(完結)鉄血の子リィン・オズボーン   作:ライアン

24 / 120
作者はドラクエ5の時にキラーパンサーの名前をゲレゲレにする事に特に違和感を持たなかった男なのでネーミングセンスには期待しないでください。


鉄血の子と紫電

 学院際が終り時間は瞬く間に過ぎ去っていった。11月に行なわれた次期生徒会長を決める選挙ではリィンとトワ、そしてリィンの宿命のライバルたるヴィンセントの三つ巴の末、主に平民生徒からの支持を集めたリィン、貴族生徒からの支持を集めたヴィンセントを抑えて、貴族、平民を問わず幅広い支持を集めたトワの会長への就任とリィンとヴィンセントの副会長への就任が決まった。

 温和な人柄で人望の厚いトワが会長となり、規律にうるさく厳格で平民生徒の味方と見られているリィンが副会長として目を光らせ、相対しているとどこか毒気が抜かれる三枚目の貴族生徒たるヴィンセントが同じく副会長を務めるというこの新体制は貴族生徒、平民生徒、教官陣にとっても凡そ満足できるもので、比較的好意的に受け入れられていた。

 そうしてその後の12月に行なわれた期末試験でリィンはついにトワと並ぶ念願の主席の座を獲得。歓喜の咆哮を行なっていた。この10月~12月の間に、6月~9月にかけては毎月のように起こっていた旧校舎の異変がまるで生じなくなった事をリィン達は訝しがりながらも、七耀歴1203年も終りに差し掛かろうとしていた……

 

 

「さあ、それじゃあ今年最後のARCUS運用テストを実施させてもらうわ。君たちがこれまでに培った成果、見せてみなさい!」

 

 常のだらしのない駄目教官という雰囲気を脱ぎ捨て、A級遊撃士にして現トールズ士官学院武術教官たるサラ・バレスタインは真剣そのものの表情で告げる。向けられるのは殺意こそないものの遊び心の無い本気の闘志、もう数度目にもなるそれを前に5人は……

 

「今日こそ勝たせてもらいます、教官!」

 

 今の自分達ならば(・・・・・・)十分に届きうるはずだとリィンは双剣を構えながら気圧されぬように闘志を露にして

 

「ふふふ、あまり柄じゃないけど、それでも負けっぱなしというのは酌だからね」

 

 アンゼリカは受け流すかのような飄々とした態度ながらも静かに闘気を漲らせて

 

「は、ここで勝てば当然文句なしのS評価だよな。座学の分の単位ここで稼がせてもらうとするぜ」

 

 クロウはいつものように軽口を叩いて

 

「しっかりサポートさせてもらうね!」

 

 トワ・ハーシェルはそう見るからに緊張した面持ちで張り切り

 

「頼んだよリィン!君が突破されたら僕とトワは5秒でやられるからね!!!」

 

 初回の時の忌まわしき記憶を思い出しながらジョルジュはそんな風に告げた

 

「それでは、紫電のバレスタイン推して参る!」

 

 その言葉と共に闘いの火蓋は切って落とされた。

 

 先制したのはサラ・バレスタイン、まずは補助と回復を担当するジョルジュとトワを落としにかかるが

 

「させん!」

 

 二の轍を踏むまいとそれを予期していたリィンは紫電と化したサラを双剣にて迎撃する。

 

「ふふん、やるようになったわね」

 

「お褒め頂いて赤面の至りですよ、バレスタイン教官殿」

 

 初めて出会った時に為す術もなく突破されて支援役の二人を落とされた、そんな屈辱の記憶を思い出しながら未だ余裕のあるサラの猛攻をリィンは必死に凌ぎ続ける。如何にトワとジョルジュからの導力魔法による支援を受けているとはいえ、そのまま行けば数分程度で限界が訪れるところだったが……

 

「連れないね教官、リィンばかりだけではなく私の相手もして欲しいね」

 

 そうはさせじとアンゼリカが瞬時に接近して強烈な蹴りを放つ。しかし、サラは自身の頭部へと放たれたそれもバク転めいた動作によって回避する。そうして二人から距離を取り、導力銃を放とうとするが

 

「ドンピシャだ」

 

 阿吽の呼吸、戦術リンク機能の恩恵を受けてそれを予期していたかのようにクロウの放たれた銃弾が飛来していた。

 それらをブレードによって切り払うがーーーー

 

「テンペストエッジ!」

 

 それもまた織り込み済みかのように先ほどまで守勢に回っていたリィンが攻勢へと躍り出る。

 

「ふふふ、本当に強くなったわね、貴方達」

 

 息の合ったコンビネーションを見せて、自分と五分にやり合う目の前の教え子達相手にサラは気が付けばそう笑顔で告げていた

 

「教官の薫陶の賜物です!」

 

「ふふふ、そりゃもうこの5人で旧校舎の調査やら魔獣退治やらでどれだけこき使われた事やら」

 

「普通は卒業の時にするんだろうが、一足早いお礼参り(・・・・)って奴だ。感謝にむせび泣いてくれよ教官殿」

 

 そう言いながらも5人の心に油断は無い。此処まで(・・・・)は前回の時もなんとかこぎ着ける事が出来ていたのだ、そう問題は此処からなのだ。

 

「それじゃあ、一つこっちも大人の威厳ってものを示しておこうかしら!」

 

 そうしてコオオオオという気合の裂波と共にサラのギアが一つ上がり出す。

 

「気合を入れろよ!此処からが本番だ!!!」

 

 紫電、その異名に相応しいブレードによる高速の連撃をリィンは四人の援護を受けながらなんとか凌ぎ続ける。ヴァンダールの剣とは護りの剣、そこに戦術リンクシステムによる恩恵を受けてアンゼリカ、クロウと息のあったコンビーネーション、そしてトワとジョルジュからの援護、これらを受けた状態のリィンを攻略するのはサラとて決して容易ではない、しかし凌いでいるだけでは駄目なのだ。

 このまま防戦に徹していればサラは自らの持つ切り札を切るだけの事。前回はそうして5人纏めてやられて終わった。故に勝ちに行くのならばーーー

 

「大地の息吹よ、我が同胞に力を与えたまえ。アダマンタイト・キュクロプス」

 

 そうしてジョルジュは己の持つ切り札により仲間への援護を行い

 

「アンちゃん、行くよ!」

 

「ああ、共に行こうトワ!」

 

「「レインボー・ドラグーン!!!」」

 

 導力銃のリミットを解除したトワによる放たれた一撃、そんな援護を受けながら閃光と化したアンゼリカがとっておきの一撃をサラへと放つ

 

「オメガエクレール!」

 

 生半可な攻撃では迎撃不可能、そう判断したサラは自身もまた紫電と化して切り札によって迎え撃つことを選んだ。閃光と紫電が激突し、まるで雷が落ちたかのような激しい光と轟音が辺りに響いた後アンゼリカが吹き飛ばされる。しかし、その吹き飛ばされる刹那、アンゼリカの口元には確かな笑みが湛えられており……

 

「!?」

 

 そうしてサラは5人の真の狙いに気づく。しかし、遅い。切り札を放った直後、如何なる達人でも決して逃れられない秒にも満たないそのわずかな隙を見計らってーーー

 

「クロウ、頼む!」

 

「任せとけ相棒!」

 

「「クロス・ストライク!」」

 

 リィンとクロウ、トールズ最強のコンビによる最強のコンビネーションがサラへと叩きこまれた。

 

 

「あたたたた、全くもう容赦なくやってくれちゃって。もう少し年長者を労わりなさいよね」

 

 そんな事を告げながらサラはよっこらしょと立ち上がる

 

「でも、いつかこういう日が来るかもしれないとは思っていたけど、こんなに早く来るとは思ってなかったわ」

 

 しみじみとした様子でそんな風に呟いた後にサラは教え子たちの成長というこれまで味わったことのなかった喜びに綺麗な笑顔を浮かべて

 

「本当に強くなったわね、特に、あんなコンビネーション技まで身に着けているとは思わなかったよ」

 

 そんな風にウインクをして告げる

 

「ふふふ、これが私とトワの愛の力という奴ですよ教官」

 

「あ、愛じゃなくて友情です!友情ですからね!サラ教官!!!」

 

 トワとアンゼリカは仲良く肩を組みながらそんな事を告げて

 

「ふっふっふ、当然ですよサラ教官!僕とリィン君は決して揺るがない絆で結ばれた親友同士ですからね!」

 

 やたらと爽やかな顔でリィンと肩を組みながら、何時になくうさんくさい様子でクロウはそんな事を告げて

 

「……異論はないが、クロウ、貴様今度は何をやった」

 

 そんな親友の様子を当然リィンは訝しがるのであった。

 

「嫌だなぁリィン君、僕は何にも隠し事なんかシテナイヨ」

 

「お前が俺を殊更親友呼びする時は大体何か厚かましい頼みごとをしてくるときと相場が決まっている、良いからとっとと言え。内容次第で対応を決める」

 

「いやぁ、それがよぉ、学院生活により潤いを齎すためにお馬さんに夢を託したわけだがよぉ、このお馬さんの上に乗っているが最終コーナーで落ちちゃってよぉ」

 

 そこでクロウは笑顔を浮かべたままチラリと横にいる親友に何かを期待するような目線を寄越して

 

「そうか、またしばらく水とパンの耳でしのごうとする仙人のような生活に挑戦するわけか。見上げたストイックさだな、友人として心より応援させて貰おう」

 

 リィンはそんな親友からの頼みを澄み渡った青空のような笑顔で切って捨てるのであった。

 

「俺たち親友だろう!相棒だろう!金貸してくれよ!!!!」

 

 ガバリと縋りつきながらクロウはリィンへとそんな風に頼み込む

 

「自業自得だ阿呆!そもそも博打の類は校則で禁じられていると何度言ったらわかる!!!」

 

 そうしてギャーギャーと何時ものように漫才を始めたリィンとクロウ、ああ君は地上に舞い降りた私の天使だよ等と言いながら百合の花が咲き誇りそうな空間を作り出している女子二名、そんな中どこか所在無さげにしているジョルジュを見てサラはポツリと呟く

 

「ねぇ、ジョルジュ貴方って」

 

「別に僕だけこの四人からはぶられているとかそういうわけじゃありませんからね教官」

 

 夏至祭の時に結果として一人だけ留守番するようになった事を未だ根に持っているような事をジョルジュ・ノームを仏頂面で告げるのであった。

 

「そう、それなら良いけど」

 

 他の四人がコンビクラフトをそれぞれのペアで披露したのに対してジョルジュだけそういうのがなかった先ほどの様子を思いつつ学院祭や普段の仲の良い様子を思い浮かべて、サラはまあたまたまかと判断して

 

「それじゃあ改めて、これで今年最後の運用試験は終了よ。後は各々の好きにしてね」

 

 そうしてサラはひらひらと手を振りながらその場を後にして学院長への報告に赴くのであった。

 

 

 

 

「と言うわけでARCUSの恩恵もあるんでしょうけど、あの5人の実力は既に学生の域を超えていますね。まさかこんなに早く膝をつかされる事になるとは思いませんでした」

 

 肩を竦めながらそう報告してくるサラにヴァンダイク学院長は重々しく頷く

 

「ふむ、つまりあの5人が揃った状態ならばサラ教官にも匹敵、いや凌駕しうるとそういう事かな」

 

「ええ、特にクロウとリィンのコンビなんか二人だけでその領域に至るのもそう遠くない未来かもしれませんね」

 

 阿吽の呼吸、以心伝心まさにそう評する他無い連携を見せていた二人を思い出しつつサラは笑いながらそう告げる。今はまだどちらも未熟だがこのまま成長して行けば、それこそかつてやり合ったこともある西風の旅団、そこで名コンビと称される連隊長二人に匹敵、あるいは超える大陸でその名を知らぬ者は居ないなどと称される名コンビになるかもしれない、そんな埒も無い想像を巡らせてサラは流石に妄想が過ぎるかと苦笑する。

 

「でも突然今の5人の実力を測るようになんてご指示をわざわざ出されてどうしたんですか?」

 

 そんなサラの疑問を受けてヴァンダイクをしかめっ面を浮かべる

 

「うむ、実はな……帝国政府より2月に一週間、クロスベルへと親善の意味も込めて送る生徒を5人選出するようにという指示が本校へと来たのだ。それもわざわざ直接名前こそ示していないが、あからさまにオズボーン君をそのメンバーに含めるようにというお達し付でな」

 

 そんなヴァンダイクの言葉にサラは目を丸くした後に思案するように口元に手を当てて

 

「息子可愛さの身内びいきって事ですか。鉄血宰相閣下も結局は人の親だったみたいな」

 

「そういう理由ならば私としても安心なのだがね、今の彼を見ているととてもそうは思えんよ」

 

「ですよねぇ、息子の晴れ舞台の学園祭にも全く姿を見せない親ですしねぇ」

 

 ため息をつきながら告げられたヴァンダイクの言葉にサラもまたため息をつきながら応じる。

 

「留学には経済知識を広げるためのIBMの訪問、自治州の実態を知るためのお歴々との会談、後は導力技術の最先端という事でエプスタイン財団の技術者との交流、等もあるがメインはクロスベルの警備隊との実戦形式の演習となっていてね、そこで政府からは以って帝国の威光を示すようにとのお達しだ。くれぐれも帝国が侮られるような人物を送るな、とね」

 

「あーなるほど、そういう事ですか」

 

「そういう事だよ、バレスタイン君」

 

 すなわち帝国の未来を担う士官学院生は未だ学生の身でありながらもクロスベルの誇る精鋭、それを凌駕するものなのだと示せと、そういう事なのだ。

 どうにもそういった大国の面子だのなんだのといった話が好きになれないサラは不機嫌そうな様子を見せるが、ヴァンダイクはそれもやむを得ぬ反応だと受け止める。

 

「でも良いんですか?リィンとトワはそりゃ絵に描いたような優等生で、ジョルジュにしても素行に特に問題はあるわけじゃないですけど、クロウにしてもアンゼリカにしても優等生とは程遠いってのは学院長もご存知でしょう。ハインリッヒ教頭あたりなんかはまたぶつぶつと言うんじゃ……」

 

 普段から学院の品位がー誇りあるトールズの教官としての自覚がーととかくうるさいがみがみ親父を思い浮かべてサラは顔をしかめる。最もリィンに言わせれば、そもそも教官の普段の生活態度があまりに酷すぎるせいだとなるのだが……

 

「まあ確かにハインリッヒ君は確かに君の言う事はあまり良い顔はしなかったな。だが理事会での話し合いの結果そういう事ならばと、レーグニッツ理事は夏至祭の時の実績からオズボーン君とハーシェル君を、イリーナ理事は導力技術への知識からノーム君が、ルーファス理事は四大名門の一員という事でログナー君をそれぞれ推薦されてな、各々が推薦した四人が皆ARCUS運用のテスターへと関わっていることに気づいたイリーナ氏がそういう事ならばと、その5人を派遣する事は望まれたのだよ」

 

「……なるほど、それで最終試験という事で肝心の今の実力を測ることになったわけですか」

 

「うむ、そしてその結果は期待以上のものだったわけだ。これにて本校から派遣されるメンバーは決まったわけだ」

 

 そこでヴァンダイクは自分自身の心の中にも燻っているものを吐き出すように

 

「政府の意図はどうあれ、クロスベルを訪れることは若い彼らにとっても得難い経験となるだろう。教育者としては少しでも彼らにとって得るものが多くなる事を祈るのみだ」

 

 ある意味では来年度から実施する予定の特別課外活動の予行演習とも言えるな等と告げるヴァンダイクにサラもまた肩を竦めながら頷くのであった。

 かくしてリィン・オズボーン、トワ・ハーシェル、アンゼリカ・ログナー、ジョルジュ・ノーム、クロウ・アームブラスト、この5名の一週間という極めて短い期間だが、クロスベルへの派遣留学が決まるのであった。

 




この時点でのリィン君たちは5人揃って1サラです
最もクロウは本気を出していないわけですが

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。