(完結)鉄血の子リィン・オズボーン   作:ライアン

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鉄血の子と夏至祭

「夏至祭期間中の奉仕活動で、ありますか」

 

7月。季節はすっかり夏となり衣替えも行なわれ、夏服に身を包んだリィンは直立不動のまま敬愛する学院長からの指示を復唱していた。

 

「うむ、帝都出身でもある二人は当然良く知っていると思うが毎年この時期は帝都では皇族の方々もご出席される夏至祭が執り行われる。当然ながら警備に万一すらあってはいけない、帝都駐屯の軍総出による厳重な警備が敷かれる訳だが、そのせいで住民への対応が滞りがちになっているというのが帝都庁及び軍の悩みの種でな」

 

「どっかの誰かさんが遊撃士協会を閉鎖したままですしね~」

 

ヴァンダイクの言葉を聞き、サラがとある人物への軽い揶揄を口にする。リィンもクロウとやり合ってその辺への耐性は出来たのだろう。特に食って掛かるような真似はしない

 

「まあそんなわけで我が校に対しても応援の依頼が来ているわけだ」

 

「だが当然ながら猫の手を出すわけにはいかん、大帝縁の本校の名誉を保つだけの品格を持ち、素行に関しても問題がなく、それでいて一週間程度授業を休んだとしても問題がないような成績優良生、そんな者でなくてはならん」

 

くれぐれも遊びにいくわけではないのだぞと釘を刺すようにハインリッヒ教頭は咳払いをしながら告げる

 

「そこで、本校としては君たち両名を推薦したいと考えているのだよ、リィン・オズボーン君、トワ・ハーシェル君」

 

笑顔を浮かべながらヴァンダイク学院長は続けていく

 

「成績は学年次席と首席。授業態度も真面目そのもの、素行に関してもどちらも優良……まあオズボーン君の方はどうやら度々同級生と衝突したりもしているようだが何、その位は若さゆえの元気さというものだろう」

 

尊敬する学院長にそう言われてリィンはクロウとの大喧嘩を思い出しているのだろう、あの時の視野狭窄としか言いようが無かった自らの未熟さを恥じて赤面した。

 

「加えて生徒会の一員として生徒やトリスタの住民の悩み相談にも乗り、解決している奉仕的な精神。以上を踏まえて君たち二人が一番の適任だと我々は判断したわけだ。君たち二人にとっても貴重な体験となると思って居るがどうかな?」

 

ちなみに余談ではあるが、如何にもエリート士官学院生と言った颯爽とした様子のリィンに対してともすると未だに日曜学校に通っていると言ったちびっ子学生さんであるトワの優等生コンビは二人が学院長が言ったように自由行動日等で行動を共にしているのもあって、学院生とトリスタの街でもお助けコンビとして有名になりつつある。

特にリィンはトワと一緒にいると目に見えて表情が優しくなるのも合間って、そういう関係(・・・・・・)なのではないかと言う噂がトリスタと学院には広まりつつあった。仮にリィンが日頃のお礼にトワに花でも贈ろうなどと思い立ち専門家にアドバイスでも求めた日には花屋の店員であるジェーンは一切の悪意なくグランローゼを薦める事であろう。

 

とにもかくにもトワと一緒の時のリィンは一部の貴族生徒に向けるような挑発的な部分や喧嘩早い部分も鳴りを潜め、逆にトワはトワで一人だと士官学院生とは到底思われない風貌をしているため一目で軍属とわかるようなリィンの存在は道理を弁えないような相手を牽制する意味でも必要であり、そんなわけで大よそ二人はリィンとクロウのタッグとはまた違った方向性で名コンビと言えるペアであった。

 

加えて言うならば二人揃って帝都に実家があるというのも+に働いた、学年首席と次席の日頃の頑張りに対する報酬も兼ねた里帰りの機会とまあそんなところであろう。

 

「リィン・オズボーン、喜んで引け受けさせてもらいます」

 

「せ、精一杯頑張ります!」

 

片や如何にも軍属といった綺麗な敬礼を見せる少年と緊張していることが一目でわかる肩に力のはいった少女、そんなどこまでも対照的なコンビを見ながら学院長は笑顔で頷くのであった。

 

 

「へ~二人揃って帝都で無断外泊かよ。優等生コンビもやるもんだ。精々トワが途中で退学しないとならなくなるなんて事には気をつけろよリィン」

 

あの後アンゼリカ、クロウ、ジョルジュという友人達3人へと学院長からの打診の件を伝えた二人に対してクロウはからかう様に笑みを浮かべながらそんな事を告げていた

 

「も、もうクロウ君ってば、私もリィン君も課外活動として行くのであってそういうんじゃないってば~~~」

 

「そもそも無断ではなく学院の了解と推薦を受けている。そして後者については無論そのつもりだ、トワに万一の事が無いように気をつけるとも。夏至祭の時期には色んな人間が来るからな。暴漢の類に狙われるとも限らん……最もトワにだって武術の心得自体はあるんだからそこらの暴漢程度では返り討ちだろうけどな」

 

赤面しながら言うトワに対して冷静に友人が自分たちの身を心配してくれたのだろうと考えて天然ボケでリィンが返す

 

「……いや、俺はそういう意味で言ったんじゃねぇんだけどな」

 

「?ならばどういう意味で言ったんだ。トワの素行の良さはお前も知っているのだから、そういった外的要因以外にトワが退学になるようなケースなど有り得ないとわかっているだろう?」

 

「……もう良いわ、なんでもねぇ。てめぇは相変わらずこういうところでからかい甲斐がねぇな」

 

「?良くわからんがすまない」

 

天然ボケの返しにクロウが閉口する。決して女性に興味が無いというわけではないのだろうが、リィン・オズボーンはこの手の機微に関してトンだ天然ボケをする少年であった。

 

「ははは、リィンは相変わらずって言うか……それにしても帝都か。遊びにいくわけじゃないとはわかっているけどやっぱり羨ましいな」

 

笑いながら仲のいい漫才を繰り広げるリィンとクロウを眺めながらジョルジュがそんな風に口にして

 

「まあ成績優良者である二人に対するある種のご褒美というわけだね。実際は欠席扱いにこそならないとはいえ、二人が休んでいる間も授業は進むわけだから逆に大変だとは思うがね」

 

肩をすくめながらそんな風にアンゼリカが告げると

 

「ああ、帰ってからはそれを取り戻すべく一層奮起しないとな」

 

「そうだねリィン君、精一杯頑張ろう!」

 

怠ける気など毛頭無い二人はより一層の努力を誓い合うのであった。

そんなわけで、すまないけど休んでいる間のノートをまた見せてくれとジョルジュにのみ告げながら……

 

 

「エリオット、リィンが来週帰ってくるんですって!」

 

「リィンが?トールズってこんな時期に長期休暇があったりするの?」

 

もう一人の義弟であるリィンから来た手紙を読み始めたフィオナは見ていてはっきりとわかるはしゃぎようで、そうエリオットへと告げる。

 

「ううん、何でも夏至祭の間の奉仕活動として来るんだって。だから昼間は忙しいけど夜は帰ってご飯食べさせてもらっても良いかですって。うふふ、そんな事わざわざ聞いてこなくたってここはあの子の家だから良いに決まっているのね」

 

腕によりをかけてあの子の好物を作らないとね、ああ、それから学校はどうかとかお友達の事とか一杯お話を聞かせて貰わなくちゃなどと張り切る姉を見ながら、今から見ているだけでも胸焼けしてくるレベルで猫かわいがりされるであろう親友を想像してエリオットは苦笑するのであった。

 

(でも良い機会だから僕もリィンにトールズの話を聞いてみようかな……)

 

「趣味程度ならともかく、帝国男子が音楽で生計を立てるなど認められん」

そう自分に告げて来て、当初希望していた音楽院を諦めて、だがさりとて完全なる軍属として扱われるようなところでは流石にハードルが高いと思い、ある種の折衷案としてトールズへと進む事となったエリオットはそんな風に思いを巡らせた。

 

(最近は名門高等学校って側面の方が大きいって言うけど、リィンが行く事にしたくらいだしやっぱり厳しい学校なんだろうな……)

 

幼い頃から真っ直ぐでオーラフ父さんのような立派な軍人になってギリアス父さんの力になりたいのだと常々言い(その度にオーラフは喜びの涙を流していた)、10歳の頃からは剣術道場へと通う傍らで専属の家庭教師から教えを受けながらひたむきに努力して次席入学を果たした、勤勉や努力家という言葉が服を着て歩いているような様子であったリィンの姿を思い浮かべて、エリオットはそんな風に考える。

 

(父さん……やっぱり僕にもリィンみたいな風になって欲しいのかな……)

 

強い正義感に困っている人がいれば積極的に手を貸す優しさにヴァンダール流中伝という剣術の腕前、常に自信に満ち溢れて颯爽とした様子。非の打ち所の無いエリートというのはリィンみたいな人を指すのだろうなと度々エリオットは思ったものだったのだ。そんな良く出来た義息子に比べれば、音楽などに現を抜かしている自分はあるいは不出来な息子なのかも知れず……

 

そこでエリオットは首を振る。自分の父に限ってそんな事は無いだろうと、幼い頃から惜しみない、思春期になってからは若干うっとおしい程の、愛情を注いでくれた父の姿を思い浮かべて。

だがそれでもと、進路を巡って争った父に対して抱いてしまった隔意のようなものは心の片隅に残ってしまい……

 

「あら、あらあらあらあらあら」

 

そんな風に埒も無い思考をエリオットが巡らせていると手紙を読み進めた姉がそんな嬉しそうな声を挙げたものでエリオットの思考はそこで一旦打ち切られる

 

「姉さん、そんな嬉しそうな声挙げてどうしたの?」

 

「それがねエリオット、以前から手紙に書かれていたあの子の学校での初めての友人のトワちゃんもどうやら一緒に帝都に来るみたいなのよ。うふふふ、未来の義妹になるかもしれない子だもの、失礼のないようにしなくっちゃね」

 

「……リィンには多分そういう気は無い気がするけどね」

 

家庭教師に来ていたクレア姉さん(・・・)となにやらそういうような雰囲気になるたびに決まって「消えろ雑念!未熟!あまりにも未熟!!!修行が足りん!!!この緩みきった根性叩き直していただかなくては!」等とクレアが帰った後に

叫んでヴァンダールの道場へと導力トラムも使わず走っていき、一体何があったのか察せられるボロボロの状態になって帰ってきた親友を思い浮かべてエリオットは苦笑する。

 

(でもリィンがあそこまで褒める位でリィンを差し置いて首席になる位だし、きっとそのトワさんもクレアさんみたいな如何にも出来る女って感じの人なんだろうな)

 

そんな勘違いを浮かべながら、エリオットもフィオナも久方ぶりの家族との再会を待ちわびるのであった。




音楽の道を親に反対されて士官学院に進む事になった実子と
そんな親のまさしく期待通りにエリート軍人街道驀進しようとしている養子って
一歩間違うとギスギスしちゃいますよね、多分

ちなみにオズボーン君の手紙で書いたトワちゃんに関する記述はマジでべた褒めです。
トワちゃんが見たら間違いなく顔を真っ赤にするレベルでクロウとかもからかう気が失せるレベルでべた褒めです。

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