当然何度も演劇の題材とかにもなっていて、二人のラブロマンスとかもこれでもかって位に描かれていると思うんですよね
アリアンロードさんはその辺についてどう思って居るんでしょうね
「ロラン、私はこの血に流れる責務を果たそうと思う。付いて来てくれるな、友よ」
男装の麗人と化したアンゼリカが演じる獅子心皇帝、否この時はただの庶子の皇子であったドライケルス・ライゼ・アルノールがそう告げる
「この命、尽き果てるまで」
そうしてリィンが演じるロラン・ヴァンダールは目の前の主君に恭しく跪く。
学院際も佳境となりリィン達の所属するⅠ組の演劇「獅子心皇帝」がトールズの講堂にて行なわれていた。演劇の出し物自体は帝国ではもはや幾度となく行なわれた定番物、獅子戦役及び帝国中興の祖と謳われるドライケルス・ライゼ・アルノールの英雄譚を主軸に描かれた作品である。定番故にそれはともすると目新しさのない退屈な物になりかねなかったが……
「殿下お下がりを!ここはこの私が引き受けましょう!」
「リアンヌ殿、貴殿も殿下と共に引いてくれ。あなた方二人はどちらも帝国に必要な方なのだ!ここは俺が引き受ける!!!」
「いいや、リアンヌ!ロラン!私はどちらも犠牲にする気など毛頭ない!三人一緒に此処を切り抜けるんだ!!!私たちならば出来るはずだ!!!」
そこは全員が軍属である士官学院生だからこそ出来る迫力のある殺陣シーンでカバーをする。また男装したアンゼリカ、リィン、フリーデルの三人が綺麗にドライケルス、ロラン、リアンヌの主役格三人のイメージ通りなのも合間ってそれ相応に見応えのあるものへと仕上がっていた。
そうして劇は順調に進行して行き……
「ドライケルス……どうやら、俺は此処までのようだ……どうか、どうかこの国を……」
「ロラン、目を開けろロラン!ロラーーーーーーーーン!!!!」
その過程でドライケルスは唯一無二の友であったロラン・ヴァンダールを失い
「ドライケルス、貴方を愛している」
「ああ、私も君を愛しているよリアンヌ」
最後には最愛の人リアンヌを失いながらも獅子戦役を終結させるのだった。
彼こそはドライケルス・ライゼ・アルノール、最愛の人も唯一無二の友を失っても決して折れずにエレボニアに繁栄を齎した獅子の心を持つ大帝、偉大なるエレボニアの中興の祖である。
「うわぁ気合入っていたねぇ……」
万雷の拍手を浴びる友人達を見てジョルジュ・ノームはそんな風にポツリと感想を零していた
「ううううう、緊張してきたなぁ。これの直後にやるなんて……会場の空気凍り付いちゃうんじゃないかなぁ」
というかやっぱりあの衣装恥ずかしいよぉなどとトワ・ハーシェルは縮こまりながら言う
「おいおい弱気になるんじゃねぇって、俺たちだってそれなりのものを作り上げてきただろうが」
そんな二人を励ますようにクロウは口にする
「それに心配するなってトワ。さっきまで真面目にロラン・ヴァンダール演じていた奴があんな格好するんだ、きっと皆そっちに度肝抜かれるだろうさ」
おどけながら緊張を解すようにそんな事を元凶たるクロウは言う
「もう、クロウ君ったらリィン君本当に怒っていたよ、そのうち痛い目にあっても知らないんだからね。私だって、衣装に関して言いたいことは色々あるんだから!」
そんな風にトワは精一杯威圧するように、傍から見ると大変微笑ましい様子で、クロウを咎める
「へいへい、肝に銘じて起きますよと」
「二人とも、それじゃあそろそろ行こうか、アンとリィンが待って居るだろうし」
そんなジョルジュからの言葉を聞いてそれぞれ控え室へと赴くのであった。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
本番となり用意された衣装へとリィンは身を包んでいた、それはもう見事な仏頂面を浮かべながら。
「え、えーとその、いつもとは違う格好だけどカッコいいと思うよリィン君!」
そんな風に必死にフォローを入れようとするとトワの何時もと変わらぬ優しさが逆にリィンにとっては辛い。とりあえず自分の方を見ながら腹を抱えて笑っている諸悪の根源を一発ぶん殴っておく、きりもみ回転して吹っ飛んでいった。それを見てリィンはいい気味だと思った。
「ああ、ありがとうトワ、君も何時もとは随分と印象が違う大胆な衣装だが中々に素敵だ」
そんな風にリィンはちらりと常とは違う胸元が露になった衣装のトワの姿を窺う。中々に目の毒である、久しぶりに雑念が湧いてきたので今度冬に帰省した時にはまた師範代にスペシャル特訓コースを頼もうなどと思いながら顔を赤らめる。
「うううう、あんまり見ないで……」
「あ、ああごめん……」
そうしてリィンは慌てて目を逸らす。
「うーん、あの二人は何時になったら進展するんだろうね」
青春真っ盛りといった様子の友人二人を眺めながらジョルジュはそんな風にポツリと呟いていた。
「ふふふ、いくらリィンとは言えどそう簡単に私のトワは渡せないな。彼とはいずれ決着をつけないとね」
不敵な笑みを浮かべながらそうアンゼリカは口にする。彼女もトワと同じく中々に大胆な衣装に身を包んでいるのだがその辺を気にした様子がない。なんというか漢前な女性である。
「いててて、ったく思いっきりぶん殴りやがって。本番前にこのハンサムフェイスに傷でもついたらどうするんだ」
殴られた頬をさすりながら起き上がったクロウがそんな事を告げる
「これでチャラにしておいてやる、何時までも引きずるのも女々しいからな」
「おうおう、そりゃありがとうございます
プククと笑いながら自分の方を見て告げるクロウを見てリィンは、それはもう見ていて寒気がしてくるような綺麗な笑顔を浮かべる。笑顔とは本来攻撃的なものである、そんな言葉がピッタリのそれはもう美しい笑顔を。
「あははは、でもなんだかんだで様になっているじゃないか。やはり元が良いからだろうね、これがジョルジュだったらきっと喜劇役者みたいな事になっていて会場のみんなも失笑間違いなしだったよ」
「アン、友人だったら何言ってもいいってわけじゃないんだからね?ただでさえクロウとリィンが二枚目なのに僕だけこんなんで若干コンプレックス感じているんだからね」
放って置くとかつてのようにそれこそ本番前だというのに取っ組み合いの喧嘩になりかねないのでそんな風にアンゼリカが告げ、ジョルジュはそんなアンゼリカに傷ついた顔を見せる。
「はっはっは、いいじゃないか。私は君のその見ていてホッとできるような感じ、嫌いではないよ」
「はぁ、ずるいなぁアンは。そんな風に言われたら気にしている僕がちっぽけな男って気分になってくるじゃないか」
ウインクをしながらあっけらかんと言うアンゼリカとそれに苦笑しながら満更でもなさそうなジョルジュ。そんな二人を見て、リィンは仲が良くて何よりだとまるで察する事がなくうんうんと頷き、トワはひょっとしてと微笑ましそうに見つめ、クロウはとある危機感を抱いた。アレ、これってひょっとすると来年俺だけ独り身になるんじゃね、と。
後夜祭で仲良く踊るジョルジュとアンゼリカ、トワとリィン。そんな中一人ポツーンと佇む自分、そして後輩たちから指を指されてクスクスと笑われながら哀れまれる、そんな未来を思い浮かべてクロウは一瞬薄ら寒い思いを抱く。そもそも彼の
「準備はよろしいですか?」
そんな風に仲良くじゃれあっていると実行委員会の人間たちから声をかけられて5人は我へと返る。
「さてと、そんじゃそろそろ行くとしようぜ。いっちょ最高のステージにするとしようや」
そう笑顔で告げるクロウへと四人もまた頷き、かくして5人によるステージが始まるのであった。
「もうすぐリィンのステージだね、楽しみだなぁ」
ミリアム・オライオンは目を輝かせながらそう告げる
「しかしまあどんな曲を歌う気なんだか、まさか軍歌や国歌でも歌う気じゃねぇだろうな」
レクター・アランドールはそんな弟分の性格を良く熟知した言葉を吐く
「さ、流石のリィンさんもそれはないとは思いますが……」
クレア・リーヴェルトは苦笑しながらそんな風に告げる、残念ながら彼女のフォローとは裏腹に仮に一人でやる事になっていた場合リィン・オズボーンは軍歌と国歌どちらにするか迷った挙句国歌を選択していた事だろう。そもそも彼一人の場合、ステージをやろうなどとは思わなかっただろうから無意味な仮定ではあるが
「先ほどまでロラン・ヴァンダール卿をああも見事に熱演していたのにこの上ステージまでやるだなんて、リィンさんは随分と多才なんだね、父さん」
マキアス・レーグニッツはそんな風に尊敬の念を露にする
「ああ、お前も彼を見習うんだぞマキアス。一見すると関係ないと思えるような分野の知識や経験というのが予想外なところで役に立つものだ、彼はどうやらそれがわかっているようだな」
カール・レーグニッツはそう絶賛するが入学当時のリィンはクレアにそんな風に教えられながらも部活をやるよりも鍛錬と勉強をする事を選ぼうとしていた男である。彼がそうなったのはひとえにトールズという環境、そして何よりも友人に恵まれた事に依るものだろう
「ふふふ、先ほどのロラン・ヴァンダール卿役も名演でしたが、さらにステージまでやるとは随分と視野が広がったようですね」
「ええ、それでいて剣の腕は前以上に冴え渡っていました、ずいぶんと密度の濃い生活を送っているんですねリィンさんは」
「貴方も覚えておきなさいクルト、剣のみに拘らず色々なものへと触れて経験することがひいては剣の深奥へと近づける事があるのですよ」
「はい、母上」
そうしてクルト・ヴァンダールは尊敬する兄弟子の、オリエ・ヴァンダールは教え子の晴れ姿を目に焼き付けようとする。
「それにしてもあの子ったら、どんな歌を歌うんでしょうね」
「はっはっは、リィンの事だおそらく国歌を歌うに違いない」
「さ、流石に学院際のステージでそれはないんじゃないかなぁ……」
流石は養父と言うべきか、あるいは考えが似通っているのかレクターと同じくリィンの考えを正確に把握しているオーラフに対してエリオットは苦笑しながら否定して
「メアリー教官、嬉しそうですね」
「ええ、オズボーン君がいつの間にか自分からステージをやるようになる位音楽を好きになってくれたことが私とっても嬉しくて。ふふふ、この間もせっかくだから良いステージにしたいのでって熱心に質問してきたんですよ」
マカロフ教官からの問いかけにメアリー教官はそれはもう教師冥利に尽きるとでも言わんばかりの嬉しそうな表情を浮かべて
「ふふふ、それにしてもステージか。いやぁ楽しみだね、なんなら僕も今からでも飛び入りで」
「辞めろ阿呆」
「流石に冗談だよ親友、でしゃばる大人は嫌われるからね、ここは君の弟弟子君の晴れ姿を見守らせて貰うさ。ふふふ、しかし意外だね、君から聞いていた
そう告げてトールズ士官学院の理事長を務めるオリヴァルト皇子は興味深そうに見つめ
そんな多くの人が見守る中でその男は現れた。
唖然、呆然、まさしくそう形容するのが正しいだろう。
誰もが、一人必死に笑い出すのを堪えている男と一人目を輝かせている少女がいるが、その少年を見た瞬間に呆気に取られる。
そりゃそうである、さっきまでロラン・ヴァンダールを熱演していたそれはもう如何にもといった感じの一目で軍属とわかる真面目そうな少年が「闇の炎に抱かれて消えろ!」だとか言い出しそうな奇抜な衣装に身を包んでいるのである。
常の堅物を絵に描いたようなリィンを知って居る学院生や教師陣、そしてリィンの知己たちはより一層である。
ついにストレスのあまり壊れたのではないか、そんな想いが一瞬頭を過ぎるが……
始まり出した歌の内容に皆心を奪われる。技術自体はそこまでではない、決して下手ではないが特筆するほど素晴らしいというものではない。学生としては良く頑張っていると、まあそんなレベルであった。
だがその歌には心が込められていた。大人になりきれない少年の、時に躓いてかさぶたを作ったとしても決して失いたくない理想や情熱、そんな等身大の少年の思いが。それは紛れもない、リィン・オズボーンという少年とトワ・ハーシェルという少女の
後夜祭となり、リィンは誰と踊ることもなくぼんやりとキャンプファイヤーの火を眺めていた。
ステージは大成功に終わった、観客からアンコールの声援が出るくらいに。流石にそれを用意する時間はなかったために応えられずに終わったが
そうして学院祭も終り、こうして後夜祭と出席したわけだが正直リィンはステージが終わった後夢見心地のような奇妙な気分に陥っていった。
知人たちと二言三言言葉を交わしたのだが、なんというか奇妙にふわふわとしているというか、そんな味わったことのないような高揚感が身を包んでいたのだ。
「よ、おどらねぇのかよ
そんな風にからかうような口調で告げてくる自分があんな格好をする事になった元凶相手にリィンは苦笑する。着る前はあんなにも腹立たしかったのに、何故だろう今はそうして目の前にいる友人達と後々まで記憶に残るような思い出が出来たことを悪くないと思っている自分がいた
「ああ、そんな気分にならなくってな、
そんな風に軽口で応じるとクロウの後ろから見知った顔の三人が現れて
「ふふふ、どうやら皆同じような気分みたいだね」
「えへへへ、なんだか奇妙にふわふわした気分っていうか……」
「クラスでのアトラクションを作り終えた時も少し似たような気分は味わったけど、それよりもさらに高揚した感じがするっていうか……」
「へ、どれそれじゃあどいつもこいつも相手のいない奴ら同士ということで、ここで揃ってぼんやりと火を眺めながら話でもするとすっか」
そうして四人もそれぞれリィンの傍へと座り出す、それからしばらく誰も話すことがないままにぼんやりと眺めているとおもむろにリィンが口を開いて
「なぁクロウ、ありがとな」
ポツリとそんな事を呟いた
「なんだ?そんなにあの衣装のトワを見れて嬉しかったのか、それともお前まさかあの衣装実は気に入ったのか?」
「ク~ロ~ウ~く~ん」
おちゃらけた様子でそんな事を言うクロウにトワは怒ってクロウをポカポカと殴り出す。そんな二人を見てリィンは苦笑して
「そうじゃなくてさ、ステージをやろうって誘ってくれたのお前だっただろ。正直最初は何言ってんだこの馬鹿って思ったけどさ、あの時お前が誘ってくれなかったらこんな充実感味わえなかっただろうからさ。だから、ありがとな」
そんな事をクロウに対して告げた後にリィンは他の三人にもそれぞれ顔を向けて
「トワにジョルジュにアンゼリカもありがとな、お前たちがいなかったらきっと俺はこんな体験する事なかった」
そんな事を改まって告げるリィンへと四人は苦笑して
「つくづく真面目だねぇ、お前さんは。俺だってやりたくてやっただけだから礼を言われるようなこんじゃねぇよ」
「右に同じく」
「リィンは本当になんというか何時でも真っ向勝負っていうか、すごく恥ずかしいような事をさらっと言ってくるよね本当に」
「えへへへ、私だって同じ気持ちだよ。みんなと一緒だから出来た事だもん」
そうして5人は心の底から笑い合うのだった。きっと自分達のこの友情は何時までも続くのだと、そう信じて……