(完結)鉄血の子リィン・オズボーン   作:ライアン

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鉄血の子と学園祭②

 学園祭の準備が徐々に始まる中、久方ぶりに集まった5人は各々のクラスの出し物について話し合っていた。

 

「へ~それじゃあⅠ組は演劇をやるんだ」

 

「アンがドライケルス大帝でリィンがロラン卿だっけ?確かに中々に嵌り役かもしれないね」

 

「特にお前なんて普段の通りにやっていれば多分そのまんまだろ」

 

 二人からⅠ組の出し物の内容を聞いた三人はそんな風に口にする。

 

「Ⅲ組は機械を使ったアトラクション、Ⅳ組は猫喫茶だっけか?」

 

「うん、せっかく技術畑の人間が集まったクラスなんだからその長所を活かそうってなってね」

 

「うううう……恥ずかしいなぁ……クロウ君の悪乗り提案にみんな乗っちゃって……当の張本人は出し物の総指揮を取る実行委員だからって逃げるし……」

 

「ふふふ、良くやってくれたクロウ、グッジョブだ!」

 

 恥ずかしそうにするトワに対してアンゼリカは提案した元凶へと爽やかな笑みを浮かべながらその行いを褒め称える。

 

「出し物の総指揮か、お前はこの手のイベントは得意そうだものな」

 

 お祭り男というのはまさしくこういう奴のためにある言葉なのだろうなどと想いながらリィンは苦笑を浮かべる。

 

「ふふん、まあな。で、実は相談っていうか提案があるんだけどよ」

 

「提案?」

 

 訝しがるリィンに対してクロウはとても爽やかな笑みを浮かべて

 

「俺たちで演奏会をやろうぜ」

 

「お前は何を言っているんだ」

 

 学園祭の準備が始まり出して皆多忙を極めていた。当然である、普段の活動に学園祭の準備などと言うものが加わっているのだから楽なはずがない。特に生徒会にも所属しているリィンとトワの忙しさなど殺人的なスケジュールと言っていい、そんな中でのこの突然の提案。思わずリィンは相手の正気を疑い真顔で聞き返す。

 

「だから、演奏会しようぜ演奏会。俺たち5人でよ」

 

「……何がだからなのかがさっぱりわからないんだが順を追って説明してくれないか」

 

 何時になく爽やかな笑顔を浮かべてそんな事を言ってくるクロウへと困惑した様子でリィンは問いかける。

 

「2年の先輩達見ているとさ、進路だのなんだので色々と忙しそうだよな」

 

「ああ」

 

「特にお前とトワは多分会長と副会長になるだろうから目茶苦茶忙しいよな」

 

「決まっているわけではないが、まあ順当に行けばおそらくはそうだろうな」

 

 首席と次席、生徒会役員として活動している実績、教師陣からの評価、それらを客観的に分析してそうなる確率が高いとリィンは踏む。自分とトワ、どちらが会長になるかはわからないがおそらくこのまま行けば自分達二人が来年は会長と副会長になるだろうと。

 

「そうなると来年この5人で何かやろうと思っても中々出来ないわけだ、だったら今年やるっきゃねぇだろ!青春の思い出を5人で作ろうぜ!!!衣装の調達に関しては俺に任せてくれて良いからよ!」

 

「いや、しかしだな……」

 

 今のリィンは本当に忙しいのだ、ロラン・ヴァンダールという偉大なる先人を演じる事になったリィンは糞真面目にロラン関連の史書を読み漁り役作りに取り組んでいた。やると決めたからには全力でやるのがリィン・オズボーン、手抜きをする気など毛頭ない。それに加えて生徒会も当然ながら大忙しで、それでいて学業と鍛錬を怠るわけにもいかない。そんな状況でさらにライブをする余裕など……

 

「ふふふふ、面白いじゃないか。私は乗ったよクロウ、振り付けなどは私が考えさせてもらう」

 

「導力楽器に関しては僕がなんとか用意してみせるよ」

 

 そんな風にクロウの提案にアンゼリカとジョルジュが思いの外乗り気な様子を見せる。

 

「良いのか?二人だって暇なわけじゃないだろう?」

 

 ジョルジュはⅢ組での機械を使ったアトラクションの製作の総指揮、アンゼリカは言わずと知れた演劇での主演である。特にアンゼリカの方はドライケルス大帝の幼い頃からのファンであるどこかの誰かさん(・・・・・・・・)からの熱い演技指導が入っており、他のクラスメイト達はその誰かさんの意外な一面に困惑させられていた。

 

「そう思うんだったらもう少し手心というものをだね……」

 

「却下だ。かの獅子心皇帝陛下を演じる以上手抜きなど一切許されん。全力でやれ、お前はやれば出来る女だアンゼリカ」

 

 有無を言わさぬその口調にアンゼリカは珍しく深々とした様子でため息をつく。

 

「あははは……アンの方はともかく僕の方はまあ何とかなるよ。みんな優秀だからね、それにクロウの言うとおりせっかくの機会なんだ、この奇妙な縁で知り合った5人で、大切な友達たちと一緒に思い出を作れたらって想うんだ」

 

 出会ってからの出来事(主にサラ教官にしごかれたり、サラ教官に無茶振りされたりなどである)を振り返りながらジョルジュは感慨深そうにそう口にする。

 

「わ、私も!せっかくだからみんなと一緒にやってみたいな!きっとクロウ君が言ってたように出来るとしたら今年だけだろうから!!!」

 

 意を決したようにそう告げるトワの様子にリィンも苦笑して

 

「やれやれ、みんなしてこう言っているのに何時までも反対していたらそれこそ空気の読めない奴みたいじゃないか。わかったよクロウ、俺だってこの5人でせっかくだから何かやってみたいって想う気持ち位はあるんだからな。だが演奏会と言われても俺は楽器なんてほとんど弾けないぞ」

 

「わ、私も楽器の方はからっきし……」

 

 そんな事を言う二人にクロウはチッチッチと指を振って

 

「心配するな、その辺はちゃんと考えてあるって。ずばりお前達にはボーカルをやってもらう。まさか歌が歌えないって事はないだろ?」

 

「そ、そんなに自信があるわけじゃないけど……」

 

 おずおずとした様子でトワはそう答えるがこれは常の謙遜というものだろう。

 

「国歌と軍歌ならば無論歌えるぞ。士官学院生にふさわしくその辺でも歌ってみるか?」

 

「アホか!そんなもの歌った日には会場の空気が凍りつくわ!!!」

 

 とんだ天然ボケをするリィンにそうクロウがツッコミ入れるわ。

 

「俺らが歌うのはロックってジャンルだ、聞きなれたジャンルをやったらプロと比較されてきついが目新しいジャンルだったら新鮮なのもあって多少の荒には目を瞑ってもらえるからな」

 

「なるほどね、確かにメアリー教官の指導を日頃から受けている吹奏楽部の演奏もある以上、似たようなお上品な曲をやったらそこと比較されてしまうからね」

 

「技術が稚拙な分は勢いでカバーってわけだね」

 

 合点が行った様子の三人に対してリィンとトワは疑問符を浮かべる。リィンが知って居る曲のジャンルといえば基本授業で習い、クレイグ姉弟が演奏していたクラシック位でトワはそれよりマシと言ったレベルのためにロックというものがどういうジャンルなのか想像が出来ないのだ。

 

「まあその辺の細かい部分は俺らに任せといて、お前達は出し物の申請やっといてくれや。なんといっても一年の誇る優等生コンビだ、お前ら二人だったらきっとすんなり通るだろ」

 

「ああ、二人は色々と忙しいだろうからその辺は私たちに任せておいてくれ。確かちょうどそろそろ生徒会の時間だろう?またおいおい話し合って合間を見つけて練習しようじゃないか」

 

「……まあ確かにこの手のものに関しては俺は門外漢だからな。わかった、任せる事にしよう」

 

「ごめんね二人とも、ちゃんと私も出来る範囲で協力するから!」

 

 何かを通じ合ったように晴れやかな笑顔を浮かべながらそんな風に告げてくるアンゼリカとクロウの二人に若干釈然としないものを感じながらもそうして二人は仲良く連れ立って生徒会室へと向かうのであった。

 忙しさにかまけてこの二人に何から何まで任せてしまったのは痛恨の極みだったと二人が後悔する事となるのは学園の一週間前になっての事である……




トワ会長の性格上多分あの派手な衣装は衣装が届くまで伏せられていて
クロウとゼリカさんが悪巧みした結果なんだろうなぁと想っています。

オズボーン君のライブ衣装は魔界皇子リィンの衣装になります。

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