ひかりちゃんインカミング!   作:栄光

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修正:栄→誉 栄は零戦と隼


トロイカより愛をこめて

 1945年6月29日

 雲もなく、いまいましいほど晴れたペテルブルグの空に、誉二一型発動機の音がよく響き渡る。

 アラート待機任務に就いている管野、ニパ、ロスマンは聞こえてきた扶桑製ユニットの音に一瞬ドキリとし、すぐに扶桑よりやって来る彼女であると思い出す。

 管野直枝はかつて相棒と認めて、今も親交があるそのウイッチが来るのを滑走路脇から出迎えようと格納庫から出た。

 キラキラと光を放つネヴァ川の向こうに、ポツンと白い点が見えて徐々に大きくなってくる。

 そして、彼女がふわりと滑走路に降り立つと管野、ニパ、ロスマンは姿勢を正す敬礼で出迎えた。

 雁淵孝美の柔らかい雰囲気はなく、貼り付けたような、どこか影のある笑顔で答礼した。

 

「皆さん、お久しぶりです」

「孝美……」

「孝美さん、おひさしぶりです」

「雁淵中尉、お久しぶりです。隊長室へお願いします」

「はい、ロスマン曹長は待機任務ですか?」

「そうですね」

 

 管野とニパが気まずそうにしているのに気付いた孝美は、ロスマンに礼を言うと隊長室へと向かって歩いて行った。

 孝美が脱いだ紫電は直ちに整備班によって台車に乗せられて、飛行後点検が始まる。

 扶桑より二式飛行艇に乗りガリアへ飛び、ブリタニアのウィッチと定期補給便の輸送船団の護衛をしながらスオムスに到着、そこからはユニットを使ってペトロ・パウロ要塞へとやって来たのだ。

 

「失礼します」

「入れ」

「第502戦闘航空団に転属となりました、雁淵孝美です」

 

 孝美は司令官室に入ると、敬礼と共に着任の挨拶をする。

 ラルは手元の書類をトレイに置くと、顔を上げた。

 

「長旅ご苦労。ようこそ502へ。」

「どうして、私の転属を受け入れてくださったのですか?」

「少しでも人手は必要だからな。お前もひかりのことが気になっていたのだろう」

 

 未帰還の知らせを聞いて最初はひかりを502に残したのは失敗だったのではないかと自分を責めた。

 しかし502こそひかりが自分で作った居場所だったのだから彼女たちを責めることはできない。

 ならば、ひかりの最期の姿だけでも聞けないだろうか、と何とか言葉を絞り出す。

 

「はい……せめてあの子がどう戦って、どう居なくなったのかだけでも知りたくて」

 

 湧き上がってくる感情を抑えようとしているようだが、目の端には涙が滲みつつあった。

 

「孝美、お前には知らされていないだろうが、あいつは()とされていない」

「墜とされていないって、どういうことですか?」

 

 孝美の問いにラルはひかりの情報を伏せていたことを思い出した。

『ペテルブルグ南西を哨戒飛行中、行方不明』がひかりの実家や孝美に伝えられている内容なのだ。

 通例通りであれば『哨戒飛行中、接敵して交戦中に行方不明』と続くはずであるが、まるで“航法ミス”によってルートを逸脱するなどして消息を絶ったかのような物言いであり生存の可能性があると思ったからこそ孝美は転属願を出したのである。

 それを見越して、ラルはマンシュタイン元帥にあらかじめあるウイッチの転属を許可するように要求していたのだ。狙い通りである。

 

「これは機密にあたるが、どうも新しいネウロイの巣と関係があるようだ」

「もしかして、あの子はネウロイに……」

「断定はできん、しかし、ひかりの“消失”が何らかの能力によるものであるという線が濃厚だ」

 

 どこかへの空間通路がネウロイによって形成されて、取り込まれた可能性があるというのは“謎の金属片”に塗られた未知の塗料からはっきりしたのだ。

 1940年代に一般的であったベンジルセルロース、ニトロセルロースを主剤とする1液ラッカー系塗料ではなく、1950年代以降に登場・発展してゆく2液混合型のウレタン樹脂塗料だった。

 特徴としては対溶剤性があり、ラッカー系塗料はシンナーで拭かれると落ちてしまうが、ウレタン系塗料は表面で重合して乾燥後強固なプラスチックとなるため耐候性もあり現在主流となっている。

 解析班がヤスリ掛けをしてその金属粉や塗膜が何で出来ているかを調べる最中、ヤスリに着いた塗膜片の洗浄に溶剤を用いた所、現行の航空機塗料とは異なった状況が起こり判明したのである。

 こうした技術廠などから上がった情報は上級司令部を経由して、連合軍の直轄部隊である統合戦闘航空団にも情報が降りてきていた。

 

「消失?ひかりはどうなったんですか?」

「なんだ、管野からは何も聞いていないのか」

「知らせを聞いて、すぐに飛び出した形ですから」

「まあいい、雁淵ひかり軍曹は編隊飛行中にいきなり“消えた”。管野とニパの真横でだ」

「そんなことって……」

「普通ならあり得ない、一笑に付す話だ。だが奴らはいきなり現れ、予想だにしないことをする」

 

 孝美の脳裏によぎるのはバリアとなる雲を吐き、強固な外装でコアを隠すグリゴーリの姿だ。

 グリゴーリのほかにヴェネツィアにもネウロイの巣は突如現れ、同種であるはずの模倣体ネウロイを消滅させるといった現象が確認されている。

 このように()()()()()()()()()()()()の存在がネウロイなのである。

 

「長話をするのも疲れるだろうから今日は休め。明日から出撃してもらう」

「はい」

 

 司令官室を出た孝美を迎えてくれたのは、下原とジョゼだった。

 

「雁淵中尉、お久しぶりです」

「雁淵中尉、お部屋の準備は出来ています!」

「下原さん、ジョゼさん。またお世話になります」

 

 前回、寝起きしていた個室ではなくひかりの部屋の近くの部屋に孝美は案内された。

 孝美が理由を尋ねると、どうやらペトロ・パウロ要塞を“レーシー”攻略のための前線基地として使用し502のほかに2個ウイッチ飛行隊を駐屯させる予定があるのだという。

 下原は高射砲陣地が増強され、オラーシャ陸軍の工兵部隊によってペテルブルグ市街に通信施設や臨時司令部がいくつも建設され同時に、砲兵ネウロイの攻撃によって吹き飛んだ施設や食料貯蔵庫が復旧されたことによって少し生活に余裕が出てきたという話をした。

 ジョゼは数か月前の牛缶のお礼を言うと共に、みんなで食べたことを嬉々として孝美に伝えた。

 あまりの喜びように孝美は圧倒されると同時に、嬉しそうにするひかりの姿を思い出してすこし辛くなった。

 それを感じ取って謝るジョゼと気に病む必要はないと告げる孝美、そして重くなる雰囲気。

 

「じゃあ、晩ごはんの時間になったら食堂にいらしてくださいね」

「私物が届くまで、何か必要なものがあれば言ってください」

「はい、ありがとうございます下原さん、ジョゼさん」

 

 二人と別れると、孝美は上衣を脱いで寝台に横たわる。

 少し前の502と違って雰囲気が暗いような気がするが、それだけひかりの存在が大きかったのかと思うと嬉しいような気がする、と共にジョゼやラルの反応を見るに自分も相当追い詰められているなと思ったのだった。

 

____

 

 

 管野は、手紙を出せなかった。

 相棒にして彼女の溺愛する妹がよくわからない消え方をしたのである。

 自分が守り切れなかったという思いと、どうやって説明すればいいのか悩んでいる間に隊長が孝美を新たな統合戦闘航空団から引き抜いたと聞かされた。

 自分自身、ひかりの生存を信じたいが、孝美に変な期待をさせたくなかったのだ。

 期待させておいてこのまま見つからなかったらまだマシなほうで、どこかで朽ちた遺体が発見されたらその時は深く傷つくだろう。

 管野は何度も孝美に宛てた手紙を出そうとしてはやめた。

 そのように逡巡しているうちに孝美がやって来たのだ。

 何かを考えているであろう管野を見たニパが声を掛ける。

 

「カンノ、ひかりが消えたのはカンノのせいじゃないよ」

「わかってるよ!でも……」

「孝美さんにどう言ったら良いのかわからないんだよね」

「俺たちが見たまま伝えても、孝美は納得しねえ」

「あの様子じゃ孝美さん、聞いてくれるかどうかわからないよね」

 

 二人にロスマンは声を掛ける。

 

「管野さん、ニパさん、ひかりさんのことは見たまま感じたまま伝えなさい、最初は拒絶されてもね」

「ロスマン先生……」

「あなたたちも長く戦っていると、いろんな人の最期を見ることになるわ」

 

 ヒスパニア戦役から戦い続け、数多くの戦友を失ったロスマンの言葉には説得力があった。

 避難民と共に戦ったカールスラント撤退戦の際は避難民のキャンプにいる隊員家族に訃報を知らせに行くことも何度かあったのだ。

 『戦友の死亡告知』はロスマンは二人がウイッチとしてずっと戦っていくなら避けられない道だという事を知っていた。

 ロスマンは二人に「最期の説明は遺族が心を整理するための説明」であると告げると待機室の方へと去って行った。

 管野とニパはロスマンと同じく歴戦の猛者であるクルピンスキーがひょうひょうとして軽薄そうに演じているのも、そういったことに耐えるためなのではないかと一瞬だけ思ったが、すぐに『アイツのは地なんじゃねーか?』と考えた。

 

____

 

 

 

 1945年7月1日

 ペテルブルグ、ペトロ・パウロ要塞にオラーシャ陸軍第121親衛戦闘機連隊が駐屯し、作戦室には502JFWのほかに121連隊のウイッチが集まり、普段使う事のない机にもギッチリとウイッチたちが詰まっていた。

 オラーシャ軍のカツコフ元帥より“トロイカ作戦”の発動が告げられ、第1回目の共同出撃が行われた。

 

 最初の大規模威力偵察は管野、ニパ、クルピンスキー、ロスマン、サーシャが出撃となり、下原、ジョゼ、孝美、ラルは121の第2飛行隊と基地防空にあたることとなる。

 ロスマンとサーシャは敵の動向の確認以外に、友軍戦力の実力を見るためについて行くことになった。

 121の第1飛行隊の隊長はサーシャの原隊における後輩であり、先任の人事異動に伴い急遽小隊長へと昇進したのだ。

 そういったこともあってこの威力偵察は“新小隊長の実戦訓練”も兼ねており、「うまくいけば502に影響を受けて飛行技術が上がるのではないか」という121連隊側の思惑も見え隠れしていた。

 

 先頭を行く502にフラフラ、ヨタヨタと着いてくる121のウイッチに管野は「どいつもこいつもシロートばっかりかよ」と毒づき、サーシャは赤い髪の後輩に「どうなってるんですか」と目線を送る。

 「絶対に関わらないでください」とサーシャに釘を刺されていたクルピンスキーはと言うと「あの赤毛の子かわいいなあ」と言いながらもどことなく気になっている様子であった。

 

 グリゴーリとの戦いで生じた人的資源の戦闘損耗、“重傷”や“戦死”などに対して、大量に補充兵を入れることで部隊の定員を満たしていたのだ。

 想像していたよりもかなり低い練度に、502のメンバーは「まるで来た時のひかりちゃんを揃えたかのよう」と言う感想を抱いた。

 もしもロスマン先生が教育係として121連隊に居たら半数以上が飛行停止になり、わずかなベテランだけで運営しなくてはいけないだろうと思った。

 そんなイメージを持たれている当のロスマンでさえ、この子たちの何人が生きて帰れるだろうか?と悲観的な考えが頭によぎり可能であれば直ちに基地へと返したくなった。

 

 レーシーが空にそびえ立ち、近づいて行くと遠くから鋭角な三角錐状のネウロイが現れた。

 すぐさまクルピンスキーが座標を送り、レーシーがウイッチを何らかの索敵方法で捉えたことを告げる。

 ネウロイが近づくと、それは矢じりの様な形状であり、先端から黒い()()を飛ばしたのが見えたので502はさっと回避した。

 だが、121のウイッチたちはシールドを作動させ、何とかギリギリ爆風と破片を凌いだ。

 体の組織を銃弾として発射するタイプは、光線と違い破片効果でウイッチを殺傷、ユニットを破損させてくるのである。

 発射インターバルが光線型より長くなるのと、空対空では目標に対する追随性が悪いせいか高射砲型の地上ネウロイに多く見られるタイプであり爆発の特性的に近接信管ではないようで着発か時限信管の類であると推測されていた。

 もっとも、近接信管でなくともシールドで防御すればそこで爆発するのであり、シールドで防御する癖のあるウイッチが2発3発と撃ちこまれてシールドを破られて撃墜されるケースが各戦線で見られた。

 

爆風で揉まれたウイッチたちは姿勢を立て直そうと、よろけながら無防備に高度を上げる。

飛ぶことに必死であり、回避運動や攻撃につながる動作でないため次弾が来たら一発で殺られる。

 

「バカヤロー!おめーら死にてえのか、下がってろ!」

 

 後ろを一瞥した管野が思わず叫ぶ。

 インカムから流れてくるのは息を飲む音と、情けない返事だけだった。

 

「管野さん、クルピンスキーさん、突破します」

「了解、子猫ちゃんたちよく見ておくんだよ!」

「何が子猫ちゃんだよ、ヒヨコの間違いじゃねーか?」

 

 目標に対して30度ほどの斜め上空から突入し、敵機のすぐ横を抜けてすれ違いざまに一斉射撃を浴びせるのだ。

 一航過でサーシャ、管野、クルピンスキーの射撃を全体に受けて粉々になるネウロイ。

 一瞬で満遍なく弾を撃ちこんでコアを探って、それを粉砕することが出来るのがエース部隊なのだ。

 もし一航過で仕留め逃しても、後詰めのロスマンとニパが露出したコアを砕くという2段構えであり、止まらずに前進することが出来る。

 ケイ素で出来た白い破片が舞い散り、ネウロイが消滅したことを告げる。

 

 502のウイッチたちは撃墜を喜ぶこともなく、そのまま編隊はどんどんレーシーへと接近してゆく。

 矢じり型ネウロイと、F-4を模した新型の戦闘機型ネウロイを15機ほど発進させたようで、それを捉えたサイトのレーダー士官から接近警報を受ける。

 サーシャは方位と距離を確かめると、後ろから着いてくる後輩、アンナ・クリフチェンコ少尉に指示を出す。

 

「突出している先頭から叩きます、アーニャ!あなたたちへの援護は出来ないものと思ってください」

「はい!……各機、我に続け!」

「502は散開、各個撃破せよ」

 

 アーニャのMIG60が右に行けば、リベリオンからの供与品であるP-39エアラコブラを履いた新兵たちが右へと続く。

 その様をちらりと見た管野は「ヒヨコじゃなくてカルガモかよ」と呟いた。

 ロスマンとニパは左へと行き、中央を担当する管野とクルピンスキーの援護に回る。

 

 複数の高速戦闘機型ネウロイが先陣を切って時速800キロほどで突っ込んでくる。

 サーシャ、管野、クルピンスキーはすれ違いざまに機関銃を叩き込む。

 銃弾が外板をボロボロにし、コアを露出させると後衛に託す。

 クルピンスキーのそばをかすめて、フリーガーハマーの噴進(ロケット)弾がネウロイに当たった。

 高い威力で後部をまるっと吹き飛ばしたことで内蔵するコアも爆散し、白い破片となって消滅する。

 

「先生、少し射線が近くないかい?」

「あら残念、当たってくれてもいいのよ?」

「冗談きついなあ、ニパ君そっちに行ったよ」

「わわっ、こいつ速いなっ」

 

 速いと言いながらもニパは確実に仕留めてゆく、ユニットを壊すけれどニパもエースなのだ。

 本来、空戦において敵と正対して撃ちあうのは悪手とされている。

 正面接敵・正面航過における一人当たりの攻撃可能時間はおおよそ1秒~2秒弱、ネウロイも無抵抗で機関銃弾を浴びるわけではなく、光よりは遅い何らかの粒子を用いた光線を赤いパネルより放射する。

 敵の反撃も受けやすく、自分の攻撃時間も限られているためなるべく後方や上方より接近、射撃するのが良いとあるが、あくまで“低速のネウロイや対人戦闘”の基本だ。

 高速型やあるいは敵の数が多い場合、すれ違いざまの一撃で仕留めなければ敵味方入り乱れての乱戦になって、後ろを取られたり味方の流れ弾による誤射などで面倒なのだ。

 腕っこきを集めた502のウイッチたちは光線をすり抜けるようにして肉薄し、近距離で確実に命中弾を与えていた。

 

「こっち来たよ!」

「当たってぇ!」

 

 一方、サーシャの方へと突入したネウロイはサーシャの一撃離脱に砕かれるか、121連隊の新米のウイッチたちが乱射する弾幕に飛び込んでボロボロになったところをアーニャが撃墜する。

 「弾幕」と言えば聞こえがいいが、実態は狙いも付けずに射程外からばら撒いているだけであり敵よりも、前を飛ぶサーシャに当たりそうになっていた。

 

「アーニャ、あなたが落とすのはいいけれど、あの子たちの射撃を統制しなさい!味方と敵の区別がついていないんですか?」

「はい!射撃止め!射撃止め!」

 

ボロボロになったネウロイに追いすがって落としていたアーニャはサーシャの声に、急いで射撃をやめさせる。

 

「ネウロイをしっかり狙って撃て!ポクルイーシキン大尉に当てる気か!」

「……クリフチェンコ少尉、あとでお話があります。それよりも」

  

 ポクルイーシキン大尉は『近接して一撃離脱』などの教範を書いたウイッチであり、とても仲間思いで心配性なのだ。

 ゆえに、焦って、あるいは恐怖のままに当たらない距離で射撃をする「早撃ち」や、当てようと無駄に長く撃つ「長撃ち」などで無駄弾を撃って残弾がなくなることや、僚機の誤射などには大変厳しく、長い説教が待っていた。

 アーニャもかつて、全く当たらない距離で弾を撃ちきってサーシャにとても怒られた。

 久しぶりにサーシャの怒りを抑えているような声が聞こえ、アーニャはすでにやってくるであろうお説教に怯える。

 

「あなたたち、弾のないウイッチがどうやって戦うんですか?」

 

 ここで管野であれば「銃で殴る、直接ブン殴る」と答え、ユーティライネンであれば「丸太で殴り、シャベルで穴を掘ってやる」などと言いかねないのだが、121の新兵たちは普通のウイッチであるがゆえに何も言えなかった。

 

 サーシャの説教に怯えるアーニャと新兵たちをよそに、502のウイッチは次から次へとやって来るネウロイと戦い流れるように次々と撃墜してゆく。

 少数対多数のネウロイ戦では時間を掛けた方が消耗して押し負けるのだ。

 新米のウイッチたちの残弾と魔法力は残り少なくなっており、アーニャは自衛のための射撃以外はするなという指示を出した。

 迎撃に発進してきたネウロイ19機を全滅させることで情報収集を完了し、威力偵察部隊はレーシーの警戒範囲外に出る。

 一度警戒範囲を出ると巣から新手を繰り出して追撃してくることも無く、なんとか損害も無しに無事にペトロ・パウロ要塞に帰還した。

 

 

 その晩、司令官室にサーシャ、ロスマンが報告にやって来た。

 

「それで、あいつらは使い物にならないか」

「はい、今のままでは巣を攻略するどころか生き残れるかどうかも」

 

 サーシャは指揮系統が異なるため、“正座”こそ言い渡さなかったもののクリフチェンコ少尉を呼び出して部下の指導をしっかりするようにと指導したのである。

 とはいえ、新任の小隊長の指導で新兵たちの練度を急に引き上げることなど土台無理な話なのであまり期待していないどころか出来る事なら後方へ送り返したいとさえ思っていた。

 

「私もそう感じました」

「先生、あいつらを柱に登らせるにはどうすればいいと思う?」

「ラル少佐が121の連隊長に就任すればいいと思います」

「私にオラーシャ陸軍を指揮しろと言うのか」

「そうなれば、サフォーノフ中佐に暗殺されるかもしれませんね」

「何を言う、サフォーノフ中佐は慈愛に満ちた人だ、502を追い出された私にそこまではしないだろう」

 

 冗談で返したがロスマンの返しに大真面目な顔で答える。

 あまりの内容にサーシャはどうしてそうなったのか尋ねた。

 

「あの、私の配属の際に何したんですか?」

「503より早くに採用が決まっただけだ、人事もうまい酒が飲めてさぞかし気分が良かっただろうな」

 

 実態は種々の工作によって第503統合戦闘航空団への配属申請書が()()()()を起こし、それよりも古い日付の辞令が上級部隊より届き、気が付けば502に配属されていた。

 ラルにポクルイーシキン大尉を掠め取られた形になったサフォーノフ中佐は怒りのあまり統合戦闘航空団代表の会議の際に部下を代理に立てて、手紙に「くたばれ」と書いて託したのだった。

 

「まあ、それはさておき。戦力にならないのは痛いな。ひかりのように化ければ儲けものだと思っていたが」

「そうなれば、隊長は引き抜こうとするんでしょう?」

「あたりまえだ、優秀なウイッチは多ければ多いほどいい。自慢できる」

 

 ロスマンは窓の外のオベリスクを見て、魔法力も技術も全てにおいて足りないひかりが「ここに残るために」柱にしがみ付いていたことを思い出し、寂しくなった。

 

 こうして、最初の共同作戦は味方の練度不足などの問題を明らかにして幕を閉じたのだった。

 

 




お姉ちゃんが502に来たため、508では推薦された女学生三隅さんが軍曹になり部隊の新入隊員ポジ(ひかり・芳佳枠)になった模様
まあ遣欧選抜の際に見てたし、校長もあの人だしいけるだろうということで採用となった

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