(完結)鉄血の子リィン・オズボーン   作:ライアン

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ちなみに今作だとザクセン鉄鋼山での一件のときに領邦軍がリィン君の方にばかり注目が行っていたために、その後ろにいた他のメンバーはおまけ程度の認識でゼリカさんの存在に気付いていません。
そのため今作ではゼリカさん、トールズ休学イベントが起りません。


束の間の休息(後)

 およそ小一時間の道のりを歩きユミルへとたどり着いた一行を案内したのは、この地の領主の息女たるエリゼ・シュバルツァー嬢であった。皇族からの紹介に加えて、領主の一粒種を救った恩人たるリィン達をユミルの住人は最大級の礼儀を持って饗した。

 時の皇帝陛下より下賜されたという由緒正しき宿泊施設《鳳翼館》へとリィンたちは案内されて、ひとまず持ってきた荷物を下ろすのであった。そして学院祭の出し物をどうするかの打ち合わせを行う後輩たちを尻目に、リィン達5人は夕食までの間に周辺の散策へと赴いていた。

 

 

「……良いところだな」

 

「うん、皆穏やかで幸せそうにしている」

 

 広がる街並みは素朴で帝都や州都に比べるべくもない慎ましやかなものだ。だが、暮らす人たちの姿には確かな笑顔が見える。この地を治めるシュバルツァー男爵の人柄が窺い知れるような良い場所だとリィンは思った。加えて言うのなら妙な懐かしさを覚えるのだ、自分の記憶の限りでは此処を訪れた事はないはずだったが、あるいは記憶にないだけで幼い頃に訪れた事でもあったのだろうか?とリィンは奇妙な感慨を抱いていた。

 

「……帝都も良い所だけど、私たちが数十年経ってお爺ちゃんやお婆ちゃんになったら、リィン君が軍を退役して、子ども達も独り立ちしたらこういうところで静かに暮らすっていうのもきっと素敵だよね」

 

 ポツリと呟いたトワの言葉にリィンは虚を突かれた思いがした。退役、そうだ今の自分には想像もつかないがいずれは自分も引退する時が来るはずなのだ。軍と言う組織はその特性上民間よりも引退する年齢が早い。概ね50歳程度で引退して予備役に編入されるのが一般的だ。将官ならば55歳、頂点たる元帥ならば60歳と引退は遅くなるが、それでもいずれは第一線を退くことになる。

 だがリィン・オズボーンはこれまでそんな先の事を考えたことはなかった。何故ならば彼にとっては軍人となり、祖国と民のためにその身を捧げる事こそが総べてだったのだから。何せ今のリィンは山を登る準備を終えて、いよいよ登ろうとしているところ、頂点にまで登りつめた後の事など考えたこともなかった。

 いや、頂点に上り詰めた後の事ならば考えてはいた、与えられた職責を全力で果たして祖国に永久の繁栄を齎す事、それこそが目的なのだから。だが、頂点の座をいずれ訪れる後進へと譲り渡さなければならない時期と譲渡した後どうするか等と言うのはさすがに思いもよらなかった事だ。

 引退して老人となった自分、それはリィンにとっては中々に想像し辛いものであったが……

 

「ああ、そうだな。こういう静かなところで穏やかな余生を送るってのも悪くないかもな」

 

 傍らで微笑む愛しい少女と共に年を取り、日がな一日をゆっくりと過ごす。そんな老後も悪くないかもしれないとリィンは思うのだ。

 

「でも流石に今から考えるには気が早すぎないか?俺たちはまだ20にもなっていないんだからさ」

 

「えへへ、幸せそうに笑っているお爺さんとお婆さんを見たらついそんな事が頭に浮かんじゃなくて」

 

「確かに……俺たちもあんな風に美しく老いる事が出来たら、それは素晴らしい事だろうな」

 

 二人は気付いているのだろうか、さも当然のように自分たちは夫婦となって仲良く連れ添い続ける事を前提とした会話を繰り広げている事に。恐らくは気が付いていないのだろう。

 

「……えーと、二人とも」

 

「もしかして、私たちは邪魔かな?」

 

「……長い付き合いだから忘れがちだけど、考えてみたらお前たちは付き合い始めたばかりだもんな。

 悪かったな気を利かせてやれなくて」

 

 そんな無自覚のままに自分達二人は生涯を共にする事が既定路線のような会話を繰り広げる二人に三人は遠い目をしながら自分たちは飛んだお邪魔虫なのではないかと気を利かせようとするが

 

「?三人とも、何言っているの?クロウ君にジョルジュ君、それにアンちゃんが邪魔だなんてそんなのあるはずないじゃない」

 

 トワは心底どうしてそんな事を言うのか、わけがわからないと不思議がり

 

「ああ、俺たち5人がこうして揃って行動できるなんてのはこれから先どんどん難しくなって来るだろうからな。

 せっかくの機会なんだ、目一杯思い出を一緒に作ろうじゃないか」

 

 リィンもまた一切の衒いなく、お前たちは掛け替えのない友なんだとその想いを伝える。

 そしてそんな二人の様子に三人はひそひそと話をし始めて

 

「なぁおい、どう思うよ。こういえばちっとは慌てるなりするかと思ったらどうやら完全に素でやっているみたいだぜあいつら」

 

「……まあ、以前からどう考えても付き合っている恋人同士みたいな調子だったのに頑なにただの友人だって主張していたから、正式に付き合い始めたらどうなるものやらと思ってはいたけど」

 

「やれやれ、どうやら我々は間近で二人のおしどり夫婦っぷりを見なければならないようだね」

 

 二人っきりになりたいというのであれば、三人が気を利かせれば良いだけであった。

 だがどうにもあの二人は有り難い事にも、今回の旅行は自分達5人での思い出つくりだと思っているようなのだ。つまり全くの無自覚かつ素で二人はああしていちゃついているという事なのだ。

 これではもしも気を利かせて二人っきりにしたら、自分達三人を探そうとするだろう。

 

「えへへ、こんなに素敵なところにみんなで来られるなんて思ってもみなかったよ」

 

「ああ、オリヴァルト殿下には感謝しないとな」

 

 無自覚にいちゃつき続ける3人にとっても大切な二人の篤い友情に独り身たる三人は涙が出そうな喜びと壁を殴りたくなるような衝動に襲われながら、ユミルの街で存分に残り少ない学生生活の思い出を作っていくのであった……

 

・・・

 

 本格的な観光は明日改めてという事で、軽い散策を終えた5人は打ち合わせを終えた後輩達と合流して、夕食前に鳳翼館自慢の温泉へと浸かりに行く。

 

「かーなんというか五臓六腑に沁み渡るねぇ」

 

「クロウ、オヤジくさいよ」

 

 未だ20にもならぬ若者でありながらまるで中年男性のような言葉を漏らす友人に苦笑しながらジョルジュはツッコミを入れる。

 

「何言ってやがんだよジョルジュ、そういうお前の腹だって大概の貫録じゃねぇか」

 

「……それを言われると弱い所だなぁ、一応僕としては動けるデブを自認しているんだけど」

 

 ジョルジュ・ノームとて歴とした士官学院生、厚く覆われた脂肪の奥にはしっかりと鍛えられた筋肉がついている。その体格は単なる肥満と言うよりは、古代ゼムリア時代に神事を司ったとされるRIKISHIと呼ばれる存在に近いものだと言えよう。

 しかし筋骨隆々とまでは言わないまでも、引き締まった精悍な肉体をしている親友に比べればおおよそニッチな需要だという事はジョルジュとて自覚していた。まあどうでもいい大多数にいくら持て囃されようと、本命に振り向いてもらえなければ何の意味もないので、重要なのは彼の意中の存在に需要があるかどうかなのだが……

 

「リィンの方は傷も相まって、なんというかすごい風格だね」

 

 ジョルジュはそうして傍らにいるリィンの方を伺う。入学当時170リジュだったリィンの身長はこの1年と半年の間に伸びて180リジュ程になった。限界まで、否人間の限界を超えて鍛えられたその肉体はしなやかさを伴いつつも屈強そのもので、頬に刻み込まれた傷跡も相まってまず積極的に喧嘩を売ろうなどとは思えない外見となっていた。

 

「体に付けられた傷跡などと言うのは未熟さの象徴であって、別段自慢にするような類ではないが……まあ賛辞と思って受け取っておくよ」

 

 とかく若輩者というのはそれだけで侮られる。敵に侮られる分には一向に構わない、こちらを侮ってくれるというのならその油断に付け込めば良いだけの事なのだから。だが味方、それも部下に侮られては話にならない。親しまれるのと舐められるのとは違うのだから。

 リィンは卒業後には士官として任官する事になる、通常中央士官学院以外の士官候補生は准尉での任官だが、首席卒業者は例外的に中央士官学院と同様に少尉での任官となるため、この調子でいけば少尉での任官となるだろう。そして士官として任官するという事は部隊の指揮官として部下を持つという事である。

 そして兵士たちは耐えず自分の上官は信ずるに足る存在なのかというのを推し量っている。当然だ、彼らにしてみれば上官の有能無能は生死に直結して来るのだから。そしてそんな彼らの信頼を得るにあたって、外見の与える印象というのは馬鹿にならないものだ。

 いや、これは軍隊に限らない。人間というのは外界から得る情報の9割を視覚に頼っている生き物だ、故に外見と言うのは重要視される。例えばトワなどが良い例だ。彼女は彼女で大抵縁の名門トールズ士官学院の次席にして生徒会長というまさしく、才媛と呼ぶに相応しい少女だが、初対面で彼女がそんな才女だと見抜ける者はほとんどいない。実際通商会議の際も、肩書だけ聞いて如何にも出来る美女、例えばクレア大尉のような、と言った外見を想像していた文官団は何度もトワの持つ生徒手帳を確認したと言う。

 一方如何にもといった外見と態度をしているリィンの方は士官学院生と名乗ると大抵の人間が納得した様子を見せたものだった。

 

 このように外見というのは馬鹿にならないものだ、無論トワ・ハーシェルという好例が示すように外見だけで人を判断すれば思わぬところで手痛い思いを受けるのだが、それはそれとして人心掌握という観点からすると決して疎かにしてはいけないものなのだ。

 これを特に熟知しているのが政治家と呼ばれる人種で、彼らは何もただの贅沢で豪奢な服や装飾品を身にまとっている訳ではない。一重に外見の与える印象というものを重視してるからこそ、それに見合った服を身に纏い、言葉や仕草にまで細心の注意を払って、頼れる指導者像、あるいは親しみのもてる指導者というものを演出してのけているわけだ。

 基よりレクターとクレアという二人の師にも教えられていたことだが、通商会談の場で各国代表というこの上ない教師を目にした事でそういった素養も今のリィンは着実に身に付けつつあった。

 だからこそリィンは頬に付けられた傷跡を自らの未熟さに対する戒めと認識しつつも別段悲観してはいなかった。何故ならばこういった顔につけられた傷跡というのは否が応にも目立つから、これだけで激戦を潜り抜けた歴戦の戦士という印象を相手に与えるのに一役買ってくれるわけだ。

 無論実態がそこに伴っていなければ何の意味もないが、これを付けたのはゼムリア大陸において武に携わる人間ならば知らぬ者はいない、かの赤い星座の大隊長である。ある種の箔付には持って来いであった。

 そういう意味で痛ましい表情で見つめる周囲とは裏腹にリィンは全く持って悲観していない、それどころか色々とやり易くなると思っている位であった。

 

 

「うう、僕だけ華奢で何だか肩身が狭いなぁ」

 

 そしてそんなリィン達、そして居並ぶ級友たちの引き締まった精悍な肉体とどうにも恵まれない己の体躯を見下ろしてエリオットはため息をつく。需要の問題で言えば、彼が父のような筋骨隆々になった日には恐らく姉であるフィオナを筆頭に多くの女性が涙を流すことになると思われるので、そのままが良いのだろうが、本人はどうにもそんな男らしくない自分にコンプレックスを抱いているようであった。

 

「そう、気にすることもないだろう」

 

「ああ、俺たちはエリオットの持つ勇気と優しさを知っている」

 

「外見でお前を侮るような阿呆は自らの不明さを自ら晒している事にも気づかぬ度し難い阿呆だ。馬鹿につける薬が存在しない以上、そんな輩は無視するが良いさ」

 

 しかし、そんなエリオットのコンプレックスをⅦ組の友人たちは否定する。入学してから既に半年の付き合い、エリオット・クレイグという少年が争いに不向きな優しい性格な事も、その上で仲間や友のために踏み出すことのできる勇気を持つ少年だと言う事も三人は知っている。故にそんな外見を理由に友人を侮る気など彼らには毛頭なかった。

 ……何よりも学院際のステージに向けてのあの静かな迫力に確かなる“猛将”の血を感じずにいられなかった三人にしてみれば、そういった友情を抜きにしても静かなる闘志を内に宿しているこの音楽家志望の友人を侮ることなど出来ようはずもなかった。

 

「ありがとう、みんな」

 

 そんな友人たちからの気遣いにエリオットは微笑みながら礼を言う。そこには無理をしている様子はない、彼を強引に士官学院に入れたオーラフ・クレイグの願いどおりにエリオットはたくましく成長した。もう血の繋がらぬ兄弟と自分を比較して、落ち込むという事は無くなりつつあった。

 

 そしてそんな光景を見てリィン・オズボーンも胸を撫で下ろす。強引に入れられる事になった士官学校だったがどうやら、そこでの出会いは確かにエリオットにとっての糧となったようだと。

 

・・・

 

「わーい温泉だ、温泉だ」

 

「ミリアムちゃん、走ると滑って危ないから駄目だよー」

 

「はーいごめんなさい、トワお義姉ちゃーん」

 

 そして男性陣がゆっくりと湯に浸かっていると俄かに女湯の方が騒がしくなりだす。どうやら女子たちもまた男子たちにやや遅れて、存分にこの露天風呂を堪能しに来たようだ。

 

「ふふ、寮ではシャワーだったのでこうして皆で風呂に入ると言うのは中々に新鮮だな」

 

「ん。猟兵時代を思い出すかも」

 

「む?そなたの団には女性の団員も居たのか?大体話を聞くのは男ばかりだったが」

 

「そういえば言ってなかったっけ?いい機会だからラウラが興味あるのなら話しても良いけど」

 

「ふふ、よろしく頼む」

 

 どこか落ち着かない様子となり、静まり返る男湯とは対照的に女湯の方は華やかな言葉が聞こえだす。

 

「……ああ、満天下に謳いあげたい。私は今、生きている。桃源郷はここにあったんだ!!」

 

「あ、あのアンゼリカさん……そのいくら同性と言えどそうまじまじと見つめられると恥ずかしいんですけど……」

 

 じっと己が胸を凝視し続けるオヤジの心を持った麗人に対してエマ・ミルスティンが恥ずかしげに頬を赤らめて己が腕でその圧倒的破壊力を持った質量兵器を隠そうとすると、それはタユンと揺れて

 

「…………ブフォー」

 

 そんな仕草がトドメの一撃になったのだろう、アンゼリカ・ログナーは己の鼻腔からその身に流れる尊い(はずの)青い血を吹き出した。

 

「ア、アンゼリカさん!!」

 

「ア、アンちゃん大丈夫!しっかりして!!!」

 

 慌てて駆け寄るアリサとトワ、そんな二人のタユンと揺れる豊かな山脈とまるで動かない平らな双丘をアンゼリカはその眼に焼き付けて……

 

「……我が生涯に一片の悔いなし」

 

 そんな言葉を呟きながらアンゼリカ・ログナーはそのまま湯に沈んでいく。当人にとっては悔いがないのかもしれないが、彼の父ゲルハルト・ログナー候が聞いたら末代までの恥さらしだ!等と叫び、怒りの余り血管の数十本が断裂してそのまま憤死して、哀れログナー家は当主とその息女を両方共失う惨状になりかねないだろう。

 

・・・

 

「ふん、一体何を想像しているのやら」

 

「な、僕は別にいやらしい想像なんてしていないぞ!」

 

 そしてそんな女湯の喧騒が聞こえてきてどこかそわそわと落ち着かない様子となったマキアスをからかうようにユーシスが口にする。ちなみに彼とて健全な年頃の男である以上、全く意識していないなどという事は無くどこか落ち着かない様子となっている。むしろそうして昂ってしまっている己の意識を逸らすためにマキアスという喧嘩相手に矛先を向けたと言うべきであろう。

 

「よし、行くか」

 

 そしてそんな中で一人の馬鹿が決意をその両の瞳に漲らせながら立ち上がる。

 健全でノリの良い年頃の男連中であればあるいは「クロウ!やるんだな、今ここで!」などと言いながらその足跡へと続いたかもしれない、その背中を見て

 

「クロウ、一応友人として忠告しておくけど辞めておいた方が良いと思うよ」

 

「止めてくれるなジョルジュ、男にはな、絶対に引けない戦いがあるんだ」

 

「その言葉自体には同意しておくが、今貴様のやろうとしている事は戦いでもなんでもなくただの犯罪だぞ」

 

 呆れ果てた視線を送りながら二人の友人は全く続こうとはしない。むしろその目は友人ではなく、処刑台を自ら登る罪人を見る蔑みの込められたものであった。

 

「うるせぇ!ゼリカの奴がアレだけ良い思いしているんだ、俺だけお預け喰らってられるかよ!!!」

 

「クロウ、君たちからするとついつい忘れそうになるかもしれないけど、アンは歴とした女性だからね」

 

「うむ、故にあいつが女湯に入ることは帝国法上一切の問題がない。だがお前のやろうとしている事は紛れもない犯罪だ。退学処分とて十分に有り得るぞ」

 

「……お前達との日々は絶対に忘れねぇ。あばよ、ダチ公。それでも俺は行く、桃源郷を目指してな!」

 

 うおおおおおと言いながら走り去っていくその姿をリィンは黙って見送る。ああ、本当にあの馬鹿はどうしてこうもこんなにも予想通りの事をしでかす馬鹿なのかと。

 

「……止めなくて良かったのリィン?」

 

「先ほどユーシスがいみじくも言っていただろう、馬鹿につける薬はないと。心配せずとも、予想通りだ(・・・・・)

 

・・・

 

 恵まれた身体能力を活かしてクロウ・アームブラストは瞬く間に竹製の囲いを超えんとする。

 クロウ・アームブラストは優秀だ。士官学院生としての成績こそそこそこといった程度だが頭のキレ、戦闘力、そして人を率いる能力そのいずれもがその若さに対して不釣り合い(・・・・・)な程に卓越している。

 故にもしもクロウがその全能力を駆使して、覗きを敢行しようとしていた場合、その阻止はこの世代を代表する俊英たるリィンを以てしても一筋縄では行かない熾烈なものとなったのだろう。

 だが、今回のクロウの行動はあくまで突発的なもの。溢れ出す衝動の命じるがままに行った本能に支配された、獣のごとき行動に過ぎない。

 

 故に

 

「ΠЁΘΠ§Ё」

 

 その蛮行を防ぐのには余りに容易かった。

 柵を乗り越えたクロウの視界に映ったもの、それはアンゼリカ・ログナーが辿り着いた桃源郷ではなく、銀色の物体であった。このような事態に備えて待機していた、曰くミリアムと一心同体の頼もしき相棒アガートラムは主の裸体を拝もうとした不埒な輩を忠実に迎撃し、無謀なる馬鹿は黒こげになって落下するのであった……

 

 

・・・

 

 楽しい時間というものはあっという間に過ぎて行くものだ。風呂から上がった後の一行は(ああ、天の国はここにあった等と言いながら、鼻の穴にティッシュを詰めてその美貌を台無しにしていた侯爵家令嬢、ずたボロのボロ雑巾にされた挙句簀巻きにされた馬鹿の姿を男性陣は見なかった事にしてスルーを決め込んだ。)用意された山の幸に舌鼓をうち、遊戯室で楽しい一時に興じたり、めげない馬鹿によって提案された夜這い、もとい女子の部屋への突撃提案を華麗にスルーして翌日に備えて眠りに着くのであった。

 

 そして深夜の2時、3時間(・・・)の睡眠を終えてリィン・オズボーンの意識は常と変らず(・・・・・)覚醒を果たす。

 まるでお前にはもはや立ち止まっている暇などないのだと告げるかのように。こうなることを、仲間たちと一緒にゆっくりと歩んでいくのではなく、独りでどこまでも先に走り続ける道を望んだのはほかならぬお前自身(・・・・)だろう?と告げるかのように。

 そしてリィン・オズボーンは熟睡する周囲を他所に寝る前に枕元に置いておいた資料を読み進め始める。明りは一切ともっていないが問題ない、帝都での一件以降、夜目もずいぶんと利くようになったのだから。明りを点けぬまま、本を読むことも造作もないと。

 このまま5時までこの資料を読み耽り、朝になったら双剣を携えて山の方にでも鍛錬に行く。それで良い、そうすれば周囲はただの早起き(・・・・・・)だと思うのだからと。

 鉄血の継嗣はその羽根を休める一時の休息の際にも、その爪を研ぎ澄ませるのであった……

 




いやーⅦ組や先輩たちの青春真っ盛りな休憩回でしたね!たまにはこういうのも入れないといけませんよね!
何せこれから訪れるのは鋼の意志と肉体が求められる激動の時代なんですから!!!
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