(完結)鉄血の子リィン・オズボーン   作:ライアン

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鉄血の子と学園祭⑥

 

「拝啓 尊敬するオーラフ父さんへ

 早いものでトールズ士官学院へと入学して数ヶ月が経っています。

 教官方は優秀な方ばかりで友人にも恵まれて、日々充実した日々を送っています。

 以前の手紙に対するお返事で友人達について聞かせて欲しいという旨の内容を頂きましたので、

 今回は特に日常的に親しくしている友人達を紹介させてもらいます。

 

 一人はトワ・ハーシェル、入学して初めて出来た友人で学年首席の子です。

 彼女の見識の深さには舌を巻かされることがしょっちゅうで、それでいてそういったところを鼻にかけた事もなく

 常に誰かのために頑張れるそんな優しい少女です。彼女といると自分の小ささを思い知らされるようでただただ恥じるばかりです。

 (以下しばらくトワを褒める文章が続くため中略)

 とにもかくにも素晴らしい少女ですので、きっと父さんも気に入るかと思います。

 彼女も帝都の出身と言う事ですので、機会があれば是非一度会って欲しいです。

 

 もう一人はアンゼリカ・ログナー、おそらく苗字から察せられたと思いますがかのログナー家の息女です。

 もっとも彼女は常々勘当寸前の放蕩娘などと自虐しており、実際その様子は尊大さや傲慢さからはかけ離れたものです。

 何より奔放でありつつも根っこの部分に誇り高さを有している尊敬に値する奴です。 

 そんなわけで彼女もまた色々と困ったところもある奴ですが、それでも俺にとっては掛け替えのない友です。

 

 三人目はクロウ・アームブラスト。サボりの常習犯の問題児で時折どうして俺はコイツと友人になれたのかと思う時があります。

 第一印象は正直最悪と言って良いものでしたし、それはおそらく向こうもそうでしょう。

 友人となった今でもやりあうことはしょっちゅうです。

 ただ、それでもコイツと一緒ならば自分は無敵なのだ、誰にも負けない、そんな風に錯覚するときがある位に頼りになる相棒です。

 

 四人目はジョルジュ・ノーム、ルーレ工科大学からの誘いも受けていた程で導力技術の分野に関してはおそらく生涯自分は彼に及ぶことはないでしょう。

 性格も温厚を絵に描いたような男で自分達5人組みの中では大体宥め役に回ることが多いように思います。

 

 そんな形で自分は今、最高の友人達と共に毎日がとても充実しています。

 彼らと出会うことが出来た、それだけで自分はトールズを選んでよかったと心の底よりそう思っています。

 

 だからこそそんな素晴らしい友人達に恥じない己となり

 次に会うときはより大きくなった自分を父さんに見せられたらと思います。

 

 それでは、再会できる日を楽しみにしております。

 

 リィン・オズボーンより もう一人の父へ」

 

注釈:第一級歴史資料灰色の騎士リィン・オズボーンの養父オーラフ・クレイグ中将へと宛てた手紙

   英雄灰色の騎士の学生時代の交友関係、及び養父オーラフとの関係が窺える貴重な資料である

 

 

 

 

「うおおおおおおおリィーーーーーーーンよおおおおおおお!元気にしていたか!!!」

 

 リィンの姿を確認するや否や大柄な赤毛の男性はそう叫びながらリィンへと駆け寄り熱烈な抱擁を行なう

 

「お前の手紙は余さず読ませて貰っているぞ!元気そうにやっているようで何よりだ!!!」

 

「オ、オーラフ父さん……流石に俺もこの年になってコレは恥ずかしいよ……」

 

「何を言うか、親子の久方ぶりの再会なのだ!恥ずかしがる必要などあるまい!!さあこの父にもっと良くお前の成長したその顔を見せてくれ!!!」

 

 そうしてオーラフからの熱烈なスキンシップを受けるリィンはオーラフの背後にいるエリオットとフィオナへと助けを求めるのだったが、二人は黙って苦笑するのであった……

 

 

「ふーむここがトールズか、やはり中央士官学院とは随分と雰囲気が違うのだな」

 

 リィンに学校の中を案内されながらオーラフはそんな風に、先ほどから目に映るいい意味でも悪い意味でも軍属と言った感じの雰囲気を纏っていない生徒の多さにオーラフはそう呟く。

 

「しかし、どうやらお前にとってはそれが+に働いたようだな。随分と良い顔をするようになった」

 

 おっと決して以前までが悪かったという意味ではないのだぞと慌てた様子を見せながらオーラフは優しい瞳でもう一人の息子を見つめる

 

「手紙にも書いたけど最高の友人に恵まれたからね。此処に来て良かった、心からそう思っているよ」

 

 そんな風に友人達を誇る笑みを浮かべてリィンは答える

 

「そうか……そういった友人はきっとお前にとって生涯の宝となる、大事にするのだぞ」

 

「うん、そうするよ。きっとあいつらとは学院を卒業して進路が別々になっても、それこそ俺が爺さんになるまでずっと付き合いがある、そんな気がするんだ」

 

 しみじみとそんな事を言う息子の姿にオーラフは胸を撫で下ろす。10歳で軍人になると宣言して以来、ひたむきに努力をしていたリィンの事を無論オーラフは誇らしく思っていたが、それと同時にエリオット以外の同年代の友人の姿が見えなくなってしまったことを彼は危惧していたのだ。

 共に青春時代に切磋琢磨しあった同年代の友というのは生涯の友となる、それをオーラフ自身も実感していたのである。

 

「そういえばリィンよ、今回何でもロラン・ヴァンダール卿を演じるそうだな。ふふふ、楽しみにしているぞ。きっとお前ならそれこそ将来は彼の名を冠した勲章を生きたままに授与されることとて不可能ではあるまい」

 

 獅子心皇帝ドライケルスは自らの命を救ってくれた幼少期からの唯一無二の友ロラン・ヴァンダールへと報いるために即位後彼の名を冠したロラン・ヴァンダール勲章を作った。この勲章は皇族の命をその命と引き換えに救った死者へと送られるのが慣わしで、存命でこれを送られたものは帝国の歴史においても数えるほどしかいない。

 授与されたものはアルノールの忠実な盾にして剣と呼ばれ、皇族から全幅の信頼を寄せられていることを示すものである。

 帝国の武人においては国難を救った者へと送られるリアンヌ・サンドロット勲章に次ぐ最大級の栄誉とされ、この勲章を有しているものが仮に平民出身であった場合同時に帝国騎士の称号が送られる事が慣わしとなっている。

 存命の帝国人でこれを有しているのは生きる伝説ヴァンダイク元帥、アルノールの守護者マテウス・ヴァンダール大将、光の剣匠ヴィクター・S・アルゼイドらわずか3人であり、目の前のこの養父名将オーラフ・クレイグでさえ未だそれを得ていない。

 

 つまりはリィンならば自分を超えてその3人と並ぶほどの存在になれる、そうオーラフは言っているのだ。そんな養父の期待を受けてリィンは苦笑して

 

「流石にそれは恐れ多いけど、それでもロラン卿の名を穢すような演技だけはしないつもりだよ」

 

「はっはっは、楽しみにしているぞ」

 

 それは演劇の事を指していたのか、それとも息子が自分を超える男となる事を指していたのか、おそらくは両方の意味だろう、オーラフはそんな風に告げながら豪快な笑みを浮かべる。

 

「ふふふ、私はステージの方も楽しみにしているけどね」

 

「あ、僕も。リィンがステージをやるなんて想像してなかったから驚いたよ」

 

 聞くのはともかくやるほうに対してはとんと関心を向けていなかったリィンの様子を思い出すかのように二人はそんな事を告げる。

 

「ま、まあ二人の期待に沿えるかはわからないけど、友人達とそれなりに頑張ったつもりだから、それなりに楽しんでくれれば良い。ただ普段クラシックをやっている二人からするとなじみがないかもしれないし、なんなら劇を見たら帰ってくれても良いぞ、うん」

 

 そんな二人の期待を受けながらリィンは何かを誤魔化すように明後日の方向を向きながらそんな事を告げるのだった……

 

 

 




勲章の設定部分は当然ながら完全に捏造、もといオリジナルです。
多分ロラン・ヴァンダールの墓碑名にはただ一言「我が友」とか書かれているんですよ、きっと

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