「それではお二人とも一週間の活動お疲れ様でした。これにて本演習は終了です」
「本当にご苦労だったね二人とも。優秀だとは聞いていたが正直これほどとは思っていなかったよ、私も理事として鼻が高いというものさ」
駅のホームにてクレアと知事はそう笑顔でリィンとトワに話しかけていた。
最終日クレア・リーヴェルト大尉指揮下の一時的な隊員として夏至祭の警備についた二人であったがテロリストによって襲撃されるだのと言った大規模な事件なども起きる事もなく、精々が興奮した人間の喧嘩の仲裁だのと言った程度で演習は大過なく終了した。
より正確に言えばそういった反動勢力の類は夏至祭が始まる前までに情報局と鉄道憲兵隊の連携によってすでに摘発されていたのである。氷の乙女クレア・リーヴェルト大尉とかかし男レクター・アランドール特務大尉、リィンの師でもあるこの二人は巧みな連携によってリィンとトワが行方不明者の捜索や魔獣退治だのと言った仕事に励んでいる間に、反動組織『暁の夜明け』のテロ計画を察知して、これの構成員を拘束していた。
それがリィンには若干気にかかる、今の自分が一介の士官学院生に過ぎないことは百も承知している。だが、それでもそこらの兵士よりは腕が立つという自負がある……端的に言えば彼は敬愛する姉であるクレアに頼って欲しかったのだった。そんな弟分の稚気を察したのだろう、クレアはクスリと笑って
「それにしても頼もしくなりましたね、リィンさん。初めて会った時はこんなに小さかったのに今では背丈も伸びて、今回の最終日での働きも他の隊員達となんら遜色のないものでした。身内贔屓抜きにそう思いますよ」
「あ………」
頼もしくなったとそう言われた瞬間にリィンの心に燻っていたもやもやが掻き消え、弾けるような笑顔で答える
「ありがとう、クレア姉さん!……し、失礼しましたリーヴェルト大尉」
思わずクレア姉さんと呼んでしまったリィンはすぐに自らの失敗を悟ったのだろう、顔を真っ赤にして取り繕うように上官に対する部下の態度に戻ろうとする。そんなリィンの様子をクレアはクスクスと笑って
「もう、演習は終わったんですから何時もどおりの呼び方で構いませんよ。私もそう呼ばれるほうが好きですし」
そうしてリィンはますます顔を赤くしてトールズ士官学院次席の優等生、鉄血宰相の息子という顔からただの少年の顔へとなる。
(なんでだろう……クレアさんはとっても良い人でリィン君と仲が良いのもとっても良い事なのに……)
何故自分はそれを見て奇妙なもやもやとした気持ちを抱いているのだろうか?とトワが自分の思いを不可解に思って居ると
「トワさんも素晴らしい活躍でした。それこそ私の方もすぐにでも
「は、はい!光栄です!!!」
そんな風に笑顔で告げてくるクレアに答えると、先ほどの不可解な気持ちは消えていたのでトワは訝しがりながらもそこで思考を打ち切るのであった。
「はははは、あまりに隙がなさ過ぎて正直私の息子と本当に同い年なのかと少々不安になった物だったが年相応のところを見れて安心しているよ」
「ち、知事閣下……ど、どうかその辺にして頂けると……」
からかうように笑顔でそんな事を告げてくるレーグニッツ知事にリィンは赤面しながら呟く
「私たちと同年代の息子さんがいらっしゃるんですか?」
そんなリィンに助け舟を出すべくトワは話題を変えるべく知事へと質問をする
「ああ、マキアスと言ってね、ちょうどリィン君と同い年になる。親の欲目抜きにしても努力家で自慢の息子なんだが、少々視野が狭い部分があってね。ちょうど来年トールズに進む予定だから合格すれば君たちの後輩という事になる、その時は先輩としてよろしく頼むよ」
「わかりました、その時は先輩としてしっかりサポートさせて貰います!」
「自分も入学当初はそう人の事をいえない有様でしたし、きっとご子息も良き友人が出来れば心配せずともその辺はすぐ解消されると思いますよ」
「ふふふ、そうなってくれれば親としては嬉しいんだが……まあそれも全てはあの子がトールズに受かってからの話だな。こんな事を言っておきながら、もしも落ちてしまう不甲斐ない息子だったらその時は申し訳ない」
そんな風に談笑していると時間が来たのだろう、リーヴス行きの列車の発車時刻となった。最後に改めて二人は知事とクレアへと挨拶して、かくして二人の一週間にわたる特別活動は終りを告げるのであった……
「それで、我が不肖の息子の様子はどうだったかな?君達の意見を聞きたい」
帝都に存在する宰相の執務室にて部屋の主たる偉丈夫はそう目の前の部下へと問いかけた。
「はい閣下、知識、判断力、戦闘力いずれも卓越しており、今すぐに鉄道憲兵隊に入隊したとしてもなんら問題なく務まる水準かと。贔屓目抜きにそう判断致します」
努めて冷静にそうクレアは主たる鉄血宰相へと報告する。
「俺も軽く見たけど、大分肩の力が抜けたっていうか大人になったと思うぜ。以前まではかなりおちょくり甲斐があったんだが、随分とその辺に耐性が出来たみたいだ」
いや~兄貴分としては嬉しいやら悲しいやらなどとおどけた様子でレクター・アランドールが続ける
「にししし、やっぱりおじさんとしてもリィンの事は気になるんだね。なんたって実の息子って奴だもんね」
今度久しぶりに会いに言って見ようかなーとミリアム・オライオンはどこまでも天真爛漫な様子でからかうようにそう口にした
「ふふふ、そうだな。アレは私の息子だ。そのことは隠していないし、周囲もそう把握している。
「閣下……?」
自分の息子だとそう告げた目の前の主、その口ぶりに不穏なものを感じ取ってクレアは訝しがる。息子だと、そう言いながらもまるでその口ぶりは駒を扱うかのようなもので……
「アランドール大尉、例の2月に予定されているクロスベルに帝国より留学生を派遣するという件、進めておきたまえ。対象となる生徒はトールズ士官学院より選抜するとしよう」
「……あんた、一体、何考えてるんだ?」
「ふふふ、何我が不肖の息子の更なる成長の機会を作ってやりたいと、まあそんな親バカな理由だよ。笑ってくれて構わんよ」
「親ばかねぇ、かれこれ6年間も会わずに他所の家に預けっぱなしで良く言ったもんだぜ」
そんな風にしてレクターは肩をすくめた跡に
「畏まりました、宰相閣下。それでは万事ぬかりのないように進めさせていただきます」
あらゆる交渉を成立させてきた敏腕外交官、そんな仮面を被りかかし男アランドール特務大尉はその場を後にする。
「二人も退出してくれて結構だ。ご苦労だったな、今後も期待している」
「それでは失礼致します」
「それじゃあまたね~おじさん」
そうして部屋に一人となったオズボーンは立てかけていた写真をわずかな間だけ眺めると再び執務へと復帰する。立てかけてあった写真には亡き妻カーシャが優しく赤子のリィンを抱く姿が映っていた………
というわけでオズボーン君には2月にクロスベルに留学してもらうことにしました。
なんでかって?併合される前のクロスベルの様子知っていて
特務支援課との面識とかもあったりするほうが、より併合した時の葛藤が大きくなるじゃろ?
まあ次回は学園祭をやるつもりなのでクロスベルに行くのはまだ先ですが。