(完結)鉄血の子リィン・オズボーン   作:ライアン

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クロスベル編を描くために零evoをやったんですが、星杯騎士のワジや赤い星座元連隊長のラニキに蚊に負けたヴァルドさんがイキっている様子を見るとすごい形容し難い思いに襲われます。

脳内でおいおいおい、死ぬわアイツという声がずっと鳴り響いてました。


零の軌跡断章~鉄血の子~

 

 クロスベル、それは西ゼムリア大陸に存在する二つの大国カルバート共和国とエレボニア帝国の境に存在する両国を(・・・)宗主国とした自治州である。その地政学的な要員と豊富な七曜石な資源を巡って両国はこの地で度々衝突、多くの血が流される事となった。

 そんなクロスベルが自治州となったのは70年前、クロスベル戦役と謳われる事となったカルバート共和国とエレボニア帝国の全面戦争の結果である。発端となった出来事は両国共に相手のせい(・・・・・)だと主張しており、未公開の情報も多く定かではないが、とにもかくにも両国はそれまでの比ではないほどの戦力をクロスベルの地へと投入し、そして結果は誰も得をすることなく終わった。クロスベルの地は戦火によって蹂躙され、共和国も帝国も国の未来を担う多くの有望な将校や若者を失う事となった。このまま行けばそれこそどちらも滅びる(・・・・・・・)事となる、そんな危機感を抱いたのだろう。両国の首脳部はとある妥協を行なう。

 すなわち係争地となったクロスベルの自治州化である。無論多くの犠牲を払ったにも関わらず何も得られなかったで両国の国民が納得するはずも無い、表向きはどちらも自分達こそ(・・・・・)がクロスベルの宗主国である、我々は戦争に勝利したのだと伝えたのだが。

 以来70年、影で多くの暗闘は行なわれているものの、暗闘で済んでいる事こそが両国のこの目論見が上手く行った結果と言って良い、クロスベルにて両国の大規模な軍事衝突が行なわれる事はなく、概ね小康状態を保っていた。さらに2年前、リベールの女王アリシアⅡ世の調停により不戦条約が成立した事で緊張関係が緩和されたことにより、クロスベルを取り巻く状況はまたも変わる。

 かねてより国際的な金融機関IBCが存在した事で金融都市として栄えていたが、その流れが加速。カルバート共和国とエレボニア帝国から多くの資本が流れ込むようになる。かくしてクロスベルは加速度的に発展して行く事となるがそれは同時に、クロスベルが共和国と帝国双方にとってもより魅力的な(・・・・)都市となる事を意味する。かねてより宗主国としてクロスベルに存在する議員の抱きこみを図っていた両国だがその流れは加速、どちらも自国にとって有利な法律を成立させるべく圧力をかけ、議会は帝国と共和国の代弁場となり、肝心のクロスベル市民のためというものがなおざりにされ、クロスベルの政治は汚職と腐敗によって塗れる事となる。そんな光と闇が同時に混在する様子に人々はクロスベルの事をこう呼んだ、『魔都クロスベル』と……

 

 

「帝国からの留学生の護衛と案内、ですか」

 

 クロスベル警察特務支援課所属ロイド・バニングスは上司であるセルゲイ・ロウよりの指示をそんな風に復唱していた。

 

「おう、そうだ。期間は一週間、くれぐれも万一の事が無いようにしろという帝国と大変仲のよろしい議長様直々のご指示だとさ」

 

 如何にもめんどくさそうな様子でセルゲイはタバコをふかしながら部下の疑問へと答える

 

「いやいや、ちょっと待ってくださいよ課長。帝国から来る旅行者だとかなんて山ほどいるじゃないですか、こういう言い方はアレですけど、そんな人達を一人一人護衛なんてしていたら幾ら人手があっても足りないですよ」

 

「最もな疑問だが、その辺は多分来る留学生のプロフィールを読めばすぐに理由がわかるだろうさ」

 

 そういってセルゲイは帝国政府より提供された留学生の面々の資料をエリィへと渡す。そうしてペラペラと資料を読み進めて行くエリィだったがある生徒のページで止まる

 

「1年Ⅰ組所属アンゼリカ・ログナー……四大名門の一角ログナー侯爵家の一人娘、万一の事になれば帝国貴族との禍根になりかねないため特に留意すべし。なるほど、この人が理由ですか」

 

 得心が行ったとばかりに頷くエリィに対してティオは疑問符を浮かべて問いかける

 

「その四大名門というのは?侯爵という事なのでかなり偉いことはわかるのですが」

 

 そんなティオの疑問に対してエリィは妹に優しく勉強を教える姉のような表情を浮かべる

 

「エレボニア帝国ではまだ貴族制が健在な事はティオちゃんも知っているわよね」

 

「はい、まあその位は」

 

「四大名門はね、そんなエレボニアの中においても特に力を持った四つの家のことよ。彼らは各々の地方を治める裁量を皇帝より与えられて、領邦軍と呼ばれる正規軍とは別の自分達の軍を所持しているわ。そうね、言ってみればある意味ではエレボニアという国は連合国家でその盟主を務めているのが皇帝、四大名門はその連合国家を構成しているそれぞれの国の王、そう呼んでも過言ではない位よ」

 

「なるほど……そんなところの令嬢ともなればそれこそある意味では王女様みたいなもの、というわけですか」

 

 納得がいったと言った様子でティオはエリィへと感謝の意を示しながら頷く

 

「貴族の令嬢様か……写真で見ても中々に美人だが流石に手を出すとなると後が厄介そうだな。いや、だがしかしそういう立場を超えた愛や恋ってのもそれはそれで燃えそうだな……」

 

 至って真剣と言った様子でランディ・オルランドは何かを思案するように考え込む。最もそのお嬢様はランディのようなタイプにとっては口説き相手というよりもむしろ好敵手と言っていいような女傑なのだが、そんな事を知る由もないランディは如何にも深窓の令嬢を想像しているようである

 

「いや、あのなランディ……」

 

「流石に考えなし過ぎるかと……」

 

「頼むから、国際問題になるような事はしないで頂戴ね」

 

 そうため息を付きながら呟く三人にしても如何にもと言った貴族の令嬢を想像している。人間立場という先入観に囚われないことは中々に難しいものである。

 

「盛り上がっているところ悪いが、問題なのはそいつだけじゃないぞ。最後の一人のプロフィールを読んでみろ」

 

 セルゲイのそんな言葉を受けてエリィは少しだけ慌てた様子でプロフィールをめくる。

 

「えーと最後の一人は1年Ⅰ組所属リィン・オズボーン、かの鉄血宰相ギリアス・オズボーンの実子。アンゼリカ・ログナー同様その安全には細心の注意を払うべし……オ、オズボーンって!?」

 

 留学生の中の最後の一人その中の人物の名前を読み挙げた瞬間にエリィは驚きの声を挙げる

 

「ティオすけ、今度は説明しなくても大丈夫か?」

 

「馬鹿にしないで下さい、ランディさん。流石にそれ位は知っています」

 

 からかうような口調で問いかけてくるランディに対してティオはむっとした様子を見せて

 

「鉄血宰相ギリアス・オズボーン。エレボニア帝国で平民出身ながら初の宰相となった人物で、就任時の演説の際に「国の安寧は鉄と血によるべし」と訴えたことからついた異名が鉄血宰相。ある意味ではエレボニアの皇帝よりも有名人物なのでは?」

 

 教科書を読むようにすらすらとした様子で言った後にそこであれ?とティオは疑問符を浮かべる

 

「ですが妙ですね、確かそのオズボーン宰相は革新派と呼ばれる勢力のリーダーで確か貴族から蛇蝎の如く嫌われていると読んだ気がするのですが、そのオズボーン宰相の息子さんと大貴族の娘さんが一緒に来るんですか?」

 

「そこはまあ別に関係ないんじゃないかな。親がどんなに偉かったり嫌いあっていたとしてもって本人は本人さ、それこそ立場を超えて友人同士になる事だってあるんじゃないかな」

 

 さらりと実は祖父が高名な政治家であるエリィ・マクダエルにとってはある種救われるような言葉をロイド・バニングスは吐く

 

「はは、案外それこそ立場を超えた恋人同士!とかだったりしてな、その二人」

 

「流石にそれは飛躍しすぎだと思うけど」

 

 当人達が聞けばひとしきり笑った後に真顔で「有り得ない」と否定するであろうランディの冗談めかした言葉にエリィは苦笑いを浮かべる。

 

「事情をわかりました、ですが課長、その本当に俺たちでよろしいんでしょうか?」

 

 特務支援課は特殊な部署である。遊撃士の真似事、警察の露骨な人気取り、そう批判する声も少なくない。魔獣被害の傍らにルパーチェの暗躍があったことを突き止めた事で、大分前向きに評価されるようにもなって来たがそれでもやはり現状の評価は必ずしも高いものではない。そんな自分達が護衛につくことで帝国の機嫌を損ねるのではないかとロイドは危惧の問いを投げかけたが

 

「ああ、むしろある程度名が売れてきたが、売れ過ぎていない、今のお前達だから都合が良いんだよ」

 

 セルゲイはタバコをふかしながらさらりとそんな風に告げていた。

 

「?あの、それは どういう……」

 

「……なるほど、帝国側だけではない、共和国側への配慮も必要という事ですか」

 

 疑問符を浮かべたロイドに代わり、政治的な事情に精通しているエリィが得心した様子で頷く

 

「そういう事だ。さっき言ったとおりのご本人様が来るんだったらそれこそ警備隊の精鋭による入念な警備が敷かれる事となる、だが流石にそのご子息方の一週間程度の滞在に警備隊を動かしていたら今度は共和国と仲の良い議員様達が良い顔をしない。かといってまるっきり護衛をつけないわけにも行かないが、それこそ遊撃士になんて任せたら面子が丸つぶれだ」

 

 そこでセルゲイはふーと息を吐いて吸っていたタバコを灰皿に押し付けて

 

「そこでうちに白羽の矢が立ったわけだ。なんだかんだでそれなりに実績を挙げていて失礼にはならない、それでいて動かしやすい便利な連中、そんなノリでな」

 

 そこでセルゲイは人の悪そうな笑みを浮かべて

 

「それで、どうするんだ。俺もどんな奴らが来るかはプロフィールでの内容程度しか知らん、それこそ鼻持ちならん如何にもといった感じのお貴族様やら、あからさまにこっちを属州だと見下してくるエリート様が来るかもしれん。どうしても嫌だっていうのなら断って、おそらくは議長様へのゴマスリに熱心な警備隊の司令官が嬉々として引き受けると思うが……」

 

 元部下としてセルゲイの言うように現場の隊員たちへと無茶振りする無能な元上司の様子がありありと想像できたのだろう、ランディはうげぇと苦虫を噛み潰したような表情を浮かべる。

 そうしてロイドは確認を取るように仲間達に視線を送った後に

 

「わかりました、その支援要請引き受けさせていただきます」

 

 かくしてお膳立ては整った、後に灰色の騎士と謳われる事となる帝国の英雄リィン・オズボーン、そして後にクロスベルの英雄となるロイド・バニングス、二人の英雄はこうして七耀歴1204年の2月に初めて邂逅することとなるのであった……

 

 




クロスベル自治州の成立の流れは当然ながら独自設定のものです。
アルモリカ村近くに古戦場跡があった辺りからおそらくは両国が全面戦争やって
アカン、このままじゃマジで滅びるまでやり合うことになりかねんとなって
両国の妥協の結果として成立したんじゃなかろうかと思ってこんな感じになりました。

wikiを読んだ限りだと零の軌跡の第一章神狼達の午後が2月、第二章が3月となってましたので
ここではロイド達の方は1章~2章の間を想定しています。

次回からはまたオズボーン君たちメインになります。

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