英雄譚は敵と味方の血に塗れているものだからね、しょうがないね。
「オラオラオラーーーどうした!そんなもんか!」
絶え間なく降り注がれる弾丸の嵐、それをリィンは防ぎ続ける。
一見すると防戦一方に見えるこの状況だったが、リィンの表情に焦りは一切ない。
素人目にはかつてクレアと戦った時のように圧倒されているかのようにも見えるかもしれないが実情は異なる、何故ならば現状ヴァルカンの嵐の如き攻撃は威勢のいい言葉とは裏腹に一度としてリィンに決定打を与えていない。
嵐の如きガトリングガンの弾幕をリィンと言えど、流石に全てを防ぐ事は出来ない。されど敵の闘気が込められ、当たれば痛打となるような攻撃をリィンは双剣で確実に弾き、それを超えてリィンの身体に命中するのは当ったとしてもそれは、闘気を纏い、鋼鉄と化したリィンの肉体に致命打を与えるには程遠い
だからこそヴァルカンは焦りの色を見せ始める。
彼とて人格はこの際置いておくにしても、実力に関して言えば紛れもない“達人”の領域にあるもので、猟兵として幾多の戦場を潜り抜けた経験とてある。故にこそ自分と目の前の小僧の実力が拮抗している事を悟らざるを得なかった。
彼は誓って加減などしていない、当然だ。相手は憎き仇の息子なのだから、手加減する道理など彼には存在しない。
それにも関わらず攻め切れない、威勢の良い言葉から血気盛んに襲いかかってくるとばかりに思っていた敵手はイヤになる位冷徹だった。
戦いは解放戦線の側に不利だった。リィンとVの戦いは拮抗している、しかしそれ以外の戦いの天秤は完全にリィン達の方に傾いていた。
精鋭部隊もかくやとばかりに見事な連携を見せつける四人に完全に解放戦線の他のメンバーは押されていた。
さらに言えば、領邦軍の封鎖も一体どこまで保つのかわからないこの状況、時間が不利に働くのは解放戦線の側なのだ。
だからこそ、リィン・オズボーンは焦る事なく、ただ《V》を釘付けにする事に専念しているのだ。
(クソッタレがぁ!)
そしてそれが《V》には腹立たしい、まるで路傍の石ころでも見るかのように冷徹にこちらを睥睨するその瞳に憎い仇敵を重ねずにはいられずに。
《C》には今回の作戦でくれぐれも短気を起こすなと言われている、あくまで今回の作戦はスポンサーであるカイエン公への義理立てという側面が強く、最終目的を達成するための陽動だと。
《C》は替え玉を用意することでアリバイを作り、敵の目を誤魔化す。そして自分たちはこの場で壊滅させた体を装う、そういう作戦だ。
故にこそこのまましばらくやり合って、ある程度したら下で待機している《S》と《C》の替え玉と合流する、そうすればいい。だが、しかし
(気に入らねぇ!)
黙って呑み込まれろとでも言わんばかりのその在り方、瞳、冷徹さ、何もかもがヴァルカンから全てを奪った男を連想して止まない。この気に入らない野郎をこの場でぶちのめしたい、こいつをこの場で仕留められれば、あの鉄血野郎にも一泡吹かせる事が出来るはずだとそんな欲がヴァルカンの中に芽生え始める。
そうだ、いくら目の前のこいつが若くして達人の領域に至った天才であろうと、自分たちの中には未だ埋めがたい
そしてVは一計を案じる、戦いの年季の違いを教えてやろうとでも言わんばかりに。
「ウオオオオオオオオオオオオオオオ」
瞬間、Vは己が闘気を収束させだす。このままではジリ貧だから、如何にも焦って博打に出たのだとそう
そしてVの
それを確認すると同時にVは見せかけの闘気の収束を辞めて、こちらへ向かって来るリィンを蜂の巣にしようとその照準を合わせる。
(所詮は若造、戦いの年季が違うんだよ!)
Vの判断は真っ当なものだったかもしれない。
現実としてリィン・オズボーンの戦いの経験値は未だ歴戦と呼ぶには程遠い。
だが、彼はある事を失念していた。世の中には時として常人の発想のはるか上を行く“
かつてそんな存在に部下を皆殺しにされた身として目の前の少年の姿がそんな“
「神気合一」
宣誓の瞬間、リィンの身体が変貌する。
それは歴戦たるVをして経験したことがない光景。
ウォークライに近いのだろう、しかしそれとは明らかに別次元の変貌だった。
別人の如く著しく向上した身体能力、突撃の速度は桁違いになる。しかし、それを相手にしてもVは内心の動揺を抑えて迎撃せんとする。
しかし、リィンは自らの身体に飛来する弾丸を一切斟酌する事なく、そのまま突撃を敢行する。
Vの闘気を纏わせた渾身の弾丸のいくつかはリィンの纏う白焔を突破し、その肉体を抉るが、されどリィンは一切止まらない。
皮を裂き、肉体を抉ることは出来ても、骨は断てない以上致命打には程遠い。ならば痛みなど
だが、それでもVとて歴戦の猟兵、そんな接近する敵手へと獲物たるガトリングガンから近接用のナイフへと武装を持ち替えて、迎撃せんとする。
しかし
「
纏っていた焔、それを爆発させる事でロケットエンジンのような加速を得たリィンは完全にVの知覚を振り切る。
そしてリィンの双剣がVの両腕を呆気なく跳ね飛ばした。
「がああああああああああああああああああああああああああああ」
両腕を喪失したVが絶叫を挙げるが、リィンはそれを気にも介さずにVの顔を右手で鷲掴みにして
「寝ろ」
そのままVの顔を勢いよく硬い岩盤へと叩きつけた。
気絶に留まれば良し、そのまま頭が柘榴のように破裂したとしてもそれはそれで何ら問題ないという勢いで。
叩きつけられたVは血しぶきを上げた後に身体をわずかにピクピクと痙攣させたかと思うとその動きを止めて意識を完全に手放したのであった。
・・・
死んだら死んだで構わない、生きていれば儲けもの程度のつもりでやったが、どうやら見た目通りの頑丈さだったようでVにはかろうじて息があった。
リィンはその事実に自然と微笑を浮かべる。仲間たちの方を見ると、最後は後方にて控えていたアリサの高位アーツが決め手となって、どうやら問題なく終わったようだ。
恐らくは戦術オーブメントにて発動する導力魔法を非殺傷状態で放ったのだろう、あちらの方も意識こそ失っているものの軒並みまだ息はあるようだ。
生死を問わずであったが、幹部クラスを生け捕りに出来るというその事実は大きい。
どこまで情報を持っているかは不明だが、それでも幹部である以上下っ端よりは情報を持っている事は確実だ。
ーーー未だ謎に包まれているリーダーである《C》、その正体も判明するかもしれない。
最も、その必要もすぐに消えるかもしれいないが。
飛来してきた法剣の一撃、それをリィンは双剣を使い何なく弾く。
そして暗闇から姿を現したのは帝国解放戦線の幹部《C》と《S》の両名であった。
「どうやら、何時でも脱出できるように下の方に停めている飛空艇でそれぞれ待機していたようだが、判断を誤ったな。お前達のお仲間はこの通りすでに虫の息だ」
「……そのようだな、認めなければならないだろう。貴様を侮っていた事を」
「……まさか、Vが此処まであっさりやられるなんてね」
挑発的な笑みを浮かべるリィンを《C》と《S》は憎々しげに見据える。
猟兵の団長を務めていたという経歴を持つ《V》は解放戦線きっての武闘派であり、その実力は折り紙つきだった。先月正規軍きっての俊英たる《剛撃》のナイトハルトと五分に戦ったという事実からも、まず遅れを取らないだろうとそう踏んだのだ。
いくらあの男の息子が強いと言っても、それでもナイトハルト以上でなければ《V》が遅れを取ることはまず有り得ないとそう踏んで。
しかし、現実は彼らの想像の上を言った。単純な実力だけによるものかはわからない、されどリィン・オズボーンはいとも容易く解放戦線きっての実力者たるVを破ったのだ。
そしてしばしの間両者はにらみ合う。
解放戦線にしてみれば何としても倒れている同志たちを回収したい。
しかし、リィン達は当然それを許すつもりはない。故にこその均衡状態であった。
そして睨み合っている最中でリィンは確信する、目の前に居る《C》は紛れもない帝都の地下で邂逅したときと同じ人物だと。
リィンが確信した理由、それは《C》の発する闘気だ。皆伝に至った事でより研ぎ澄まされたリィンの感知能力が告げているのだ、これは紛れもないあの時と同じ人物なのだと。
故にこそ、此処で逃す事は出来ない。Gはすでに亡く、Vは確保した。残る幹部は眼前の二人のみ。
ここでこの二人を捕らえるか、仕留めるか出来れば解放戦線は事実上壊滅するのだ。
張り詰めた空気の中、今まさに激突せんとしたその刹那
「ええい、待てと言っているに聞けんのか!」
そんな怒声を挙げる領邦軍と意に介さない鉄道憲兵隊がその場へと乱入してくる。
誰もがほんの一瞬、そちらに意識をやったその刹那リィンは弾かれたように動き出した。
気絶したVの巨体、それを軽々持ち上げたかと思うと、S目掛けて投げつけたのだ。
大事なお仲間なんだろう?ほら、返してやるぞとでも言わんばかりに。
「な!?」
飛来してきた同志の姿、それに完全に意識を奪われたSは反射的にその身体を受け止める。
半ば反射的な行動だったが、Sの背後が崖となっている以上それ以外に選択肢などあろうはずもない。
Sが受け止めなければ、Vの身体は谷底へと転落していき女神の下へと召されるのは確実なのだから。
「
そして爆発加速によって距離を詰めたリィンは、意識と視界を完全に奪われたSの肉体をその抱きとめた者毎両断した。
状況を把握することもなく逝ったのだろう、断末魔さえも挙げる事ができずに憎き仇の最期を見届ける事もできずに鉄血宰相の領土拡充政策によって故郷と家族を失った被害者にして加害者たる女は、憎き仇の息子にその命を奪われて短い生涯を終えるのであった。
「ク……」
形勢の不利を悟った《C》は誰もがリィンの行ったその冷酷な行動に、呆気に取られている間に背後の崖へと姿を消す。同志を失いながらもその仇を取ること無く、撤退せざるを得ない己が身の不甲斐なさに極大の憤怒を抱きながらも。
「全員、射撃開始!」
「「「「イエス、マム!!!」」」
轟音と共に姿を現した飛空艇、それを撃墜するべく鉄道憲兵隊は動く。
当然だ肝心要のリーダーと最新鋭の軍用飛空艇という足を失わければ解放戦線はまた動き出すに決まっているのだから。
愛する義弟の余りの変貌に忘我に陥っていたのも一瞬、クレア・リーヴェルトはすぐさま立ち直り、部下へと指示を下す。
「か、勝手な事をするな!お前たち、何としても止めさせるのだ!!」
「「「「イエス、サー」」」」
だが、なんとそれをあろうことか領邦軍があからさまに邪魔をする。
度重なる妨害に加えて、このあからさまな行為に冷静なクレアが流石に怒りを露にすると
「覚えているが良い!《鉄血の継嗣リィン・オズボーン》!!」
飛空艇のスピーカーより響き渡るのは憎悪に塗れた呪詛の言葉。
「散っていた同志の無念、必ずや私が晴らしてみせる!
ーーー全ての準備を整った、次こそが貴様達の主人の最期だ!!!」
そんな捨て台詞を最期に飛空艇は飛び去っていこうとする。
それにクレアは歯噛みし、領邦軍は安堵する。
帝国解放戦線のリーダーたる《C》を取り逃がすというその事実に。
だが
「いいや、次などない。貴様は此処で終わりだよ、《C》」
放たれるのは鋼の宣誓。お前はこの場で俺が殺すという死神の死刑宣告だ。
そしてその宣言と共に、リィンは鉄道憲兵隊と領邦軍が小競り合いを行っていた間に己の身に纏う焔を全て収束させた双剣を構えてーーーー
「ブレイズ・ストライク!」
焔を収束させた閃光が《C》の乗った飛空艇を飲み込んだ。
クロウが居るのに何で《C》が居るのかって?
ほら、そこにクロウが親しいヴィータ姐さんと親しい変装上手の執行者がいたじゃろう?