はい、次こそ正解してやる!」

 

 歴史問題や時事問題では分からないというが、理科や小学校で習う範囲の問題を必死で解こうとするひかりに尚樹は苦笑いをする。

 ひかりは『大人の教養問題』というあおり文句に乗せられて、せめて理科や算数、国語といった問題は解けないとまずいと頑張っていたのだ。

 番組が終わる頃にはひかりはボロボロになっていた。

 

「尚樹さん、わたし、大人失格なんですか……」

「いや、ひかりちゃん語学問題はよかったじゃないか、それにあれは高学歴芸人にぶつけるための問題も出てるしね」

「ブリタニア語は出来ないと意思疎通ができないので、頑張りました」

「俺とか英語が出来ない大人も多いし、ひかりちゃんは凄いと思うよ」

 

 尚樹は今度の日曜日が休みなのでどうしようかと考えていたが、勉強しようとしているひかりの様子を見て、どこに行こうか決めた。

 

「ひかりちゃん、今度の休みにドライブに行かないか?」

 




最近、1、2、4、6、11話をずっと見てるような……。

平日の生活では朝ランニング→尚樹出勤・ひかりは家の中で暇つぶし→帰宅・夕食→入浴→くつろぎタイム→就寝のサイクルを繰り返しています。

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