解放戦線「えい、えいえい(皇女誘拐未遂、ガレリア要塞襲撃、ザクセン鉄鉱山占拠)怒った?」
リィン「殺す(Vグサリ、Sザクリ、C(?)チュドーン)」
人質にされた鉱員「たった1ターンで3人を! ワンターンスリーキルゥ… 」
鉄道憲兵隊「ヒュー、こいつはえらいハリキリボーイが革新派に現れたもんだぜ」
テロリストの撃墜、それを確認したリィンは元の姿へと戻る。
そして強力な力の代償として激痛がその身に襲いかかるが、それをなんとか堪える。
初めて発動した時に比べればそれは
少し休めば問題なく回復することは前回《血染めのシャーリィ》との戦いで使ったときからわかっている。
(やはり、重要なのは心を強く律する事、そして“敵”という指向性を与えてやることだな)
何度か使用する事でコツを掴んできていたリィンだったが、今回はついに偶発的な物ではなく意図して“力”を使う事に成功した。荒れ狂うような殺意の奔流、それはともすれば自らさえも焼きかねない焔だったがリィンは見事に制御してのけた。
重要なのはその殺意に呑まれない事、そして殺意に指向性を与えてやることだとリィンは確信する。
すなわち殺すべき敵を明確にした上で、殺す事そのものが目的にならぬように自分が何のために剣を振るうか、それを強く思い浮かべる事。
例えばこの力を使いながらも敵を殺さないように留める等というのはおそらく至難を極めるだろう。
心の内より溢れ出す殺意、向ける相手を用意せずに無理に押さえつけようとすれば、待っているのは破滅だ。
際限なく溢れ出す殺意を精神力によって無理に蓋をしても、持ち堪えられるのはわずかな間、やがてはその蓋を吹き飛ばして溢れるか、さもなくば自分という器それ自体が壊れるかだろう。
故に大事なのは誰にその殺意を向けるかを明確にすることなのだ。そうしてやれば溢れ出る殺意は全てその敵手へと向ける事ができる、自らを見失う事も、見境なく暴れる獣になる事もなく。
(師範の仰っていた通り稽古の時に使うのは厳禁だな、これは)
お前は私を殺す気か?と師に冗談めかしながらも言われた言葉を思い出す。
一本とは到底呼べない程度のかすり傷を師に与えて、目覚めた後に懇々と説教を喰らった事を思い出す。
それは断じて稽古で使って良いような能力ではないと。
いや、でも貴方にはそうでもしないと届かなかったではないかと軽くあしらわれたリィンとしては反論したかったものだが……なるほど、こうして使いこなせるようになった今では実感する。これは殺し合いの時以外には使ってはいけない“力”だと。
この力は強力だ、自分の意志に呼応するかのように力が溢れ出てくる。自らの限界を突破してどこまでもどこまでも、高みへと到れる心地よさ、それは何者にも代えがたい快感だ。
解放戦線の幹部を壊滅させたという功績を打ち立てながらもリィンの心に一切の緩みはない。さらに次の戦いを見据えて飽くなき向上心を燃やし続ける。
「き、貴様どういうつもりだ!」
余りにもあっけない解放戦線の最期、そのショックから立ち直った領邦軍はリィンを取り囲み詰め寄りだす。
「いくらテロリスト相手と言えど、問答無用で撃墜するなど!
それだけではない、何故このような場に居る!場合によってはただでは済まさんぞ」
その声は上ずり震えていた。取り囲む兵士達にも怯えの色が見える。
そう、領邦軍はリィン・オズボーンを恐れているのだ。
もしも、激昂して目の前の敵が先程テロリスト相手にやったように自分たちに襲いかかってきたら?彼らではとてもではないが太刀打ちできない。呆気なくその死骸を晒すことになるだろう。
故にこそ領邦軍は恐怖している、それは平然と冷酷極まりない行動をやってのけた、得体の知れない怪物を前にした人としての根源的な恐怖であった。
「は、順にお答えさせていただきます!」
しかし、返ってきたのは見事な敬礼とハキハキとした返答。内心はともかく儀礼的には上官に対する礼節を完全に遵守した態度であった。
「まず第一の質問に対してですが、当然ご存知かと思いますが、帝国解放戦線についてはすでに政府より“生死を問わず”捕縛しろとの通達が出ております。
テロリスト共はリーヴェルト大尉らの
言外に
その言葉に流石に先程の行動は余りにもあからさま過ぎたと自らの失態に気づいたのだろう、領邦軍の士官はどこか後ろめたい表情を浮かべる。
「そして二つ目の質問に対してですが、これはRFグループの会長イリーナ・ラインフォルト氏からの依頼によるものです」
「イリーナ氏の依頼だと?」
「はい、領邦軍に人質の救出を依頼したがどうにも動きが鈍い、故にどうか我が社の社員を助けて貰いたい。社員というのは会社にとって何者にも代えがたい宝なのだからと、そう仰っておりました」
「イリーナ会長がそんな事を……」
「冷たい人だとばかり思っていたが……」
救出された鉱員たちの驚く様子にリィンはイリーナ会長への義理立てを果たせた事を確認する。
領邦軍の反感を喰らう覚悟で社員の安否を案じ、行動した冷たい人に見えるが実は社員思いの人というイメージ像の流布。
それが今回イリーナ氏にリィンが提示したメリットだ。ザクセン鉄鉱山で働く鉱員たちは前会長であるグエン氏に比べて、イリーナ会長は冷たい人だという不満を抱いていた。
無論、イリーナ氏はその程度のささやかな不満や悪口など意に介さない、そこが余計に冷たい人という印象を加速しているのだが、されど、こういう末端の不満というものを案外馬鹿にならないものだ。積もり積もって暴発すればストライキ等といったことにも繋がりかねない。
故にこそ、リィンの発言は活きてくる。自分たち末端の社員がどうなろうと意にも介さない冷血人間と思っていた会長が、領邦軍に睨まれる危険性を犯してまで救出に動いてくれたという事実、それは命を救われた者たちにとっては大きな意味を持つだろう。
今後不満を抱くような事があっても、「でもアレで俺達を助けるために頑張ってくれたんだ。冷たく見えるけどきっと不器用なだけなんだ」等と彼らは好意的に解釈してくれるといった具合に。
騙しているようで少々気が咎めるが、イリーナ氏が例えポーズであろうとリスクを背負って彼らの救出に動いたことは事実と言っていいので、まあこの程度は構わないだろう。
「以上が私の返答になりますが、何かご不明な点はございますでしょうか?」
「ぐ……だ、だが如何にイリーナ氏の依頼であったと言えど、未だただの学生に過ぎない身でこのような勝手な真似をして……」
「勝手な真似とおっしゃいますが、それは貴方方とて同じ事でしょう」
一転、それまでのうやうやしい態度からリィンは鋭い眼光で領邦軍を睨みつける。
「ザクセン鉄鉱山はアルノール家の直轄地です。故に本来であれば貴方方領邦軍にも入り口を封鎖して、鉄道憲兵隊を締め出す権限などなかったはずだ。
にも関わらず、貴方方は鉄道憲兵隊の介入を一切拒んだ、まあそれ自体はこの地を護る者としての意地だと理解しましょう。
しかし、未だ
ーーー少なくともリーヴェルト大尉率いる鉄道憲兵隊が最初から事件に対応していれば、我々が動く必要などなかったでしょう」
告げられたこれまで幾度も経験した、未だ自分はただの学生に過ぎないという言葉。それをリィンは逆手に取る。
たかが学生に過ぎない自分が出来たのだから、領邦軍に
そしてそのリィンの言葉に鉄道憲兵隊の面々は良くぞ言ってくれたと得意気な顔を浮かべ、鉱員達は恨みのこもった視線を領邦軍へと向け、領邦軍は忌々し気にリィンは睨みつける。
実際のところ領邦軍がリィン達と同じ事が出来たかは極めて怪しい。
リィン・オズボーンは紛れもない俊英だ、十年に一人の逸材とそう軍の高官が彼を評したのは決してただのリップサービスではない、紛れもないリィンの才幹が為し得たものだ。
そして死の淵からの生還による覚醒を果たし、通商会議にも同行してその経験を余さず糧とした彼のその能力は、到底ただの学生如きとはそう呼べない水準だ。
しかし、それでもリィン・オズボーンは未だただの学生に過ぎないのだ。故にこそ領邦軍はリィンの言葉を否定できない、否定すればそれは即ち自分たちはたかが学生如きに劣る無能者ですと宣言するに等しいからだ。
さりとて、自分たちとて出来たに決まっているとそう豪語することも出来ない、それを言えばならば何故
それは即ち自分たちがテロリストと手を結んでいたと宣言するにも等しい行為、いくら裏では公然の噂になっているとは言え、それを表立って肯定など出来るはずがない。
故にこそ領邦軍は何も答える事ができない、ただ目の前にいる“生意気な黒髪の
そしてクレア・リーヴェルトはその光景に舌を巻く。
イリーナ・ラインフォルト氏の依頼という大義名分を用意し、その代わりにイリーナ氏には鉱員からの支持というリターンを与える。
その上で鉱員たちには自分たち革新派側が必死に彼らの救出を試みたが、領邦軍がそれを邪魔したのだと告げて領邦軍への反感と自分たちへの好感を同時に植え付ける。
更には士官学院生という自らの弱みである脆弱な立場を逆に領邦軍を袋小路へと追い込むために利用する。
完璧と称してなんら差し支えない行動だ。
(いい加減、認めないといけませんね。もう彼は子どもではないのだと)
単に強くなっただけではない、権威を利用する強かさ、周囲を取り込む扇動能力そういった物をリィンは既に身につけつつある。
ほんの半年前ケルディックで会ったときはまだ大人になりつつある、背伸びをした子どもという印象だったというのにあの頃とはもはや別人と言って良い。
そしてクレアは心する、いい加減自分も義弟離れをしなければならない時期が近づいてきたのだと、言いようのない寂寥感を覚えながらも、そう自分に言い聞かせる。
一触即発でにらみ合う両者だが、余裕が無いのは領邦軍の方であった。
何せ領邦軍は先程のリィンの為した冷徹極まる行動を目撃して、その心に“恐怖”を植え付けられた。
故にこそ力ずくで強引に拘束するという行為に対してどうしても二の足を踏む。
さりとて言い負かされたままに退くというのは領邦軍の沽券に関わって来る。
そんな風に、如何にして鉄道憲兵隊とリィンたちを追求するかという攻めの姿勢から、如何にして面目を保ってこの場から退却するかという及び腰に領邦軍がなっていると
「双方それまで。この場は私が預からせてもらう」
現れたのはこの国において最も尊き血を宿す金色の髪を有する青年。
ザクセン鉄鉱山の真の所有者たるアルノール家に名を連ねる、オリヴァルト皇子であった。
一斉に跪く一同に対して皇子は普段の気さくな態度とは異なる、上に立つものとしての威厳と風格を纏いながら皇帝陛下の代理人としてこの場を預かる事を宣言。
リィン達の行動をたしなめつつもその献身と行いを讃え、リィンに対しては「流石は私の護衛を務めるミュラーと同じく守護の剣の皆伝者だ」と称賛する事で彼は特別なのだから、彼に出来る事が出来ないからと言って恥じ入ることはないとばかりに領邦軍へのフォローを入れた後、領邦軍に対してこの場よりの撤収を指示する。
その言葉に面目を保たれた形の領邦軍は速やかにその場より撤収。オリヴァルト皇子の指揮下に入った鉄道憲兵隊によって事件の収拾を図るのであった。
そして状況調査の結果、リィンに撃墜された飛空艇より《C》と思しき存在の遺体が発見。
幹部であるVとSの死亡と併せて、帝国政府は
《C》と思しき存在の遺体は結社脅威の技術力によって用意されたダミーです。
るろ剣で外印さんが用意したアレみたいな感じです。こういう時に結社脅威の技術力は本当に便利です。
ちなみに今回の件でオズボーン君は
イリーナ会長からの評価がぐーんと上がりました。話が早くて合理的なメリットを提示してくるやり方が気に入ったようです。
アリサからはぐーんと下がりました。というか彼女は恐怖を抱きました。