(完結)鉄血の子リィン・オズボーン   作:ライアン

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鉄血の子と魔都②

 クロスベルへと赴く当日、リィン達5人は駅へと集まっていた。

 

「ふふふ、しかし一週間のクロスベル旅行だなんて政府と学院も粋な事をしてくれるね。これはつまり、トワと一線を越えろという後押しかな」

 

 どこまで本気なのか不明な様子でそんな事を告げるアンゼリカにトワはいい加減に慣れてきた様子で

 

「アンちゃんったらそんな冗談ばっかり。旅行じゃなくて短期留学なんだから真面目にやんないと駄目だよ」

 

 めっだからね等と本人としては精一杯厳格な、傍から見ると微笑ましい、様子でトワはそんな友人へと注意する

 

「わかっているさ、だがしかし実際問題一週間程度じゃ旅行のようなものだろう?後半には何でも現地の警備隊との演習を行なうとは聞いているけど」

 

「そういえば前半何をやるかいまいち聞かされてないよね、最初にハルトマン議長だっけ、クロスベルでの親帝国派で知られる人と会うってのは聞かされているけど」

 

「ああ、その辺の細かい話は今回の留学の引率を務める政府の人が教えてくれるって話だったな」

 

 今回の留学はトールズ士官学院主導のものではなくあくまで帝国政府が主導となったもの、加えてトールズの教官というのは基本的に多忙であり、本来予定されていなかったこの時期に生徒の引率を務めるとなれば必然その時間の授業に穴が空いてしまう。そこで今回のクロスベル行きに当っては政府の人間が引率を行なうとリィン達は聞かされて、こうして待ち合わせ場所であるトリスタ駅に集まっているのであった。そうしてしばらくその場でとりとめのない話をしていると……

 

「レクターさん?」

 

 何時もとは異なる正装できちっと身を固めた兄貴分レクター・アランドールの登場にリィンは目を丸くして

 

「よ、学院際以来だな。元気にしてたか?」

 

「その格好を見ると、貴方が我々の引率を務める方という事で良いのかな?」

 

「ああ、その認識であっているぜ。今回の留学の引率を務める、帝国政府三等書記官レクター・アランドールだ、よろしくな」

 

 三等書記官という固そうな地位からは凡そ想像できない気さくなまるで近所のちゃらいあんちゃんのような様子でレクターはウインクをして

 

「ま、積もる話は列車の中でするとしようや。まずは帝都まで行って、そこでクロスベル行きの大陸横断鉄道に乗換えだ」

 

 そんなレクターの言葉を皮切りに5人はトリスタを跡にするのであった。

 

 

 

「えーと、つまり引率と言ってもあなたが一緒にいるのは初日の挨拶回りと最終日に帰る時だけでそれ以降は基本私たちだけでの行動になるという事かな、レクター書記官」

 

 クロスベル行きの列車に乗り込み自己紹介もそこそこに、最もレクターの場合は粗方リィン達の事を知っていたのでレクターが自分がリィンの兄貴分のようなものだと説明した程度だが、レクターは今回の留学の予定の説明を行なっていた。

 

「正確には現地の特務支援課ってところと一緒に行動して貰うけどな、お兄さんがいなくて寂しいかも知れないがまあ我慢してくれや」

 

「その特務支援課というところと協力して、ハルトマン議長より渡される現地での課題に取り組むとそういう事でよろしいでしょうか、アランドール書記官」

 

 さらりと自分に対するからかいを受け流してリィンは公私のけじめをつけるかのようにそうレクターの事を呼んでいた

 

「ま、やることはぶっちゃけ遊撃士共の真似事みたいなもんだが、そうして未来の帝国を担う将来有望な若者達にクロスベルという地を知ってもらい、親善と交流を深めると、まあそれが前半の(・・・)目的になるな」

 

「前半の……ですか」

 

「ああ、政府としての本命はずばり後半の方の警備隊との演習にある。ここでの演習では警備隊との精鋭との模擬戦闘も含まれて居るわけだが、そこで諸君らには以ってエレボニアの威信を示してもらいたい、とまあそんな感じだな」

 

「……なるほど、どうして私とクロウのような不良生徒が選ばれたのかと思ったけどそういう事か」

 

 レクターのその言い方に政府としての意図をアンゼリカは理解したのだろう、ため息をつきながらやれやれと肩を竦める。

 

「承知しましたアランドール書記官、全力を尽くします」

 

 そう宣言した後にリィンはチラリとクロウを窺うかのような目で見て……

 

「わーってるよ、正直思うところはあるが、手を抜くような真似はしねーよ」

 

 憮然とした様子でそう答えるクロウにリィンも静かに頷くのであった。そんな弟分と友人のやり取りをかかし男は興味深そうに眺めていた……

 

 

「ようこそ、クロスベルへ。皆さんの案内役を任されております、クロスベル警察特務支援課のロイド・バニングスです。これから一週間よろしくお願いします」

 

 

 クロスベルへと到着したリィン達を、爽やかな笑みを浮かべながらロイド達は迎えていた。ロイドの挨拶の後に気さくな様子でランディが、丁寧な様子でエリィが、どこかそっけない様子でティオがそれぞれ挨拶していく。

 

「帝国政府三等書記官レクター・アランドールだ。出迎え、痛み入る」

 

 常になく真面目な外交官としての仮面を被ったレクターの挨拶の後に、レクターから挨拶をするようにと目で促されて

 

「トールズ士官学院所属、リィン・オズボーンです。こちらこそよろしくお願いいたします」

 

(この子が……)

 

(ギリアス・オズボーン宰相の息子)

 

(なんというかこりゃまた如何にもって感じだな)

 

(真面目そうな人ですね、流石は士官学院生という感じです)

 

 ピシリと敬礼を施して如何にも軍人候補のエリートと言った様子で挨拶をするリィン。そんなリィンを見て特務支援課の面々はその肩書きとプロフィールから想像していた大国のエリート軍人候補生と言った様子と違わぬ様子に若干警戒の色を強める。それに続いて

 

「トワ・ハーシェルです。これから一週間よろしくお願いしますね」

 

「ジョルジュ・ノームです。クロスベルは導力技術がとても発達していると聞いていたので楽しみにして来ました」

 

 そんな片や頑張り屋さんの女の子、片や如何にも温厚そうな太っちょの青年と言ったトワとジョルジュの挨拶によってリィンの挨拶によって緊張していた場が和む。

 

「クロウ・アームブラストです!クロスベルの歓楽街はすごいって聞いていたので楽しみにしてきました!色々と案内してくれると……ってリィン君ったらそんなに睨むなよ~親交を深めるためのお茶目な冗談って奴じゃないか」

 

 ジロリと今にも殴りかかってきそうな様子で拳を構えながらこちらを睨んでいるリィンの視線を感じて殊更おどけた様子をクロウは見せる

 

「ま、とにもかくにもあんまり国の誇りがどうのこうのだとかそういうのは柄じゃないんで、その辺あんまり気にせずに仲良くしてくれると助かります!」

 

「お、お前さん中々に話がわかりそうだな~よっしゃ気に入った、今晩辺りお兄さんがとっておきのところに連れて行ってやろうじゃないか!」

 

「お、おいランディ……」

 

「はぁ……未成年を大人が悪い道に引きずり込まないの。貴方も、まだ学生なんでしょ?きちんと節度ある行動を心がけるように」

 

「………なんというかスゴイ落差ですね」

 

 如何にもお調子者と言った様子のクロウの言葉にランディは笑顔で乗り、そんなランディをロイドは慌てた様子で止め、エリィはため息を付きながら嗜め、ティオはリィンと見比べながらしみじみとした様子で呟く。

 

「こ、この阿呆は俺の車内での言う事を聞いていたのか……」

 

「まあまあ、クロウはいつもあんな風だし、ある意味クロウらしいじゃないか」

 

「き、きっとクロウ君なりの特務支援課の人達と仲良くなるための軽い冗談だろうからリィン君も抑えて抑えて」

 

 顔をひくつかせて今にもマグマが噴火しそうな様子のリィンをトワとジョルジュが必死に宥める。本来クロウを諌めるべき立場にあるはずのレクターは面白そうに静観していた。そうして一通りの挨拶を終えてどこか和やかな空気が漂い始めたところでハルトマン議長の下へと訪れる事に……否、アンゼリカの挨拶が未だ済んでいなかった。

 

「おい、アンゼリカ」

 

「アンちゃん、挨拶、挨拶しないと」

 

 なぜか微動だにせずに何時までも挨拶をしないアンゼリカを不審に思ったリィンとトワは挨拶を促す。しかし、それでもアンゼリカは反応しない。まさかログナー家の息女としてたかだが属州民如きに挨拶など出来ないという事なのかと特務支援課の面々が若干身構えて、アンゼリカに限ってそんな事はあるまいとリィン達が何事かと思っていると……

 

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

 

「?あの、私が何か?」

 

 じっとティオを凝視したかと思うとプルプルと震えだして……

 

「ーーーーーーーーーー天使だ」

 

 そんな言葉と共にがばりとティオを抱きしめにかかる、唖然とする特務支援課の面々と友人達を他所にアンゼリカ・ログナーはヒートアップしていく

 

「ああ、ティオ君!まさかこの地で君のような天使に会えるとは思っていなかったよ!魔都だなんてとんでもない、君のような天使がいるこの地はまさに女神の祝福を受けた楽園に違いない!!!」

 

 そんな事を叫びながらアンゼリカはティオを抱きしめたままにすりすりと頬ずりを行なっている。そこに大貴族の令嬢らしい貞淑さなどどこにもありはしない、居るのはただの変質者であった。

 

「おい、こらまて何をやっているアンゼリカ、お前は俺の此処に来るまでの間に話を聞いていたのか」

 

 そんな道を今まさに踏み外そうとしている友人を止めるべくリィンはアンゼリカを引き剥がしにかかるがアンゼリカはびくともしない、そして顔だけリィンの方に向けて告げる

 

「ああ、帝国人としての誇りが云々がどうとかいう話だろ?勿論聞いていたさ、その上であえて言おう、知ったことか!とね。今私にとって大事なのを目の前の天使と思う存分に戯れる事さ!は、いっその事に帝国にお持ち帰りを!?」

 

「何を寝ぼけたことを言っている!今の貴様は完全に誘拐犯のそれだぞ!いいから正気に戻れアンゼリカ・ログナー!貴様は誇りあるトールズ士官学院の生徒であり、俺たちは祖国であるエレボニア帝国を代表して来ているんだぞ!!!」

 

「あの、どうでも良いのですが、私の耳元で二人して大声を出さないで欲しいのですが……というかいい加減に離してくれませんか……」

 

 ギャーギャーと自分のすぐ傍で口論(?)し出した二人に対してティオは遠い目を浮かべてそんな事をポツリと呟く。

 

「もう、アンちゃんったらティオちゃんが苦しそうにしているよ、いい加減に離してあげなよ」

 

「は、天使がここにもう一人!違うんだトワ!決してこれは浮気などではなく、私は君に対する思いも、ティオ君に対する思いも、どちらにも偽りなどなくどちらに対しても本気なだけなんだ!」

 

 まるで浮気を正妻に見咎められたかのようにアンゼリカはそんな風に錯乱した様子で錯乱したことを口走る。

 

「やれやれ、ゼリカの奴も仕方ねぇ奴だな」

 

「なんか肩を竦めてさも自分は手のかからない奴みたいな風な雰囲気出しているけどリィンにしてみるとクロウも大概だと思うよ?」

 

 キリッとした様子でアンゼリカを眺めてそんな事を呟くクロウにジョルジュはツッコミに入れる。

 

「あはははは、なんというか……」

 

「随分とイメージが違ったわね……」

 

「トワちゃんはティオすけと同い年位にしか見えねぇし、アンゼリカちゃんに期待していたんだけどなぁ……」

 

 大国エレボニアの名門士官学院からの留学生、そんな肩書きから抱いていて如何にも真面目な軍人の卵の集まりと言ったイメージが崩れながら、ロイド達は苦笑するのであった。

 




ロイド達のイメージはまあ大体Ⅲでのトールズ本校生達みたいな感じなのが来るイメージでした

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