(完結)鉄血の子リィン・オズボーン   作:ライアン

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鉄血の子と夏至祭②

「トールズ士官学院所属リィン・オズボーン、参りました。短い期間になりますがよろしくお願いいたします、リーヴェルト大尉」

 

「同じくトワ・ハーシェル、参りました。よろしくお願いします」

 

公私の別をつけるべく普段のクレア姉さんという呼び方からあえてリーヴェルト大尉と呼んでくる弟分と如何にも緊張が伝わってくるそんな弟の友人の少女、そんな二人の敬礼に対して返礼をして、優しく微笑みながらクレアは返答する

 

「はい、二人の着任を確認いたしました。一週間という短い期間になりますがよろしくお願いしますね。それでは二人にこれから一週間何をしてもらうか、ある御方からお話がありますのでこちらへ」

 

そうして鉄道憲兵隊の詰所へと案内された場で今回の依頼人でもある革新派のNO2ともされる大物政治家カール・レーグニッツ帝都都知事と面会するのであった。

 

「つまり、この期間の我々はトールズ士官学院の学生ボランティアと言ったものではなく、あくまで帝都庁の嘱託臨時職員扱いという事ですね」

 

伝えられた内容を復唱するリィンにレーグニッツ知事は頷く。

 

「うむ、君たちの学院での評判はヴァンダイク殿から良く聞いている。これでもトールズの常任理事も務めている身だからね、成績優秀、生徒会活動で学院の生徒達、及びトリスタの住民の悩み解決も行い、さらには新型戦術オーブメント導入のためのテスターまで努めている、大よそ非の打ち所の無い極めて模範的な生徒だとね」

 

「恐縮です」

 

「リィン君はともかく私はそこまで大層なものじゃないですけど……」

 

べた褒めと言って良い知事からの賞賛を受けて二人は照れた様子を見せる。そんなどこまでも真面目で驕りとは無縁な二人に知事は満足げに頷きながらも、少しだけ釘を刺すように告げる

 

「だが、これまで君たちが行なってきたのはあくまで学生としての奉仕活動。まあつまりはボランティアのようなもの。当然やってもらう側としても、こういっては何だがそこまでの期待はせずにあくまで手伝って貰っているというスタンスなわけだ。だが今回は違う、君たちに取り組んでもらう課題は全て住民より正式に帝都庁へと依頼があったもの。当然求めるハードルは高くなり、中には高圧的な者もいるだろう。必死になって解決したのに、「対応が遅い」等と理不尽に詰め寄られる事もあるかもしれない。その辺を念頭に置いた上で行動してもらいたい」

 

これまでリィンとトワのトリスタでの活動はあくまで士官学院生、つまりはまだ未熟な若者に対する依頼だとトリスタの住人達も承知していた。故に出来なかったとしても致し方ない、トワとリィンのコンビはこれまで依頼の達成に失敗した事はなかったが、というスタンスであった。

しかし、今回の帝都での活動は違う、帝都庁の臨時職員、つまりは学生ではなく大人(・・)として扱われるのだ。故に学生気分で取り組んでもらっては困るのだと釘を刺してくるレーグニッツ知事の言葉に

 

「承知致しました。我々はトールズ士官学院だけではなく帝都庁、ひいては革新派に対する評判をも背負っているのだと心得ます。決してその名を貶めぬように取り組みます!」

 

「私もご迷惑をかけないように精一杯頑張ります」

 

重々しく気負った様子で返事をする二人の姿に知事も満足したのだろう、顔を緩めて

 

「まあこんな風に少々脅かさせてもらったが正直その辺に関しては私も心配していないのだよ。トールズの教官陣の太鼓判が推されている上に、私自身も理事として君たちの評判や行いなどは一通り確認させてもらった。その上で大丈夫だと判断したのだからね」

 

そうして緊張を解すように気さくな笑顔を浮かべて、それでは期待しているよと告げてレーグニッツ帝都知事はその場を跡にするのであった。

 

 

「うわぁ……流石に多いねぇ」

 

「ああ、要請の場所を地図に書き込んでいってこの日はこの地区を回ると決めておかないととてもじゃないが回りきれそうにないな」

 

地下道にいる魔獣の退治、行政調査の手伝い、行方不明者の捜索など要請内容を確認しながら二人は地図にメモを記入して行く。

 

「宿泊客の人が昨日出たきり戻っていない……これとか急いだほうが良さそうだよね」

 

「ああ、人命に関わるような物は特に優先させたほうが良いだろうな」

 

流石に慣れたものというべきか二人はそんな風にして順々に段取りと行動計画を決めていく。

 

(どうやら、私は特に必要ではなさそうですね)

 

もしも手間取ったり何をすれば良いのかわからない、または何も考えずにとりあえずは行動あるのみといった様子で始めようとしていたらそれとなくアドバイスしようと考えていたクレアだったが、二人の様子を見てその必要はないと目の前の二人に頼もしさと共に若干の寂しさを与える。

 

「それではリーヴェルト大尉、これより活動を開始致します」

 

そうして粗方方針を決め終えたのだろう、立ち上がり敬礼をしながらそんな事を告げてくるリィンに返礼をして

 

「もしも何か自分たちの手に負えないと思えるような事に遭遇した場合には相談してください。それではくれぐれも気をつけて」

 

そうして張り切りながら出発する二人をクレアは笑顔で見送り、自らもまた職務へと戻るのであった……

 

 

「全くもって人騒がせな、美術部のクララと言い芸術家というのはああいう人種ばかりか……」

 

ホテルよりの依頼で無事行方不明となっていた宿泊客を発見したリィンはそうため息をついていた。必死に足取りを追うために聞き取り調査を行い、足跡を辿って発見してみれば夢中になって一晩中絵を描いていただけという始末。

美術部の同級生が下校時刻に残って作業に没頭していたので声をかけたら「今私に石が語りかけて来ているのだ!邪魔をするなーーー!!!」とノミを持って追い掛け回された記憶を思い出しながらリィンはサンクト地区にあるホテルを跡にしていた。

 

「あ、あははは……で、でも無事で良かったよ本当に。それにそれだけ集中できる位だしきっとすごい芸術家さんなんだよ」

 

「君は本当に優しいな、教師にでもなればきっと生徒の短所を叱るのではなく長所を褒めて伸ばすさぞ良い先生になるだろうな」

 

「それを言ったらリィン君もきっと良い先生になると思うけどなぁ。駄目なところは駄目ってきちんと叱るけど、絶対に見捨てたりせずにどんな生徒にも真摯に向き合う立派な先生に」

 

そんな風に談笑しながら歩いていき、さてそろそろ適当なところで昼食でもと思ったところで何故か見知った声が聞こえて来てリィンとトワは足を止める。

 

「ふふふ、というわけでどうかな子猫ちゃん、この後一緒にお茶でも」

 

「何事も社会勉強ってな。心配しなくても本当にちょっと一緒にお茶飲みながら楽しく喋るだけさ」

 

戸惑いつつも満更でもなさそうなアストライアの生徒二人をナンパしている颯爽とした様子の女性と如何にも慣れているといった様子の遊び人風な男。

見覚えのありすぎる(・・・・・・・・・)二人組を見かけてリィンとトワは絶句する。

 

「ね、ねぇリィン君あれって……」

 

そんなトワの戸惑いの声を聞いてリィンは黙って天を仰ぐのであった。

 

 

「ふふふ、というわけで友人であるリィンが道を踏み外さぬようにこうして帝都へと来たわけさ。私のトワと一緒に外泊など学院が認めても私が認めない!!!」

 

「俺は夢を託した馬の様子を見届けに来たんだが、それまで時間があるからこうしてゼリカと一緒にお嬢様方に貴重な体験をさせてやろうと思ったわけさ」

 

あの後ナンパをしている二人を止めたリィンとトワは四人揃って適当な店で昼食を取っていた。

 

「俺の心配をする前に自分たちの心配をしたらどうだ、今まさしく授業をサボって帝都に来ているなどという大よそ学院生の道から外れたことをしているわけだが」

 

「も~う、アンちゃんにクロウ君もこのままじゃ本当に単位足らなくなっちゃうよ」

 

そんな優等生の二人の言葉にも二人はどこ吹く風とばかりに口笛を吹く。

 

「それにリィン君も私も夜はそれぞれの実家に戻るんだから、一緒に外泊するわけじゃないよ~~~」

 

「お、そいつを聞いて安心したぜ」

 

待ってましたといわんばかりにトワの言葉を聞いてクロウが応じる

 

「なあリィン、お前の養父ってクレイグ将軍だったよな」

 

「ああ、そうだが」

 

「当然家はそれなりの大きさだよな」

 

「狭いなどと思ったことは一度足りとてないな。客人を迎えるための客間もある」

 

「しばらく泊めてくれね?」

 

「却下だ。お前は何を言っている、とっとと学院に戻れ」

 

いやー宿泊費がこれで浮くわーと言った様子で頼んでくるクロウにリィンは絶対零度の視線を向けながら答える

 

「アンちゃんもだよ、もう成績が良いからってあんまりサボっていると来年は私とリィン君を先輩って呼ばなくちゃいけなくなるかもしれないんだからね」

 

アンゼリカ・ログナーは不良生徒だが成績自体は良い、入学時も中間時も大体10~20位の順位を獲得している。

 

「トワ先輩……それはそれで甘美な響きで魅力的だね」

 

どこか恍惚とした様子を浮かべるアンゼリカにトワはため息を漏らす。

 

「まあまあ落ち着いて考えてみろよ、ここで俺らが「確かに学校をサボる事なんていけないことだった!ごめんなさい!今からでも学校に戻って先生たちに謝ります!」なんて言ったとしたらお前らそれを信じるか?」

 

「いや、全く」

 

「あ、何か悪巧みしているなってなるね」

 

「つーわけだ。だったらせっかくだしここはいっちょ一緒に行動して青春の思い出の新たな1ページって奴を刻むとしようぜ」

 

悪びれずにそんな事を笑顔で告げるクロウにリィンは閉口する

 

「明日には必ず帰ることを空の女神と何より我々の友情に誓おうじゃないか。明日は自由行動日なのを考えれば実質サボったのは今日一日、それにしたって今からトリスタに戻るとなれば最後の1限に間に合うかどうか位。だったら一緒に過ごすほうがよっぽど有意義というものじゃないかい?依頼には魔獣退治とかもあるんだろう?戦術リンクシステムのテストの絶好の機会じゃないか」

 

そんな事を堂々と言うアンゼリカに対してリィンは深い、それはもう深いため息をついて

 

「……明日には必ず帰れよ」

 

そう告げながら学院に戻ったら協力してくれたことを話してなんとか目の前の二人に対する罰が軽くなるように教官達にお願いしようと隣のトワとアイコンタクトを交し合うのであった。

 

 

 

 




ジョルジュがハブられていますがコレはジョルジュは学校サボるようなキャラじゃないからというだけであって
決してⅢでの事を根に持っているわけではありません。ありません。

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