(完結)鉄血の子リィン・オズボーン   作:ライアン

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ロリトマン議長は俗物だけどそれなりの大物的なイメージで描いてます。
まあ所詮ロリに手を出したことで失脚することとなる男ですが


鉄血の子と魔都③

「ようこそ、トールズ士官学院の諸君、クロスベル自治州議会にて議長を務めているミハエル・ハルトマンだ。帝国の未来を担う俊英達にこうして会えて嬉しく思っているよ。我が自治州と宗主国たる帝国の友好の架け橋となるべく、短い期間ではあるが思う存分にクロスベルという地について学んで行って欲しい」

 

 堂々とした様子でそう挨拶するのはクロスベルにおいて親帝国派の重鎮として知られる自治州議会議長を務めるミハエル・ハルトマンである。帝国貴族とも縁のある名家出身の彼は議会においても明確な親帝国振りをアピールし、それによって様々な便宜を帝国政府から得ておりクロスベルの政界において絶大な存在感を誇るが、それと同時にルパーチェ商会での裏での繋がりなど黒い噂が絶えない人物であり、清廉潔白で持って知られる彼の政敵たるマクダエル市長とは対照的な存在と言って良い。

 しかし、そんな黒い噂が絶えない人物にもかかわらず政界においては絶大な権勢を誇ること、清廉潔白で知られるマクダエル市長の方こそがむしろ苦境にあること、それこそがそのままクロスベルの今を映し出していると言って良いだろう。

 

「そして君がリィン・オズボーン君か……ふふふ、君のお父上である宰相閣下とは親しくさせていただいていてね、つい数ヶ月前にもそこのアランドール書記官の仲介でお会いさせていただいたのだよ。お忙しい方故、真に残念な事にマクダエル市長(・・・・・・・)には会われなかったようだがね」

 

 殊更自分とだけ鉄血宰相は会ったという事実を優越感を滲ませながらハルトマン議長は口にする。その様子にその場にいた多くの人間達は大小、差はあれど各々不快感めいた感情を抱く。平然としているのはレクター位であろう

 

「今回の留学でも全面的にサポートさせて貰うつもりだ、何か困ったことがあったらいくらでも言ってくれたまえ。このミハエル・ハルトマンが最大限君達の力となる事を約束しよう」

 

「……ご厚情、痛み入ります。ですが自分は一介の士官学院生ですので、どうかそのおつもりで接していただければ幸いです」

 

 どうにか、抱いた嫌悪感を表に出さないように務めながらリィンはそう応える。個人的に好意を抱けない人物ではあるが、目の前の人物はクロスベルにおける親帝国派の重鎮。失礼のないように務めなければならない、そう自制して挨拶をする

 

「ふふふ、真面目な事だ。だが君が望む、望まないに関わらずこちら側としてはそういうわけにはいかないのだよ。君にもしものことがあれば、我々は宰相閣下に申し訳が立たないのだからね」

 

 そんなリィンの青さを見抜いているのだろう、若いな、とでも言いた気に魔都において確かな権勢を誇る男はそう口にする。どこまで言ってもリィンは鉄血宰相オズボーンのただ一人の実子である、その事実から決して逃れることは出来ないのだと改めてわからせるように。

 

 

「特務支援課の諸君も努々そのことを忘れぬようにくれぐれも頼むぞ。有事の際はその身を張って、彼らを護るように」

 

「心得ています」

 

「さて、それでは聞き及んでいるとは思うが私より、君たちへと滞在中の課題を出させてもらう。といっても難しいことではない、要はそちらの支援課の諸君が普段やっている支援要請だったかな、それを共にこなして貰う事で我が自治州と帝国の友好を深めると同時に、諸君にこのクロスベルの地に対する理解を深めてもらうと、まあそんな程度の事だ」

 

 そう言ってハルトマンは用意していた封筒をリィンへと手渡す。中の封筒には様々な依頼、主に帝国寄りの内容が多いが、書かれておりその中でも、5日目のベルガード門での警備隊との演習、6日目のタングラム門での警備隊との演習には必須と赤字で判が押されている。

 

「帝国の未来を担う事となる、君たちにそのような雑事(・・)をさせてしまうことは申し訳ないが、まあ何事も経験と思ってくれたまえ」

 

 そうして話は終わったといった様子のハルトマンにリィン達は挨拶をしてその場を跡にするのであった……

 

 

「お~こりゃまた豪勢な部屋じゃねぇか。場所も歓楽街にあってと最高だし、全くもって持つべきものは親が宰相の友人ってもんだな。お零れに預からせてもらいます、リィンさん!」

 

「ちょ、ちょっとクロウ……」

 

 ハルトマンへの挨拶後一行は初日という事で市内のパトロールの意味も含めた巡回を一通り行なった、一先ず一通り市内の様子を把握して、明日以降改めて依頼をこなして行こうという手筈である。そうして一日の行動を終えた5人はハルトマンの厚意によって用意された宿泊施設、歓楽街にある高級ホテル『ミレニアム』へとたどり着いた。いくら宗主国の名門士官学院の人間とはいえ、一介の士官学院生に用意されたものにしては明らかに度を超した豪華さで、ありがたい議長からの配慮(・・)が働いているのは明白であった。

 そして、そういったものに嫌悪感を抱くのがリィン・オズボーンという少年である。リィンにとっては凡そ好意的になれない人物だが、そんな人物こそが帝国にとっては有益であるという事実、もう数年もすればそういったジレンマも飲み干せるようになるだろうが、それらを飲み込むにはリィンは未だ若く未熟であった。

 そんなわけでハルトマン議長と会ってからのリィンの機嫌はかなり悪く、そんなリィンに対して殊更挑発するような事を言うクロウにジョルジュは慌てた様子を見せる。

 

「………………」

 

 案の定、と言うべきかリィンは何も言わずにただジロリと機嫌が悪そうにクロウを一瞥する、しかしそんなリィンからの視線にクロウは軽く肩を竦めて

 

「ま、そんな程度に考えておいたほうがいいぜ。お前さんが軍人になるっていうのならどう足掻いたってお前さんの親父が鉄血宰相だって言うのからは逃れられない。こういったゴマすりもあるいは妬まれるのも、それこそ日常茶飯事になるんだからよ」

 

 お前の選ぼうとしている道はそういう道なのだと改めて突きつけるかのようにクロウは口調や態度こそ軽いものの、友人の事を心から慮った様子で口にする。

 

「せっかくの旅行なんだ、楽しんで行こうじゃねぇか」

 

 そうして笑みを向けて来る友人に対してリィンは毒気を抜かれたように

 

「旅行ではなく留学だ。俺たちは遊びに来ているわけじゃないんだぞ。……だがまあお前の言うとおりではある。あの手の手合いに吞み込まれぬように注意をする必要はあるが、あまり気にしすぎても仕方が無い……か」

 

「そうそう、こういうのは少し大げさな位に喜んでおけば良いんだよ。そうしておけば向こうもそれで懐柔に成功したと勝手に思って(・・・・・・)くれるんだからよ」

 

 不敵な笑みを浮かべながら、受け取った瞬間にこちらにとっても弱みとなるあからさまな賄賂ならばいざ知らず、こういった多少の便宜などと言ったものを向こうが勝手に恩を着せたと思い込んだとしてもこっちが気にしなければないも同然なのだとクロウはふてぶてしく告げる。そんな友人のたくましさにリィンは肩をすくめて苦笑するのであった……

 

「さ~て、そんなわけでいっちょめくるめくクロスベルでの素敵な夜を堪能して来ると」

 

「それじゃあ今日一日あった出来事をレポートに纏めるとしよう。安心しろクロウ、友として俺がきっちり添削してお前のレポートも相応のものに仕上げてやる」

 

 そういって部屋からちゃっかりと抜け出そうとするクロウの腕を笑顔を浮かべながら掴みリィンは告げる

 

「ジョルジュもアドバイス程度なら出来るから気軽に相談してくれ」

 

「ありがとうリィン。でも僕はレポートを描くのは実験で慣れているし、クロウの方を見てあげてくれればそれでいいよ」

 

「おい、お前らそれで良いのか!?あのクロスベルだぞ!そして俺らがちょうど今いるのは歓楽街なんだぞ!レポートなんて描いている場合かよ!!!」

 

 お前らはそれでも男か!などと叫ばんとする勢いのクロウに二人は冷たい目を浮かべて

 

「逆に今書かずに何時書くつもりなんだ。このレポートはトールズだけではなく政府にも提出する事になっているんだ、半端な物を書くわけにはいかんぞ」

 

「というかクロウ金欠なのに、遊びに出かけてどうするの?遊ぼうにも遊ぶための元手がないでしょ?」

 

 そうして告げられるほら大人しくレポート書いた書いたという友人二人の言葉を聞いてクロウのちくしょーーーーという叫び声が木霊するのであった。

 

 

「よ、お疲れさん。それでどうだったよ、帝国から来たお坊ちゃん方は」

 

 どこか興味深そうな様子で四人の上司を務めるセルゲイはそう問いかけてくる

 

「そうですね、中々に個性的ではありましたが皆悪い人達ではありませんでしたよ。少なくとも課長の言っていたように属州民なんて風にこっちを見下してくるような人は居ませんでした」

 

「ほう、そりゃ何より。名門士官学院の人間ともなればその辺ある程度弁えた奴らが来るって事かね」

 

「その割にはなんというかランディさんみたいなおちゃらけた人やら、人をいきなり人形みたいに扱う人やらがいましたけどね」

 

 とても士官学院の人間とは思えない位に奔放な様子で、市内の巡回中にも気が付いたら道往く女性を口説き出して、その度にリィンに青筋を立てさせていた約2名を思い出しながら呆れた様子でティオは呟く

 

「はははは、トワちゃんなんてティオすけと同い年か下手したらそれ以下じゃないかってなるくらいにちっこかったしな」

 

 本人が聞いていればむくれそうな、しかし紛れもない真実であり本音でもある事をランディも笑いながら告げる

 

「でも、今日一日色々と話させてもらったけど見識や知識の深さは流石は名門士官学院の生徒だって感心させられるものだったわ。それはリィン君の方もそうだったけどね」

 

「確かあの二人が首席だって話だったよな……なんというか色々と苦労してそうな感じだったけど」

 

 ロイドもまた青筋を立てながら奔放な二人に対して怒るリィンとそんなリィンを宥めつつ二人に釘を刺していたトワという優等生コンビの様子を思い浮かべながら苦笑する。

 

「知識という点で言えば導力技術の分野に関してはジョルジュさんの独壇場でしたね、今すぐエプスタイン財団に就職してもやっていけそうです」

 

「どうやら随分と仲良くなれたようで何よりだよ」

 

 まるで友人達について語るように好意的な様子を見せる面々にセルゲイはホッとしつつも若干つまらなそうに呟く。

 

「ま、仲良くなるに越したことはないがくれぐれも気は抜くなよ。何かあれば帝国との国際問題になる面子っていうのは脅しでもなんでもない事実なんだ。来月には創立祭も控えているこの時期に下手な火種を作るような事にならんようにな」

 

 そんな風に念のために釘を刺すような事をセルゲイは最後に告げて、その場は解散となるのであった。

 

 

 




まあ当然ながら公僕は国家とそこに住む民に滅私奉公すべし的な建前を本気で信じている
オズボーン君はロリトマン議長みたいなタイプは嫌いです

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