チャラい次男レクター
真面目な三男リィン
元気一杯愛され次女ミリアム!
仲良し家族鉄血の子!
ルーファス?(パパ以外)知らない子ですね
「拝啓 親愛なるクレア姉さんへ
さわやかな秋晴れの続く今日此頃如何お過ごしでしょうか。
おそらく任務へと励み、お忙しいこととは思いますがお体には十分お気をつけください。
姉さんは何かと頑張りすぎなところがあるので弟としては心配です、ご自愛下さい。
(以下しばらく他愛のない挨拶とクレアに対する気遣いの言葉が並ぶため中略)
さてトールズの卒業生たる姉さんは当然ご存知かと思いますが
10月に本校にて学園祭が開催されます。当クラスはドライケルス大帝の演劇を実施する事となり
私はロラン・ヴァンダール卿と言う身に余る大役を演じる事となりました。
ロラン卿といえば獅子心皇帝の腹心にして武人の鑑とも名高く、その名前を冠した勲章もあるほどのお方です。
(以下ロラン・ヴァンダールが如何に素晴らしい人物かを讃える文章がしばらく続くため中略)
私如きでは役者不足も良い所ですが、それでも精一杯演じさせて頂くつもりです。
また、それ以外にも以前から何度かお話させていただいたトワ・ハーシェル、クロウ・アームブラスト、ジョルジュ・ノーム、アンゼリカ・ログナーら私の最高友人達と一緒に演奏会にも挑戦してみる予定です。
お忙しいとは思いますが、是非ともクレア姉さんにも来ていただけたら望外の喜びです。
それではまたいずれ会える日々を楽しみにしております。リィン・オズボーンより 敬愛する姉へ 敬具」
(頑張りすぎなところがあるから心配……ですか、それはこちらの台詞なんですけどね)
手紙を読み終えたクレアはクスリと笑みを零してそんな風に感慨に浸る。
「お、あいつからの手紙か、なんて書いてあったんだ」
そんな風にレクター・アランドールはクレアへと問いかけると
「あ、クレアの方にもリィンからの手紙届いたんだね。にしし、学園祭で演劇とかやるんだってね、楽しみだなぁ」
学校ってどういう感じのところか前から興味あったんだよねーとミリアム・オライオンが天真爛漫な様子で告げてくる
「……ちょっと待て、お前ら二人には手紙が来ているのになんで兄貴分の俺には来てないんだ?」
例によって大好きなクレア姉さんだけへの手紙かと思っていたらミリアムにも届いていた事を訝しがるレクターへとミリアムはキョトンとした様子で告げる
「だってレクター、リィンをいっつもからかってばかりいたからリィンから嫌われているじゃん。別に今回に限らずリィンは毎月僕とクレアには手紙出してくれていたよ」
ミリアム・オライオンはリィンにとってはある種奇妙な妹のような存在であった。自分よりも幼いにも関わらず父からの信頼を寄せられ、学校に通った経験がないなどと妙に浮世離れしたこの少女をリィンは訝しがったが、そこはミリアムの人徳というものだろう。その天真爛漫な様子に警戒の色はあっという間に消えうせ、今ではリィンにとっては妹のような存在となっていた。
一方のレクター・アランドールはリィンオズボーンの幼い頃の家庭教師の一人である。だが真面目で綺麗で優しいクレア姉さんとリィンからの敬愛を一身に集めたクレアと違い、何かと真面目なリィンをおちょくっていたこの男は若干リィンから苦手に思われていた、決して心底嫌っているわけではないのだが真面目な弟と遊び人な兄貴分、二人はそんな感じの関係であった。
「ミ、ミリアムちゃん……レクターさんも、その……リィンさんも決してレクターさんの事を嫌っているというわけじゃないと思いますよ。ただその何と言いますか……ここぞという時には頼りになりますけど普段のレクターさんは見習っては駄目な人にしか見えないために、真面目なリィンさんとしては素直に尊敬できないだけなんだと思います」
フォローを入れているようでしたたかにトドメを刺しながらそんな事を言うクレアにレクターは肩をすくめて
「やれやれ、俺としては何かと肩の力が入りすぎているから親切なつもりで色々と遊びも教えてやろうと思っただけなんだけどねぇ」
どうにも軍人になるのだと意気込んでそれしか道がないとでも思って居るかのようなさまが痛々しかったから遊び心というものを教えてやろうというレクターなりの気遣いだったのだが、残念ながらそれは余裕のない頃のリィンに対しては逆効果へと働いた。優秀なのは認めるが、何故こんな不真面目な男が父の信頼を得ているのかとそれが当時のリィンの心境であったのだ。
それはさながら父親に褒めてもらいたくて頑張っている弟が遊び呆けているのに自分よりも父から頼られているチャラい兄へと嫉妬するような構図だったのかもしれない。
「ふんふん、ちなみに本音は?」
「あいつが乗ってきてくれればそういう名目であいつを出汁に遊びにいけたんだけどな~あいつが糞真面目だったせいでその辺全然出来ずに毎回真面目に勉強教えないとならなかったわ」
ハッハッハと笑いながら一体どこまでが本音なのかわからない様子でかかし男レクター・アランドールは告げる。……初対面の時にリィンがアレほどにクロウに食って掛かった事とこの虫の好かない兄貴分に近しいものをクロウから感じた事は決して無関係ではないだろう。
「ま、最近のあいつは大分その辺の肩の力抜けたみたいだし、学校を卒業した暁にはその手の店に連れて行ってやるとするかね」
「……あまり、真面目なリィンさんに道を踏み外させるような事はしないでくださいねレクターさん」
真面目な弟を悪の道に引きずり込もうとする兄へと長女はそんな風に釘を刺す。
「何にせよ!楽しみだね学園祭!皆でリィンのところに遊びに行こうね!!!」
そんな末っ子の満面の笑みにクレアとレクターも笑顔で頷き、かくして鉄血の子達は久方ぶりにトールズにてリィン・オズボーンと顔を会わせることが確定するのであった。
「クロウ君!何なのこの露出の激しい衣装!!!」
「クロウ!貴様このふざけた衣装は何だ!!!」
リィンとトワ、優等生二人のそんな怒りの声が木霊する。 学園祭当日まで後一週間という時期になり、どこのクラスも準備が佳境を迎えていた。そんな中合間を塗って練習を重ねていた5人だったが、ようやく届いたステージ衣装、しかしその実物を前にリィンとトワの二人は困惑を、というよりはそれを用意した男へと怒りを露にしていた。
「どうよこれならインパクト十分だろ」
そんな事をウインクをしながら告げてくるクロウへと二人は言い募る
「ふざけるなクロウ!貴様こんなふざけた衣装を俺に着ろというのか!学園祭にはクレア姉さんもオーラフ父さんも、弟分のクルトも来るんだぞ!!!」
「そうだよ!マーサ叔母さんもフレッド叔父さんも来るのに!!!というかこんな露出の激しい衣装着れないよ!!!」
ギャーギャーと喚きたてる二人を見ながらジョルジュはため息を呟きながら横にいるアンゼリカへと話しかけていた
「やっぱりこうなった。だから僕はもうちょっと控えめにしたほうが良いって言ったのに」
「ふふふ、だがクロウの言うとおりにアレならばインパクト十分だ。学院内でも良く知られた優等生コンビがあんな派手な衣装を着るんだ。みんなきっと度肝を抜かれるさ」
「まあそりゃ、確かにそうかもしれないけどね。でもそれにはあの二人の説得をどうにかしないと」
そうしてチラッと様子を窺っているとクロウはふてぶてしい様子で二人を宥めにかかっていた。
「まあまあ落ち着けよ、俺らに細かい部分を一任するって言ったのはお前たちだぜ」
「そ、それはそうだけど……」
「……痛恨の極みだ。まさしく一生の不覚だ」
忙しさゆえに任せっきりしていた負い目のようなものがあるのだろう、クロウにそんな風に言われ二人は押し黙る。
「それによぉトワ、お前の衣装はゼリカとそう変わらないんだぜ。親友にだけ
「そ、それは……ううううう」
ここぞとばかりにアンゼリカはそんなクロウの言葉に乗って哀しいよトワ……私たちの友情がその程度だったなんて……などと援護してそれを聞いたトワがうめき声を挙げる
「わ、わかったよぉ……」
観念したような様子にそう告げるトワにさすがは私のトワだ!やはり私たちの友情は不滅だね!!!などといつものようにトワを抱き締め出す。そんな二人を見てクロウは今度はリィンの方へと矛先を向ける
「で、トワの方がOKをしたのにお前の方は断るつもりか?それでも男か?」
「口車には乗らんぞ。トワの衣装はアンゼリカとお揃いかもしれんが俺の衣装はお前達二人とはあからさまに違うんだからな。わざわざこんな衣装にしなくてもお前達二人と同じ衣装で良いだろう」
というか本当に何なんだこの衣装はとリィンは魔界皇子セットなどと名づけられた衣装を白けた目で眺める
「チッチッチ、わかってねぇなお前がこの衣装を着ることはトワを守る事に繋がるんだぜ」
「トワを守る?どういう事だ?」
「トワを守る」という言葉にピクリと反応したリィンはそんな風にクロウへと問いかけなおす
「良いかリィン、お前が仮に普通の格好をしたとしよう。そうなると学校中の奴らは当然トワへと注目するわな。なんたってトワは学院の連中じゃ知らない奴はいない優等生だ。そんな優等生がこんな派手な格好をするんだからよ」
「……そうなるだろうな」
そもそもその派手な衣装を用意したのはお前だがなどと言いながらジロリとリィンはクロウを睨みつけるがクロウは意に介さずに続ける
「だが、そこでだ。同じく学院生なら知らない者は居ない、絵に描いたような優等生、帝国印の鋼鉄戦車、歩く規則、堅物が服を着て歩いているような鉄血宰相の息子リィン・オズボーンがこんな衣装に身を包んでいたらどうだ!?誰だってそっちに注目するに決まっている、トワの露出がやや強いことなんてゼリカとおそろいなのも合間って流されるだろうさ!!!」
クワッと目を見開きながらクロウはそんな風に熱弁を奮う。
「どうなんだリィン!てめぇはそこまで聞いても我が身可愛さにこの衣装を着ることを拒むのか!違うはずだ!俺の知って居るリィン・オズボーンは、例え自分が汚れる事になってでも大事な奴を守り抜く!そんな尊敬できる漢だったはずだ!!!!」
そういわれてリィンは深く思案するように一度目を閉じて……
「良いだろう、そこまで言うなら引き受けよう。だが覚えていろよ、クロウ。この礼はいずれするからな」
そうしてリィンは開き直る、これを着ているときの自分は鉄血宰相の息子リィン・オズボーンに非ず、魔界皇子リィンなのだとロラン・ヴァンダールを演じるときの役作りのように自己暗示をかける。やるからにはきっちりやるのがこの男の流儀である。
「それでクロウはなんでそこまでしてこの衣装をリィンに着せたかったんだい」
「ククク、なぁに言ったとおりインパクトが抜群だからさ。練習したといっても俺たちは素人だからな、そうなってくるとまず見た目のインパクトで客の心を掴めるかってのは大事だ」
その点優等生コンビが派手な衣装を着るっていうのは抜群のインパクトだろうなどと言った後にクロウは一呼吸置いて
「それにだ、せっかくだから学院の奴らにコイツが存外面白い奴だって事を知ってもらおうと思ってな。勿体ねぇだろ、第一印象だけでコイツの良さに気づけないのはよ」
リィンの評価はクロウとつるむようになって大分柔らかくなったと評判であった。だがそれでも大半の生徒の第一印象に来るのは堅物、真面目、近寄り難いというようなものであった。それは事実ではあるが、決してそれだけというわけではないことを、存外面白い奴なのだという事を良い機会だから学院の連中に教えてやりたいとクロウは遊び心と親友を思う気持ち双方の入り混じった言葉を告げるのであった……
この学院祭を機にリィン君は割りと面白い奴として大分生徒から親しまれるようになります。