そのため年上からの受けは基本的に良いです。
「今日はお招きいただきありがとうございます。トワさんの学友のリィン・オズボーンと言います。彼女とは生徒会で行動を共にして、入学以来多くの事を学ばせて頂いています。彼女と出会えただけで、自分はトールズに進んでよかった、そう思える位の大切な友人です」
そんな風にリィンは柔和な笑顔を浮かべて目の前の友人の家族へと挨拶をする。
美男子と呼んでなんら差し支えのない精悍な顔立ち、鍛えられている事のわかる引き締まった肉体、強い意志を感じさせる瞳、綺麗な姿勢、礼儀正しい言葉遣い。まさしく絵に描いたような優等生の姿にトワの家族であるフレッド・ハーシェルとマーサ・ハーシェルは思わず感嘆の息を漏らす。
「も、もうリィン君ってば大げさだよ~~~」
「大げさなものか、入学以来君には本当に多くの事を教えられた。クロウと和解できたのだって君のおかげさ」
「そんな事ないよ、それはリィン君自身が頑張ったからだってば~」
「そうやって頑張ろうと俺が思えたのは、君が俺に気づかせてくれたおかげさ。君がいなかったらそもそもクロウと和解しようとだなんて事自体思わなかっただろうからな」
柔らかな笑顔を浮かべながらトワを絶賛するリィンとそんなリィンに照れた様子を見せるトワ。そんな光景を間近で見せられて……
「で、二人は何時結婚するのかしら?」
「は?」
「おばさん!!!!」
思わずと言った様子でそんな事を口走っていたマーサにリィンはポカンとし、トワは顔を真っ赤にしながら反応するのであった。
「ふむふむ、それじゃあ二人は入学式の時に一緒に子どもの落し物探しをして知り合ったわけね」
あの後ポカンとするリィンを他所に盛り上がったマーサと顔を真っ赤にするトワと若干収拾がつかなくなったところを流石は夫と言うべきか、フレッドがうまい事にマーサを宥めて落ち着きを取り戻し、帰宅してきた夫妻の息子であるカイ少年を含めた5人で昼食を取っていた。
「うん、そうだよ。最初は親切なお貴族様だなぁって思ったからリィン君の苗字聞いたらビックリしちゃった」
「そりゃそうでしょうね、なんたって
あの宰相と呼んだがその言葉にはかつてのヨアヒムのような憎悪の混じったものではなく、むしろその逆である畏敬の念が込められていた。帝都の平民たちの中での鉄血宰相の支持は絶大と言って良い。
彼らの多くはこの帝国において鉄血宰相の改革の恩恵を一番に受けている存在と言っていいからだ。鉄道網の拡充による輸送の活発化は、首都である帝都に多大なる経済的利益を
司法改革は平民と貴族に区別される事なき、かつては日常茶飯事であり、バリアハートやオルディス等では今でも日常茶飯事であるが、貴族の横暴相手に平民が泣き寝入りせずに済む公正な裁判をそれぞれ平民へと齎した。
統治者が民衆の支持を得るに必要なのは公正な税制度に公正な裁判、そして安定した生活。これらを平民へと齎した鉄血宰相は帝都では絶大な人気を誇る。
皇帝より伯爵位を賜りながらも、あくまで自分は平民であるという態度もその人気を後押しした。オズボーン宰相閣下は自分達平民の味方である、それが中央にいる多くの平民たちの認識であった。
「あ、でもその宰相閣下様のご子息にこんな無礼な態度とっちゃって良いのかしら?」
「そのあたりは彼女に最初に会った際も言いましたがどうかお気になさらないで下さい。父を賞賛していただけるのは息子として誇らしいですが、父の功績はあくまで父の功績です。自分はあくまで彼女と同じ一介の士官学院生ですので、そのつもりで接して頂けたらと思います」
そんな風に柔和な笑顔で親の威光を借りるような奢った態度を見せずに謙虚なリィンの様子にマーサのリィンへの評価はますます上がる。端正な顔立ちに、引き締まった肉体、育ちの良さが窺える礼儀正しさに誠実な態度。リィンは昔からこういった近所の奥様、おばさんと言った層からの受けが非常に良いタイプであった。
「うーむ、本当に嫌味な位に非の打ち所のない子ね。トワ、こんな優良物件そうそう転がってないんだから逃がしちゃ駄目よ」
「も、も~うおばさん、だから私とリィン君はそういうんじゃないんだってば~」
「はははは……」
そんなマーサの言葉をリィンはリップサービスと姪っ子へのからかいだと思って居るのだろう、リィンは笑って誤魔化す。
実際のリィンは非の打ち所のない完璧超人等ではなく、子どもっぽい部分や時折世間ずれした天然な部分などもあるのが大体そういった要素は年上からは愛嬌として見られるのでおそらくマーサからの評価は変わらないだろう。基本的に年長者からの受けが良い男なのである
「ところでリィン君、トワの学院での様子はどんな感じかな?」
放って置くとまた盛り上がり出してしっちゃかめっちゃかになると判断したのだろう、フレッド・ハーシェルはまたもや絶妙なタイミングで話題転換を図った。
「模範生と言って差し支えないでしょう。成績は首席、授業態度も真面目そのもの、品行方正で、困っている人がいれば手を差し伸べる優しさ、彼女のような友人を持てたことを俺の誇りです」
何の衒いもなく一切の偽りなく心からの賞賛をリィンは述べる
「そ、それを言うなら私の方だってそうだよ~リィン君みたいな立派な友達が出来て何時も私も頑張らなくちゃって思って居るんだから」
「うーん貴方達もういっその事すぐにでも結婚しちゃったら?」
仲良くお決まりとなった褒め殺し合いを行う二人を見ながらマーサはまたもやそんな事をポツリと呟く。
「ふん、宰相の息子だかなんだか知らねぇけど、俺はまだお前を認めたわけじゃないぞ、リィン・オズボーン。トワ姉ちゃんはそう簡単に渡さねぇから」
ぶすりとむくれたような様子でそう夫妻の一人息子であるカイ・ハーシェルは告げる
「こーらカイ!お兄ちゃんに対してなんだいその態度は。そんなえらそうな事はもっと真面目に勉強してから言いなさい。このお兄ちゃんはアンタみたいに日曜学校の時に居眠りして先生に怒られるなんて事一回だってなかったんだからね!」
「う、俺は正義の味方の遊撃士になるんだから日曜学校の勉強なんか必要ないんだよ!」
「何言ってんの、お馬鹿な正義の味方なんて危なっかしくてとてもじゃないがみんな安心して任せられないわよ!」
そうして喧嘩し出した二人を他所にフレッドが申し訳なさそうにリィンへと語りかけてくる
「すまないね、リィン君。あの子は昔からトワの事を本当の姉のように慕っているものだから、大好きなお姉ちゃんを取られると思ってきっとすねているんだ。どうか気を悪くしないでくれ」
「お気になさらず。俺も姉が二人居る身です、彼の気持ちはわかるつもりですから」
例えば大好きなクレア姉さんと親しそうにしている男が居たらきっと自分は愉快な気持ちにはならないだろう。この男は果たして姉に相応しいのかと見定めにかかるはずだ。ナイトハルトはリィンにとっても幼い頃から面識がある兄のような存在だったから比較的すんなりと受けいれられたが、おそらく身も知らぬ男だった場合はああはいかなかったであろうとシスコンは我が身に置き換えて、目の前の少年を微笑ましく見ていた。
「なぁトワ、前にトールズ士官学院にしたのは奨学金が充実していて広範な知識が学べるからだって言っていたけど本当にそれだけか?君の優秀さならそれこそ学術院に行って成績優良者への無償の奨学金給付だって十分に狙えただろうに」
あの後談笑しながら食事を終えたリィンはトワの部屋へと案内され、トワはあんまり女の子らしい部屋じゃないと恥ずかしがっていたがリィンはむしろ感嘆していた、そんな事を問いかけていた
「お祖父ちゃんがね、言ってたの。真実を追究するなら都合の悪いものから目を背けてはならないって」
そんなリィンの問いかけにトワは思案するように目を閉じた後に決心したような優しくも力強い意志を瞳に宿しながらそう告げていた
「帝国は昔から武を重んじているでしょう。それは共和国との数百年の戦いが本能的にそうさせたのかもしれない。そして近年では正規軍と領邦軍が互いに争うように軍備を拡張して、革新派と貴族派の対立は激化する一方。……一部ではひょっとしたら内戦になるんじゃないかと囁かれている位」
宰相へと上りつめた鉄血宰相ギリアス・オズボーンはまず自身の支持基盤たる軍部の人事の大規模な刷新を行なった。
彼の擁護をするのならばこの人事は概ね実力に見合ったものであり、将官にまで取り立ててられた平民出身の将校達はまずその地位に見合うだけの実力と見識を有するものであった。だが結果はどうあれ、これにより正規軍とは革新派、ひいては鉄血宰相の息のかかった物となり当然ながら貴族としてみれば穏やかではない。彼らは彼らでそれに対抗するべく自分達の手駒たる領邦軍の増強を行なっていた。
正規軍と領邦軍は本来であれば決して敵対するような関係ではない。領邦軍は地方を守り、正規軍は皇帝の直轄領及び外敵相手からの国土防衛を担っており、協力し合う関係そういう
正規軍の方は軍部において絶大なる声望と威信を誇るヴァンダイク元帥とアルノールの守護者と名高きマテウス・ヴァンダール大将が、領邦軍は光の剣匠と名高くルグィン伯を始めとする中核を担う数多くの将校を弟子に持つアルゼイド子爵がそれぞれ睨みを利かしていなければそれこそ何時些細な小競り合いをきっかけに激突し合ってもおかしくないという有様であった。
だからこそ、そんな状況下でこの国を憂うのならば軍事というものはどう足掻いても避けることは出来ないとトワ・ハーシェルは考えたのだ。
「私たちを守ってくれている軍人さん達を貶める気はないけど“武”も“軍事”もやっぱりその本質は“暴力”だと思うから……そこから目を逸らしちゃいけないってそう思ったんだ。……ごめんね軍人さんになるのが夢のリィン君にこんな生意気な事言っちゃって」
ああ、そういう事だったのかとリィンは妙に腑に落ちた思いを感じていた。大半の人間が何気なく流してしまう自分の“必要悪”という恥知らずにも程があったあの発言。彼女がそこから目を逸らさずに友人である自分と不和を抱えるリスクを抱えても、それを指摘したのは他ならぬそういったものを知り、見極めるためにこそ士官学院へと入学してきたからかと。
「真実を追究するなら都合の悪いものから目を背けてはならない、か」
気がついたらリィンは先ほどのトワの祖父をポツリと呟いていた。
「きっとこれを忘れちゃいけないんだろうな。単なる機械ではない、誇りある軍人になるならば。誰かを守ると言いながら振るう俺の剣も、向けられる側にしてみれば単なる暴力でしかなくて、俺にとっては敵であったとしても、誰かにとっては俺にとってのトワみたいな大切な人であるってことを」
「リィン君……」
改めて心に刻み込む、彼女から言われた言葉を。父の行いによって生まれた
「改めてこれからもよろしく頼むよ、トワ。きっと君が傍に居てくれれば俺は大事な事を忘れずに、見失わずに済む、そんな気がするんだ」
「えへへ、私はそこまで大層な人間じゃないけど……こっちこそこれからもよろしくね」
そうして互いの友情を確かめ合った二人は笑顔でむくれたカイ、にやけ顔のマーサ、微笑ましそうにするフレッドに見送られながら帝都観光へと勤しむのであった……
おまけ~~昨夜のクレイグ家~~~
「と言うわけで明日は午前中は道場に、昼はトワの家に呼ばれていて午後は一緒にトワと帝都を回る予定だから……ごめんね姉さん、せっかくの休みだから姉さん達と一緒に居ようかとも思ったんだけど」
申し訳なさそうに告げるリィンのその言葉に対して
「あらあら、あらあらあらまあまあまあ」
フィオナは何故か非常に嬉しそうな笑みを浮かべていた。そんな姉の様子に困惑するリィンにフィオナはとても良い笑顔で告げる
「良いのよ、気にしないで存分に楽しんできなさい。でもそうね、そのうち私もそのトワちゃんに会ってみたいわ。多分お父さんもそうだと思うけど」
「そういう事だったら冬に帰省した時にでも誘ってみるよ、彼女も長期休暇の際には帰省するつもりみたいだし」
そんなリィンの言葉にフィオナは笑みを深くして楽しみにしているわね、などと告げる。
(リィン、多分自分のやっている事がどう考えてもデートと言われるものだって自覚がないんだろうなぁ……)
そんな親友の様子をエリオットはどこか呆れた様子で眺めていた……
比較的物分りが良く姉の相手としてナイトハルト教官を受け入れられたリィン・オズボーン君13歳「姉さんが欲しかったら俺を倒してからにしてください、ナイトハルトさん!」
オーラフ「良くぞ言ったリィンよ!フィオナが欲しくば我ら親子を倒して見せろナイトハルト!!!」