(完結)鉄血の子リィン・オズボーン   作:ライアン

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前々から言っておりますがこの作品はエレボニア帝国の繁栄を最優先する
エレボニア帝国の忠実な軍人たるリィン・オズボーンを主人公としております。
そのため、描かれる内容は帝国寄りのものである事を今一度ご理解頂ければと思います。


かくして鉄血の子は“灰色の騎士”となる

「リィン・オズボーン少尉!参りました!」

 

 心の底からの敬意を伴った敬礼を施しながらリィンは目の前にいる人物へと挨拶する。

 そしてその息子の姿にエレボニアの実質的な最高権力者たる父は鷹揚に頷き

 

「よく来た少尉。状況についてはアランドール大尉より聞いているな」

 

「は。クロスベルの新兵器、恐らくは女神の七至宝に連なるものと推測されるそれによってクロスベルへと派遣した第五機甲師団は壊滅。そしてガレリア要塞が消滅したと」

 

 女神の七至宝。それは早すぎた女神の贈り物と称される、空の女神より人が賜ったとされる古代遺物の中でもひときわ強大な力を持っていたとされる代物である。曰く、それは人を幸福に導くためのものであったが、人という種それ自体が未だその道具を使うに足る器に達していなかったために、女神は人への愛ゆえに一度与えたそれを取り上げたというのである。全ての人が女神の教えを実践するに足る存在へと至れば、女神は再びそれを人へと授け、全ての人が幸福に暮らせる“楽園”と永久の繁栄が、この地上に齎される等というものである。

 良くあるお伽噺、と笑い飛ばす事は出来なかった。お伽噺や伝説というのは往々にして歴史上の出来事が基になって作られているものであり、このゼムリア大陸では古来よりそのお伽噺を裏付ける、現在の技術をはるかに上回る古代遺物が現れるからという実例があるからでもあるが、何よりも大抵の人間は多かれ少なかれ女神への信仰を抱いているからだ。

 

 ゼムリア大陸の人間にとって七耀教会の教えは生まれた時から付き合うものだ。生まれ落ちると同時に七耀教会の聖職者よりの祝福を受け、成長するに従い教会の行っている日曜学校に通いだして基礎的な教養をそこで学び、やがて成長して大人になり愛する人と結ばれる際には教会で式を挙げ、そして老いて死ぬ際には教会で葬式を挙げる。まさにゆりかごから墓場まで付き合う事になるのが、七耀教会と空の女神の教えなのだ。

 それ故大小はあれど、この大陸に住まう者にとって女神への信仰というのは半ば当然のものであり、素行不良の人物であっても教会はともかく空の女神はなんとなく信じているものだし、悪徳を犯した犯罪者であってもやはり漠然と女神の存在を信じているものなのだ。

 加えて、女神の存在を否定した“ある宗教団体”が心ある人間ならば憤りを禁じ得ない、まさに女神を恐れぬ所業を行った事もあり、このゼムリア大陸で空の女神を信じていない者等というのは圧倒的な少数派に属する上にそれを公言しようものなら、まず驚きと不信を以て受け止められるものなのだ。

 

 そして“真面目で素直な優等生”として幼い頃より評判だったリィン・オズボーンは無論の事、そういった圧倒的な少数派に属する人物ではないので、当然女神への信仰心もそれなりに持ち合わせているし、七耀教会の教えもまた基本的には信じていた。故に女神の七至宝についても、世の大多数と同じくおそらくそういう強力な古代遺物が存在するのだろうとは思っていたところで、《騎神》等というこの上ない“実例”へと自身が出会う事になってそれは確信へと変わったのであった。

 

「ならば当然わかるな、今我らエレボニアは紛れもない“国難”にあると」

 

「ええ、そしてそれを乗り越えるために我ら軍人に“勝利”が求められている事も」

 

 射抜くような視線と共に告げられた父の言葉にリィンは重々しく頷き答える。

 

 対共和国に対する防衛の要であるガレリア要塞の消滅、この信じがたい出来事がエレボニア国民に与えた衝撃はとてつもなく大きい。

 国家とはそこに所属する国民に“安全”と“安心”を齎すためにこそ存在する。

 “軍隊”等という金食い虫である暴力機構を何故国家が有するかと言えば、それは“建前”の上では、国民の安全を保障するためなのだ。

 そしてエレボニア国民にとって《ガレリア要塞》は《カルバード共和国》という“東の脅威”より自分たちを護ってくれる“象徴”であったのだ。ーーーそれを失った、いや“属州”であるクロスベルによって破壊されてしまったのだ。

 しかも、先ごろ起こった《赤い星座》によるクロスベル襲撃をよりにもよって帝国政府の仕業である等と断定され、帝国人が《IBC》に保有していた金融資産を凍結するなどという暴挙を行った上でである。

 帝国にとっては手袋を投げつけられた上に唾を吐きかけられて、頬を思いっきり殴り飛ばされたに等しい行為である。もはや“対話”によって妥協点を探り合うという外交努力でどうにかなる話ではない。この状況でそんな事を言いだしたものまず間違いなく、弱腰だと非難され、その政治生命を失う事になるであろう。

 女神の教えは“右の頬を叩かれたら、左を差し出せ”であるが、事国家の威信においては“殴られたら二度と歯向かう気が起きないように徹底的に叩きのめせ”こそが最善である。ーーー無論、これはそれが出来るだけの力量差が彼我の間に存在する場合の話で、実際はある程度のところで妥協点を探り合う事が重要となってきてそれこそが政治であり外交なわけで、相手が“対等の敵手”たるカルバード共和国であれば恐らくはそういう冷静な意見もそれなりに出たであろう。

 

 しかし、今回それを行ったクロスベルはエレボニアの“属州”、言わばエレボニアの民から見たら“格下”の存在なのである。

 まず間違いなくエレボニアの民は“蛮行”に及んだ秩序の壊乱者である属州に対する正当な裁き(・・・・・)を求めるだろう。

 当然だ、何故なら彼らが信じる祖国とは偉大な大国であり、祖国を守護する帝国軍は大陸最強の存在なのだから。

 そして実質的な指導者たる鉄血宰相ギリアス・オズボーンは当然ながら、弱腰とは対極に位置する強気の外交姿勢と豪腕でもって民からの支持を獲得した人物だ。故にこの状況下で退く事などあり得ない。

 

 軍部もまたそうだ、此処で退けば民の怒りは蛮行を行ったクロスベルからガレリア要塞失墜という“失態”を犯した軍の方にこそ向けられる事となるだろう。

 当然だ、有事に置いて役に立って貰うためにこそ高い金を費やし維持しているというのに、肝心要の有事で役に立たなかったらそれは、一体何のために存在するのかという話になる。

 11年前、小国であるリベールへと侵攻し、まさかの敗北を喫して這々の体で故郷へと帰還した帝国軍の将兵を迎えたのは温かな労いではなく、民からの冷ややかな視線であった。

 小国たるリベールに対する敗戦、その原因を民はリベール王国の奮戦ではなく軍部の失態ととったのである。“格下”と見なされている相手に負けるというのはそういう事だ。

 軍人である事が恥ずかしい事であるとされた、帝国軍人にとっての冬の時代、それを現在軍の中核を担っている人物たちはこの上ない形で脳裏に刻まれている。

 だからこそ帝国正規軍の多くは、そんな冬の時代を終わらせて軍と祖国に威信を取り戻した鉄血宰相を強く支持する。

 再び傷つけられたその威信を回復するためにも帝国軍はその総力を挙げて、それこそ決死の覚悟を以て宰相からの命令(オーダー)を遂行せんとするだろう。

 

 クロスベルの併合、そしてその後に待ち受けるであろう共和国との戦争に勝利すること、それこそが帝国軍に求められる使命である。

 出来るかどうかではない、やらねばならないのだ。それが出来なければ政府と軍は民からの支持を失い、ギリアス・オズボーンの成し遂げてきた数々の改革は全て水泡に帰すこととなるだろう。

 求められるのは絶対的な勝利だ。傷つけられた威信を回復して、民と周辺諸国へとエレボニアの持つ“力”を示す絶対的な勝利。

 そして向こうが至宝の力を持つというのならば、こちらにもまたそれは存在する。

 帝国が開発した最新兵器(・・・・・・・・)たる“灰の騎神”を使い、クロスベルの新兵器を打ち破る事。

 それこそがリィン・オズボーンに課せられた使命である。

 

 自分に何が求められているか、それを全て理解したリィンは決意の炎を燃やして強く拳を握りしめる。

 そしてそんな義弟の姿をレクター・アランドールとクレア・リーヴェルト、血の繋がらぬ義兄と義姉はどこか複雑そうな表情を浮かべたのに対して、血の繋がった実の父親は満足気に見つめて

 

「そういう事だ。我が帝国の誇る超兵器、“灰の騎神”の担い手たる“灰色の騎士”よ。

 お前には、祖国を救う“英雄”となって貰うぞ」

 

 告げられた言葉はさながら神から授けられた託宣の如く。

 リィンは己が右手を左胸に手を当てて頷く。

 それは己が心臓を祖国と皇帝陛下へと捧げるという誓いだった……

 

 

・・・

 

「それで、その記憶の引き継ぎというのはどの程度の時間を要するものだ」

 

 灰の騎神ヴァリマール、その操縦席とも言うべき核の中でリィンは己が愛機へと問いかける。

 曰く、騎神の起動者は歴代の起動者の持つ記憶を引き継ぐ事が出来る。それ故に操縦法の慣熟を驚くほどの速さで進める事ができるし、それだけではなく年齢に不相応(・・・・・・)な様々な技術を持つことが出来るというわけだ。

 例えば、歴代の起動者の中に剣の達人が剣を振るう経験を、大軍を指揮した者がいるならば用兵の経験を、王が居るのならばその経験をといった具合にである。 

 

「個人差ハアルガ、最低デモ数ヶ月程度ハ要スル。

 急激ナダウンロードハ意識ノ混濁ヲ引キ起コス危険性ガ高イ。

 可能デアルノナラバ、デキルダケ時間ヲ掛ケル事ガ望マシイタメ、本来デアレバ年単位デ徐々ニ馴染マセテイク事ヲ推奨スル」

 

 無論、上手い話には往々にして裏があるもの。

 何のリスクもなしにそんな宝を得られる程には甘くない。

 当然、それには大きな危険を伴う。

 記憶というのはその人物を形作るものだ、それを引き継ぐという事はすなわち自我があやふやになる危険性を孕んでいる。

 まして歴代の起動者たちもまた騎神に選ばれた強固な意志を有した存在であり、その記憶は戦いに彩られている。

 下手をすれば記憶が混ざり合ってしまい、自分が何者かを忘却してしまうという事態に陥りかねないだろう。

 故にこそ、慎重に、本来であれば年単位で行う事が望ましいのだが……

 

「そんな時間は無い。一週間でやれ、ひとまず騎神の操縦に関する記憶だけで構わない。」

 

 無論、無茶とか無謀とかそういう言葉を知っていながら平気で無視して我が身を削る英雄(気狂い)はそんな忠告を平然と無視する。

 時間がない、だからやれ。リスクは自分が背負うし、代償は支払うとしても自分なのだからやる価値はある、である。

 

「警告。ソレヲ一週間デ行ッタ場合、貴殿ノ意識ニナンラカノ異常ガ生ジル可能性ハ、99%。極メテ危険ト判断スル」

 

「0でないならば問題ない、やれ」

 

 騎神の操縦が出来る様になること、それは勝負の土台に立つための前提条件である。

 0でないというのならば、事が精神という分野である以上、後は自分の“意志力”の問題というわけだ。

 0でないのならばそれを手繰り寄せて見せる、それさえも出来ずに、己が身を可愛がっていて“英雄”になどなれるはずがないのだから。

 そうしてリィンは願を掛けるように懐より一枚の写真を取り出す。

 自分が何のために力を求めたのか、それを強く意識して己を見失わないようにするために。

 この写真に映る掛け替えの無い友を、仲間を、護るためにこそ自分は戦うのだと強く誓って。

 

 リィンの持った写真、それはユミルの旅行から帰ってきた後にフィデリオに撮って貰ったⅦ組の面々とサラ教官、そしてリィンの掛け替えの無い友たるクロウ、アンゼリカ、ジョルジュに最愛の人たるトワが笑顔を浮かべている集合写真だ。

 そしてその写真でリィンは心からの笑顔を浮かべながら親友たるクロウ・アームブラストと肩を組んでいた。自分たちのこの友情は永遠なのだと、どんな事があろうと、この紡いだ絆は切れないのだと、そう無邪気に信じて……




起動者は歴代起動者の記憶を引き継ぐは当然オリジナル設定です。
クロウがあの若さで狙撃や銃の腕前もスゴイ上にダブルブレード使えばサラ級の腕前で
Cとして解放戦線のリーダーもやっているとかすごすぎじゃね?と思い浮かびました。
これにより、オズボーン君にも獅子心皇帝の人心掌握とか大軍を率いる経験とかをダウンロードさせられるわけですね。

記憶に呑み込まれたら?
「この灰の騎神こそが獅子戦役を終結に導いた獅子心皇帝の魂の宿った機体。すなわちドライケルス大帝は私を選んだのです!私の言葉に背く事、それはすなわち獅子心皇帝に背くも同然という事!」
とか言い出す自分を獅子心皇帝だと思いこんでいる一般人爆誕ですわ

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